対米貿易の諸問題

1 対米貿易の現状

昨年におけるわが国の対米貿易は、前年度に比し輸入が大巾に減少し、輸出は約十二%の増加を示している。このため前年度約八億ドルにのぼつた対米入超は五八年度には約二億ドル程度に止まるものと思われる。輸入は一~十月に七〇四百万ドル(前年同期より約五億ドル減、為替ベース)で大麦、大豆等の食糧、機械類を除いては、ほとんどすべての品目につき減少し、とくにクズ鉄、粘結炭、綿花等工業用原料の輸入は前年の約半分に減少したが、これは主として一九五七年度に大量に輸入したことおよび昨年度わが国の工業生産活動が縮少したことによるものと思われる。輸出の分野においては、米国における景気の後退および各種の輸入制限運動にもかかわらず一~十月に五八五百万ドル(前年同期より約六五百万ドル増)で前年に比し約十二%の増加をみたことは注目に値する。これはほとんどすべての輸出品が着実に増加した他、軽機械類が大巾に増加したことによるものであるが、同時にまたわが国の輸出品が主として農水産品、繊維、雑貨等の消費財より成り、その種類も雑多にわたつているため、米国景気の変動に直接影響されなかつたこと、およびオーダリー・マーケティングによる輸出漸増方策にも負うところが大きいと思われる。

昨年度においても米国の輸入制限運動は非常に活発であつたので、わが国としてはこのような運動に対応しながらその輸出を増進せしめることに非常な努力を払つてきた。

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2 米国およびカナダにおける対日輸入制限運動の動向

昨年における米国の輸入制限運動は、同年六月末に失効する互恵通商協定法の延長法案審議をめぐり、自由貿易主義と保護貿易主義の論争、とくに保護貿易主義者の抬頭という形で行われたが、さらにまた同年十一月の中間選挙をめぐり、議会を中心として非常に活発に行われた。まず議会を中心とする制限運動についてみると、同年一月開会された第八五議会第二会期には、前年度より継続審議されていた一般的輸入制限法案の他、鮪の輸入制限法案(生鮮、冷凍まぐろ(、、、)まぐろ(、、、)缶詰、ロイン・ディスクを含め年間輸入量を制限し、かつ関税引上を目的とするもの)、合板輸入制限法案(合板の輸入量を制限するもの)等わが国の対米輸出に関係の深い商品に関する輸入制限法案が多く提出され、さらに布製ゴム底靴の定義を変更することにより関税の引上を企図する法案、MSA法による物資の域外調達を制限する法案(ペイン修正法案)等多数提出された。

他方昨年度互恵通商協定法のエスケープ・クローズに基く関税引上や輸入制限を目的とする調査の対象上なつた商品でわが国の対米輸出に関係のあるものとして、金属洋食器、洋傘骨、体温計、鋏、釘類、手製ガラス製品、合板、(合板の輸入制限法案が成立しなかつたため、そのエスケープクローズ調査申請が行われた。)等があげられる他、絹織物について米国業界は関税委員会に調査を要求する意向があるとのことである。右の中体温計については関税が引上げられたが、金属洋食器についてはわが国の自主規制と引換えに当分の間何らの処置もとられず、改めて関税委員会による再調査が行われることとなり、洋傘骨については関税引上は行われなかつた。鋏等四品目については現在調査を行つている段階である。

右の他不公正輸入防止(デザイン盗用等)、ダンピング防止法による輸入制限等米国の輸入制限運動はますます活発となつているが、輸入制限法案が成立したり、エスケープ・クローズによる関税引上が行われることになれば、わが関係業界は重大な打撃を受けるのみならず、わが国の対米輸出を阻害し、入超額を減少することはますます困難となる。よつて政府としては業界と協力してオーダリー・マーケティングに努める一方、在米公館を通じて米政府に善処方を要望するとともに、議会や関税委員会の公聴会に対しては米人弁護士をして、わが国の立場を主張せしめている。幸いにして昨年度はこのような努力によりゴム底靴の定義変更法案の通過、体温計の関税引上げがあつたのみで他の輸入制限運動は実現するに至らなかつた。

前述のようにわが国はオーダリー・マーケティングの見地より、米国向け綿製品、まぐろ(、、、)、合板、洋傘骨、金属洋食器、木ねじその他の諸商品につき、輸出数や価格等について自主規制を行つているが、対米輸出の大宗たる綿製品については米国当局の話合いに基き一九五七年度より輸出総枠を設け、毎年その実施状況等につきレヴューを行うことになつている。第一年度(五七年)の実施状況については、一昨年末より昨年にかけてレヴューが行われ、その際わが国は右規制を取引の実情に即応せしめるために必要な範囲の提案を行つたが、両国間に意見の一致を見るに至らなかつた。また第二年度(五八年)の実施状況について昨年末よりレヴューを行つている。

今後わが国の対米輸出が増加するにつれ、米国の輸入制限運動はますます激化するおそれもあるので、わが国としても長期的な対米輸出振興の観点から従来以上に国内の対米輸出態勢を整備するとともに、米国市場の調査、米業界動向の把握、対米啓発等によつて輸入制限運動の防止に努めている。

なお、アメリカにおけるこのような輸入制限運動に関連して、カナダにおいても一昨年半ば以降、世界経済の停滞およびこれに伴うカナダ国内産業の不況的傾向の結果として、競争関係にある国内諸産業より各種繊維製品、鉄鋼、ゴム底靴等に対する関税の引上げや、合板、金属洋食器等に対する輸入制限などの要求が起り、またこれと並行して日加通商協定の関税評価権の発動およびダンピング調査の要請が行われる等、かなり活発な輸入制限運動が展開されている。

このためカナダ政府は、各種繊維製品、合板、釘、セメント、金属洋食器等、わが国主要輸出品に対するダンピング調査を強化すると同時に、カナダ関税法中ダンピング関係の法規を強化するなど、一連の措置をとつている。

これに対してわが国は従来より実施してきた綿布、繊維二次製品、合板等の輸出に関する自主的数量規制を継続するとともに、わが国関係業界の代表を派遣して先方政府、業界の説得に当らせ、また昨年七月十六日以降、日加貿易を全面的に再検討するための会談を設け、政府の交渉によつて問題を解決することに努力している。

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3 輸入に関する交渉

昨年もまた前年度と同様、ワシントン輸出入銀行よりの綿花に関する短期借款(期間十二カ月金利3・3/4%)について日米間に話合いが行われ、八月二十九日ワシントンにおいてワシントン輸出入銀行と日本銀行との間に六〇百万ドル分の綿花輸入につき借款契約が調印された。

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