欧州との貿易問題 |
昨年においても政府は、ガットの枠内における多角的話合いを通じ、また西ドイツ、ベネルックス三国、フランス、イタリア、英国、スウェーデン、デンマーク、ギリシャ等の諸国との二国間交渉を通じ、わが国との通商貿易関係の是正に努めたのであるが、フランスおよびイタリアにおける差別的対日輸入制限、欧州共同市場加盟国による陶磁器等に対する混合関税の採用、スイスにおける繊維品の対日輸入価格監視制度の強化、日英貿易取極改訂を契機とする一部英国産業界の対日輸入制限緩和に対する反対運動の激化等の例にみられるように、これら政府措置の背後には、各国の民間業界があって自国政府がわが国の繊維品・陶磁器、カメラ、トランジスター・ラジオ、玩具、雑貨等の輸入を拡大することのないように運動しており、しかもこの対日輸入制限運動は、これら民間業界がわが国の経済産業の実状ないしわが国の行なっているいわゆるオーダリー・マーケティングの努力を正当に認識しておらず、また日本品の競争力について過大の不安を抱いていることに基因するものと思われるので、政府は、前記の政府間交渉を推進する一方、経済貿易に関する啓発活動を一段と強化し、欧州諸国の民間業界の啓蒙につとめている。
独、仏、伊、ベネルックスの六カ国より成る欧州経済共同体の動向は欧州経済のみならず、世界経済全体に関係するところが大であり、わが国貿易にとっても影響するところが少なくない。この意味からわが国としては同共同体に対し、倭島前駐ベルギー大使を日本政府代表として派遣していたが、今般同大使のアラブ連合共和国への転出にともない、その後任としてベルギー国駐在を命ぜられた下田大使を本年二月十四日同共同体に対する日本政府代表に任命した。
また、欧州経済共同体と加盟国を同じくする欧州石炭鉄鋼共同体(従来オブザーヴアを派遣していた)および欧州原子力共同体に対しては、両共同体の動向が世界の基幹産業たる石炭、鉄鋼および原子力産業に大きな影響を及ぼしていることにかんがみ、この際経済共同体に対すると同じく、両共同体と正式関係を設定することとして、下田大使を二月十四日付で、欧州石炭鉄鋼共同体に、また三月二十八日付で欧州原子力共同体に対する日本政府代表にそれぞれ任命した。この結果、わが国と三共同体との関係は今後一そう緊密となるものと期待される。
ロンドンに本部を置く Crown Agents for Overseas Governments and Administrations は、英国植民省の管轄下にある独立機関であり、英国の海外属領および旧属領の一部独立国のために政府(または政庁)の調達物資の入札業務を代行し、あわせて調達物資に対する検査、保険等をも行なっているが、最近におけるわが国産品の海外市場への顕著な進出状況にかんがみ、わが国からの物資調達の可能性を調査するため、昨年秋同機関調査員をわが国に派遣して現地調査を行なった結果、東京に同機関の常駐代表を置いてわが国からの調達業務の促進に当ることとし、本年三月東京商工会議所内に事務所を開設し、早速業務を開始した。
クラウン・エージェントは創立以来百三十年の歴史を有し、対象地域も英連邦のほぼ全域に及び、一九五九年において約六千七百万ポンドに上る調達業務を行なっている。また現在約千六百名の従業員を有し、ワシントンに海外事務所を設けている。
従来クラウン・エージェントの入札については全く応募できなかったわが国業者も、今回の東京事務所開設により、応募の機会が与えられ、これにともないわが国のこれら諸地域に対する輸出も増進するものと期待される。