各  説

一 国際連合における活動その他の国際協力

(一) 国際連合における活動

1 安全保障理事会

わが国は、安全保障理事会の非常任理事国として一昨年に引続き昨年その第二年目の任期をつとめたのであるが、昨年度は一昨年と異なり、一月のシリア・イスラエル紛争問題および九月のラオス問題の二件が提起されただけで、理事会としては比較的閑散な年であつた。

シリア・イスラエル紛争問題とは、昨年一月、イスラエルが、シリア兵の発砲および住民殺傷事件をアラブ連合の侵略行為として安保理事会に提訴した事件であるが、わが国は、パレスタイン地域に平和を維持するためには、紛争当事国が国連の休戦監視機構の活用に努力することによつて、パレスタイン問題の根本的解決に必要な雰囲気を醸成すべきであるという基本的態度をとつた。わが松平代表は理事会において、休戦体制に基づく局地的平和維持機構をさらに有効に活用すべきことを当事国に要請するとともに、もしこれが困難であればかかる平和機構を再検討の上、これを強化すべきであるとの発言を行つたが、このようなわが国の主張は、他国代表の共鳴と支持を得、その結果関係両国の自制、休戦協定の履行および現地の平和維持機構の活用を要望するという態度を表明したものが多かつた。

(なおラオス問題については、別項「ラオス問題」参照)

2 第十四回総会

 第十四回総会は昨年九月十五日に開始され、同十二月十二日に終了したが、これに臨むわが国代表団の構成は次のとおりであつた。

代  表  藤山愛一郎  外務大臣

〃     松平 康東  国連常駐代表

〃     与謝野 秀  駐スペイン大使

〃     田付 景一  駐デンマーク大使

〃     柿坪 正義  国連代表部公使

〃     藤田 たき  日本婦人有権者同盟会長

代表代理  高橋  覚  外務省国際連合局参事官

〃     卜部 敏男  国連代表部参事官

〃     星  文七  〃

〃     力石健次郎  〃

〃     根本  博  外務省条約局国際協定課長

顧  問  萩原  徹  駐カナダ大使

〃     鶴岡 千仭  外務省国際連合局長

藤山外務大臣は、九月十七日の総会本会議において一般討論演説を行ない、国際緊張の緩和と軍縮については、東西両陣営が相互の不信感を解消してその対立を緩和するため、すべての国が国際紛争の平和的解決の原則を遵守し、他国に対する干渉を厳に慎むよう要望した。さらに藤山大臣は、この相互不信感と軍備競争との悪循環を断ち切るため、まず現状において実行可能な軍縮を行なうことにより信頼感を醸成し、これを土台としてさらに次の軍縮に移行し得るよう軍縮交渉が推進されることを希望するとともに、この観点から十カ国軍縮委員会が具体的成果をあげ、かつ核実験中止協定が早期妥結に至ることを期待すると述べた。次いで国連の役割については、それが今日まで「公開外交」、「静かな外交」を通じて国際緊張の緩和と平和の維持に大きな役割を演じてきたことを認め、さらに国連が東西の対立を克服して真の世界平和維持機構となり、諸問題の実際的、建設的解決をはかる場となるように、その機構および機能の強化活用のために各国が協力すべきことを呼びかけた。さらに経済問題については、まず低開発国援助に関し、最近経済先進国と低開発国との経済成長率の差が拡大する傾向にあるが、このような事態を改善することは世界経済全体の発展のために必要であつて、このためには低開発国自身の努力のみならず、先進国が産業技術、経営、資本等の面で援助を行なうことが不可欠の要件であることを力説し、また最近の傾向である地域的経済統合の結果、地域外の諸国との間に摩擦を生ずることともなれば、世界貿易拡大の見地から極めて遺憾であるとして、国連があらかじめこのための調整の場としての役割を演ずるように希望した。藤山外務大臣は、さらに技術移民の問題にも触れて、国連が経済開発に必要な技術者を含め一般に人的資源の導入に関する基礎的な諸問題につき調査研究を行なうように要望するなど、政治、経済、社会問題に対するわが国の態度を明らかにするとともに、これらの諸問題の解決についてわが国が国連に対して抱いている期待と国連に対する協力の決意とを表明した。

第十四回総会議長に選ばれたペルーのベラウンデ博士は、就任の挨拶の中で、今次総会が平和への努力を傾注することにより、「平和総会」として歴史に記録されることを要望したのであるが、中国の代表権問題、チベット問題、安全保障理事会非常任理事国の選挙をめぐるトルコとポーランドの対立等若干の事例について自由主義諸国と共産主義諸国の激しい対立がみられたほかは、総会を通じ概して米、ソ両国の話合いによる協調と妥協の精神がみられた。かくして、国連史上初めて全加盟国により共同提案された軍縮決議案も満場一致採択されたほか、大気圏外平和利用に関する決議案も満場一致採択されるなど、国際緊張緩和のための関係国の努力によつて、平和総会としての実績を示したことが今次総会の特徴であつた。閉会に当つて議長は、この総会において理解と協力の雰囲気が生れたことは、人類のよりよき日への希望をもたらしたものである旨を述べ、米、ソ両国代表も、問題の平和的解決の端緒を作り出したという意味でこの総会が平和総会の実をあげたことを称揚した。

わが国は、過去二年間安全保障理事会の一員として世界の平和と安全に寄与するための積極的努力を行なつて来たが、かねて安全保障理事会の任期終了後は、アジアにおける経済先進国として経済社会理事会に席を占め、この面から国連に対する協力の実をあげることが望ましいと考えていた。幸いこのようなわが国の決意が多数の加盟国によつて認められ、わが国は第十四回総会において経済社会理事会理事国に当選するに至つたのであるが、わが国がかくて一九六二年末までの三年間、国連の経済社会活動に努力し得ることとなつたことは、わが国の国際的地位の向上を示すものとして特筆すべきことであろう。

わが国は第十四回総会の軍縮問題審議に際し、とくに核実験中止問題、フランスのサハラ核実験問題に関して対立する見解を調整することにつとめ、これらに関する決議案の通過のために建設的な努力を行なつた。また安全保障理事会等国連の主要機関の構成員増加のために国連憲章を改正する問題に関し、対立を解消するための修正案を提出してその採択を可能ならしめ、さらに懸案のカメルーン問題、エティオピア・ソマリーランド国境問題等の解決のためにも積極的な努力を行なつた。このような努力は派手なものではなかつたが、多数関係国の尊敬と称讃をうけ、わが国の存在と役割とを明らかにするに与つて力があつたものと認められる。またわが国は昨年の大気圏外平和利用特別委員会の委員長に選ばれ、同委員会報告書の作成にも積極的に参加したのであるが、第十四回総会に際して拡大された大気圏外平和利用委員会にも引続き委員国として留まつたことは、宇宙空間研究に関するわが国従来の実績が認められた結果である。

このほかわが国は経済問題について世界貿易の拡大を強く主張し、社会問題については児童権利宣言の採択に積極的に努力し、また国際人権規約案の審議に際しては修正案を提議してその採択のために努力した。また総会終了後の経済社会理事会においては特別基金管理理事会の一員に再選され、後進国の援助につき引続き積極的に貢献し得ることとなつた。

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3 軍 縮 問 題

国連第十二回総会においてソ連が軍縮委員会ボイコットを宣言して以来、国連における軍縮問題の審議は事実上行詰りに逢着した。その後一昨年の第十三回総会におけるソ連の提案によつて、軍縮委員会は全国連加盟国をもつて構成されることとなつたが、軍縮の具体的問題の検討を行なう機関としては八十二カ国委員会は過大であり、結局昨年九月までは一般軍縮に関する国際的な話合いは何等の進展をみないままに推移した。昨年八月ジュネーヴで開かれた、米、英、仏、ソ四カ国外相会議は、今後の軍縮問題討議を最も効果的に進める方法について意見の交換を行ない、その後も関係国間でその具体化について協議を行なつていた。その結果合意に達したので右四カ国は共同声明において「軍縮問題を検討するため、米、英、仏、伊、加、ソ連、チェコ、ポーランド、ブルガリア、ルーマニアの十カ国からなる委員会を設置する。全面的軍縮措置に関する最終責任は国連にあり、同委員会の設置はなんら国連の責任を侵害するものではない。委員会参加国に直接関係する国際管理を伴つた軍縮措置ができれば、これは軍縮問題に関する国連の審議に貢献するものと信ずる。委員会討議の進捗状況については適宜国連軍縮委員会に情報を提出する」旨を明らかにした。この委員会はソ連の主張する東西両陣営均等の原則にしたがつて構成され、かつ、国連外の機関として設置されたものであり、軍縮問題討議にソ連の出席を確保するために西欧側が譲歩した結果によるものであるが、これによつて東西間に軍縮問題全般についての話合いが再開される機運が生れたものとして一般に歓迎された。

第十四回総会においては、折から訪米中のフルシチョフ・ソ連首相が九月十八日国連で行なつた完全軍縮提案とロイド英外相が提案した包括的軍縮案を契機として、軍縮問題が大きくとりあげられた結果、同総会は軍縮総会の観を呈するに至つた。フルシチョフ首相の完全軍縮提案は「第一段階において米、ソ、中共の兵力を一七〇万に、英、仏の兵力を六五万に、その他の国は協定できた水準まで兵力を削減する。第二段階において、各国とも兵力、在外基地を全廃する。第三段階において、一切の兵器を禁止し、かつ、軍事的開発、研究を禁止し、軍備撤廃を確保するため国際管理機関を設ける。これらすべての措置を四年以内に終了する」という全面的軍備廃棄案である。ロイド外相の提案も右と同様三段階を経て全面的軍縮の達成を目的としたものであるが、まず「軍事用核分裂物質の製造停止管理に関する技術会議開催、兵力および核兵器に関する情報収集機関の設置、奇襲防止会議の開催、大気圏外利用の研究、軍縮管理機関の性格および機能の研究」から始め、これらの検討の結果をまつてその具体化に着手するというものであり、その際国家間の安全保障の均衡を維持するため、通常兵器および核兵器の軍縮は平行的に行ない、かつ軍縮の各段階の進展に応じて有効な国際管理を実施することを強調したものであつた。

総会政治委員会は、完全軍縮問題をめぐり約一カ月間討議を行なつたが、ソ連圏を除く各国は、完全軍縮の目的には同感の意を表明しつつも、ソ連提案は楽観的にすぎ、ロイド提案の方が現実的であるとの批判を加え、かつ、問題は安全の均衡を維持し、十分な国際管理を伴つた軍縮をいかにして達成するかの点であるという発言を行ない、軍縮措置に関する提案はすべて十カ国委員会で検討されるべきであるとの意向を表明したものが多かつた。わが松平代表はこれについて、わが国は軍縮を達成するためのいかなる建設的提案をも支持するものであるが、完全軍縮のための交渉と平行して国際間の信頼を増すための努力が行われるべきである旨を強調し、かかる信頼感を作る上に不可欠な要件である国際管理機関の役割を重視し、その第一歩として核実験停止交渉の早期妥結を望むものであると述べて、この問題に対するわが国の関心と立場を明らかにした。

軍縮に関連する提案としては右の英、ソ両提案のほか、フランスが軍縮の第一歩として核兵器の運搬手段、すなわち人工衛星、ロケット兵器等を優先的に発棄せよとの案を提出し、またアイルランドは、完全軍縮達成までの段階において、核兵器所有国数の増加によつて戦争の危険が増大することを防止するため、核兵器拡散防止問題を検討すべきことを提案した。而してこれらの提案をすべて十カ国軍縮委員会で検討するという趣旨の共同決議案が米、ソ代表の間で合意され、わが国もその共同提案国となるよう米国から勧奨をうけたのでこれに同意した。しかるに同決議案の共同提案国となることを希望する国が多く、米、ソ両国もまたこれに応じたので、結局右は全国連加盟国の共同提案とすることとなつたが同提案は委員会、本会議とも表決によらずして満場一致で採択された。全加盟国が共同提案国となつたことは国連創設以来初めてのことであるが、これは国際緊張緩和の方法としての軍縮に対する世界の願望を如実に表明したものとして特に意義が深い。また国連において軍縮問題を扱う機関として軍縮委員会の有する重要性にかんがみ、これを現状どおりに存続させることも満場一致で決定された。

わが国としても、科学兵器の発達とこれら兵器のもつ恐るべき破壊力にかんがみ、核兵器を含む軍備全般についての規制、縮少が世界のすべての国家にとつてますます緊要な問題となつていることを認め、このような全面的軍縮のための交渉が進展し、有効な管理を伴う国際的軍縮計画についての合意が早急に達成され、もつて人類全体の願望に答え得る日の来ることを切望するものである。今般新たに発足する十カ国軍縮委員会は、昨年九月七日の米、英、仏、ソ四カ国共同声明で明らかにされたとおり、効果的な国際管理を伴う軍縮措置を検討し、これによつて国連における軍縮問題の審議に有益な基礎を提供することを目的とするものであつて、委員会討議の進捗状況については適宜国連軍縮委員会に報告し、かつ、これを通じて国連総会および安全保障理事会に報告を提出することになつている。従つて、同委員会は国連が軍縮の分野に有する責任を侵害するものではなく、国連と密接に連携しつつ活動するわけであつて、わが国としては、同委員会の構成国ではないが、主として国連を通じて同委員会の事業を促進するため協力して行きたいと考えている。

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4 核実験中止問題

(1) 一昨年十月三十一日からジュネーヴで開催されている核実験中止のための米、英、ソ三国会議は、昨年末までに約五十回の会合を重ねた。その間核実験中止に関する協定案の前文、本文十七条および附属書の一部について合意が成立したほか、高空および地下における核爆発探知についての専門会議を終えてすでに、協定当事国が一切の核実験を禁止すること、協定の定める義務履行を確実ならしめるために管理機関を設けること、自国領内に監視機関を受け入れること、有効な管理の継続を条件として協定期間を無期限とすること等、重要な原則について合意に達し、相当の進捗を示している。

しかしながら右交渉は、管理機関の中枢である管理委員会の構成、管理委員会における拒否権適用の範囲、核実験探知のための監視所要員の構成、核実験移動査察班の派遣、および地下核爆発探知の問題をめぐり、英米側が、委員会、監視所の構成について有効な管理の実施を確保する観点から、ソ連の主張と対立している。すなわち英米側が、委員会の拒否権の対象はなるべく縮少し、疑わしい爆発はすべて移動査察の対象とし、かつ地下爆発は自然地震によるものと立証されない限り疑わしいものとするとの立場をとつているのに対し、ソ連側は、委員会の構成は東西両陣営均等とし、監視所要員はできるだけ自国人をもつてあて、委員会の拒否権は広く認め、移動査察の年間派遣数は協定された回数までとし、かつ地下爆発は核実験によるものと立証されない限り疑わしいものとは考えないというように、全般的に全く相反する立場をとつているため、交渉はしばしば行詰りに逢着し、難航を続けている。しかし従来も幾度か決裂の危機に直面しながら関係国の妥協と努力とによつてこれを克服して来たことでもあるので、わが国としては関係国が今後とも同様の努力を続けることにより、協定ができるだけ早期に成立することを切望するものである。

わが国は、その悲惨な経験から核実験の禁止については特別の関心を持つており、従来も実験の行われる毎にこれに抗議し実験中止の措置がとられるように要請してきたのであるが、核実験中止はそのこと自体有意義であるのみならず、このために設置される国際管理制度は将来の各種軍縮措置の試金石としても極めて重要な意義をもつことになるという二重の意味で、この交渉が解決することを期待しているのである。

第十四回総会において、わが国は一昨年同様、オーストリアおよびスウェーデンとともに、ジュネーヴ交渉の当事国が国際管理組織を含む核実験中止協定の締結のための努力を強化するように要請する趣旨の決議案を提出した。他方インドも同趣旨の決議案を提出したが、両者の主な相異点は、わが国等三国案が、協定は国際管理組織を含むことを明記しているのに対し、インド案はこれになんら言及せず、かつ協定成立まで関係国が核実験停止状態を続けること、およびジュネーヴ交渉当事国以外の国も核実験を行なわないことを要請している点であつた。国際管理を伴わない協定を結ぶことおよび現在の自発的核実験中止状態を不確定の協定成立時期まで持続することは、いずれも米英の受諾しえないところであり、かつわが国としても支持しえぬものであつたが、本問題に関する国際世論を効果的に表現するため、双方の案を調整して共同の決議案とすることが望ましいと考えたので、わが国は関係国とも協議の上、両決議案を一本化するための努力を行なつた。

この協議の結果、国際管理および核実験の自発的停止継続の要請を含めることについては関係国の意見が一致したが、ジュネーヴ交渉当事国以外の国(具体的にはフランス)に対する実験中止要請を含めるか否かについて合意が得られなかつたので、結局各別個の決議案として存置することになり、一本化の努力は一応不成功に了つた。しかしながら前述の部分を除けば両決議案の実質的相異はなく、わが国としては元来いかなる核実験にも反対であるという立場をとつているのであるから、この字句を含む修正インド案にも全面的に賛成し得るので、オーストリア、スウェーデンとの三国案のほか、他のアジア・アフリカ(A・A)諸国とともにインド決議案にも共同提案国として加わつた。

A・A諸国の中にはわが国等三国決議案の内容に飽き足らずとしてこれに賛成することを躊躇したものもあつたが、元来三国決議案とA・A決議案は内容的に矛盾するものではなく、むしろ補完関係に立つものであるからこの際三国決議案に積極的に賛成することによつて西欧、中南米諸国A・Aの決議案に対する支持を確保すべきであるという建設的意見がA・Aグループの大勢を制するにいたり、総会における表決の結果、三国決議案は、七六対〇、棄権二で満場一致をもつて、A・A決議案は六〇対一、棄権一七をもつてそれぞれ採択された。右三国決議案の採択については最初から問題がなかつたが、当初困難視されていたインド案が可決されるに至つたのは、わが国が決議案一本化の努力を通じ、その内容を多くの国にとつて受諾可能な程度にまで緩和するように努めたこと、および一本化の努力が空しいことが明らかとなつた後は、わが国も積極的にその共同提案国となることによつて双方の決議案が成立し得るような情勢に導くための努力を行なつたことなどによるのである。A・A決議案が成立したことは後述のフランスのサハラ砂漠核実験中止要請決議採択の基礎を作つたものであり、わが国の動きによつて結局、第十四回総会においては核実験中止に関する三個の決議が成立するに至つたのであるが、わが国の演じたこのような役割は、A・Aグループのみならず国連内外においても高く評価された。

(2) 昨年六月フランスがサハラ砂漠で核実験を実施するという態度を明らかにしたことは、同実験がジュネーヴの核実験中止交渉に暗影を投ずるのみならず、他国の実験開始を誘発し、軍縮達成の傾向に逆行するものであるとして国際世論を刺戟したが、とくに直接実験の脅威に曝されたアフリカ諸国民は一致してこれに反対する態度を表明し、モロッコ政府はこの問題を第十四回総会が議題としてとり上げることを要請した。

国連のA・Aグループ諸国代表は、この問題に対する態度を協議するためしばしば会合したが、わが国を含む十二カ国の実行委員会を設けてさらに検討を続け、八月三十一日、「A・Aグループは、核実験に対する世界人類の深甚な懸念にかんがみ、第十四回総会がフランスのサハラ核実験問題をとりあげることを支持する」との声明を発表した。

一方これと平行してわが国は、核実験問題に対する特殊の立場から、九月三日フランス政府に対し、サハラ核実験に対するわが国の態度を明らかにするとともに、同政府の注意を喚起する趣旨の申し入れを行なつた。

総会においては、あくまでフランスの核実験反対を主張するA・Aおよびソ連圏諸国と、サハラの実験は十分の予防措置を講じた上行なわれるものであつて、なんら危険を与えるものではないと主張するフランス、米、英等NATO諸国の見解とが対立したが、わが国はいかなる核実験といえども是認し得ないとの基本的立場を明らかにするとともに、従来国連においてもわが国は核実験の中止を実現するため多大の努力を払つてきた旨の発言を行なつた。

A・Aグループは、「総会がフランスの核実験に対する重大な懸念を表明し、その中止を要請する」との決議案を提出したが、わが国は同決議案が多数国家の賛成によつて採択されることを確保するため、過激な表現を緩和する等の努力を行なつた後、他の二十一カ国とともに同決議案の共同提案国となつた。その後同決議案は、中南米諸国の修正意見をいれて内容を若干緩和した上、政治委員会において四六対二六、棄権一〇をもつて可決されたが、これでは総会本会議通過に必要な三分の二の得票数がないので、その通過が困難視されていた。

しかるに本会議においては、さきに米、英、ソ三国以外の国に対しても核実験中止を求めた決議(A・Aグループ提出のもの)が採択され、もはやフランスの核実験中止を要請する決議案に反対ないしは棄権する理由が乏しくなつたことでもあり、かつフランスが国連決議の有無にかかわらずあくまでも核実験を強行するという態度を表明したことが他国の感情を刺戟し、主として中南米諸国が政治委員会におけるその表決態度を変えた結果、同決議案は五一対一六、棄権一五をもつて採択されるに至つた。

この決議案が採択されたのはもちろん核実験反対の国際世論によるほか、中南米諸国が賛成に廻つたことなどにもよるのであるが、その直接の動機となつたのは、核実験中止に関するA・Aグループ決議案の採択であつて、実験中止についての両決議案採択のために尽したわが国の努力は高く評価されている。他面またこの問題を通じて、従来比較的疎遠であつた国連A・Aグループと中南米グループ穏健派との間に初めて協力的関係が生れたことも、ここに特筆すべきことであろう。

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5 大気圏外平和利用問題

大気圏外の平和利用および研究を促進するために国連が寄与し得る分野とその方法とを検討する目的で、大気圏外平和利用特別委員会が第十三回総会で設置され、わが国を含む十八カ国が委員に選ばれたのであるが、ソ連は同委員会の構成がソ連圏諸国に不利であるという理由でこれをボイコットする態度を明らかにしていたため、その前途は危ぶまれていた。これに対して米国をはじめ、英、仏、伊等の諸国はソ連の参加を勧奨するとともに、たとえソ連が出席しなくとも委員会は有益な実績をあげ得るとの観点から会議開催を決意し、国連事務総長に開催を要請した。

ソ連はこれに対し、各国平等の原則に反した構成の委員会を開催することは、かえつて大気圏外平和利用に関する国際協力の促進を阻害するものであると声明し、再び不参加の態度を確認したが、この関係からチェコ、ポーランド、およびインド、アラブ連合も参加しないこととなり、結局委員会は五月六日これら五カ国欠席のまま十三カ国によつて開催された。

わが国はこれよりさき、ソ連はもとよりインド、アラブ連合の両国に対して委員会の非政治的性格を強調してその出席方を勧奨した経緯があるが、会議の第一回会合においては、わが国のロケット打上げ、人工衛星観測等この分野で示してきた科学上の業績にかんがみ、わが国連常駐代表松平大使が委員会議長に選ばれた。

松平議長は就任の挨拶の中で、委員会が国連の決議によつて与えられた任務を遂行するとともに、冷戦の具とならないようにとの希望を表明したが、委員会はその下に科学および法律の二小委員会を設けてそれぞれの分野における問題の検討を命じ、六月二十五日これらの報告をとりまとめた委員会報告を採択した。同報告は、大気圏外平和和用の基本理念として公開性と秩序とを強調し、この理念に基づいてロケット打上げの登録、電波周波数の割当についての国際的措置、平和利用センターの設置等を勧告しているほか、平和利用に伴つて発生する法律問題とその解決の方向を示唆し、また国連の中に平和利用に関する機関を設けるよう勧告したものである。わが松平議長は会議終了に際しての挨拶で「この報告は大気圏外を今後全人類の福祉のために、平和的に秩序正しく、各国の協力によつて利用するという決意の現われであり、その結論はいかなる国をも排除するものではなく、各国今後の協力の基礎をなすものである」と述べてその成果を称揚した。

わが国が大気圏外平和利用特別委員会に議長として選ばれたのみならず、同委員会に特に派遣した東大理学部畑中教授が科学小委員会で報告の起草委員に選ばれ報告の作成に寄与したことは、宇宙空間研究の分野におけるわが国の地歩をさらに高からしめる上に資するところがあつた。

第十四回総会においては、宇宙空間の探査に実績を有するソ連を除外しては有効な委員会の活動が期待できないという観点から、ソ連の参加を希望する世界の世論を反映し、主として委員会の構成に関する交渉が米、ソ両代表の間で行われた結果、西方側十二カ国、ソ連圏七カ国、中立国五カ国、計二十四カ国をもつて構成する委員会を設置することに合意が成立した。而して大気圏外平和利用と委員会の設置および国際科学会議の開催に関する決議案の内容自体には大した異論もなかつたので、米、ソ両国合意案を基礎とする同決議案が政治委員会および本会議によつて満場一致で可決された。わが国が右の委員会に西方十二カ国の一として選ばれたことはいうまでもないが、決議案に対してもアジアを代表する国としてインドとともに共同提案国となつた。

政治委員会における大気圏外平和利用問題審議の際、各国とも米、ソの協調によつて大気圏外における真の国際協力が可能となつたことを称讃する趣旨の発言を行つたが、前の平和利用特別委員会が幾多の困難にもかかわらず建設的な報告を提出したことは、今後の大気圏研究に関する国際協力の基礎を築いたものであるとしてその業績を高く評価し、かつ議長国としてのわが国に敬意を表する旨の発言を行なつた代表も少くなかつた。

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6 ラオス問題

一九四六年から八年間にわたつた仏印戦争当事、共産系のパテト・ラオ(自由ラオス、旧名ラオス救国隊)は北ヴィエトナム軍と協力して反仏武力抗争を続け、一九五四年仏印休戦協定成立後も北部のサムネア、フォンサリ両州の行政権を握つてラオス王国政府と対立していたが、一九五六年両者間に妥協が成立し、北部二州を王国政府に返還するとともに、パテト・ラオ軍を王国軍に編入し、連合政府を樹立することとなつた。しかるに一昨年八月成立したサナニコン内閣は、従来の中立主義を脱却して親米反共政策をとり、パテト・ラオ閣僚を追放するとともに、昨年五月パテト・ラオ軍の武装解除、軍指導者の監禁を断行したため、部隊の一部は北方に逃走し、やがて北ヴィエトナムの援助を受けて失地回復のため攻撃に転じた結果、王国軍との戦闘は拡大して内戦の様相を呈するに至つた。

ラオス代表は、昨年八月中旬頃から国連事務総長と協議を行ない、ラオス問題を国連の援助によつて解決する方法を検討していたが、八月二十九日同事務総長は、この問題について安全保障理事国、総会または両当事国の要請がない限りは何等の措置をとり得ない旨を声明したため、ラオスの希望は実現しなかつた。

このような情勢の下に九月四日、国連ラオス代表部は「過去数日来北ヴィエトナム領域からの砲撃の掩護の下に、七月以来ラオスに侵入している外国軍隊が新たな攻撃を開始したので、ラオス政府は国連の援助、就中緊急軍の派遣を要請し、このため適当な措置を事務総長がとることを要請する」とのラオス外相発の電報を事務総長に伝達したので、安保理事会議長は事務総長の示唆に従い、この問題を審議するための理事国の招集を要請した。同理事会は九月七日、「本問題はジュネーヴ休戦協定とヴィエンチャン協定を忠実に実施することによつてのみ解決し得るものであり、国連の介入には反対である」というソ連の主張を押切つてこれを議題として採択した。

米、英、仏三国は、「安保理事会がアルゼンティン、イタリア、日本およびチュニジアをもつて構成する小委員会を任命し、同小委員会は安保理事会で行なわれたラオスに関する諸声明を検討し、今後の諸声明および文書を受理し、必要と認める審査を行ない、かつ速かに理事会に報告するよう指令することを決定する」という決議案を提出した。これに対し理事会は、ソ連の反対にもかかわらず議長の裁定と十対一の表決をもつて、本小委員会の設置は手続事項であると決定した上で、同決議案を採択した。

その際ソ連を除く各国とも、ラオスが主権国家として国連の援助を期待するのは当然であり、事実関係を明らかにするための実際的措置として小委員会を設置することを支持する趣旨の発言を行つたが、わが松平代表も、第一に紛争地域の情勢について十分の情報を収集すべきこと、第二に現在の情勢では事態の本質を討議するのは時期尚早であること、第三に同地域に小委員会の形で国連が存在することは緊張緩和に寄与することを理由として、前記決議案を支持する旨を表明した。

その後小委員会はニューヨークで会合し、日本代表渋沢大使を委員長に選出するとともに、その任務としてラオス政府の提出する文書、証拠、証人等に関して審査を行なうことを決定した。なお同委員は、単に事実関係を明らかにするのみならず、現地における「国連の存在」として事態を平静化する効果をも期待されていたので、九月十五日より約一カ月間ラオスに滞在し、ラオス政府の提出する文書、資料、証人等の審査を行なつたほか、同政府の要請によつて問題の地域を視察した。さらに同委員がラオスを去つた後も、日本およびイタリアの代表代理を小委員会報告書提出の時期まで現地に残留せしめ、補足的資料の受理をも含めてラオス政府と小委員との連絡に当らせた。

小委員会の現地到着とほぼ時を同じくしてラオスにおける事態は平静に向い、「国連の存在」としての同委員会の機能は一応果されたが、小委員会は十一月六日報告書を提出し、「(1)ラオス全土にわたる敵対行動はゲリラ的なものである。(2)ラオス政府の資料および証人の口述によれば、これらの敵対行動のあるものは一つの中枢によつて指揮されている模様である。(3)敵対者は、証言によれば、北ヴィエトナムから援助を受けている由である。(4)小委員会が得た情報からは、北ヴィエトナム正規軍が国境を越えたことは明らかにし得なかつた。」との趣旨を明らかにした。同報告の発表後米国は、小委員会が北ヴィエトナムの侵入を否定しなかつた旨を声明したのに対し、ソ連は、北ヴィエトナムの侵入を立証し得なかつたと声明してこれを反駁した。

小委員会がラオスを去つた後も、同地域の静ひつを維持するためには「国連の存在」を存置することが望ましいと考えられたが、これをどのようにして実現するかにつき国連において関係国間の協議が行なわれた。しかし安保理事会または総会の決議によつてこれを設置することは再び小委員会設置の際と同様の議論を誘発し、ソ連との間に無用の摩擦を生ずるおそれがあるので、事務総長は、国連憲章に認められた自己の権限の範囲内でこれを実現するという方法をとることとした。すなわち事務総長はラオス政府の招請を機として十一月十日より約二週間にわたつて同国を訪問し、これによつて「国連の存在」を示し、その後は同総長の代理として国連欧州経済委員会事務局長を派遣して、ラオスに対する国連の経済、技術援助供与に関する調査を行なわせるとともに、事務総長がラオス政府との間に開始した話合いを続行せしめることとした。欧州経済委員会事務局長のラオス滞在は約四週間の予定で、その後は他の国連職員と交代することになつている。同局長の任務はあくまでも事務総長の指示した経済事情調査であつて、公式には「国連の存在」と称されてはいないが、同局長がラオスに在ることによつて事実上国連の権威を示し、事態の平静化に寄与していることは疑問の余地がないであろう。

わが国はアジアを代表する安保理事国として、ラオスの事態にはもとより重大な関心を有するものであつたが、このため正確な事実を把握するための小委員会の設置に進んで賛成し、小委員会委員長国として報告書の作成に当り、また事後の収拾についても指導的役割を演ずることができたことは、わが国が安保理事国としての任期を了えるに当り、かねて念願して来た国連憲章に基づく世界の平和と安全の維持に寄与する絶好の機会であつた。

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7 その他の政治問題

(1) 安保理事会非常任理事国および経済社会理事会理事国ならびに国際司法裁判所裁判官の定員を増加させるために国連憲章を改正する問題は、第十一回総会以来毎総会で審議されてきたところであるが、従来ソ連圏諸国が、中国代表権問題が解決するまでは実質的審議に応ずることはできないという態度をとつていたため、過去の各総会は、いずれもこの問題の審議を次期総会に延期するとの決議を採択するに止まつていた。第十四回総会においては、特別政治委員会で、エル・サルヴァドルが、本問題について、加盟国が合意する可能性を検討するための小委員会設置案を提出したため、ソ連圏諸国および審議延期を主張するセイロン、アラブ連合等とのアジア、アフリカ諸国とはげしく対立した。

わが国はかねてより、国連加盟国の数が国連発足当時に比して著しく増加している今日、主要国連機関の構成を拡大することは、国連活動を強化するために妥当かつ必要な措置であると主張して来たのであるが、第十四回総会においても、藤山外務大臣が一般討論演説の中で、憲章改正の必要を指摘したほか、前記エル・サルヴァドルの提案については、同案が憲章改正の実現に向つて一歩を進めた措置であるとして、強くこれを支持した。

エル・サルヴァドルの右提案は、特別政治委員会で過半数の支持を得て採択されたが、本会議通過に必要な三分の二多数を欠いていた。わが国は、総会の空気が、できるだけ多くの支持を得た決議の採択を好ましいとしていたことにかんがみ、また委員会の設置に反対して単に審議延期を主張するアジア、アフリカ諸国と、憲章改正の早期実現を希望して委員会設置に賛成する西欧、中南米諸国とが、この問題について、協調して解決を計るべきであると考えた。そこで本会議において、エル・サルヴァドルとともに、第十五回総会において何等の進展のない場合は委員会を設置するという趣旨の修正案を提出したところ、この修正案はソ連圏諸国の反対を受けたのみで採択された。わが国のこの努力は、アジア、アフリカ諸国および西欧、中南米諸国の双方の深く多とするところとなり、憲章改正に向かつて各加盟国の歩調を統一する上に貢献するところが大きかつた。

(2) 英国の信託統治下にあるカメルーンと、仏国の信託統治下にあるカメルーンの両地域の将来を決定する問題は、国連信託統治理事会および総会の懸案となつていた。両地域はともに旧ドイツ領であつたが、第一次大戦後、英、仏両国の委任統治地域に分割され、国連発足と同時に両国の信託統治となつた。而して一九六〇年一月に仏カメルーンが独立するに伴つて、同地域に関する信託統治協定を廃止する問題と、本年十月に英領ナイジェリアが独立するに伴い現在その一部として統治されている英カメルーンの帰属をいかにするかという問題が、第十三回総会で解決せず、結局この問題のみを審議するため昨年二月、第十三回総会再開会期が開かれた。

仏カメルーンについては、現在の政権は、左翼系政党を非合法化したまま行なわれた選挙の結果として成立したものであるから、真の民意を代表するものではないとして独立前の総選挙を主張するアラブ・アフリカ急進派と、独立後の選挙を主張する現政権およびフランスの意見とが対立した。また南、北両地域に分かれる英カメルーンについては、北部が、ナイジェリアとの統合を希望すると考えられたのに対し、南部はナイジェリアとの統合を支持する野党と、仏カメルーンとの統合を支持する与党の勢力が伯仲していたため、いずれとも決し難い事情にあつた。一昨年来現地を視察した信託統治理事会の定期視察団は、昨年二月報告書を提出し、仏カメルーンの現政権は民意を代表しているから独立前に選挙を行う必要はないとし、また、英北カメルーンのナイジェリアとの統合は住民の支持を受けているので住民投票の必要はないが、南カメルーンについては民意が明らかでないので、住民投票によつてこれを決定すべきである、との結論を明らかにした。

仏カメルーンについては、米、伊等五カ国が一九六〇年一月同地域の独立の際に信託統治協定を終結するという決議案を提出したが、アラブ、アフリカ急進派(アラブ連合、ガーナ、ギニア等)はあくまで独立前の選挙を主張してこれに反対した。わが国は、重要なのは独立であつて選挙の時期ではなく、かつ国連視察団報告の結論は十分な理由がない限りこれに反対し得ないという立場から、ビルマ、マラヤ等アジアの穏健な諸国と協同して、独立後早急に選挙が行なわれることを確信するとの修正案を提出し、結局この修正を含む原決議案が採択された。

英カメルーンについては、わが国は、南北カメルーンの住民投票を行なうことを希望する英国の意向をも入れて主導的に活動し、その結果北部においては一九五九年十一月に、南部においては同年十二月から翌年四月の間に、それぞれ住民投票を行なうこととし北部においてはナイジェリアとの統合かあるいは決定を将来に延ばすべきかにつき質問することとし、また南部に対する質問事項は第十四回総会において決定するという決議案を提出して採択された。右のように、第十三回再会総会が、わが国の調停者的役割によつてその所期の目的を達成することができたのは大きな収獲であつた。

第十四回総会に際してアラブ・アフリカ諸国の一部は、仏カメルーンに左翼による暴動が発生したのを口実として、国連の任命する委員を派遣して事態の平静化をはかるとの決議案を提出した。しかしわが国をはじめとして、これはすでに前総会で国連が表明した現政権に対する信頼をくつがえすものであるという態度をとる国が多く、結局同決議案は否決された。

南部カメルーンについては、住民投票の際の質問事項につき、国連に出席した現地の政府代表が(イ)ナイジェリアとの統合か、(ロ)現状を維持し、決定を後日に延期するか、とすることを希望したのに対し、同野党代表は(イ)ナイジェリアとの統合か、(ロ)仏カメルーンとの統合か、とすることを希望して意見の一致をみなかつたが、一般にアフリカ諸国の斡旋によつて両者の妥協が成立し、質問事項は結局、ナイジェリアとの統合か、仏カメルーンとの統合か、と定め、投票は一九六一年三月までに行ない、投票参加者は南カメルーン出生者とするという趣旨の決議が採択された。

北部カメルーンについては、国連視察団が、ナイジェリアとの統合を希望する住民の意思はさらに住民投票によつて確認の必要がないと報告したにもかかわらず、昨年十一月の投票の結果は、その将来の決定を後日に延期するものが過半数を得た。しかし英国は、これによつて北部住民の多数がナイジェリアからの分離を表明したわけではないとの観点から、南部カメルーンと同時に住民投票を行なうことを希望したので、わが国はカナダ、スウェーデン等とともに、南部カメルーンに関する決議と同趣旨の決議案を提出し、この決議案は、満場一致採択された。

(3) イタリアの信託統治下にあるソマリーランドとエティオピアとの国境が明確に画定されていないため、この国境確定問題は毎年国連総会で審議されてきたものであるが、ソマリーランドが本年七月ソマリアとして新たに独立することとなるに伴い、本問題の解決は急を要するものとなつた。エティオピアは、両者間に条約上すでに存在する国境を主張するのに対し、イタリアおよびソマリア側は条約の解釈が不定のため国境は未確定であるという立場をとり、過去の国連総会で、直接交渉ないし仲裁裁判による解決が勧告されたにもかかわらず、両者の歩みよりは実現しなかつた。わが国は、この際国境を確定しておくことが両国の将来のために絶対必要であると考えたので、現在の暫定的国境を両国の国境とするとともに、国境確定委員会を設置して現地で必要な調整を行なうという趣旨の解決策を双方に提示し、種々斡旋に努力したが、最終段階においてついに妥結に至らぬままこれを打切らざるを得なかつた。しかしわが国のこのような努力は各方面から多大の好意をもつて認められ、イタリアおよびエティオピア両国代表は、とくに本会議における発言でこの点に言及し、わが国に対して謝意を表明した。

第十四回総会においてはこの他朝鮮(統一)問題、アルジェリア問題、南阿における人種差別問題、パレスタイン難民救済問題等が審議されたが、わが国はこれらの問題につき、つねに国連憲章の目的と原則に従つて事態を平和的に解決すべきことを主張するとともに、ややもすれば急進的に動きがちなA・Aグループの中にあつて、できる限りこれを建設的な方向に導くよう努力し、同グループと西欧諸国との間を調整し、また国連の権威を高めることに貢献した。

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8 経済社会理事会理事国当選

わが国は、安保理事会の非常任理事国としての活動の経験とアジアにおける経済先進国としてのわが国の国連における地位とにかんがみ、かねて安保理事会の任期終了後は、経済社会理事会の理事国として経済社会の分野において国連外交を推進することを期待していた。

そもそも経社理事会は十八カ国で構成され、毎年その三分の一が改選されるのであるが、再選を妨げないので、安保理事会の五大国は従来毎回再選されている。また厳密な意味での議席の地理的配分に関する協定は存在しないが慣行的にアフガニスタン以東のアジア十三カ国は二議席を有するに止まるので、アジアは、他の地域に比すれば同理事会に十分代表されていない実情にある。昨年夏わが国が立候補したのは右の二議席の一であつて、昨年末で任期満了する。パキスタンの後任議席であつた。これに対しセイロンは、対立候補として一旦名乗りをあげたが、翌一九五九年七月安保理事会立候補に切り替え、新たにインドがわが国の対立候補となつた。けだし英連邦諸国の一部には、右の二議席中の一議席はアジアにおける英連邦国に割当てられたものであるとの主張が行なわれていたからである。

わが国は立候補以来在外各公館を動員として積極的な選挙工作を進めわが国の立場に対する各国の理解を深めることに努力したが、その結果選挙前に約五〇カ国見当の支持を期待し得るに至つて優位にあつた。これに反しインドはすでに三期八年間にわたつて経済社会理事会を勤めているほか、信託統治理事会にも立候補していたので、立候補時期の遅かつたこととも相俟ち、かならずしも十分な支持票が固まらなかつた模様であるが、いずれにするも、わが国、インドの両国とも当選に必要な加盟八十二カ国の三分の二の支持を確保し得ない状態のまま選挙に臨むこととなつた。

かくて十月十二日総会本会議において六カ国の改選が行なわれ、まず英、ソ連、ブラジル、デンマークおよびポーランドの五カ国の当選が確定したが、わが国とインドはともに必要多数をえられず、残りの一議席をさらに両国の間で争うこととなつた。結局六回投票をくり返した後、インドがわが国のために立候補を取り下げるに至り、第七回目の投票においてわが国は、有効投票七九票中七〇票(インド九票)を得、当選が確定した。

この結果わが国は、一九六二年末までの三年間、国連の経済社会活動に積極的に貢献しうることとなつた。なおわが国は任期中自動的に、経社理事会の下部機構たる技術援助委員会のメンバーとなり、「拡大技術援助計画」等国連の技術援助計画の実施および運営に参画することとなつたのであるが、このことの有する意義もまた決して看過し得ないのである。

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9 経 済 問 題

経済財政問題については、第十四回総会で十八件の決議が採択されたが、議論は低開発国の経済開発問題に集中した。

まず、具体的審議に先立つて行なわれた世界経済問題に関する一般討論において、ドセイン経済社会局長が一般経済情勢を概観し、各国代表がそれぞれの立場について演説した。わが松平代表は、「労働力不足のために経済開発の遅れている国に対して人口過剰国から移住を行なうことの可能性について国連が研究を行なうように希望する。財政資金による後進国援助の可能性には限度があるから、先進国、後進国ともに民間資本の投資環境を改善することに努めるべきである。第一次産品の需給および価格安定のためには、商品別に協定を作るべきであるが、より総合的な安定策を研究することについても反対しない。経済社会理事国および地域経済委員会で、閣僚級の代表が各国の工業化計画の調整を図るため討議を行なうことは意義の深いことである。第二世銀の設立を歓迎する。軍縮が可能となつた場合に軍縮が各国経済に与えるべき影響、とくに後進国経済開発との関連につき今日から最大の注意を払う必要がある。」と、わが国の態度を明らかにした。

一般討論終了の後決議案の審議に入るや、年来問題になつている低開発国の経済開発促進のため、国連が融資し得るよう、国連資本開発基金の早期設置方を検討すべしとする決議案が、低開発国を主体としオランダを含めた四十七カ国から共同提案された。これに対し西欧先進国側十数カ国は、軍縮も実現せず、また他方第二世銀に対する出資のため財源捻出が不可能であること等を理由として棄権したが、結局本案は反対なく撰択された。わが国は賛成投票を行なつた後「資本開発基金設置の方針には従来より賛成であるが、現状において早期設置を求めるのは不適当と考える。またわが国は第二世銀に出資する場合、本基金が設立されても差し当り拠金はできない。」旨を述べて、その立場を明らかにした。

ラ米共同市場結成に関し、ラ米十七カ国が共同提案した「総会がラ米経済委員会に対し、共同市場結成を優先せしめることを勧告する。」趣旨の決議案は、英、米、蘭、伊、ベルギー、スペイン、インド等の異口同音の讃辞を受けて、満場一致採択された。わが国は、欧州経済共同体、欧州自由貿易連合の設立により世界経済のブロック化がおそれられている時、国連がラ米共同市場の創設を推進することは世界的規模での貿易自由化の見地より好ましいものではないと考え、このような決議の採択に対し当初批判的な態度をとつたが、共同提案国は、ラ米共同市場は欧州共同市場と異なり、開発途上のラ米諸国の域内協力を目的とするもので、他地域に対する差別を意図するものではない旨繰返し説明した。その結果わが国も、右共同提案国の説明を諒とし、本案に賛成する旨を明らかにした。

昨年一月に発足した国連特別基金は、低開発国の総合開発に不可欠な基礎的分野に対し、組織的継続的に大規模な技術援助を与えることを目的とするものであるが、わが国は同基金の最高機関である管理理事会(メンバー十八カ国)に、先進国側の一員として発足当初より参加した。第十四回総会終了後経済社会理事国において、昨年末で任期満了する六カ国の後任が選出されたが、わが国は満票をもつて再選された。これによりわが国は一九六二年末まで三年間引き続いて本基金の管理運営に参画することになつた。経社理事会当選に相継ぐ本件再選は、経済先進国としてのわが国の国連における位地の向上を如実に物語るものである。

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10 社会人権問題

(1) 社会人権問題については、わが国は第十四回総会において、経済社会理事会報告に関する一般討論の際にわが国の見解を述べたが、その中で社会進歩を経済開発に従たるものと考えるのは誤りであり、社会福祉措置の充実が経済開発に不可欠であることを指摘した。ついで爆発的に増加する世界の人口問題に言及し、わが国の経験に徴し人口収容力拡大化の方途として高度の工業化および国土と国内市場の開発がある旨を紹介し、最後に、低開発国の開発に必要な専門家および技術労働者の国際交流を促進するために国連が具体的な国際協力のための諸措置をとるように要望した。

なおこの総会で採択された児童権利宣言は、世界人権宣言とともに人権に関する国連の二大宣言となるものであり、わが国は、宣言案の審議に積極的に参加し、その採択に努力した。また国際人権規約案については、前回総会にひきつづき第十二条ないし第十四条の審議を行なつたが、わが国は、刑事法における一事不再理の原則を第十四条に新たに規定すべきことを提案し、この提案の審議は白熱化したが、結局多数代表の賛成を得て採択された。

報道の自由に関する条約案については、前回総会の決議に基づき、今次総会から逐条審議が行なわれ、前文および第一条が採択された。わが国は、基本的には条約案に賛意を表明したが、第二条の制限しうる事由については態度を留保することを明らかにし、また各国の意見が極端に対立していることにかんがみ、各国が受諾しうるような条約案とすることが望ましい旨を一般的見解として述べた。

(2) 昨年九月二十六日の伊勢湾台風による被害が殊の外甚大であつたので、政府は、とくに罹災児童救済のため四万枚の毛布を特配することとし、ユニセフ(国際連合児童基金)に対し特別緊急援助を要請した。ユニセフ執行委員会は、わが国の要請を容れて、毛布購入価格の五〇パーセントを負担することとし、米貨五二、〇〇〇ドルの援助を行うことに決定した。

よつてわが政府もユニセフの援助額にほぼ相当する額(一、九一六万円余)を支出し、総額約三、八〇〇万円の資金をもつて、約四万枚の国産毛布を購入し、これを年末までに台風被害が最も激甚であつた愛知、三重、岐阜三県の被災児童福祉施設および生活保護世帯の罹災児童に配給した。

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11 専門機関における活動

わが国は従来より国際労働機関(ILO)理事会、国際連合食糧農業機関(FAO)理事会、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)執行委員会、国際復興開発銀行(IBRD)理事会、国際金融公社(IFC)理事会、国際通貨基金(IMF)理事会および万国郵便連合(UPU)実施連絡委員会、のメンバーとして、それぞれの専門分野で引きつづき国際協力の実を挙げて来ている。昨年一月には新たに発足した政府間海事協議機関(IMCO)理事会に世界の主要海運国の一として選出され(「わが外交の近況第三号、五一ページ参照)、同四月には世界気象機関(WMO)執行委員会に当選し、六月には国際民間航空機関(ICAO)理事会の改選に際して再選された。さらに同十二月には電気通信分野における国力の増進を背景として国際電気通信連合(ITU)管理理事会およびその下部機構たる国際周波数登録委員会(IFRB)委員に新たに選出された。その結果わが国は、国連の専門機関十二のうち、十一機関の運営に積極的に参与し得ることとなつた。