第十八回国際連合総会

 

一九六二年十月のキューバ事件以来第十八回国連総会(一九六三年九月十七日開会)に至るまでの期間にみられた世界情勢の大きな特徴は東西間の緊張緩和への努力と中ソ確執の尖鋭化であったといえるが、このような特徴は同総会でも明らかに看取された。

すなわち、米ソ首脳間直通連絡線に関する合意の成立および米英ソ間の核兵器実験禁止条約調印の後を受けて、第十八回総会は、概して東西間の協調的和解的雰囲気に終始した。とくにその後半においては、十一月二十二日のケネディ米大統領の不慮の死を悼む空気とも相まって、とくに大きな盛り上りもなく、予定よりも三日早く平穏裡に、十二月十七日その幕を閉じた。

米ソの協調的精神は、とくに大量破壊兵器の軌道打上げ禁止問題と宇宙空間平和利用問題について、米ソ両国がまず直接の話合いを行ない、その合意の結果が決議案として提出され、それが全会一致で採択された事実に、端的に表明されている。しかしながら、軍縮一般、NATO多角的核部隊問題、ドイツ問題、南ヴィエトナム問題、朝鮮問題等直接的または具体的な東西問題については、東西間の本質的対立点になんらの変化もみられず、会議でもかなり激しい応酬がみられた。

中ソの確執については、中国代表権問題に関し、従来のソ連、インドに代って、アルバニアが「国府を国連より追放し、中共に中国代表権を付与する」旨の決議案を提出し、その他の問題についても、アルバニアが中共の代弁者的役割を演じたことが注目された。また、安全保障理事会議席拡大問題についても、国連議場の内外において、中共、アルバニアとその他の共産圏諸国との間に非難がかわされた。

第十八回総会の成果としては、一応前述の大量破壊兵器の軌道打上げ禁止決議および宇宙空間平和利用に関する原則の宣言の採択があげられるが、その他の重要問題、たとえば、軍縮一般、植民地問題、人種差別撤廃問題等については、特別の進展はみられず、むしろ低調であったとさえいえよう。これは、これらの重要問題が一応技術的に検討されつくした段階に到達しており、本質的な問題点が解決されない限り現状以上に進展しないという認識が、加盟国の間に次第に深まりつつあることを示すものとも考えられる。とくに、人種差別問題、植民地問題等については、激論がかわされ、多くの極端な主張が行なわれたにもかかわらず、アフリカ諸国が最終的には従来のような強硬な措置に固執せず、むしろ一歩後退してでも大多数の支持を得ようと努力したことも、このような事情を背景にしているといえよう。

前述の中国代表権問題に関するアルバニア決議案は、前総会とほぼ同様な表決結果をもって否決されたが、わが国は、従来と同様、この問題が憲章の目的と原則にしたがい、国連に対する国府、中共双方の態度を慎重に考慮し、かつ、極東と世界の平和に寄与するような方法で平和的解決がはかられるべきである、との主張を行なった。

軍縮問題については、「十八カ国軍縮委員会が交渉を再開し、全面完全軍縮を促進するような諸措置についても努力するよう要請する」趣旨の決議が全会一致で採択されたが、わが国は、とくに各種の部分的措置、たとえば戦争防止のための地上監視所設置、軍事移動の事前通知、軍事ミッションの交換等の提案を検討すべきであると述べた。

核兵器実験禁止問題については、十八カ国軍縮委員会において、全面的核実験禁止のための交渉を継続すべきであるとする決議が圧倒的多数で採択されたが、わが国は、「部分的核兵器実験禁止条約の成立は、核実験の停止を主張し続けてきたわが国にとってとくに喜ばしいが、同条約の適用範囲を地下実験にまでおよぼすことが必要である。また、そのためには、科学的根拠のあるかぎり、有効な検証措置の合意を達成するための努力を続けるべきである」との見解を述べた。

南アフリカ問題については、安全保障理事会において、一九六三年八月七日に、「すべての国に対して、武器、弾薬、軍用車輌を南アフリカ共和国に売却または積荷することを停止するよう要請する」趣旨の決議が、また、同年十二月四日には、「すべての国に対し、南アフリカ共和国における武器、弾薬の生産および維持のための設備および資材を南アに売却または積荷することを停止するよう要請する」趣旨の決議が採択されたが、総会は、加盟国がこれら決議を履行するよう要請する趣旨の決議を圧倒的多数で採択した。

安全保障理事会および経済社会理事会における議席増加問題は、第十一回総会で取りあげられて以来次第に重要性を加えてきたが、ついに本総会において、中共の代表権が回復されるまでは現在の議席を再配分する、というソ連圏諸国(アルバニアを除く)の主張、および議席増加に原則的に賛成であるが、増加数についての決定は次ぎの総会まで延期すべし、とする米英仏などの主張を押し切って、AA諸国とラ米諸国の提案、すなわち、憲章を改正して安全保障理事会議席を一五に、経済社会理事会議席を二七に増加し、一九六五年九月一日までに加盟国の批准を求めるという決議が、大多数の賛成をもって採択された。

国連の財政状況は、いぜんとして緊迫状態が続き、五月十四日より六月二十七日まで財政問題についての特別総会が召集された。スエズおよびコンゴーに派遣されている国連軍経費について、新たな分担方式が採用され、わが国は先進二十六カ国のうちの一国として、自らの分担金に加えて低開発国の分担金軽減分を補填拠出することとなり、この方式は第十八回総会においてもひきつづき踏襲された。

経済問題審議の基調となったのは、前総会と同様、低開発国の経済開発、対低開発国援助拡充等低開発国に関する問題であった。すなわち、総会は、経済問題について、合計二十一の決議を採択したが、その大部分は、低開発国に対ずる資本、技術の移動、経済開発計画、国連資本開発基金設立、国際経済協力宣言、国連貿易開発会議等に関するもので、低開発国側の発案による低開発国の経済開発一般に関するものであった。

第三十四回経済社会理事会は国連貿易開発会議の開催を決定し、また、第十七回総会は、経済社会理事会および貿易開発会議の準備委員会が貿易開発会議の仮議題を作成したさいに、低開発国の貿易拡大、一次産品の価格安定、国際貿易拡大のための機構等の諸点を考慮することを勧告した。今回の総会では、低開発国七十八カ国が第二回準備委員会で採択された「低開発国共同宣言」を歓迎する趣旨の決議案を提出する等、貿易開発会議に対する低開発国側の要望を再び強調し、その態度を着々と固めた(なおこの決議は満場一致で採択された)。

また、低開発国がこれまで要求していた、経済社会理事会の議席を増加する問題については、前述のとおり、議席を二十七に増加し、一九六五年九月一日までにこれについて加盟国の批准を求めるとの決議が採択されたが、同時に総会はそれまでの暫定措置として第三十六回再開経済社会理事会に対し、経済社会理事会の会期委員会を増員するよう勧告する決議を採択した。十二月に開催された第三十六回再開経済社会理事会はこの決議に従い、会期委員会メンバーの増員を決定し、九カ国を選出した。低開発国が大部分を占めるこれらの九カ国は、今後経済社会理事会の議事に積極的に参加し、貢献するものとみられる。

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