資  料

 

○池田総理大臣および小坂外務大臣の演説

 

 

第三十九回国会における内閣総理大臣の施政方針演説

       (外交に関する部分)

 

(前略)現下の国際情勢を見るに、ベルリン問題をめぐる東西の確執に加えて、事態は、ソ連の核実験再開とこれに続く米国のそれへと発展し、国際緊張は、一層激化の様相を示しております。しかも、これを有効に制止する方途が、容易に見当たらない状況にあることも、御承知のとおりであります。

内にあっては、経済がわれわれの予想以上の成長を遂げつつある反面、国民の精神生活の面は、各層各界に健全な方向への自覚と努力が芽ばえつつあるものの、いまなお戦後の混迷を十分脱却し得ない状況にあります。

かかる内外の情勢に対処して、わが国がよく平和と安全を維持し、国民生活の物心両面にわたる充実をはかりつつ、世界平和の確立に積極的役割を果たすためには、内政外交を通じ、決意を新たにして臨まなければならないと存じます。

私は、ここに思いをいたして、政府と与党との陣容を一新し、内外にわたる難局打開に当たることにいたしました。同時に、私は、野党各派並びに国民各位の良識に期待しつつ、相協力して国会の正常な運営に努力を傾けるとともに、行政の清潔かつ能率的な執行を通じて、国民諸君の期待にこたえなければならないと決意しております。

私は、ちょうど十年前の昭和二十六年九月、サン・フランシスコ講和会議に、全権団の一人として参加するの光栄をにないました。その時調印された対日平和条約は、その理念においてその寛大さにおいて、当時の国際環境の下で望みうる最上のものでありました。その後わが国は、よく平和を確保し、友邦との間に経済と文化の活発なる交流を営み、国民経済と国民生活はめざましい発展と向上を遂げることができました。もとよりこれは、善意で勤勉な多くの国民の常々たる努力の賜物でありますが、他面、われわれの選んだ外交路線が、正しかったことを立証するものであると考えます。

最近、ソ連は、核実験を再開しましたが、これは、平素ソ連が宣伝するいわゆる平和共存政策と矛盾するのみならず、全世界の平和を愛好する諸国民の失望と怒りを招いたものであります。ソ連の実験再開により、米国も遂にその再開を決意するに至ったことは、これまた遺憾至極のことであります。わが国としては、ソ連に深甚な反省を求めるとともに、米国に対してもその自制を強く要請するものであります。同時に、私は、米ソ両国をはじめとする核保有諸国が、世界の与論に従って、すみやかに核実験停止協定を締結するよう、重ねて強く要求するものであります。なお、今回、列国議会同鯉会議において、わが方の核実験禁止決議案が、圧倒的多数をもって可決されたことはわれわれの勇気を鼓舞するに足るものであります。もとより、国連においても、この目的達成のために、さらに精力的に努力する所存であります。

ベルリン情勢は、依然無気味な混迷状態をたどっておりますが、米ソともに交渉開始の契機を探索し始めております。私はいわゆる話合いにより、本問題解決の糸口が見出されることを、心から希望しております。

中国代表権問題は、昨年第十五回国連総会以来、わが国のみならず世界の関心と注目をひくにいたりました。われわれとしても、本問題は、その性質上世界的規模をもつ重要な問題として、これを取り上げ、あらゆる角度から検討を加えてまいりました。特にわが国の立場からは、本問題に関連して、中国大陸の国民に親近感を感じつつも、すでにわが国と平和条約を結んで友好関係にある中華民国の将来に、至大の関心を持たざるを得ないのであります。したがって、この重要案件が、国連において十分討議され、世界与論の納得の行く公正な解決を期するため、わが国としてもさらに努力を傾ける所存であります。

韓国の政治経済の安定と日韓関係の改善は、わが国にとって重大な関係をもつものであることは申すまでもありません。私は、大局的見地から、誠意をもって、韓国との間に懸案打開の方途を講じ、国交の正常化を通じて、日韓の間における経済と文化の交流が活発に行なわれ、相互の繁栄が確保されることを強く期待するものであります。

私は、さる六月、米加両国政府の招請に応じて両国を訪問し、ケネディ米国大統領、ディーフエンベーカー・カナダ首相をはじめとする両国政府首脳と、わが国と両国間の問題に止まらず、広く世界の情勢につき、検討を加える機会をもつことができました。また、世界の平和と繁栄を達成するために、それぞれの果たすべき役割と高度の協力関係につき、有益な意見の交換を行ないました。私は、この会談を通じ、世界政治におけるわが国の地位と責任が、誠に重大であることをあらためて痛感いたしました。

私は、また、きたる十一月中旬より、インド、パキスタン、ビルマおよびタイの諸国を訪問する予定であります。私は、この機会に、これら諸国の首脳者と、アジア諸国共通の問題につき、きたんのない意見交換を行なうとともに、これら諸国との一層の友好関係の増進をはかりたいと考えている次第であります。

わが国は、今や世界平和の確立について、重い責任をになうにいたりました。われわれは、自由国家群の一員であるとともに、いわゆるA・A諸国の一員でもあります。われわれは、この立場に立って、わが国自らの存立の基礎を固めるとともに、進んで、いかにすれば世界平和の達成に、建設的に貢献できるかという、より高次の理念を堅持しつつ、あらゆる国際問題に対処して行く所存であります。世界各国も、また、わが国の役割に大きい期待を寄せております。私は、わが国の立場と責任に対する国民的自覚を期待しつつ、冷静に国際政治に対処し、わが国の安全と繁栄を守りぬいてまいりたいと存じます。(後略)

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第三十九回国会における

  小坂外務大臣の外交方針演説

 

第三十九回国会に際し、当面の外交問題について申し述べたいと存じます。

過般の通常国会以降世界情勢はベルリン問題、ドイツとの平和条約問題をめぐって、さらに緊張を加え、軍縮および核兵器廃止を求める人類の希望に反し、軍備拡張の動きが強まったのみならず、ついには核実験、長距離ロケットの発射試験も繰り返えし行なわれる事態にまで進展し、国際的な危機感が地球上を覆うに至っております。口に平和共存を唱える強国が武力を振りかざし、さらにまた人類の福祉に使われるべき最新科学の知識と成果とを他国に対するおどしのために用いるような有様では、この地上に理想の平和をもたらすことは容易でないのであります。平和は偏見と強制と不信の中には存在しないのであります。われわれはあくまで正義と自由と協調に基づく真の平和を達成するよう、絶えざる努力を傾けなければならないと信ずるものであります。

政府が国際連合を尊重し、これを強化しなければならないと考えるゆえんのものは、偏にこのような真の平和を欲するからであります。私はこの度国際連合に使いいたしましたが、この度の国連総会は、ハマーショルド事務総長の誠に悲劇的な突然の死去によって、非常に重苦しい、沈痛な空気の中に開かれました。私は同僚議員各位とともに、ここに重ねて平和のために殉じた故ハマーショルド事務総長の遺功を讃え、その冥福を祈りたいと思います。かくて後任事務総長の問題も新たに加わり国際連合は、いよいよ重大な局面にほう着している次第であります。これを打開する途は、究極のところ、いかなる問題についても、各国が国連憲章に謳われている世界全体の調和ある進歩のために相たすけて努力すること以外にはないと考えます。それにつけても私は世界平和の維持にとりわけ重い責任をもち、安全保障理事会において拒否権をもつような強国が軍縮の問題をいたずらに宣伝に利用することなく、誠意をもつてみずから進んで軍縮を実行する必要のあることを強調するものであります。

また、わが国がとくに大きな関心を持っております核実験停止の問題については、ジュネーヴにおける四大国の交渉なかばにして、ソ連は、突如として一方的に核実験の再開を宣言するばかりか、矢つぎばやに十数回にわたる実験を行ない、核実験競争再開の端緒を開いたのであります。政府は、先般来の核実験に対しては、国の如何を問わず、放射能の有無にかかわらず、厳重な注意を喚起し、抗議してまいりました。私は関係諸国が人類将来の進歩と幸福を第一義的に考え、効果的な核実験の停止に関する協定を速やかに締結するよう強く希望いたしているのでありまして、去る九月廿二日国連総会の一般演説においてこれを訴えたのでありますが、この趣旨の決議が今次国連総会において採択されるよう努力する所存であります。

私は全世界の諸民族が真に平和のうちに共存しうる日が速やかに来ることを衷心希望するものでありますが、一挙にしてかかる理想の世界が実現され得ないとすれば、戦後十六年にわたり強国間の武力的対決を阻止する上にあずかって力のあった東西間の均衡が破られないように努力することが世界の平和を保障する現実的な方途であると信ずるものであります。私はベルリン問題の危機も畢竟するに一方的行動によって世界の均衡関係を自己に有利にしようとする動機からつくり出されたものと思わざるを得ないのであります。私は、ベルリン市民、ドイツ民族自身の自由に表明された意思を十分尊重しつつ四大国間の話し合いにより、この問題が平和のうちに解決されることを希望するものであります。

現在の世界の均衡を保ち、世界平和に貢献するために、わが国は自由民主主義を堅持しつつ、米国および西欧諸国と緊密に提携することが必要であると信ずるものでありまして、この点についてはつとに国民大多数の理解と支援を得ているところであります。わが国は、全国民あげての努力により戦前よりもはるかに豊富な経済力を貯え、国民生活も着々向上いたしてまいりました。それに伴いわが国の国際的地位も次第に高く評価されるようになりましたが、これはまた同時に、わが国の国際社会における責任も加重されたことを意味するものでありまして政府と国民はこの点を充分自覚しなければならないと存ずるのであります。

私は去る六月池田総理大臣に随行して米国およびカナダに赴いてこれら両国政府首脳との会談に列し、ついで七月初旬イギリス、フランス、イタリア、ヴァチカン、西独の諸国を歴訪し各国首脳と胸襟を開いて会談してまいりました。私はこれらの訪問を通じてわが国の国際社会における役割の重大さと、国際的地位の向上したことを更めて痛感したのでありますが、同時にこの機会にこれらの諸国との政治的、経済的、文化的連携の強化に貢献しえたものと信ずる次第であります。

国際的地位の向上に伴い、わが国の責任は、アジアの一国としてとくにアジアにおいてますますその重要性を加えております。わが国と隣国たる中国との関係は、その歴史的背景から見ましても、また、極東における平和と安定を維持する上からもわが国将来の運命にかかわる重大な問題であり、政府の最も重視するところであります。今次国連総会においては、中国の代表権問題が討議される予定でありますが、本問題は現在の国民政府ならびに中共政権それぞれの立場に徴しても、また、国連憲章との関係においても、その解決は決して容易ではないのでありまして、わが国としては慎重に行動することが必要であります。私はこの問題について、今次の国連総会においてあらゆる角度から十分な論議がつくされ、少なくとも解決への一歩前進の道が見出されることを期待するものであります。わが国としては、この問題に対してわが国の有する重大なる関係と、本問題が極東の安定ひいては世界の平和に重要なる影響を与えることを念頭におきつつ、国連における討議において建設的な貢献をしなければならないと存ずるものであります。

次にわが国にとり最も近い韓国との関係につきましては、多年にわたり両国間の懸案解決のための交渉が続けられたのでありますが、去る五月同国において政変が発生し、交渉は中断するのやむなきに至りました。韓国の運命は直ちにわが国の運命に影響すると申しても過言ではないのであります。この意味において、韓国新政権の動向については至大の関心をもってこれを注視していたのでありますが、その後同政権は政情の安定と民心の収らんに鋭意努力し、さらに去る八月には二年後における文民政権への移行の意思を宣明いたしました。同時に韓国政府は、日本との国交正常化に対する熱意を示し、交渉の再開を申し出てきた次第でありまして、政府としましては韓国側の申し出に応じ近く交渉を開始する所存であります。交渉に際しましては、日韓関係の今後に及ぼす重大なる影響を十分に念頭に置きつつ、合理的にしかも互譲の精神に基づいて懸案の解決を図り、速やかなる国交回復に努力したい所存であります。

最近の世界経済の動向を見まするに、一時案じられたアメリカの景気も急速に回復に向いつつあり、またヨーロッパ諸国の経済も依然活況を呈している反面、アジア・アフリカ等の諸地域においていまなお経済的にも社会的にも未発展の分野が多く先進諸国との生活水準の格差が増大しつつあることもまた否定し得ざる事実でありまして、わが国が、国際連合においてもこれを強く訴え、また経済協力の推進に格段の努力を払いつつあるのも、この事実の重大性を認識しているがゆえであります。本年春以降においても、政府は開発援助グループの第五回会議を東京において開催し、インドおよびパキスタンの債権国会議においても、それぞれ相当額の長期借款を与える等経済協力について着々効果的な施策を講じて参りました。また、タイおよびビルマに対しても懸案を解決すべく話し合いを続けておるのでありまして、これらが解決の上は、両国との一層緊密なる関係が期待されるのであります。

さきに申し上げた去る六月の池田総理大臣訪米に際し日米貿易経済合同委員会の設置をみるに至りましたことは、まことに有意義なことと存ずるのであります。この合同委員会は、両国の関係閣僚が毎年会合いたしまして、両国が関心を有する重要な経済問題について忌憚のない意見の交換を行なうものでありますが、その第一回会議は、来る十一月上旬箱根において開催することになっております。私は、この合同委員会が、日米両国の経済貿易政策に関する相互理解の増進に大いに貢献するものと信ずるものであります。

さらに、先般の西欧諸国訪問に際し、私は各国首脳に対し、戦後とくにわが国に対してとられたガット三十五条援用を始めとする通商上の差別待遇について、アジアにおいて工業の高度に発達した唯一の国であり、かつ自由陣営の有力なる一員であるわが国に対する処遇として納得できないものがあるとしてこれが撤廃を卒直に要望してきたのであります。各国の首脳もこれについて理解を示し、今後折角努力する旨を表明いたしました。最近わが国においては、輸出振興は、ますます緊要となっておりますので、これが障害となる通商上の差別待遇を改善し、わが方の貿易自由化の促進と相俟って、経済外交を一層強力に推進してゆきたいと考えております。政府はさらに過般の国会以後、ペルーおよびインドネシアとの間に通商航海条約を締結いたしましたが、引続いてなるべく多くの国とこの種条約を結んで、通商関係を安定した基礎におくよう努力いたす考えであります。

現下の国際情勢は複雑微妙なものがありますが、この中にあって平和を求める心は、いかなる民族といえども異なるものではないと存じます。平和を求め生活のしあわせを希う日本国民の声を世界に徹底させなければなりません。世界平和の維持のためにわが国の果すべき役割は誠に重要であります。政府は外交機能をますます充実し、わが国外交の成果を挙げるよう努力いたしたいと考えておりますので、国民各位の強力な御支持と御理解を得たいと念願いたす次第であります。

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第四十回国会における

  内閣総理大臣の施政方針演説

         (外交に関する部分)

 

(前略)

 外 交 方 針

国際情勢は、依然、険悪なる様相を呈し、緊張緩和は、にわかに望み難い状況にあることは御承知の通りであります。特にソ連の核実験再開とそれに続く米国の対応は、平和の空気に対する心理的重圧となっておることも否めません。しかし、東西の勢力は重苦しい均衡の状況にありますので、愚かな偶発事件の突発しない限り、全面戦争に立ち至るがごとき事態は考えられないことであります。また、ベルリン問題、核実験の禁止問題、軍縮問題等当面の懸案は早急な解決を見ることが困難であり、さらに忍耐強い話し合いとそれへの瀬踏みが繰り返されるものと考えられます。一方、東西間の問題のみならず植民地問題をめぐっても、世界各地に局地的衝突が起こる可能性もなしとしない情勢であり、現に新たな緊張がアジアの一部に発生しつつあることについても、十分注視する必要があると思います。

このような国際情勢に処して、日本は、自国のみならず、アジアひいては世界の平和と繁栄の増進に寄与するため、一層の明知と勇気をもって、あらゆる機会をとらえ、緊張の緩和と経済外交の推進に努力しなければなりません。そのためには国連を中心としてさらに強力な平和外交を展開しつつ、各種懸案の積極的打開と新しい外交的課題に立ち向かってまいる決意であります。

 欧州共同体と日本

わが国外交の基調が、政治的にも経済的にも自由国家群との協調にあることは申すまでもありません。自由世界の内部において、特に注目すべきことは、旧来の国家主権の考えを修正しつつ、欧州文明の伝統と自由を守るという強い自覚の下に、西欧六カ国が企図した欧州経済共同体が、急速にその統合の成果をあげつつあることであります。更に英国その他の志を同じうする欧州諸国がこれに参加をはかり、優に米ソ両国に匹敵する「新しいヨーロッパ」を形成しつつあり、米国がこの共同体と経済的な紐帯を一層強化しようとしておる事実であります。このような自由世界内部における新しい動きに対処することが、わが国にとり、経済上のみならず、国際政治の上においても、今後の新しいかつ長期的な課題となってまいりました。

 アジア外交の推進

また、わが国はアジアの一員として、アメリカその他の自由諸国のアジア諸国に対する援助計画との関連を吟味しつつ、これら各国との貿易の伸長に努めるとともに、その経済の平和的建設に積極的に協力すべき任務をもっております。わが国は賠償の誠実な実行と併行して、可能な限りアジアの友邦との間に経済協力の実をあげてまいりましたが、タイ国との間に特別円問題の最終的解決を遂げ、ビルマとの間にも賠償の再検討を通じ、新しい協力関係を樹立すべく折角交渉中であります。

韓国の安定と日本の安全とは深い関連をもっております。私は、韓国が、善隣としていち早く今日の困難を克服し、民主国家として繁栄することを心から希求するものであり、日韓の間に横たわる各種の懸案を合理的かつすみやかに処理して、国交の正常化をはかるべく、目下鋭意交渉を重ねております。

中国代表権問題は、国連今次の総会が、従来の棚上げ方式を捨てて、実質的討議に入りましたことは一つの前進であると思います。この問題は、現実に即し、しかもあくまで公正妥当な国際世論に基づいて対処せねばならぬものと信じております。国連加盟国の圧倒的多数が、わが国の提案に同調されたことは、わが国の良識が広く支持されたことを意味するものであります。私は、国連が慎重にかつ公正に本件の実質的審議を続け、賢明と勇気をもってその解決を見出すことを、アジアおよび世界の平和と進歩のために望んでやみません。

わが国は明治維新以来、自らの後進性をいち早く脱脚して偉大な進歩を遂げてまいりましたが、世界の新しい波に針路を誤り、軽率にも無謀な戦争を強行し、悲惨な敗戦を経験したのであります。私は、アジアの友好諸国が、この轍を踏むことなく、それぞれの国民性を重んじつつも、国連を中心としてあらゆる問題の平和的解決をはかる態度を堅持し、勝れた政治的経済的自立への建設的努力を傾けられることを衷心より希望するものでありまして、われわれとしても、あとう限りの協力を惜しまないものであります。

 領土問題

北方領土の問題につきましては、政府として、公正な内外の世論の喚起を通じて、わが国の正当な主張を貫徹するよう、今後とも一層の努力を継続してまいりたいと存じます。沖繩・小笠原の問題については日米相互の信頼と理解のうえに立って、これら地域同胞の安寧と福祉の増進のため、米国と協力して積極的な施策を講じつつ、その施政権返還の実現を促進してまいりたい所存であります。

 防衛力の充実

変転する国際情勢に対処して、わが国の安全を保障することは、政府に課せられた至大な責任であります。政府としては、日米安保体制を堅持しつつ、引き続き国力と国情に応じ、防衛力の自主的整備をはかるため、国民の防衛意識の高揚を期待しつつ、さきに国防会議において決定した第二次防衛力整備計画にのっとり、防衛力の内容充実に努めたいと思います。

 外交と内政

私は、つとに外交と内政は一体不可分のものであるとの確信を披瀝してまいりました。内における民主的秩序の確立、自由な経済体制による豊かな経済力の充実によって、はじめて、自由国家群の一員であると同時にアジアの一員であるという立場にあって世界の平和と繁栄のためにわが国独特の貢献をなしうるものであると思います。またかくしてのみわが国の国際的信用の向上を期待することができるものと思います。国際政局多難のおりから、国民諸君が、公明かつ寛厚な精神をもって、政府の外交政策に建設的な批判と協力をお願いするものであります。(後略)

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第四十回国会における

  小坂外務大臣の外交方針演説

 

第四十回通常国会に際し、政府の外交方針に関する所信を述べたいと存じます。

ここに新しい年を迎えたのでありますが、過去久しきにわたるベルリン問題をめぐり、東西両世界は依然として重苦しい緊張と対立を続け、その間ヴィエトナムその他の諸地域においても、局地的紛争発生の危険が絶えず予想されるなど、世界平和確立への道は、遺憾ながら未だ険しいものであることを、認めざるを得ないのであります。

今日国際連合は、すでに一〇四カ国の加盟をみているのでありますが、残念ながら国際連合自体、ある意味では東西抗争の舞台となり、世界平和機構としてのその本来の機能を、十分発揮するに至っていないのであります。しかしながら、第十六回総会におきましては、関係国間の話し合いの結果、軍縮、核兵器実験および大気圏外平和利用に関する国際会議が再開されることとなりました。今後とも国際連合が種々の試練に堪え、よくその本来の機能を発揮しうるためには、すべての国が等しく国際連合憲章の目的と原則を尊重し、飽くまで、この機構をもりたてて行くという態度に徹することこそ、肝要なのでありまして、わが政府は卒先国際連合に協力し、その育成強化に努めることをもって、外交政策の重点とするものであります。

世界の平和が維持されるためには、すべての民族が、自らの自由な意思に従って、その生活を築いて行くことが必要であります。この意味において、今日アフリカ大陸において多数の独立国が誕生し、さらにひきつづき本年もその数を加えんとしつつあることは、御同慶の至りであります。わが国は、植民地の住民が抱く独立への願望に対しては、つねに十分の同情と理解を有するものでありますが、同時に、このような願望は、あくまで平和的手段によって、達成されるべきものでありまして、目的の如何を問わず、いやしくも武力によって事を解決しようと試みるがごときは、国際連合の目的と原則にも反するものであり、直接世界の平和を脅かすものとさえいわざるをえないのであります。

軍備の拡張と核兵器の生産、その実験等は、全人類の平和と福祉への悲願に全く逆行するものであります。とくに人類の叡智が創造した核エネルギーを、他国に対する威嚇の手段として利用し、もって政治目的を遂行しようとするが如きは、平和を愛好する国民の断じて許し得ないところであります。政府は、核兵器の実験に対しては、つねに声を大にしてその停止を求めることこそ、史上唯一の核被害国としてのわが国民が、全人類の将来に対して負うている重大な責務であると、信ずるものでありまして、私は関係諸国が、効果的な核兵器実験の停止に関する協定を一刻も速やかに締結し、ひいては有効な軍縮協定の締結を促進するよう強く要望するものであります。

次に、最近におけるわが国と諸外国との関係を概観いたします。まず池田総理大臣の訪米により、日米両国首脳者間に腹臓なき意見の交換が行なわれ、両国間の相互理解を一段と深め得ましたことは、各位のつとに御承知のところであります。その後、日米貿易経済合同委員会および日米科学協力委員会、さらに近く開催される日米文化教育会議など、広汎な分野にわたる日米両国民間の意志疎通が、活発に行なわれることとなりました。

ただ日米関係に一抹の暗影を投ずるものは、綿製品に対する賦課金問題その他、米国側にみられる一連の輸入制限の動きであります。これらの動きは、その直接関連する貿易額に比してはるかに大きい好ましからざる影響を、日米関係に及ぼしているのでありまして、政府は友邦としていうべきことは卒直に述べるとの立場に立って、これらの点について強力に米国を説得する努力を重ねつつあります。

最近ケネディ大統領が、その年頭教書において、自由貿易政策を明確に打ち出したことは、大いに歓迎するところでありまして、私は、この自由貿易政策を推進するに当り、米国政府および有識者が、わが国の自由世界において占める政治上、経済上の重要な地位につき、充分な認識をもって対処することを、強く希望するものであります。

米国との間の多年にわたる懸案でありました、ガリオア等戦後対日援助の処理に関しましては、昨年春以来の交渉が今回妥結いたしましたので、関係協定ならびに附属文書を本国会に提出し、御審議を願う予定であります。わが国が戦後困難な事態に直面し、餓死者すら出る危険に陥った際、当時約二十億ドルといわれた援助が、いかにわが国民に安堵と復興への気力を与えたかは、何人も忘れえないところでありまして、政府はこのような多額の援助に対し、今回四億九千万ドルの支払を、十五カ年にわたって行なうことにより、本問題の最終的処理を行なうこととした次第であります。しかして、わが国が支払う右金額の大部分は、発展途上にある諸国に対する経済技術援助の資金として利用されることが期待されております。また一部は日米間の教育文化交流のために充当される予定であります。

米国と並んでわが国と政治的経済的に深い関係を有するカナダとの関係につきましても、昨年池田総理大臣の訪問、つづいてディーフエンベーカー首相の訪日を見る等、相互の友好関係は一段と深められたのであります。

私は昨年七月西欧諸国を訪問し、これら諸国との相互理解の増進に努めた次第でありますが、さらに十一月英国王室よりア「レキサンドラ内親王の御来訪を受けましたことは、日英両国の親善関係の上に、記念すべき一ぺージを画したものと、信ずるのであります。

政府はもとよりアジアの一国として、わが国とアジア諸国との友好関係の増進を重視するものであります。昨年十一月に行なわれた池田総理大臣のパキスタン、インド、ヒルマおよびタイ訪問が、単にわが国とこれらアジア諸国の友好関係の強化に役立ったのみならず、今後わが国のアジア外交を推進する上に極めて大きな意義を有するものとなったことは、ここに申すまでもないのであります。

ビルマとの賠償再検討問題につきましても、池田総理大臣とウ・ヌー・ビルマ首相の会談によって、両国それぞれの立場についての相互理解は一層深まりましたので、遠からず妥結に至るものと期待されます。また、タイ特別円問題は、さきに行なわれました両政府間の協定が、解釈問題をめぐって実施不能となっておりましたが、今回、池田総理大臣とサリット・タイ首相との間に会談が行なわれました結果、両国間の友好関係を考慮する高い見地に立って合意が成立いたし、交渉は近く妥結の見込であります。

わが国と中国との関係をいかに処理するかは、わが国にとって重大な問題であると同時に、極東の安定、ひいては世界の平和に影響をおよぼすものでおります。かかる観点より、今次国連総会におきまして、わが国は、オーストラリア、コロンビアイタリアおよび米国とともに、中国の代表権を変更するとのいかなる提案も重要問題であることを国連憲章第十八条に従って決定すべきことを提案いたしました。その結果、総会において六十一カ国に上る多数の国の賛同を得ましたことは、本問題の包蔵する複雑性が広く世界各国に認識されるに至ったことを示すものであります。私は、今後国際連合において、加盟各国が本問題の実体を十分に考慮して、公正妥当な結論をひき出すよう努力することを、期待するものであります。

従来中国問題については、国内においてもややもすれば問題の複雑性を十分考慮することなく、漠然と主体性のない論議が行なわれ、かえってわが国益に反する結果を生むきらいがありましたが、政府といたしましては、今次国連総会において、初めて中国代表権問題について実質的論議が行なわれたことにもかんがみ、内外世論の向うところを注視しつつ、極東の安定と世界平和に貢献するとの方針の下に、この問題を具体的に検討して行きたいと考えております。なお、中国大陸との貿易問題については、双方の国民経済が必要とする物資の交流が、拡大されることを望むことは申すまでもありません。

わが国の最も近い隣国である韓国との関係につきましては、多年にわたり懸案解決のための交渉がつづけられて参りましたにもかかわらず、未だ国交の正常化をみていないことは誠に不自然な状態であると申さねばなりません。幸いにして韓国新政府は、わが国との国交正常化に非常な熱意を示してまいり、昨年十月より第六次会談を開始いたしたのであります。とくに昨年末には朴国家再建最高会議議長が訪日して、池田総理大臣と忌憚なき話し合いを遂げることによって、相互の理解を深め得たことは、会談の前途を明るくするものであります。政府といたしましては、懸案の解決に今後一層の努力を傾け、速かに国交の正常化を実現いたしたいと考えております。

さらにソ連との関係につきましては、昨年夏ミコヤン副首相がフルシチョフ首相の池田総理大臣あて書簡をもたらしていらい、とくにわが北方領土の問題をめぐって、両国首相の間に両三度にわたり書簡の交換が行なわれてまいりました。ソ連側は北方領土問題はすでに解決ずみであると一方的に断定し、さらに、日ソ両国間に平和条約を結ぶためには、わが国が日米安全保障条約を廃棄することが必要であるとの宣伝を、わが国内で広めるべく意図しております。政府といたしましては、北方におけるわが国固有の領土に対する、国民挙っての愛着を無視する如き妥協は一切行なわず、今後ともわが国の正当な主張を堅持して参る所存であります。もとより、貿易や文化の交流により日ソ善隣関係の増進に資することは政府の方針とするところであります。

次に中南米諸国との関係につきましては、昨年はプラード・ペルー大統領、フロンディシ・アルゼンティン大統領の訪日があり、その際通商航海条約その他諸協定および取極の締結をみ、これら諸国との関係を一層密接ならしめ得ましたことは、まことに喜ばしいところであります。わが国としては、今後とも貿易、経済協力および移住を通じて、中南米諸国との協力を推進していきたいと考えております。

今年のわが国外交の重要な課題は経済外交の積極的推進であります。

わが国は現在、健全経済成長政策を進めつつ、当面の国際収支上の困難を克服し、かつ、貿易為替自由化を促進するという立場にありますが、そのためには、何よりも輸出振興に力を注ぐことが肝要であります。

政府は、ガット三十五条援用を始めとする、わが国に対する通商上の差別撤廃を、強く要望して参りましたが、昨年十一月のガット総会におきましては、本問題の重要性が一層広く理解されるに至り、一部の国が三十五条援用を撤回いたしたのであります。また、昨年八月以来、イギリス、フランス、イタリアその他の欧州諸国とも対日差別の撤廃につき、交渉を行ない、その結果、今後わが国の対西欧貿易は、相当程度の増進が期待されるのであります。私は、本年こそは是非とも対日差別撤廃の年といたすべく大いに努力する所存であります。

この点に関連して、私がとくに申し上げたいのは、わが国の業界と欧州諸国の業界との接触を密にして、相互の意思の疎通を図ることが非常に重要であるということであります。すなわち、欧州諸国の業界においては、わが国の実情にうとく、そのために、対日不信と猜疑心がなお根強いのでありまして、これが対日輸入差別継続の根源をなしているとみられるのであります。これを解消するためには政府民間相協力してまず輸出体制の整備にさらに工夫をこらすとともに、各国の業界とも一層積極的に接触を図るよう努力することが望ましいのであります。

欧州における経済共同体(EEC)の発展は、近年誠に目覚ましいものがあります。ことに、イギリスを始めとして、他の欧州自由貿易連合(EFTA)の諸国の多くも、これに加入乃至連合するための交渉を始めるに至りましたので、ここに米ソ両国に匹敵する、強大な経済圏の出現が予想されるのであります。米国も共同体との貿易関係を強化するため、相互に関税の大幅な一律引下げを計っております。また、欧州諸国に米国、カナダを加えた経済協力開発機構(OECD)も、昨年十月以来活動を開始しております。

このような動きに対して、政府は従来から西欧諸国との経済交渉を強力に推進するとともに、共同体の対日通商政策をできるだけ自由なものとするよう、共同体当局との間にも種々話合いを行ない、関係の緊密化に努めております。また、経済協力開発機構については、わが国もその活動に積極的に参加すべきであり、関係国の理解を得られるものと信ずるものでありまして、現に同機構の開発援助委員会に参加しております。

欧州経済共同体と米国という大工業圏の経済的紐帯の強化されることが予期されているのでありますから、わが国としてはこれに対処するため十分な心構えをもって、準備を進める必要があると考えるのであります。

わが国が発展途上にある諸国、とくにアジア、アフリカ諸国の産業開発を援助し、その発展に寄与することは、これら諸国との関係を緊密化するのみならず、それ等地域の安定、ひいては世界平和にも貢献するものであります。政府は昨年インドおよびパキスタンに対し、総計一億ドルにのぼる借款を供与し、かつ、その他の諸国に対しても経済技術協力を、積極的に推進してきたのでありますが、さらに本年度は輸出入銀行、海外経済協力基金等の資金の充実、海外技術協力事業団の設立などにより、これら諸国に対する経済技術協力の体制をますます強化、充実する所存でありまして、そのため、コロンボ・プラン、国連関係諸機関との協力に努めると同時に、他の先進工業諸国との積極的協調を重視している次第であります。

またこれら諸国よりの一次産品の買付増加については、わが国の貿易自由化の進展とともに、種々困難な問題を生じているのでありますが、政府といたしましては、これら諸国に対する経済技術協力の推進と相俟って、その買付増加につき一段と工夫をこらし、相互の経済関係の一層の増進を計りたいと考えます。

世界の諸民族が相互の理解を促進し、親近感を深めることは、世界の平和に寄与する重要な方途であります。政府は、かかる見地からつとに、わが国の文化と国民生活の実態を、広く世界に知らせるべく努力してまいりました結果、わが国の文物に対する関心は今や全世界を通じて著るしく強まって参りました。同時にまた、私は、わが国民においても、複雑微妙な国際情勢に対する関心をさらに深め、諸外国、諸民族の事情をよく知るとともに、国際社会におけるわが国の立場を正しく理解することが、国家間の協力を促進する上にも、極めて重要であると考えております。

申すまでもなく、外交は、国内世論と密接に結びついたものでありますが、今後思想、経済、文化その他凡ゆる生活の面を通じて、国民に対する国外からの働きかけが、いよいよはげしくなるものと予想されるのであります。私は、国民各位がこの複雑な国際情勢について、正確な認識をもたれ、世界の平和とわが国の繁栄とを目的とする政府の外交方針を、今後とも強力に支持されるよう、切に要望する次第であります。

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第十六回国際連合総会における

  小坂外務大臣の一般討論演説

        (三六、九、二二)

 

議長、私は、日本代表団の名において、貴下が第十六回国際連合総会議長に当選されたことにつき心からお祝い申し上げたいと思います。私は貴下が貴下の卓越せる識見と国際外交の分野における豊富な経験により今次総会を成功に導かれることを確信するものであります。

この機会に私が前議長ボーランド大使に対し深甚なる感謝の意を表したいと思います。前議長はその広い視野と公正なる識見をもって種々難問題の山積した第十五回総会および第三回特別総会をみごとに指導され、その結果として国際連合は世界平和の維持という崇高な任務を遂行しその声価を高めることができました。

ハマーショルド事務総長がその職務遂行中悲劇的な不慮の死を遂げられましたことは誠に悲しみにたえません。わが国は他の加盟諸国とともにここに謹んで哀悼の意を表するものであります。わが国は、国際連合のため献身的努力を払われ多大の業績を残された同氏を国際連合の崇高な理想と目的を具現化した模範としてつねに尊敬してまいりました。同氏の逝去は国際連合にとって誠に大きな損失であります。私はまた事務局職員全員の誠実献身および自己犠牲の精神に対して敬意を表するとともにこの偉大な国際的事務機構に対する信頼の念を表明したいと思います。

私は突如として事務総長を失った職員各位とその悲しみを分かつとともに、各位がその任務の重大性に鑑み一層奮励されんことを望みます。

さて私は第一に、国際連合が世界平和維持という最も重大な任務を担った機関であるとする日本国政府の信念をここに再確言し、日本国政府はその全力を挙げて国際連合を支持し、あらゆる協力を惜しまないものであることを強調したいと思います。

今や人類の生活は地球上に局限されることなく広く遠く宇宙にまで進出せんとするに至りました。私は、とくに米ソ両国がその優れた科学技術を駆使して人類史上未曾有の企てを試み、着々成果を収めていることに対し敬意を表するものであります。また、人類はかつてない繁栄と向上した生活の恵みを受けております。かつて植民地として政治、文化の各分野において遅れた生活を余儀なくせられていた諸民族は続々と、独立を達成し、誇りと熱意とをもって充実した自尊の生活を営むべく努力しております。これらの事実はいずれもわれわれに人類の将来に対する大きな希望を抱かしめるものであります。しかし遺憾ながら世界の現実はわれわれに安易な楽観のみを許すものではありません。諸々の不平等の事実が依然として存在しており、是正を必要とされております。世界には未だ民族自決権を認められない民族があります。政治的独立をかち得たものの、経済その他の面で独立の実を整える上に大きな困難を感じている国々もあります。豊かな歴史的伝統を持ちながら民族自決権の自由な行使を拒まれている国民もあります。さらにまた、進歩と繁栄を誇る国々でありながらその国民が必ずしもそうした恵沢を十分に享受しているといえないものもあります。

国際関係の面にも暗雲の低迷するものがあるのであります。世界は不安定な勢力均衡に依存する不安な平和のうちに生きております。科学技術の面で月にまで届きうるほどの進歩ぶりを見せる人類が、精神の面では旧態依然たる姿があるのであります。ベルリン問題をめぐる急迫した事態、最近における核実験の再開は、世界の人心を重大な不安に陥れました。平和に対する懸念が拡がりつつあります。口に平和を唱える強国が、武力と最新科学の成果を誇示することによって他国をおどすような有様ではいつの日に地上に本当の平和が齎らされるでありましようか。このような事態は国際連合に対する重大な脅威であります。

平和実現のためには、われわれは現実を直視しなげればなりません。現在の世界には政治理念および社会制度を異にする国々が存在し、また経済的発展段階も国によって異なるものがあります。国と国との間、特に相異なる体制や条件のもとにある国々の間においては、武力による威嚇を止め、紛争は平和的手段によってのみ解決し、また他国の内政には絶対干渉しないという国際連合憲章の諸原則があくまで忠実に遵守されなければなりません。このような諸原則のもとにおいて、われわれは世界連帯の精神に則り、相互間の理解と協力とを深めなければならないのであります。このようにしてのみ、初めて国際連合憲章の目指す自由と正義の繁栄の中における真の世界平和を実現することが可能であります。私はこうした見地から今日われわれの直面する二、三の重要問題について見解を述べたいと思います。

まず第一は、ベルリンおよびドイツの問題でありますベルリンの地位に関しては現在四大国間に国際協定が有効に存在しております。ベルリン問題の真の解決は国際協定の一方的破棄や恫喝によって到達できるものではありません。この問題は国際連合憲章の原則に従った解決を目指す話合いによって解決されるべきものであります。またベルリンおよびドイツ問題の解決に当っては、とりわけベルリン市民自身、ドイツ人自身の自由に表明された意思が十分に尊重されるべきであります。昨年の総会が採り上げた大きな問題の一つはコンゴー問題でありました。国際連合の介入により幾多の困難の後漸くコンゴーに平和が回復されたのにかかわらず、今次総会の開催を前にコンゴーにおける平和が再び新たな紛争の発生により動揺を来たすにいたりましたことは誠に遺憾であります。この際われわれがまず留意しなければならないことはコンゴーに平和と安定をもたらそうとする国際連合の努力を妨げるような新たな困難や外からの妨害が起らないようにいたすことであります。

コンゴー国民の利益のためにも、またアフリカ、さらには全世界の平和のためにも国際連合は一日も早く事態の収拾を図るよう努力しなければならないと考えます。この点に関し、私は事態の最終的解決のカギを握るコンゴーの指導者達が過去におけると同様、賢明な判断を示されることを強く希望してやみません。

アフリカにおける新興諸国の多くは、その安定を確保し、経済を成長させるために、経済的により進歩した諸国と緊密な協力を保つ必要があります。

もとより、先進国はこのような協力を政治的な野望を遂げる道具としてはならず、あくまでもこれら新興諸国の要望に沿って自由と繁栄と進歩をもたらすためのものでなければなりません。経済協力と援助を冷戦の具に利用することは、これら諸国に対する侮辱というべきであります。先進諸国は永年にわたる外国支配を経たのち、完全な独立と自尊への途を進もうと希望するこれら新興諸国の感情を充分理解し、かつ、これに深い同情を示さなければなりません。この意味において、日本国政府は前総会において植民地解放宣言が成立したことを喜ぶものであります。わが国は一九一九年のヴェルサイユ平和会議以来人種平等の原則の確立のため終始不屈の努力を重ねてまいりました。

人種差別の観念をこの地上から一掃することは今日の急務であります。

二〇世紀の今日、いまだに世界の一部に人種を差別する観念の払拭しきれていない事実は誠に遺憾であります。このような事実の存続するかぎり世界人類の間に真の意味の平和を望むことはできません。

議長、さきに私は、ベリルンの危機に言及しましたが、現在のごとき国際緊張のもとにおいてこそ安定した平和を達成するために不可欠の方策として軍縮の必要がさらに痛感されるのであります。しかるに事態はどうでありましようか。軍縮の話合いのために設けられた一〇カ国委員会は一カ年このかた会合せず、その任務を引き継ぐべき機構の問題についても合意が見られない始末であります。軍縮問題は徒らに宣伝目的に使われるばかりでなんらの進展を見ておりまぜん。軍縮の実現にとりわけ重い責任を持つものは大国であります。問題の解決のため現実的かつ具体的な方策を見出すために一層の誠意をもって努力することはこれら大国の責務であります。

わが代表団としては、まず現在管理可能であり実行可能である軍縮措置から実施して、国際信頼感を回復し、その上で次第に軍縮の範囲を拡大して行くという行き方が唯一の現実的かつ建設的な解決方法であると考えるのであります。

われわれは完全かつ全面的な軍縮に賛成でありますが、有効な国際的管理および査察に対する充分な準備なしに一挙にこのもっとも難しい問題を解決するという方法は実際的であるとは信じません。この点に関し、わが代表団は、このたび国際連合に報告された米ソの両国間の軍縮に関する合意された原則についての共同声明を歓迎するものであります。これは希望を持たせる徴候があり、われわれはこれらの原則のもとに満足すべき協定に達するよう新たな努力がなされんことを期待します。

ジュネーヴで続けられている核実験中止会議は、昨年来すでに多くの条文において合意をみて、交渉の最終的妥結は間近であり、かくて人類に対する一大脅威がいよいよ除去されるに至るであろうとの希望をわれわれに抱かせておりました。しかるに、この希望は打ち砕かれてしまいました。すなわち、最近交渉当事国の一つは交渉の半ばに突然核実験の再開を一方的に宣言し、矢継ぎ早に多くの実験を行ない、核実験競走の端緒を開いたのであります。その結果他の当事国も制限された形のものとはいえ、この例にならいつつあります。

これは誠に遺憾な事態であるといわねばなりません。原子力は全人類に繁栄と福祉をもたらすためもっぱら平和的に利用さるべきであります。核兵器の競争は、かつて人類が経験したことのないもっとも破壊的な世界戦争への危険性を増大するのみであります。広島・長崎において二〇万以上の生命を失い、その後も引続き年々放射能の影響にもとづく犠牲者を出している日本国民としては、その苦い体験から核実験の問題に最大の関心を持たざるをえません。

日本政府は核兵器実験が行なわれるたびに、それがいずれの地域であっても抗議しておりますが、これは正にこの国民感情を反映するものにほかなりません。

放射能の問題を別にしても、核実験の再開は核兵器製造の競争を意味するものとしてわれわれの重大な懸念の対象となります。これらの理由から、ジュネーヴ会議の関係諸国が狭隘な利己心にとらわれることなく人類の安全と福祉を第一義として、速やかに妥結に達するよう最善の努力を払うよう強く希望するものであります。

わが代表団は、前総会において多数の国家とともに核実験停止および核兵器拡散防止に関する決議の成立に努力しましたが、右決議にもかかわらず世界の情勢はさらに悪化の一途を辿っております。

わが代表団は、今次総会において核実験の停止を求める全人類の悲願に応えるため効果的な決議が成立することを切望するものであり、これがために全面的協力を惜まないものであります。

さらに、最近における宇宙科学の驚異的進歩は大気圏外を平和的に利用することの重要性をいよいよ増大しております。大気圏外の軍事利用禁止のため国際間に合意が達せられることは人類の平和のために不可欠な条件であります。われわれは、大気圏外の開発は国際協力により平和的に公開にかつ秩序正しく行なわれなければならないと信じます。

これらは大気圏外を人類の滅亡のためではなく、その福祉のために利用するに当って守らねばならぬ原則であります。

議長、繁栄する世界経済の維持増進は、平和の維持と並ぶ国際連合の主要目的であります。その意味においては私は、経済社会の分野における国際連合の活動に触れてみたいと思います。

高度の安定した経済の成長が、日本を始め、多くの工業国経済政策の目標とされております。しかしながら他方において経済上の先進諸国との間の生活水準の較差が増大しつつある事実に目を覆うことはできません。もとより、一国の経済開発の責任は第一義的にはその国自体にあり、自助の精神あってこそ、初めて開発に要する資本の不足あるいは、熟練労働力の不足といった困難を克服する鍵を見出すことができるのであります。が、同時に世界的な繁栄を確立することは世界各国の共同の急務でもあります。この点において、経済社会面における国際連合の活動が、技術援助の計画を基盤として日増に大きな効果を受益国経済に与えつつあることは喜ばしいことであります。

私はこれらの計画を通じて国際連合により与えられている援助の意義を高く評価するものであります。

国際連合の内外における種々の資本援助機構が低開発国に協力の手を差し延べていることも、また最近における国際社会の一つの特徴であります。たとえば、国際開発協会は国際連合の専門機関として活動を開始しました。これらの諸機関と諸国との事業が相互に調整され、全体として最大の効果を生むように心掛ける必要のあることは申すまでもありません。わが国はこれらの多角的機構の活動に協力する一方、その経済力の許す限り、低開発諸国との二カ国間ベースでの経済技術協力をも進めていきたいと考えます。日本はアジアの一国としてアジア諸国の堅実な成長と発展に多大の期待を寄せております。アジア諸国の多くは現在長期的な計画に基づいて積極的な努力を傾けており、これら諸国に対する各種援助はそのために極めて有効に活用されております。かかる真剣な努力を立派に結実させるためには、今後さらにこれら諸国に対する援助を増大する必要があります。広大な未開発分野は多くの新規計画を必要としており、こうした新規計画のためにも国際連合その他からの援助が一層強化されることを願う次第であります。

議長、故ハマーショルド事務総長は、たびたび世界貿易の面における動的な国際分業の意義を強調されました。発展途上にある国々は、経済成長の努力の結実として原料品のみならず、半製品および製造加工品を輸出しうるに至ります。そうした際に旧来の先進諸国としては、これらの新興輸出国の商品に市場提供をすることによって、これらの国々の開発と成長への努力に対して好意的に応えることを期待したいものであります。

先進諸国の中には後進国における生産費の相対的低廉性を理由として、輸入制限や国内産業の保護を行なおうとする動きが見られることがありますが、このような措置が発展途上にある国々に適用される時は経済多角化への芽を摘み取る結果となる危険があることに総会の注意を喚起したいと思います。

次にわが代表団はかねて提唱したとおり、人的資源を国際的規模で一層効果的に利用することに関連する基本的諸問題の調査研究を国際連合が取上げることを再び希望いたします。移住の問題もこれと関連するものでありますが、私はこの機会に従来日本からの移民受入れに熱意ある支持を示した多くのラテン・アメリカ諸国政府および国民に、日本国政府を代表して謝意を表明するとともに、今後とも各国が本問題に理解ある態度をとるよう要望したいと思います。要するに日本は、一方において世界の繁栄そのものの不可分性に留意すると同時に他方、世界の繁栄と世界平和との不可分性を認識し、政治の分野ばかりでなく経済面における国際協力に対しても、国際連合の内外を通じ、できるだけの努力を惜しまないものであります。

議長、以上私は現下の重要問題に対するわが国の基本的立場を申述べました。しかし、今日の世界平和のためになによりも重要な問題は国際連合自体の問題であります。世界の平和と福祉のために国際連合の果した幾多の業績を思い、今われわれの当面する複雑な問題を思う時、いよいよ国際連合をもり立てる必要が痛感されます。国際連合加盟国はすべて国際連合をしてその崇高なる目的を果しうるよう協力すべき重大な責任を分ちあっております。国際連合をより有効に世界の平和と福祉とのために役立たしめるために、私はまず第一に各国が国際連合の場を利己的目的に乱用していたずらな宣伝非難の舞台とすることを慎み世界の全体的利益を第一義とすべきであると申したいのであります。私はまた、加盟国の内には正規の手続きによって採択された決議を尊重せず国連による集団的行動への協力を回避する例があったことに言及したいと思います。このような事態は世界平和維持機構としての国際連合の権威を失墜せしめる原因を作るものであります。さらにまた、国際連合の財政状態は昨年来極めて深刻となっております。これは主として若干の加盟国が国際連合の決定にもかかわらず国際連合緊急軍やコンゴー経費の負担を拒んだことによるものであります。私はこの際、これらの事態を速やかに是正し、国際連合を健全な財政的基礎におくことが急務であることを訴えるものであります。国際連合が今日の問題に有効に対処するためには国際連合の機構自体が今日の実状に即していなければなりません。

現在国際連合の加盟国は発足当時に比べ約二倍となっております。安全保障理事会および経済社会理事会の構成にはこの事実が反映されなければなりません。また、事務局の構成をこの新しい実情に対応するよう再検討することも時宜に適したことと思われます。例えば、事務総長の活動をより効果的ならしめるため、その補佐にあたる職員とくに上級幹部を増強し、また、職員の採用にあたり能率を落さぬ範囲内で一層の地理的配分を企てることも適切な措置と考えます。

なお、この点に関連し、わが代表団は三人事務総長制には賛成できません。このような制度は政治体制、政治理念の分野における対立をそのまま国際連合の中枢部に持ち込み事務局の活動を痲痺させ、国際連合憲章第一〇〇条の要求する事務局の国際的中立性を根底から破壊するおそれがあります。

私は、いまやすべての加盟国が国際平和と協力の機関たる国際連合に対する各加盟国の協力のあり方について真摯な反省をすべき時であると申したいのであります。常に安全保障理事会に議席を占め拒否権を認められている諸大国に対し、私はそれらの国々が世界の平和と国際連合の健全な発達にとくに重大な責任を有している事案を指摘し、それらの国々がその自覚のもとに行動されることを切に希望します。

他方、その他の加盟国も近年における新加盟国の急増につれその発言力が増大しました。国際連合内におけるその集合的力が強まるとともに、この新勢力は大国間の対立に影響を与えることができるようになり、その意味でこれら諸国の責任もまた重大であります。たとえ個々の国々にとって自国の重要な国家的利益に関する問題であろうとも、すべての問題の取扱いにあたって英智と抑制と地道で建設的な態度をもって対処することこそ、すべての国連加盟国の義務であると信じます。過去十六年の間において国際連合は、朝鮮、スエズ、コンゴー等の諸事件が世界戦争に拡大することを未然に防ぎとめるのに成功しました。

国際連合がかくも多大の成果を収めてきたことは喜びにたえませんが、他方、これが権威ある機構として発展を続けられるかどうかは、一にかかって全加盟国のたゆまぬ努力にあることを忘れてはならないのであります。

なお、この演説を終えるにあたり、一言付加したいのは、われわれすべてが世界平和と国際連合の将来のために決意を新らたにすべき決定的な段階におかれている事実であります。われわれ一人々々の肩にかかっている重大な責務を自覚し、もって世界の平和と安全のための最高の機関であるこの国際連合の権威をさらに一層高めるよう本総会を役立たせようではありませんか。

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