各国における対日輸入制限運動

 

1 米   国

 

(1) 米国における輸入制限運動は、昨年さらにその範囲を拡げて活発に行なわれた。とくにわが国の輸出品に関しては、輸出量が著しく増大するにつれて、輸入制限運動が次々と具体化するに至つている。而してこのような輸入制限運動が表面化し、関税委員会の調査等の具体的措置がとられても、完全に成功を収めたものはほとんどないが、輸出が急激に増大する商品に対しては必ずなんらかの抵抗が生ずるという傾向は、ますます顕著となつてきている。

(2) まず米国議会を中心とする輸入制限運動についてみると、昨年の議会第一会期には、まぐろ(、、、)合板その他の輸入数量制限を目的として、各種の輸入制限立法が提出され、議会を中心とする輸入制限運動が活発に行なわれたが、法案として成立したものはなかつた。他面また、エスケープ・クローズ調査、ダンピング調査等行政機関の手続による輸入制限運動も次々と展開されている。昨年、エスケープ・クローズに基づく輸入制限を行なうか否かにつき、関税委員会の調査の対象となつたわが国の商品は、合板、絹織物、鋏、手製硝子製品、丸釘、革手袋等であつたが、これらの輸入により米国の国内産業が被害を蒙つていると判定されたものはなく、したがつて輸入制限措置をとられたものはない。ただ一昨年以来関税委員会によつて補足調査が実施されていた金属洋食器に対しては、大統領の最終裁定があり、その結果昨年十一月よりタリフ・クォータ制を採用、五七五万ダースまでは現行関税率を適用し、それを超える輸入分については一定の高率関税が課せられることとなつた。次にアンティ・ダンピング法違反容疑に基づく財務省の調査については、塩化ビニール樹脂、グルタミン酸ソーダ、ジッパー、二酸化チタニウム、シャベル、鉄管継手等が前年に引続き調査を受け、また塩化シアヌール、冷凍ます(、、)、鉄鋼製品、真鍮フランジ、葉酸等が新たに提訴を受けたが、昨年後半に至り、その大半がダンピングの事実なしとして却下され解決している。

(3) 輸入制限運動が広くその活動分野を拡げてゆく例として、互恵通商協定法のOCDM(民間国防動員局)条項による提訴、農業調整法第二十二条による提訴等が昨年新たに利用されている。米綿業界は、農業調整法第二十二条に基づき、綿製品の輸入が米国の農業計画を阻害しているか否かにつき農務長官に調査を申請したが、大統領は十一月関税委員会に対し、輸入綿製品の原綿含有量一ポンド八セントの課徴金を徴することが適当かどうかにつき調査を命じている。また米電子業界は、昨年九月よりわが国のトランジスター製品の輸入が米国防衛産業に打撃を与え米国の安全を脅かしているとの理由でOCDM長官に提訴したため、OCDMによる調査が行なわれている。またわが国のミシン業界は、昨年一月米国シンガー社により、いわゆる不公正競争防止条項である関税法第三三七条に基づく提訴を受け、関税委員会の調査が行なわれていたが、年末に至りシンガー社自身独禁法違反容疑で米裁判所に起訴されたので、その結果が判明するまで、関税委員会の審議は停止された。

以上の他、昨年輸入制限運動の対象となつた品目には、既製服、洋傘、皮革製品、タイル、加工ビニール製品、クリスマス電球、装身具等がある。

(4) 他方輸入制限運動に関連する明るい出来事としては、昨年九月まぐろ(、、、)問題に関する日米政府会談が東京で開催され、資源保存、漁撈技術、利用加工技術、市場等に関する情報、意見の交換を行なつた。この会談には業界の代表も参加したが、両国間の相互理解と協力関係を促進する上に貢献し、米国における輸入制限運動防止のためにも好影響を与えたものと思われる。

(5) 以上のように、昨年の輸入制限運動は、金属洋食器の例を除き、具体的措置のとられたものはなかつたが、その動きが広汎にわたつたことにもかんがみ、今後の動向についてはわが国としても不断の注意を払う必要がある。けだしもしこれらの運動が今後さらに表面化し、輸入制限法案の成立、関税引上げ、数量割当等に発展してゆくことがあれば、わが国の対米輸出が重大な影響を蒙ることは必至である。政府は従来ともこのような輸入制限運動の激化を防止し、米国市場を維持し発展せしめるため、国の内外を通じて種々の努力を試みて来た。すなわち内においてはわが国業界と協力して輸出秩序の整備強化に努め、外においてはわが外交機関を通じて米国政府と十分忌憚のない意見の交換を行うとともに、在外公館を動員して、米議会、業界団体等との接触をはかり、各種の広報活動や情報の収集等を行なわしめているが、今後ともこのような努力を強化して行く方針である。

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2 カ ナ ダ

 

(1) わが国のカナダ向け輸出の見通しは概して明るいが、同時にまた、わが国の輸出が伸張するにつれてカナダ生産業者の間に対日輸入制限運動が活発化しているので、楽観はし難い実状にある。一般にカナダでは、米国におけるように輸入制限運動が直接政府に対する陳情という形をとつて表面化することが少ないが、最近にいたりカナダ業界および政府から多数の品目について、わが国の自主的規制を求めて来ており、一般に輸入制限運動の激しさは、米国のそれにも劣らぬ状態である。

(2) カナダの輸入制限運動は、昨年はとくにスフ二次製品に集中した。すなわちわが国は、一九五六年以来綿製品の輸出規制を実施して来たが、一昨年後半からスフ二次製品のカナダ向輸出が急増したことは、カナダ業界の輸入制限運動を誘発し、カナダ政府は再輸出規制の実施を申し入れてきた。ここで、わが国においても対策を検討した結果スフ二次製品の輸出規制を実施することとなつた。そのほか、綿製品および合板に関する自主規制を継続し、金属洋食器についてもカナダ国内で輸入制限運動が激化したため数量規制を開始した。なお規制開始には至らないが問題になつている品目としては、ゴム靴、プラスティック・レインコート、合繊製品等があげられる。

(3) わが国今後の対加輸出については、カナダ側の輸入制限運動を誘発しないように輸出の漸増を図ると同時に、輸出商品の構成を従来の軽工業品中心から重工業品中心とするように努力を行なう必要がある。

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3 欧   州

 

(1) 欧州においては米加等と異り、主要各国は、いずれも従来から輸入数量制限の設定、あるいは輸入許可発給の際の厳重な個別審査等の手段により、政府の手による対日輸入制限を維持しているので、わが国としてとるべき対策の第一は、あくまでガットの枠内での多角的な話合いあるいは二国間交渉の形式による政府間の話合いである。

このような意味で、わが国は昨年においても、西ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、オーストラリア、ポルトガル、ベネルックスの諸国と対日自由化に関する話合い、貿易取極交渉、あるいは当該国とわが国との貿易関係一般の是正に関する予備的話合い等を行なつた。

(2) 一方、欧州諸国の民間業界は、前述のごとく政府の輸入制限措置によつて保護されているので、目下のところは対日輸入制限というよりは対日輸入自由化反対運動を展開することにより、政府が繊維、陶磁器、雑貨等の対日輸入を拡大することのないよう運動している。しかしこれら民間業界は、大むねわが国産業の現状を正確に認識しておらず、わが国の産品に対しては低賃金による極端な低価格品というレッテルをおしているのみならず、わが国がすでに米、加等向けの輸出について実施している自主的輸出規制の実効性に対しても不信の念をもつている向が多いので、わが国としてはつとに各種の啓蒙手段により、これらの誤つた日本商品観を是正することに努めているが、さらに昨年末以来ハンブルグを中心として啓発活動を一段と強化することとした。

(3) なお欧州諸国の中、わが国からの輸入に極めて自由な待遇を与えているデンマークとスイスの両国においては、米、加と類似した対日輸入制限運動が行なわれているが、わが国はデンマークについては昨年五月から主要繊維品の輸出について自主規制を開始するとともに、さらに同十一月規制内容の改善をはかつた。またスイスについても、昨年二月繊維の自主規制適用品目を拡大し、かつスイス政府との間に随時協議を行なつて問題を解決することにしているので、昨年中を通じ、これら二国のいずれにおいても対日輸入制限の強化は行なわれなかつた。

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4 豪   州

 

(1) 一九五七年七月に成立した日豪通商協定は、昨年七月から協定第三年度を迎えたが、この間日豪質易、とくにわが国の対豪輸出は、次表に見るとおり堅実な歩みで伸長している。

対豪貿易の動き)通商統計、単位一、〇〇〇ポンド)

  協定年度(七月-六月)    対豪輸出   対豪輸入
一九五六-五七年度(協定前年度)   一〇、〇五七  一二三、六二三
一九五七-五八年度(協定第一年度)   一九、八六五   九三、五七八
一九五八-五九年度(協定第二年度)   二三、七四六   九〇、二一九

しかしながら、豪州側協定成立当初から、本邦産品の対豪進出に危惧の念を抱いていることは、日豪通商協定の内容からもうかがわれるところで、同協定は、相互の最恵国待遇供与を基礎としながらも、日本品の輸入の急増によつて豪州産業が重大な損害を受ける事態が発生した場合は、豪州政府はわが政府と協議するが、必要な場合には、本邦産品に対して緊急関税の賦課または数量制限等の措置をとることができる旨の規定措置かれている。さらにとくにこの問題に対処するため、豪州官民の意見開陳の場として一種の部会(パネル)が設置されているほか、貿易省の諮問に応じて実態を調査し、執るべき措置を勘告する機関としてマッカーシー委員会が設けられている。

(2) 協定成立以来マッカーシー委員会に付託された事例は、綿プリントを始めとして一九五七年に六件、一昨年に三件発生したが、昨年前半には、一昨年に付託された水彩絵具に関し、わが国の意向を参酌して再付託が行なわれたのみで、新しい付託は行なわれなかつた。しかしながら昨年七月末に至り、協定成立以来最初の事例として水彩絵具につき前記緊急措置が発動され、対日輸入ライセンスの停止が行なわれたが、ついで十月には従来のこの種問題に対する取扱振りとは全く異なつたかたちで、化合繊織物の輸入制限が取りあげられた。

また従来は数量的な輸入の急増に対する輸入制限運動が主であつたが、一昨年暮には塩化ビニールを始めとし、キャパシターおよび猟銃用照準器についてダンピングの疑いがあるとして豪業界の陳情が行なわれた。これは、形式的には本邦産品の進出に対する差別的な動きとは言えないが、実質的には対日輸入制限の一類型と考うべきものであり、この意味で注目に値する。

(3) 日豪通商協定成立以来、対日輸入制限問題は日豪両国政府の努力によつて、とくにわが国が積極的に自主規制を実施したことにより、前述の水彩絵具の場合を除いては、さして深刻な事態にたち至ることはなかつた。しかしながら豪州の輸入制限は、米、加等のそれとは大分趣を異にするものであつて、たとえ当該商品の輸出額が極めて少額であつても、豪州国内の企業に損害を与えるか否かが問題であり、かりに本邦産品の進出によつて損害を蒙るのが一社であつても、豪州政府としてはこれを取り上げざるを得ない模様である。しかのみならずこの問題は、豪州のガット第三十五条の対日援用撤回問題と密接な関係にあるので、わが国としては、今後もつねに監視を怠らず、適時適切な対策を講じて行く必要がある。

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