その他の地域との貿易の諸問題

1 対印円クレディット・ラインの設定

一昨年十月ネルー首相が来日した際、岸総理大臣との間にインドの第二次五カ年計画遂行のための協力に関する基本的了解が成立したが、このことは岸ネルー共同声明の第六項に明示された。右了解の具体的実現のため、昨年二月ラル商工次官補を団長とするインド側使節団が来日し、わが政府と交渉した結果、インド政府(またはその推薦を受けたもの)がインド第二次五カ年計画遂行に必要な設備等をわが国から輸入する場合には、日本輸出入銀行が個々の申請をまち、三年間に総額一八○億円の限度内で従来の延払い方式よりも年限、支払条件等を緩和した条件でこれに融資することに了解が成立した。輸出入銀行がこのクレディット・ラインにより貸付ける資金は、わが国からの鉄道施設、水力および火力発電設備、送電およびダム建設施設、採炭および選炭設備、鉱石採掘および選鉱設備、船舶、港湾施設、産業機械(レイヨン、パルプ、肥料、苛性ソーダ工場等を含む)工作機械その他両国政府間で合意される品目を購入するために使用される。

このクレディット・ラインの貸付金は十年以内に償還され、その利率は国際復興開発銀行の通常利率を基準として決定される。

しかしながらこのクレディットの運用にあたり、その適用対象品目が前述のように多数にのぼつたことから印度側の輸入品目の調整が難航し、またこのクレディット・ラインを具体的に運用するための銀行手続に関し、おもに私企業に対する貸付方式の点で彼我の意見が相違し、最終的了解が成立しなかつたことなどのため、右クレディット・ラインを利用する対印輸出としては昨年十月までに船舶、発電機、変圧機等数件が内定したに過ぎなかつた。このような事態を打開して本クレディットを早急に具体化するため、また併せて後述する一千万ドル追加信用使用の具体化をはかるため、セングプタ大蔵次官補が十月下旬来日した。同次官補はインド側の最終的買付希望品目が船舶、発電設備、選炭設備、電話設備、鋼材等であることを明かにし、さらに銀行手続についても輸出入銀行と話合いを行つて最終的に確定したので、ここにクレディット・ラインの運用上懸案となつていた二点が解決された。かくして、本件クレディットの運用も早急に具体化される見透しがついた。

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2 対印追加信用の供与

インドの外貨事情は第二次五カ年計画の進捗とともに悪化の一路を辿り、昨年八月現在の外貨保有高は、約一九億ルピー(四億ドル)にまで減少し、第二次五カ年計画の遂行が困難視されるに到つた。この情勢に対処するため、世界銀行は、昨年八月従来よりの対印大口債権国である米国、英国、西独、カナダ、日本の各代表およびIMFよりオブザーバーの参加を求め、対印債権国会議をワシントンで開催した。この会議で参加各国は、当面のインドの国際収支の赤字を補填するため何等かの援助を行うことを約束したが、その具体的方式等は、各国とインドとの直接交渉により定められることとなつた。

その後十月下旬に至り、インド政府は、八月のワシントン会議の了解に基いて、わが国よりの追加援助の具体化を図り、かたがた二月に成立したクレディット・ライン運用の具体化をはかるためセングプタ大蔵次官補を派遣して、わが国との会談を行わしめた。右会談の結果は日本輸出入銀行の通常延払条件による輸出代金の延払方式により約一千万ドルの信用を供与することに同意し、この追加信用の対象となる品目の大半(例えば発電機その他機械等)についても了解が成立した。なおインドは、ワシントン会議の結果に基いて会議参加各国と交渉した結果、米国よりDLF資金一七五百万ドル、余剰農産物借款協定による二億ドルの穀類供与、英国からは一〇八百万ドル、西独から四〇百万ドル、カナダより一七百万ドル、さらに世界銀行からも一〇〇百万ドルの借款借与を受けることとなつた。

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3 日本・エジプト・セイロン三角貿易問題

一昨年九月成立した日本・エジプト・セイロン間三角貿易取極によるわが国のエジプト綿買付は、わが国の綿製品市況および原綿在庫量の関係から、取極成立後一カ年を経ても満足すべき成果をあげ得なかつた。しかし昨年八月に至り、本取極によつてわが国の買付けるエジプト綿花価格をセイロンで十パーセント、エジプト側で十パーセントずつ値引するよう操作することに同意したので、わが国は本年十一月末までに全量(一〇千俵、うち約一五〇〇俵は買付ずみ)の買付けを行う旨了解を与え、当初困難視された本取極も円満に実現されることとなつた。

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4 日本・ビルマ間米綿委託加工に関する第二次協定

わが国は昨年五月以来、ビルマが米国より供与される総額一三、六〇〇千ドル相当の米国産原綿の委託加工に関する協定の交渉をビルマとの間に行つていたが、同年十一月十九日同協定の署名を行つた。

一九五六年六月にもこれと同様のいわゆる第一次米綿委託加工に関する日本ビルマ間の協定が締結され、これによりわが国は九百万ドル相当の綿製品、綿糸をビルマに輸出した。

その後、わが国は第二次米綿委託加工にも積極的に参加すべく米国ビルマ間の動きを注目していたところ、ビルマは外貨事情悪化のため綿製品の通常輸入を抑え、昨年五月米国との間に第一次と同様の農産物協定を締結して、再び一三、六〇〇千ドルの原綿の供与を受けるとともに、第三国との間に前回同様委託加工協定の交渉を行うことになつた。わが国としてはビルマ向け綿製品の通常輸出が停滞し、在庫が増加している等綿業界の不況を背景として積極的に協定交渉に参加した。

交渉は、雑勘定を設ける問題、重量制限問題等双方の利害が相対立する点が多いのみならず、その内容が複雑なため容易に合意に達せず、しかも交渉中にビルマに政変が起り、内閣の更迭、関係官庁の人事異動等があつたためかなり難航した。しかし双方が早期締結に努力した結果、交渉は妥結し、昨年十一月十九日ラングーンにおいて在ビルマ原大使とビルマ貿易省セイン・チ次官との間で米綿委託加工に関する日本・ビルマ間の協定の署名が行われた。かくてわが国は、競争国であるインドに次ぎ、英国、オランダ、西独よりも先に協定を締結することに成功した。

第一次の協定と異なる主な点は、(イ)国別の加工額(第一次九百万ドル)があらかじめ決定されず、オファーごとにビルマにとつて有利な条件の国にきまること、(ロ)ビルマ側は、わが国の輸出代金を雑勘定に入れ、毎月十五日に集計した上使用原綿代金と加工賃とを計算し、加工賃をポンド貨でわが国に支払うこと、(ハ)わが国は輸出製品中に占める原綿分を米国から原綿で輸入するが、輸入しうる原綿量には一定の方式による制限が課されること、等である。

この協定の締結により、わが国の業者は直ちにビルマ側と入札、契約の交渉に入れることとなつたが、仮りに一五百万ドルの綿製品がこれによつて輸出されるならば、その額は昨年一月-十一月のビルマ向通常輸出総額一九、一〇〇千ドルの約七八%に相当し、綿業界の不振打開の一助ともなるのみならず、わが国の貿易上に有する意義もまた大きい。

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5 その他の地域における対日輸入制限運動の動向

スイスにおける輸入制限退勤の動向

昨年五月、スイスがガットに仮加盟するための関税交渉を行つた際、スイス側よりわが国繊維品の安定輸出がスイスの国内産業に多大の打撃を与えているという理由で、わが国の繊維製品の価格が著しく低い場合には、一方的にその輸入を制限する権利を主張してきた。

わが国は従来よりスイス向け生地綿布についてはPQSによる自主的輸出規制を行つてきたが、本年二月一日以降自主規制を毛織物および繊維二次製品の一部にも及ぼすこととしたので、スイス側も一方的な輸入制限措置は見送ることとし、わが国の規制の効果を見守つている。

デンマークにおける輸入制限運動

デンマークはスイスと並んで、わが国の繊維製品に対して完全な自由待遇を与えており、このためわが国の同国向繊維製品の輸出は近年大巾に増大したが、デンマーク側ではとくに昨年末以来、わが国輸出繊維製品の安値輸出がデンマークの国内産業に多大の打撃を与えているという理由で、対日輸入制限措置に出る動きがすこぶる顕著になつてきた。

そこでわが国としては、従来デンマーク向輸出には何らの規制も行つていなかつたことにかんがみ、新に主要品目について自主的規制を行うこととして、一応これに対して対処している。

豪州における輸入制限運動

昨年末以来、豪州政府内の対アジア貿易に関する諮問機関たるマッカーシー委員会が中心となり、わが国より輸入される塩化ビニール、ゴム製履物、水彩絵具等にはダンピンダの容疑があるとして、これらの輸入数量を制限しようとする動きが活発となつているので、わが国としては先方の事情を十分調査した上、現在適当な対策を立案中である。

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