各  説

一 国際連合における活動その他の国際協力

国連第十五回総会

1 概  説

国連第十五回総会は、昨年九月二十日に開会し、十二月二十日一旦休会に入った後、本年三月七日に再開した。

この総会を通じてみられた国連の新動向とこれに対するわが国の立場については、総説において、一般的にふれたとおりである。ここでは、総会におけるわが国の活動を概観することとしたい。

第十五回国連総会に臨むわが国代表団の構成は、次のとおりであった。

政府代表    小 坂 善太郎         外務大臣

 〃      松 平 康 東         国連常駐代表

 〃      与謝野   秀         駐スペイン大使

 〃      福 島 慎太郎(再開会期のみ)  ジャパン・タイムズ社長

 〃      宮 崎   章         駐オランダ大使

 〃      鶴 岡 千 仭(前半会期のみ)  外務省国連局長

 〃      柿 坪 正 義         国連代表部公使

同 代表代理  高 橋   覚         外務省国連局参事官

 〃      星   文 七         国連代表部参事官

 〃      力 石 健次郎          〃

 〃      西 堀 正 弘         在アメリカ大使館一等書記官

 〃      久 米   愛         日本婦人法律家協会会長

小坂外務大臣は、総会開会前アメリカ、カナダを訪問し、その後、コンゴー問題審議のための第四回国連緊急特別総会に出席、引続いて第十五回総会に出席した。同大臣は九月二十二日の総会本会議において一般討論演説を行ない、まず、世界平和維持について国連の重要性が増大した事実を指摘し、各国が国連の機能の強化と権威の高揚に協力すべきである旨を強調した後、アフリカ問題、国際緊張緩和の努力、軍縮問題、大気圏外の平和利用、低開発国の経済開発等の諸問題等に関し、わが国の立場を明らかにして次のように述べた。

(1) 現下の国際情勢の下において、世界平和維持機関としての国連の機能の強化と権威の高揚に協力することは、加盟国の重要な責務であり、わが国としては、このような目的のために全面的な協力をするものであること。

(2) 現在国連はコンゴー問題という新しい試錬の前に立っているが、加盟国は一致してこの問題の処理のための国連活動を支持すべきであり、コンゴーに対する援助は、国連により、また国連を通じてのみ行なわるべきであるとの緊急特別総会の決議を遵守すべきであること。

(3) 東西間の緊張緩和については、東西間の話し合いを行ない得るような友好的雰囲気を作り出すことに努力すべきであり、これを阻害するような宣伝や威嚇等好ましからざる言動を慎しむべきであること。

(4) 近代兵器の発達が進めば進むほど軍縮問題の解決が困難となるから、速やかに軍縮問題の現実的解決の方向に努力すべきであり、まず現在管理可能であり、実行可能である軍縮措置から実施し、漸次その範囲を拡大して行くやり方が、現実的かつ建設的であること。

(5) 核兵器の拡散を防止するためにも、核実験停止協定の早期妥結のために一層の努力が払われるべきであり、また大気圏外の軍事利用禁止のため、およびその平和利用のための国際的合意に到達する努力が要請されること。

(6) 世界平和が一体不可分であるように、世界の経済的繁栄も一体不可分であるとの見地から、低開発国の経済発展のための国際協力を促進すべきであり、わが国としては、国連の諸計画に対し、積極的寄与を行なう用意があること。

今次総会におけるわが国の活動として特記しなければならないことは、国際司法裁判所裁判官に立候補した前最高裁判所長官田中耕太郎博士が、十一月十六日国連総会および安保理事会での選挙において、インド、パキスタン等の有力な対立候補を敗って当選したことである。わが国は、かねて法の支配による国際平和の維持と国際司法裁判所の機能強化を念願していたが、これによりそのための第一歩が築かれたわけである。もちろん今回の当選は、田中博士の学者としての声望と、わが国の文明および法体系の重要性とが世界的に認められた結果であるが、安保理事会および経済社会理事会理事国の当選に続いて、国連の主要機関である国際司法裁判所に裁判官を送り得ることとなったのは、わが国が国連加盟後四年にしてすでに国際社会において確固たる地位を確保していることを証明するものである。

総会前半会期において、わが国は、植民地独立許与宣言については、A・Aグループが同宣言案を起草するに当り、性急な独立許与は反っていたずらに混乱を招く所以を説き、その内容が穏健妥当なものとなるよう積極的に努力し、その結果これが事実上の満場一致で採択される端緒を作った。世上、同宣言の採択を人権宣言の採択にも比し、これが前半会期における唯一の具体的成果であると言うものもあるが、わが国がこれに対し少なからざる寄与を行ない得たことは喜ばしい。

軍縮問題については、核兵器に対するわが国の特殊の立場からA・A諸国とともに核実験停止に関する決議案を共同提案し、かつ、核兵器の拡散が国際平和に及ぼす脅威を防止するため、アイルランドとともに核兵器拡散防止決議案を共同提案したが、これらはいずれも反対なく、若干の棄権をもって採択された。

さらにわが国は、国連加盟国の増加が安保理事会および経済社会理事会の構成の上に公正に反映されるべきであるとの立場から、両理事会の議席増加のための国連憲章改正をかねてから強く主張しており、今回もこのための決議案の共同提案国となった。しかし、国連における中共の代表権が認められるまでは一切の憲章改正に応じないとのソ連側の主張および憲章改正をまつことなく直ちに現在の議席を再配分すべしとの一部A・A諸国の主張によって、同決議案は否決される結果となったのは遺憾であった。

また、昨年九月、わが国は、米・ソ両首脳会談を求めたガーナ、インド、インドネシア、アラブ連合、ユーゴーの中立五カ国決議案が、米・ソ双方の否定的態度により非現実的であることが明らかとなってから、行詰りの局面を打開するため、「主要国首脳による交渉を容易にする情勢の改善をはかる」との修正案を提出せんとしたが、その後状況の変化により、同修正案ももはや意義が認められなくなったのでその提出を見合せた。

再開総会会期においては、とくにコンゴー問題および南阿の人種差別問題が白熱した論議の対象となった。コンゴー問題について、わが国は、国連のコンゴーにおける活動を支持するとともに、コンゴー問題の解決は世界的視野の下に考えられるべき旨を強調し、かつ、国連強化の必要を指摘して加盟国の協力を要望するとの立場に立ち、A・Aグループの穏健派に属する諸国とともに、コンゴー議会の再開、コンゴー国内各派の和解をはかるための斡旋委員会の設置等を求めた決議案を提出した。同決議案は、ベルギー等外国軍事要員の三週間以内の撤退を求めたA・A急進派の決議案およびコンゴー議会の三週間以内の招集を求めたソ連決議案が骨抜きとなり、または否決されたのに対し、圧倒的多数をもって採択された。

南アの人種差別問題については、人種差別が人権および基本的自由の侵害であるとのわが国の立場を明らかにして、南アフリカ連邦政府が人道の声に耳を傾け、国連決議にそった人種平等、調和の方針をとることを希望する旨を表明し、インド、マラヤ等が提出した南ア連邦の人種差別政策を非難し、各国が同国の政策の廃棄を実現するための措置をとるよう考慮することを求める決議案に賛成投票した。これに対してアフリカ諸国の提出した南ア連邦との外交断絶、経済的ボイコット措置等を求める決議案については、わが国はこのような制裁措置の実効性が疑問であり、かつこれが話し合いの余地を残さなくなるとの見地から棄権したが、この決議案は必要多数が得られず、否決された。

右に述べた如く、今次総会におけるわが国の活動は必ずしも派手なものではなかったが、一貫して穏健、公正で現実的な立場をとり、A・Aグループの中にあってはつねにこれが急進的な動きを示すことを抑制し、建設的態度とるよう説得することに努力した。

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2 軍縮問題

十カ国軍縮委員会は、全面完全軍縮に関する決議が国連第十四回総会によって満場一致の支持で採択された後、昨年三月十五日から開かれた。開会冒頭西欧側は、完全軍縮達成の究極目標を掲げながらその実施期間については特定せず、まず各種軍縮措置の管理査察方法についての研究から開始し、その結果実施可能となった措置から、東西間の軍事力の均衡を保持しつつ順次実施するとの提案を行なった。これに対し、ソ連はフルシチョフ首相が一昨年九月国連総会で発表した全面完全軍縮案を基礎とし、四年間または予め合意される一定期間内に、すべての軍備を撤廃する案を提出した。その後約二カ月に亘って右の両案をめぐる討議が続けられたが、西欧側がまず具体的な軍縮措置、とくにその管理方法について討議を開始することを主張したのに対し、ソ連側は一定の短期間内に軍備を全廃するという完全軍縮の原則について合意に達することが先決であると主張し、結局委員会における交渉は討議のための共通の基盤を見出し得ないまま、六月二十七日、ソ連側の一方的退場により決裂した。

ソ連は、右会議決裂後直ちに軍縮問題を国連総会の議題とするよう要請、すべての軍縮討議を秋の総会まで持ち越す意向を明らかにしたが、これによって軍縮問題は再び国連に差し戻されることとなった。一方、西欧側には、十カ国委員会決裂後の善後措置を検討するため、国連軍縮委員会を開催するとの動きもあったが、しばらく冷却期間を設けるべきであるとの意見が大勢を占め、結局その開催は見送られた。しかるに米国は十カ国委員会決裂後の事態に一応のけりをつけ、西側諸国の立場を明らかにするため、七月下旬、早急に国連軍縮委員会を開催するよう要請し、同委員会は八月十六日から開かれた。

軍縮委員会劈頭、まず米国は、会議開催要請の目的は軍縮交渉を行なうことではなく、十カ国委員会の経過を報告し、軍縮交渉の再開について軍縮委員会がその影響力を行使することを希望するからであると述べ、米国が十カ国委員会に提出を予定していた提案の概要を説明した。これに対しソ連は従来の主張を繰り返し、軍縮問題はあくまで来たるべき総会で、各国政府首脳参加の下に審議すべきであるとの態度を持し、他方英、加、仏、伊の各国は、こもごも十カ国委員会において合意に達した主要点(完全軍縮の目標、兵力および通常兵器の削減水準、兵器用核分裂物質の生産禁止、国際警察軍設置の必要性等)を力説し、軍縮交渉再開の重要性を指摘した発言を行なった。

わが松平代表は八月十七日演説を行ない、軍縮交渉を宣伝から切離し、冷戦の具にしないよう大国に訴えるとともに、軍縮交渉の再開を要望し、軍縮交渉の進め方については、わが国としては大国間の直接交渉の形式が結局において最も責任あり、かつ効果的な方法であると考える旨を明らかにし、現在の軍縮交渉の進展のためには、他の交渉の成功も不可欠であることを指摘し、この意味から核実験停止会議の成功は、軍縮問題を効果的かつ現実的に処理するわれわれの能力を示す鍵となり、軍縮交渉の進展に新たな局面を開くものとなるであろうと述べ、核実験停止交渉の重要性を強調した。

軍縮委員会は翌十八日、「第十五回総会が軍縮問題を真剣に検討するよう勧告し、同問題の緊急性に鑑み、効果的国際管理を伴なう全面的完全軍縮問題が解決されるため、早急に交渉続行のための努力が行なわれることを必要と考える」旨の決議を満場一致採択したが、これによって問題はすべて国連総会に持ち越されるとともに、ここでの交渉の局面打開の努力の結果待ちということとなった。

国連総会における軍縮問題の審議は、ソ連提出の軍縮および第十四回総会決議(全面的完全軍縮に関するもの)実施状況、インド提出の核実験停止、アイルランド提出の核兵器拡散防止および国連事務総長提出の軍縮委員会報告の四議題を一括討議するという形で進められ、十月十九日から十二月十九日まで続けられた。この間、ソ連はフルシチョフ首相の演説に沿い、全面完全軍縮条約の早期作成および締結を勧告するとともに、社会主義国、西欧諸国および中立諸国の各グループが等しく代表されるよう国連事務局および安保理事会を改組し、かつ、軍縮委員会の審議のため、ソ連提出の全面完全軍縮基本条項その他の諸提案を送付することを求め、また、十カ国軍縮委員会の構成国として新たに中立主義五カ国(インド、インドネシア、アラブ連合、ガーナ、メキシコ)を加えんとする決議案を提出した。他方米、英、伊三国は、西欧側を代表して、効果的国際管理を伴なう全面的完全軍縮の最終目標を再確認し、それに至る諸措置の早期締結を希望するとともに、軍縮交渉の指針となるべき諸原則を勧告し、可及的速やかな軍縮交渉の再開を求める決議案を提出し、双方の立場は真向から対立した。もちろんこの東西の対立を打開するため、米・ソ両代表間の非公式会談もしばしば行なわれ、また中立主義諸国のあつ旋の努力も行なわれたもののいずれも奏功せず、結局軍縮問題の処理は再開総会に持ち越されてしまったが、これは軍縮問題の討議がコンゴー、アルジェリア等他の緊急重要問題の審議によって中断されたほか、米新政権待ちの状況で、東西いずれも積極的な方針を打ち出せなかったことに由来するものと考えられる。

わが松平代表は、十月二十八日軍縮問題について演説し、関係当事者間の交渉が、現在の行詰りを打開する唯一の道であり、特定の基本的問題に関する合意が望ましいものであることは疑いないが、これを交渉再開の必須条件とすべきでないと述べ、次いで十カ国委員会については、これが依然交渉のための最適な機関であり、大国が軍縮における主要な責任を負うものである以上、同委員会を改組すべき積極的理由はないとして、ソ連提案に否定的態度を示し、また核実験停止については、これが軍縮交渉の促進に資するとの観点から、協定の早期締結を強く希望し、軍縮達成の方法としては、国際管理制度の下における効果的管理を伴なう均衡のとれ、かつ、段階的な方法を支持するものであると述べて、軍縮問題全般に対するわが国の関心と立場を明らかにした。

総会政治委員会には右に述べた完全軍縮に関する決議案のほか、核実験停止、核兵器拡散防止、核兵器使用禁止宣言、アフリカ核非武装地帯設置等広い意味で軍縮措置に関連ある決議案が全部で十三提出されていたが、このうち前半会期では核実験停止および核兵器拡散防止に関する三決議が採択されたのみで、その他はすべて再開総会であらためて審議されることとなった。

しかるに再開総会開会後、同総会の討議を必要最少限度に限り、いわゆる冷戦に関係する議題の討議によって米新政権発足以後の国際的雰囲気が壊されるのを防止する趣旨から、軍縮問題の取扱いに関する米・ソ間の話し合いが、約三週間に亘って行なわれた。その結果、軍縮問題の審議を第十六回総会まで棚上げすることにつき合意が成立し、政治委員会は、六、七月の間に軍縮交渉開始につき関係国間の意見の交換を行なうとの米・ソ両国代表の発言を了承し、「軍縮およびこれに関連する懸案の諸提案を第十六回総会で検討する」との米・ソ共同決議案を満場一致採択した。このように米・ソ両国は国連の枠外で軍縮交渉再開の方途を検討することを約束したが、両国の間には依然、交渉再開に当っての参加国の範囲および交渉の進め方につき意見の対立が見られるので、その前途は楽観を許さない。

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3 核実験停止問題

一九五八年十月からジュネーヴで開催されている核実験停止協定締結のための米、英、ソ三国会議は、昨年末までに二百七十数回の会合を重ね、この間技術的なものが大部分を占めるとはいえ、協定条文の三分の二に相当する前文、本文十七条および附属書二を採択し、交渉は相当の進捗を示している。しかし依然として、核実験停止問題の核心をなす管理委員会の構成、現地査察回数、監視所の設置数、地下核実験の探知等重要問題に関する東西の対立は解消していない(本書第四号四二頁参照)。昨年三月、三国は探知困難な地震等級四・七五以下の小型地下核実験を協定の対象から除外し、右の地下爆発の管理方法改善のため共同研究を行なうこと、およびこの共同研究を行なう間、小規模の核実験を自発的に中止することに同意したが、共同研究実施の方法および自発的実験中止期間の二点について意見が対立し、昨年の交渉は、主としてこれら二点の対立打解を中心に進められてきた。

昨年五月の東西首脳会談の決裂以後、国際間に冷戦復活のきざしがみえ、また米国内には管理を伴なわない核実験停止を長期に亘って事実上強いられることから生ずる軍事上の不利益を脱却するため、実験再開論が強いと伝えられているにもかかわらず、ともかく、米・ソ間の交渉が三年に及んで続けられているという事実が、現在の国際政局に対してもつ意義は重視すべきであろう。これはもちろん協定成立を熱望する国際世論を前に、米・ソいずれも交渉決裂の責任を負いたくないとの消極的理由からだとの観方もあろうが、われわれは、両国が事態を現状のまま放置する際に技術的革新から必然的に生ずべき核兵器保有国の増大が協定の実施を困難ならしめること、およびこの協定が管理を伴なう一般軍縮協定の基礎としての重要性を持つことを十分認識した上で交渉に熱意を示しているものであることを信じ、双方のたゆまざる努力に対し敬意を表するものである。ケネディ米大統領は核実験停止協定成立に非常な熱意を示していると伝えられ、去る三月二十一日再開された三国会議において、米国は従来の主張を大幅に譲歩する修正提案を行なったが、われわれとしては、ソ連が、これに互譲と誠意をもって応えることを期待したい。

わが国は、小坂外務大臣が国連総会の一般討論演説で明らかにしたように、核実験停止問題については自己の体験から強い関心を有しており、核実験停止に関する協定が速やかに成立し、これが一般軍縮を促進する契機となることを衷心希望している。このような立場からわが国は、従来核実験の行なわれるごとに当該国に抗議し、その中止を求めるほか、国連加盟以来毎年、総会において核実験停止に関する決議案を提出してきた。

第十四回総会で、フランスの核実験に対し重大な懸念を表明し、その中止を要請する決議が圧倒的多数をもって採択されたにもかかわらず、フランスは核実験開始のための準備を進め、昨年二月十三日、四月一日および十二月二十七日の三回にわたり、サハラで核実験を行ない、米・英・ソ連に次ぐ第四の核保有国となった。わが国はこれに対し、その都度フランスに遺憾の意を表明するとともに、わが国が核実験の停止は人類の生存と福祉のため、一日も早く実現されるべきであるとの信念を機会あるごとに吐露してきたにもかかわらず、同国がこれを無視して実験を重ねたことは、わが国の要請に反するのみならず、国連総会決議に示された世界全人類の核実験停止への願望を裏切るものであるとの趣旨を申入れ、本問題についてのわが国の立場を明らかにした。

また、これとは別にフランスの核実験実施に対する措置を検討するため、国連A・Aグループは、昨年初頭以来しばしば会合したが、二月二日、わが国を含むA・A二十五カ国は国連事務総長あて書簡を発出し、右実験に対する懸念を表明するとともに、その内容をフランス政府に伝達するよう依頼した。二月十三日の第一回核実験実施後、A・A諸国はさらに対策を協議したが、三月十四日付書簡をもって、二十二カ国が事務総長に対し、この問題を検討するための国連特別総会を招集するよう要請した。わが国はすでにフランスに対して別個に申入れを行なった経緯もあり、かつ、総会において具体的成果が期待できない以上、他の方法を考慮すべきであるとの立場から、右書簡には署名しなかった。しかしフランスがわが国の申入れにかかわらず、四月一日第二回実験を行ない、これを中止せしめるには特別総会の招集も止むを得ないと考えるに至ったので、後に特別総会招集に賛成なる旨事務総長に通告した。フランスの核実験に対するわが国をはじめとするA・A諸国の強い意思表示にもかかわらず、五月の東西首脳会談を目前に控えて、特別総会招集はいたずらに事を荒立てるとの考慮から西欧、中南米諸国の間には、これに消極的な態度をとるものが多く、結局招集に必要な加盟国過半数の賛成が得られなかったので、この努力は結実するに至らなかったが、この問題を通じて、核実験停止問題に対するわが国の一貫した立場は十分明らかにされたものと信ずる。

第十五回総会においてわが国はA・A二十カ国とともに、ジュネーヴ交渉関係国が、適当な管理を伴なう核実験停止協定締結のための努力を継続し、かつ、現在の自発的実験停止を継続するよう要請し、また、その他の国も実験を行なわないよう要請する趣旨の決議案を提出したが、これは第十四回総会でわが国がA・A諸国とともに共同提案し、採択された決議と同趣旨のものであった。スウェーデン、オーストリアおよびインドは、右の決議案から「その他の国」の部分のみを削除した決議案を提出したが、わが方は、これでは現情に照して不十分であると考えたので、共同提案国に加わらず、賛成投票するに止めた。

わが松平代表は、十一月十五日右A・A決議案に対するわが国の立場を明らかにし、核実験停止に関する日本の立場は、第一に暫定的に核実験を停止すること、第二に有効な国際管理機構を設置すること、第三に核実験停止は他の軍縮問題と切離して解決することにあり、この決議案はこれらの基本的な立場をとり入れたものであるとして、その採択を強く訴えた。昨年末、総会の休会を控え、問題の多い軍縮関係決議案は、すべて棚上げされることとなったが、わが国の共同提案した核実験停止に関する決議案は、反対なく、圧倒的支持を得て採択された。核実験停止問題に対するわが国の関心と熱意は、フランスの核実験に対して示した態度および国連総会の決議採択に対する寄与によって十分示されたものと考えられる。

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4 核兵器拡散防止問題

アイルランドは、核兵器を保有する国の数が増加することは、国際緊張と世界平和維持の困難を増大し、全面軍縮協定の達成を一層困難にする惧れありとして、核兵器拡散防止の問題を第十四回総会で討議するよう要請したが、総会は、十カ国軍縮委員会がこの問題を検討することを求める決議を採択した。しかし、十カ国委員会がこの問題を検討することなく決裂したため、アイルランドは再びこれを第十五回総会の議題とするよう要請した。

わが国は、核兵器保有国数を現在以上に増加せしめないという核兵器拡散防止の実現には、政治的、技術的に若干の問題はあるとしても、これが有効に実施されることは国際の平和と安全の維持に寄与するものであると考え、かつまた、原子力の非軍事利用の方針を明白にしているわが国としては、積極的に本問題の解決に努力すべきであるとの考慮から、アイルランドの提出した決議案に共同提案国として加わった。同決議案は、すべての国に対し核兵器拡散防止のため恒久的協定成立に努力するよう要請するとともに、核兵器生産国に対し同協定成立までの間、暫定的、かつ自発的に核兵器非保有国に核兵器の管理を譲渡し、またはその生産のための情報を提供しないよう、さらに非保有国に対し、核兵器を生産その他いかなる方法でも取得しないよう要請するものであった。

わが松平代表は、十一月十五日、本問題について発言し、わが国は、相当進んだ原子力活動を行ないながら、原子力基本法で核兵器生産を自ら禁止しており、またわが国民は自己の経験から、核戦争の恐怖を知っているが、その日本が共同提案国になることによって、アイルランド決議案の意義がさらに大きくなることを希望するものであり、この問題は管理が困難なことは熟知しているが、緊急措置をとることは一層重要となってきたと述べ、この問題に対するわが国の熱意と立場を明らかにした。右の決議案は、昨年末総会において採択されたが、核実験停止および核兵器拡散防止の二決議案を共同提案し、これらを成立せしめたことは、核兵器問題に対するわが国の一貫した立場を示すものとしての意義があると考えられる。

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5 コンゴー問題

コンゴー政府からの軍事援助要請を審議した安保理事会は、昨年七月十四日、「ベルギー軍の撤退を要請し、かつ、事務総長に対し、コンゴー政府と協議の上、同政府に軍事援助を与えるため必要な措置をとる権限を与える」旨の決議を採択したが、この決議に基づき、事務総長は、直ちに国連軍をコンゴーに派遣するための措置に着手した。コンゴーに派遣された国連軍は、一九五六年のスエズ動乱の際設置され、現在なおエジプト・イスラエル境界線に配置されている国連緊急軍と同じように、戦闘行為を任務とするものでなく、コンゴーにおける治安維持の任に当るものであり、その構成も、五大国の軍隊を除外し、「国連の枠内におけるアフリカの連帯性」を示す意味から、アフリカ諸国の軍隊がその中核となった。国連軍のコンゴー進駐は、混乱せるコンゴーの社会秩序の回復に貢献するところ大であり、国連軍の活動開始により、その治安維持の効果は顕著なものがあった。

しかしながら、コンゴーの政治情勢は、次第に険悪の度を加え、まず、コンゴー南部のカタンガ州が分離独立を宣言して、ルムンバ首相の率いる中央政府と対立し、さらに九月上旬、コンゴー中央政府内において、カサブブ大統領とルムンバ首相の軋轢が表面化するに至り、コンゴーの事態は、各政党派閥間の国内抗争の様相を呈するに至った。加うるに、共産圏諸国およびガーナ、ギニア、アラブ連合、ユーゴーなどの中立主義諸国は、ルムンバ首相の立場を支持し、とくに共産圏諸国が、コンゴーの国内抗争に中立の立場をとっている国連軍は安保理事会の決定に違反しているとして、事務総長はじめ国連事務局の態度を非難するに至り、コンゴーにおける国連の活動は、重大な困難に逢着した。このような事態に対処するため、安保理事会は、再度、国連軍の権限について再検討を行なったが、九月十六日、ソ連が、テュニジア、セイロン提出の決議案に拒否権を行使したため、緊急特別総会が開催されることとなった。

九月十七日から開かれた第四回緊急特別総会では、アジア・アフリカ十七カ国が「事務総長に対し、引続き強力な行動をとるよう要請し、すべての国に対し、法と秩序の回復、コンゴー政府による権限の行使を阻害するおそれのある行動を差控えるよう要請し、すべてのコンゴー人に対し、コンゴー諮問委員会の任命するアジア・アフリカ代表の援助の下に国内抗争を平和的に解決するように訴え、すべての国に対し、国連の管理の下に使用されるべきコンゴー国連基金に拠出するよう訴え、さらに、すべての国に対し、国連が要請した場合を除き、武器、戦争物資および戦闘員その他軍事目的のための援助を、直接または間接にコンゴーに導入することを差控えるよう要請する」との決議案を提出した。

この決議案は、九月十六日の安保理事会において、ソ連の拒否権のために否決されたセイロン・テュニジア決議案とほとんど同じ趣旨のものであったが、これが、アジア・アフリカ諸国の共同提案として提出されたため、ソ連としても強硬に反対することができず、九月二十日、同決議案は、賛成七〇、反対なし、棄権十一(ソ連圏、南ア、フランス)をもって採択された。このように、緊急特別総会は、コンゴーにおける事態に対処するため、事務総長が従来からとってきた方針を支持し、さらに引続き、強力に行動することを確認したのである。わが方は、かねて、国連は、世界平和の維持と直接の関係を有するコンゴー問題の解決に失敗してはならないとの立場をとっており、アジア・アフリカ決議案を全面的に支持した。

コンゴー問題に対するわが国の態度は、緊急特別総会に引続いて開催された第十五回総会における小坂外務大臣の演説のなかに、明確に述べられているが、同大臣は、九月二十二日、一般討論演説においてコンゴー問題に言及し、コンゴー問題は国連の機能に対する試錬であり、その解決のためには、全加盟国の協力を必要とするものであり、コンゴーに対する援助は国連を通じてのみ行なわれるべきである旨を強調した。

しかし、その後、コンゴー国内各派の抗争は、ますます激しさを加えるとともに、ルムンバ一派を支持するソ連がコンゴーにおける国連軍の行動を非難して事務総長の解任を要求したため、コンゴー問題に絡まる国連の危機が叫ばれるに至った。さらに、本年二月、カタンが州に拘禁されていたルムンバ等の指導者が殺害されたとの報に接するや、安保理事会は、二月二十一日、「コンゴーの内乱勃発を防止するため、国連が、必要な場合には武力行使を含むあらゆる適当な措置をとるよう要請し、ベルギーその他の外国籍の軍人、政治顧問等をすべて撤退させるよう要請し、ルムンバ殺害について公正な調査を行なうことを決定し、かつ、コンゴー議会の招集とそのために必要な保障措置がとられるよう、また、コンゴー軍隊を再編成して、政治に介入させないようにするための措置がとられるよう要請する」との決議を採択した。この決議は、従前の国連決議とこれに基づく各国の義務を確認することによって、事務総長の立場と事務総長の示唆した事態解決の線を支持したものであり、その採択によって、国連の立場は、著しく強化されたと言い得よう。

本年三月七日に再開された第十五回総会再開会期においても、コンゴー問題は最も大きな問題であった。これより先、昨年九月の第四回緊急特別総会採択の決議に基づいて設置され、コンゴーの国連軍に軍隊を派遣しているアジア・アフリカの十一カ国をもって構成された国連コンゴー調停委員会は、本年一月、コンゴーへ赴き、各派政治指導者と意見を交換し、コンゴーの政治危機解決のための方策にっき検討を行なってきたが、その結果、各政治党派の参加する国家的に統一された仮政府の樹立を勧告するとの報告を提出した。

わが松平代表は三月三十日、本問題について演説し、わが国が国連のコンゴーにおける努力を全面的に支持することを明らかにした上、コンゴーにおける国連活動の最重要目的は外国の干渉を根絶することにあり、このため安保理事会がレバノンに設けた如き実効ある監視機関の設置が望ましい旨を指摘し、調停委員会の業績には敬意を表しつつも、コンゴー国民が自らの手で運用可能な国家組織を確立しなければコンゴー問題の解決はあり得ないとし、またコンゴー問題解決の効果的措置をとるためには国連の権限を強化すべきであり、国連事務局の機能を弱め、かつ、事務総長を特定の国家または国家群の代表とするが如き試みは憲章違反であるとともに、国連を破壊するものであると述べ、最後に、国連はコンゴー指導者間の和解の努力を援助するため、世界的な基礎の下に選ばれた少数の国によって代表される新しい機関を設置すべきことを強調して、コンゴー問題解決に対するわが国の所信を明らかにした。

コンゴーにおける国連の行動は、国連を特定の政治的目的のために利用せんとするコンゴー国内指導者および一部加盟国から非難をうけ、これが国連の必要とするコンゴー経費調達の困難と相俟って国連を危機に陥れていることは事実である。しかしわが国は、国連が常に厳密な意味で憲章の規定に従い、中立を維持するとともに、ベルギー軍撤退後の国内秩序の維持と民生安定に努力していることを信じ、このための事務総長の方針を全面的に支持しており、このわが国の立場を機会ある毎に宣明している(コンゴー問題に関するフルシチョフ首相あて池田総理大臣書簡参照)。わが国は、このような立場に立って、総会においては、A・Aグループ穏健派諸国とともにコンゴー問題に対処するため、国内指導者の和解等政治面の解決を重視し、かつ、国連の立場を強化する決議案採択に努力したが、右の松平代表の発言に表明された見解に則り、パキスタン等アジア・アフリカの十数カ国とともに、「コンゴー問題に関する国連の諸決議を再確認し、コンゴー当局に対し、問題の平和的解決を要請し、武器、軍需品のコンゴーへの持ち込みを防止するため事務総長が措置をとることが必要であると考え、すべての政治犯の釈放を要請し、コンゴー議会の開催を要請し、政治危機解決のため、総会議長の指名する七名をもって構成される調停委員会を任命し、コンゴー当局の国連の活動に対する協力を要請する」との決議案を提出した。右共同決議案は、四月十五日、総会本会議において、賛成六〇、反対十六、棄権二十三をもって可決された。

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6 植民地独立許与宣言

多数の新アフリカ独立国を迎えた第十五回国連総会が、反植民地主義の傾向によって彩られることはかねて予想されたところであるが、この傾向がフルシチョフ首相の反植民地演説によってさらにかきたてられたことは争えない。フルシチョフ演説の意図が、これによって植民地を持つ西欧諸国を非難攻撃すると同時に、新興A・A諸国の歓心を買うことにあったのは明らかであるが、同首相は昨年九月二十三日の一般討論演説において西欧の植民地主義を攻撃し、これら諸国は植民地住民独立の正当な権利を否認し、その要求の実現を妨げていると述べ、総会は植民地独立のための宣言を採択すべきであるとの主張を行なうとともに、この問題を総会の議題とするよう要請した。次いで、ソ連は、すべての植民地、信託統治地域および非自治地域に対し、即時無条件の完全独立を付与するとともに、在外軍事基地等他国領土における植民地主義の拠点を全廃すべしの趣旨の植民地宣言案を提出した。

他方、A・A諸国は、植民地問題に関し特別の関心を有するところからその取扱いについて協議し、独自の宣言案を作成するため起草委員会を設けたが、わが国もこれに加わった。同委員会は約一カ月に亘って宣言案の内容について検討し、植民地の独立達成に期限を設けるか否かの問題等に関し激しい議論の対立がみられたが、結局十一月二十八日、A・A四十三カ国共同提案で、「あらゆる植民地主義を早急、かつ、無条件に終結せしめる必要性を認め、従属民族に対するすべての抑圧的措置を停止し、民族自決の原則に立って信託統治地域、非自治地域その他まだ独立を達成していない地域の住民に対し、無条件にすべての権限を委譲する措置を直ちにとるべき旨宣言する」との案を提出した。このA・A宣言案は、ソ連案が植民地廃止に海外基地撤廃など東西冷戦を持ち込んでいた点を除去し、かつ、ソ連案が、植民地の即時無条件独立を求めたものであったのに対し、独立を可能にする措置を直ちにとることを要求するに止めて、独立達成に期限をつけることをやめ、その他冷戦に関連ある表現を避けるなど、もっぱら植民地の独立促進に重点を置いたことが特色であった。

わが国は起草委員会において、同宣言の内容を穏健妥当なものとすべきことを主張し、過激な主張を押えてその表現を緩和することに努力したが、A・A宣言案が加盟国多数の支持を得られる程度にまで緩和されたのは、わが国の努力によるところ大であった。わが国としては、同宣言案が、「政治的、経済的、社会的準備の不十分なことを口実として独立を遅らせてはならない」としているところ、最近の事例等からみて政治的準備不十分の独立附与は問題であり、「従属民族に対する武力行使を停止する」とあるのは、明らかにフランスのアルジェリアに対する行動を指したもので問題となる惧れがあり、さらに「独立に必要な措置を直ちにとる」とあるが、措置の内容いかんによっては、直ちに措置をとることが妥当であるか否か疑問である等の点を指摘して、同宣言案を一層現実的なものとするよう主張したが、このような意見はA・A諸国の多数によって認められるに至らなかったので、植民地の現状と現実的考慮から同宣言案の共同提案国とはならなかった。

わが宮崎代表は、十二月二日、総会本会議において発言し、総会が植民地主義を終熄せしめ、人類の史上に調和と協力の新時代を開くことを希望した植民地宣言を採択するよう要望した後、従属地域解放の過程は平和的、かつ、円滑であるべきであり、わが国は独立と自治への道を不当に宣伝するこころみには同調できないとし、植民地地域住民に対しては善意と協力に基づいて平和裡に独立への道を選ぶよう要請して、この問題に対するわが国の見解を明らかにした。

十二月十四日、総会はソ連宣言案の核心に相当する部分を否決し、結局A・A宣言案を賛成八九、反対なし、棄権九という圧倒的多数をもって採択したが、棄権したのは植民地保有国およびその与国だけであり、本宣言の支持数は総会で表決の行なわれた宣言および決議中最大であった。

植民地宣言の採択は、一般に低調であった国連総会の唯一の成果であるといわれ、これを歓迎する声が強い。もちろん、わが国としてもその採択に努力し、これに賛成した以上、その採択を喜ぶものであり、かつ、その歴史的意義を認めるのにやぶさかではなく、国連加盟国がこの宣言の趣旨を体して、速やかに植民地独立の準備を開始するよう希望するものである。しかし、われわれとしては、国連加盟国が、植民地宣言の字句にこだわり、これを政治的、道義的圧力の手段として自国の利益追求のみに利用し、植民地保有国の立場を顧慮することなく、性急、かつ、不当な圧力を加え、また、植民地住民を煽動して無用な混乱を起すことは厳に慎むべきであると考える。わが国としては、多くの地域的紛争問題をすべて植民地主義の問題としてとらえ、植民地宣言を援用して一方の当事者を非難するという行き方には同調し得ない。残念ながら、再開総会では、一部加盟国の間にこのような傾向が見られた。われわれとしては植民地宣言の歴史的意義を認めるが故に、すべての加盟国がこの宣言の精神を尊重すると同時に、その運用については十分慎重であるよう期待したい。

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7 その他の政治問題

(1) 安保理事会および経済社会理事会の議席増加問題

安保理事会および経済社会理事会を拡大するため国連憲章を改正する問題は、第十一回総会以来、毎総会で審議されてきたが、従来、ソ連圏諸国が、中国代表権問題が解決するまで、本問題の実質的審議に応じ得ないとの態度をとっていたため、総会は、何ら具体的措置をとり得なかった。

わが国はかねてより、国連加盟国の数が国連創設時に比して著しく増加している際、国連主要機関の構成を拡大して、これら機関における地域的配分の公平を確保することは、国連活動を強化するために妥当かつ必要な措置であると主張してきたのであるが、第十五回総会においても、小坂外務大臣は、一般討論演説の中で、新加盟国の数が増加して、国連加盟国数が、国連発足時のほぼ二倍に達した事実を国連の機構の上に反映させる必要のあることを指摘して、両理事会拡大問題の緊急な解決を要望した。

この問題を審議した特別政治委員会においては、中南米、アジア・アフリカ諸国が中心になって、三年以内に安保理事会および経済社会理事会の構成をそれぞれ十三カ国および二十四カ国に拡大するため憲章を改正するとの二つの決議案を提出した。ところが、アフリカの十数カ国は憲章改正をまたず、即時議席の再配分を行なうべきであると主張し、両決議案に対し、「地域的配分の公平を確保するため、現在の議席を再配分する措置を今会期中にとるべきである」との項を加える修正案を提出した。

わが国は、従来より、両理事会拡大の必要性を主張し、その実現を目的とする提案を積極的に支持してきたことにかんがみ、中南米、アジア・アフリカおよび西欧の四十数カ国とともに理事会拡大のための両決議案に共同提案国として加わった。しかしながら、アフリカ諸国の修正案については、わが方は、理事会の議席再配分そのものには何ら反対しないが、議席再配分を即時行なう場合は、すでに各地域グループ内およびグループ相互の間で取極めた両理事会の選挙方針を覆し、いたずらに混乱を巻き起すのみで、何ら本問題の解決に寄与するものでないと考え、両理事会議席の即時再配分に反対した。

これら各決議案および修正案は、特別政治委員会において、表決に付された結果、アフリカ諸国の修正案が、僅少の差をもって採択されたため、わが方としても、修正された決議案を支持し得なくなり、結局、修正された決議案は、僅少の差で否決され、わが国等多くの国の理事会拡大への積極的な努力も、実を結ぶことができなかった。

(2) 南ア連邦における人種紛争問題

南ア連邦政府の人種隔離(アパルトヘイト)政策に起因する人種紛争問題は、一九五二年の第七回総会以来、毎総会において審議され、その都度総会は、南ア連邦政府に対し、その人種政策について再考するよう訴えて来たが、南ア連邦政府は、このような総会の呼びかけに耳を籍さず、近年に至り、種々の人種差別立法を行なうなど、着々その人種政策を推し進めていた。他方、一九六〇年は、「アフリカの年」と呼ばれる如く、アフリカ大陸において幾多のアフリカ人国家の誕生が約束され、南ア連邦政府に対する風当りが、従来に比してかなり強くなることは予想されていた。

たまたま、昨年三月下旬、南ア連邦のヨハネスブルク近郊のシャープビルで、黒人に対し、黒人居住地域以外での身分証明書の所持を強制するパス法に反対するデモが行われた際、黒人デモ隊に警官隊が発砲したため、数百人の死傷者を出す事件が発生した。この事件は、全世界、とくにアジア・アフリカ諸国に異常な反響を呼び、国連のA・Aグループでも、早速、事態対処の方針が検討され、A・Aグループとして、本件を安保理事会で審議することを要請することになった。

わが国は、従来より、人道的見地から、人種差別に反対であるとの立場を明らかにしており、この基本的態度に基づき、A・Aグループの一員として、本件審議要請に参加した。本件を審議した安保理事会は、四月一日、「南ア連邦政府に対し、平等に基づく人種的調和をもたらすような措置をとるよう要請し、事務総長に対し、南ア連邦政府と協議の上、憲章の目的と原則に合致した措置をとるよう要請する」決議を採択した。

このように、南ア連邦の人種問題をめぐる国際情勢が微妙な動きを示す折から、昨年七月、A・Aグループを中心とする加盟国の間で、例年どおり「アパルトヘイト問題」を第十五回総会で審議するよう要請しようとする動きがあった。わが国は、人種差別反対の基本的立場より、かつ、この際、総会における建設的な討議が本問題の解決に有益であると考え、アジア・アフリカ諸国を主とする三十九カ国とともに本件議題採択を要請した。

本問題は、第十五回総会再開会期において審議されたが、わが柿坪代表は、本年三月三十日、特別政治委員会において、発言し、わが国の人種差別政策反対の立場を明らかにするとともに、南ア連邦政府が、国連の審議を国内事項に対する干渉であるとして国連の決議を無視していることを遺憾とし、人種差別政策が経済的にみても労働力の確保、国内不安による外国資本の引揚げ等の面より多大の損失を与えるものである点を指摘し、異なった種族により構成される社会の困難に理解を示しつつも、かかる政策を将来に亘つて実施して行くことは不可能であり、南ア連邦政府が国連の討議に参加して、人道の声に耳を傾けるとともに、国連決議に沿った人種平等調和の実現に着手することを衷心より希望する旨強調した。

なお、総会では、インド等五カ国提出の「すべての国に対し、南ア連邦の人種政策を撤廃させるための措置を考慮するよう要請し、南ア連邦政府に対し、憲章の義務に合致した政策を行なうよう要請する」決議案と「南ア連邦との外交関係断絶および南ア連邦に対する経済制裁を勧告する」アフリカ諸国提出の決議案が審議されたが、わが方は、南ア連邦に対する制裁措置は、現状においては、問題解決に何ら貢献せず、かつ、実行不可能であると考え、これに反対し、インド等四カ国決議案については、これが加盟国大多数の希望する現実的な提案であると考え、賛成した。結局、アフリカ決議案は、南ア連邦に対する制裁措置の項が否決されたため撤回され、総会は、インド等四カ国案を圧倒的多数の支持をもって採択した。

(3) 信託統治地域および非自治地域関係問題

国連憲章は、施政国が信託統治地域および非自治地域の統治を行なうに当って、住民の福祉を最高度まで増進させ、かつ、住民の自治または独立の達成を援助すべきことを定めている。総会におけるこれら両地域の問題の審議に臨み、わが国はつねに憲章の精神を尊重する立場から住民の政治、経済、文化等全般にわたる向上を重視し、かつ各地域の実情に即した早期の自治または独立の達成を支持するとの立場を明らかにしており、これら地域の現実を無視して、いたずらに、即時、自治または独立を認めよとの主張には同調しない。わが国としては十分の準備なくして自治または、独立を達成することが、必ずしも住民の福祉向上をもたらす所以ではなく、一見地道な努力を行なうことによって漸進的に住民の進歩を促進することこそ、憲章の目的を達成するための先決要件であると考える。第十五回総会においては、反植民地主義の傾向を反映して、信託統治および非自治地域関係の問題が華々しく討議されたが、わが国は右のような穏健な態度をもってその審議に対処した。

(i) 非自治地域とは何かという定義の問題が第十一回総会以来、毎総会で激しい議論の対象となっていたが、第十五回総会で、これは、地理的、人種的、文化的に本国から分離した別個の地域であって、政治、法律、経済、歴史の点では本国に従属する地域をいうとの原則が採択され、この問題に一応の終止符が打たれた。この原則は、第十四回総会で設置された六カ国委員会の報告に列挙されていたものであり、わが国もこれを支持した。しかるに一部諸国は、従来ポルトガルが同国の植民地はすべて本国の一部であるとの理由で、非自治地域に関する情報を国連事務総長に提出することを拒否していたことを非難し、右原則に基づいてポルトガルの全海外領土はすべて非自治地域であるとして、これに関する情報送付の義務ありと宣言する決議案を提出した。わが国は、右の原則は加盟国が情報送付を行なうべきか否かの決定を行なうに際し、その手引とするために作成されたもので、総会が予め十分の検討を行なうことなく、一方的に加盟国の領土を指定してその適用を強制するのは行き過ぎであり、自発的に原則適用の余裕を与えるべきであるとの考慮から同決議案に棄権した。

(ii) 南西アフリカ地域は、これを信託統治下に置かんとする累次の総会決議にもかかわらず、南ア連邦政府がこれを履行しないため、旧国際連盟時代の委任統治の形態がそのまま続いているという特殊な地域であり、かつ、また、南ア連邦政府が同地域においても人種差別政策を行なっているというので毎年総会で問題とされている。第十五回総会においても、再び同地域の問題がとりあげられ、「委任統治の解釈および適用に関する紛争は、話合いによっては解決されないものと認め、本年一月、エティオピアおよびリベリアがこの紛争を国際司法裁判所に提訴したことを称揚する」との決議案および「南ア連邦政府が、原住民の基本的人権および自由を侵害する政策を改めないことを遺憾とし、かつ、同政府の委任統治義務違反および人種差別政策を非難し、原住民の自治達成の方法を総会に報告するための南西アフリカ委員会が現地に赴くことを勧奨する」との両決議案を採択した。

わが国は第一の決議案には賛成したが、第二の決議案については、南西アフリカ委員会の現地派遣は事実上南ア連邦政府との交渉を招き、話し合いができないことを前提とする第一の決議案と矛盾する惧れがあり、また国際司法裁判所への提訴は南ア連邦政府との交渉が不可能であるとみなされることに発したもので、第二の決議案は提訴そのものを危くする惧れがあるとの観点から、これに棄権した。

わが国はこのように信託統治および非自治地域の問題に対し、つねに穏健かつ公正な態度をとり、過激な行き過ぎを是正し、もって健全な立場を貫ぬくことに努力した。

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8 田中耕太郎博士の国際司法裁判所(ICJ)裁判官当選

昨年十一月十七日第十五回国連総会および安保理事会で行なわれた国際司法裁判所(ICJ)裁判官通常選挙において、前最高裁判所長官田中耕太郎博士が、それぞれの絶対多数を得て当選し、わが国はここに戦後最初のICJ裁判官をヘーグに送ることとなった。

ICJは、一九四六年国連憲章およびそれと不可分の一体をなすICJ規程により設立され、現在規程加盟国は国連加盟国九九カ国とスイス、リヒテンシュタイン、サン・マリノを合わせた一〇二カ国である。裁判所は当事国によって付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、かつ、いかなる法律問題についても勧告的意見を与えることができる。裁判所は、徳望が高く、かつ、各自の国で最高の司法官に任ぜられるに必要な資格を有する者または国際法に堪能な法律家のうちから、国籍のいかんを問わず、国連総会および安保理事会で選挙される十五人の裁判官によって構成され、任期は九年で再選を妨げない。裁判所の継続性を保持する意味から、三年毎の通常選挙で五人の裁判官が改選される。

昨年の通常選挙で田中耕太郎博士と共に選出された裁判官は、P・ジェサップ(米国)、V・コレツキー(ソ連)、G・モレリ(イタリー)、J・ブスタマンテ(ペルー)である。

わが国は戦前、ICJの前身である常設国際司法裁判所に対して、一九二一年同裁判所の設置以来、ひき続き、織田万(一九二二~三〇)安達峰一郎(一九三一~三四)長岡春一(一九三五~四三)の三裁判官を送った。ことに安達博士は一九三三年から三四年まで同裁判所長を勤め、その業績は高く評価された。

一九四六年二月に国際司法裁判所が設立されるに及び、わが国は国連加盟に先立ち、一九五四年四月二日裁判所規程に加入し、さらに一九五八年九月十五日裁判所の強制管轄を受諾し、すべての国際紛争を国際司法裁判所による司法的解決にゆだねる用意があることを宣言した。

田中耕太郎博士の当選により、わが国は国際連合の主要な司法機関である国際司法裁判所において、世界平和の維持強化のために積極的に貢献できることになった。

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9 経済問題

国連総会では、経済社会理事会が春夏の二会期で審議したところに基づき、その第二委員会で経済問題を討議することとなっている。第十五回総会では二十に上る決議を採択したが、議論は従来にもまして低開発国の経済開発問題に集中した。

とくにアフリカの十六カ国とサイプラスをあわせ十七カ国の新独立国の加盟をみて、低開発国に対する援助の問題は、いよいよ緊急性を増した。経済社会理事会で新独立国援助問題に関する決議が採択され、同趣旨の決議が総会でも採択されたのも、この現われであるが、現在の国連の低開発国援助は、国連通常予算の一部による「通常技術援助計画」と、国連および専門機関加盟国の自発的拠出金による「拡大技術援助計画(EPTA)」および「特別基金」を通ずる技術援助であるので、必然的に国連通常予算の増額と前記自発的拠出金の増加が問題となっていた。しかし、通常技術援助計画の方は、従来の年間予算がわずか二百万ドル足らず(国連予算総額は約六千万ドル)である上に、低開発国を含む全加盟国からの義務的分担金によるもので、その増額は低開発国側にも負担増加となり、従って、技術援助財源の増額要請はもっぱら後者、とくに経済先進国からの自発的拠出金の増加に向けられた。一九四八年に始まった拡大技術援助計画に加えて新たに特別基金が発足した一九五九年に、両計画を合した拠出金の目標額として一億ドルが掲げられたが、実際の拠出額は同年が、五千五百万ドル、昨年が六千五百万ドルであった。そこで、昨年春以来国連の当局も関係国、とくに経済先進国(わが国を含む)に対して拠出増加により本年度は前記の一億ドルの目標額を達成するよう訴えていた(毎年総会開催中に、関係国による拠出申出会議が開かれ、その席上各国は翌年度の自国の拠出額を申し出ることとなっている)。その結果昨年十月十三日に開かれた一九六一年度の両計画に対する拠出申出会議では七七カ国から従来を二五パーセント余上廻る合計約八千九百万ドル近くの拠出申出が行なわれた(その後さらに増額ないし新たな拠出申出があり、現在は約九千百万ドルと見込まれている)。わが国は、一昨年、昨年とそれぞれ六一万五千ドルを拠出していたが、低開発国援助に対するわが国の熱意の現われとして、本年度にはその約三倍に達する約一八二万ドル余を拠出方申出て、大いに感謝された。

しかしながら、前記のような拠出の大幅増額にもかかわらず、低開発国側の援助要請はますます増加しており、第十五回総会では、前記の一億ドルの目標額を来年度は一億五千万ドルに引上げ、しかも経済先進国側に対して従来は拠出増加を「訴え」ていたのを「強く求める」とする決議案が、低開発国側から提出され、圧倒的多数で可決された。わが国としても、低開発国援助強化の必要性はよく理解しているが、前述のとおり従来の拠出額を三倍にした直後でもあり、今直ちに新たな増額の約束はでき兼ねるので、これに棄権した。

技術援助強化の他に、低開発国側は、国連が低開発国経済開発に自ら融資するための国連資本開発基金(UNCDF)の設置を原則的に決め、その具体案を検討する二十五カ国委員会を設けるとの決議案を提出した。これに対しては米、英、仏、加等大口の拠出を期待される先進国側は、前回総会でかかる低開発国経済援助のために設立を決定された第二世銀がやっと発足した直後であり、その業績も見極めないうちにまた新たな機構を設立することは尚早であり、かつ前述のように技術援助の資金さえも不足な折柄、第二世銀に対する出資の他に本基金にも拠出する財源の余裕もないので、まず現存の諸援助機構の充分な活用を計るべきだとして反対した。しかし多数を制する低開発国側はこれを押し切って採決を強行し、同決議案は結局採択された。わが国は従来からかかる基金設置が望ましいとは考えているが、大口拠出を期待される先進諸国の同意を得ないで設置を決議することは非現実的であり、また第二世銀にも多数の出資を予定し、さらに技術援助拠出金を三倍にしたばかりなので、差当り本基金に拠金は約束できないとの立場から棄権した。

低開発国への援助強化の問題については、さらにインドが、国連内外を問わず多角的双務的な経済技術援助促進のため、先進国がそれぞれの国民所得の一パーセントを提供すべきだとする決議案を提出した。しかしその内容が余りに強制的な色彩を帯びていたため、西欧先進国はもちろんソ連圏諸国、さらにはラテン・アメリカ等低開発国中にも批判が多かった。わが国も、「先進国」や「国民所得」の定義が不明確なのにこれが義務的な形をとっているため、種々の不公平を生じ得る等の点を指摘して修正を要望した。このためインドも漸次その内容を緩和かつ改善し、結局先進諸国が全体としてその国民所得合計額の一パーセントを提供するよう希望するとの趣旨になったので、満場一致で採択された。

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10 社会人権問題

(1) 社会人権問題は、第十五回総会第三委員会で審議され、わが国からは新たに久米愛女史が代表代理として同委員会に出席した。同女史は経済社会理事会報告に関する一般討論に当りわが国の見解を述べたが、その中で同総会で新たに加盟された諸国代表に歓迎の意を表した後、婦人の地位問題に関し、最近婦人の地位委員会が量的に活動を拡大してゆく傾向がある点を指摘し、質的な向上を図ることを要望し、また低開発国の婦人の地位向上に同委員会の果す役割の大である点に鑑み、アフリカその他低開発国が婦人の地位委員会に立候補するよう希望し、最後に国連の基本的人権擁護研究の実際面として、人権の分野における助言的事業の果す役割の重要性を強調、同計画に基づいて昨年五月東京で開催された国連人権セミナーの意義を報告した。

(2) 報道の自由に関する条約案に関しては、前総会から逐条審議に入り、前文および第一条が採択されているが、今次第十五回総会は同条約案でも一番問題の多い第二条につき討議した。本条は報道の自由を制限しうる事由を列挙しているが、これに対しては、(i)報道の自由条約案は報道の自由を保障するためのもので、制限事由を種々列挙することは、かえって自由を制限する危険があるとするもの、(ii)第二条に列挙されている制限は、報道の自由を保護し、濫用防止のため必要であるとするもの、および(iii)報道の絶対的自由を主張するものに意見が大別され、これらの考え方に沿った十余の修正案が提出されて激しい討議が行なわれたが、原案の制限事由を若干縮少したテキストの採択をみた。わが国は、報道の自由は絶対的なものではなく責任を伴なうものであり、ことに民主主義社会における意義からして厳格な義務を伴なうとして、わが国の憲法第二十一条および国内法の諸規定に触れた後、報道の自由の概念は、各国の社会および歴史により異なり、制限事由を列挙することは不可能であるとの観点から、制限事由をより一般的にすべき旨を述べ、最後の表決に当っては棄権した。

なおこれに関連して、昨年四月、第二十九回経済社会理事会で採択され、第十五回総会の議題にあげられていた報道の自由に関する宣言案は、時間不足のため次回総会にもち越された。

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11 国連に対する分担金の拠出

国連がその目的とする国際平和維持その他の任務を達成するため、年々多数の決議が総会、理事会等国連の機関によって採択されている。これらの決議は加盟国の多数意思の反映にほかならず、これによって国連の進むべき道が方向づけられる。国連がこれら決議によって課せられた任務を遂行して行くため、その裏付けとなる財政負担を履行することは加盟国の義務であり、憲章第十七条は、「この機構の経費は、総会によって割り当てられるところに従って加盟国が負担する」ことを定めている。国連に新たな任務を課しながら、その実施に必要な経費の分担に応じないのであれば、そのような加盟国は国連を強化し、かつ、これに協力して行く意思を有しないものと認定されてもしかたがない。しかし、その理由が何であるにせよ、現実にはこのような態度をとる加盟国が甚だ多く、国連は現在、発足以来最大の財政危機に直面している。このような事態は国連の無力化、あるいは権威の失墜を招来し、国連自体の存立をも危くするものであり、甚だ遺憾といわねばならない。

現在の国連の財政危機は、国連の活動拡大に伴なう通常経費の増加のほか、直接的にはスエズの国連緊急軍とコンゴーの国連軍に必要な経費が加盟国の負担となっていることから起ったものである。とくに国連軍の経費については、多くの中小諸国が滞納しているだけではなく、ソ連をはじめとする共産圏諸国のすべてが政治的理由から支払拒否の態度を表明していることがさらに事態を悪化せしめている(ソ連圏諸国の国連経費分担率は合計二〇%に達する)。国連がコンゴーにおける軍事的活動を維持するためには毎月約一千万ドルの経費を必要としており、事務総長はこれをまかなうため、与えられた権限の範囲内で、あらゆる方法を講じ、他の資金を流用、あるいは借用して当座をしのぐ一方、機会あるごとに加盟国に対し財政危機と分担金の支払いを訴えてきた。このような事態を背景として開かれた第十五回総会においては、国連の財政問題、とくにコンゴー経費の調達が大きな問題となることは明らかであった。

国連の財政は通常財政とそれ以外のものとの二つに大別できる。通常財政とは、国連のいわゆる恒常的経費であり、通常予算として毎年収支の見積りが行なわれる。通常財政以外のものとしては、第一にスエズ国連緊急軍(UNEF)経費や、コンゴー国連軍経費のように、一時的に多額の費用が必要となったものと、第二に、国連難民救済基金や拡大技術援助計画のように加盟国からの自発的拠出金によってまかなわれるいくつかの特別の基金があげられる。これらの予算はいずれも総会において審議され、決定されることになっている。

国連の通常予算は、一九五六年頃までは追加予算分を加えても大体五千万ドル止りであったが、その後大巾に膨脹の傾向をとり、本年はこれが七千万ドルを超え、前年に比べても一割以上の増加となった。これは国連加盟国が国連発足当時に比して二倍にふえた結果、国連の施設、事務費その他の面で必然的に支出が増大せざるを得なかったこと、第二に国連の機能強化ないし活動の拡大、特に国連を通ずる経済技術援助活動が次第に増大した結果、これに要する経費がふえたこと、第三にこのような国連の活動の強化に伴なって、国連自体の機構も拡大、充実してきたことなどによるものと考えられる。一九六一年度の国連通常予算は、第十五回総会において七、三〇〇万ドルと決定され、これが各国の分担率に応じ義務費として加盟国に割当てられるが、通常予算規模としてこれは国連発足以来最大のものであった。

わが国は、いたずらな国連経費の膨脹は容認すべきではなく、予算規模は必要な最少限度に抑えるよう努力すべきであるが、他方経費の分担は加盟国の義務であり、多数の国がこの分担義務を忠実に履行していないことは国連の存立を危機におとしいれるものであるから、これを是正する措置を講ずるとともに、加盟国が支払いの努力を強化すべきであるとの基本的態度をもってこの問題に対処した。わが力石代表代理は昨年十月二十五日、通常予算の問題について発言し、右の態度をさらに敷衍して、わが国の立場を明らかにした。

コンゴー国連軍経費についてみれば、一九六〇年七月から十二月までに要した費用は、総額六千万ドルと見積られたが、その経費分担方式に関する各国の意見がまとまらず、これをめぐって総会の議論が紛糾した。これら各国の議論を大別すれば、(1)コンゴー経費は憲章第十七条にいう「国連の経費」であり、全加盟国が応分の負担をなすべきであるとする西側諸国の主張、(2)コンゴー経費は植民地主義国の手先であるハマーショルド事務総長の独断専行によって生じたものであり、その負担に応じ得ないとするソ連圏諸国の主張、(3)コンゴー経費の必要性は認めるが、これを全加盟国の義務費とするのは不当であり、これをもっぱらベルギーの負担とするか、富裕国の自発的拠出によって賄うべしとする中南米およびA・Aの多数諸国の主張の三つが主なものであった。

このような各国の主張を反映して総会には、コンゴー経費を全加盟国の義務費とし、国連分担率に応じて一律に負担せしめんとするアイルランド等の決議案、コンゴー経費は自発的拠出によるべきで、とくにベルギーの負担を重くする一方、新加盟国および分担率の低い諸国の負担を免除せんとするポーランド提案、および同経費を全加盟国の義務費としつつも、大国、小国は応分の負担をなすべきであるとのテュニジア等の決議案の三つが提出されたが、結局このうち、最大公約数的性格のチュニジア案が採択されたため、他の二つは撤回されるに至った。採択された決議の内容は、コンゴー経費総額から米、英等国連軍の輸送に当った国の輸送費請求権放棄分一、一五〇万ドルを差引いた四、八五〇万ドルを、全加盟国に国連分担率に応じて割り当てることとするが、第十五回同総会で加盟を認められた新独立国および一九六〇年度の国連拡大技術援助の被援助国については、申出により、分担額を半額まで減免するという趣旨のものであった。

わが国は国連外交の基本方針に基づいて、コンゴー問題処理につき事務総長のとった措置を全面的に支持し、かつこれに要する経費は原則として全加盟国がその国連分担率に応じて負担すべきであるとの立場をもって本問題の審議に臨んだ。わが力石代表代理は十二月十三日、右のわが方の立場に基づいて発言し、コンゴー経費は現行分担率に従って全加盟国に割当てられるべきであるが、財源が限られ、割当額を全額負担し得ない多数の国が存在することに鑑み、これら諸国の分担を削減する措置を講ずべきこと、過去の経験に照らし、かつ、全加盟国の支払いを確保する意味から、コンゴー経費は国連通常予算のうちに計上されるべきであり、このための特別会計を設けることは賢明でないと考えることを明らかにし、テュニジア決議案支持を表明した。

総会は右のように昨年末までのコンゴー関係予算を決定したが、一九六一年度分については、コンゴー情勢が混沌としており、かつ、国連軍の一部撤退等の事情もあって予算の見積りが困難であったので、その審議を本年三月の再開総会に持ち越し、本年一月から三月までの分として二、四〇〇万ドルを限度として、暫定的に支出を認める権限を事務総長に与える決議を採択した。再開総会においては、事務総長が要請した一億三、五〇〇万ドルを対象としてコンゴー予算の審議が行なわれ、各国とも昨年の総会におけると同様の主張を繰返し、白熱的議論が展開された。結局総会最終日に至って、コンゴー経費の全面的な再検討は今秋の第十六回総会で行なうこととし、本年一月から十月までの予算として一億ドルを認め、昨年度と大体同様の方式で各加盟国に割当てるとの決議が採択され、これをもってコンゴー経費に関する審議は一応終了した。

しかし国連の財政危機は単なる予算額の決定のみによっては何ら解決されたことにはならない。加盟国が総会の多数意思を尊重し、その決定に従って自国の分担義務を履行することが、国連支持のためには強く望まれる次第である。事務総長はあらゆる機会に、「現状のまま推移すれば、国連は早晩破算せざるを得ない。その結果国連は事実上破壊される恐れがある。」と警告し、早期に加盟国が分担金を支払うよう強く訴えた。事実、昨年末現在で約三、六〇〇万ドルの国連分担金の滞納、不払いがあったが、現在の状態が今後続くとすれば、たとえば米国がコンゴーおよび国連緊急軍に要する経費の半額を拠出するとしても、この不足額は本年末には八、〇〇〇万ドルに達すると言われている。国連の通常予算が約七、〇〇〇万ドルであることからみて、この事態が国連自体にとっていかに憂慮すべきものであるかは明らかである。

国連の機能の強化と権威の高揚を念願するわが国は、かねてからこのような事態を矯正するよう強く訴えると同時に、卒先分担金の支払いを行なってきた。現在の如き国連の財政危機を脱するためには、あらためて加盟国の努力と協力が必要であることはいうまでもないが、わが国はこのような立場からすでに本年度通常経費分担額一三五万ドルの支払いを完了した。また昨年度のコンゴー経費およびUNEF経費については、国連の拡大技術援助受領国として本来の分担額を半額まで減免されることを認められているが、これによって算定されたコンゴー分担金五三万ドルおよびUNEF分担金二〇万ドルもすでに支払った。コンゴー経費をすでに払い込んだ国は本年四月現在で、米国、豪州、オランダ、アイルランド、トルコ、インドおよびわが国の七カ国のみであり、これによってわが国の国連協力の立場は内外にわたって明らかにされたものと考える。

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