四 最近における通商、貿易上の諸問題

 

通商航海条約および通商に関する条約関係

1 日本・ユーゴー通商航海条約の締結

わが国とユーゴースラヴィアとの間の通商航海条約は、昨年二月二十八日ベルグラードにおいて、日本側ユーゴースラヴィア駐在加瀬大使、ユーゴースラヴィア側ツルノヴルニア外務次官との間で署名調印されたが、その後同年六月二十日わが国外務省において藤山外務大臣とコス駐日ユーゴースラヴィア大使との間で批准書の交換が行なわれ、同七月二十日発効した。

交渉の経緯

ユーゴースラヴィアは、第二次大戦においては対日交戦国であつたが、サン・フランシスコ会議に招へいされながら参加しなかつたため、わが国との国交回復は、一九五二年二月の交換公文に基づいて同年四月二十八日平和条約の発効と同時に行なわれた。この交換公文ではさらに、一九二三年十一月十六日に署名されたわが国と「セルブ・クロアート・スロヴェーヌ」国との間の通商航海条約を一応両国間に復活するが、近い将来新しい通商航海条約を締結する意向であることを相互に確認した。

さらに翌一九五三年六月東京で行なわれた日・ユーゴー貿易会談において、上記の条約を現状に即するよう全面的または部分的に改定することが必要であることに、あらためて両国政府の意見が一致した。よつてこの了解に基づき、同年八月ユーゴー側から新条約の草案が提出され、これに対し、五四年二月わが国より対案を送付し、爾来ベルグラードで交渉が続けられた。その間双方の事情で一時交渉が中断したこともあつたが、一昨年秋以降、交渉は急速に進捗し、昨年二月中旬には妥結するに至つた。

条約の内容

この条約は、前文、本文十九条および付属議定書から成り、身体財産の保護、入国、居住滞在、事業活動、財産の取得、租税、関税、貿易、商船の待遇等、両国間の通商航海関係の維持発展に不可欠な事項を網羅し、これらについて相互に最恵国待遇または内国民待遇を与え合うことを定めている。なおこの条約の署名とともに、両国政府は為替管理に関し、国際通貨基金の原則と精神とを引き続き遵守すべき旨の公文が交換された。

条約の特色

(イ) この条約は、戦後わが国が締結した諸条約、とくに日米友好通商航海条約、日本・ノールウェー通商航海条約を参照しつつ、交渉を進めたものであるが、わが国とユーゴーとの関係は、日米関係ほど複雑多岐でないので、日米条約のような詳細な規定を避け、大体日本・ノールウェー通商航海条約を範とする簡略なものとした。

(ロ) 日本・ノールウェー通商航海条約では、滞在、居住、旅行、財産の保護、租税、相手国産品の国内における取扱い等については、最恵国待遇以外に内国民待遇をも与えることとなつているが、この条約では、これらの事項については最恵国待遇のみを与えることとし、内国民待遇は、身体の保護、出訴権、難船の救助の三点に限られている。

条約の意義

日ソ通商条約、日本・ポーランド通商条約が主として貿易、関税、商船の待遇についてのみ規定しているのに対し、この条約は、通商航海条約に通常含まれるその他の主要事項(入国居住、事業活動、財産の取得、領事の任命、軍事服役の免除等)を網羅しており、この意味では、わが国が社会主義国家と締結した最初の本格的な通商航海条約であるということができる。

この条約の発効により、日本・ユーゴー両国国民は、現状に即した新しい法的基礎の上に立つて相手国との通商および相手国内における経済活動を行ないうることとなり、両国の経済関係と友好関係増進の途が開かれることとなつた。

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2 日本・チェッコスロヴァキア通商条約の締結

 

一九五七年二月ロンドンで調印された、わが国とチェッコスロヴァキアとの間の国交回復に関する議定書の第五条には、両国は「貿易、海運その他の通商の関係を、安定したかつ友好的な基礎の上に置くために、条約又は協定を締結するための交渉をできる限りすみやかに開始することに同意する」との規定がある。これに基づいて、昨年六月駐日チェッコ大使より山田外務次官に対し、正式に通商航海条約締結のための交渉を開始することを提案してきた。よつて昨年十月から東京において正式交渉に入り、同十二月十五日、日本・チェッコスロヴァキア通商条約が、日本側山田久就外務次官およびチェッコ側シモヴィチ駐日大使の間に署名された。

条約の内容

この条約は、前文、本文十四カ条、末文および附属合意議事録から成り、有効期間は五カ年であるが、その後も締約国の一方から廃棄の通告が行なわれない限り、さらに効力を存続することになつている。

条約内容は、関税、課徴金および輸出入に関連する規則および手続に関し最恵国待遇を供与すること、国内通過および輸送の自由、内国税、内国課徴金等に関し内国民および最恵国待遇を供与すること、商品見本、広告資料および一時輸入品に対し免税を認めること、船舶の港湾出入に関し内国民および最恵国待遇を供与すること等のほか、貿易取引から生ずる紛争解決のため裁判所に出訴しあるいは行政機関に申立をする権利に関し、内国民待遇を供与すること等が規定されている。また合意議事録には、双方相手国産品に対し領事仕入書を請求しないこと、原産地表示、特許、商標その他の工業所有権に関し国際慣行を遵守すべきことのほか、チェッコ側輸出品の船積時期の決定に関して取極められている。

出入国、滞在、事業活動、財産権の取得等通常の場合通商航海条約にみられる規定が設けられていないのは、日・チ両国の経済、社会体制が相互に非常に異なつているので、これらの事項につき取極めることが困難であつたためである(わが国がソ連、ポーランドと締結している通商条約にもこれらの点についての規定はない)。

条約の意義

この条約は、わが国が戦後東欧共産圏諸国と締結した条約としては日・ソ条約および日・ポーランド条約に次ぐものである。この条約の締結により、わが国とチェッコとの貿易が飛躍的に増大することは、もとよりチェッコに関しても、その他の東欧諸国と同様、わが国との地理的隔りが大であるという物理的な障害に加え、差当りわが国の輸入品目が少いため、なお早急には期待し難いが、チェッコ側は最近機械類の対日輸出に熱意を示して来ており、また繊維品その他の消費財の対日買付の意向も強いので、わが国との貿易が促進される可能性は、東欧諸国中ではソ連に次ぎ最も大きいものと認められる。いずれにしても今回の条約締結により、日・チ貿易が正常の軌道にのり、今後次第に促進されて行くことが期待されている。

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3 日比友好通商航海条約締結交渉の開始

 

日比友好通商航海条約については、すでに日比賠償協定が締結された際に、ついで一九五七年十二月岸総理大臣が訪比せる際に、また一昨年一月日比貿易書簡交換の際および同十二月ガルシア大統領が訪日せる際に、それぞれ発表された共同声明で、その締結交渉の早期開始を希望する旨が述べられた。また、一九五七年日比オープン貿易勘定の廃止に伴つて行なわれた貿易交渉の際、わが政府は同国との通商航海条約の締結を考え、一応その草案を準備したが、なお情勢が熟していなかつたため、右草案は未提出に終り、結局当時は貿易に関する書簡の交換を行なうにとどまつた。

その後日比両国間には、一昨年七月入国滞在手続簡易化に関する取極が、また昨年三月には航空業務に関する行政取極が締結され、比政府側も漸く本条約締結の必要性を認識するに至つたと認められたので、昨年六月わが国側の草案を比政府に手交し、交渉の開始を申入れた。その後わが国は随時本件の促進に努力して来たところ、本年一月四日に至り、比国外務省からわが国の駐比大使館に対する口上書をもつて、わが国の申入れに応ずるとともに、比側交渉全権の氏名を正式に通報してきた。これに対しわが国は、同二月十日付の口上書をもつて日本側代表の氏名を比国外務省に通告し、その結果本条約の正式交渉は二月二十三日マニラで開始された。

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4 日本・アラブ連合通商航海条約締結交渉の申入れ

 

一昨年十一月わが国がアラブ連合共和国と貿易支払取極の交渉を行なつた際、両国は可及的速やかに通商航海条約の締結交渉を行なうべき旨の書簡を交換した。よつて、わが政府は、その後鋭意条約案文の作成を続けてきたが、昨年十月わが国側の案を確定するに至つたので、同月中旬から行なわれた新貿易支払取極交渉が十一月に終了すると同時に、カイロ駐在のわが国大使館を通じて、わが国の案を先方に提示した。その際わが国は同案に関する先方の検討が終了した後は、すみやかにカイロで交渉を行ないたいという希望を申し入れた。

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