技術協力

1、概  説

必要な技術知識を身につけた要員の存在は、低開発国の経済開発を左右する重要な意義を有することはいうまでもなく、従って技術援助の重要性は、低開発国に対する開発援助が進むにつれていよいよ認識され、強調されてきた。産業の各分野に亘り高度の技術水準を維持し、豊富な技術者、専門家を擁するわが国としては低開発国の経済開発に援助の手を差し伸べるに当ってまず技術援助をとり上げ、その拡大に努めてきたことは極めて当然のことであった。

わが国の技術援助は、一九五二年度に国連の拡大技術援助計画に八万ドルを拠出した時に始まるが、二国間方式による援助としては一九五四年十月コロンボ計画に加盟し、初年度一、三〇〇万円の予算をもってこの計画に基づく技術援助を開始したのがその第一歩であり、その後年々その規模および分野を拡大してきた。このようにして現在わが国の技術援助は、国連諸機関を通ずる多数国間方式によるものを除き、コロンボ計画技術協力計画をはじめとして、以下に述べる諸計画等に基づいて実施されており、これらの計画(別掲のラオスおよびカンボディアとの間の協定に基づく計画を除く)の実施のため計上されたわが国予算額は、昭和三十五年度(一九六〇年四月-一九六一年三月)約七億二百万円、昭和二十九年度以降の累計は、約二〇億五、六九〇万円に達している。

このような著しい規模の拡大とともにこれらの計画(ラオスおよびカンボディア協力協定関係、メコン河調査計画および国際建設技術調査計画を除く)に基づいてわが国が派遣した専門家およびわが国が受入れた研修生の数は年々累増し、昨年十二月末までにそれぞれ専門家三五三名、研修生二、七三五名を数えている。こうしてわが国の技術援助は低開発国の経済開発を促進する上に多大の成果を収めるとともに相互の理解の増進および経済関係の緊密化に大きな役割を果しており、この意味において、わが国を始めアジア諸国相互の協力の下にアジアにおける生産性の向上をはかるためアジア生産性機構が近く発足する運びとなったことは注目に値いする。しかし今後さらに技術協力の規模の拡大をはかり、また、一層効果的な援助を実施するためには機構および制度の改善を含め、援助体制を強化のため多くの問題を解決して行かなくてはならない。

        わが国の技術協力一覧

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2、コロンボ計画技術協力計画

コロンボ計画に基づき援助そのものは、二国間の直接の話し合いにまかされているが、加盟国はコロンボ計画機構を通じて相互にこの地域の経済開発およびこの地域に対する開発援助の問題について意見を交換し、様々の問題および過去の実績について検討を行なうが、このような方法によってコロンボ計画機構は、他の多くの国際機関と異り、直接資金をプールして自ら事業の実施に関与することなく、この地域における開発および援助活動の促進ならびに各国間の調整および協力の推進に極めて大きな役割を果している。

コロンボ計画に基づく技術援助はわが国の二国間方式による開発援助の先駆ともいうべきもので、現在なお技術援助の中核を成している。他のすべての技術援助と同様この計画に基づく援助もまた研修生の訓練、専門家の派遣、訓練または研究用器材の供与いずれかの形で実施され、別表のとおり昨年十二月末までの累計は研修生四四四名、専門家二七八名を数え、計上予算額は約九億二千万円に達している。

           研 修 生 受 入

援助の分野は、当初から農林、水産、中小工業関係の案件が大きな割合を占めてきたが、その後わが国産業界各分野の高い技術水準が知られるにつれて援助要請の対象も極めて多岐に亘るにいたり、また、いずれも一件毎の援助期間が長期化する傾向にある。

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3、中近東アフリカ技術協力計画

前述のとおりコロンボ計画は南アジアおよび南東アジア地域に対する二国間方式の援助を促進する役割を果しているが、その他の地域については例外的なものを除きこれに相当する機構が存在しない。従ってコロンボ計画地域以外の地域に対するわが国の援助は、すべて独自の立場から相手国の要請に基づいて実施されている。

わが国の中近東アフリカ技術協力計画は、昭和三十二年度に予算約二〇〇万円もって開始され、昨年十二月末までに派遣された専門家三九名、受入れられた研修生は五九名を数え、累計予算額は約九、九〇〇万円に上っている。中近東アフリカ計画は発足後四年を経、広く各関係国にその活動を知られるとともに異常な関心を呼び、各国、就中新興アフリカ諸国のわが国に寄せる期待にも鑑み、今後この地域に対する技術援助の最も効果的な実施方法が明らかとなるにつれて、この計画に基づく技術援助は着実な増加を示すものと思われる。

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4、中南米技術協力計画

わが国の中南米技術協力計画は、昭和三十三年度に開始され、昨年末までに累計予算額は約四、四〇〇万円、派遣専門家総数および受入研修生総数はそれぞれ八名および三九名となっている。中南米計画も開始後三年を経て漸くその事業を各国が認識し、多大の関心を寄せるにいたり、近時要請件数が著増している。

中南米計画に基づく実績の特色は援助の分野においてむしろ各種工業関係案件の占める割合が大きい点である。

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5、北東アジア技術協力計画

わが国の北東アジア技術協力計画は昨年度から実施され、同年度の計上予算額は約二七〇万円、昨年末までに専門家四名を派遣し、研修生三名を受入れているが、受益国はいずれも中国である。

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6、日米合同第三国訓練計画

ICA第三国訓練計画の名称の下に米国政府がその経費を負担し、第三国の研修生をして本邦において研修せしめる計画に対し、わが国は従来から研修上の施設および便宜を供与してきたが、昨年三月二十三日に両国間で締結された協定に基づき、わが国が一歩協力を進め、本邦における訓練に付帯する諸経費をすべて負担することとしたことに伴ない、名称を日米合同第三国訓練計画と改めることとなった。旧計画に基づいてわが国で訓練を受けたものを含め受入れられた研修生総数は昨年末までに一、四四五名に達し、一九六一年度以降のわが方計上予算額は約一、六一〇万円であった。

        日米合同第三国技術援助計画による研修生受入

        専 門 家 派 遣

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7、国連諸機関および各国政府関係訓練計画に対する協力

わが国は国連諸機関および各国政府がそれぞれの計画に基づいて自ら経費を負担し、わが国に研修生を派遣し、研修を行なわしめる場合にも、付帯経費を負担して研修の便宜を供与しているが、そのための計上予算額は、昨年度を含め累計約一、七〇〇万円、便宜を供与した研修生は、昨年十二月末までに七三二名に上っている。

以上のほか国際原子力機関からも、現在までに十三名の研修生をわが国の直接の経費負担により受入れており、このための予算額は、累計約一、六〇〇万円となっている。

また、国連諸機関に雇傭され、技術援助の目的で低開発国へ派遣されたわが国の専門家は、昨年末までに一八名となっている。

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8、海外技術訓練センター設置計画

研修生をわが国に招致して実施する訓練は一件毎の必要経費が多額に上る等その増加には種々制約を伴ない、また、研修生自身にとっても異なった社会的、技術的環境の下におけるよりも自国で訓練を受ける方が好ましい点が少なくない。さらに、専門分野における訓練のため専門家を派遣する場合にも相手国内に適当な訓練施設が存在しない場合には効果的に訓練の目的を達することが難しい。このような事情を考慮し、わが国が相手国内における技術訓練施設の設置を援助する計画が設けられるに至った。

この計画に基づいて、わが国は、本年三月までに別表のとおり、六カ国と技術訓練センターの設置について協定の締結を行なった。さらに数件のセンターの設置につき交渉を進めている。これらの訓練センターの設置のためわが国は必要な機械器具その他の資材を提供するとともに、技術指導要員を派遣し、他方、各受益国政府は必要な土地、建物および現地要員を提供する他運営経常費を負担する方式をとっている。この計画のため、わが国が計上した予算額は昭和三十三年度以降昨年度までに約七億六、八九〇万円に達している。

        海外技術訓練センター設置計画一覧

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9、メコン河下流域綜合開発調査計画

将来の無限の開発可能性を包蔵するメコン河の調査は、一九五七年に沿岸四カ国(カンボディア、ラオス、タイ、ヴィエトナム)によって調査調整委員会が設置されて以来、この機関を中心として各国政府および多数の関係国際機関の積極的な協力の下に綜合的に進められてきており、現在本計画に参画している援助国は米・英・仏等十二カ国に達している。

わが国は、この計画が国連の積極的な支持を受け、国際協力の気運が著しく進んでいることを考慮し、またこの地域に対する経済技術協力を推進する上にこの計画への参加が極めて重要な意義を有する点を考え、調整委員会の要請に応じ、一九五九年一月以降昨年十月までに、三回に亘り主要支流踏査のための調査団を現地に派遣し、その作業を進めてきたが、その結果すでに現地における作業を終了し、(詳細は、本書第四号、一四九頁参照)、最終報告書の作成を急いでいる。またわが国としては調整委員会の強い希望にもかんがみ、今後引続きできる限り援助を行なう方針で、いくつかの支流の本調査および本流上の開発予定地点の予備調査の実施につき準備を進めている。

わが国が昭和三十五年度までにこの計画に対する援助のために計上した予算額は累計約一億一、四〇〇万円(約三二万米ドル)に達するが、これを含め本年三月二十日までに各国、各国際機関が申し出た援助の約束額は約一、〇九三・六万米ドルに上っている。

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10、国際建設技術調査計画

低開発国における潜在的な土木建設事業について予備調査を実施し、その開発可能性を検討するためわが国は、昭和三十二年度以降累計約五、九一〇万円の予算を計上し、延一七件の調査団を各地に派遣してきており、このうち昨年度は、インドネシア、ネパール、シンガポール、タイの四カ国に調査団の派遣を実施した。

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11、コロンボ計画東京会議の開催

一九六〇年度(第十二回)コロンボ計画協議委員会年次会議は、昨年十月三十一日から十一月十七日まで、わが政府主催の下に東京で開催された。この会議にはコロンボ計画に加盟している二十一カ国の代表一五三名のほかコロンボ計画事務局、世界銀行、アジア極東経済委員会(エカフェ)、国連特別基金、国連技術援助評議委員会のオブザーヴァー七名が出席し、また、アフガニスタンも初めて代表二名をオブザーヴァーとして参加させた。

会議は例年どおり官吏会議(十月三十一日から十一月十二日まで)および閣僚会議(十一月十四日から十一月十七日まで)の二部に分かれ、官吏会議においては関外務省経済協力部長が、また、閣僚会議においては小坂外務大臣および迫水経済企画庁長官がそれぞれ議長を勤めた。会議は、各加盟国が提出した資料をもととして過去一年間を中心とするコロンボ計画地域(南アジアおよび南東アジア)の諸国における経済開発の進み方とコロンボ計画による援助の実績を検討し、その結果をコロンボ計画協議委員会第九次年次報告書として採択し、また、同時にコロンボ計画技術協力審議会の報告を中心としてコロンボ計画技術協力計画の実績および運営状況ならびにコロンボ計画に関する広報活動についてそれぞれ小委員会を設けて討議を行ない、その報告を承認した。

協議委員会年次会議は、各加盟国政府の閣僚を初めとする経済開発または援助の担当責任者が一堂に会し、これに先立つ年間のコロンボ計画地域内における経済開発活動と開発援助の実績を検討するとともに、これに関連するいろいろの問題点を討議し、これを通じて地域内諸国の経済開発のための努力とそのための国際協力に正しい指針を与え、これを一層促進することを目的として毎年一回開催される会議である。東京会議は、出席各代表の積極的な努力によって十分討議の目的を達し、採択された年次報告書は、本年一月十二日に各参加国の首都で同時に公表された。なお、本年度(第十二回)の会議は、マラヤ連邦の首府クアラランプールで開催されることになっている。

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