五 国際友好関係の増進

諸外国と友好関係を保つて行くことは、単に世界平和の見地から重要であるのみならず、わが国の政治的、経済的ないしは文化的向上のためにも極めて望ましいことである。そこでわが国としても今日まで能う限り多数の国々と親しく交際することにつとめて来た。各国との友好善隣はわが外交の指針であつて、わが国としては、国際問題はすべて平和的な話合いによつて解決することにつとめ、またいやしくも他国の内政に干渉することを慎むものである限り、世界のいずれの国ともつねに善き隣人として平和の中に共存して行きたいと願つている。

とくに最近は、国際交通の発達にともない、各国の指導的地位にある人々が相互に訪問し合つて外国の実情を知り、また親しく語り合うという方法で国家間の懸案を解決し、友好関係を強化して行こうとする傾向が生じている。これは国際紛争を平和的に解決するという見地からもまことに好ましい傾向である。

近年わが国にも多数の賓客が相ついで諸外国から来訪しているが、他方わが国からも昨年は岸総理大臣が欧州および中南米の十一カ国に対して親善訪問を行ない、また藤山外務大臣も国際連合第十四回総会に出席した際、米国政府の要路と会談した。

わが国の為政者がこのようにして自ら海外に赴き、一方においてはわが国情とその外交方針を誤りなく伝え、他方諸外国の直面する問題に対して理解を深めることは、国際社会の一員としてのわが国の外交に誤りなきを期し、また国際親善を深めるためにも極めて重要なことであろう。

岸総理大臣の欧米訪問

岸総理大臣は、松本内閣官房副長官以下随員約十名を伴い、昨年七月十一日から同八月十一日までにわたつて、英国、ドイツ、オーストリア、イタリア、ヴァチカン、フランス、ブラジル、アルゼンティン、チリ、ペルーおよびメキシコの諸国を訪問した。この訪問はこれら各国政府の公式招待に基づくものであつて、岸総理大臣は、各国において国賓として最高の儀礼をもつて迎えられた。

この訪問は、具体的な個々の懸案を解決することを目的としたものではなく、各国政府首脳および国民との接触を通じて、これら諸国とわが国との親善関係を増進することを目的としたものであつた。訪問各国では官民共に、岸総理大臣一行に対して予期以上の歓迎振りを示し、これら諸国のわが国に対する関心と期待とが極めて大きいことを示した。

岸総理大臣と各国首脳者との会談では、わが国とこれら諸国との友好関係を強化する方法や、東西関係ないしアジア情勢を含めた国際情勢の見通し等について、卒直な意見の交換が行なわれたが、その際岸総理大臣はとくに次の諸点を強調した。

1 わが国は正義と自由に基づく世界平和の確立を望むものであり、このため、国際連合憲章の尊重と自由民主主義諸国との協力を外交の基本方針としていること。

2 低開発国に対する援助は、現在最も重要な国際的課題の一つであつて、自由諸国が協同してこれを行なう必要があること。

3 わが国が自由な民主主義国家として繁栄するためには、外国貿易を振興することが不可欠の条件であるので、訪問各国とわが国との通商関係を今後さらに発展させることが極めて望ましいこと。

4 国際関係の中で文化交流の占める地位がますます重要性を加えていることにかんがみ、これら諸国とわが国との文化交流を一層活発にすることが望ましいこと。

5 とくに中南米には、現在わが国の移住者が多数入植してそれぞれの国の国土開発と経済発展に寄与し、またわが国との友好関係の緊密化に貢献しているので、今後ともこれら諸国が、わが国の移住者を一層好意的に受け入れてくれるよう強く希望すること。

(なおこれら各国訪問の詳細については、各説の中、英連邦関係、西欧関係および中南米関係等項をそれぞれ参照されたい。)

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藤山外務大臣の米国訪問

藤山外務大臣は、国際連合第十四回総会にわが政府首席代表として出席のため、昨年九月十日羽田発、ホノルル、サンフランシスコを経由してニューヨークに向い、同十五日国際連合総会開会式に臨み、さらに十七日本会議において一般討論演説を行なつた。ついで同二十三日ワシントンに赴き、翌二十四日ハーター国務長官、ディロン国務次官等米国政府要路と会談した。

この会談では、アイゼンハウァー大統領の欧州旅行、フルシチョフ・ソ連首相の訪米、極東情勢を中心とした国際情勢の検討のほか、日米間安全保障取極に関する討議、日米貿易関係等両国が関心を有する事項につき意思の交換が行なわれた。

藤山外務大臣は、九月二十五日ワシントン発、ニューヨークを経由してメキシコ・シティに赴き、翌二十六日同地で開催中の中南米公館長会議に出席した。ついで二十七日同地発、ニューヨークを経由してスイスに向い、同三十日よりベルンにおいて、ソ連、西独、連合王国、フランスの各国に駐在するわが国の四大使と国際情勢の検討を行なつた上、十月四日空路帰国した。

なおこのほか藤山外務大臣は、昨年五月二十五日東京を出発し、同二十七日ワシントンで行なわれたダレス国務長官の公葬に列席し、同三十日帰国した。

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