西欧関係

 

西欧大陸諸国は米国および英国とならんで、自由主義陣営の中核であり、また、東西陣営の接触面として国際政治上極めて重要な地位を占めている。とくに仏、独、伊、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ六カ国の経済、石炭・鉄鋼、原子力の三欧州共同体を中核とする欧州経済統合は多大の成果を収め、最近は緩慢ではあるが政治統合も進みつつあり、一九六一年から英国もこれに参加する方針を決定し、具体的交渉を開始しており、他の欧州諸国も何等かの形でこれに参加する動きを見せている。かくの如く、西ヨーロッパ諸国は、次第に国際社会において米・ソ両国にも匹敵する強力な地位を占めようとしている。

かくの如き事情に鑑み、わが国とこれら諸国との関係は、わが国の対外政策上その重要性を年々増大しつつあり、政治、経済、文化、その他各種の領域でますます緊密となっている。一九六一年は小坂外務大臣がイギリス、フラン仏首相、セーニ伊外相、ファン・ゼーランド・ベルギー元首相、プチピエール元スイス大統領、ルンス・オランダ外相等が訪日するなど、彼我の人的交流も強化され、相互の理解と関係強化に貢献するところが少なくない。

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1 小坂外務大臣の欧州諸国訪問

小坂外務大臣は一九六一年七月四日から十七日までイギリス、フランス、イタリア、ヴァチカンおよびドイツの各国を訪問し、これら諸国政府首脳と会見し、種々の問題につき率直な意見の交換を行なうとともに、わが国との友好関係の強化について話し合い、これは今後のわが国の外交施策に貢献するところ大であった。

各国訪問の概況は次のとおりである。

 (イ) イギリス

小坂外務大臣は、七月五日から七月八日まで英国を訪問し、マクミラン首相、ロイド蔵相、ヒューム外相、モードリング商相およびその他の英国政府首脳者と会談した。

右の会談において日英両国の政策が国際連合の権威を高め、自由と正義に基づく、恒久的世界平和の確立にあることが再確認され、両国外務大臣は、ひとしく自由世界の有力なる一員として、両国が一層緊密に協力し、もって日英間の結びつきと自由世界の団結を強化することに意見の一致をみた。

この目的のため、両国外務大臣は、貿易の拡大、通商航海条約の早期締結ならびに両国の指導的な産業人および実業人相互間の理解を促進するような方策の推進に努力することに意見が一致した。両国外務大臣は、また、日英文化協定に基き両国間の文化的結びつきを強化すること、さらに新生諸国との技術的、経済的協力の拡大に協力することに意見の一致をみた。

 (ロ) フランス

小坂外務大臣は、七月八日から十一日までフランスを公式訪問し、ドゴール大統領、ドブレ首相、ジャッキノ国務相、ジョックス国務相およびボームガルトネル蔵相を訪問会談した。

これらの会談では、国際情勢一般ならびにとくに両国に関係の深い諸問題が検討され、双方は、自由と正義に基づく平和を希求する両国の決意を確認するとともに、両国間の貿易発展のために新たな努力が行なわるべきであること、および低開発諸国に対する経済援助のための両国の協力を強化することが望ましいことが了解された。

小坂外務大臣および仏側各大臣は、日仏間の文化的、技術的、科学的交流を一層活発化することに意見の一致をみた。

 (ハ) イタリア

小坂外務大臣は、七月十一日から十二日までイタリアを訪問し、グロンキ大統領に謁見、ファンファーニ首相、セーニ外相およびマルチネリ貿易相とルッソおよびストルキ両外務政務次官同席の下に会談した。

両国外務大臣は、両国が共通の関心を有する諸問題および国際情勢一般に関し、隔意なき意見の交換を行なった。

さらに両国外務大臣は、両国間の貿易拡大が両国共通の利益であることを認め、このため双方においてあらゆる努力を行なうことに意見の一致を見、またこのために両国外務大臣はこれらの発展を促進するための適切なる方途について合意に達した。

 (ニ) ヴァチカン

小坂外務大臣は七月十三日ヴァチカン市国を訪問し、教皇ヨハネス二十三世に謁見した。小坂外務大臣からわが国が当面した諸問題について歴代の教皇が理解と同情を示されたことに対し謝意を表明したのに対し、教皇は、今後もわが国に対し協力を惜しまない旨述べられた。

 (ホ) ドイツ

小坂大臣は、七月十三日から十六日までドイツ連邦共和国政府を訪問し、リュプケ大統領に謁見し、アデナウアー首相、ブレンターノ外相等と会談した。右会談においては両国間の貿易拡大のため日独双方で努力を継続すべきこと、および欧州経済共同体と日本との貿易拡大が望ましいことについて合意をみた。さらに、低開発国の経済発展のため、両国の協力を増進し、かつ、日本のOECDとの協力をできるかぎり緊密なものにするため努力することについて意見の一致をみた。

2 第十回在欧公館長会議の開催

第十回在欧公館長会議は一九六一年十二月十一日から十三日までの三日間ローマで開催された。同会議には在欧全公館(二十四館)の公館長が参加したほか、地域外からは在イラク八木大使、在ナイジェリア粕谷大使および在米西山公使が参加し、本管からは川村政務次官、島外務審議官、佐藤経済局参事官、木本西欧課長が出席した。この会議においては、欧州を中心とする国際情勢、とくにドイツ・ベルリン問題をめぐる東西関係、欧州統合問題等を検討するとともに、わが国と欧州諸国との政治、経済、文化関係について意見の交換を行ない、わが国の対外施策上益するところ大であった。

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3 租税条約の締結

わが国は、オーストリアとの間の租税条約を締結するため一九六一年春オーストリアと交渉を行なった結果合意に達し、一九六一年十二月二十日ウイーンにおいて、両国全権委員間に署名が行なわれた。本条約は批准書交換により効力を発することになっており、所得に対する租税に関して二重課税の回避を目的とするものであって、わが国とオーストリア間の通商交通、学術文化交流の促進に寄与するところが少くないものと期待されている。

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4 西欧諸国との航空協定の締結

わが国はすでに、オランダ、北欧三国、フランス、スイス、ベルギー、西独との間に航空協定を締結してきたが、さらに一九六一年十月イタリアとの間に締結交渉を行ない、一九六二年一月協定の署名が行なわれた。この日伊航空協定の締結により両国航空企業の東京・ローマ相互乗り入れが可能となり、両国の経済、文化関係は一層緊密なものとなるであろう。

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5 KLMによるビアク向け兵員輸送の問題

一九六二年一月三十日、KLM(オランダ航空)より、二月三日および五日の二回にわたり、オランダ政府のチャーターしたKLM会社の航空機三機が、政府要員約二百名をビアク向け輸送するため羽田に着陸する旨通告があった。わが方は、かかる政府要員輸送のための政府チャーター機は、シカゴ国際民間航空条約第三条の「国の航空機」に該当し、着陸のためには通告のみをもっては足りず許可を必要とすること、また、たとえ許可申請があっても、右にいう政府要員は兵員であると認められるので、申請には許可を与えない旨KLMに通告した。

二月七日、KLMより定期便に便用しているDC-7C(プロペラ機)を二月八日の便に限りDC-8(ジェット機)に臨時変更したい旨の事業計画変更申請があった。外電によれば右DC-8の乗客はほとんどが兵員であるとのことであり、わが方は兵員輸送のために定期便の臨時機種変更を行なう必要はないものとして、KLMの申請を許可しなかった。

二月十日、法眼欧亜局長は、デ・フォーフト在京オランダ大使を招き、西ニュー・ギニア問題に関し両当事国の間に平和的解決の努力がなされていること、および民間航空の精神に鑑み、KLMによる兵員のビアク向け輸送につきオランダ側の自粛を求めた。

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6 要人の訪日

 (1) ピネー元フランス首相の訪日

アントワーヌ・ピネー元フランス首相は政府賓客として随員一名を伴い、一九六一年三月十九日来日し、同月三十一日まで滞在した。

この間同氏は、天皇陛下より謁見を賜わり、小坂外務大臣、池田総理大臣、吉田元総理を訪問、政界・財界の要人と会談し、東京、大阪、京都の各地でフランスの政治・経済問題につき講演した。

 (2) セー二伊外相一行の来日

イタリア外相アントニオ・セーニ氏は、夫人および随員七名とともに、日本政府の賓客として一九六一年五月三十日より六月六日までわが国を公式訪問した。同外相は、滞日中、宮中午餐のほか、池田総理大臣、小坂外務大臣をはじめ政府および各界要人と会見し、関西方面への視察旅行を行なった。

 (3) ファン・ゼーランド元ベルギー首相の訪日

元ベルギー首相ポール・ファン・ゼーランド氏は、外務省招客として一九六一年九月二十二日より同二十八日まで滞日、その間天皇陛下および皇太子殿下に謁見、池田総理大臣、武内外務次官(小坂大臣は国連出席中)、清瀬衆議院議長、平井参議院副議長と会談、さらに関東関西の財界有力者と懇談したほか、外務省講堂において講演(低開発国問題)を行なった。

 (4) プチピエール元スイス大統領の訪日

一九四四年より一九六一年までスイス外相を勤め、その間三度連邦大統領となったプチピエール氏は、一九六二年二月十四日より私的資格で夫人とともに日本を訪問、同月二十二日まで滞在した。この間同氏は、天皇陛下に謁見、小坂外務大臣と会見し、関西に赴き、古美術を鑑賞し、各種の工場を見学した。

 (5) ルンス・オランダ外相の訪日

ルンス外相は、東京におけるエカフェ総会に出席するため米国経由一九六二年三月五日来日、同月十日羽田発帰国した。滞日中同外相は、天皇陛下に謁見したほか、池田総理大臣および小坂外務大臣とそれぞれ会見、懇談した。

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