その他の国際協力
(1) 米・英・加との協力
一九五八年六月の日米・日英原子力協定、一九五九年七月の日加原子力協定の締結をもって、原子力平和利用の分野におけるわが国の国際協力の基礎的態勢は一応確認され、これ等の協力協定を中心として各国との間に知識・技術の交流、資材の確保等、わが国の原子力平和利用研究開発上有益な協力が行なわれている。とくに米国との間には一九六〇年四月、日本原子力研究所の三実験装置に使用するため総計一〇五キログラムの20%濃縮ウランを賃借する細目協定を締結し、また、日英原子力協定の下では、一九五九年末、日本原子力発電会社が英国業者との間に改良コールダー・ホール型発電用原子炉購入契約を締結し、爾来、同炉導入のための準備が着々と進められている。同原子炉は一九六四年に完成する予定である。カナダでは、昨年三月、国際原子力機関との間に締結した協定により、日本が入手した天然ウラン3トンを含むウランを国産第一号原子炉用燃料に製造するための加工が行なわれた他、日本の各界の原子力関係施設でカナダ産の良質のウランを入手して研究用に使用している。
(2) ユーラトムとの関係
欧州原子力共同体(ユーラトム)は、一九五八年設立以来着実な発展を続け、西欧における原子力開発の一中心となってきている。わが国もユーラトムと正式の関係を樹立することが、わが国の原子力開発に資するところ大なるものがあると認められたので、本年三月二十八日付をもって、在ベルギー下田大使をユーラトムに対する日本政府代表に任命した。これによってユーラトムと日本との関係は、さらに緊密化するものと期待される。
(3) 国際原子力機関
国際原子力機関(IAEA)は、その創設の時期を終り、昨年に入って本格的な事業遂行の態勢を整えるに至った。わが国は、人類の福祉と繁栄のための原子力開発を促進せんとする同機関の事業の発展を希望し、その発足以来同機関の任務の遂行の準備と具体化について全面的に協力してきた。わが国は、第一回理事会以来、常任的に理事国の地位を占めている。また、昨年九月の第四総会では、古内大使(当時の在墺大使)を首席とする日本代表国が「保障措置」準備確立のために重要な役割を果した。すなわち、機関の援助活動に関連するすべての原子力活動が軍事目的の活動を助長することがないようにするための措置-いわゆる軍事転用防止のための「保障措置」-を、機関が効果的に実施するための態勢の整備が、機関発足以来懸案となっていた。第四総会で、この保障措置実施のための準則設定が最も重要な議題の一つとなっていたが、同準則の設定がそれ以上延引されることのないよう、わが代表団も努力し、同準則は、第四総会の決議により、本年一月の理事会に付託採択され、機関がこの重要な憲章上の任務を実施する態勢が整えられた。この結果、日米、日英、日加各原子力協定の保障措置の実施をIAEAに委託する道も開かれることになった。
2、犯罪の防止および犯罪者の処遇に関するアジアおよび極東研修所の設置
国連は、その通常技術援助計画の一環として、つとに犯罪の防止および犯罪者の処遇に関する地域研修所を世界の適当な場所に設置し、その地域からの研修生に対し社会防衛の分野での研修を行なわせようとする計画を有していた。その一つとして、アジアおよび極東地域の適当な場所に本研修所を設置することを勧告した決議が、一九五四年十一月、ラングーンで開催された犯罪の防止および犯罪者の処遇に関する第一回国連アジア極東地域セミナーにおいて採択された。国連事務局は、右決議の実施に関し、わが国のこの分野における技術的水準その他の事情により、この研修所を日本国に置くことをとくに希望する旨非公式に伝えてきたので、関係当局間で検討の結果、昨年五月十七日の閣議決定によって、本研修所をわが国に招請、設置することとした。
この研修所をわが国に設置することに関する国連とわが国政府との間の協定の締結交渉は、まず昨年六月東京において、国連側およびわが政府関係省係官の間で非公式に討議が行なわれ、これを基礎として、昨年十二月以降、ニュー・ヨークで正式交渉を行なった結果、両者の間に協定の案文について合意をみたので、本年三月十五日、国連代表松平大使とマーティン・ヒル国連経済社会担当事務次長代理との間で、この協定に署名を了した。
国際連合主催の第二次海洋法会議は、昨年三月十七日から六週間に亘りジュネーヴにおいて開催された。この会議は、一九五八年の第一次会議において合意に達することのできなかった領海の幅員および漁業水域の問題を審議したが、わが国からは、在スイス奥村大使を首席代表とする九名の代表団が参加した。わが国は領海の幅員に関する基本的立場としては、現行国際法上唯一の確立された規則として三海里をとるものであるが、第一次会議において三海里規則の成文化についての一般的合意が不成立に終った経緯を考慮して、第二次会議では、領海の幅員に関する新しい国際合意の成立により、現在公海上において行なわれている各種の不当な管轄権行使からわが国漁業が受けている実害が除去されるであろうこと、および今次会議が再び失敗すれば、従来領海幅員を三ないし六海里に維持してきた沿岸国グループに属する諸国の間でも、さらに領海拡張の気運が強くなるであろうこと等を考慮し、海洋国と沿岸国との利益を衡平に調整した成立の見込みある妥協案が提出された場合は、これに対し最も同情的考慮を払うこととして会議に臨んだ。
会議は、西欧諸国を中心とする漁業先進国グループとソ連圏およびアラブ諸国を中心とする沿岸諸国グループの対立に終始し、前者は領海を六海里とし、その沖合にさらに漁業水域(漁業については沿岸国のみが排他的にこれを行ないうるものとされる水域)として六海里を認める案を、後者は領海を十二海里までは自由に設定し得る案を主張した。わが国は前記の立場から、委員会においてはいわゆる米・加案(領海六海里、漁業水域六海里、ただし、漁業水域において漁業既得権のある国は今後十年間漁業継続が許される)に賛成したが、本会議において前記米・加案がさらに修正され、領海および漁業水域のさらに外側において沿岸国が漁業についての優先権を主張しうるが如き形となるに至ったので、ついに棄権するの止むなきに至った。修正された形の米・加案は、結局本会議(本会議における提案が採択されるためには三分の二の多数を要する)において、賛成五四、反対二八、棄権五をもって否決され、他方、十二海里案も賛成三二、反対三八、棄権一八をもって否決された。この結果第二次会議においても、領海の幅員についての新たなる国際的合意はついに成立することなく終った。