アジアおよび大洋州との貿易問題

1、日韓貿易

(1) 韓国産品の増加買付問題

日韓貿易は、一九五九年六月十五日から、約一〇カ月間一部品目を除いて中絶状態にあったが、昨年四月四日韓国政府は、これを全面的に再開するとともに、金商工部商易局長等三名の通商代表団をわが国に派遣した。これにともなって四月五日から日本政府当局者と同代表団との間に日韓貿易会談が開始され、この会談の結果、昨年九月から本年二月の間に現金決済べースで、合計三万トンの米を韓国から輸入し、その見返りとして肥料、ナイロン糸等の諸品目を韓国へ輸出している。

また日韓貿易の一般問題に関する討議においては、主として両国間の貿易量拡大問題を中心に話合いがなされたが、その際韓国側より、同国の対日主要輸出品目である無煙炭、土状黒鉛等の鉱産物、鮮魚、塩干魚、のり等の水産物の増加買付ならびに塩、畜産物の新規買付の要請があった。この韓国側の要請は、昨年九月同国に新政府が成立して以来一段と強まり、わが方としても対韓輸入増大のためできる限りの努力を払ってはいるが、韓国側輸出希望品目の中には、日本の同種産品と競合し、需給上買付増大困難なもの、また日本側でなじみの薄いものも含まれており、早急な解決は困難な事情にある。

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(2) 対韓輸出調整措置

日韓間の通常貿易は、日韓貿易協定および金融協定(ともに一九五〇年六月二日署名、同年四月一日に遡って効力発生)に基づくオープン勘定を通ずる決済によって行なわれており、同協定によればオープン勘定のスウィング限度額は、二〇〇万ドルで、これを超える分は、債権国の要求により直ちに決済されるよう規定されている。韓国政府は、一九五四年二月以降現在にいたるまで、日本政府の再三にわたる支払要求にもかかわらず、同国のオープン勘定上の対日債務の累増は、日本の韓国産品の買付が僅少であることに起因しているとの理由で支払に応じていない。他方韓国政府は勘定残高がさらに累増するのを防止するため、一九五五年以来「対日輸入権制度」を実施し、わが国との通常貿易収支の均衡を図るように努めたため、その後の対韓オープン勘定の残高は、四、五〇〇万ドル前後に抑えられてきた。ところが本年二月二日、韓国側は、同国の貿易・為替管理制度改革にともない、前記の「対日輸入権制度」を撤廃するとともに、二月一日現在の勘定残高約四、五七〇万ドルは一応据置き、これを新たに超える額を現金で決済することとしたい旨申入れてきた。わが方としては、前記二月一日の勘定残高の処理について韓国政府の善処を求めるとともに、それを超過する部分の現金決済の具体的方法について先方と折衝を重ねたが、韓国側から満足な回答が得られないまま、二月下旬に至りオープン勘定を通ずる対韓輸出信用状の件数および金額が著増の傾向を示し始め、オープン勘定上の対韓債権が再び累増する徴候が認められたので、わが方としては、これを防止するため止むを得ない暫定的対策として三月六日韓国向けのオープン勘定を通ずる輸出を調整する措置をとった。

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2、東南アジアからの外米輸入問題

 昭和三十五米穀年度の外米輸入

ビルマ、タイ等東南アジアの米産諸国は、米輸出の如何がその国の経済に大きく影響するので、従来米の主要輸入国の一つであったわが国に対して、わが国との貿易アンバランスの是正を理由として、極力多量の米買付を要請し、わが国の買付量に不満の場合には、昭和三十四年末のビルマの例の如く、対日輸入停止の強硬措置をとるなど深刻な問題をひきおこした。

昭和三十五米穀年度(昭和三十四年十一月~三十五年十月)における外米輸入は、ビルマ米の増加買付、韓国米の新規買付実施等の事情により、契約べース(台湾米の一部を除き輸入実行済)で、次のとおり前年度の買付実績二七万四千トンを上廻る二九万九千五百トンに上った。

普通外米  ビルマ    四万五千トン     タイ     六万五千トン

      ヴィエトナム 五千五百トン     カンボディア 四千トン

      小計     一一万九千五百トン

準内地米  台湾     一五万トン      韓国     三万トン

      小計     一八万トン

      合計     二九万九千五百トン

なお台湾米一五万トンは、昭和三十四年度日華貿易計画に基づく契約数量であり、その中一〇万トンが昭和三十五米穀年度における買付数量に該当するところ、その輸入実施に当っては、台湾側の国内食糧事情の逼迫等による先方の要請により、契約期限の延長を重ねたが、昭和三十五年度末までに、七万トンの輸入にとどまった。

 昭和三十六米穀年度の外米輸入交渉

わが国の米作事情は逐年好転し、新年度においても国内産米量は前年度の記録をさらに更新する豊作を示し、米の輸入需要はさらに減退の傾向にあった。従ってわが国としては、前年度の外米買付交渉の経緯に鑑み、米輸出国側に対し、従前の如き米の輸入規模を維持することの困難なる所以を機会ある毎に説明し、貿易拡大のためには、米以外の産品の輸出増大に努力すべきことを促してきた。しかし、これら諸国はわが国の豊作事情を理解し得ても、米輸出の同国経済に占める重要性ならびに米に代る代替輸出品を見出すまでに相当時間がかかるため、昭和三十六米穀年度においてもわが国に対し相当量の米買付を期待し、少なくとも前年度並の買付を要請した。

これに対し、昭和三十六米穀年度(昭和三十五年十一月~三十六年十月)におけるわが国の米穀需給計画上の輸入可能量は各国からの要請量より相当下廻っているので外米の輸入方針(準内地米を除く)としては、買付量が需給計画を上廻る場合には、仲介貿易により第三国向に売却処理することとして、買付交渉を行なうことを決定し、ビルマ、タイ、ヴィエトナムおよびカンボディアと交渉を始めた。

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3、日本・インドネシア米綿委託加工取極

日本・インドネシア第二次米綿委託加工取極は、一九五九年十二月二十九日に署名されたが、この取極により、インドネシア政府は、第三国に加工を委託する原綿総量一、七九三万ドル余のうち、当初一、〇五〇万ドルをわが国が輸出する綿製品の原綿代に引当てることを約した。

その後、三回にわたる割当の結果、わが国は、インドネシア向綿製品に対する一部支払いとして、一、二九六万ドルの原綿を受領することとなり、わが国のインドネシア向綿製品の輸出額は、約一、九七〇万ドル余に達し、わが国綿製品の対インドネシア輸出の増大に寄与するところがあった。

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4、ビルマの対日輸入停止措置の解除

ビルマは、一九六〇年度ビルマ米のわが方買付提案量三万トンを少量にすぎるとして強い不満の意を表し、一九五九年十二月二十一日から対日輸入全面停止措置を実施した。わが方としては日緬両国間の経済貿易関係の維持発展の大局的見地から一万五千トンの追加買付を行なって事態の収拾を図ることとし、ビルマ側もこれを了承したので、合計四万五千トンの買付をもって、本措置は昨年二月十日より解除された。

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5、日本・ビルマ第二次米綿委託加工協定の実施状況

一九五八年十一月十九日、日緬間に締結された第二次米綿委託加工協定に基づき、わが方は綿糸布合計約一、三二〇万ドルを輸出したが、ビルマ側の手違いにより原綿代約一一一万ドルが未払いとなったが、ビルマ側は昨年十月右のうち五〇万ドルを現金で決済した。

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6、豪州における対日輸入制限運動

(1) 一九五七年七月に締結された日豪通商協定は、昨年七月で当初有効期間である三カ年を経過し、その後は自動延長のかたちで現在にいたっている(なお、当初有効期間の経過にともない、これを改訂するための交渉を昨年九月東京で行なったが妥結に至らなかった経緯がある)。同協定は相互の最恵国待遇供与を基礎とするが、日本品の輸入が急増し、これがため豪州産業が重大な損害をうける事態が生じた場合は、両政府は協議するが、必要な場合豪州政府は日本品に対し関税や数量制限に関し差別的取扱を行なうことができる旨の規定があり、この規定の運用上、実態を調査し、政府のとるべき措置を勧告するための政府の諮問機関として、マッカーシー委員会が設けられた。

(2) 協定成立以来、マ委員会に付託された事例は、昨年六月までに綿プリント関係を始めとして十数件である。これらの中、水彩絵具の一件については、前記の緊急規定が発動され、対日輸入ライセンスの発給停止が行なわれた。また、一九五九年十月にはマ委員会への付託なしに、化合繊織物の自主規制を要求して来るなどの動きもあった。わが方としては、問題の生じた輸出品については数量規制を行ない、関税引上げ、ライセンス停止などの阻止に努めてきたが、一九六〇年五月には、前記水彩絵具、化合繊織物その他について大巾な関税引上げが行なわれた。

(3) 昨年二月、豪州政府は大巾に輸入制限を撤廃し、輸入額の約八〇%を自由化した。この結果、外国品との競合から国内産業を保護するためには、これまでの輸入ライセンスによる保護は困難になったので、同年八月、新たに暫定関税制度を設けた。この制度は、関税率の変更を立法行為によらず、貿易相が関税委員会副委員長の緊急報告に基づき、同相かぎりで、すなわち行政措置で変更できるようにしたものである。

この制度の発足により、マ委員会は廃止され、本制度と、日豪通商協定の緊急措置規定との関係に関心が持たれたが、一九六一年二月、貿易相は、アクリル糸の緊急保護につき関税委員会の報告を求めた。これは主として日本品を対象とするが、同委員会副委員長は、暫定関税賦課を勧告せず、協定に基づき数量規制につき日本と協議するよう報告している。すなわちマ委員会は廃止されたが、協定との関係上、新制度による関税委員会副委員長が従来のマ委員会の任務を代行している。

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