四 最近における経済協力および技術協力の諸問題

 

 

経済協力に関する国際協調の動き

 

1 DAG(開発援助グループ)からDAC(開発援助委員会)への発展

DAG(開発援助グループ)は一九六一年九月三十日OECD(経済協力開発機構)の発足とともに、同機構の一委員会であるDAC(開発援助委員会)となった。同年中にDACは開発援助に関する先進国間の協調体制をほぼ確立したが、この間のDAGないしDAC関係事項の主要な発展は次のとおりである。

(1) 第四回DAG会議

第四回DAG会議は一九六一年三月二十七日より三日間ロンドンで開催された。

本会議の主要討議事項は、(イ)各種形態の援助の相対的効果、(ロ)援助の公正な分担および(ハ)DAG強化の三点であった。

本会議において二つの主要決議が採択された。それは「共同援助努力に関する決議」および「DAGの強化に関する決議」である。共同援助努力に関する決議は、低開発諸国に対する援助の量的増大とその効果の向上とを共同目標として、公正な分担を決定するための諸原則について検討を行なうようDAG参加各国政府に勧告することに同意し(この勧告は第五回DAG会議において受諾された)かつ、長期にわたる継続的援助が最も有効な援助であり、とくに贈与もしくは長期借款が供与さるべきであること、およびDAG諸国は定期的に援助額および性格に関し相互検討を行なうことに同意したものである。この決議は、その後のDAGおよびDACの活動の基本をなすものであり、後述の年次審査においてもこの決議が基本原則となっている。

DAGの強化に関する決議は、DAGのDACへの移行にそなえて、DAGに常任議長および副議長をおくこと、さらにDAG参加国は上級官吏を常任代表として任命することを勧告したものである。

(2) 第五回DAG会議

第五回DAG会議は一九六一年七月十一日より三日間東京で開催された。本会議には、わが国より下田大使以下十五名の代表団が出席し、池田総理大臣の歓迎の辞に続き、DAG会議の慣例にならって主催国たるわが国の援助政策、実績等に関する説明を行なった。

本会議の主要討議事項は、(イ)共同援助努力、(ロ)コンソーシアム制度の採用、(ハ)OECD開発センターの設置および(ニ)民間投資の促進策であった。

共同援助努力に関しては、毎年DAG諸国の援助総額を国民所得合計の一定割合とし、この援助総額をDAG諸国が一定の原則に従って公正に分担することを提議した米国案を中心に討議が行なわれた。各国とも公正な援助分担に関する何らかの原則を見出すことには反対はなかったが、機械的に分担率を算出することには種々の基本的困難があることが指摘され、結局、「共同援助努力作業部会」を設立し、この作業部会で何等かの原則を見出すよう検討を続けることとなった。また、第四回DAG会議で合意をみた援助の額および性格の相互検討を通じて自からDAG諸国間の援助の分担につき何等かの原則に達することを期待して、右作業部会に相互検討の具体的実施方法を検討せしめることとなった。

コンソーシアム制度は従来世銀主催の下に成功を見ているものであるが、DAG主催によるコンソーシアムの結成を提議した米国案を中心に討議が行なわれ、その結果DAGが将来コンソーシアムを主催しうることについて原則的に合意された。

主に情報交換の場として発足したDAGは、これによりその実践的性格に向って一歩を進めることとなった。

低開発国の研究者等を交え経済開発問題の研究、低開発国の経済開発計画に対する助言等を行なうOECD開発センターを設立する提案については、この種機関をOECD内に設置することが有益であるとの原則的な合意を見たが、同センターの機能、他の類似機関との関係等についてはさらに検討を続けることとなった。

民間投資は、経営・工業技術の導入を伴う場合が多く、また低開発諸国の対外債務支払能力に対する負担も比較的軽減されやすいため、本会議においてとくに民間投資を促進する諸方策につき討議が行なわれた。

この結果、民間投資促進のため投資保険に関する何等かの多数国間協力の方途につき、世銀に研究を依頼することとし、この研究結果をまってDAGで検討を行なうこととなった。また、先進諸国が行なっている民間投資促進のための税制上の諸措置については、OECDの財政委員会において討議を行なうこととし、この討議にわが国代表も参加し得るようOECD理事会に勧告した。

(3) OECDの発足

OECDは条約調印国の批准を得て、一九六一年九月三十日発足した。これと同時にDAGは、通商委員会、経済政策委員会と並んでOECDの三つの主要委員会の一つである開発援助委員会(DAC)となった。

わが国はOECD条約に加盟していないので、クリステンセンOECD事務総長と在仏萩原大使との間でとくに書簡交換を行ない、これによって、わが国はDACに正式メンバーとして参加することとなり、また、DACから提出された事項がOECD理事会で討議される場合は、この討議にわが国も全面的に参加し得ることとなった。

(4) 共同援助努力作業部会

第五回DAG会議の決議にもとづき設立された本作業部会の第一回会議は、一九六一年十一月二日、三日の両日パリで開催され、わが国からはDACに対するわが国の常任代表である在仏萩原大使が出席した。

本作業部会は、この第一回会議以降一九六二年一月八日、九日の両日に開催された第三回会議にいたる三回の討議を経てDAC年次審査制度(DAC諸国の援助の額および性格の相互検討)の実施方法、対象項目、審査原則につき合意に達し、また、年次審査作業部会を設置した。

(5) OECD閣僚理事会

一九六一年十一月十六日、十七日の両日パリにおいて第一回OECD閣僚理事会がカナダのフレミング蔵相議長の下に開催された。わが国はOECDとの書簡交換に従って、同理事会のDAC関係討議に出席することを招請され、藤山経済企画庁長官が代表として右討議に出席した。この会議の結果年次審査制度の実施、OECD開発センターの機能構成の検討が確認され、また、DACは具体的な開発援助案件に関する調整をますます助長すべきであることが確認された。

(6) 技術協力作業部会

DAGにおける技術協力の討議は一九六〇年十一月ワシントンで開催された第三回DAG会議において投資前技術協力の問題を中心に討議が行なわれたことになり、同会議において技術協力専門家会議が設置された。技術協力専門家会議は、一九六一年二月ワシントンにおける第一回会議の後、技術協力作業部会と改名され、一九六一年七月および十二月にそれぞれパリで会議が開催された。

これらの会議を通じ、技術協力作業部会は、技術協力に関する情報の交換制度、技術協力の調整の方策、DAC諸国に共通な技術協力に関する諸問題等の討議を行なってきた。

(7) 調整グループ

一九六一年十二月、DACにおける開発援助のより効果的な調整のため、DAC諸国が随時特定の開発事業、開発計画、低開発国等につき援助の調整を行なうグループを結成する制度をDAC内部に設けることにつきフランスより提案がなされ、同提案の趣旨は、一九六二年一月DAC参加国の合意を得た。

特定の調整グループにDAC参加国が参加するか否かは全く各国の自由であり、また調整グループの具体的作業内容は当該調整グループ自体が決定することとなっている。

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2 世銀主催による債権国会議に対する参加

経済協力に係る最近の国際的な注目さるべき動きとして、各国援助努力の協調、組織化がみられるが、インド、パキスタン債権国会議(コンソーシアム)の成果はDACの進展と並んでその最も顕著なものの一つである。

債権国会議は、決定、決議の機関ではなく、DAC同様コンフロンテーション方式が採られ、情報、意見交換、援助の調整、討議の場であるが、一九五八年秋、世銀の主催の下に、わが国初め、米、英、カナダ、西独の五カ国の参加により、インドについて初めて組織され、その後一九六〇年九月、パキスタンについても組織されており、その他諸国についても組織される動きがみられる。

参加国も、一九六一年六月ワシントンで行なわれたインド第四回、パキスタン第二回会議よりフランスと、新らたに発足した国際開発協会(IDA)が正式にメンバーに加わり、IMFが常時オブザーバーとして参加しているほか、これまで、北欧三国、スイス、オーストリー、オランダ、伊、白がオブザーバーとして出席している。DACの主要メンバーはいずれも参加または参加の動きをみせている。

当初、対インド・コンソーシアムは、インド経済の救済を主目的として招集されたが、世銀主催の対印、対パキスタン・コンソーシアムが一九六一年六月および一九六二年一月の会合を通じ、インド第三次、パキスタン第二次五カ年計画の当初二カ年の所要外国援助の大部分の調達に成功したことは、コンソーシアムの新たな成果として特筆さるべきであろう。対印および対パキスタン・コンソーシアムの如く、一国の経済開発計画自体が援助の対象とされる場合は、外国援助所要額も相当の巨額に達しかつ大巾に緩和された条件での援助が必要とされる場合が多いであろうが、計画の一部につき各国援助が何等調整なく、供与される場合は、計画の実施に歪みを生じ、また所要援助額実現の目途がなければ、計画の着手自体も、また不可能となるからである。同時に、コンソーシアム形式の援助には、受益国の真摯な努力と十分に練りあげられかつ実施可能な開発計画が前提とされるが、この面では、世銀は数回にわたり現地に調査団を派遣し、インド、パキスタン両国政府との密接な連絡と協議の下に、両国の経済計画、経済政策につき十分の検討を加え、とくに資金面では、両国自身の努力に加え、必要となる外国援助額、援助条件について策定分析を行なって、有意義な役割を果している。

第4回対印債権国会議の各国コミット額

第2回および第3回対パキスタン債権国会議の各国コミット領

一九六一年六月および一九六二年一月ワシントンで開催の会議でインド、パキスタン両国に約束された会議参加各国メンバーの援助は別表のとおりであるが、第五回対印コンソーシアムでは、第三次五カ年計画の新規援助期待額約三十六億ドル中(所要外国援助総額は六十七億ドル)当初二カ年分として約二十二億ドルが約束され、第二回、および第三回対パキスタン・コンソーシアムでは、第二次計画における新規援助期待額約二十億ドル中(外国援助総所要額は二十三億ドル)計画第二および第三年度(第一年度は実施済)分として九・四五億ドルの援助が約束されたものである。

わが国も、両会議の当初からのメンバーとして、上述の会議に引続き参加し、インドについては八千万ドル、パキスタンについては四千五百万ドル(第二回会議二千万ドル、第三回会議二千五百万ドル)の円借款供与の意向を表明した。インドとは一九六一年八月、パキスタンとは一九六一年十一月、第二回会議で表明した二千万ドルについてそれぞれ借款細目について話合いが行なわれ、両国政府と輸出入銀行および借款参加の甲種為替十二行との貸付契約がそれぞれ発効した。パキスタンに対する第三回会議で表明した二千五百万ドル借款について、近く同国との話合いが予定されているが、これらの円借款は、わが国としては初めての五年据置後十年返済の長期の条件で供与されるものである。

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