第三十一回国会における岸内閣総理大臣施政方針演説(外交に関する部分)

最近の国際惜勢を顧みますと、各国首脳の不断の努力にもかかわらず、東西両陣営相互の不信の念は依然根強く、その対立関係はいまだ解消を見るに至つておりません。他方、科学の急速な進歩は、ついに人類の活動を宇宙にまで広げましたが、大国間において、これを平和目的にのみ利用する保証はいまだなく、今日到達し得た科学技術は、ひとたびその目的を誤れば、直ちに人類の破滅を招くことになります。このような世界の現状において、われわれは、単に手をつかねて平和を望むような消極的態度を採ることなく、建設的かつ具体的な努力によつて、世界平和の維持促進に貢献しなければなりません。このような使命に基き、わが国は、世界の安全保障機構としての国際連合に協力し、核実験の禁止、中近東等の局地的紛争の解決等に関して積極的な努力を払つてきたのであります。

かくのごときわが平和外交の目標は、人間の自由との尊厳を基調として国民の福祉を増進しようとする自由民主主義国家の理念と秩序の維持発展にあるのであります。国民の一部に、わが外交の方向を中立主義に求むべきであるとする主張がありますが、このような政策は、わが国を弧立化し、ひいては、共産陣営に巻き込む結果を招くこととなるのであります。いわんや、当初から、これを積極的に意図するもののありますことは、特に警戒を要するところであります。したがつて、わが国は、このような中立主義を採らず、自らの安全を保障するに当り、志を同じくする自由民主主義諸国と固く提携し、国際社会における信義を貫きたい考であります。わが国が日米安全保障条約を締結したゆえんもここにあつたのであります。しかしながら、その締結後七年を経過した今日、わが国の自衛力の漸増と内外惜勢の推移にともない、これに合理的な調整を加え、日米両国が対等の協力者としてその義務と責任を明らかにすべき段階に到達しましたので、政府は、国民の納得と支持を得て米国との交渉を進めたい考えであります。

ひるがえつて、世界各国との国交は、年を追つてその範囲を広げ、かつ、緊密の度を加えてまいりました。特に、インドネシア、イラン、インド、フィリピン各国の元首をはじめ、海外諸国からの指導的人物の来訪により、これら諸国との親善関係は一段と深められたのであります。また、かねてから政府が重視してきた東南アジア諸国等の経済開発については、今後、技術と資金の両面において協力の道を広げることとし、いつそうその促進に努める方針であります。

昨年五月以来日中間の貿易が中絶しておりますのは、双方にとつてまことに不幸なことであります。双方が、いたずらに過去の経緯にとらわれることなく、互いにその政治的立場を理解しつつ、通商の再開を望むものであります。

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