○そ の 他

第三十六回国会における池田内閣総理大臣の施政方針演説(外交に関する部分)

(前 略)

私は、外交と内政は本来一体不離のものであると信じます。国内の人心が平静を保ち、社会秩序が平穏に維持されることは、わが国の経済の繁栄と文化の向上の前提であり、わが国の国際的信用の向上と外交上の発言力を強めるゆえんであると存じます。

御承知のごとく本年五月に予定されておりました巨頭会談の決裂以来、世界は再び東西冷戦の状態に逆戻りしたかの観を呈し、現下の国際情勢は、全世界の期待にもかかわらず、国際緊張の緩和が決して容易でないことを示しております。加うるにコンゴーその他アフリカの新興諸国をめぐって東西両陣営の角逐が熾烈化し、今次国連総会は、両陣営の対立の場と化した観があるのであります。このことは遺憾なことでありまして、国連自体にとりましても重大な試練でありましょう。最近、国連の権威について不信の念が表明されましたことは私の遺憾とするところであります。私は、国際連合にあくまで信依し、その権威が加わり、その本来の機能が、ますます発揮されることを念願しつつ、建設的かつ実際的立場から、これを支持し協力を続けてまいる所存であります。

昨今、アフリカその他において、多数の国家が新たに独立を宣し、国連に加盟いたしましたことは、世界の平和と人類の進歩のために、まことに慶賀すべきところであります。これら新興国の国連における活動、なおまた、過般東京において開かれました列国議会同盟会議におけるこれら諸国の動向をみるとき、これらの国々が一致して米ソの対立の緩和と世界平和の実現を望みつつあることは十分理解しうるところであります。もとより今日の国際情勢の不安定は、そのよって来るところ深く、単なる『願望』や『ことば』をもってしては解決し得ざるところでありますが、これらの新興国がその独立の実を挙げるために、世界平和を願うその熱意に対しては、共感と支持を惜しまないものであります。わが国といたしましては、これら諸国が今後その政治的、経済的、社会的基盤を固め、国際社会の責任ある一員としての役割を果たしうるよう十分協力いたしてまいりたいと思います。

現内閣成立以来、政府は引き続き日米関係の改善に意を用い、まず米国に小坂外務大臣を派遣して今後に処するわが政府の所信と決意を説明せしめ、十分な意思の疎通をはかりえた次第であります。また、先般発表されましたアイゼンハワー米国大統領と私との間の往復書簡におきましても、日米両国の提携関係が共通の利害と相互の信頼の確固たる基礎の上に築かれ、将来ますます強固となるべきことが確認されたのであります。なお、今回の皇太子殿下同妃殿下の御訪米に際し、米国朝野から示されました暖い歓迎は、今日日米両国国民の間に存する親近感を端的に象徴するものであります。私は、国民を代表して、この機会に衷心から謝意を表明いたしますとともに、この日米両国の友好関係がますます深められますことを固く信じて疑わないものであります。

現在の国際情勢下においてわが国が平和外交を推進いたしますためには、たとえ政治理念や社会体制を異にする諸国とも平和裡に共存して行かなければなりません。政府といたしましては、自由民主主義国としてのわが国の基本的立場を堅持することはいうまでもありませんが、平和外交の本旨にのっとり、共産主義諸国に対しても、あとう限り友好関係の増進に努める所存であります。中国大陸との関係につきましては、相互の立場を尊重し、内政不干渉の原則に基づいて、漸次これを改善してゆくことが望ましいと考えます。とくに従来中絶状態にありました日中貿易に再開の機運が生まれることは、もとより私の歓迎いたすところであります。

韓国との関係につきましては、本年八月、韓国に新政府が成立し、日韓関係の調整について韓国側の積極的な意向が表明されました。政府は、この機会をとらえて、日韓関係の改善に積極的に対処することとし、九月六日小坂外務大臣を韓国に派遣して新政府樹立に対する日本政府並びに国民の慶祝の意を伝えしめたのであります。その結果、日韓全面会談の予備会談を十月下旬から東京において開くことについても意見の一致を見た次第であります。

いわゆる低開発地域の経済的安定が、これらの地域の健全な政治的、社会的成長のため、ひいては世界平和のために不可欠であることが痛感され、この地域に対する経済的、技術的援助がきわめて重要な問題となってきております。わが国といたしましては、すでに各種の国際機関を通ずる経済技術援助にできるだけ参加協力しておりますが、今後一層その努力を続けてまいるつもりであります。なお先般、東京で開催された列国議会同盟会議の外交的成果にかんがみ、この種の国際会議等における外交的機会の活用についてはとくに国民外交の一翼をになうものとして十分留意いたしたいと存じます。

わが国経済が所期の高度成長を達成するためには、ますます貿易を伸長しなければならないことは申すまでもありません。私は、この貿易の伸張は世界のあらゆる国々に対して行なわれ、均衡のとれた多辺的なものとなることを期待いたしております。更に、わが国の貿易、為替の自由化は、わが国産業の健全なる発展のためにも消費者たる国民の利益のためにも、同時にまたわが国貿易の伸張のためにも必要であると考えます。相手国にのみ自由化を求め、自らはこれを回避するような態度は、もはや許されないのでありまして、国民各位の御理解を希望してやみません。

自衛力の自主的整備充実は、独立国としての当然の責務でありますが、これはもとよりわが国の国力と国情に応じたものでなければなりません。わが国が自国の安全保障の基礎を、国連と日米安保条約に托しつつ、自衛力の漸増方針をとってまいりましたゆえんもここにあるのであります。わが国は、今日、世界において相対的に最も少ない国防費をもってよくその平和と安全を維持し、経済の目覚ましい発展を遂げ得たのでありまして、このことは歴代の保守党政権の外交的成功を裏付けるものであると確信いたします。しかるにわが国の一部には、中立主義がわが国の安全を保障するに足る有効な手段であると主張する風潮が見られるのであります。この種の主張は第一にまずわが国をめぐる国際的環境に対する具体的検討を怠り、第二にわが国の国力が東西間の力の均衡に多大の影響力をもつ事実を看過し、第三に経済の高度化とその繁栄が自由国家群との協調を第一義的な基盤とするわが国の立場に対する洞察力を欠く等一種の幻想であるとしか思われません。われわれの断じて執らざるところであります。私は、わが国の安全と繁栄を現実に即して保障すると同時に、世界の平和の維持に貢献するため、現行安保体制を堅持しつつ、変転する国際情勢に対処してまいる所存であります。(後略)

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第三十六回国会における小坂外務大臣の外交方針演説

第三十六回臨時国会の開会に際し、外交方針に関する政府の所信を明らかにいたします。

    国際連合強化のために

私は、今回コンゴー問題に関する国連緊急特別総会及び第十五回国連通常総会に出席し、わが国の国連外交に関する基本方針について所信を明らかにいたしますとともに、多くの国々の代表とも会談し、短時日ではありますが、国連の実際の動きを体験いたしました。

この体験から得ました私の結論は、アフリカの多数の新独立国の加盟を契機として、国連が今や重要な時期に際会しているということであります。そもそもこれら新加盟国を含み発展途上にある諸国の真の願望は、東西両陣営の対立関係に煩わされることなく、自由と平和のうちにその独立の実をあげ、もって国民生活の繁栄と幸福を期することにあると信ずるものでありますが、これら諸国はこのような民族的願望の達成に当って、国連の役割に期待するところ極めて大であると考えられるのであります。したがいまして、すべての国連加盟国は、国連が世界の平和維持機構としてますますその権威を高め、かつ、その機能を強化して国連本来の使命を達成し得るよう着実かつ建設的な支持と協力を与えねばならないのであります。私は今次国連総会において、わが国がこのような考えで国連の事業に参加するものであることを明らかにし、その立場からアフリカ問題、国際緊張の緩和、軍縮問題とくに核実験中止問題及び大気圏外の平和利用等について所信をのべたのであります。とくに緊張緩和につきましては、「今次総会が非難と宣伝の場に堕することなく、建設的な討議の場として役立ち、それによって東西交渉のために友好的な雰囲気を醸成」すべきことを強調いたしたのであります。

しかるに今次国連総会におきましては、東西巨頭会談の流会後再び激化いたしました東西対立の情勢を反映し、新加盟国をめぐって自己の勢力の拡張を図るために本来国際的協調の場であるべき国連を煽動と非難の舞台と化するが如き国連憲章の精神に副わざる言動がみられますことは、まことに遺憾であります。

過去においても国連は幾多の試練に際会いたしましたが、その都度世界の公正な世論の支持の下にこの試練に耐え抜き、着実な発展を続けて参りました。私は今次国連総会における表面的な動きにもかかわらず、結局は健全な良識が矯激な言動を抑え、国連が平和維持機構として、より有効な、より大きな役割を果しうるようになることを期待するものであります。わが国といたしましては、このため国連の政治、経済、社会の各分野における具体的活動に対し、人と資金を通じ、応分な、かつ、実質的な寄与を行なってゆく所存であります。これはまたすべての国連加盟国が平和のため当然負うべき義務であると信ずるものであります。

    自由国家とともに世界の平和と繁栄を

私は国連総会出席の機会に、ワシントン及びオタワを訪れ、アメリカ及びカナダ両国首脳と親しく会談いたしました。これらの会談におきましては、世界の情勢その他共通の関心事項について忌憚のない意見の交換を行ない、今後の外交施策上まことに有益であったのであります。とくにハーター国務長官との会談におきましては、わが政府の今後に処する所信と決意とを披瀝し、わが国に対する理解の増進と信用の回復に貢献しえたと考えております。

政府といたしましては、今後安全保障の分野においてのみならず、その基礎をなす政治、経済、文化、科学等あらゆる分野において日米両国の協力関係をますます緊密ならしめて参る所存であります。

さらに主要西欧諸国との関係におきましても、政治的信条を同じくする自由主義陣営の一員といたしまして、わが国とこれら諸国との友好協力関係の促進を図るべきことはいうまでもありません。とくに近年西欧諸国が相互の緊密な協力の下に世界政治上極めて重要な役割を果しております今日、わが国といたしましては、これら諸国との提携をますます強化し、政治、経済、文化の面において緊密な協力を進め、相共に世界の平和と繁栄のために努力して参りたい所存であります。その意味におきましても、かねてからの懸案でありましたイギリスのわが国に対する戦前請求権の問題が今般円満な解決をみるに至りましたことは、今後の日英友好関係の促進上極めて意義の深いことであると考える次第であります。

    現実を無視した中立論議

戦後わが国は、わが憲法の理念にのっとり政治信条を同じくする自由国家群と緊密に協力しつつ、わが国の平和と安全を確保し、経済の飛躍的発展と一般国民の福祉の向上に大きな成果を収めて参りました。このような成果は、自由世界の一員としてのわが国の基本的立場に負うところが極めて大きいのであります。

最近わが国の一部においては、東西冷戦から逃避し、両陣営のいずれにも組しないといういわゆる中立政策論や、わが国を非武装化し永久中立の制度をとるべし等の論が行なわれております。このような議論も同じく平和を希求する気持から出ているものが多いとは思われますが、遺憾ながら、これらの主張は、東西両勢力の対立関係を如実に反映し、政治的にも軍事的にも誠に不安定な極東に位するわが国の国際環境からいたしまして、わが国には中立維持の基礎条件が存しないという客観的事実に対する認識を欠くものであります。また同時に、わが国の平和と安全と繁栄を可能ならしめている基盤をくつがえすおそれがあるものと考えるのであります。とくに、狭い国土に九千万の人口を擁しつつ、高度の経済的文化的水準を維持し、さらにこれを向上せしめねばならないがわが国にとりましては、自由世界との緊密な協力が絶対に必要であります。最近わが国に対し、国外からも中立政策をとるよう執拗な圧迫が加えられておりますが、これらの動きが最も警戒すべきものであることは、過去において中立条約が一方的に破棄された苦い経験や、あるいは共産主義陣営内において中立主義が全く認められていない事実からしても明白なところであります。

    共産圏諸国とも友好を

しかしながら、このような自由主義国家としてのわが国の基本的立場は、わが国と政治理念や社会体制を異にする諸国との友好関係を維持し、その増進を図ることと決して矛盾するものではありません。政府といたしましては、わが国の基本的立場はあくまでもこれを堅持しつつ、平和外交の本旨にのつとり、相互の立場の尊重と内政不干渉の原則の下に、今後ともこれら諸国との友好関係の維持増進に努める方針であります。とくに中国大陸との関係につきましては、まず貿易その他の交流を通じ逐次両者の関係が改善されますことはもとより歓迎するところであります。

    アジアの一員として

わが国がアジアの一国として、アジア諸国との友好善隣関係にとくに留意いたさねばならぬことは申すまでもありません。わが国といたしましては、これら友邦との協力関係をさらに進め、その信頼を獲ち得るとともに、民族の繁栄と福祉を求めるアジア諸国の正当な声は、これを広く国際社会に反映せしめるよう努力いたしたい所存であります。

韓国に新政府が成立いたしましたのを機会に、私は去る九月六日韓国を訪問いたし、新政府樹立に対する日本国足の慶祝の気持を伝えますとともに、新政府の指導者と親しく意見を交換いたしました。また、久しく中絶しておりました日韓全面会談の予備会談を本月末から開くことについても意見の一致をみ、このようにして長い間閉ざされていた日韓友好の扉が次第に開かれる気運となって参りましたことは御同慶の至りであります。日韓両国間の懸案解決への道は必ずしも坦々たるものではないと思いますが、今回こそは双方が親善と互譲の精神をもって交渉に当り、速かに円満解決に達し得るよう強く希望している次第であります。また、政治問題の解決と並んで両国の経済交流を促進いたしますことは、両国民双方にとり多くの利益をもたらすものでありますので、政府といたしましてはこの方面にもできるだけ努力いたす所存であります。

    新興アフリカへの協力

近年アフリカ諸国が相ついで独立を達成いたしましたが、これら諸国の動向が世界平和の将来に影響するところは極めて大であります。これらの新興諸国が今後国際社会の責任ある一員として世界の平和と繁栄に貢献するためには、政治的、経済的社会的にその基盤を速かに確立することが必要であります。わが国といたしましては、わが国が近代国家として成長し来った経験と知識を活用し、これら諸国に対し能う限りの協力を行なうべきものと考えるのであります。

    中南米諸国との協力

中南米諸国との関係につきましては、これら諸国には現在わが同胞及び日系人約五〇万人余が在住し、産業の各分野におきまして活発に活動し、これら諸国の経済発展に大きな寄与をされておりますことは御承知のとおりであります。政府といたしましては、単に農業関係の労働力を送り出すということではなく、技術及び経済企業協力と一体となった移住政策を推進し、これら諸国との政治的、経済的関係の緊密化に資したいと考えております。

    多辺的貿易の推進を

つぎに経済外交の問題につき一言いたします。

わが国の輸出が昨年三十四億六千万ドルに達し、前の年に比べて二割増加し、本年に入りましても、上半期の実績は十八億五千万ドルに達し、前の年の同期に比べやはり二割増加しており、下半期も同様に順調に推移するものと見込まれておりまして、国民生活の前途はまことに明るいのであります。

ただ、ここで、わが国の貿易の相手方について検討してみまするに、昨年においては輸出入ともにその約三分の一はアメリカ及びカナダとの間のものでありました。しかも昨年わが国の輸出が一昨年に比し二割増加したのも、この両国に対する輸出の伸びに負うところが非常に大きかったのであります。しかしながら、このアメリカ及びカナダの市場に集中して輸出を伸ばすことは、相手国においても輸入制限運動その他の望ましくない動きを激化せしめるおそれがありますので、今後はこの両国に対してはとくに秩序ある輸出に心がけねばならぬと存じます。

他方、ヨーロッパの最近の経済発展はまことに目覚ましいものがあり、これに伴ってわが国のヨーロッパに対する輸出も、本年上半期において前年に比較して五〇パーセント方増加しており、この市場はわが国にとって今後ますます有望なものとなるのではないかと存じます。ただ、ヨーロッパでは最近共同市場や自由貿易連合といった形で経済統合が非常に進んでおりますが、わが国といたしましては、これらの経済統合を形成する諸国が域外の第三国に対してもできるだけ自由な貿易政策をとることを強く希望いたしたいのであります。

また、ヨーロッパ諸国とわが国との通商関係は現在必ずしも正常なものとは言い難く、これらの諸国は種々の理由を挙げてわが国からの輸入に対して差別的な制限を加えているのであります。いわゆるガット三十五条援用の問題も、これらのヨーロッパ諸国の日本に対する差別待遇の一つの現われてあります。

このような情勢にかんがみ、政府といたしましては、今後このヨーロッパ諸国の経済統合の動きを十分注視するとともに、現実の通商関係の改善のために大いに努力して参りたいと考えております。すでに本年七月署名をみましたイギリスとの貿易取極におきましても、わが国に対する差別待遇をできる限り撤廃させるよう努力いたしたのでありますが、さらにこれと並行して、数年来の懸案である日英通商航海条約の締結についても目下鋭意努力を続けております。また最近ベネルックス三国すなわちベルギー、オランダ及びルクセンブルグとの間に通商協定を締結いたしました結果、欧州共同市場を形成しておりますこれら三国との通商関係も大いに改善されることが期待されるのであります。さらにこれを契機としてフランスやイタリアとの通商関係についても改善を図りたい所存であります。また、オーストラリアとの通商協定も過去三年間の実績は極めて満足すべきものでありましたが、さらにこれを改訂して、できうれば同国のガット三十五条援用撤回が実現するような方向で、目下同国政府と交渉中であります。

ここでとくに申し上げたいのは、わが国がアメリカ、カナダ、オーストラリアやヨーロッパ諸国といった先進国との貿易の拡大を図るためには、わが国の側においても自由化を大いに促進する必要があるということであります。さらに自由化は、わが国経済の国際的競争力を強め、また消費者たる国民大衆の利益にもなることを指摘いたしたいのであります。

    アジア・アフリカ諸国への経済技術協力

つぎに、わが国の貿易の相手方として開発途上にある諸国の占める比重は非常に大きいのでありまして、昨年の実績をみますと、アジア、アフリカ、中近東及び中南米向けの輸出はわが国の総輸出の半ばを占めており、これら諸国との経済関係の増進は一日もゆるがせにできないのであります。このためには、まずわが国との通商関係を安定した基礎の上におくことが何よりも大切でありまして、政府といたしましては、これらの国との通商航海条約の締結に大いに努力して参りたい所存であります。すでに本年八月マラヤとの間に通商航海条約とほぼ同様の内容をもつ通商協定が発効し、これに伴って同国はわが国に対するガット三十五条の援用をしたのであります。また、現に政府はフィリピンとの通商航海条約の締結を交渉中であり、さらに近くインドネシアとの間にも通商航海条約締結交渉を開始することになっております。

しかしながら、これら諸国との経済関係の緊密化のためには、単に通商関係の改善のみでは足りないのでありまして、どうしてもこれらの国に対して経済的、技術的な援助を行なう必要があるのであります。

わが国といたしましては、すでに世界銀行の増資に応じ、さらに、国際開発協会いわゆる第二世銀に対しても近く加入の上、出資を行なう予定である等、国際機関を通ずる経済技術援助にできる限り協力して参ったのでありますが、さらに二国間の経済技術援助につきましても、総額十億ドルに上る賠償を誠実に実施して相手国の経済開発に協力しており、またコロンボ・プラン等を通ずる技術協力をも行なっております。ただ、最近の傾向といたしましては、わが国も加入しております開発援助グループやインド及びパキスタン債権国会議における討議等からもうかがえますように、わが国が機械輸出等のため行なっております短期及び中期の輸出信用だけでは国際収支の慢性的な赤字に悩んでいるこれら諸国の経済発展にとっては十分でないのでありまして、今後は開発途上にある諸国、とくに東南アジア諸国に対する経済協力を推進する見地に立って、輸銀資金の積極的活用や前国会以来御審議を願っております海外経済協力基金の利用等の方法により、できるだけ長期の資金援助をこれら諸国に与えるよう努力する必要があると信ずるものであります。また、最近世界の各方面において技術援助が経済援助の効果的利用に寄与するところ大であるとの認識が高まっておりますが、わが国といたしましては、この技術援助の面においても今後さらに積極的に貢献して参りたいと存ずる次第であります。この点に関連しまして、わが国はかねて国連が行なっております開発及び技術援助のための特別基金に対し、来年度においては画期的に拠出金を増額する所存であります。また、コロンボ・プランの総会が本月末から東京において開催されますことは、まことに意義深いことでありまして、この機会に国民各位が経済技術援助につきさらにその関心を深められんことを切に希望いたす次第であります。なお、従来わが国は開発途上にある諸国に対し農業技術援助及び医療援助についても協力して参りましたが、これについても今後さらに協力を進めたい所存であります。

    平和を国民とともに

以上当面の外交問題に関し政府の所信を明らかにいたしました。このようなわが国外交の基調にありますものは、自由と平和の中に国民生活の繁栄を確保するとともに、世界の平和と人類の福祉に貢献せんとする日本国民の誠実な念願であります。大戦の惨禍を深刻に反省し、原爆を体験した唯一の国民として日本国民の平和に対する熱意は世界のいずれの国民にも劣るものではありません。私はこの日本国民の平和に対する念願を常に念頭に置き、複雑な国際情勢に対し誠実にしかも弾力性ある態度をもって対処して参りたいと存じます。平和は単なる美名に止ってはなりません。真に日本国民の平和と安全を確保し、一層の繁栄を図るためには、現実を無視した空虚な宣伝にまどわされることなく、常に冷厳な国際情勢の現実に即し、地道に、しかも自主的に、平和と繁栄を確保する道を探究してゆくべきであります。

私はわが外交の運用にあたりまして、以上の如き心構えをもって対処いたしたいと存じますが、およそ一国の外交が自主的かつ強力に展開されますためには、国民各位の十分な御理解と積極的な支持が不可欠の要件であります。国民から遊離した外交からは実効ある外交施策の展開は望むべくもありません。私はわが国外交の運営にあり、現実の正しい認識の上に立った国民各位の良識を十分に反映して参りたい所存であります。

切に国民各位の御支援を仰ぐ次第であります。

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第三十七回国会における池田内閣総理大臣の所信表明演説要旨(外交に関する部分)

(前 略)

まず現下の国際情勢をみまするに、過般の国連総会において集約されておりますとおり、国際緊張緩和への道は決してたんたんたるものではありません。しかしながら私は、人類の英知と諸外国の平和に対する熱意は、必ずや世界の平和を確保しうるものと信ずるものであります。外交政策の運用に当たりましては、わが国が国際社会の責任ある一員として今後とも世界の平和の安全に寄与するとともに、わが国民の福祉と繁栄を図るため、国際情勢の推移に対応しつつ、弾力性のある心構えで、自主的かつ慎重な施策を講じてまいる所存であります。

本年十一月米国大統領選挙の結果、民主党のケネディ候補が次期大統領に就任することとなりました。私は、アイゼンハワー大統領の前後八年にわたる政治下において米国がわが国に示された好意と協力に心から感謝するともに、明年初頭発足いたします民主党政府の下においても、日米両国の友好協力関係がますます緊密化することを期待し、かつ確信するものであります。

最近米国政府は、対外収支改善方策を明らかにいたしました。米国政府が世界経済に対する自国の責任の重要性にかんがみ、国際収支の均衝回復のため対策を講ぜんとする努力は十分理解しうるところであります。もとよりこの施策のわが国経済に対する影響につきましては、慎重に検討、対処する必要がありますが、私は、自由諸国の連帯性の自覚の下に、共同の努力によってすみやかに事態が改善されることを期待するものであります。

この措置によって生ずる特需の減少等は、わが国経済の自立過程において予想される試練の一つであって、わが国の経済力の内外にわたる発展によってこれを克服するよう努力しなければならず、またそれは可能であると信じます。したがって、長期的視野に立つ経済運営の指針として目下具体化を急いでいる経済成長政策については、その構想を組み替える必要はないものと存じます。また世界経済自由化のすう勢に即応する貿易自由化については、わが国貿易の拡大と世界経済の発展拡充のため、これを慎重に進めてまいる態度についても変改の要を認めないものであります。

さらに、私は、今後米国のみならず、広く自由諸国全体との協力関係の強化にとくに留意してまいりたいと考えます。なかんずく、英国その他の西欧諸国との間におきましては、世界の当面する各般の重要問題に関し、緊密な協力と話合いを進めるとともに、A・Aグループ並びに中南米諸国との経済交流の一層の進展を期してまいりたいと存じます。共産圏諸国とは、相互の立場の尊重と内政不干渉の原則の下にあとう限り相互の理解と友好関係の増進をはかってまいる所存であります。

およそ外交は一国の運命にかかわるものであり、外交政策の効果的展開のためには、国際情勢の客観的判断に基づく国民各位の強力な支援が必要であります。ひとたび国民大多数の支持するところが明らかとなった問題につきましては、その事案を尊重し、国内の政争を国外にまで露呈することを避けることが望ましいことであると信ずるものであります。政府といたしましては、わが国の外交政策に国民各界の公正な意見を十分に反映いたしますよう今後とも一層留意してまいる所存であります。(後略)

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第三十八回国会における池田内閣総理大臣の施政方針演説(外交に関する部分)

(前 略)

今や世界は大きな転機にさしかかっていると思います。今日まで諸国民が緊張緩和のため払ってきたいくたの努力にもかかわらず、昨年五月の巨頭会談の流会、コンゴー、キューバ、ラオス等の紛争に見るごとく、世界恒久平和への前途はなお多難であります。これは、二つの体制の根本的な対立が、政治、経済、軍事の現象面のみにとどまらず、政治的、社会的な信条はもちろん、個人の世界観にまで深く根をおろしてしまっているからにほかなりません。しかし、一方、新兵器の異常な発達により、全面戦争はほとんど不可能になりつつあり、諸国民の平和に対する願望は、日とともに強くなってまいりました。東西双方を引き離すよりはむしろ双方を結びつける方向による多くの関心を払うべき時と考えられます。

わが国の外交の根本は、この新しい局面に処し、平和と繁栄の増進のために、わが国が何をなしうるかということをはっきりとつかんで国連憲章に基づく安全保障体制を緊時しつつ、わが国の安全と平和とを確保し、経済の繁栄と国民生活の向上に資する国際的環境を整備し、もって、世界平和の創造に寄与することにあると確信いたします。わが国の誠実さと善意が、すべての国々によって信頼されるようになることを私は強く希望し、善意と理解が平和と繁栄の根底であることを確信するものであります。

わが国が、平和と繁栄を確保するためには、自由諸国との緊密な関係をますます増進してまいることは申すまでもありません。米国においてはケネディ新政府の発足をみ、英国においては一昨年の総選挙以後保守党の政権がいよいよその地歩を固め、フランス及びドイツにおいては一昨年の総選挙以後保守党の政権がいよいよその地歩を固め、フランス及びドイツにおいても現政権は国民の強い支持を受けております。かくて新しい年を迎えた自由主義諸国家は、世界平和確立のため安定した国内的基盤に立って、一層有効な協力関係を推進することができるものと予想されます。わが国としても相互の繁栄と発展のために、自由諸国との協力関係をあらゆる分野において強化すべく積極的な施策を講じてまいりたいと思います。

一方ソ連をはじめとする共産圏諸国との友好関係の増進、なかんずく日中関係の改善を図ることもきわめて重要であります。中国大陸との関係改善特に貿易の増進は、わが国としても歓迎するところであり、本年はこの問題への接近がわれわれの一つの課題であると思います。しかし、中国大陸の問題は、単に日中間の関係としてのみ処理しうるものではなく、広く東西間の関係調整という視野から取り扱わねばなりません。私は、日中双方がかかる共通の認識に立って、相互の立場を尊重しつつ、与えられた条件の下において可能なる友好関係の樹立に努め、極東の平和と繁栄の確保を図るべきものと考えます。

昨年アフリカにおいて多数の国が独立し、アジア・アフリカ諸国が国連加盟国中の半数にも達しようとするに至りました。アジアの一員たるわが国にとりましても、喜びに堪えないところであります。これら諸国の動向特に多数決の原則とする国連におけるその去就が、世界的注視の的になってきたことは当然であります。これら諸国の国連における表決は、その意味において、国連を動かすに足る大きな力となってきたことは否めません。したがって、すべての国の利益に奉仕する国連の機能を十分に発揮するためには、わが国としては、アジア・アフリカ諸国間との連携強化と、国連を舞台とする責任ある活動が、世界平和のため一層重要の度を加えてまいりました。今後における国連外交の推進は、一層慎重かつ積極的であらねばならぬと考え、私は、わが国の国連における外交陣容を強化してゆく方針であります。

なお、東西間の問題とともに、いわゆる南北間の問題、すなわち経済的先進国から開発途上の諸国への経済協力の必要性と重要性が広く認識されるに至っております。わが国は、アジア地域における工業国として、これらの双方の立場を十分に理解できる地位にあります。したがって、これら諸国に対しては、通商航海条約の締結を促進する等の措置を講じて、経済的、技術的協力を一段と推進する方針であります。(後略)

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第三十八回国会における小坂外務大臣の外交方針演説

政府の外交方針に関する所信を申し上げたいと存じます。

    東西対立緩和への努力

昨年の世界情勢におきまして、とくに注目されますことは、申すまでもなく、東西首脳会談が不調に終ったことであります。その後の情勢は、国際間の相互不信がうずまき、緊張が続き、和解の場であるはずの第十五回国連総会も非難と宣伝の場と化しましたことは御承知のとおりであります。一九六〇年は国際緊張緩和の年とはならず、われわれの期待は裏切られたと申すほかありません。年は更まりましたが、これからの世界の動きにはなお多くの不安が残されております。国際緊張の緩和とか相互理解とか口にすることはやさしいのでありますが、現実の国際政治においてわれわれの求める安定した平和の世界を実現させることは決して容易ではないのであります。

しかしながらわれわれは、いくたびか失望し、また味わったこのにがい経験を試練とし、これを乗り越えて平和の確保に精進いたすべきものと考えます。本年こそはその第一歩を踏み固める年ともしたいと思うのであります。

平和を望む者は、与えられた能力を活用して平和確保の方途を発見しなければなりません。自由世界と共産世界とそれぞれの政治の仕組みや社会のあり方は異なっておりましても、一つの国際社会に生活する以上、平和のうちに、共に生きるための具体的な道すじを見出すべきであります。東西いずれを問わず、われわれは戦争を防止し、平和を維持する人類共通の崇高な責任を分ち合っていると考えます。この精神に従って、国際緊張の主なる原因となっております東西関係の改善のため、双方が改めて真剣な努力を傾ける時になっていると考えるのであります。

これが実現のために、私は次の三つの原則を守る必要があると考えます。

まず第一に、国際間において、すべての問題は話合いによって解決するという原則を再確認することが肝要であります。しかもその話合いは、相手国に自国の主張を一方的に押しつけ、これが容れられなければ、一切の話合いを拒否するというのではなく、解決の出来ることから一つ一つ地道に積みあげる現実的な考え方になることであります。

第二は、直接あるいは間接に他国の政治及び社会経済の体制に干渉をしないこと、すなわち内政干渉をしないことであります。

第三は、東西対立圏以外の地域において起り、あるいは起るべき紛争を東西対立の争いに引き込まないことであります。

この三原則の上に、東西間における人と文化の交流を促進し、相互理解と信頼感を増進しつつ、対立をやわらげることが必要であると考えるのであります。

東西関係の改善には長期かつ困難な交渉が必要でありますが、この交渉にあたって共産側が団結と力をもってのぞむのに対し、自由世界もまた結束と協力を強める必要があります。このことが共産側との交渉において現実的解決を見出すゆえんでもあると考えます。アメリカのケネディ新大統領はその就任演説において、自由諸国の結束を強調するとともに、平和探求の努力を呼びかけております。多大の共感を禁じえないところであります。同大統領の就任は、現下の国際政治に新風を吹き込むものと確信するものであります。

東西関係におきましてまず取り上げられてくる問題は、軍縮問題であります。全面戦争はもはやできないということは誰しも異論のないところでありますが、しかも、なにゆえ軍縮が容易に達成されないかといえば、それは東西間における信頼感の欠如が最も大きな原因であると考えるのであります。したがって、われわれは、まず現在管理可能である軍縮措置から実施して、国際間の信頼を回復しつつ、全面軍縮の目標に向って、漸次、その範囲を拡大してゆくべきであります。軍縮交渉の経緯より見ますれば、軍縮の扉を開き得る現実の可能性の一つは、核実験停止協定の成立であります。政府といたしましては、わが国が従来から主張してまいりましたこの核実験停止協定が、今年こそは実現をみますよう積極的に寄与してまいる所存であります。

    アジア諸国との協力と中共問題

アジアにおける平和の問題は、まずアジアの国々において十分に考えなければならないことであります。アジア諸国はその繁栄と平和を確保するために、相互の人的交流を活発にしながら、各国間の理解を深めてゆきたいと考えます。

幸いにしてわが国の経済も、戦後の荒廃から国民の努力によって急速に回復、安定し、高い工業力をもったアジアの国日本の地位は認められつつあるのでありますから、この機会に、アジアの国としてのわが国の地位と立場をかみしめ、進んでアジアの繁栄と平和に貢献したいと考えるのであります。

わが国と最も近い間柄にあります韓国との関係につきましては、目下行われております両国間の会談におきまして、諸懸案の解決を図り、なるべく近い将来に同国との国交を正常化し得るよう、大局的見地に立って努力してまいりたいと考えております。

中共との問題につきましては、わが国は中共とは隣合わせの関係にあり、その関係の調整を考えることは当然であります。

しかし、その際重要なことは、わが国としては、自由世界の一員として世界平和に貢献するとの基本的立場を堅持し、かつ、内政不干渉の原則の尊重を求める態度を明らかにすることであると考えます。

また、中共問題は、最近は、国際間においても、国連代表権問題あるいは軍縮問題等とも関連して新たな注目を集めつつあります。

中共が如何なるときに、また如何なる方法によって国際社会に参加出来るかの問題は、複雑な要素をふくんでいるのでありますから、政府は中共の動向とこれをめぐる国際情勢の推移を慎重に見極める考えであります。

しかしながら、中共との政治的関係の調整は、広く国際政治上の問題として考えられねばならないのであります。わが国の、世界、とくにアジアにおいて占める地位にもかんがみ、わが国の動きが国際的に多大の影響を及ぼすことを十分考慮しなければなりません。すなわち、わが国だけの開題に止まらず、世界全体の利益、とくに世界の平和と安定のためにはどうしたらよいかという見地から、高度の政治的考慮を必要としているのであります。したがいまして、わが国はもち論中共の側におきましても、慎重な考慮と着実な努力を重ねるべきものであると考えるのであります。

中共との貿易問題につきまして、われわれは双方の国民経済が互いに必要とする物資について、これが支障なく拡大されることを希望しております。

    国連外交の推進

昨年アフリカ新興諸国の加盟に伴い、国連が普遍的な国際機構に発展いたしましたことは御同慶に存じます。

この際とくに申し上げたいのは、国連は世界における唯一最高の平和維持の機関でありますが、これとても全智全能ではない。国連を支えるものは実にわれわれ構成国であるということであります。国連が超国家的な存在でない以上、その平和維持の機能は、加盟国それぞれの協力によってのみ果されるのであり、またそれによってのみ発展するということであります。

昨年の国連総会の模様等にもかんがみ、最近世界には国連の権威や機能について危惧する声があります。しかしながら、もし現在国連がなかりせば、という事態を想像いたしますならば国連の存在意義は誰の目にも明らかであります。国連を現在の試練から救い、そのあるべき姿に強化するためには、加盟国のそれぞれがこの際改めて国連憲章の精神に徹し、国連を盛り立てる決意を新たにすることが肝要であります。

政府といたしましては、このような基本的立場に立って、国連を国際社会の良識と理性の場として成長させることを念願し、そのために努力を続けているのでありますが、今後とも広く加盟各国との協力関係を推進いたしまして、国際平和維持機関としての国連の権威と機能の強化のため積極的努力を傾け、冷静な、しかも筋のとおった建設的な行動をしたいと思うのであります。

    経済外交の推進

最近の世界経済の特徴として見られますことは、わが国及び西ヨーロッパ諸国の経済力が充実いたしました結果、自由諸国内の経済の相互依存関係が益々緊密化し、各国の経済政策や貿易政策の面において、国際間の調整及び協力が著るしく進められていることであります。主要自由諸国は今後この線に沿って、貿易為替の自由化、経済援助、ドル防衛などの問題について活発に協力することになりましようから、わが国といたしましても、経済外交の心構えとして、他国に対する正当な要求はあくまで強く打ち出すと同時に、他国からの正し要求についてはこれを受け入れる国際的な心構えがとくに必要であると思います。

つぎに、わが国は、近年急速な経済成長を遂げつつあるのでありますが、その成長を継続し、国民生活の繁栄を増進するためには、貿易の拡大が必要であります。このための条件を整えるため、政府といたしましては、日本品に対する差別待遇の撤廃等貿易条件の改善に一段と意を用いる考えであります。さらに、通商関係を安定した基礎の上におき、経済協力を推進するために、政府は昨年マラヤ、フィリピン及びパキスタン等との間に通商航海条約を締結いたしましたが、本年も各国とくにインドネシアその他の東南アジア諸国との通商航海条約の締結に努力いたしたい所存であります。このため、国会はもとより、経済界、労働界その他各界の一致した御協力御支援を期待いたしたいと存ずるのであります。

アジアといわず、アフリカといわず、新たに独立を達成した諸国には、いまだに多くの貧困と疾病が巣くっているのでありますが、その経済発展と社会福祉の向上は、世界の平和と繁栄のために不可欠の要件であり、これを解決することは、今や世紀の課題となっているのであります。主要自由諸国の間におきましては、昨年発足した開発援助グループの動きに見られますように、相協力して、この課題の解決に当ろうという気運が盛り上っているのであります。

わが国といたしましても、まず自らを富ます努力をいたしますとともに、遠い将来を考え、発展途上にある国々に対し、経済、技術面の協力について特段の工夫を加えてその推進をはかることはもとより、医療及び公衆衛生その他の分野においても、国民各位の御協力を得られる限りの援助を行ないたと考えるのであります。

以上申し述べましたように、私は、わが国のため、世界のために平和を確保し、またわが同胞の繁栄と豊かな生活を確保することをもって外交の基本目標と考え、世界情勢の間に処して自主的なしかも責任ある態度で弾力的な外交を展開したいと念願しているのでありますが、その成否はかかって国民各位の支持にあるのであります。御理解と御支援を期待いたすものであります。

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第十五回国連総会における小坂外務大臣の一般討論演説

議 長

貴下が第十五回国連総会議長に選挙されたことについてわが代表団より心からお祝い申し上げたいと思います。私は貴下の卓越せる識見と国際連盟および国際連合における豊富なる経験によって重要なる今次総会を成功に導くことを確信するものであります。私は数多くの新独立国を新たに加盟国として迎え入れることをこの上ない喜びとするものであります。私はこれら諸国が進歩と繁栄の道を歩まれることを確信し、また国連の一員として世界の平和と自由のため重要な役割りを果たされることを信じて疑わないものであります。

私は日本政府を代表してわが国の国連に対する変わらざる支持を確認いたしたいと思います。今日国連が世界の平和にとり、ますますその重要性を増しつつあるとき、その機能の強化と権威の昂揚に協力することは加盟国の重要な責務であると信じます。わが国はこのような考えで国連の事業に参加するものであります。

私は以上の立場から国連が今次総会で当面する重要な問題としてアフリカの問題、国際緊張の緩和と軍縮問題、発展途上にある諸国の経済開発の問題等についてわが国の所信を明らかにしたいと思います。

国連は創始以来十五年の間にすでに朝鮮動乱、スエズ事件等いくつかの試錬を受けました。そしてそのたびごとに世界平和の維持に貢献しつつ自らの平和維持の機能を強化発展させてきました。現在国連はコンゴー問題という新たな試練の前に立っております。本問題の処理がうまく行なわれるか否かはコンゴー一国のみならずアフリカ全体の問題であります。事実それは世界平和の維持自体に直接つながっているのであります。国連はこの重大なる開題の解決に失敗することができないのであります。

わが代表団は初期の混乱に対処した国連活動の成功と、また更に国連が秩序確立のために努力しつつあることを喜びとするものであります。もし国連が存在せず直ちに適切な行動をとっていなかったらどのような事態が生じたでありましょうか、この一事だけでも国連は平和のため不可欠のものであることを十分実証したと言えましょう。わが代表団は国連のこの行動を組織した事務総長に対し深甚の謝意を表するものであります。事務総長は、今や加盟国の圧倒的多数による支持を確約されました。

とはいえコンゴー問題の解決の事業はその緒についたばかりであります。その完成は今後の国連の活動とこれに対する全加盟国の協力に依存するところが極めて大きいのであります。わたくしはコンゴーへの援助は国連により国連を通じてのみ行なわれなければならないという緊急特別総会の決議に明瞭に述べられた見解に全面的に賛意を表するものあります。このことは国連の権威の上からはもとより、援助を政治の影響から遮断する意味からも必要かつ極めて望ましいことであります。わが国はこのような援助が効率的に行なわれて速やかにその目的を達成することを真に希望するものであります。

われわれの任務はコンゴーだけにとどまりません。アフリカにおける独立諸国の相次ぐ出現にともない、われわれはこれら新独立諸国が、平和的にその独立を完成し経済的繁栄をもたらすため、登展段階を異にする諸国民間の関係のあり方について真剣な再考慮を払う必要があると考えます。

この点に関しわが代表団は日本がベルサイユ平和会議以来主張し続けてきた人種平等の原則について本総会の注意を喚起したいと思います。人種平等の原則を実地に移すことは憲章に明らかなごとく国連の目的の一つであり、ありとあらゆる人々が同じ世界共同体の一員として手をとりあうことを可能ならしめる不可欠の要因であると信じます。

わたくしはすべての加盟国がこの原則の実現に努力することを要望するものであります。そうすることによって初めて新独立諸国とかつての施政国との関係を平等と相互尊重の基礎の上に調整することができるのであります。

なお新たな諸国の加盟によりいまや国連の加盟国数はほぼ二倍に達したのでありまして、わたくしはこの事実を国連の機構の上に反映する必要があると考えるものであります。安全保障理事会および経済社会理事会、特に後者のメンバーの増員問題はいまや緊急に解決を要するものと考えます。

議長、次にわたくしは今次総会が検討すべき重要な問題として東西間の緊張緩和の必要に触れたいと思います。本年春全世界は頂上会談にすべての期待をかけたのでありますが、それは突然とりやめとなり失望したのであります。それ以来冷戦はそのまま引き続いております。この国際緊張を緩和するためには、まず第一に、大国を含むすべての国が、口だけで平和を唱えるのでなく、友好的な東西間の話合いを行ない得るような雰囲気を作り出すことにより、平和に対する誠意を行為をもって示すことが必要であります。このためには、他国の内政に干渉したり、威嚇を行なったり、諸国の間に不信や憎悪の念を煽ったりすることは、厳につつしむべきであります。また、国際紛争に当っては、不幸にして関係国間における話合いにより問題が解決されない場合にも、各国が恣意的行動をとることをさけ、国連による平和的解決につとめるべきであります。私は、今次総会が非難と宣伝の場に堕することなく、建設的な討議の場として役立ち、それによって東西間の交渉のために友好的な雰囲気を醸成することを心から希望するものであります。

この点に関し、わが代表団は、軍縮交渉促進の必要を強調したいと思います。最近の恐るべき兵器の発達、とくに大量破壊兵器と大気圏外を利用せるその運搬手段の発達は、われわれをして一歩誤まれば人類と文明の破滅という恐怖におびえさせるのみならず、他方、技術的見地からこれら兵器の削減又は廃止のための管理、査察をいよいよ複雑困難なものとしております。つまり、兵器の発送は、その発達の程度に応じ軍縮交渉をいよいよ困難なものとするということができます。もし、われわれが遅帯なく、軍縮交渉を促進することに失敗するならば、人類は誠に恐るべき破局に陥るかも知れません。

それにも拘らず、十国軍縮委員会が、具体的な成果をあげないまま中絶状態に陥ち入ったことは、極めて遺憾であります。軍縮会議場は、宣伝の場ではありません。今や一刻も早く、具体的な軍縮措置について現実的な交渉を進めるべきときであります。わが代表団は、十国委員会がその失敗を繰り返さないように、また、総会の意思を反映して速やかに交渉を促進することができるように、全面的完全軍縮という最終目的の達成を容易ならしめるため、総会が適当な指針を与えるべきことを提言します。

昨年の総会では、全会一致で「有効な国際管理を伴う全面的完全軍縮の目標に導く諸措置ができるだけ短期間に細部に亘って作成され合意されるようにとの希望を」表明しました。これは軍縮の目標を示したという意味で重要でありました。わが代表団としては、まず現在管理可能であり実行可能である軍縮措置から実施して、国際信頼感を回復し、それによって次第に軍縮の範囲を拡大して行く、というアプローチが現実的、かつ、建設的であると考えるものであります。国際的な管理・査察に関する十分な準備が行なわれないまま、全面的完全軍縮の全過程を包含する条約に調印すべきであるというような主張は、現実的であるとは考えられません。

核実験中止問題に関し日本国民が自己の体験から強い関心を有していることは、周知のとおりであります。従って日本政府および国民は、核実験中止に関する協定が速かに成立し、それが一般軍縮を促進する契機となることを心から希望しているのであります。

わが国としては、ジュネーブ核実験中止会議において、米英ソ三国が忍耐強い交渉を続けておられることを多とするものであります。また、交渉当事国による核実験の自発的中止が今なお継続されていることを喜ぶものであります。しかしながらこの白発的中止が管理査察を伴っておりませんので、現在の状態は、不安定なものであり、かつ、危険をはらむものであります。私は各加盟国が、核実験中止協定の早期締結のために一層の努力をされることを切望するものであります。

昨年の総会において、われわれは、核兵器の拡散防止問題に関し、「核兵器を所有する国の数が増加して、国際緊張と世界平和維持の困難を増大し、かくして全面軍縮協定の達成を一層困難にする危険が存在する」ことを認めました。この危険を阻止するためにも、核実験中止協定の締結は、緊急を要するのであります。

わが国としては相当期間にわたって自発的に核実験が行なわれていないという事実にもかかわらず、核実験中止問題の根本的解決が、ますます緊急となっていることに総会の注意を喚起したいものであります。

軍縮問題に関連して、私は大気圏外の平和利用の問題に簡単に言及したいと思います。最近の活発なスペース活動は、人類の将来に希望と恐怖を同時に与えるものであります。人類がこの恐怖から脱し、希望に生きるため、大気圏外の軍事利用禁止のための措置について国際間において速やかに合意に達すべき必要を強調したいと思います。また、大気圏外の平和利用が全人類の福祉のため公開と秩序の原則の下に促進されるよう国際的な協力を行う必要も存します。

この点に関し、昨年関係国間で締結された南極条約は、絶好の先例となるべきものであり、われわれの努力の指針となるものであります。私は、昨年の総会において設置された大気圏外平和利用委員会の速やかな活動の開始を訴えるとともに、わが国のこれに対する協力を約束するものであります。

議 長

次に、経済社会の分野における国連活動の一層の強化の必要について言及したいと思います。

世界の先進国においては、最近までは完全雇用の達成が経済政策の主要な目標でありましたが、今や更に一歩を進めてインフレーションを伴わない経済成長の持続ということが新しい目標となっております。しかしながら世界の多くの国においては、未だ完全雇用の目標よりはるかに前の段階、即ち急速度で増大する人口に対して衣食住を如何にして与えるかという問題との対決に迫られております。これらの諸国は、一次産品の生産だけに依存する限り、先進国との生活水準の隔りの拡大に甘んぜざるを得ず、一九五七-八年の景気後退時にみられたように、先進国の景気変動の悪影響を避け得ないのであります。

事務総長は、第三〇回経済社会理事会に際し、ダイナミックな国際分業の意義について言及するところがありました。発展途上にある諸国は、経済の多様化促進の結果として工業化が進むに伴い、従来の如き一次産品のみならず、その半製品及び製品の市場を求めるにいたります。そうした際に、国際分業の観点から、先進諸国がこれのらの新興輸出国の商品に市場を提供する用意があるか否かが問題であります。今日、先進工業諸国の間では、国際分業が積極的に進められ、夫々の経済の一層の発展に大きな寄与をしておりますが、発展の水準を異にする諸国間では、往々にしてロウコスト製品の氾濫防止に名を籍りて非能率な国内産業の保護政策がとられることがないではありません。それは、工業化の過程にある諸国にとっては、その経済成長の芽をつみとられることを意味します。

私は先進国が世界経済全般の発展という広い見地に立った政策をとり、他方、発展途上にある諸国の開発努力に対し積極的な協力をする必要のあることを指摘したいのであります。

最近の地域経済統合の動きも、一定の地域内における国際分業促進の動向として特に注目されるところであります。こうした地域的なアレンヂメントはアウトワード・ルッキングな方向をとる限り終局的には世界市場の拡大に貢献するかも知れません。しかしながら、先進国と発展途上にある諸国との相互補完関係の強化がともすればないがしろにされるのではないか、また、とくに地域的統合に内在するインウォード・ルッキングの性格がとくに景気悪化のさい顕在化するのではないか、との懸念は解消しておりません。世界経済全般の均衡のとれた発展を実現するという見地から、こうした懸念を取除くために十分の考慮が払われるよう希望に堪えません。

国連特別基金の発足後、プリインヴェストメントの段階における技術援助の重要性について認識が深められ、国連の従来よりの技術援助と相俟って、発展途上にある諸国の経済開発の上に顕著な貢献をしていることは歓迎すべきことであります。低開発国援助は、慈善事業的な施しではなく、先進国と発展途上にある国との相互協力であります。最近国連の技術援助計画を技術協力計画と改称すべとの議論がみられるのは、その一つの現われであります。特別基金の援助は、被援助国が座して援助を待つに非ずして、見返り資金の提供等積極的な協力を行なうことを要求する仕組をとっておりますが、この方式が大いに成果を挙げていることは意義深いことであります。私は、発展途上にある諸国がより高い水準の生活を求めてたゆみなき努力をする限り、資本の不足、技術の欠除等多くの障害を克服して必ずや国民の繁栄と福祉の増進を果し得るものと信じております。

世界の平和が一体不可分であるように、世界の繁栄もまた一体不可分であります。それが国連憲章の考え方であります。こうした考え方から、わが国は、かねて発展途上にある諸国の経済的、社会的発展のため二国間及び多数国間援助計画において出来る限りの協力をいたして参りました。本年三月設立された開発援助グループには当初より参加しました。

また、近く発足を予定されているIDAにも参加する意向であります。わが国としては、このような国際協調の基本線に沿って今後引続きかかる諸計画には出来る限りの寄与を行ないたいと考えております。私は、この機会にわが国は国連の特別基金及び拡大技術援助計画に対する来年度の拠出金を増額する用がある旨申述べることを欣びとするものであります。

なお、アジアの一国としてわが国は、国連の援助が経済発展に真剣な努力をしているアジアの諸国に対し、従来以上に増大されることを願ってやみません。

わが代表団は、人口増加が経済社会の面に及ぼす重大なる影響に想いをいたし、昨年、技術者を含む人的資源を世界的規模において一層効果的に利用することに関連する基本的な諸問題の調査研究を国連がとり上げることを提唱しました。私は、この問題の研究が各国の支持を得て具体的に進められるとともに、これに関連する移住の問題についても各国の理解が深められることを更めて希望するものであります。

以上、私は、国連の当面する諸問題に関し、わが代表団の基本的立場を述べました。私は、今次総会が貴議長の下に、多大の成果をおさめることを希望するとともに、わが代表団がそのためあらゆる努力を払うべきことを約束するものであります。

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