国際機関関係 |
ガット第十三回総会は、昨年十月十六日から十一月二十二日までジュネーヴで開催され、わが国からは河崎在ジュネーヴ代表部公使以下十一名の代表団がこれに出席した。
この総会においては、国際貿易の拡大、西独の輸入制限、欧州経済共同体、スイスの仮加入、対日第三十五条援用、ガット総会の東京開催問題等四十余の議題がとり上げられたが、わが国と関係の深い事項としては、総会開催の劈頭、インドが対日第三十五条の援用を撤回したこと、およびガット第十五回総会が明年秋東京で開催されることに決定されたことの二があつた。
主要議題に関する審議状況の大要は次のとおりである。
日本に対する第三十五条援用問題
(イ) 十月十六日総会開催劈頭の本会議でインド商務大臣カヌンゴは、同国の対日第三十五条援用を撤回する旨を明らかにした。これにより同日以後インドは日本とガット関係に入ることとなつた。
(ロ) 十月三十日の本会議で第三十五条の問題が審議され、河崎代表から同条援用が不適当かつ不必要であることを説明し、関係国がなるべく早くこれを撤回することを希望した。これに対してハイティ代表は撤回を考慮する用意がある旨を述べ、非援用国側からは米、加、パキスタン、ブラジルが援用国が速やかに援用を撤回するよう希望した。
東 京 総 会
第十五回総会を東京で開催することについては、十一月十八日の首席代表会議において圧倒的多数でこれを決定し、二十一日の本会議で本年十月二十六日から東京で開くことを異議なく決定した。会期は大臣会議が行われれば四週間となる。
なおガットの総会は、極めて特殊の場合を除いてはジュネーヴ以外の地で開催されたことはないが、これが東京で開催されることは、ガットが広く世界的な貿易問題を対象とする一大国際機構であることの実をあげるばかりでなく、この機会に来日する各国通商分野の代表が親しくわが国経済の実情を知り、わが国の産業および商品に対する正確な認識を得ることが期待されている。
なお、この総会には例年のとおりガット加盟三十七カ国の代表を初め関係国際機関の代表等約五〇〇名が参加することが予想されている。
貿易拡大問題
最近の世界貿易の情勢を分析したハーバラー報告(注)については、この報告が発表されたという事実だけですでにガットの存在を世界に知らしめたのであるから、それで十分であり、ガットとしてこれ以上の措置をとる必要はないという意見と、折角有益な報告ができたからには、その報告の結論をガットとして今後何等かの措置に表わすべきであるという意見とがあつた。しかし結局貿易拡大委員会なるものを設置することになり、その付託条項を起草する小委員会が設けられて、数週間にわたり討議を行つた後、それぞれ関税、農業、低開発の問題をとりあつかう次の三つの委員会を設置するとの結論に達して、これを本会議で採択した。
(イ) 第一委員会 米国の互恵通商協定延長法の成立にともない欧州経済共同体を含む多角的関税交渉を一九六二年なかばまでに終えることを目的として、そのための準備の手筈を検討することを任務とし、本年二月下旬に会合を行う予定で、わが国も委員国となつた。
(ロ) 第二委員会 農業保護が世界における農産物貿易に与える影響を検討する委員会で、本年三月上旬に会合を行う予定である。
(ハ) 第三委員会 低開発国輸出貿易の問題を検討する委員会で、本年三月中旬に会合を行う予定である。
西独の輸入制限問題
一昨年のガットおよびIMFとの協議ですでに国際収支の擁護のために輸入制限を行う資格がないと判定された西独が、ウェイヴァーを求めずに依然として若干の農産物および工業製品につき輸入制限を行つていることについては、第十二回総会以来問題となつており、昨年四月の会期間委員会で、西独政府がその政策を再検討し、その結果制限撤廃を行いえない特殊な理由があると考えるときはウェイヴァーを求めるべきことを勧告した経緯がある。
この総会においては、西独はほとんどその態度を改めず、農産物については、ガットの規定が世界における農産物貿易の現状に即しないから、これを改正するまで独問題の審議を延期することを主張し、工業製品については若干のものを直ちに自由化するにとどまつた。これに対し、大多数の国、とくに米、英、加、濠、ニュージランドが強い関心を示し、独の反省を求めたが、結局問題の解決は今後に持込まれ、差当り本年一月に第二十二条二項に基く多角的協議が西独と関係加盟国との間で行われることとなつた。
欧州経済共同体問題
欧州経済共同体と他のガット締約国との関係については、四月の会期間委員会において、共同体条約がガットの規定に合致するかどうかの問題は差当り取上げず、個々の場合に関係国が共同体側と多角的な協議を行うという案を作成したが、この総会においてはこれに若干の修正を加えて採択した。主な修正点は、この手続が差当り延期した基本問題に関する法的な権利義務関係に何の影響をも及ぼさないことを明記したことである。
この多角的協議の手続はガット第二十二条二項の規定を実施するための一般的な手続(欧州経済共同体に限らず)として採択したものである。このような手続はすでにコーヒー、茶、ココア、煙草、砂糖、バナナについて開始されており、わが国は茶についの協議に参加している。
第十二条四項(b)に基く協議
ガット第十二条四項(b)の規定に基き、国際収支の擁護のために輸入制限を行つている締約国は本年から毎年締約国団と協議を行うこととなり、このため委員会が設けられて、わが国も委員国となつた。本年の協議は三回に分けて十四カ国につき行われ、わが国の輸入制限についての協議は第十五回総会直前の二週間の期間に行われることとなつた。
昨年十月ニュー・デリーで開かれたIMF世界銀行合同第十三回年次総務会は、IMFおよび世界銀行の理事会がそれぞれ両機関の資金増額について検討した上で増資を必要とみとめた場合は、右増資の実施に適当な提案を行う旨の決議を採択した。
この決議に基いて、両機関の理事会はそれぞれIMFの割当額増額および世界銀行の増資について検討を行つていたが、十二月二十九日、増資決議案を発表し、各国総務の投票を求めた。
この投票は本年二月二日までに郵便投票によつて行われたが、IMFおよび世界銀行ともに規定に必要な賛成投票(IMFは五分の四、世界銀行は四分の三)を得たので決議案は可決された。
これによればIMFは、本年一月三十一日現在の割当額を一律五〇パーセント増額し、世界銀行は各国の出資額を一律一〇〇パーセント増額するとともに(世界銀行の授権資本は特別増資および新規加盟国分を考慮して一一○パーセント増、すなわち二百十億ドルに増額する。)カナダ、西独および日本の三国に対しては、IMF、世銀ともに、その戦後における経済の著しい発展を考慮して、一律増額を超えた特別増額をみとめることとした。この結果わが国はIMFについては五億ドルの割当額(一律増額の場合は三七五百万ドル)、世界銀行については六六六百万ドルの出資額(同五億ドル)が認められた。よつて今回の措置によりIMFは割当額合計一四、三〇七百万ドル(現行九、一九三百万ドル)、世界銀行出資額合計一九、六九九百万ドル(現行九、五二一・五百万ドル)に増額される見込みである。
関係加盟国は本年九月十五日までにその増額を書面で受諾することなつているが、IMF割当額合計の四分の三を有する国が受諾し、世界銀行の加盟国の追加出資額が七〇億ドルに達した場合、IMFは三十日以内に増額分の二五%を金、その他を自国の通貨で払込む必要がある。世界銀行は要請があつた場合にのみ払込めばよいが、特別増資をみとめられた三国は、一律増資額との差額の一%を金またはドルで、九%を自国通貨で払込むこととなる。
昨年における、世銀借款は鉄鋼四件七三百万ドル(川崎製鉄八百万ドル、住友金属三三百万ドル、神戸製鋼一〇百万ドル、日本鋼管二二百万ドル)および電力三件九一百万ドル(関西電力三七百万ドル、北陸電力二五百万ドル、中部電力二九百万ドル)計七件一六四百万ドルであつた。この借款額のうち一二八、三五〇千ドルはいわゆるインパクト・ローンで、国内物資の調達に必要な円資金を購うために融資されたものである。通常、世銀の借款としては外国からの物資を購入するために必要な資金が融資されるのであるが、それにもかかわらず世銀がわが国に対して一二八、三五〇千ドルの外貨をインパクト・ローンとして貸付けたことは、同銀行がわが国の機械、資材等の性能を高く評価していることによるものであり、このためわが国は、インパクト・ローンの額だけ外貨を節約することができたことになる。
なおこれによつてわが国が一九五二年八月に世界銀行に加入して以来同銀行から受けた借款は、合計十八件二四八、九〇〇千ドルに達した。
この協定には、わが国も一九五三年以来参加していたが、同協定は昨年末で失効することになつていたので、これに先立つて十、十一月新協定を作成するために国連主催の会議がジュネーヴで開かれた。この会議で、わが国は純消費国としての立場から種々の提案を行つたが、新たに作成された「九五八年の国際砂糖協定」は、わが国のような消費国にとつては次の諸点で旧協定よりも有利なものとなつている。
(一) 基準輸出割当量の増加
この協定は輸出国に課せられる輸出割当量を調節することにより糖価の安定をはかる仕組となつているが、基準輸出割当量が従来の約六百十万トンから約六百七十万トンに増加したため、供給がつねに潤沢となり、糖価がつねに低目に安定することが期待できるようになつた。
(二) 輸出割当の増加方式の強化
新協定では糖価が三セント七五を上廻る場合には輸出割当を自動的に増加せしめることとなつているので、これによつて糖価の上昇を防ぐ途が開かれた。
(三) 糖価暴騰に際しての特別措置
新協定では、糖価が協定価格をはずれた場合に対処するため、多角的契約を取極めることができるという規定が設けられたので、わが国が希望すれば、異常な糖価が出現した時には一定の価格で一定量の砂糖を確保しうることとなつた。
従つて、わが国は昨年末、この協定に対して署名を行い、目下加入のための国会の審議をまつている。
(注) この報告は、第十二回総会の決定に基いて依託された調査をハーバラー(米国ハーヴァード大学教授)を議長とし、カンボス(ブラジル開発銀行理事兼ブラジル大学教授)、ミード(英国ケンブリッジ大学教授)、ティンバーゲン(オランダ高等経済研究所教授)の国際貿易問題に関する経済学者四名が行つた結果作成したもので、その概要は、(イ)まず一九二八年から一九五八年に至る間における一次産品の生産量、消費量、貿易量についての推移を分析し、(ロ)つぎにその間における一次産品生産国の経済諸条件が先進工業国に比して、悪化していることを認め、(ハ)このような状態を匡正するためには、国際資金の流動性の強化が行われ、一次産品の需給および価格の安定を目的とするためしかるべき国内的および国際的措置がとられる必要があるほか、先進工業国としては、(a)経済援助の供与、(b)景気の維持、(c)財政収入を目的とする一次産品(コーヒー、ココア、茶)に対する関税の引下げ、(d)農業保護政策の緩和を考慮する必要があると判断し、先進工業国および一次産品生産国は、ともに世界貿易の伸張発展が相互依存によつてもたらされることに思いをいたし、建設的な話合いを行う以外には解決の途がないことを指摘している。