英連邦関係

(編集の便宜上、アイルランドを含む)

1 日 英 関 係

わが国は、従来英国との友好協力関係を維持し増進することに努力しているが、近年英国においてもわが国との関係の重要性が次第に深く認識されるに至り、両国の関係は極めて緊密となつている。このような親善関係は、昨年七月に行なわれた岸総理大臣の訪英(総説および次項参照)によつてさらに一段と深められた。

昨年三月には、サー・ダニエル・ラッセルズ駐日英国大使の後任としてかつてわが国に在勤したことがありまた知己も多いサー・オスカー・モーランド大使が新たに着任し、同じく四月には、英国聖公会において女王に次ぐ権威を有し英国外に大きな影響力を有するカンタベリー大僧正フィッシャー博士が来日した。このほか両国各界の著名な人士が相互に訪問旅行を行なうことによつて日英の友好関係と相互理解は著しく増進された。

なおわが国と英国との間の懸案としては、日華事変に関係する英国側のクレーム処理の交渉、通商航海条約締結の交渉(別項)などがあるが、このほか二重課税を防止するための条約締結の予備交渉が昨年五月ロンドンで行なわれた。また、岸総理大臣が訪英した際、マクミラン首相との共同コミュニケによつて、早期締結の方針を確認した両国間の文化協定および領事条約の中、前者については昨年十月から東京で交渉が開始され、後者についても英国側草案の提示があつたので予備的検討を行なつている段階にある。なおこの他は平和条約十五条に基づくわが国の義務履行の問題もある。

昨年における日英間主要行事および諸懸案の概要はつぎのとおりである。

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(1) 岸総理大臣の英国訪問

岸総理大臣は、昨年七月十三日から十六日まで英国政府の賓客として英国を訪問した。同総理大臣は、滞英中マクミラン首相、オームスビイー・ゴア外務担当国務相(ロイド外相は、ジュネーヴ外相会議に出席のため不在)、エモリー蔵相、エックルス商相その他の英国政府首脳と会見し、当面の国際問題および日英両国間の諸問題についてなごやかに意見を交換した。また、とくにエリザベス皇太后陛下に謁見を賜わり、チャーチル元首相はじめ各界の名士と親しく懇談する機会を得たほか、議会傍聴、コールダー・ホール原子力発電所およびハーロウのニュー・タウン視察、ロンドン市長訪問等の行事を行なつた。

岸総理大臣の訪英を通じて、わが国の立場とくに自由陣営におけるわが国の役割が明らかにされ、英国々民とわが国に対する理解が一層深められたことは、今後の両国の友好関係の増進のために画期的ともいうべき重要な意義をもつものであつた。

七月十五日、日英共同コミュニケが発表されたが、その要旨は次のとおりである。

(イ) 両国は世界平和の維持および国連憲章の精神に即した国際問題の解決のため一層緊密に協力する。

(ロ) 四大国外相会議の経過を検討し、国際緊張緩和、恒久的平和維持のために、各国の真摯な努力と自由世界の団結が必要である。

(ハ) 一般的軍縮が平和の確立に最も資するものであることに意見が一致した。

(ニ) 欧州経済統合の動きが、世界貿易の拡大に貢献することを希望する。

(ホ) 極東、東南アジア、中東およびアフリカの一般国際情勢について討議した。

(ヘ) 低開発地域の援助について両国は最善を尽くすものとする。

(ト) 両国間における貿易拡大の方法を検討し、通商航海条約のできる限りすみやかな妥結を希望した。

(チ) ガット第三十五条援用撤回問題は、通商航海条約に伴う諸問題との関連においてさらに検討する。

(リ) 日英文化協定の締結を検討し、また領事条約締結の問題も早急に取り上げる。

(ヌ) 平和条約第十八条に基づく英国の請求権に対する補償について、日本政府は、すみやかな妥結のため最善を尽くすものとする。

(ル) 今次会談が、両国の友好関係増進の礎石となることを確信し、今後共通の利害ある問題について、両国は緊密な連絡を保持しつつ相互に協力する。

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(2) 英国の日華事変関係クレーム

日華事変中日本軍の行動により英国の法人および国民が蒙つた損害に関しては、かねて英国政府よりわが国に対し平和条約第十八条(a)項の規定に基づいて約二十億円(利子約十億円を含む)の補償要求が提出されており、その解決のため従来より両国政府間に話合いが進められて来た。しかるに岸総理大臣の訪英を契機としてこの問題を早期に解決しようとの機運が急速に高まり、その結果現在すでに取極の条文作業の段階に入つているので、本件は遠からず妥結するものと思われる。

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(3) 日英財産委員会

戦時中わが国に所在した英国人財産については、平和条約第十五条(a)項の規定に基づく返還および補償の問題があり、右に関して発生する紛争を解決するために設置された日英財産委員会に関しては前号にも概説したが、昨年二月二十四日同委員会は、その手続規則についての最終的合意を示す署名を完了した。かくしてこの規則の定めるところにしたがい両国の代表者およびその代理がそれぞれ任命せられ、同委員会の活動は本格的な軌道に乗つたわけである。係争中の案件につき書類審査が完結すれば日英両国委員および第三の委員によつて委員会の最終段階である口頭弁論審査が開始される運びとなるが、本年中には完了の見通しがつくものとみられている。

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(4) 日英民間航空業務協定に基づく協議

日英民間航空業務協定に基づき、昨年五月六日より同二十七日まで東京において日英航空当局の間で両国の指定航空企業が現に運営している協定業務を検討しさらに現在および将来の運航計画の変更によつて生ずべき種々の問題について卒直な意見の交換が行なわれたが、その結果広範囲の問題について合意が得られた。

その際BOACのコメット機によるロンドン・東京間路線、ブリタニヤ機により計画されている太平洋路線ならびにキャセイ・パシフィックのエレクトラおよびDC・6Bによる業務の開始、および日本航空のDC・6B、将来DC・7CおよびにDC・8によるシンガポール、香港および以遠への乗入れ等につき話合いが行われたほか、ジェット機の導入に伴なう運航上、技術上の問題についても討議が行なわれたが、さらに今後技術的情報を相互に交換することについて合意が成立した。

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2 豪州、ニュー・ジーランドとの関係

わが国と豪州およびニュー・ジーランドとの関係は戦後徐々に好転しているが、ことに最近数年間は両国のわが国に対する感情は、かつてなかつたほど友好的であるとさえ云えよう。年間六千人に及ぶオーストラリア人が来日したこと、ニュー・ジーランド諸都市の親日家ないし知日家達によつて日本・ニュージーランド協会が自発的に設立されたこと等はその例証の一半であろう。

豪州およびニュー・ジーランドとわが国との間に昨年中に行なわれた主要な事項は次のとおりである。

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(1) ナッシュ・ニュージーランド首相の訪日

ナッシュ・ニュージーランド首相は、わが国の招待により、国賓として昨年二月十九日より二十七日までわが国を訪れた。同首相は、滞日中天皇陛下に謁見を賜わつたほか、岸総理大臣、藤山外務大臣、高碕通産大臣(当時)と会見し、当面の国際問題の外、文化交流、経済協力等両国が利害関係を共通にする問題について率直に意見の交換を行なつた。その際また、両国は太平洋における隣国として今後とも友好関係を維持し促進するという方針が再確認された。

 なお同首相の一行は、関西旅行を行ない、工場等を視察した後、離日した。

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(2) ケーシー・オーストラリア外相(当時)の訪日

ケーシー・オーストラリア外相(当時)は、わが政府の招待により、夫人を同伴し昨年三月二十三日から一週間にわたつてわが国を訪れた。

同外相は、日豪国交回復当時以来一貫して外務大臣の地位にあり、戦後の豪州において良好ならざる一般対日感情を改善して今日あらしめた最も指導力のある政治家としてつとに令名高く、その来日はかねてわが国朝野のひとしく待望していたところであつた。

同外相は、滞日中天皇陛下に謁見を賜わつたほか、岸総理大臣および藤山外務大臣と会談して、当面の国際情勢および日豪両国間の諸問題につき隔意ない意見の交換を行なつた。また高碕科学技術庁長官(兼任)と両国間の科学技術交流の具体的計画について話し合い、関西方面の視察旅行を行なつたのち離日したが、同外相は、とくにテレビによつてわが国民に親しくその所懐を述べるなど、その訪日の成果には極めて注目すべきものがあつたと云えよう。

なお同外相は、本年一月男爵に叙せられて退官した。

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(3) 日豪科学技術の交流計画

ケーシー外相が来日した際科学技術庁との話合いによつて、日豪両国間の科学技術の交流を促進するために豪州政府は、同庁の幹部一名を招待したいこと、およびわが国の技術者一名に十二カ月の奨学金を与える用意のあることを明らかにした。同外相に随行したグリフォード科学産業調査庁次官補は、ひきつづき残留し、本件計画の具体化についてわが国の関係当局と打合せを行い、関係施設等を視察して帰国した。

前述した奨学金の供与については、わが国の気象庁より近く雲の専門家が豪州に留学することになつているが、わが国においても豪州側の計画に対応し、豪州の科学技術者をわが国に留学せしめるため奨学金を予算として要求するなど、交流を具体化する準備を進めている。なお外務省としては、本件交流計画の一環として、昨年九月には神経外科の権威ミラー博士夫妻を、同十月には豪州外務省のロウ南極部長をわが国に招待した。また九月には原田科学技術庁官房長がイタリアおよびニュー・ジーランドを訪問の途次豪州を訪問し、科学技術行政一般および交流計画の運営について種々協議した。

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(4) ホリオーク・ニュー・ジーランド国民党々首の訪日

ニュー・ジーランドの野党(保守党)である国民党の党首ホリオーク氏は、東南アジア諸国歴訪の途次、メイン同党広報局長を帯同して本年二月わが国を来訪した。同氏は、一九五七年に岸総理大臣が同国を訪問した際の首相であり、同年の総選挙後野党の党首として現在に至つているが、同国における指導的政治家として令名が高い。同氏は、滞日中天皇陛下に謁見を賜わつたほか、岸総理大臣、藤山外務大臣、池田通産大臣、福田農林大臣と会見し、また日本・ニュージーランド協会主催の午餐会において両国関係全般にわたり演説を行つた。ニュー・ジーランドは今秋総選挙が行なわれることでもあり、同氏の訪日の成果が注目されている。

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(5) 真珠貝漁業問題

真珠貝漁業問題は、日豪間の多年にわたる懸案としてつとにその合理的解決が望まれているところである。昨年の漁期における採取量は、約三四〇トンにとどまり(一昨年は約四八〇トン)、国際市況も必ずしも良好でないので、主要供給者たる日豪両国が何らか打開の途を講ずることが要請されている。わが国としても適正な採算量を確保するための操業を可能ならしめる方法を検討中である。

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3 アイルランドとの関係

わが国とアイルランドの関係は極めて良好であり、一九五七年わが国が同国と外交関係を再開して同国に公使館を設置して以来、貿易も逐年増大し、先方の要請に基づいてわが国の企業進出も進められている。

昨年わが国からはオランダ駐在の宮崎大使が同時にアイルランド兼任公使として赴任したが、先方も東京に名誉領事を任命した。

なお太平洋戦争中、中立国であつた同国の国民が蒙つた損害に関し、若干の補償の問題が未解決になつているが、現在その解決のために折衝が行なわれている。

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4 ガーナ等との関係

(1) 大使交換

わが国は一九五七年三月にガーナの独立を承認して以来同国との外交関係の樹立を急いでいたが、昨年三月アクラに大使館を開設し同十日大隈初代大使が赴任した。一方ガーナ側も昨年十二月ウィリアム・バイド・アンサー氏を初代駐日大使に任命した。同氏は国会議員で親日家としても知られている。

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(2) ガーナ親善使節団の来日

クエイドウ・ガーナ商工大臣を団長とする同国通商親善使節団は、わが国政府の招待により昨年十月十四日賓客として来日した。クエイドウ団長は、滞日中天皇陛下に謁見を賜わつたほかに、一行は岸総理大臣および藤山外務大臣と会見した。また外務省牛場経済局長、同関経済協力部長と両国の経済協力関係増進の具体策について懇談した上特別の希望によりわが国の中小企業の実態等を視察して訪日の使令を了え、引続きガット東京総会にガーナ代表として出席した。

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(3) キロンデ・ウガンダ建設大臣の訪日

英領ウガンダのキロンデ建設大臣は、昨年四月来日し、わが国の教育、住宅、道路関係の諸施設を視察した。

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5 国際捕鯨に関する諸問題

わが国の加盟している国際捕鯨取締条約は、鯨類資源を保護しつつ健全な捕鯨業を育成してゆくことを主眼とするものであつて、捕獲する鯨の体長、捕鯨期間、漁場等を制限しているが、捕鯨操業自体は自由競争を原則とするという趣旨のものである。

このような条約の運用は、加盟諸国の捕鯨操業の能力が適正な均衝を保つている場合には理想的に行なわれるものと思われるが、最近数年間においては船団を急激に増強する等のことによりこのような均衝が崩れるに至つた。そこで国別割当という、自主的ではあるが自由競争に自ら修正を加えるような方法によつて各国の協調を図ろうとする動きが表面化し、またそのための努力が続けられて来た。このような努力は昨年においては結実するに至らず、その結果ついにノールウェーとオランダがこの条約より脱退することとなつた。

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(1) 国別割当に関する東京会議

一昨年十一月ロンドンで開催された南氷洋出漁国会議において、同年より始まる七カ年間の計画として、

(イ) ソ連は三船団以上増加せず、日本、英国、ノールウェー、オランダの四カ国は既存の南氷洋出漁船団を相互に譲渡する場合を除き、船団の増強を行なわない。

(ロ) 捕獲総頭数(一万五千頭)の二〇パーセントをソ連に割当て、残りの八〇パーセントを昨年六月まで前記の四カ国で配分する。

という趣旨の勧告案が採択せられた。

この勧告に基づき、総頭数の八〇パーセントすなわち一万二千頭に関する関係四カ国の国別割当問題の具体的討議が、昨年五月東京において開催された。各国いずれも自国の要求を強く主張し、それらを合計すれば一万四千百五十頭にも達する有様で、その取りまとめにつき大きな困難に直面した。わが国は、捕鯨企業の安定した経営を確保するために最少限の要請を行なつたが、さらに会議の成功を期するため、必要あらば外国船団の捕獲頭数の一部を有償で譲り受ける用意がある旨を述べて、会議の妥結に努力を続けた。

右会議においては困難を打開するために種々協調のこころみがなされたにもかかわらず、ついに妥結の希望が失われる段階に立至つた。しかし関係各国とも問題がこのまま放置されることを避けるため、東京会議をもつて本問題に終止符をうつことなく、第十一回国際捕鯨委員会開催前にソ連をも含めてさらに問題の継続討議を行なうことに決定した。

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(2) ノールウェー、オランダ両国の条約脱退

六月十八日よりロンドンで国別割当会議が再開されたが、各国協調の努力は再び難航し、同月二十二日から開始された第十一回国際捕鯨委員会会議と平行して審議が続けられた。

会議は、南氷洋に出漁する五カ国以外の条約加盟国の提案もあり、一万二千頭の枠を若干拡大しても、資源の濫獲を回避するために、なんらかの合意に達すべきであるとして、各国の要求が練り直されたが、増枠により各国の要求がかえつて比例的に上昇し、問題は依然として解決をみるに至らなかつた。

これよりさきノールウェーおよびオランダ両国は、前記ロンドン出漁国会議の有効期限たる昨年六月一日までに割当問題が円満に解決される場合には取消すという条件附で条約から脱退すべき旨を条約の寄託国たる米国に通報していたが、割当交渉が決裂したものと判断するや、国際捕鯨委員会本会議において条約より脱退する旨を正式に表明した。

わが国は、ノールウェーおよびオランダが前述の脱退予告を行なつた際、両国が脱退する場合には条約に残留する国が不当に不利な立場に陥る可能性もあると考えたので、万全を期するため一応昨年二月六日付をもって、情勢の展開次第では取消すこともありうるという条件で、条約寄託国たる米国あてに脱退を通告した。しかしノールウェーおよびオランダ両国が脱退するにあたり、前者は捕獲頭数を除き、後者は捕獲頭数および漁期の始期の二点を除き、いずれも条約の諸規定を守る旨を表明したことは、国際捕鯨委員会会議においてわが国に有利な技術的修正が行なわれた(次項参照)こととも相俟ち、わが国として脱退国と残留国との関係を一律に絶縁とみることは適当でなく、また、脱退した国の復帰を期待しうるという効果をも考慮して、大局的見地からこの際条約に残留すべきであるとの結論に達した。よつてわが国はいち早く脱退を取消したのであるが、かかる率直な態度は、国際協調の現われとして他の加盟国から好感をもつて迎えられた。

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(3) 国際捕鯨委員会第十一回会議

本件会議は昨年六月二十二日よりロンドンで開催されたが、右に際しては例年の諸議題の他に条約議定書の発効に伴なう条約付表の修正等が議題となつた。会議は割当会議の難航の余波を受けたが、わが国が最大の関心をもつていた捕鯨禁止区域の開放も、昨年十一月よりさらに三カ年にわたつて実現することとなった。またひげ鯨(、、、)解禁日の繰上げとともに、わが国の提案したざとう鯨(、、、、)の漁期繰上げの問題も、原案通り可決されるという有利な採択が行なわれた。

総じて会議がわが国に有利に展開したことは、会議開催前にわが国が主要加盟国と十分な連絡を保つていたことにも負うところが少なくないが、他方また国別割当問題に関してわが国が示した真摯な態度が好感を招き、前記諸問題について加盟国の賛意をうる要因となつたものともいえるであろう。

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