二 国際連合における活動その他の国際協力

 

 

国際連合第十六回総会

 

1 概     説

国際連合第十六回総会は、昨年九月十九日に開会し、十二月二十日一旦休会に入った後、本年一月十五日に再開し、二月二十三日、一応その議事を終了した。

この総会を通じて見られた国連の動向とこれに対するわが国の立場については、総説において、一般的にふれたとおりである。ここでは、総会におけるわが国の活動を概観することとしたい。

第十六回国連総会に臨むわが国代表団の構成は、次のとおりであった。

政府代表   小 坂 善 太 郎  外務大臣

 〃     岡  崎 勝  男  国連常駐代表

 〃     福 島 慎 太 郎  ジャパン・タイムズ社長

 〃     宮  崎    章  駐オランダ大使

 〃     松  井    明  駐スウェーデン大使

 〃     鶴  岡 千  仭  外務省国連局長

同代表代理  柿  坪 正  義  国連代表部大使

 〃     高  橋    覚  外務省国連局参事官

 〃     星    文  七  国連代表部参事官

 〃     伊  藤 政  雄  国連代表部一等書記官

 〃     久 保 田 キ ヌ  立教大学助教授

小坂外務大臣は、総会開会直後の九月二十日、総会本会議において、他の加盟国代表とともに、開会の前日コンゴー訪問中不慮の危禍に逢って死去したハマーショルド事務総長に対し、わが国政府および国民を代表し、深甚なる哀悼の意を表明した。

同大臣は、また九月二十二日の総会本会議において一般討論演説を行ない、まず、世界平和に対する懸念が拡がりつつある際、各国が国連憲章の原則を忠実に遵守すべきである旨強調した後、ベルリン問題アフリカ問題、軍縮問題、核兵器実験停止、大気圏外の平和利用、低開発国の援助、加盟国の国連協力と国連の財政問題、国連の機構に関する問題等について、わが国の立場を明らかにして次のように述べた。

(1) ベルリン問題をめぐる急迫した事態や最近における核兵器実験の再開は、世界の人心を重大な不安に陥れているが、このような事態は国際連合に対する重大な脅威である。このような国際情勢下において、国と国の間、とくに

相異なる体制や条件の下にある国々の間においては、武力による威嚇を止め、紛争を平和的手段によって解決し、また、他国の内政に干渉しないという国連憲章の諸原則が忠実に遵守されなければならない。

(2) ベルリン問題の真の解決は、国際協定の一方的破棄や恫かつによって到達できるものでなく、国連憲章の原則に従った解決を目指す話し合いによって解決されるべきものである。また、ベルリンおよびドイツ問題の解決に当っては、ベルリン市民自身、ドイツ人自身の自由に表明された意思が十分尊重されるべきである。

(3) 国際連合の介入により漸くコンゴーに平和が回復されたこの際、コンゴーに平和と安定をもたらそうとする国際連合の努力を妨げるような外部からの困難や妨害が起らないよう留意すべきであり、事態の最終的解決の鍵を握るコンゴーの指導者達の賢明な判断を希望する。

(4) アフリカにおける新興諸国はその経済成長のために先進諸国との協力を保つ必要があるが、先進国はこのような協力を政治的な野望達成のための道具としてはならず、経済協力と援助を冷戦の具に利用することはこれら新興諸国に対する侮辱である。

日本国政府は、前総会において植民地独立宣言が成立したことを喜ぶものであり、また、人種差別の観念を一掃することが急務であると考える。

(5) 軍縮の実現にとりわけ重い責任を持つのは大国であるが、わが代表団は、まず現在管理可能であり、実行可能である軍縮措置から実施し、次第にその範囲を拡大して行く方法が現実的かつ建設的な解決方法であると考える。また、わが代表団は、米・ソ両国間の軍縮に関する合意された原則についての共同声明を歓迎する。

(6) 日本国民は、その苦い体験から核兵器実験の問題に最大の関心をもっている。核兵器実験の再開は、放射能の問題のみならず、核兵器製造競争を意味するものであり、重大な懸念の対象となる。この理由から、ジュネーヴ会議の関係諸国が速やかに妥結に達するよう努力することを希望する。

(7) 最近における宇宙科学の進歩は大気圏外平和利用の重要性を増大させており、大気圏外の開発は国際協力により平和的に公開して、かつ、秩序正しく行なわれるべきであると考える。

(8) 日本は、アジアの一国として、アジア諸国の堅実な成長と発展を期待するものであり、広大な未開発分野の開発のため国連その他からの援助が強化されることを希望する。

先進諸国による輸入制限や国内産業保護措置は、発展途上にある国々の経済多角化への芽を摘みとる結果となる危険があることに注意を促したい。

また、わが代表団は、人的資源を国際的規模で利用することの調査研究を国連が取り上げることを希望する。

(9) 平和維持機構としての国連の権威を高めるため、各国は、国連の場を徒らな宣伝、非難の舞台とすることを慎しみ、採択された決議を尊重して国連による集団的行動に協力しなければならない。また、国連の深刻な財政状態を是正して、国連を健全な財政的基礎に置くことが急務であると考える。

(10) 国連加盟国の増加にかんがみ、安全保障理事会および経済社会理事会の構成にこの事実を反映させるべきである。

また事務局の構成を再検討し、職員の地理的配分を考慮することも適切な措置と考えるが、三人事務総長制には賛成できない。

(11) 安全保障理事会常任理事国がその責任に対する自覚のもとに行動することを切望するが、同時に、新加盟国の急増に伴い、発言力の増大した新勢力の責任の重大さを指摘したい。

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2 中国代表権問題

国連における中国代表権問題は、一九五〇年の第五総会以来提起され、ソ連等が、中国の正当政府は中共であると主張し、種々の方法を用いて国府代表を国際連合の諸機関から排除し、代りに中共代表を着席せしめるよう試みたのに対し、米国は、その都度、中国代表権問題を総会の議題とすることを拒否し、総会会期中は、国府代表を排除し、中共代表を着席せしめるいかなる提案をも審議しないとのいわゆる棚上げ案をもって対抗した。この棚上げ案は第十五回総会まで可決されてきた。

一九六一年九月十七日、ニュー・ジーランドは、事務総長あて書簡をもって、「国連における中国代表権問題」を第十六総会の追加議題として議事日程に採択するよう要請し、説明覚書の中で、国際連合第十六総会がこの重大な問題を自由かつ十分に討議し、総会のとるいかなる行動も、それが憲章の原則およびすべての関連する要素の徹底的な審議検討に基づいて採られねばならない旨述べた。またソ連は、九月十八日付の事務総長あて書簡をもって、「国連における中華人民共和国の合法的権利の回復」を第十六総会の追加議題として議事日程に採択するよう要請し、説明覚書の中で、国連における中共の合法的権利の回復および中国を代表しない人物の排除は、国際情勢の改善に貢献するところ大なるものがあり、国際連合が幾多の重要任務を遂行することを容易ならしめ、国際協力のための良い条件を作り出すことになると述べた。

これら二つの議題は、九月二十五日の総会本会議において正式に採択され、第十六総会においては、「国連における中国代表権問題」および「国連における中華人民共和国の合法的権利の回復」の両議題のもとに、中国代表権問題に関する実質的審議が行なわれることになった。

総会本会議での中国代表権問題に関する一般討論は、十二月一日から十五日まで行なわれた。わが岡崎代表は、十二月六日、わが国と中国大陸および台湾との歴史的関係と現状を具体的に説明し、さらに要旨次のとおり発言した。

(1) 現在、中華民国政府と中華人民共和国政府はそれぞれ中国の正統政府である旨強く主張している。この積年の基本的紛争を解決することは、極めて困難に見受けられるが、中国代表権問題が総会の議事日程にのぼっている事実は、解決の手がかりがやがて見出されるかも知れないという幾らかの希望を与えるものである。

(2) 中華民国は国連の原加盟国の一つであるのみならず、国連の創立国の一国であり、安保理事会の常任理事国でもある。中華民国政府が憲章の義務を誠実に履行し、国連の権威と威信をつねに支えてきたことは周知のとおりである。

(3) 国連総会は、一九五一年二月、朝鮮事変に関連し「中華人民共和国がみずから朝鮮において侵略行為に従事したものであること」を認める決議を採択した。

また代表権問題一般に関する一九五〇年十二月十四日の総会決議は「一以上の政府が国連において一加盟国を代表する権限を主張し、これが国連における議論の対象となった場合には、本問題は国連憲章の目的と原則ならびに各場合の状況に照らして審議されるべき」旨を規定している。議論の多い中国代表権問題の解決に当っては、国連憲章の諸条項および国連の採択した諸決議を十分考慮する必要がある。

(4) 中華人民共和国が、中国大陸において六億余の人口を現実に実効的に支配している事実は、将来の世界平和に関連して看過し得ない事案である。中華人民共和国は中国本土を実効的に支配しており、従って加盟国が国連憲章により負う義務を履行する能力を有するから、国連で中国を代表すべきであるとの議論のあることを日本代表団は承知している。また国連に中華人民共和国を代表せしめるための議論として、加盟国の普遍性の原則があることを承知している。国連加盟国中、中華人民共和国を承認している国が三十七ある。

(5) 他方中華民国政府は、台湾および隣接諸島を実効的に支配し、その地域の一千一百万の国民は高い生活水準を享有している事実を看過すべきではない。また台湾の全住民が共産主義を強く嫌悪していることにも留意すべきである。国連加盟国の四十九カ国が、中華民国政府を中国の正統政府として承認している。中国代表権問題を審議するにあたり、総会が前述の諸事実をきわめて慎重に考慮しないとすれば、それは非現実的であるとのそしりをまぬかれないであろう。

(6) もし中華民国政府が中華人民共和国政府に置き換えられるならば、これは事実上、加盟国の除名に等しいことになるのではなかろうか。しかりとすれば、本問題を審議するに当っては、非常な慎重さが必要とされる。

(7) 日本代表団は、中国代表権問題のごとき将来にとり大きな危険をはらむ重大問題は、すべての関連事実および問題のあらゆる面を徹底的に検討し、政治的、軍事的意義その他の考慮に入れるべき面をも十分認識した上で審議さるべきものであると信ずる。

日本代表団は、本問題の総会における審議が憲章の目的と原則ならびに世界社会の最大の利益に従い、関連するすべての複雑な要素の均衡のとれた現実的な評価を基礎として行なわれることを強く希望する。

一般討論では五十二カ国が発言し、これに加えて、投票理由の説明においてさらに六カ国が本件問題に対する態度を明らかにした。これら発言を通じ、明瞭な国府支持または中共支持の主張のほか、多数の国が国府および中共の対立して存在する事実に触れたこと、および国府の議席を奪うような形で代表権問題を解決することは非現実的であるとの主張を行なったことが注目される。

中国代表権問題の審議に際しては三つの決議案が提出された。すなわち、中国の代表権を変更するいかなる提案も重要問題であることを憲章第十八条に従って決定するとの日本等五カ国決議案、国府代表を国連の機関から排除し、中共政府に対し、国連の機関の事業に参加するため代表を送るよう勧奨するとの趣旨のソ連決議案、およびソ連決議案の主文の表現を若干緩和し、中共政府代表が国連の機関に着席するよう決定するとの趣旨に改めたカンボディア、セイロン、インドネシア三国修正案がそれぞれ提出された。これら決議案は、十二月十五日の本会議で表決に付され、中国代表権問題を重要問題であると決定する五カ国決議案を、賛成六十一、反対三十四、棄権七で可決、三国修正案を否決の後、ソ連決議案も、賛成三十六、反対四十八、棄権二十で否決し、総会本会議における中国代表権問題の審議を終了した。

わが国は、中国代表権問題は、その解決方法いかんによっては世界の平和に大きな影響を及ぼす非常に複雑なものであり、従ってその解決に当っては、現実の事態を十分認識し、本問題に関するすべての事実および問題のあらゆる面を慎重に考慮した上で、国際世論の納得のゆくような衡平な方法がとられるべきものと考える。このような意味からすれば中国代表権問題はまさに重要問題中の重要問題であり、わが国が五カ国決議案の共同提案国となったのも、右のような考え方に基づいたものにほかならない。

こうした考え方からすれば、ソ連決議案の如く、国府代表を国連から排除し、代りに中共の代表を認めることによって中国代表権問題の解決を図るという考え方は、この問題の包蔵する諸々の複雑な要素を無視したものであり、問題の解決に役立たないことは明らかなところである。わが国としては、このような解決方法には賛成し得ないので、ソ連決議案に反対投票した。

また三カ国修正案について言えば、その表現は若干緩和されているとはいうものの、修正案の提案理由説明に立ったセイロン代表が、中共代表に議席を与えることは国府代表の自働的排除を意味すると述べていることからも明らかなように、趣旨においてソ連決議案と同じ効果を狙ったものであった。従ってわが国は、ソ連決議案に対すると同様の理由から、三カ国修正案に反対投票した。

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3 軍縮問題

一九六〇年六月二十七日ソ連など東側五カ国の一方的退場により十カ国軍縮委員会が打ち切られて以来、全面軍縮に関する東西間の軍縮交渉は、ながらく中絶状態にあった。国際連合第十五回総会でも多くの諸国より軍縮交渉再開の緊要性が叫ばれたが、とくにそのための決議はなんら成立せず、ただその後半会期である一九六一年四月二十一日、軍縮交渉の早期再開のため米・ソ両国間で予備交渉を行なうとの両国代表の発言を了承し、軍縮問題に関する審議を第十六回総会まで棚上げする旨決定するにとどまった。

米・ソ間の軍縮予備交渉は、六月以降ワシントン、モスコーおよびニュー・ヨークにおいて行なわれたが、ソ連が同予備交渉において具体的な軍縮計画に関する実質的交渉をも行なうべきことを主張したのに対して米国が反対し、また新軍縮交渉機関の要否およびその構成国に関し両国の意見が鋭く対立するなど相当の難航が伝えられた。しかし、九月二十日米・ソ両国国連常駐代表は、総会議長あて書簡をもって、両国は軍縮交渉機構の構成については合意に達しえなかったが、再開交渉の指針となるべき諸原則に関して意見の一致をみたことを報告するとともに、「軍縮交渉のための合意された諸原則に関する共同声明」を提出した。

この軍縮交渉の指針に関する米・ソ共同声明は、将来の多数国間軍縮交渉の基礎となるべき原則として、軍縮交渉の目標が有効な平和維持取極めの確立を伴った全面的完全軍縮協定の達成にあること、すべての電縮措置がすべての国の安全の均衡を確保すべきこと、またすべての軍縮措置が終始厳格かつ効果的な国際管理の下に履行されるべきことなど八項目を勧告しているが、その多くは、従来の東西の軍縮提案に規定されでいた諸原則の最大公約数ともいうべきものであった。しかしながら、軍縮に関する原則が米・ソ共同声明という形で発表されたことは今回が初めてのことであり、これによって両国が軍縮に関しある程度共通の言葉で話合うことができるようになった事実自体十分注目すべきであるのみならず、同声明の内容も、これを詳細に検討すれば、米国が軍縮の各段階に期限を付すことに同意し、他方ソ連も軍縮の各段階間の移行につきこれを前段階における措置の完了の確認を条件とすることを承認するなど新たな重要な合意点も見られ、これが軍縮交渉打開へ好影響を与うべきことが期待された。ただ、米・ソ予備交渉の過程において、米国が、右共同声明中に、軍縮措置の実施自体のみならず、各段階における残存軍備に対しても有効な検証を適用するとの原則を加えるよう強く主張したのに対し、ソ連が右原則はスパイ活動を認めるものであるとしてこれを拒否したため、結局右の原則が共同声明中に加えられなかった事実は、同原則が軍縮の根本的原則とみられるだけに、軍縮交渉の前途に少なからざる困難を予測させるものであった。

国連第十六回総会は、かかる情勢の下に世界の注目を集めて開かれたが、九月二十五日ケネディ米国大統領は、一般討論演説において全面軍縮に関する米国の立場を明らかにするとともに、「軍縮に関する宣言-平和な世界における全面的完全軍縮計画」と題する新しい軍縮案を提出した。米国新提案は、全面的完全軍縮に対する西側の構想を詳細かつ明確に規定したもので、全面軍縮に対する米国の一層の熱意を示すものとして一般に歓迎された。これに対し、グロムイコ・ソ連外相は、九月二十六日の一般討論演説において、フルシチョフ首相が第十五回総会に提出した全面的完全軍縮案が依然有効であると述べるととも「国際緊張を緩和し、全面的完全軍縮に資するための諸措置に関する覚書」を提出したが、右覚書は、戦争宣伝の禁止、不可侵条約の締結、外国軍隊の撤退などこれまでソ連が主張してきた諸措置を包括的に再び提案したものであった。

政治委員会における軍縮問題の審議では、東西双方とも従来の主張を繰り返えしたが、これに対しその他の多くの諸国は、先の軍縮交渉の指針に関する米・ソ共同声明を歓迎しつつ、軍縮交渉が速やかに再開されるよう訴え、そのためにはまず大国間の合意が必要である旨強調した。

わが松井代表は、十一月二十二日政治委員会において演説し、(イ)全面軍縮達成に努力を惜しむべきではないが、その道程においては貯蔵核兵器の探知のごとき困難が予想されることを軽視すべきではない、(ロ)米・ソ共同声明の中でとくに期限および管理の問題について進展が見られたことを歓迎する、(ハ)しかし、軍縮本来の困難のほか、現在の国際緊張から生ずる国際不信という困難に対処することの必要を忘れてはならない、(ニ)核兵器実験停止協定の早急な締結は、この意味で極めて重要であり、また大国が口に軍縮を唱えるだけではなく、実際に平和的措置をとることが全面軍縮の実現に対する人類の希望と決意を強めることになろう、(ホ)全面軍縮実現のための真剣かつ誠実なアプローチは、勇気をもって困難な現実に直面し、これを冷静に分析することから生れるものと信ずる旨述べて、全面軍縮達成に対する大国の一層の努力を要望した。

十一月二十日、インドは、緊要な軍縮交渉再開のためには軍縮交渉機関の構成に関する米・ソ両国間の合意が先決であるとして「右目的のため米・ソ両国間で予備交渉を行ない、本総会の終了までにその結果を総会に報告するよう要請する」旨の決議案を提出し、同案の緊急審議を求めた。同案は、その後アラブ連合、ガーナの参加を得て、翌二十一日の政治委員会で全会一致をもって可決された後、十一月二十八日の総会本会議において同様全会一致をもって採択された。

米・ソ両国は、右総会決議に基づき軍縮交渉の構成につき予備交渉を行なった結果、迂余曲折を経つつも結局従来の東西十カ国にインド、ビルマ、アラブ連合、ナイジェリア、エティオピア、メキシコ、ブラジル、スウェーデンの八カ国を加えることに合意をみた。かくして両国は、十二月十三日「十八カ国軍縮委員会が全面的完全軍縮のための交渉を可及的速やかに再開するとともに、同委員会が一九六二年六月一日までに交渉の経過につき国連軍縮委員会へ報告するよう要請する」との趣旨の共同決議案を提出したが、同案は、同日の政治委員会において全会一致をもって可決された後、十二月二十日の総会本会議において同様全会一致をもって採択された。

米・ソ両国は、新軍縮委員会の他の構成国とも協議しつつ、軍縮交渉を再開すべき期日と場所につきさらに交渉を行なった結果、本年三月十四日からジュネーヴにおいて十八カ国軍縮委員会を開催することに合意し、一月十七日国連暫定事務総長に対しその旨通告した。

以上の経緯により、一九六〇年六月以来約二年の長きにわたって中絶状態にあった軍縮交渉は、三月十四日から全世界の注視の下に再開されることになった。

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4 核兵器実験停止問題

一九六〇年十二月五日以来休会中であったジュネーヴにおける核兵器実験停止協定締結のための米英ソ三国会議は、当初昨年二月七日再開が合意されていたが、その後米国側の要請により再開期日が三月二十一日に延期された。同交渉は、一九五八年十月開幕して以来それまでに、二百七十数回の会合を重ね、この間技術的なものが大部分を占めるとはいえ、協定条文の三分の二に相当する前文、本文十七カ条および附属書二を採択するなど相当の進捗を示し、このため、同交渉は、東西間の諸懸案中最も早期に妥結する可能性あるものとして各方面から大きな期待をかけられていた。とくに、一月成立したケネディ米国新政権は、同交渉の早期妥結に熱意を有するといわれ、国内に高まりつつある実験再開論を抑えつつ本件に関する政策の全面的再検討を行ない、前記の再開期日延期要請も右目的によると伝えられたため、再開交渉の進捗ぶりが注目された。

ジュネーヴ交渉は、三月二十一日再開されたが、米英側は、再開当日一括妥協案を提示したのをはじめ、四月十八日同案をもり込んだ核兵器実験停止条約草案の全文を提出し、また五月二十九日には第二次妥協案を、さらに八月二十八日および三十日には第三次妥協案を提示するなど再三新提案を行なってソ連に本件条約の早急締結を迫った。しかしながら、これに対し、ソ連は、再開当日「国際情勢に重要な変化があった」としてすでに一人制とすることに合意が成立していた管理機構の最高執行機関につきいわゆるトロイカ方式を持ち込み、さらに六月初めウィーンにおけるケネディ・フルシチョフ会談を契機として核兵器実験停止問題を全面軍縮問題の枠内において解決するよう新たに主張するなどその立場を著るしく後退させた。

かくして、ジュネーヴ交渉は、当初の期待に反して何らの進展もみせないまま完全な行き詰まりに陥り、結局九月初めのソ連による一方的実験再開およびそれにつづく米国の同様決定をきっかけとして、九月九日同交渉は、第十六回総会での核兵器実験停止問題の討議終了まで再び休会に入った。

国連総会政治委員会は、十月十八日インド提案の「核実験停止の継続および各国の実験再開回避義務」の問題を第一議題とし、米・英両国提案の「有効な国際管理を伴う核兵器実験停止条約締結の緊要性」の問題を第二議題として、両問題の同時審議を行なうことを決定し、翌十九日から本件一般討論を開始したが、右一般討論においては、十月十七日第二十二回ソ連共産党大会においてフルシチョフ首相がソ連の一連の核爆発実験の最後のものとして月末に五十メガトンの超強力水爆実験を行なう旨言明したことに対し、多くの国から非難が集まった。

このような情勢の下に、わが国は、十月二十日、カナダ、デンマーク、スウェーデン、ノールウェーおよびアイルランドの諸国とともに、「ソ連政府に対し、今月末までに大気圏内において五十メガトン爆弾を爆発するという意図の遂行を差し控えるよう厳粛に訴える」旨の決議案を提出するとともに、同案の緊急審議を求めた。同日のわが岡崎代表の発言要旨は、つぎのとおりであった。

「核兵器実験の自発的停止を先に破ることはないと言明していたソ連が実験再開を発表したとき、日本国民は驚きかつ失望したが、現実の実験開始に加えてここにフルシチョフ首相の五十メガトン実験声明を聞くにおよんで、日本国民の関心と不安はいまや爆発し、憤激が高まっている。核兵器の恐ろしさを体験した国の代表部は、こうした事態の発展を前に沈黙を守っていることはできない。

日本の地理的条件から南西シベリアでの核兵器実験は、一、二週間で放射能を日本に運び、北極地帯での実験の灰は数日のうちに運ばれる。このことは日本が実験による放射能のいわば直撃弾を受けることを意味し、従って日本国民はソ連の実験に特別の関心を払わざるを得ない。

しかし、問題は日本だけの関心事ではなく、実験による放射能害は、全世界の住民およびその子孫にも及ぶものであり、日本は、日本国民が受ける直接の脅威とこの全人類的考慮から、ソ連が人道の声に耳を傾け、伝えられる五十メガトン実験を思いとどまるよう強く求めた国連の訴えにイニシァティヴをとったものである。今次総会が右実験によって全世界にまきちらされる恐るべき放射能害の増大を直ちに停止する措置をとらず沈黙を守るとすれば、それは国際連合がその責務の遂行にみじめにも失敗したことを意味するであろう。

われわれは、この決議案が他の決議案を阻害するどころか、むしろこれから採択される一般的性格の決議案の効果を増大するものと信じており、その意味でこの決議案が直ちに緊急問題として取り上げられ、他の決議案に対する絶対の優先権を与えられることを希望する。」

ソ連の五十メガトン実験停止を要請する日本など六カ国案には、その後共同提案国として。パキスタンおよびイランが参加した。右決議案自体にはソ連圏諸国が強く反対したほか、同案を優先的に審議することには、自国決議案の優先権を主張するインドなど若干の諸国が反対したが、他の多くの諸国の支持があり、結局、日本など八カ国案はインドの修正案を容れた結果若干語調を緩和した形で、政治委員会において可決された後、十月二十七日の総会本会議において八十七対十一、棄権一という圧倒的多数をもって採択された。しかしながら、ソ連は、十月三十日右総会決議を無視して、五十メガトンをはるかに超える強力核爆発実験を強行し、同日およびその後の会議において、各国代表からはげしい非難をうけた。

その後政治委員会は、核兵器実験停止問題に関する一般討論を再開したが、多くの諸国は、核兵器実験停止の緊要性を主張することにおいては一致したものの、これを自発的実験の再開ないし継続という形で実現するか、あるいは有効な国際管理を伴なう国際協定の早期締結を通じて確保するかにつき根本的な意見の対立がみられた。インド、ガーナ、ユーゴーなど主として同年九月のベオグラード会議参加諸国は、何はさておいても、とにかく早急に核兵器実験を自発的に停止すべきことを強調したのに対し、米、英など西側の多くの諸国は、有効な国際管理を伴わない自発的実験停止の無意味なることを指摘し、行き詰まりに陥っているジュネーヴ交渉の緊急妥結の必要性を訴えた。他方、ソ連圏諸国は、核兵器実験停止問題は、全面的完全軍縮問題の一環としてのみ解決しうるとの立場を固執した。

これらの意見の対立により議事は幾度か紛糾したが、結局、総会本会議は、十一月六日、インドなど六カ国が提出した案を基礎とした「核爆発が再開されたことを深く憂慮するとともに、関係国に対し、実験に関する必要な国際協定が締結されるまでこれ以上の実験を差し控えるよう強く要請する」趣旨の決議案を七一対二〇、棄権八をもって採択し、また、十一月八日、米英両国が提出した案を基礎とした「ジュネーヴ交渉当事国に対し、有効な国際管理を伴う核兵器実験停止協定を可及的速やかに締結するための努力を直ちに再開するよう強く要請するとともに、右当事国に対し、交渉の進捗ぶりを十二月十四日までに国連軍縮委員会に報告するよう要請する」趣旨の決議案を七十一対十一、棄権十五をもって採択した。

わが岡崎代表は、十月三十一日の政治委員会において発言し、(1)ソ連が国連の厳粛な訴えを踏みにじり、超大型核爆弾の実験を行なったことは極めて遺憾である、(2)日本は、どこであれ、いつであれ、いかなる核兵器実験にも反対であり、米国は空中実験の再開を考えているようであるが、この際米国に改めて政治的英知を期待したい、(3)日本は、自発的実験停止を再び回復し継続することが望ましいと考えるが、自発的実験の停止は、その性質上暫定的なものであり、有効な国際管理を伴う核兵器実験停止協定を緊急に締結するためジュネーヴ交渉を即時再開すべきである旨述べて、核兵器実験停止問題に関するわが国の基本的態度を明らかにするとともに、前記二決議案に対し賛成投票を行なった。

ジュネーヴ交渉は、米英提案に基づき、十一月二十八日から再開されたが、ソ連が、再開前日発表した四カ条からなる同国新協定案(当事国の既存探知組織による実験の全面停止を主眼とする)を交渉の基礎とすることを要求したのに対し、米英側は、同案が有効な国際管理を伴わない核兵器実験停止案であるとして、ソ連の右要求を拒否するなど、冒頭から東西は激しく対立し、なんらの進展をみせなかった。ソ連の右新協定案は、過去三年間の交渉の成果を全く無視したいわば有効な管理を伴わない核兵器実験の全面的恒久停止案であり、ソ連が同案以外の審議には応じられない旨強く主張し、その立場をさらに後退させたことは、交渉の早急な妥結を期待していた各方面に大きな失望を与えると同時に、真に有効な協定の締結に対するソ連の熱意を疑わしめるものであった。

交渉は、クリスマス休暇の後、本年一月十六日再開されたが、再開当日米英側は、国際管理を伴う実験停止の原則の下に同交渉を継続するのが望ましいが、ソ連は全面的完全軍縮との関連においてのみ国際管理を認めていることにかんがみ、同交渉を十八カ国軍縮委員会の開催まで休会とし、同委員会の枠内で核実験問題を討議する用意があることを表明した。これに対し、ソ連は、明確な解答を与えることなく、自国案を基礎として交渉を続行すべきことを主張したが、米英側は、一月二十九日、ソ連が国際管理を拒否する以上交渉の基盤は失なわれたとして、右基盤が見出されるまで会議を休会とすべきことを主張し、ソ連がこれに同意を与えないまま、交渉は右第三百五十三回会議をもって事実上無期休会に入った。しかし、その後ソ連は、二月二十二日になって米英側との非公式会合において核兵器実験停止問題を十八カ国軍縮委員会の枠内において討議することに同意を表明し、その結果、三年以上の長きにわたって続けられてきた独立の存在としての三国核兵器実験停止交渉は、一応形式的には打ち切られ、核兵器実験停止問題の審議は、三月十四日から開かれる十八カ国軍縮委員会の枠内で行なわれることになった。

わが国は、昨年九月ソ連がそれまで三年間の長きにわたって事実上守られてきたモラトリアムを一方的に破り、東西間の核兵器実験競争を再開せしめたことを極めて遺憾とするとともに、いまや有効な国際管理を伴なった核兵器実験停止条約の締結は、一刻も猶予を許さぬものがあると考えるものであり、この見地から、三月および五月の二度にわたり、米英ソ三国をはじめとする十八カ国軍縮委員会の各構成国に対し、右条約成立のために最善の努力を尽すよう強く要請した。

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5 核兵器問題

第十六回総会においては、前項に述べた核兵器の実験停止問題のほか、核兵器に関するその他各種の問題が審議され、つぎの四つの決議が成立した。

(1) 核兵器実験停止問題に関連して、ガーナなどアフリカの十四カ国から、「アフリカ大陸を核非武装地帯とみなし、これを尊重するよう要請する趣旨の決議案が提出され、政治委員会において審議され、可決された後十一月二十四日の総会本会議において五十五対〇、棄権四十四をもって採択された。

わが国は、提案国の動機は理解しうるものの、管理を伴わない単なる核非武装地帯の設置決議が真の緊張緩和に寄与するか甚だ疑問と考えられたので、右決議の表決に際し棄権した。

(2) 同じく核兵器実験停止問題に関連してエティオピアなど十二カ国から、「核兵器の使用は、国連の精神、文言および目的に違背するものとして国連憲章に対する直接の侵犯であることを宣言するとともに、事務総長に対し、核兵器戦時使用禁止条約締結のための特別会議招集の可能性につき加盟国の意見をただすため加盟国と協議し、その結果を第十七回総会へ報告するよう要請する」趣旨の決議案が提出され、政治委員会において審議され、可決された後十一月二十四日の総会本会議において五十五対二十、棄権二十六をもって採択された。

わが岡崎代表は、十一月十三日、政治委員会において発言し、「わが代表団は、あらゆる手段を用いて核戦争の惨禍が人類にふりかかるのを阻止することが必要と信じ、本決議案を支持する。同案が採択されれば、それは核軍縮の分野における現実的かつ具体的進展のため好影響を与えるであろう。しかし、同案に対する賛成投票は、決してあらゆる軍縮措置は有効な国際管理を伴わなければならないという軍縮一般に関する日本の基本的立場の変更を意味するものではない」と述べるとともに、右決議案に対し賛成投票を行なった。

(3) 軍縮問題に関連して、スウェーデンなど八カ国から、「事務総長に対し、核非保有国が核兵器の生産、取得を差し控え、将来他国のために自国領土内に核兵器を受け入れることを拒否する特別の約束を取極めうる条件につき調査し、その結果を一九六二年四月一日までに国連軍縮委員会に報告するよう要請する」趣旨のいわゆる非核クラブ決議案が提出され、政治委員会において審議され、可決された後、十二月四日の総会本会議において、五十八対十、棄権二十三をもって採択された。

わが岡崎代表は、十一月三十日、政治委員会において発言し、「核軍縮実施の第一義的責任は現に核兵器を保有する国にあり、またすべての核軍縮の措置は有効な国際管理を伴ったものでなければならない。以上の考慮から、非核クラブの考え方の実効性については疑問なしとしないが、核軍縮促進のためにはあらゆる努力を惜しむべきでないとの見地から本決議案を支持する。しかし同時に完全軍縮の実現に好ましい空気をつくりだすための措置は、各国の安全保障に十分の考慮を払ったものでなければならない」と述べるとともに、右決議案の表決に際し賛成投票を行なった。

(4) アイルランドは、昨年同様、本総会においても「核兵器拡散防止問題」の議題採択を要請し、採択されたが、右議題の下で同国から「管理査察を伴う核兵器拡散防止協定の早期締結を要請する」旨の決議案が提出され、政治委員会において審議され、可決された後、十二月四日の総会本会議において、表決に付されることなく全会一致をもって採択された。

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6 宇宙空間平和利用委員会

宇宙空間平和利用委員会(注=従来大気圏外平和利用委員会と訳されたこともあった)は、国連第十四回総会決議によって設置されたが、本委員会の役員および運営方法等について東西間に見解の不一致があり、西側諸国はしばしば会合し・早期開催のための対策を協議し、また米国代表はソ連代表と累次折衝を重ねたが完全な意見の一致に達しなかったので、委員会は第十六回総会まで一度も会合しなかった。

第十六回総会は、本委員会の報告という議題を採択し、これを政治委員会に割当てた。米国は、第十六回総会開始後再びソ連と接触したが、依然ソ連の反対により調整がつかなかったので、米英等西側六カ国は、国連事務総長に対し委員会の速かな召集を要請し、その結果、十一月二十七日委員会が召集された。ソ連は、早期召集には反対したが、本会議に出席し、委員会は、委員長にオーストリアのマッチ博士を選出したほか、その他役員を選出し、また委員会報告を作成して閉会した。

総会の政治委員会は、十二月四日から宇宙空間平和利用委員会の報告の審議を始めたが、米国は、本問題の意義を強調し、宇宙空間平和利用の分野における国際協力を一層促進し、委員会を拡大存続させる趣旨の四カ国(米・豪・加・伊)決議案を提出した。

わが岡崎代表は、六日発言し、宇宙開発は平和目的のみに限ることとするよう強く訴えるとともに、この分野における国連の積極的活動を要望し、さらに、わが国の宇宙科学技術活動について説明を行なった。

米国は、前記四カ国決議案につき全会一致による採択をはかるため、西側諸国を代表して、再びソ連の意向を打診した結果、宇宙空間平和利用の国際協力に関する重要任務を国連事務総長から委員会に移管することおよび同委員会の構成国としてチャード、ガーナ(後にモロッコが代った)、モンゴル、シエラ・レオーネを追加することをもって両者間合意に達した。これにより十二月十一日政治委員会において同趣旨をおりこんだ四カ国改定決議案が現委員会メンバー二十四カ国共同決議案として提出され全会一致をもって採択され、また、二十日の総会本会議においても同様採択された。

本決議要旨は左の通りである。

A

一、宇宙空間の探査および利用につき各国が次の原則に従うことを求める。

(a) 国連憲章を含む国際法が宇宙空間および天体に適用されること、

(b) すべての国は、国際法に従い自由に宇宙空間および天体の探査および利用を行ない得るものとし、これを国家の専有物としてはならないこと、

二、委員会は、宇宙空間の探査および利用に由来する法律問題を検討し、これを報告する。

B

一、軌道またはそれ以遠に物体を発射するすべての国は、発射登録のためこれに関する情報を直ちに事務総長を通じ委員会に提供する。

二、事務総長は、右により提供された情報の登録簿を備える。

三、委員会は、事務総長と協力し、かつ、事務局の機能を活用して、(a)宇宙空間に関係ある政府間および非政府機関と密接な連繋を保持し、(b)各国政府が自発的に提供する宇宙空間関係情報交換を行ない、かつ、(c)宇宙空間活動に関する国際協力促進のための措置の検討を援助する。

四、委員会は、右に掲げる機能の遂行に関する取極および宇宙空間平和利用に関し重要と認められる発展について総会に報告する。

C

一、すべての加盟国、世界気象機関、および適当な専門機関は、宇宙空間における発展に照し、(a)天候に影響を与える基礎的な物力に関する知識を拡大する等のため大気圏科学技術の進歩をはかる措置、および(b)現存の天気予報能力を発展せしめ、加盟国が地域的気象センターを通じてかかる能力を効果的に活用しうるよう援助するための措置を早急に検討する。

二、世界気象機関は、ユネスコその他の専門機関および政府間、非政府機関と協議の上、これらの目的を達成するに必要な機構、および財政に関する取極につき加盟国および経社理事会に報告を提出するものとし、第十七回総会はさらにこれを検討する。

三、委員会は、右報告を検討し、これに関する批評および勧告を経社理事会および総会に提出する。

D

一、国際電気通信連合が宇宙空間活動に関する電波割当のための特別会議を一九六三年に開催することに満足する。

二、同連合が右会議において国際協力を必要とする宇宙通信の面を検討するよう勧奨する。

三、国連等の機関が機能上、情報上の必要のため通信衛星を利用する潜在的重要性を認める。

四、拡大技術援助計画および特別基金は国際電気通信連合と協議の上、加盟国が宇宙通信を効果的に利用するため、通信上の必要性を調査し、かつ、国内通信施設の発展を目的とする技術的その他の援助を要請する場合はこれを好意的に考慮する。

五、国際電気通信連合は、ユネスコその他の機関と協議して、これらの提案実施のための報告を経社理事会および第十七回総会に提出する。

六、委員会は、右報告を検討し、これに関する批評および勧告を経社理事会および総会に提出する。

E

一、委員会の構成は、決議一四七二(XIV)の委員国にチャード・ガーナ(後にモロッコと交替)・モンゴル・シェラ・レオーネを加える。

二、委員会は、右決議の定める任務を遂行し、かつ、本決議の定める活動を調査し、必要な報告を作成するため、一九六二年三月三十一日以前に会合する。

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7 原子放射線の影響に関する国連科学委員会の活動

一、原子放射線の影響に関する国連科学委員会第十会期は、一九六一年九月国連総会に対し年次経過報告を提出したが、その中で核実験再開によって放射能の影響に関する科学的研究の緊急性が増大したことを認め、関係政府および国際機関から放射能の問題に関する情報が引続き提供されることを希望することを表明した。十月六日、福島代表は特別政治委員会において科学委員会の報告という議題を第一議題として先議するよう要請するカナダ提案を支持する旨発言し、ソ連の反対があったが、結局これを第一議題にすることが決定された。その後カナダおよびわが国代表団が委員会に提出すべき決議案文について協議を行ない、さらに他の諸国代表団とも連絡した結果、十月十三日、カナダ、日本、アルゼンティン、ボリヴィア、ブラジル、チリ、コスタ・リカ、デンマーク、グァテマラ、ニュー・ジーランド、ノールウェー、。パキスタン、パナマ、オーストリア、エクアドル、イラン、チュニジア、ウルグァイおよびスペインによる共同決議案が事務局に提出された(注=この後共同提案国数はコロンビア、ヴェネズエラ、アイルランド、ガーナ、マラヤ、カメルーンを加え二十五カ国となった)。また、十二日チェッコスロヴァキアは「総会は原子放射線の影響に関する科学委員会の年次報告および同委員会が第十七回国連総会にその作業および結果に関する綜合報告を提出する事項を記録にとどめることとする」旨の決議案を提出した。

福島代表はさらに同十六日発言を行ない、わが国民は放射能による直接の被害を受けた経験を有しているので、最近の核爆発実験の再開でひき起される影響については、当然非常な関心を有している旨前置きし、最近日本各地で強い放射性降下物が検出されている事案を指摘し、放射能の影響調査を促進する重要性を認め、二十五カ国共同提案の採択を強く要望する旨強調した。委員会において十月十七、十九、二十日の三日間に亘り一般討論が続行されたが、二十日カナダは同共同決議案の優先投票の動議を提出した。またインドよりチェッコ決議案に対し、科学委員会に対しできるだけ速かに報告を提出することを求めるとともに、核実験に関連する研究を強化することを加える旨の修正案が提出された。他方共同決議案に対し、インドおよびモロッコより一部字句について口頭で修正の申し入れがあ十五対〇、棄権十七(共産圏およびアフガニスタン、カンボディア、セイロン、キューバ、インド、インドネシア、イラク、サウディ・アラビア)で可決した。ついでインドの修正案を入れたチェッコ決議三案も十三対二十二、棄権三十七で可決された。

総会本会議における審議は、十月二十七日行なわれ、福島代表が特別政治委員会における審議経過を報告した後、共同決議案が七十四対〇、棄権十七で可決された。ついでチェッコ決議案が票決に付されたが、三十七対二十、棄権二十七で三分の二に達しなかったため議長より否決を裁定したところ、チェッコより異議の申し立があり、よって本件が三分の二の多数をもって決定されるべき重要問題か否かについての票決の結果、重要問題と認められ、チェッコ決議は否決された。

二十五カ国共同提案による決議内容は次のとおりである。

第I部

総会は、

地球上に放射性放棄物が再び放出される結果世界各地において放射性降下物の水準が甚だしく増大していることに深い関心を寄せ、増大する水準の放射性降下物に人類が長期間晒されることは現在および将来の世代に対する脅威の増大となることを懸念し、原子放射線の影響に関する国連科学委員会がこの危険の範囲および性質の研究において行なった寄与の重要性を認め、

人類の将来に対する関心ならびに国際法の基本的原則からみて放射性降下物の増大する水準により他国の現在および将来の世代に有害な生物学的影響を与える行為を行なうすべての国には責任が課せられることを宣言する。

科学委員会の年次経過報告を承認し、かつ前回の綜合報告の発表以後における核爆発実験の再開によりこの面における科学研究を強化する緊急性が増大したとの科学委員会の見解にとくに注意を喚起し、一九五九年十一月十七日付決議第一三七六号(XIV)および一九六〇年十二月二十日付決議第一五七四号(XV)に基づき各加盟国、専門機関、IAEA、放射線防護国際委員会ならびに放射線単位および測定国際委員会が放射能汚染、放射能水準ならびに放射線生物学の問題に関し貴重な情報を提供したことに謝意を表し、

放射能の危険に関する人間の知識がたえず増進せしめられるよう、かつ、とくに一九六二年に科学委員会により提出されるべき第二次綜合報告が科学的に権威あり、可能な限り広範なものであるよう科学委員会を通ずる十分な国際協力ならびに各国により行なわれる研究の成果および経験についての交換が継続されることが望ましいことを再確認し、決議第一三七六号第四章の規定に従い自国領域内において収集される空気、水、骨、土壌、食物の試料の分析につき若干の加盟国、WHOおよびIAEAの実験施設による便宜を活用するよう各国に呼びかけ、科学委員会に対し第二次綜合報告を早める可能性について検討し、かつ同委員会の有する事実から暫定報告の提出が必要とされるかどうかをできる限り早急に考慮するよう要請する。

第II部

世界各国が世界気象機関(WMO)により定められた方法および慣行に基づき、世界中の気象台を通じて大気の状態に関する日日の通報を行ない、かつ電信その他の手段によりこれらの情報を迅速に配付する組織を多年に亘り運営してきたことに留意し、

世界気象機関に対し、必要によりIAEAと協議の上、次の事柄を目標として抱いて現在の気象報告組織を大気圏内の放射能測定にまで拡大する可能性について検討することを要請する。

(A) 大気圏内の放射能の信頼できる、かつ標準化された測定が世界中の気象台において行なわれるようにすること。

(B) かかる情勢が各国の特定の中央機関において速かに受信されるよう電信その他の手段により日日交換されるようにすること。

(C) これらの観測は、大気圏内の放射能の恒久的記録として保存され、適当な形で、かつ適当な間隔をおいて公表されるよう国内および国際的措置をとるようにすること。

世界気象機関に対し、もし可能であることが明らかになったなら、以上の計画をできるだけ早い時期に実施するよう要請する。

二、本委員会第十一会期は、一九六二年三月五日より二十三日まで開催されたが、今会期においては主として、第十七回総会に提出されるべき一九六二年綜合報告についての審議が行なわれた。最終日右報告は満場一致をもって採択され、また次期役員の選出を行なって閉会したが、とくにその中で、(イ)核実験停止問題について「核爆発による放射能汚染の有害な作用の発生を防止する有効な手段は存在しないので核実験の最終的停止の達成が人類の現在および将来の世代にとり有益である」との字句が採択され、また(ロ)少量の放射線と障害との関係等については、引続き研究調査を強化促進すること等が強調された。また、放射線降下物について世界気象機関が実施すべき事業について委員会より前記機関に回答することについても決定された。

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8 南アにおける人種紛争問題

南ア連邦政府の人種隔離(アパルトヘイト)政策に起因する人種紛争問題は、一九五二年の第七回国連総会以来、毎総会において審議され、その都度総会は、南ア連邦政府に対し、その人種政策について再考するよう訴えてきたが、南ア連邦政府は、このような総会の呼びかけに耳を籍さず、本問題の国連における審議は同国に対する内政干渉であると主張し、本問題の審議に参加することを拒否してきた。

他方、一九六〇年に至り、サハラ以南のアフリカ大陸において十数カ国の新興国家が独立して国連に加盟するに及び、国連における南ア連邦の人種政策に対する非難の声は急激に高まり、昨年春の国連第十五回総会再開会期において、これら新独立国を含むアフリカ諸国は、「南ア連邦政府との外交関係の断絶および南ア連邦に対する経済制裁を勧告する」決議案を提出した。このアフリカ諸国決議案は、南ア連邦に対する制裁措置の項が否決されたため撤回され、インド等五カ国提出の「南ア連邦政府に対し、憲章の義務に合致した政策を行なうよう要請する」決議案が大多数の支持を得て採択された。しかしながら、このように、アフリカ諸国が南ア連邦に対し強硬な動きに出たことは、これまでの本問題の審議経緯と較べ、本件審議に新しい局面を開くことになったと云っても過言ではなかろう。

わが国は、従来より、人道的見地から、人種差別に反対であるとの立場を明らかにしており、国連加盟以来、本問題に関するすべての決議案に賛成してきたのであるが、アフリカ諸国提案の南ア連邦に対する制裁措置は、現状においては、問題解決になんら貢献せず、かつ、実行不可能と考えられるのでこれに反対し、インド等五カ国決議案については、これが加盟国大多数の希望する現実的な提案であると考え、賛成した。

このような国連総会の度重なる要請にもかかわらず、南ア連邦政府は、その人種政策を一向に改める気配を示さず、ついに一九六一年五月、英連邦を脱退し、同国はますます国際的孤立化への途を辿るに至った。しかも、南アにおける人種問題は、一層尖鋭化し、同問題に対する国際世論も次第に激しさを加えていた折から、一九六一年七月、国連A・Aグループの間で、前総会同様、「アパルトヘイト問題」を第十六回総会において審議するよう要請しようとする動きがあった。わが国は、従来より、本問題の総会における建設的な討議が問題の解決に貢献するところ大であるとの見解を有しており、この際、南アに対し、人権と基本的自由を尊重するよう引続き呼びかける必要があると考え、アジア・アフリカ諸国を主とする四十四カ国とともに本件議題採択要請に参加した。

第十六回国連総会における本問題の審議は、十月二十三日から特別政治委員会において行なわれたが、第十総会以来、本問題の審議に参加していなかった南ア代表が、委員会に出席し、自国の政策を擁護するとともに、その人種政策に対する非難に逐一反駁したことが注目された。

わが国の福島代表は、十一月一日、特別政治委員会において、本問題に対するわが方の立場を明らかにするため発言した。福島代表は、まず、わが国が従来より人種差別に反対するとの基本的態度を堅持していることを明らかにした後、南ア政府がアパルトヘイト政策を停止することを希望する旨言明しながらも、本件について総会が性急な行動をとることを戒め、南アが人種間の調和を基礎として繁栄を達成するよう希望するとともに、南アの指導者が平等と人道主義を要望する世界の世論に耳を傾けるよう要請した。

なお、総会では、アフリカ諸国を主とする三十一カ国が、前総会同様、「南アとの外交関係の断絶および南アに対する経済制裁の勧告」に加え、「南アの加盟国としての資格を審議するため、憲章第六条について安保理事会の注意を促す」との強硬な決議案を提出、他方、インド等八カ国は、「すべての国に対し、南アの人種政策を撤廃させるための措置を考慮するよう要請し、南ア政府に対し、憲章の義務に合致した政策を行なうよう要請する」との前総会の決議と同趣旨の決議案を提出した。この八カ国決議案に対し、エティオピアより、「安保理事会に対し、南アに対してとるべき措置を審議するよう要請する」との項を、ソ連より、「南アの原住民弾圧に使用される武器、軍需品等の援助を拒否するよう要請する」との項を、また、パキスタンより、「南アに対する石油の禁輸を要請する」との項を挿入するとの修正案がそれぞれ提出された。

これらの決議案および修正案に対し、わが方としては、前総会の決議案に対するわが方の見解と同様の見地より、南アに対する制裁措置を勧告するアフリカ諸国決議案に反対し、また、インド等八カ国案に対する修正案についても、これら修正案はいずれも現状に則したものと考えられなかったので、これを支持し得ず、前記三修正案を受け入れた八カ国案に棄権した。

しかしながら、十一月二十八日、本会議において、結局、アフリカ諸国決議案は、その核心をなす南アに対する制裁措置の項が否決されたため撤回され、また、修正された八カ国案については、修正案によって挿入された部分が否決されたため、総会は、インド等八カ国提出決議案と同じ決議案を圧倒的多数の支持を得て採択した。

9 植民地独立宣言決議履行問題

その形態および発現の如何を問わず、あらゆる植民地主義を急速に、かつ、無条件に終結せしめる必要性を厳粛に宣明し、この目的のために七項目にわたる条件を宣言するいわゆる「植民地独立宣言」が一九六〇年十二月十四日決議一五一四(XV)として第十五回国連総会により採択されたことは、さなきだに脈動する反植民地主義、またはナショナリズムの動きに新たな基盤と刺激を与え、その後の信託統治地域および非自治地域の施政、国連の保護監督、関連地域に対する国連討議に重大な影響を及ぼし、当時すでに独立への順調なコースを辿りつつあった地域にあってはもちろん、独立そのものが遠い将来の問題とされていた地域、または独立の一歩手前で足踏みしていた地域等で、急速に独立し、または独立の気運を高かめた地域は、三、四にして止まらぬものがあった。シエラ・レオーネ、西サモア、タンガニイカ、英領カメルーンは、宣言採択後すでに独立した地域の実例であり、ルアンダ・ウルンディ、英領ボルネオ、西インド諸島、ケニア、ウガンダ、アルジェリア等は、宣言採択後独立への道を急ぐ地域の実例である。これらは多少の例外こそあれ、大体において施政国と現住民との間に理解と協調を基礎として平和裡に独立し、または独立促進を企図しつつあるものであるが、右宣言のもたらす影響は、必ずしもつねに好転への方向を辿るものとは限られず、急激な独立、主権の存否、完全自治の達成如何をめぐって新たな紛争または論議を捲き起こし、もしくは従来の紛争論議にさらに油を注いだ事例も少くない。アンゴラ、ゴア、西イリアン、南ローデシア、英領ギアナの諸問題は、その事例といえるであろう。南西アフリカの問題は、上記のいずれの事例にも属さないが、その後の現住民または南ア政府の動きから、別の意味で、植民地独立宣言の影響の小さくないことが観取される。

これらの動きは、宣言採択後最近に至るまでの情勢であるが、ソ連は、第十六回総会開会に先だち、国連に対し、植民地独立宣言をより強硬に実施するためその履行に関する問題を同会期の議題とすることを要請するとともに、一九六一年九月二十七日付総会議長宛覚書をもって、「加盟国大多数の支持により植民地独立宣言が採択された以上最早植民地主義の存在が許されないにもかかわらず、植民地主義国はこの宣言を無視して、今なお多数の植民地を保有しているとて現存する植民地名を地域別にあげて植民地保有国を攻撃し、武器供給、経済援助、NATOを通じて植民地保有国を援護しつつある米国は、それ自体プエルト・リコ、沖縄、太平洋諸島を保有する植民国であるとて米国に鋭い非難を加え、さらに軍事基地の保有も植民地主義のあらわれであるとて、その弊害を説き、これらすべてを含む植民地制度の完全な清算を行なうための措置と期日(一九六二年末)をあげ、その有効適切な履行を掌裡するための実施機関としてトロイカ方式による国連委員会の設置を提唱し、かつ、十月十日右覚書の後段を骨子とするソ連決議案を提出した。この一連のソ連の動きは、前総会におけるフルシチョフ首相の反植民地主義演説同様、西欧諸国の保有勢力の後退とA・A諸国の歓心獲得とをねらいとする意図が含まれていたことは明らかである。

かくて同問題は、国連第十六回総会において、アフリカの援助問題の一部、西イリアンの国際化問題(別項のとおり)を含めて、同年十一月六日より十一月二十七日まで審議され、その最終日において一つの決議(一六五四(XVIを採択したが、同問題の一般討論において、植民地主義を非とする発言は前年同様圧倒的で、特定の少数国を除き西欧諸国の大部分さえこれに同調する傾向にあった。しかし、A・A諸国の一部および共産圏諸国の全部による西欧諸国に対する痛烈な非難と植民地解消の急激な実施要望に対しては、米、英、カナダ、豪、中国等が、非難の不当性を反論し、ソ連こそ世界最大の植民地保有国であると攻撃した。また、加盟国のうちには植民地主義には全面的に反対するが、植民地独立宣言の履行方法については憲章の精神と現実を尊重し、平和と理解の裡に行なわるべきであるとする自重論が拾頭し、A・A諸国の有力国間にもこのような傾向が見受けられた。この自重論は、後述するように採択された決議の作成にあたり急進主義的な一部A・A諸国に対し大きなブレーキとなったのみでなく、前述のソ連提唱を敗退せしめる原動力ともなった。

決議案としては、前述のソ連決議案のほかにナイジェリア決議案、三十七カ国決議案、メキシコ決議案の三決議案、およびA・A三十七カ国決議案に対するソ連修正案(二項目よりなる)が提出された。ソ連案の内容は、前述のとおりであるが、A・A決議案に対する修正案を提出した後、ソ連はこれを撤回した。ナイジェリア案は、アフリカ地域のみを対象とするもので、その特長は、一九七〇年十二月一日までにアフリカ全域の植民地独立を目標とする点にあった。メキシコ案のそれは、宣言履行機関として特別委員会を設置し、独立達成を間近かに控える地域としからざる地域とに区分して実状を検討することを目的とするもので、共に現実的処理をねらいとするものであるが、両決議案はいずれも表決前に撤回された。

A・A三十七カ国決議案は「(イ)宣言実施促進機関として、総会議長の指名する十七人特別委員会を設置し、(ロ)右委員会に対し、一定の枠内での広汎な手段実施の権限を与え、(ハ)各地域における施政国の実施振りと地域の実状を報告ぜしめるとともに必要な示唆と勧告を行なわしめる」ことを要旨とするものであり、ソ連修正案は、A・A決議案に対し、「(イ)一九六二年内の独立、(ロ)特別委員会に宣言の即時実施とその完遂につき勧告を行なう権限を与える」ことを要旨とするものであったが、表決の結果は、A・A三十七カ国決議案が賛成九十七(わが方を含む)・反対〇・棄権四で前年同様圧倒的多数をもって採択(一六五四(XVI))されたのに反し、ソ連修正案は否決され、前述のソ連決議案の撤回とともにソ連が提唱した一九六二年内における早期独立とトロイカ方式による委員会設置案は消え去った。

わが国としては、反植民地主義の重要性を認め、同宣言の採択に協力したほどであり、この宣言の趣旨が速やかに実施されることを衷心から希望するものであるが、国連加盟国が徒らに植民地宣言の字句にこだわり、またはこれを政治的、道義的圧力の手段として自国の利益追及に利用し、植民地住民の真の幸福と願望を顧慮することなく性急、かつ不当な提案を行ない、もしくは植民地住民を煽動して無用な混乱を起こすことは、ひとり現住民の不幸の因となるのみでなく、国連憲章の精神にも適合せざるものと考え、その一般討論において宮崎代表は、「植民地独立達成は迅速を尊ぶ反面、平和的に行なわれることが重要である。独立目標年限の画一的決定は、現実を無視し、有害な結果を招くおそれがあるから反対する。施政国の協力は独立達成に極めて重要である。履行機関の設置は必要である」等の趣旨を述べてわが方の立場を明らかにするとともに、採択されたA・A決議案の作成に当っても、一方において植民地問題につき十分な同情と理解を示すとともに、他方においてモデレイトな決議案を作成せんとする諸国との間に協調をはかり、過激な主張を抑え、多数の支持国が得られる決議案を作成する方向に積極的な努力をはらった。このねらいは相当の成果を収さめ、作成されたA・A案は米英その他西欧の大部分も大体においてこれを支持し得る内容のものとなったので、わが方はその共同提案国となり、同決議案の通過に協力した。

同案の通過に伴い、総会議長は、一九六二年一月二十三日宣言履行のための十七人特別委員会の各委員国を任命した。その構成は、オーストラリア、カンボディア、エティオピア、インド、イタリー、マダガスカル、マリ・ポーランド、シリア、タンガニイカ、チュニジア、ソ連、英、米、ウルグアイ、ヴェネズエラおよびユーゴーで、地域的にも一応均衡がはかられている。同委員会は、二月二十日第一回の会合を開いて委員長(インド代表ジャア大使)等役員を選出して発足した。同特別委員会が今後いかなる活動を行なうかは右特別委員会の重大な任務に鑑み、わが国として厳重な注視を加える意向である。

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10 蘭領ニュー・ギニア(西イリアン)国際化案問題

一九六一年九月二十六日、ルンス・オランダ外相は、第十六回国連総会の席上「(1)蘭領ニュー・ギニアを国連の積極的監督下におき、(2)その主権を同地域の住民に移譲し、国連により設置される機関に権限を委ねる用意がある。(3)これがため同地域に国連視察団を派遣し、現地事情、住民の意向、早期住民投票の可能性等につき調査せしめ、かつ、自決の時期ないし段階もしくは中間期間内 International Development Authority による管理の可能性を報告せしめ、(4)同地域の将来の地位が確定するまで引つづきオランダは年間三、〇〇〇万米弗の経済援助を行ない、必要ある場合は現地オランダ官吏を残留せしめる用意がある」ことを明らかにして、この地域の国際化を提唱するとともに右趣旨を敷衍する総会議長宛覚書(一九六一年十月七日付)および右趣旨に基づく決議案を提出(同十月十日)した。

右提案に当り、オランダは、この提案が、憲章の精神に従う民族自決の原則と植民地独立宣言の趣旨に基づきなされたものであることを明らかにした。このような事情から、本問題は、前項の植民地独立宣言履行問題の議題内に含めて審議されることになったが、オランダ代表の提案に対してはインドネシア代表は、「この地域はインドネシアの領土であり、オランダの今次提案はインドネシアに対する重大な国内干渉である」と反対意見を表明した。右に対しオランダ代表は、十一月二日付総会議長宛覚書をもって西ニュー・ギニアの国際的地位、蘭・イ交渉の顛末等を詳述し、同地域の主権がオランダにあると説明、自国案の正当性とインドネシア反論の不当性を主張し、かつ、十一月八日同国決議案の趣旨説明を行ない、本問題の本格的審議が開始された。インドネシア代表は、同日および翌九日にわたり答弁権を行使して、「オランダの狙いは民族自決を口実にインドネシアの一部である西イリアンを再び支配せんとするもので、かかる決議案が国連総会により採択されて、オランダによる再支配が合理化されるならば、右総会決定は、同時にオランダのかかる企図を武力をもって阻止するインドネシアの権利をも合法化することを意味するものである。インドネシアはかかる場合戦争をも辞さぬであろうと強硬な反対意見を述べた。爾後両者は、議場の内外においてこもごも自国の立場と主張を繰り返えし主張して相互に譲らず、深刻な対立関係を現出した。

これを要するに本問題は、この地域を憲章第十一、十二章および植民地独立宣言の枠内の問題として取扱わんとするオランダと、この地域の問題とを国際紛争の問題として対処せんとするインドネシアとの間の対立に発展したものであるが、このような両国間の対立を反映して、オランダ案に対し一般討論を通じて表明された各国代表の賛否の論を要約すると、大体において(1)同地域はインドネシアの領土であるとして真向からオランダ案に反対するもの(ソ連圏、A・A諸国の多数)(2)オランダ案は民族自決を前提とし、植民地独立宣言決議と憲章精神に合致し歓迎すべきものと賛意を表するもの(西欧、中南米、A・A諸国の一部)(3)オランダ案は植民地独立宣言と国連憲章を基盤とするものであり、提案そのものに反対する理由はないが、同地域は、かつて国際紛争の対象となった地域であり、今なお、未解決状態に置かれている以上、これを一方的に国連に提起したことは妥当でない(米、英、ブラザヴィル派諸国)(4)オランダ案を排し、これに代えるに国連憲章の原則に従い平和的解決をはかるための話し合いのものに切りかえるべきである(インド等一部A・A諸国)等であった(右賛否の論は、(1)から(4)へまた(2)から(3)への合流も行なわれた)。また各国代表はひとり議場において本問題に関する賛否の論をたたかわしたのみでなく、両国の対立および事態の悪化を憂う各国代表の間に問題の平和的解決を発見するための意見の交換や努力が続けられた。この努力の反映としてインド決議案とブラザヴィル決議案が提出された。インド決議案は後にインド等九カ国決議案となったがその要旨は、「総会議長司会の下に国連憲章の原則に従い、平和的解決をはかるため蘭イ両国政府による直接交渉を要請する」とするものであり、ブラザヴィル決議案は、「住民の自決と意思を尊重する建前の下にインドネシアおよび蘭・イ両国政府の折衝開始、(2)事務総長による折衝斡旋、(3)九人委員会の設置、(4)一九六二年三月一日までに両国折衝による協定不成立の場合は右委員会による現地調査、(5)その場合暫定期間内におげる国際制度樹立の可能性検討」等を内容とするものであった。右両案は、共に第三者の斡旋による両国折衝を骨子とし、またはこれを含むものであるが、前者は、現住民の民族自決が表明されず、インドネシアの賛成は取付けたが、オランダの忌避するところとなり、後者は、逆の事情で、ともに双方を納得せしめるに至らず、表決の結果は、いずれ燻O分の二の多数が得られず否決となり、かつ、オランダ案も撤回となって、この地域の国際化案は一応白紙に還された形となったが、第十六回総会における審議を通じ本問題の重要性は、各国代表ならびに政府の間に深く認識されたもののごとく、各国代表ならびに各国政府の関心を反映して、総会終了後は事務総長を通じ、右問題の武力衝突への発展を防止する企てが続行されることとなった。

わが国は、紛争の両当事国とも友好関係にあり、かつ、右地域の問題を双方の合意により解決することを一貫した建前とするので、そのいずれかの一方に組することに同調する立場にはなく、従って同問題につきそのいずれかの一方がこれを受け容れ得られない決議案が提出された場合、わが国としては、これを支持し得ないこともちろんである。わが宮崎代表は表決に先だち、前記三決議案のいずれにも棄権すると発言した。わが国は、今後一層両国との間に友好関係の増進をはかるとともに、右地域の問題が、国連の内外を問わず、速やかに平和的合意に達することを切望するものである。

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11 アンゴラ問題

一九六一年二月四日、アンゴラの首都ルアンダにおいて突如監獄襲撃事件が発生し、これを端緒として一大騒擾事件が同地域の北部一帯に拡大し、同地域の南部地方およびモザンビクにも波及する状勢となった。この騒擾事件は、アンゴラの自由と独立を希望する現住民政党等により企てられたものであることが後に至って明らかとなったが、これに対し、ポルトガル政府は大規模な軍隊を投入して鎮圧政策をとり、これに敵対する住民政党側、および無事の住民の内に多数の死傷者ならびに難民、とくに国外逃亡者を出し、ひとり同地域が擾乱の巷と化したのみでなく、人権じゅうりん、または平和と安全に対する脅威の面から重大な国際問題となり、一九六一年三月十日から十五日まで開催の安保理事会において、問題が審議されることとなった。同月十四日、セイロン等安保理事国たる三カ国は、「(1)人権および基本的自由を尊重し、かつ、憲章に従い、一九六〇年十二月十四日の総会決議一五一四(XV)(註=植民地独立宣言)を実施する目的でアンゴラに改革を行なうことをポルトガル政府が速やかに考慮するよう要請し、(2)アンゴラに関し、必要と思われる調査を行ない、できるだけ速やかに安保理事会に報告するため小委員会を設置する」旨を内容とする決議案を提出した。議題採択と問題の審議に当っては、「同問題はポルトガルの排他的権限内にある事項であり、同問題への介入は安保理事会の権限逸脱である」とするポルトガルおよび「アンゴラにおいては人権じゅうりんと平和に対する脅威がある」とするリベリア、アラブ連合、セイロンならびに「問題の討議には反対はしないが憲章第三十四条に規定されているような国際の平和および安全の維持を危うくするおそれのある事態がアンゴラに存するか否かには疑問がある」とする英、仏、チリ、トルコとの間に論争が行なわれた。結局三月十五日前記決議案を表決に付し、賛成五(アラブ連合、セイロン、リベリア、ソ連、米)、反対○、棄権六(中国、仏、英、エクアドル・チリ・トルコ)で否決した。

しかし、時あたかも総会において植民地独立宣言決議(一五一四(XV))、および、ポルトガル海外領土を憲章第七十三条eに該当する非自治地域と認定する決議(一五四二(XV))が採択された直後であり、ひとり植民地独立問題についての関心が最高潮に達した時期であったばかりでなく多年国連において問題となっていたポルトガル海外領土に対する同国の主張が敗れ去り、その向背が注目されていた際のこととて、当時再開会期中であった第十六回国連総会は、安保理事会の措置を不満とするA・A四十カ国の提案を容れてこの問題を同総会で審議することを決定し、四月二十日、安保理事会で否決された前記決議案と同内容のA・A三十六カ国決議案を表決に付し、多少の修正を加えて、賛成七十三(わが方を含む)、反対二(西・南ア)、棄権九で採択(一六〇三(XV))した。

右決議に基づき、ボリヴィア(委員長)、ダホメ、マラヤ、フィンランド、スーダンの五カ国により構成のアンゴラ小委員会が設置され、一九六一年五月二十六日発足した。

しかし、アンゴラの事態はその後なんら改善される模様がなく、一九六一年六月十八日、安保理事会は、「アンゴラにおいては、依然として住民に対する武力行使による鎮圧政策がとられ、憲章規定および総会決議の要望する政治的自由と自決の権利が否認されており、国際の平和と安全は重大な脅威にさらされている。」として同理事会の招集を求めるユーゴーおよびA・A四十一カ国の要請を容れて、一九六一年六月六日から九日までの間に七回の会合を開いてセイロン、リベリアおよびアラブ連盟の提出した決議案を審議し、九日これを表決に付して賛成九、反対○、棄権二でこれを採択した。その内容の要旨は、「アンゴラにおける大量殺りくと痛烈な鎮圧政策の行なわれている事実、および全アフリカならびに世界の各地において重大な関心と強烈な反響を惹起しつつある事実を認め、このような状態の継続が国際の紛争の因となって国際の平和と安全の維持を脅かすこととなると確信し、かつ、決議一五四二(XV)(註=ポルトガル海外領土を憲章第七十三条eに該当する非自治地域と認定するもの)および決議一五一四(XV)(註=植民地独立宣言決議)の関連において、(1)総会決議一六〇三(XV)(註=第十五総会により採択されたアンゴラ問題決議)を再確認し、(2)アンゴラ小委員会に対し、即時任務の遂行を督励し、(3)ポルトガル政府に対し、アンゴラ委員会への協力を要請し、(4)アンゴラにおける平和的解決を要望し、その結果を安保理事会に報告することを要請する」とするものであった。

アンゴラ小委員会は、右安保理事会および前記総会決議の命ずる任務の遂行に当たり、前後五十五回の会合を開き、ポルトガルおよびコンゴー(レオポルドヴィル)の両政府との間に委員会への協力、現地への入国等の折衝、委員長のポルトガル訪問、三委員のコンゴー訪問等精力的な努力を傾けて任務の遂行に当たりその結果を安保理事会および第十六回国連総会へ報告した。右報告書は四部門より成る浩瀚なものであるが、アンゴラの事態、騒擾事件の直接原因、ポルトガルの鎮圧政策、アンゴラ事態の背景、および国際関係に関する記述は詳細を極め、従来明らかでなかったアンゴラの実態に明確な解説を与え、かつ問題解決のために幾多の示唆と勧告をも含めたものであった。とくに騒擾事件の直接の因由が、住民の独立否認を建前とするポルトガルの同化政策にあること、その結果民族自決を綱領とする住民政党を地下組織たらしめ、住民の願望実現には非合法手段を選ばしめるほかなきこと、また騒擾の背景がほう湃たる住民の不満にあること、その不満の因が厳重な移動パス制の実施による移住の自由の制限、労働手帳制の実施による強制労働の賦課、苛酷な棉作計画の実施による住民の搾取と移動禁止、政治的自由、国籍取得、公職就任の機会、土地保有、課税、就学等についての差別待遇、および経済的貧困等を根拠とともにあげていること、改善の方途は、ただ一つ、ポルトガル政府が国連の決議に従って事態の拾収に踏み切ること、現住民政党代表と膝を交えてアンゴラの将来につき協議を行ない、アンゴラの住民に民族自決の途を開くべきであるとする勧告等は、委員会のアンゴラ入国につきこれを拒否したポルトガルの態度等同国の国連決議に対する不協力に関する報告とともに各国代表に深い感銘を与えたものと考えられる。

他方、ポルトガル政府は、サラザール首相自ら一九六二年一月三日、その施政演説においてゴア問題に関連し、「国連とのつながりはポルトガルにとっては有害である。ポルトガルが国連脱退の最初の国となるか否かは不明であるが、国連脱退組の最初の一員となることは確実である」と述べ、また本年一月十五日、第十六回国連総会再開の当日、ポルトガル代表は、「(イ)本件の国連審議は、憲章第二条四項等の違反である。(ロ)住民に対する加害は、外から潜入したテロリストによるものであり、テロリストを援助した外国政府こそ非難さるべきである、(ハ)アンゴラ問題は、内部的な法秩序維持の問題であり、ポルトガルの行動は、合法的な防衛措置である。(ニ)その後の事態は平静に帰し、なんら他国を脅威していない。(ホ)この問題を国際の平和と安全の脅威とする安保理事会の決議は不当であり、事実無根である。(ヘ)アンゴラ小委員会の設置も違反であり、その報告は偏見に満ちている。(ト)ポルトガルの同化政策は、住民の無差別と向上に寄与するものであることが正しく評価されていない。(チ)このような討議への参加は無意義である」と述べ討議不参加を表明して退場する等真向から国連に挑戦した。

右に対する各国代表の見解は、ポルトガルに対し制裁その他強硬措置をとるべしとする過激な訴えをなすものと、なお問題に平和的解決の余地ありとしてポルトガルの反省を要望するものとの差こそあれ、ポルトガルの態度を非とする発言は圧倒的であり、ポルトガルの友邦国たるブラジルでさえ、「アンゴラ問題を国連決議およびアンゴラ小委員会の線で認める。しかし、本件はなお平和的解決の余地がある。ブラジルは、国連とポルトガルの間にあって問題解決のため時宜に応じたあらゆる協力と援助を惜まぬ用意がある」と述べ、また植民地保有国であり、西欧の一員であるオーストラリアすらも「ポルトガルはアンゴラが非自治地域であることとその自決の権利とを認むべきである。ポルトガルが友好諸国の支持を得んとするなら自ら支持を受けられるような政策をとるべきである。友好国であるか否かの判断は、アンゴラ問題に対する当該国の態度を基礎とすべきではない。オーストラリアとしてはポルトガルを国連から追放し、または同国が脱退することを好まず、総会後でも遅くはないから現政策の得失を十分検討の上再考を希望する。総会としては、ポルトガルが国連の立場に歩みよるよう実際的なアプローチ、または決議をとるべきである」との勧告を行なった。この両国代表、とくにオーストラリア代表の発言は、各国代表の間に大きな反響を呼び、共産圏諸国からは非難されたが、西欧はもちろん多数加盟国からは支持を受け、反植民主義国の一部からも共感された。

決議案としては、ブルガリア、ポーランド共同決議案とA・A四十五カ国共同決議案が提出され審議された。ブルガリア、ポーランド共同決議案の要旨は、「(1)アンゴラ住民の民族自決と独立の権利の厳粛な再確認、(2)ポルトガルのアンゴラ住民に対する植民地戦争の非難とその即時停止、(3)弾圧の即時停止と政治犯人の即時釈放、(4)植民地独立宣言履行問題に関する十七人特別委員会による本件の優先的処理と第十七回総会への報告、(5)右特別委員会による現地調査団の派遣、(6)すべての国のポルトガルヘの武器、軍需物資の供与等の禁止、(7)安保理事会による制裁措置の検討とその実施」を内容とするものであり、A・A四十五カ国決議案の要旨は、「(1)アンゴラ小委員会の報告書称賛、(2)アンゴラ住民の民族自決と独立の権限の再確認、(3)ポルトガルの弾圧措置非難とその中止、(4)政治犯人の釈放、(5)選挙と新政治制度の実施、(6)アンゴラ小委員会の存続と強化、(7)植民地独立宣言履行特別委員会による優先的審議、(8)決議の実施に対する加盟国の協力、(9)ポ国のとった措置に関するポ国の報告義務等」を内容とするものであった。両者の比較においてA・A決議案がはるかに穏健なものであることは言を要しないところである。右両案は一月三十日表決に付されたが、その結果は、ブルガリア、ポーランド決議案を賛成三十六、反対四十三(わが方を含む)、棄権三十二で否決し、多少の修正を加えたA・A決議案(前記A・A決議案の内容中(6)の「強化」を削除したもの)を賛成九十九(わが国を含む)、反対二(南ア、スペイン)、棄権一(フランス)の最高賛成数をもって採択(決議一七四二(XVI))した。

わが国としては、総会における本件討議に当り、終始、憲章の精神と植民地独立宣言の趣旨尊重を第一義とし、同時にわが国とポルトガルとの友好関係に留意、本問題が公正、かつ、平和的に解決されることを希望した。わが国は第十五回総会(再開会期)においては、A・A決議案の起草に当たるとともにその共同提案国となって前記決議一六〇三(XV)の成立に協力した。共同提案国となった理由の説明に当って、わが方代表は、「究極において人民は自らの運命を自らの願望により決定する自由が与えられなければならない。わが国は、ポルトガル政府が、勇気をもつて、アンゴラ住民に自決の機会を与えることを崇高な使命として受諾するよう要望する」と述べて友好精神と国連尊重の立場からポルトガルの善処を要請した。また、第十六回総会(再開会期)においては、前述の基本方針に基づき、総会決議一六〇三(XV)にもかかわらず、アンゴラの事態が改善されず、かつ、アンゴラ小委員会の任務遂行に必要なポルトガルの協力が得られなかったことを遺憾とし、ポルトガルが国連憲章および関係諸決議に従う事態の改善と平和的解決に踏み切ることを希望するとともにポルトガルとの友好関係をも顧慮する立場から前記A・A決議案の作成に当っては、わが国は、作業部員外にあって同決議案の内容が過激にわたり、または同国の脱退を誘発することのないよう努力し、一応穏健にして現実的な成案を得ることに成功したと考えられたので、その共同提案国となって同決議案の成立に協力した。

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12 ルアンダ・ウルンディ問題

第十五回国連総会の決議に基づき、昨年九月、ベルギー施政下の信託統治地域ルアンダ・ウルンディにおいて、国連委員会監督の下に、両地域の国会選挙が、またルアンダにおいては、ムワミ(王)に関する住民投票が行なわれた。その結果、ルアンダにおいては王制の廃止と民主共和制を政体とする地方政権が出現したのに反し、ウルンディにおいては、立憲君主制を政体とする地方政権が成立し、両者は、将来別個の国として独立する意向を明らかにした。右結果に基づき、ベルギー政府は、右両政権との間に、独立準備または独立後の問題につき議定書を締結して本年六月頃の独立をめざす準備を進めることとともに、スパーツ外相をして、本年一月十五日再開された第十六回国連総会において、同国政府が徹底的に国連決議の要請に答えて必要な措置をとったこと、住民の願望は選挙を通じて正しく表明されたこと、右に基づき両地域を別個の国として独立せしめること、住民の意思を尊重して早期独立を支持すること等を説明せしめた。同総会に出席した両地方政権代表もまた、統一を欲せず早期独立を希望するとてベルギー外相と同一の見解を述べた。また、第十五回国連総会の決議に基づき設置されたルアンダ・ウルンディ小委員会もその報告書等においてベルギー政府が、百八十度の転回を示して国連決議の履行に極めて忠実であったことを裏書した。しかしルアンダにおいては、一九六〇年一月のクーデターにより、ルアンダのムワミ・キゲリ五世およびその一党が国外に亡命中であり、これを支持する政党、または選挙の結果不利を招いたその他の野党と、現政権およびこれを支持する政党との間には重大な不和があり、将来のルアンダに暗影を与える素因となること、また同地域の総選挙前における政治情勢には、前記クーデターの結果、幾多の不満足な要素が含まれており、このような情勢下において行なわれた総選挙は無効であるとする請願人(野党代表)の訴えがあり、小委員会もまた総選挙前におけるルアンダの政治情勢に不満足な要素の実在を認める発言等があり、問題は、二地域分離と可選挙の是非ならびに早期独立等に論議が集中した。本問題処理の鍵を握るA・A会議においてもその決議案起草に当りカサブランカ・インド派とブラザヴィル派との間にしばしば意見が対立して容易に纒らず、幾度か難関に逢着した後、妥協の所産として作成されたA・A三十カ国決議案を提出した。その内容は、「(1)五人委員会を存続し、現地において避難民の帰還と政党間の和解促進、人権および基本的自由の保証、法および秩序の維持、現住民軍隊による独立前の速やかな交替とその訓練、統合方式の発見、一九六二年四月三十日までの国内自治権移譲の監視等を行なわしめ、(2)独立目標日を本年七月一日とし、(3)六月再び第十六回国連総会の再開総会を開き、六人委員会の報告を審議する」等で前回の総選挙については、これを承認して再選挙は行なわず、統一についてはこれを強要せず、五人委員会の現地調停とその結果に待つとの方式をとり、一応の独立目標日を一九六二年七月一日として、六月再開総会の審議に委ねる等その内容はかなりモデレートなものであった。その間、現地政府代表と野党との間に妥協が成立し、またベルギー外相が、この二地域の将来になんらの野心を有せずとする同国の立場を説明して多くの疑問が解消したが、独立前のベルギー軍完全撤退と六月総会の議題制限が新たな問題点となり論議を集めて幾多の修正案の提出となり、また撤回となった。結局、右A・A案は、独立前のベルギー軍撤退に例外を認めたほか第四委員会の決議案表決において六月総会の議題をルアンダ・ウルンディ問題に限定する旨の米国修正案がA・A三十カ国決議案とともに採択されたほかムワミ問題に関するA・A九カ国決議案が採択され、本会議においては、修正されたA・A三十カ国決議案が賛成八十八(日本を含む)、反対○、棄権十一で同じくムワミに関する決議案が賛成五十五(日本を含む)、反対○、棄権四十六で採択され、右決議採択に伴う事後措置として五人委員会が設置された。

わが国は、本問題の討議に当っても終始憲章、植民地独立宣言および本問題に関しすでに採択された諸決議の趣旨を尊重するとともに平和的、現実的解決に必要な特殊性の把握と右特殊性に対する十分な考慮とをもって臨み、第四委員会の一般討論においては、「選挙の結果を承認し、統一には民族自決を尊重して外部による圧力を慎み、国連特別委員会の派遣には賛成する」との基本方針を明らかにし、また、A・A三十カ国決議案の起草に当っては、A・A会議の月番議長としての立場から相対するグループ内の意見を一本に纒め、施政国さへ賛意を表した穏健にして実状に即する前記A・A決議案の作成に成功し、その審議および表決に当っては共同提案国となってこれが成立に協力した。

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13 鶴岡千仭外務省国連局長の国際法委員会委員当選

一九六一年十一月二十八日、第十六回国連総会の本会議で行なわれた国際法委員会委員通常選挙において日本より再立候補した鶴岡千仭外務省国連局長は、他の二十四名と共に委員に当選した。

国際法委員会は、国連憲章の規定に従い、国際法の漸進的発達および法典化を奨励するために一九四七年設立され、委員数は当初十五名であったが、その後二十一名に増員され、さらに第十六回総会で二十五名に増員されたものである。

委員会は、国際法の分野に堪能な法律家から成り、委員会全体で世界の主要な文明形態および法系が代表されるよう構成されている。任期は五年で再選を妨げない。

わが国では、一九五六年横田喜三郎博士(現最高裁判所長官)がはじめて委員に当選したが、一九六〇年最高裁判所長官任命に伴い辞任し、一九六一年五月補欠選挙において鶴岡局長が当選し、今回の通常選挙に至ったものである。

鶴岡局長の委員当選により、わが国は、ひき続き国際法の発達および法典化の部面において積極的に貢献できることになった。

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14国連の財政状況とわが国の分担金拠出

(1) 国連の財政状態は、一九六一年になって一段と深刻な様相を呈し、一九六一年十二月末にはその赤字はついに九〇〇〇万ドルを超すに至った。そのため、国連は運転基金二五〇〇万ドルのほとんど全部を使い果しても足りず、UNICEF等より一時借入れを行なうことを余儀なくされた。この国連の財政危機は、直接には、現在コンゴーおよびスエズに派遣されている国連軍および国連緊急軍の経費分担金をソ連圏その他の諸国が払わないということによりもたらされたものである。すなわち、ソ連圏諸国は国連軍の設置、および活動は国連憲章に違反するものであるという立場より分担に応じない旨を宣言し、フランス、ベルギーもコンゴー経費については分担金を払わぬ旨公言している。その他、アジア・アフリカおよび中南米諸国の大部分も財政上その他の理由からこれらの国連軍経費の分担金を滞納している。一九六一年の十二月末日現在で、一九六一年度までの国連分担金のすべてを完納している国は、国連加盟一〇四カ国(ただし、第十六回総会における新加盟国については具体的な分担額が定められていない)のうち、わが国を含め、わずか一六カ国に過ぎない。一方、滞納額の総計は、通常予算分担金の滞納分を合わせると、同じく一九六一年十二月末日現在で、実に九三〇〇万ドルの巨額に達することとなった。

しかも一方では、国連の最も重要な機能の一つである平和と安全の維持のために国連軍を引き続きコンゴー、スエズの現地に駐屯せしめることは不可欠であり、今後の活動経費につきなんらかの形で財政措置を講ずることが必要となった。

かかる国連財政の危機をいかにして打開し、国連の平和と安全の維持活動を今後とも存続せしめていくかが、一九六一年秋の第十六回国連総会が当初より直面した最も重要な課題の一つであった。この難問題に対し、第十六回総会は、まず、一九六二年六月までのコンゴー、スエズ派遣の国連軍経費についての財政措置を定めるとともに、総額二億ドルにのぼる国連公債を発行して、現在の尨大な赤字を解消せんとし、併せて、国連軍経費の法的性質に関する問題につき国際司法裁判所の勧告的意見を求めて、これまでの分担金不払いに一つの解決を与えんとした。それら三つの措置は互いに密接に相関連するものであるが、以下それぞれにつき簡単に述べてみる。

(i) 国連軍経費に関する財政措置 スエズ国連緊急軍については、一九六二年度分として年額一九五〇万ドル、コンゴー国連軍については、一九六一年十一月より一九六二年十二月までの間月当り一〇〇〇万ドルの支出権限がそれぞれ事務総長に付与され、このうち、本年六月までの分が、一九六一年春の第十五回総会再開期において採択された決議(一六一九(XV))と同様な分担方式(国連分担率に応じて割り当てる。ただし、分担率が〇 ・二五パーセントまでの国および〇・二六パーセントから一・二五パーセントまでの国で国連拡大技術援助計画EPTAの被援助国については八〇パーセントだけ、分担率が一・二六パーセント以上の国でEPTAの被援助国については五〇パーセントだけ分担額が減免され、その減免額相当分は若干国の自発的拠出金により賄われる)により加盟国に割り当てられることとなった。

なお、わが国(分担率は二・二七パーセント)はEPTAの被援助国として、本経費分担額は半額減免になっている。

(ii) 国連公債の発行 ウ・タン暫定事務総長の構想に基づくもので、内容は(イ)発行総額二億ドル、(ロ)利率は年二分で二十五年の年賦償還、(ハ)引受は国連および専門機関加盟国の政府および公的機関、また事務総長等の同意があれば非営利団体、(ニ)引受時期は一九六二年までであるが実際の支払は事務総長との取極めにより一九六三年末まででもよい、というものであり、この売上収入は原則として運転基金と同様の目的、すなわち赤字の補填に用いられ、また、年賦償還および利子支払のための経費は、毎年必要額(非公式見積りでは大体年額一〇〇〇万ドル程度)が通常予算に計上される。一九六二年三月一日現在で、この公債の引受けの意向をなんらかの形で表明した国は、十四カ国にのぼっている。

総会第五委員会(予算行政問題担当)における審議の過程で、わが代表は、わが国としては引受けをコミットすることはできないが現在の国連の財政状況にかんがみ本公債発行に賛成する旨を発言したが、目下(三月一日現在)わが国の引受けにつき、財政事情、外貨事情等を考慮しつつ関係省の間で検討中である。

(iii) 平和維持活動経費問題の国際司法裁判所付託 コンゴー、スエズ派遣の国連軍ないし国連緊急軍の経費が、国連憲章第十七条二項にいう「この機構の経費」に該当するものであるかどうかの点につき、国際司法裁判所の勧告的意見を求めるものであり、これにより裁判所が第十七条二項に該当するとの意見を下した場合には、本件経費が全加盟国に割り当られる義務費であり、かつその審議権が総会にあることが憲章解釈上確認されることとなる。

この付託の決定は、第十五回総会決議により設置された国連の平和維持活動経費に関する十五カ国委員会の報告書に基づいてなされたものであるが、わが国は、同委員会のメンバーとして、米国、カナダ等とともに終始この推進役をつとめ、付託決議案にも共同提案国となった。なお、国際司法裁判所の求めにより、わが国は二月十五日、本問題に関し、本経費が憲章第十条二項にいう「この機構の経費」に含まれる義務費であるという趣旨の政府の見解を提出している。

(2) 以上の国連軍経費の外、国連の通常活動経費自体についても、その規模は近年増加の一途をたどり、一九五六年頃までは大体五〇〇〇万ドルどまりであったのが、一九六二年度は八○○○万ドルを超えるに至った。これは第一に加盟国数が国連発足当時の二倍以上に増えたこと、第二に、国連の経済社会活動が拡充されたこと、第三に、それらに伴って国連自体の機構も拡大充実してきたこと等によるものと考えられる。

かかる傾向に対し、わが国は、徒らな経費の膨張は容認すべきでなく予算の規模は必要最小限に抑えるべきであるが、同時にそのために国連の活動の充実が阻害されてはならないという基本方針により対処してきており、十月十二日の総会第五委員会における財政一般演説でも、わが代表はこの点を強調するとともに、国連の財政危機の最大の原因は若干の加盟国の間に集団的責任の観念が欠乏していることによるものである旨を指摘した。

(3) 第十六回総会はまた加盟国の国連分担率改定に関する分担金委員会の報告の審議を行なったが、この結果、わが国の分担率は従来の二・一九パーセントから二・二七パーセントに引き上げられ、安全保障理事会五常任理事国およびカナダに次ぐ第七番目の高率国となった。

これについて、わが代表は、十一月十七日第五委員会において、今回の改定で大多数の国の分担率が減少されている事実をみれば、わが国の増率が相対的に極めて高いものであり、決して承服し得るものではないが、現在の国連の財政状況にも鑑み、この際、大局的立場より、これを受諾するものである旨を発言した。しかるにその後、わが国とともに数少ない高率引上国であるソ連、ハンガリア等が分担金委員会の勧告する引上げに強硬に反対したため、インドは、分担金委員金に一九六二年改めて再検討を命ずるという趣旨の妥協案を提出、わが代表はかかる再検討は将来に悪例を残すのみであり、賛成しかねる旨を第五委員会および総会本会議で繰り返し述べたが、結局、インド妥協案を含めた分担金委員会の勧告が採択されることとなった。

(4) なお、一九六一年度中にわが国が支払うべき国連分担金は、一九六一年通常予算分担金、一、三五四、八八ニドル、一九六一年度スエズ国連緊急軍経費分担金、二〇三、七二五ドル、一九六〇年度(七~十二月)コンゴー国連軍経費分担金、五三〇、三二九ドル、一九六一年度(一~十月)コンゴー国連軍経費分担金、一、〇八四、六九五ドルの四種で合計三、一七三、六三一ドル(約一一億四二五〇万円)であり、いずれも年度内に支払を完済している。

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15 経済問題

(1) 国連総会では、経済社会理事会が春夏の二会期で審議したところに基づき、その第二委員会で経済問題を討議するが、第十六回総会でも十五に上る決議を採択した。これらは、従来と同様いずれも低開発国の経済開発に関するものであったが、前回総会において先進国からの資本、技術援助の増大がもっぱら論ぜられたのに比し、今回は、低開発国輸出貿易(就中一次産品貿易)促進の問題が一の中心となったこと、および、ケネディ米大統領の提唱にかかる「国連開発の十年」(United Nations Development Decade)の二決議や経済開発企画に関する決議にみられるように、経済開発における計画立案の必要性が一層認識されてきたことが注目された。

(2) 第二委員会の恒例となっている審議当初の各国代表一般討論の際わが柿坪代表は、(イ)十分に均衡のとれた経済開発長期計画の作成が低開発国経済多角化の前提であり、このために必要な専門家養成訓練機関として、地域的な開発研修所を設立する構想に賛成である旨を述べ、わが国の「所得倍増計画」および貿易自由化計画を紹介し、(ロ)貿易面における先進国の対低開発国協力につき、近年低開発国向け資本技術援助の分野では先進国側の役割の認識と共同努力の動きがあるにかかわらず、かかる援助に劣らず低開発国開発に寄与しうるリベラルな貿易政策採用については、先進国側に十分な理解ありや疑わしいことを指摘、ヨーロツパ経済委員会の作成した「欧州経済概観」中に勧告されている若干の措置、とくに生産費低廉を理由に一部先進国の行なっている低価格製品輸入制限措置の早期撤廃への努力を要し、(ハ)特別基金の援助分野である投資前段階の資源調査、教育訓練等の技術援助に対する低開発国側のぼう大な必要に比し、基金の財源は、今後の拠出増加を見込んでも限界があるので、基金活動の効率増大のため、基金活動と本分野での他の二国間、多数国間の援助との関係緊密化と調整方策を考えては如何と指摘した。

(3) 一次産品貿易増進については、アルゼンティン等ラ米六カ国の共同提案とインドネシアおよびアフリカ諸国からの修正案に基づき、経済先進国に対し、(イ)経済貿易対策樹立に当って、必ずしも完全な相互主義を固執しないような方式を考慮すること、(ロ)自国ないしその属する地域グループ(主としてEECを指す)による過度の保護対策や域外諸国の一次産品貿易阻害措置の撤廃、低開発国産品の消費・輸入制限の自由化等を求めるとともに、(ハ)事務総長に対して国際貿易問題、とくに一次産品市場問題に関する国際会議開催の可否、および開催を可とする場合に議題とすべき題目につき国連および専門機関加盟国の見解を徴して、一九六二年夏の第三十四回経済社会理事会および同秋の第十七回総会に報告方要請する決議が満場一致で採択された。

この決議案の審議に際して最も問題となったのは、国際会議開催の点であり、原提案国たるラ米諸国は、前記のような国際貿易問題の効果的解決発見の場として、現存のガットや商品協定その他の機構等を通ずる交渉が成果をもたらさない場合に、国連主催の国際会議開催をも考慮するとの巾の広い考え方をしていたが、アフリカ諸国側は単一の国際会議開催を原則的に決定してしまおうという態度をとり、両者間の見解調整までに相当紛糾をみた。わが国は、現存諸機関の活動と重複したり、ましてこれらと競合するが如き国際会議には賛成しえないが、かかる現行の活動の補完充実を目指すものであれば国際会議開催に原則として異議はない。ただしその場合一次産品に限らず半製品、製品市場の問題やいわゆる低価格製品輸入制限問題をも含むべきだとの態度で臨み、両グループ間の見解の調整について少なからぬ努力をした。

経済開発計画の作成、技術および要員の養成訓練の必要については、先進国のみならず低開発諸国中でも少からぬ国が、これを指摘したが、ラ米、アジア、アフリカの八カ国およびチェッコ、ウクライナ両国の提出した二決議案が一本化され、(イ)関係国政府が地域的な開発計画研修所設置につき国連特別基金に援助申請を行なうよう勧奨する、(ロ)国連事務局内に経済予測・計画センターを、各地域経済委員会事務局にその支部を設置し、世界経済動向の長期的見透しの作成と、各種の経済社会制度下における計画立案技術の比較研究を行なわしめる、(ハ)事務総長に対して極々の国の経済開発計画立案の経験・技術の概括的研究を求め、第三十六回経済社会理事会が右を検討して、本件分野での経験交換のための国際会議等開催等の勧告を第十八回総会に提出方を求める決議案が採択された。

わが国は従前より、例えばエカフェの場においても、域内経済協力促進には経済開発計画の面からする調整が必要なことを力説しており、また本件総会に先立ってエカフェ主催で開かれ、わが国も参加したアジア計画官会議においても地域研修所設立方を勧告しているので、本件決議案の趣旨に賛成するとともに、細部について建設的な修正提案を行ない、これはオランダ、イラン、ニュー・ジーランド等の修正案と共に受け入れられた。

なお、前記柿坪代表の一般討論演説でわが方の提起した特別基金と国連外の同種技術援助活動との連繋緊密化方策の研究の問題については、わが代表団は、この問題を特別基金事務局長に研究させて本年五月の基金管理理事会に報告させる趣旨の決議案を、デンマーク、ニュー・ジーランドおよびタイと共同して提出した。本件構想の趣旨については、反対を唱える国はなかったが、議題の関係もあり、決議案の提出がおくれたこと、内容が地味かつ専門的なため、とくに低開発国側でその意義を充分理解するに至らなかったこと、とくに会期前半の諸決議案審議が予定より長引いたため審議時間が不足したこと(他にも二、三の決議案が審議未了となった)等のため、表決に付することなく、特別基金管理理事会へ附託されることとなった(本年一月の管理理事会では、右決議案と同趣旨の決議が採択された)。

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