貿易経済関係使節団の派遣(接受)および要人の来日
わが国とナイジェリアとの貿易は、わが方の極端な出超傾向を続けていたので、ナイジェリアはかねてから片貿易是正についてわが方の善処方を要望していたところ、一九六一年六月三十日オコティエボ副総理兼大蔵大臣を団長とし二十二人よりなる経済使節団が来訪し、わが国政府当局および関係業界と日本のナイジェリア産品買付問題、経済および技術協力問題について討議を行なった。その後右討議の了解に基づいて、わが方より外務省牛場経済局長を団長とする使節団がナイジェリアを訪問し、ナイジェリア関係政府機関および業界の代表と会談し、問題の所在を明らかにすることに努め、さらに一次産品および経済技術協力の調査団を派遣して具体的な調査を行ない、目下対策検討中である。
政府は、国交関係が未だ正常化されていない韓国の経済情勢をできるだけ正確に把握することに努力しているが、その一環として、外務省卜部参事官、外務・通産・農林各省係官等一行六名を一九六一年九月三十日から約十日間にわたり、ソウル、大邱、釜山等韓国各地を訪問、同年五月十六日軍部政権成立後の同国の一般経済事情を視察せしめたほか、またこれに先立ち、同年三月農林・外務両省係官を同国の畜産、検疫の現状視察のため派遣した。
政府は近年わが国の輸出市場として重要性を増しているアラビア半島地域の市場調査のため、一九六一年十二月十日から約五十日にわたり、神戸製鋼所顧問宮田隆一郎氏を団長とする五名の調査団を派遣した。この調査団はクウェイト、サウディ・アラビア、バーレン、カタール、トルーシャル・オマン、アデン、イエメンおよびソマリアを歴訪し、上記各地において官民経済関係者との懇談および実態調査を通じて、現地の貿易経済事情を明らかにするとともに、わが国の輸出市場としての将来性、わが国の経済技術協力の可能性を調査した。
政府は、メキシコ、グァテマラ、エル・サルヴァドル、ニカラグァ、パナマ、ドミニカおよびハイティの七カ国に対し、一九六二年三月三日から四週間にわたり、三菱商事専務寺尾一郎を団長とする八名から成る対中米・カリブ海諸国貿易使節団を派遣した。この使節団は、これらの諸国において、(イ)わが国との貿易増進の障害となっている対日待遇改善の要請、(ロ)輸出増大のための具体的方策の検討とわが産品の宣伝、(ハ)経済開発計画の情報しゆう集と中米共同市場に対するわが国企業進出の可能性検討等を使命として、各国の政府および民間首脳と懇談し、相互の理解を深めた。
バンチャード・チョンラウィチヤーン・タイ貿易院主席は、夫人および随員五名と共に、一九六一年四月二十七日から十日間外務省の招客として来日、小坂外務大臣、椎名通商産業大臣およびわが国財界指導者と会談したほか、東京および関西方面の工場視察を行なった。
インド中央政府のスワラン・シン鉱山、鉄鋼、燃料大臣は、五月十日より二十一日までの間外務省招客として来日した。その間同大臣は、皇太子殿下に謁見し、小坂外務大臣、椎名通産大臣と会談したほか、製鉄、金属、機械工業等の各工場施設を視察し、鉄鋼業界の要人と交歓をとげた。
スティノおよびスーフィ両アラブ連合供給大臣は農産物輸入問題について協議を行なうため米国および印度を訪れたが、米国よりインドに赴く途中わが国に立寄り、農業事情とくに農産物加工工場の視察を希望し、十月二日より三日間わが国に滞在して関係施設の視察を行なった。これについて外務省は、外務省招客に準じて、滞日スケジュールにつき便宜供与を行なった。
英国産業連盟事務総長サー・ノーマン・キッピング氏はわが国経団連の招聘により一九六一年十月四日から同二十四日にかけて来日した。
同氏は滞日中経済関係閣僚、中小企業庁長官と会見したほか、経団連首脳部および関西業界代表と懇談を重ね、また電気機械、繊維等各種工場を視察した。
同氏は帰国に先立ち日・英両国が相互に輸入制限の撤廃に努力し、経済協力を促進するとの経団連首脳との共同ステートメントを発表する一方、帰国後は日本視察報告を公表し、日本経済の実情紹介に努力している。
プールホマユン・イラン商相およびマンスール・イラン経済最高会議議長は、それぞれ夫人同伴の上、外務省招客として三月二十二日来日し、四月一日まで滞在した。
この間両夫妻は、天皇陛下および皇后陛下に拝謁を賜わったほか、両氏は小坂外務大臣、椎名通産大臣を始め、わが国政府および民間の要人と今後の両国間貿易の促進ならびに経済技術協力の推進につき懇談した。
また、両夫妻は、京浜、関西地方を旅行し、各種の産業、文化施設を視察した。
一九五九年ベルギー駐在下田大使は、欧州経済共同体、欧州石炭鉄鋼共同体(ともに二月十四日付)ならびに欧州原子力共同体(三月二十八日付)に対する日本政府代表に任命されたが(第五号一九五頁参照)、わが国としては、EECの今後の進展を予測して、加盟国との間の二国間政府交渉を推進するかたわら、将来のEECの対日通商政策をできるだけ自由なものとするよう、共同体事務局と在ベルギー大使館を通じ非公式な話合いを行ない、関係の緊密化に努めてきた。
一九六一年九月に至り、英国は、正式にEEC加入申請を行なうに至り、EECの経済発展は、ますますその重要性を帯びてきた。他方EECの執行機関として各加盟国より任命された9名の委員よりなる委員会の対外関係委員(いわばEECの外務大臣)ジャン・レイ委員は、かねてより訪日を希望していた。わが国としては、EEC委員会で枢要な地位を占めるレイ委員の訪日を契機として、年を追って経済統合を実現しつつある加盟六カ国との経済貿易関係を同委員会との接触を通じて、一層改善し増進させるは極めて望ましいので、政府賓客として招待することに決定し、同委員他二名は十二月四日から十一日までの間わが国を訪問した。
レイ委員は、滞日中、天皇陛下に謁見を賜ったほか、池田総理大臣、小坂外務大臣、藤山経済企画庁長官、佐藤通産大臣とそれぞれ会談し、また経団連、日本貿易会、経済同友会、関西の財界人と種々意見を交換するとともに、この間工場の見学を行なった。
今回のレイ委員の訪日は、交渉を目的とするものではなく、わが国の実情に対する認識を深めるとともに一般的意見の交換にあった。
レイ委員がわが国各界の関係者に対して語ったことを要約すれば、(イ)EECの共通通商政策、就中対日政策について、ローマ条約の規定によれば共通通商政策はEEC形成の過渡期間が終了したのちに始めて実施されるものである。もっともこの間もできるだけ六カ国の通商政策の調整に努力しており、対日通商政策も度々論議されている、(ロ)対日通商政策については、六カ国によりそれぞれ差異があり、各国の政策の調整を図ることはなかなか容易でないが、これを改善するに当って、日本側でかりに差別的措置をもって報復されることになれば、逆に対日輸入制限論者を安心させることになりはしないかという惧れがある。(ハ)最近の日本とEEC各国との貿易交渉の現状にかんがみ、一九六二年に日本とEECとの間の通商問題一般についての意見の交換(General Confrontation)を行なう時期が熟したものと考える。(ニ)最近の自由世界の大きな変化として、第一に欧州においてEECの発展に象徴されるように、経済統合が進展しているが、その統合は経済同盟に止まらず、政治的統合を目指していること、第二にアフリカの諸国が相次いで独立し、これらの国が他の国々といかなる形で結びついて行くかが大きな問題である。第三にOEECが十月からOECDに改組され、後進国援助問題を取扱うDAGがDACとしてその有力な委員会となったが、自由世界の工業国の連帯が急速に強化されつつあることである等であった。
これに対し、日本側からは、(1)EECの対日政策は相当厳しくなるものと予測しているが、なるべく自由な政策をとるべきである、(2)EECの経験からみたアジアの共同市場の構想に対する判断、(3)陶磁器についての混合関税の採用、(4)英国のEEC加入の見通しと英連邦の問題等につきその見解をただした。
右のような意見交換を行なった結果、十二月九日、小坂外務大臣とレイ委員は、共同新聞発表を行なったが、次の一節が注目さるべきと思われる。
「両者は、日本と欧州経済共同体との経済通商関係全般にわたって意見を交換した。これに関連して両者は、かかる関係を増進するためには相手の経済の実情と通商政策について互いに理解を深めることが是非とも必要であり、そのためには、双方の関係者が随時会合して、意見と情報の交換を行なうことが望ましく、そのために、一九六二年春ブラッセルで第一回会合を開くことに意見の一致をみた。」
今後対欧州通商促進の見地から、EECとの関係を改善し、さらに進んで緊密にするために、きたるべきブラッセル会談が意義の深い出発点となることが期待される。
外務省は、イタリア業界のわが国経済および産業に対する認識を深めるため、財界協力のもとに、イタリア工業総連盟会長代理クイント・クインティエーリ氏を団長とし、貿易省課長および化学工業、自動車、事務用機械、繊維、金属洋食器等各工業界代表計十一名より成るイタリア経済視察団を二月二十七日から三月十日まで招日した。一行はその間東京および関西地方の産業施設を視察し、またわが国業界の代表と懇談を行なった。