貿易支払取極関係 |
一昨年四月二十五日調印された日英貿易取極(「わが外交の近況」第三号一三九頁参照)の有効期間は、当初同年四月から昨年三月までの一年間であつた。しかし右協定期間内には、英国がわが国対英輸出の主要品目であるさけ・ます罐詰の輸入を自由化したこと等もあり、わが国の対英輸出は著しく増加し、英国との貿易収支は、わが国にとつて大巾な出超となつた他、両国間の貿易関係は極めて満足すべき状態にあつた。そこでわが政府は、右取極を本年三月末日まで一年間単純に延長することを目的として、昨年二月以降ロンドンで折衝を続けた結果、英国側もこれに同意したので、同三月二十五日右単純延長に関する書簡を英国との間に交換した。
なお日英貿易取極は、わが国と英本国および植民地との間の貿易の規模および内容につき規制したものであるが、とくにわが国と英本国との貿易に関しては、その一部の品目につき相互に輸入規模を取り極めており、毎年行なわれる改訂交渉に際しては、なるべくわが国に有利な比率で既存枠の増額および新規枠の設置を行なうよう努力し、その他できる限り対日輸入を自由化するよう英国側に対して強く要望してきた。その結果、わが国の対英本国および対英植民地輸出は次表にみられるとおり近来著しく伸張している。
対英本国および植民地貿易額の推移 (日銀為替統計、単位百万磅)
○対英本国 | 一九五五年 | 一九五六年 | 一九五七年 | 一九五八年 | 一九五九年 | |
輸 出 | 二一・八 | 二六・二 | 三〇・八 | 四二・四 | 四〇・二 | |
輸 入 | 一四・六 | 四三・五 | 三四・五 | 一八・三 | 三四・三 | |
バランス | (+)七・二 | (-)一七・三 | (-)三・七 | (+)二四・〇 | (+)五・九 | |
○対英植民地 | 一九五五年 | 一九五六年 | 一九五七年 | 一九五八年 | 一九五九年 | |
輸 出 | 九九・四 | 一二四・八 | 一二五・六 | 一一五・八 | 一二三・五 | |
輸 入 | 四七・九 | 七〇・一 | 五八・二 | 五〇・一 | 六〇・六 | |
バランス | (+)五一・五 | (+)五四・七 | (+)六七・四 | (+)六五・七 | (+)六二・九 |
わが国は、一九四九年以来パキスタンとの間に貿易取極を締結し、両国間の貿易拡大を図つてきたが、一昨年九月に締結された旧貿易取極は昨年八月失効することになつていた。そこで右に先立ち、同年八月中旬からカラチにおいてパキスタン政府との間に新貿易取極締結のための交渉を行ない、同九月二十三日両国代表が新取極の署名を行なつた。この取極の有効期間は、昨年九月から本年八月までの一年間である。
この交渉に際してパキスタン側は、わが国が従来通りポンド枠を設けて。パキスタン原綿の買付促進の措置をとるよう要請したが、わが国は、これに対し、西欧通貨の交換回復にともなう貿易自由化の趨勢からもはやこのような措置をとることはできない旨を説明して、折衝を重ねた。その結果従来約束していたポンド枠を廃止することについてパキスタン側を納得させることができたが、その他の点についてはおおむね旧取極を踏襲し、その結果つぎのような内容を骨子とする新取極が成立した。
取極の内容
(イ) わが国は、パキスタンからの原綿、ジュート、塩、クローム鉱石、コットン・リンター、皮革等に対し、また、パキスタンは、わが国からの綿および化繊製品、鉄鋼および金属製品、機械化学製品等に対し、それぞれの国の輸入計画に従つて相互に輸入の便宜を与える。
(ロ) わが国は、原綿に対する現行のグローバル輸入制度の下で、パキスタン原綿の輸入に便宜を与える。パキスタン側は、協定期間中わが国が一定量を超えてパキスタンから原綿を買付けた場合、その買付量に見合つてわが国からの輸入にのみ有効な一定額の輸入許可証を発給する。
(ハ) 両国政府は、パキスタンの産業開発を促進するため随時協議する。
わが国とローデシア・ニアサランド連邦との貿易取極締結のための交渉は、昨年十一月六日から東京で行なわれたが、二週間にわたる交渉によつて実質的合意に到達したので、同十一月二十日仮署名が行なわれた。この取極は、わが国がサハラ以南のアフリカ諸国と結んだ最初の国際協定である。ローデシア・ニアサランド連邦はガットの加盟国であり、従来わが国に対してガット三十五条を援用して厳しい対日輸入差別を行なつていた国であるが、この取極の成立により貿易上の最恵国待遇供与に向つて一歩進んだという点に大きな意義がある。(なおこの取極は、本年二月十五日正式に署名された。)
取極の内容
(イ) 両政府は、両国の貿易関係が完全な最恵国待遇に基づくものとなるように改善して行くことを希望し、完全な最恵国待遇を規定する取極が結ばれるまでの暫定措置としてこの取極を締結する。
(ロ) 両政府は、両国間の貿易量をできる限り拡大するように努力する。
(ハ) 両政府は、関税および関税手続について、相互にできる限り好意的な待遇を供与する。
(ニ) ローデシア・ニアサランド連邦政府は、日本国産品に対する輸入許可発給について特別の取計らいをする。
(ホ) 日本政府は、ローデシア・ニアサランド連邦産品の輸入を容易にするために努力する。
この取極の成立にともない、ローデシア・ニアサランド連邦の本年度の対日輸入方針は、従来に比して大巾に緩和された。すなわち、昨年は限られた服飾用品の輸入が認められた外は、総額八〇万ポンド足らずの対日割当があつたにすぎなかつたが、本年は鉄鋼製品、工業機械、鉱山機械、農業機械の一部および二次産業用半製品の輸入が無制限に認められることとなり、この他対日割当も二百万ポンドに増額された。また日本製品に対する関税率も従来の最高税率から最恵国税率に引き下げられた。
わが国とギリシャとの貿易は、一九五五年三月十二日に締結された貿易および支払取極に基づき、同年四月以降ドル建オープン勘定方式によつて行なわれていた。そこでわが国はオープン勘定取極廃止の一般方針に基づき、一昨年十二月ギリシャに対し右オープン勘定取極の合意による廃止を提案したが、ギリシャはこれに応じなかつたので、とりあえずさらに一年間存続させることとした。
しかし、ギリシャは、わが国とのオープン勘定取極が存在しているという理由で、わが国からのICA資金による買付および政府入札による輸入につき現金決済を認め得ないとしたため、わが国は、昨年十一月重ねて合意によつてオープン勘定取極を廃止することを申し入れた。これに対しギリシャ側は、日本側の提案に積極的に同意するわけにはゆかないが、日本側が一方的に廃棄を行なつても、ギリシャ政府としては、そのため特に対日輸入制限を強化するというような特別の措置をとる心算はないとの態度であつた。よつて、わが国は、止むを得ず一方的廃棄の通告により同取極を廃止することとし、昨年十二月二十九日ギリシャ政府に対してその旨を通告した。従つて現行取極は、本年三月末に失効し、両国間貿易決済は、四月以降現金決済方式に移行することになつた。
一九五五年七月二十八日ボンで署名され、同年十月一日より発効した日独支払協定は、両国間の経常取引に関する支払を振替可能英ポンドまたはドイツ・マルクによる現金決済とすべき旨を規定していた。しかしその後両国の外貨事情が改善され、特に一昨年一二月ドイツ・マルクを始め西欧通貨の交換性が回復された結果、現在両国間の経常取引については、世界のほとんどすべての主要通貨による決済が可能となつたので、同協定は実質的に存続の意義を失うに至つた。
よつて昨年七月二十二日以来東京で開催された日独貿易交渉において話合いを行なつた結果、同協定第六条(一)の規定に従い、同協定を両国政府の合意により同年九月三十日をもつて終了せしめることに了解がついたので、九月二十九日、日本側首席代表牛場外務省経済局長とドイツ側首席代表クルト・ダニエル連邦経済省通商局次長との間でこのための関係公文を交換した。
日華間の貿易関係は、一九五三年六月十三日に署名された貿易取極および支払取極とそれに基づく貿易計画(毎年更新)によつて規制されている。
一九五九年度の貿易計画を作成するための日華貿易会談は、昨年三月十六日東京で、日華両国代表の間で開始されたが、中国側輸出の赤糖、パイナップル罐詰とわが方輸出の農水産物資の額について意見の一致を見ず、交渉は難航した。しかしその後漸く妥結に至り、七月三十一日両国代表の間で、一九五九年度日華貿易計画採択に関する交換書簡に署名が行なわれた。
貿易計画の内容
新貿易計画は輸出入とも八、五五〇万ドルで、これを前年度計画の八、五二五万ドルに比較すると二五万ドルの増加となつているが、増加額の伸びが少ないのは、主として砂糖価格の値下りによるものである。
わが国の主な輸出品目は次のとおりである。
肥料二、二〇〇万ドル、鉄鋼製品一、〇五〇万ドル、機械八〇〇万ドル、鉄道車輌、通信機材および船舶八五〇万ドル、農水産物二二五万ドル、繊維製品一五〇万ドル等。
わが国の主な輸入品目は次のとおりである。
粗糖三、七〇〇万ドル、米二、三〇〇万ドル、バナナ六五〇万ドル、塩二四〇万ドル、パイナップル罐詰一五〇万ドル等。
輸入品の中、前年度に比して変動のあつた主なものは、粗糖(二〇〇万ドル増)バナナ(一〇〇万ドル増)塩(九〇万ドル増)石炭(三〇万ドル増)パイナップル罐詰(一〇〇万ドル減)雑品目(一五〇万ドル減)および糖蜜(四〇万ドル減)であつた。
砂糖については、両国の民間代表の間で交渉を行なつて買付量を決定することになつているが、今回の計画上の見積額としては、昨年度より二万トン増加して四二万トンとなつている。ただし増加買付量二万トンについては、中国側は砂糖の収穫高および国際砂糖理事会による輸出割当を考慮した上でその確保をはかるべき旨を約している。
日華間貿易実績
(イ) 輸 出
昨年一-十二月のわが国輸出実績は八、六六一万九千ドルで、計画額八、五五〇万ドルに対し一〇一%の遂行率であつた。なお同年四月以降十二月までのオープン勘定輸出額は五、〇七一万五千ドルであつた。
(ロ) 輸 入
昨年一-十二月のわが国輸入実績は、六、九七八万六千ドルで、計画額八、五五〇万ドルに対する遂行率は八二%であり、昨年四月以降十二月までのオープン勘定輸入額は四、二八六万九千ドルであつた。従つて十二月末現在のバランスは、わが国が七八四万六千ドルの出超となつている。
なお、わが国より九月末現在の日華O/Aスウィング・オーヴァー額の米ドル貨による現金決済方を中国側に申し入れたところ、先方は、十一月末のバランス(アクチュアル・バランス二五、三九六、六八二ドル一二セント、スウィング限度額一、〇〇〇万ドル)とその後の見通しを勘案し、現金支払額を七五〇万ドルとし、昨年十二月より毎月一五〇万ドルの割合で五カ月間に分割払するという案を提示し、わが国の最終的了解を求めてきた。わが国は、この先方の申出を了承し、十二月十二日台北で右合意に関する文書の交換を行なつた。
わが国とカンボディアとの貿易決済は、一九四八年十一月日仏間に締結された金融取極により、インドシナ副勘定を通じオープン勘定制で行なわれていたが、一九五六年十二月に締結された日仏新金融取極により同月末をもつてオープン勘定制は廃止され、現金決済制に移行した。爾来カンボディアとわが国との間に数次にわたつて貿易支払取極に関する会談が行なわれたが、いずれもカンボディア側が強硬にオープン勘定制を主張したため失敗に終つた。
その後昨年三月カンボディア政府は、日・カ貿易の不均衡の是正方を要望するとともに、もし両国間に貿易取極が締結されない場合には、新関税法を施行し、かつわが国産品に一般税率を適用すべき旨を通報してきたが、基本的な点に関して話合がつかぬまま、昨年八月十七日以降わが国産品は一般税率の適用を受けるに至つた。その後さらに折衝の結果、カンボディア側が現金決済に応ずる意向を示したので、昨年十一月、東京ガット総会にカンボディア政府代表として出席したトウ・キム大蔵省為替局長とわが国外務省の田村参事官との間に交渉が開始された。カンボディア側は、両国間の貿易をできる限り均衡せしめること、現金決済とすること、および最低税率を適用すること等、原則的問題につきその見解を明らかにしたので、同十二月前記田村参事官をプノンペンに派遣し、トウ・キム為替局長を首席代表とするカ政府代表団との間に引続き交渉を行なわしめた。その結果、前記の線で両国政府が合意するに至つたので、本年二月十日プノンペンにおいてわが国の大橋大使とブレ・チャン・プラン・カンボディア外務次官との間で日・カ貿易取極の署名が行なわれ、同二月十五日より発効した。
一昨年一月七日の日比貿易交換書簡第三項に基づき、日比両国間の貿易取引を円滑に実施するため少くとも三カ月に一回は開催されることとなつた「日比合同委員会」(「わが外交の近況」第三号一五三頁参照)は、一昨年中に三回会合した。昨年に入つてからは、四月に第四回合同委員会が開催され、比側から資本財輸入のための延払条件、米国人を除く外国人輸入業者に対する外国為替割当削減措置、非ドル輸入法廃止の見通しと同法廃止後国際価格に比して割高な物資の輸出を奨励する措置等の議題が提出され、わが国側よりは、戦前営業していた企業が営業を再開するための免許の取得、フィリピンからの物資にF・O・Bベーシスを適用することをやめてC・I・FまたはC・&・Iベーシスを適用すること等に関する議題を提出し、それぞれ討議を行なつた。
一九五三年十二月八日に締結きれ、一九五七年十二月二十日に単純延長された日本・ビルマ貿易取極は、一昨年十二月三十一日で失効する予定であつたが、日緬両国共その単純延長を希望した。しかし、ビルマ側としては、一九五九年度ビルマ米売買取極の締結後に右単純延長を行ないたい希望であつたので、結局一昨年二月二十五日ラングーンにおいて公文の交換を行ない、同取極を同年一月一日に遡り、同年十二月末日で一年間単純延長することとした。
なお右貿易取極とは別に、一九五九年度ビルマ米二万五千トンを買付ける取極が締結された。
昨年十一月ガット総会に出席のため訪日したウ・セン・チ・ビルマ貿易省次官とわが政府との間に、日緬貿易取極および一九六〇年度ビルマ米買付交渉ならびに両国間貿易振興のための貿易会談が行なわれた。その際ビルマ側は貿易取極の単純延長の如何は、ビルマ米買付交渉の結果を待つて決定したいという意向であつたので、まずビルマ米買付の交渉を行なつたが、ビルマ側はわが国が提案した三万トンを不満として帰国した。その後十二月初旬よりビルマ側は対日輸入制限の動きを示し始め、同月二十一日に至り、貿易取極が有効であり、かつ両国間にガット関係があるにもかかわらず、一方的に対日輸入を全面的に停止する措置に出た。幸い、右停止措置はわが国がビルマ米一万五千トンの増量買付を提案したので、本年二月十日に解除された。またそれとともに、日緬貿易取極をさらに一年間単純延長することに合意が成立した。
エジプトとわが国との貿易は、一昨年十一月八日の取極により、オープン勘定制を廃し、同月二十八日以降同勘定による対エ債権の整理と平行して現金決済方式に改められたので、同国のわが国産品に対する旺盛な需要と相まつて新たな発展が期待された。しかしながら、わが国の主要買付品たるエジプト綿について、需要の減退、在庫の過剰および価格低落があつたため、昨年におけるわが国の対エ輸入額が著減し、このためエジプト側も現金決済による対日輸入許可発給を大巾に削減する措置をとつた。
よつて昨年十月十二日からカイロで両国代表の間に、協定第一年度の実績検討および新協定年度における具体的貿易拡大策の討議を主要議題とする貿易会談が行なわれた。その結果、両国の政府は、綿製品市況の一層の好転が期待され、かつエジプトにおいては広汎な分野にわたる工業化計画が進行しているので輸入需要が増大しているという恵まれた状況にかんがみ、両国間の貿易を拡大するためさらに最善の努力を払うべきこと、および貿易計画額はこれを掲げないことについて合意が成立したので、十一月二十三日この趣旨の共同声明を発表して会談を終了した。
本件の交渉は、カルトゥームにおいて昨年十二月十三日からアラブ連合駐在の土田大使とマンスール経済補給省次官との間に行なわれ、同月二十八日妥結した。その経緯は、概略次のとおりである。
(1) 日本側より、わが国がスーダン綿とエジプト綿の輸入について共通枠を設けることを通告し、併せて、両国が相互の貿易に関し無差別待遇を与えることを約束する公文を交換することを提案したが、スーダン側は、日本側の差別待遇が撤廃されれば、スーダンの輸入制限も当然解消するのであるから文書でこれを約束する必要はない、と強い反対の態度を堅持した。
(2) しかし、日本側の再三にわたる申入れの結果、スーダン側は前記日本側の申入れに対する回答の形で、実質的に無差別待遇を供与するように努力するという趣旨の回答を行なうことに同意してきたので、この線で交渉が妥結した。その結果今後、スーダンが対日輸入制限を撤廃し、本邦産品の輸出が伸びるものと期待される。
ジョルダン政府は、かねてから同国産の燐鉱石の対日輸出が振わないため、わが国の買付増加を強く希望していたが、昨年十二月実情調査のため同国経済次官を団長とする貿易使節団をわが国に派遣して来た。同使節団は、関係業界から事情説明を聴取したが、わが政府も、燐鉱石はAA品目であり、わが制度上ジョルダンに対して差別待遇は行なつておらず、全く業者の採算の如何によつて輸入が行なわれていることを説明し、使節団もこの事情を了承した。
しかし両国間の貿易を拡大するための努力が今後とも必要であるという認識が相互に深まり、交渉団限りではあるが、その趣旨の書簡にイニシァルを行なうに至つた。この貿易会談によりわが業界内にジョルダン燐鉱石に対する関心が深まり、取引の試験的努力が始められるに至つたことは、その成果の一つと認むべきものであろう。
日土間貿易は、一九五五年に締結された貿易支払取極により、米ドル建オープン勘定で行なわれて来たが、トルコ政府が一昨年八月から実施している経済再建政策の一環として貿易制度を改正し、西欧諸国の貿易自由化に歩調をあわせ、自由通貨決済による多角的貿易均衡を重視し、双務主義を排する方針を採用するにいたつたので、従来のオープン勘定制(およびこれに伴う対土輸出債権の累積を回避するための輸出規制措置)による対トルコ貿易はかえつて不利なものになると認められるにいたつた。よつて政府は、昨年五月トルコ政府と協議の結果、五月三十日付の交換公文により、前記貿易支払取極を七月三十一日限りで終らさせることとした。次いで七月二十三日、オープン勘定は本年一月三十一日までに勘定の整理を行なうこととし、これに関する処理手続について合意が成立した。
しかし、勘定残高はできる限り貨物の追加輸入によつて決済するという合意にもかかわらず、トルコ側の輸入許可発給が順調に進行しなかつたため、わが国から約三十万ドルの最終残高を米ドルで支払うこととなる見とおしである。
イラン政府がわが国からの輸入品に対して特別税を賦課する動きを示したことを契機として、昨年二月以降、日・イラン貿易取極交渉が行なわれたが、わが国がイラン産品買付の増大を図つたためほぼ話合がまとまり、同年七月中にも正式調印が可能になるものと予想されていた。しかし、六月中旬イランの商務大臣が更迭するや、新任商相の構想に基づいて、突然八月中旬わが国が従来とも買付不可能を主張してきた米、塩、タバコ三品目にウェイトを置いたバーター取引を骨子とする案を提示し来り、あくまでこれを固執したため交渉は結局不調に終つた。イラン側はこの責任を一方的にわが国に押しつけ、十月七日綿織物等の消費物資六品目を除き他の総ての品目につき対日輸入制限措置をとつた。
わが政府は、この措置に対して強くイラン側の反対を求めるとともに、貿易取極を早期に締結することによつてこのような措置の撤廃を図ることとし、交渉の空気を改善するためにかねてからイラン側が希望している経済協力を推進するべく、その具体案につき十一月末からイラン政府との間で検討を始めている。
一昨年十月十六日に締結された旧日伯貿易支払取極は、わが国の輸入先行、両国間貿易(伯側の旧債務償還をも含め)についての相互の受払額の等額確保等を原則としたものであつたが、わが国の主要買付物資が農産物であるため、その出廻り時期や輸出余力等の関係でわが国の輸入が進まず、このため取極発効後半年以上にわたつて両国間貿易は停滞した。而してこれがわが貿易、海運関係業界に影響するところも大きく、とくにブラジルに進出している本邦企業のうちには、その部品や原材料をわが国から輸入する手当ができず、事業の遂行に支障を来すものもあらわれた。
かくて同取極のもとでは、両国間貿易の円滑な維持発展は期待し難いことが判明したので、五月両国政府間の了解により、同取極は一年限りでこれを廃止し、新たに多角決済を基礎とする取極の締結交渉を行なうこととした。しかし伯側の事情により交渉の開始が遷延したので、昨年十月十五日一旦失効した取極をさらに本年一月十五日まで事実上適用することとし、その間昨年十二月一日よりリオ・デ・ジャネイロで新取極締結の交渉を開始した。
この交渉においてわが国は、貿易自由化の線に沿い、さきに伯側の原則的同意を得た多角決済を基礎とする協定を提案したが、伯側は、その外貨事情から伯国物資買付の確約を要求する双務主義の協定案を提示した。しかしわが国としては、伯国物資の買付を確約し得ない事情にあるので、伯側案は受諾できない旨を納得させるとともに、ブラジルがわが国の案に同意するよう説得することに努めた。しかし伯側は、貿易の自由化が進み交換可能通貨のみを使用する国とは貿易支払協定を締結しない方針を採つているとして、わが国の原案に同意するには至らなかつた。
結局両国政府は新取極を締結しなかつたが、伯側はわが国の立場を十分理解し、今後とも無差別待遇の原則のもとに両国の貿易が円滑に維持発展されるよう努力することに意見が一致したので、交渉の終了に際して発表された両国政府共同声明でその旨を明らかにした。これによりわが国は、伯国の貿易為替管理制度上米国および西欧諸国と同等の立場(これ等の諸国は、伯国と密接な経済関係を有しながらも、同国との間には何らの協定も締結していない)に立ち、欧米諸国と無差別の待遇を受けることとなつた。
なお日伯貿易の維持発展のためには伯国物資を相当量輸入する必要があるので、政府としては、今後とも業界の協力を得ながら、この目的のためにでき得る限りの努力を行なう方針である。
キューバ政府は、一昨年二月二十四日から新関税法を実施した。これによると、わが国がキューバとの間に協定を締結しないかぎり、本邦の商品が一般税率(最高税率)を適用され、わが国にとつて従来より著しく不利となることが明らかとなつたので、政府は同法の実施に先立ち、キューバ政府と協議を行なつた。その結果、キューバ政府が本邦の商品に原則として協定国待遇を与えるという趣旨の暫定取極を締結することとなり、同年二月二十一日これに関する書簡を交換した。
この取極は、同年六月末、同十二月末、昨年六月末および同十二月末の四回にわたり、それぞれ六カ月ずつ延長されたので、本年六月三十日まで有効となつている。
暫定取極の内容は次のとおりである。
(1) キューバは同国へ輸入される本邦商品に対し、ある種の例外を除いて、関税事項に関する最恵国待遇を与える。
この最恵国待遇は、本邦商品に対して(イ)インヴォイス査証に関する領事手数料を五パーセントから二パーセントに引下げること、(ロ)関税法の協定税率を適用することを含むものとする。
(2) この暫定取極は、キューバの前記税法発効と同時に効力を生じ、これに代るべき正式の通商協定が締結されないかぎり本年六月三十日まで有効とする。
なおわが政府は、前記の交換書簡の中で、キューバ政府のとるべき例外措置に関しては今後の通商交渉におけるわが国の立場を留保する旨を明らかにしたが、一九五四年以来種々の理由で懸案となつているキューバとの通商交渉を近く再開し、全面的最恵国待遇の獲得をはかり、またわが国にとつて著しい入超となつている同国との貿易を調整したいと考えている。
交渉の経緯
一九六〇年度の取引品目表を作成するための日ソ貿易交渉は、一九五七年十二月七日署名の貿易支払協定(有効期間は一カ年であるが、廃棄の通告がなされない限りさらに一カ年づつ自動的に延長される)に基づき、昨年十二月十六日から東京で開始されたが、交渉の過程において従来の一カ年協定に代えて、一九六〇-六二年を期間とする三カ年間の長期間協定を締結することとなつた。
交渉は二カ月半にわたり前後三十有余回の会議を経て本年二月二十八日妥結し、同三月二日日本側代表牛場外務省経済局長とソ連側代表ゾーリン外国貿易省参与との間で本協定の署名が行なわれた。
協定の内容
この協定は十一カ条からなつており、三カ年間における日ソ両国の輸出品を各年別に記載した品目表(主要品目には数量または金額を記載)が附属している。ただし第二年度および第三年度の品目表は、各年毎に改めて議定書を作成して調整することとなつている。
主要取引品目は、わが国の輸出品として貨物船、タンカー、カネカロン・プラント等の化学工業設備、繊維機械、鋼材、人絹糸、スフ綿等、また輸入品として木材、石炭、石油、カリ塩、小麦、原綿等である。
協定の意義
この協定の成立により、英、仏、伊、西独等の諸国が従来からソ連との間に結んでいたのと同種の長期貿易協定をはじめてわが国も結ぶに至つたわけで、ソ連のような共産国家との貿易はこれにより従前に比して容易になつたということができる。
また、この協定の附属品目表は、そこに掲げられている品目の多様性とその見積り数量または金額の点で、五八年および五九年度の品目表を大巾に上廻つているのみならず、わが国の対ソ輸出品目の重点が、従来主要品目であつた鋼材、人絹糸、スフ綿等から各種機械プラント類へ移行して、品目的な構造の変化を示していることも今次協定の特徴といえる。この品目表によると、わが国の対ソ輸出は、今後三カ年間に約二億三千万ドル、輸入は同じく約二億一千万ドルに達する見込である。
これは、一昨年はじめて貿易支払協定が結ばれて以来逐年増加の傾向にある日ソ貿易今後の発展の見透しを示したものであるが、ソ連の経済七カ年計画によるシベリア開発との関連もあり、日ソ貿易は従来より著しく発展して行くことが期待される。