四 海外移住の現状

1 邦人移住者の受入状況

(1) ラテン・アメリカ

ブ ラ ジ ル

(北ブラジル)わが国は、三十三会計年度(一九五八年四月-一九五九年三月)においては十二月(十七日現在)までに計画移住者として、マナオス、イタコアチアラ植民地に一一八名の邦人を送出し、その他パラー州、アマパ準州等に六二名の呼寄せ移住者を送出した。

三十四年度はブラジル側の開発計画とも関連させてマナオス、キナリー、モンテアレグレ、イリツィア植民地等に多数の計画移住者を送出すべく予定している。

(中部ブラジル)三十三年度においては、十二月(十七日現在)までに計画移住者として、リオ・ボニト植民地に三二名、マルガリダ分益農場に九名計四一名を送出し、この他リオ・デ・ャネイロ州およびバイア州のリーニヤ農場へ一二名の呼寄せ移住者を送出した。

三十四年度には、レシーフェ近郊、イッベラ、ジュセリーノ、クビチエックおよびマカエ等へ数十家族の送出を予定している。

(南ブラジル)三十三年度は十二月(十七日現在)までに計画移住者として、養蚕移住者一五〇名、コチア産業組合単独移住者一二五名および産業開発青年隊一二名計二八七名を送出したほか、呼寄せ移住者として、三、七五七名を送出した。

三十四年度には、この外マトグロッソ州ヴァルゼアアレグレに五〇家族、サンパウロ州グアタパラ耕地へ五〇家族、サンパウロ農拓協へ五〇〇家族、リオグランデ・ド・スール州へ一〇〇家族の送出を予定している。

パラグアイ

三十三年度は十二月十七日までにフラム地区に六七家族四一二名を送出した。このほか年度末までに二五家族の送出を予定している。

なお現在ピラポーに二三、〇九五ヘクタールの土地買収を完了し、四六一家族が入植できる見込みであるが、三十四年度はとりあえず一〇〇家族程度送出する予定である。

ドミニカ

三十三年度は六月までに六〇家族三三一名を送出したが、七月から主としてドミニカ側の事情により一時移住者の受入れが延期されていた。しかし近く受入れが再開される見とおしなので、三十四年度には一五〇家族程度の送出ができるものと思われる。

アルゼンティン

ミシオネス州ガルアペは、日本海外移住振興会社の手によつて購入、造成され、八○家族の入植が可能となつたが、アルゼンティン側との「選考方法に関する交渉」が予想外に時日を要したため、本年二月に最初の数家族を送出し、以後三十三(会計)年度中に二〇家族、三十四年度約五〇家族を送出する予定である。このほか近くメンドサ州アツエル・スッドおよびブェノス・アイレス州リオコロラドにも土地を購入し、三十四会計年度中には相当数の家族を送出し得るよう努力中である。

ボリヴィア

本三十三年度には六七家族三二六名を送出したが、入植地サン・ファンは現在の状態では、ほぼ満植に近いので、道路の改善その他の施策を行い、なお多少の移住者を送出できる態勢を整えるとともに、新たな入植地の獲得につき研究している。

その他の諸国

右以外の諸国については、これら諸国の法律または経済事情のため、わが国よりは呼寄せの形式により少数の移住者の入国が許されたに過ぎないが、邦人移住者の優秀性が知られるとともに、漸次その門戸も開かれることが期待されている。

(2) 西  独

西独における国内炭鉱労務者不足を緩和するとともに、わが国労務者の教育をも目的として、わが国より炭鉱労務者を西独に派遣するための日独両国間の取極が一九五六年十二月に成立したが、この取極により一昨年一月第一陣として、五九名の炭鉱労務者が渡独した。これに続き昨年一月より三月にかけて一八○名が渡独した。この計画は、わが国側にとつては労務者の教育を主眼としているため派遣労務者は本邦の石炭企業で現に就労している者のなかから選抜され、三年間現地で就労後、再び出身会社に復帰することとなつている。

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2 移住者送出実績および送出予定

一九五二年にわが国戦後の移住が再開されてから、昨年十二月末に至る間の渡航費貸付移住者の送出実績は、総計二八、二八四名で、その年度別、国別内訳は左表のとおりであるが、このほとんどすべては農業移住者である。三十三年度(昨年四月以降本年三月末まで)は十二月末日までに五、八七〇名を送出したが、年度内になお三、○○○名程度を送出する予定であり、三十四年度には一〇、○○○名を送出する予定である。

       年度別および国別移住者送出数

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3 短期農業労務者派米問題

戦後のわが国としては劃期的な事業である短農(短期農業労務者)派米事業が発足してからすでに二年余を経たが、この事業は前例のないものであるだけに、さらに実施上の体験を積み、検討と工夫を続けて行くことが必要と思われる。この事業が真に強固なものとして完成されるためには今日までとほぼ同様の期間を将来に要するであろうが、現在までに到達し得たところを鳥瞰すれば次のとおりである。

(1) 基本法 米国移民法第一〇一条(a)(15)(H)(ii)

(2) 米国政府了解事項(国務省、労働省、司法省[移住局]合意事項)

(イ) 年間受入数が一千名を超えないこと。

(ロ) 右一千名以下の数で現地傭主による各受入申請ケースごとに正規手続を経て入国許否を決する。

(ハ) いかなる時期においても日本人労務者の総数は三千名を超えることができない。

(3) 昭和三十一年九月以降現在までの渡米者数  一、二五〇名

内訳  昭和三十二年五月まで        一、○○○名

    同 三十三年六月から九月まで     二五〇名

(4) 現在の就労人員  一、一七七名

右は現在加州最北端のマウント・ヘプロンから最南端のサンジエゴ近郊にわたる九アソシエーション、約百個の農場に分散しているが、冬期には南加およびメキシコ国境沙漠地帯に向つて北からの臨時移動が行われるのが常である。

(5) 現在までの死亡者および帰国者

死 亡 者    一名(自動車事故)

帰 国 者   七二名(理由別員数左のとおり)

(イ) 家 庭 事 情        二二名

(ロ) 病     気        二〇〃

(ハ) 労務省の申出による契約解除  一一〃

(ニ) 雇主の解雇          一九〃

(6) 労務者保護機構

(イ) 米国側=移民局

西南移民総局(在サンビドロ)  担当官三名(一名はサン・フランシスコ駐在)

サン・フランシスコ移民局    担当官二名

ロス・アンゼルス移民局     担当官二名

右の他協力機関として加州雇傭局および連邦労働省西南雇傭安定総局(在サン・フランシスコ)がある。

(ロ) 日本側=総領事館

サン・フランシスコ    専任官一名

ロス・アンゼルス     担任官一名

農業労務者派米協議会

加州支部(在サン・フランシスコ)  支部長以下九名および顧問弁護士一名右の中一名はロス・アンゼルス駐在、三名は北、中、南加の各地区に機動的に配置。

(7) 労務者の保護制度

(イ) 業務上傷害保険

雇主の負担と加州政府の補助による。

(ロ) 業務外生命傷害保険

労務者の掛金により集団健康保険加入。

(ハ) 福祉基金による補助

(イ)(ロ)でカバーされない疾病給付を行う。

(ニ) 労働基準監視、紛争の裁定

前記移民局が行政府として最終権限を有するが、ほとんどすべての重要ケースは移民局、総領事館、派米協議会支部の協議と協力によつて処理せられる。

(ホ) 途中帰国者に対する援護

福祉基金より給付または貸与ができる。

(8) 福 祉 基 金

労務者とアソシエーション(農場主の)との協定に基き福祉資金制度が設置されて、収入の四%(従来五%)を徴収されている。

この制度は労務者の臨時帰国費、全般的福祉、援護増進のため、また一部は福祉事業管理のために使用されている。

(9) 現在までの収入状況

労務者の義務貯金額は十一月二十五日現在で二億九千三百万円を算しているが、労務者が小遺い衣料費および所得税費を月四十ドル以下で賄えば、右義務貯金と同額の自由貯金が可能となるので、労務者総員の貯蓄額は恐らく五億円を超えるものと思われる。

なお平均値で一人当り収入実績は、一カ月百九十ドルを前後している。

(10) 労務者自治組織の促進

労務者が自主的に覆かれた環境、労働条件に適応し、さらに話合を通じて生活環境の改善向上、就労諸条件の解決、教養増進をはかるために自治組織を促進している。支部においてもこれらの各キャンプを代表する責任者を選び、地区ごとに連絡員会議、また全州連絡会議を開催し、労務者の要望や希望を取上げている。

(11) 今後の送出見込

この次の分の送出員数は本年度末までには確定したいと考えており、米国側とくに移民局も協力的である。

現在大多数の農場主は日本短農の成績を見守つているので、ここ二、三カ月の間にどの程度の需要が出るかは今のところ予測しがたい。また需要だけでは駄目であつて、就労条件如何ではこちらから断念しなくてはならない場合もある。従つて焦つて送り出して紛争を起すことは、長い目でわが国の労務者の評価を落し、潜在需要をみすみす失つてしまう結果となる。

なお、前記(2)項の米国政府方針が確定したのは昨年二月であるが、爾来米国経済の不況があり、失業の増加がみられたため、現地需要の中で米政府から(2)項(ロ)の手続をクリアーされた数が二百五十名に止つたのであり、現地需要の如何、米政府のオーソライゼーション如何により、今後とも年によつては千名の枠一杯に送れることもあり、ほとんど送れない年もありうるわけである。従つてこれらの停滞や進展は、厳密な意味では中断とが再開とかいう概念で考えるべきものではない。

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4 移住希望者層の拡大

わが国の潜在的移住希望者は、単独青年、若夫婦などに多いものと考えられるが、現在はサンパウロのコチア産業組合、東山農場、サンパウロ農業拓植協同組合(産業開発青年隊)等の引受けによるもの、または海外実習生として移住するものを除いては、単独青年の移住は困難であり、また若夫婦についてはコチア産業組合が受け入れを計画しているに過ぎない。これは多くの場合受入れ側が家族内に三人以上の稼動人員があることを条件としているためであるが、受入れ国の法令や経済事情等の関係もあるので、この点の変更を求めることは困難と思われる。しかしわが国としては受入れ国政府または雇傭主に働きかけて、極力上述の家族構成条件の緩和に努めたいと考えている。

また移住の希望は、自営開拓農としての土地代金の払込みや携行営農資金の調達に困難を感じるような層の人々の中に多いものと思われるので、わが国としては自営農と並行して、ほとんど携行資金を要しない雇傭農の受入れ先を拡大することにも努力中であり、現に着々とその効果をあげている。

以上二つの措置により移住希望者の層も拡大されれば、移住者の数も漸次増加することが期待される。

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5 中小企業移住問題

政府はわが国中小企業の移住を促進することにも努力しているが、これは農業移住者の場合と異なり、受入れ国の法律や経済状態等に左右されるところが極めて大きく、また販路の確保、宣伝方法等についてもその国独自の商慣習に習熟することが必要とされるので、その効果を一挙にあげることはむずかしい。わが国としては今後とも中小企業の移住に努力して行く方針であるが、この場合現在わが国海外移住の主軸をなしている農業移住との関連で食品加工、農畜産加工等の企業、また資本および技術提携による大企業(製鉄、造船等)との関連でこれらの下請的企業等が最も具体性をもつものと考えられる。いずれにしてもこのためには技術、資本の他に、外国での事業経営に耐えうる有能な経営者の養成が是非とも必要であるが、現地における日系中小企業と提携することも考慮する必要があろう。

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6 日本海外協会連合会と現地受入機関

日本海外協会連合会は、一九五四年一月、移住業務の実施面を担当する機関として設立されて以来、移住者の募集、選考、送出、渡航費の貸付および回収、移住に関する宣伝啓発等を行つている。

この海協連は、現在ブラジルに三カ所(リオ、サンパウロ、ベレン)ドミニカ、ボリヴィア、パラグワイおよびアメリカに各一カ所の支部をおいている。いわゆる現地受入機関がこれであつて、アルゼンティン在留邦人の有力者たちによつて結成されている「アルゼンティン拓殖協同組合」もまたこれに属する。これら受入機関に対するわが政府補助金は、三十三年度一億三千五百万円である。

海協連本部の国内業務のうち、移住に関する啓発宣伝および移住者の募集、選考等については、都道府県海外協会(府県庁の中にある)が当該府県庁と緊密に連絡しながら第一線機関として活躍している。

(移住を希望される人々は、その府県の海外協会に連絡されることをお勧めする。)

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7 日本海外移住振興株式会社の事業

移住事業に関する資金面の援助を担当している日本海外移住振興株式会社(社長大志摩孫四郎)は、ブラジル国リオ・デ・ジャネイロ(本店)、サンパウロ(支店)およびベレン(支店)に同国の法律に基く現地法人を、またパラグアイ国アスンシオンに支店を、アルゼンティン国ブェノス・アイレスに駐在員事務所をそれぞれ設置し、移住地の購入、造成、分譲その他移住に直接または間接に関係する事業に対して投融資を行つている。

この会社は、現在政府および民間の出資による資本金十三億円と米国三銀行との間に締結された移住借款契約に基く借入金三〇〇万弗(邦貨一〇億八千万円)を資金源として事業を行つているが、昨年十一月末日までに行つた投融資総額は約十二億五千万円である(次表参照)

なお、事業実績のうち主なるものは次の通りである。

移住者の購入

フラム移住地 会社は、パラグアイ国フラムに一九五六年六月移住用地として面積約一一、三〇〇ヘクタールの土地を購入さらにその後約三、五〇〇ヘクタールを買増し、造成の上移住者への分譲を行つてきたが、昨年十一月末現在ですでに三〇六家族二、○〇七人の入植を見てほぼ満植となつた。

グアルアッペ移住地 一昨年一月、アルゼンティン国に対する開拓移住者四〇〇家族(年間八○家族、五年間)の移住枠が認められたので、会社は、同年七月年間送出枠八○家族に見合う移住用地として、ミシオネス州グアルアッペに面積三、一一〇ヘクタールの土地を購入した。最近造成もほぼ完了し、目下送出手続中であるが、本年度末までに二十数家族を、残余の五十余家族は、三四年度上半期中に入植せしめる予定である。

ヴァルゼア・アレグレ移住地 ブラジル国における移住用地として、一昨年九月マット・グロッソ州ヴァルゼア・アレグレに約三八、○○○ヘクタールの土地を購入した。この移住地には二一〇家族の開拓移住者を入植せしめる計画で目下造成工事をすゝめているが、本年度中にまず五〇家族程度を送出することとなつている。

グワタパラ移住地 会社は、全国拓植農業協同組合連合会の依頼により、昨年五月、ブラジル国サンパウロ州グワタパラに面積約七、五〇〇ヘクタールの土地を購入した。目下測量中で、近く造成を始める予定であるが、完了の暁には、約四〇〇家族の入植が見込まれている。

ピラポ移住地 パラグアイ国フラム移住地がほぼ満植となつたので、これに代る移住用地として昨年十一月ピラポに約二三、○○○ヘクタールの土地を購入した。その後ただちに測量に入り、本年雨期明け六月より造成に着手し、年末頃より入植を行う予定である。なお、入植見込戸数は約五四〇家族である。

派米農業労務者に対する渡航費の貸付

米国カリフォルニアで就労する派米農業労務者に対し渡航費の貸付を行つている。現在までの被貸付者数は一、二五〇名である。

開拓移住者に対する貸付

開拓移住者が必要とする農機具施設を取得するための資金および営農資金の貸付(渡航前は、農機具、交通運搬機関営農資金、一戸当り五〇万円まで、渡航後は共同利用施設、営農拡張資金一戸当り二〇万円まで)を一昨年度より実施しており、現在までに渡航前および渡航後貸付を併せ三九件約六、二〇〇万円の貸付実績を挙げている。

コロノ独立援助賞金の貸付

開拓移住者に対する貸付についで、独立の段階に達したコロノ移住者に対する独立援助資金の貸付(土地の取得および、造成資金一戸当り五〇万円まで)を本年度より開始したところ、好成績で現在まですでに三四件、約二九〇〇万円の貸付を行つた。

企業に対する投融資

移住者の受入れ企業に対する投融資は、現在まで九件で、今後この種企業に対する投融資も促進すべきものと考えられるが、会社は、企業に対する貸付は円、ドル建を建前としているのに対し、企業者側は最近中南米諸国とくにブラジル国における為替の変動が甚だしく円、ドル建では為替差損を蒙むる惧れが大なので踏切りがたく、従つて企業に対する貸付は進捗しがたい状態にある。

今後の事業計画

会社は、外務省の移住五カ年計画に対応して、現在事業の重点を移住地購入に指向している。すなわちブラジル、パラグアイ、アルゼンティン、ボリビア等に大量の移住地を購入し、造成の上これらの移住地に開拓移住者を送出する計画をたて、これに必要な資金の出資方を政府に対して要請している。

        移住振興会社投融資実績

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8 邦人の海外渡航珏碻

邦人の海外渡航は一九五二年より昨年まで毎年引き続き一〇-一四%程度ずつの増加をみせていたが、昨年中における旅券発給数は三六、六四六冊であり、前年の三六、七一七冊に比してわずかながら減少を示した。これは世界景気の頭打ちとわが政府の金融引きしめ措置によるものと認められる。しかし漸次景気の上昇するに従つて本年は再び増加する可能性が強いと思われる。

昨年一月-十二月に発給した旅券総数三六、六四六冊の目的別内訳は、永住が一二、八七六冊で総数の三割五分を占め、以下商用九、二三五、文化関係四、三四四、役務契約二、七五六等となつており、この順序は前年と変りがない。

一九五二年以降の歴年別旅券発給数は左表のとおりである。

註一、 昨年在外公館発行分は含まない。

註二、 一昨年末までの合計数で、昨年分は含まない。

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