五 海外移住の現状

1 邦人移住者の受入状況

(1) 受入国別移住状況

ブラジル

北部ブラジル わが国は昭和三十四年度(一九五九年四月~一九六〇年三月)において、十二月までに計画移住者として、マナオス郊外植民地に三〇名、キナリー植民地に四七名の邦人を送出した他パラナ州、アマゾナス州に六七名の呼寄せ移住者を送出した。

三十五年度はブラジル側の開発計画とも関連させて、マナオス、ロザリオ(マラニヨン州)、タイアーノ等に多数の計画移住者を送出し、また胡椒栽培を主眼としてトメアスーに第二植民地を開設するよう手配中である。

中部ブラジル 昭和三十四年度においては、十二月末までに計画移住者として、クビチェック植民地一〇一名、プナウ植民地五五名、レシーフェ市近郊分益農四六名を送出し、その他ピウン、リオ・デ・ジャネイロ州ミナス・ジェラエス州に一二名の呼寄移住者を送出した。

三十五年度にはクビチェック、プナウ等に数十家族の送出を予定している。

昭和三十五年六月にはブラジル石川島造船所がINIC(連邦移植民院)から導入許可を得て技術移住者の第一回四八名の送出をすることになつており、さらにウジミナス製鉄所等にも送出の計画が進められているので、農業以外のこの種移住者の数も次第に増大する見込である。

南ブラジル 昭和三十四年度においては、十二月末までに計画移住者としてマット・グロッソ州バルゼア・アレグレに四〇名、サンパウロ州コチア産業組合単独移住者一五四名、同夫婦移住者二八名および養蚕移住者九八名、計三二〇名を送出したほか呼寄せ移住者として、四、二九六名を送出した。この呼寄せの中には、豊和工業扱の技術移住者三七名が含まれている。三十五年度には、バルゼア・アレグレ向け移住者、サンパウロ養蚕移住者、コチア産業組合扱単独移住者等の計画移住者の他、呼寄による多数の雇傭移住者を送出すべく予定している。

ボリヴィア サンファン移住地は、地区内の道路が整備されればなお四五〇家族の送出が可能の見込みである。

なお、日ボ移住協定の線に沿い、三十五年度初頭にワルネス西方所在のドイツ系製糖会社へ供給する甘蔗栽培のために一〇〇家族送出方の申入れがあり、目下在ボリヴィア日本公使館でその具体案を検討中である。

その他、三十四年度に調査団を派遣して調査を行つたヴィリヤモンテス地区についても三十五年度中に更に計画を具体化すべく検討中である。

ドミニカ 昭和三十四年度は、八月までに二七家族一二三名を送出したが、その後はドミニカ側の国内事情により、一時移住者の受入れが延期されている。しかし入植者が予想以上の成果をあげているので、ド国側からは大いに期待をかけられている。三十五年度の受入れについても、目下在ドミニカ日本大使館と同国政府との間で交渉中であるが、近くその具体案が得られる見込みである。

アルゼンティン 昭和三十四年度には、十二月末までに一八家族一〇八名を送出した。すなわち、ミシオネス州ガルアペーには一六家族、その他ブエノスアイレス、メンドーサ、ミシオネスの各州に呼寄せ移住者二二名である。

三十五年度においては、ガルアペーに未送出の五四家族を送出する予定で、目下募集中である。

その他、メンドーサ州アツェルスツドにも、購入した移住地に、二〇家族を送出する予定で目下準備中である。

これらとは別に最近ア国人経営農場から邦人移住者を雇用したいという申出があり目下その条件を調査中であるので、この結果によつては三十五年度に相当数の雇用移住者の送出も見込まれる。

パラグアイ 昭和三十四年度には十二月末までに、フラム地区に呼寄せ移住者三家族十八名、第二スペイン地区に二〇家族一一三名、CAFE地区に呼寄せ移住者一家族、四名を送出した。

しかし、後述のとおり、アルト・パラナ地区の造成および他地区の新規購入を急いでおり、三十五年度の二四〇家族を手始めとしてなるべくすみやかに協定の定めている年間送出数に達せしめるため現在努力中である。

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(2) 移住者送出実績および送出予定

一九五二年にわが国の移住が再開されてから、昨年十二月末に至る間の渡航費貸付移住者の送出実績は、総計三五三七一名でその年度別、国別内訳は左表のとおりである。

三十四年度は十二月末までに五、三五一名を送出したが、年度内になお二、五〇〇名程度を送出する予定であり、合計八、〇〇〇名程度の実績をあげることとなると思われる。

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2 日本海外移住振興株式会社の役割

移住事業に関する資金面の援助を初めとし、営利事業として実施し得るしまた実施した方が適当と思われる事業は、日本海外移住振興株式会社が担当している。現在同会社が行なつているのは移住地の購入、造成、分譲等の植民地事業と移住に直接または間接関係する事業に対する投融資事業である。同会社は、一九五五年九月の設立で現在ブラジル国には同国の法律に基づく現地法人として本店をリオ・デ・ジャネイロに支店をサンパウロおよびベレンにそれぞれ設けているが、さらにパラグァイ国にはアスンシオンに支店を、アルゼンティン国ブエノスアイレスおよびボリビア国サンタクルースにはそれぞれ本社の駐在員事務所を設けている。

資本金は、政府および民間の出資をあわせ一八億円に上るが、この他に米国三銀行との間に締結された移住借款契約に基づく借入金四五〇万ドル(邦貨一六億二〇〇〇万円)が資金源となつている。

昨年十二月末日までに行なつた投融資総額は次表のとおり、約一八億円に達している。

その事業実績の主なものは次のとおりである。

(1) 移住地の購入

フラム移住地 パラグァイ国に一九五六年設定した入植用分譲地であつて、昨年さらに八六〇ヘクタールを買い増したので、総面積は約一五、七〇〇ヘクタールとなつている。これに対する移住者数は昨年十二月末までに三四三家族二、二二四人であるが、本年五月さらに二〇家族が入植の予定である。

アルト・パラナ移住地 パラグァイ国の前項フラムに近く、アルト・パラナ河沿いの土地で一九五七年購入したピラポ地区に昨年購入したカレンディおよびアカカラジャ地区を合せて、総面積は約八五、六〇〇ヘクタールである。昨年来所要の造成工事を進めているが入植は本年六月より開始し、年内に二四〇家族を受入れる予定である。

ガルアペー移住地 一九五七年一月アルゼンティン国に対する開拓移住者として四〇〇家族(年間八〇家族ずつ五年間)の移住枠が認められたので、会社は同年七月三十一日年間送出枠八〇家族に見合う移住用地として、ミシオネス州ガルアペーに面積三、一一〇ヘクタールの土地を購入した。入植は昨年二月から開始して同十二月末までに二六家族一三九名を送り出した。

アンデス移住地 アルゼンティン国メンドサ州に昨年三月十日一、〇三〇ヘクタールを、さらに十月六日二八二ヘクタールをそれぞれ追加購入して計一、三一二ヘクタールとなつている。八〇家族を入植せしめる予定で目下造成のための測量を急いでいるが灌漑可能な程度に整地する必要があるので、入植開始は本年後半となる見込である。

バルゼア・アレグレ移住地 ブラジル国マット・グロッソ州に一九五七年九月二十四日約三八、〇〇〇ヘクタールを購入した。その中第一次分譲一、六〇〇ヘクタール(六二戸分)についてはすでに造成工事を完了して、昨年十二月末までに一六家族九九名が入植している。同植民地には本邦からの新移住者とともに既移住のコロノ独立希望者をも受入れる計画である。

ガタパラ移住地 会社は、全国拓植協同組合連合会の依頼により、一九五七年五月三十日ブラジル国サンパウロ州ガタパラに七、二九四ヘクタールの土地を購入した。同組合では、本年中に造成工事を行ない来年から本格的入植を計画しているが受入れ家族数は四〇〇を予定している。

サント・アントニオ移住地 ブラジル国サンパウロ州のロレナ市(リオ市とサンパウロ市の中間)近郊に七八四ヘクタールを購入した。目下造成中で一〇五家族の入植が予定されている。

フンシャール移住地 ブラジル国リオ・デ・ジャネイロ市近郊に一、〇一五ヘクタールを購入した。

同地には七七家族を入植せしめる予定で現在造成中である。

マリオ・トワルシー移住地 ブラジル国サンパウロ市東北八五粁の地点に六一三ヘクタールを購入した。入植予定数は九五家族で目下ロッテ割(区劃の割当てを行なうこと)施行中である。

入植時期は、前記(7)および(8)と同様本年後半となる見込である。

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(2) 派米農業労務者に対する渡航費貸付

米国カリフォルニアで就労する派米農業労務者に対して渡航費の貸付を行なうもので、昨年十二月末までの被貸付者数は二、〇一二名に上つている。

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(3) 開拓移住者に対する貸付

開拓移住者が必要とする農機具施設を取得するための資金および営農資金の貸付(渡航前は農機具、交通運搬機関等の購入資金および営農資金として一戸当り五〇万円まで、渡航後は共同利用施設購入資金および営農拡張資金として一戸当り三〇万円まで)を一九五六年度より実施している。昨年十二月末までに渡航前融資は一一九家族五、二九〇万円、また渡航後融資は四一件約一億四、七二八万円の実績をあげている。

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(4) コロノ独立援助資金の貸付

コロノとして移住した者が雇傭契約を終えて独立する段階に達した場合、土地の取得および造成のために一戸当り五〇万円までを独立援助資金として貸付けた。これは昭和三十三年度に実施し一一八家族に対し約五、九三八万円の貸付けを行なつた。三十四年度は取り止めているが、その再開につき目下検討中である。

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(5) 企業に対する投融資

企業に対する投融資は現在までに一四件を算えているが企業に対する貸付けは円またはドル建を建前としているため、企業者側は、最近の中南米諸国とくにブラジル国における為替変動による為替差損をおそれて極めて消極的である。また、現地通貨建による融資は三十四年度より原則として行わないこととなつた。

一般に企業に対する投融資は企業技術移住の見地からも大いに促進すべきものであるので、その隘路について現在折角検討中である。

   移住振興会社投資実績

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3 邦人の海外渡航

邦人の海外渡航は一九五二年平和条約締結以来昨年に至るまでの間、一昨年が前年よりわずかに減少したのを例外としてその他は毎年一〇~三七%程度づつ増加している。

昨年外務本省で発給した旅券の総数は四二、四九九冊(旅券の冊数は渡航人員と同一ではない。十五歳未満のものは各三人まで両親の旅券に併記できるからである。渡航人員については別表二を参照)で、前年の三六、六四六冊に比して五、八五三冊(一六%)の増加を示し、一九五二年における発給数の三倍以上にのぼつている。本年はわが国経済界の好況が予想されるのに加えて、貿易および為替自由化の措置がとられ渡航用外貨の制限が大巾に緩和されるので海外渡航者の数は一層加するものと予想される。

昨年中における発給旅券四二、四九九冊の渡航目的別内訳は、商用が一三、一五七冊で総数の三一%を占め、以下永住」一二、四〇六冊(三〇%)、文化関係五、〇九四冊(一二%)、役務契約三、一八四冊(七%)、公用三、一一九冊(七%)その他五、五三九冊(一三%)となつている(別表一参照)。永住渡航者の数は過去数年間首位を占めていたが、一九五六年をピークとして漸減し昨年は商用に次いで二位となつた。これは駐留軍の引揚にともなう国際結婚等の減少によるものとみられる。他面商用とくに特別外貨によるものは毎年著しく増加(一昨年を除く)し、昨年の増加数は前年比全増加数(五、八五三冊)の半ばを占めた。

別表一

    昭和二十七年以降旅券発行状況

なお昨年一月六月における一般旅券による地域別渡航者延べ数は三七、三六四名(前年同期三〇、八一三名)で、その内訳はヨーロッパ一〇、三二一名(二八%)、アジア一〇、一八六名(二七%)、北米九、九二四名(二七%)、中南米五、一七三名(一四%)、アフリカ九一八名(二%)、太洋州八四二名(二%)となつている(別表二参照)。北米は一九五七年までは一位を占めていたが一昨年、昨年にはそれぞれ二、三位に低下した。これに反しヨーロッパは逐年増加して北米を凌ぐにいたつた。なお年間渡航者が大体二千名以上を算えられる国は、アメリカを筆頭にブラジル、香港、タイ、連合王国、ドイツ、フランス等である。

別表二

    地域別渡航者数

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