貿易支払取極関係 |
交渉の経緯
キューバ政府は昨年二月二十四日から新関税法を実施したが、右新関税法によれば、日本がキューバとの間に協定を締結しないかぎり、日本の商品は一般税率(最高税率)を適用されることとなり、わが国にとつて従来より著しく不利となることが予見された。そこで右新関税法の実施に先立つて、日本キューバ両国政府の間で協議を行つた結果、日本商品に原則として協定国待遇を供与する趣旨の暫定取極が締結され、同年二月二十一日、右に関する書簡交換が行われた。
さらにこの取極は、同年六月二十七日付および十二月三十日付で二回にわたつてそれぞれ六カ月ずつ延長されたので、本年六月三十日まで有効となつている。
暫定取極の内容
(1) キューバはキューバへ輸入される日本商品に対しある種の例外を除き、関税事項に関する最恵国待遇を与える。右の最恵国待遇は日本商品に対し(イ)インヴォイス査証に関する領事手数料を五パーセントより二パーセントに引下げること、(ロ)関税法の協定税率の適用、を含むものとする。
(2) この暫定取極はキューバの新関税法発効と同時に効力を生じ、これに代るべき正式の通商協定が締結されないかぎり一九五九年六月三十日まで有効とする。
なおわが政府は、その返簡の中で、キューバ政府のとるべき例外措置については今後の通商交渉におけるわが国の立場を留保する旨を明らかにしたが、キューバとの間には一九五四年以来通商交渉が懸案となつているので、本年一月成立した革命政権の安定をまつて交渉を再開し、全面的な最恵国待遇の獲得をはかり、またわが国の著しい入超という貿易を調整する意向である。
旧日英貿易取極は、当初一九五六年十月から一九五七年九月まで一年間有効であつたが、同年十月若干の品目修正を加えてさらに半年間の単純延長を行つた結果、昨年三月末を以て失効することになつていた(「わが外交の近況」第二号一〇二頁参照)。よつて昨年二月十七日よりロンドンにおいて英政府との間に右取極の更新に関する交渉を行い、ニカ月余にわたる折衝の後、四月二十五日新貿易取極の調印が行われた。本取極の有効期間は昨年四月から本年三月末までである。
交渉の問題点
(1) まず英本国および植民地がわが国の製品に対して課している輸入制度上の差別待遇を撤廃させ、いわゆる「輸入緩和国」並みの待遇を獲得することが、わが国として輸出を大巾に伸張するため是非とも必要であつた。この点は前回の交渉の際にも英国側に改善を要請し、五カ月余の交渉を行つた結果最大限可能な六百品目(冷凍魚、養殖真珠、魚肝油、象牙製品、漆器等を含む)について対日OGL制度(数量、金額に制限なく自由に輸入し得る制度)の新たな適用を認めさせた経緯があるので、今回さらに対日OGL品目の実質的な拡大を図ることは極めて困難な見透しであつた。
(2) 次にわが国はさけ・ます缶詰、カメラ、果実缶詰、玩具およびスポーツ用品等に関する既存輸出枠の増加とトランジスター・ラジオのような品目の新規輸出とを併せて相当な額に達する対英輸出増加を希望した。とくにさけ・ます缶詰については、一昨年異例の紅ざけ豊漁のためわが国側には約百万箱の在庫があり、これを捌くために、旧取極でみとめられた五百万ポンドの上積みとして、英国側にどの程度の増枠を認めさせるかの問題があつた。
(3) さらに旧取極締結以来わが国の需給事情が変化しているので旧取極によつて英本国からの輸入を認めていた自動車用安全ガラス、アセトン、カーボン・ブラック等の輸入枠を削減する必要があつたが、これは旧取極における相互の輸出入品目譲許のバランスを破ることになるので、まずその補填を考慮しなければならなかつた。
交渉の成果-新取極の内容
以上の諸点につき英政府と折衝した結果、旧取極の内容をおゝむね存置すると同時に大要次のとおりの改訂を行つた。
(1) まず「輸入緩和国」並みの待遇の要求に関しては、英国側が対日OGLを供与しえない理由につき各品目毎にその実状を聴取し、わが国の立場を留保するとともに、今回は比較的問題の少ない魚ペースト、ガラス器具等十数品目についてOGLを無償で獲得することにより、一応収拾することとした。
(2) 次に輸入既存枠の削減について英国側の了承を求めるとともに、他の輸入枠の増額によつてこれを補填し、さらに双方が輸出増加を希望する品目について新しい輸出入枠譲許の交換を行つた。その結果増額または削減された対英本国輸出入枠は次のとおりとなつたが、とくにわが国の輸出中さけ・ます缶詰が百万ポンドの追加増枠(従つて新協定年度輸出枠六百万ポンド)をみたことは、前述の事情にかんがみこの交渉における非常な成果であつた。
(なおさけ・ます缶詰についてはその後九月英国が東欧諸国を除く全地域に対し、輸入を自由化した結果、本協定年度においてわが国より約二千万ポンドに達する輸出が行われ、右によつてわが方の滞貨は一掃された。)
(イ) 輸 出
新規枠の設置・・・・・・トランジスター・ラジオ、電気時計
既存枠の増額・・・・・・さけ・ます缶詰、玩具およびスポーツ用品、果実缶詰、オリール・セチール・アルコール
(ロ) 輸 入
既存枠の削減・・・・・・アセトン、磨き板ガラス、カーボン・ブラック等
既存枠の増額・・・・・・自動旋盤、モーター・サイクル、ウイスキー等
新規枠の設置・・・・・・トリコット編機、繊維仕上機、写真用ゼラチン、ノニール・アルコール等
(3) 以上相互の輸出入譲許を含めた本協定年度における英本国および英植民地に対する輸出入の推定額は次のとおりとなつた。(単位百万ポンド、括弧内は旧協定年度の推定額)
輸 出 輸 入
英 本 国 二八・九(九二七・七) 二八・九(三一・六)
英 植 民 地 一五〇・○(一四〇・○) 七〇・一(六七・○)
なお昨年一月より十月までの実績は左のとおりである。(単位百万ポンド)
輸 出 輸 入
英 本 国 三〇・八 一四・九
英 植 民 地 九八・〇 四三・六
交渉の経緯
この交渉は、日本・ポーランド両国の通商に関する条約締結のための交渉と平行して行われた。この協定は、右条約と同日、すなわち昨年四月二十六日に署名され署名と同時に発効した。
協定の内容
この協定は、九カ条からなり、わが国とポーランドのそれぞれの輸出品を記載した品目表が附属している。有効期間は一カ年であるが、廃棄手続に従つて廃棄されない場合は一年を単位として毎年延長され、品目表もこの延長される一年に対応して毎年両国の協議によつて作成されることとなつている。
主な内容としては、支払は英ポンドまたは米ドルの現金で行われること、品目表記載の品目は、単に例示的なものにすぎず、制限的なものでも、拘束的なものでもないこと等が規定されている。
なお附属の品目表に記載されている主要取引品目としては、わが国の対ポーランド輸出品として、寒天、缶詰、生糸、繊維類、タイヤ、酸化チタン、塩化ビニール、赤燐、ヨード、各種医薬品、黒鉛板、銅線、セレン、金属マグネシウムおよび金属カルシウム、ベアリング、時計、自転車、スクーター、ミシン、写真機、タイプライター、機械玩具、機械、工具および実験用器具、船舶および艤装品、またポーランドの対日輸出品としては、ホップ、麦芽、大麦、雑豆、野菜の種、てん菜の種、チーズ、糖蜜およびてん菜糖廃液、缶詰、薬草、亜麻くずおよび綿ぼろ、オーク、豚毛、ラード、カゼイン、乳糖、ベンゾール、ナフタリン、カリ塩、塩、亜鉛ドロス、石膏等である。
交渉の経緯
わが国とベルギー通貨地域(ベルギー、ルクセンブルグ大公国、ベルギー領コンゴーおよびルアンダ・ウルンディ信託統治地域)との貿易については、従来、一九五〇年八月二十九日に署名された金融協定が平和条約発効後も延長適用され、これに基き米ドルによる現金決済が行われていた。右協定は、現金決済方式を採用しているにかかわらず、記録勘定を設けて一切の輸出入支払を記帳し、出超国は出超額に相当する資金を相手側からの輸入のために用意すべきことを規定するなど、実体は二国間均衡貿易の思想に基くものであつた。さらに右記帳を確実ならしめるため、銀行間の取極によつて同地域との貿易は輸出入とも在日ベルギー大使館の認証をうけなければならないことを定めている関係上、手続的にもわが国の業者にのみ煩瑣であつた。よつて、このような難点を是正するため、右協定を廃止し、ポンドおよびベルギー・フランによる現金決済方式への切替を骨子とする新規支払協定を締結するため交渉を開始するよう、わが国よりベルギー政府に提案し、昨年二月二十四日からブラッセルにおいて交渉が開始された。
交渉は、わが国の作成した新協定案を基礎として行われたが、四月中旬第八回会談において妥結し、四月三十日両国代表の間で調印を了し、五月十日に発効した。
新支払協定の内容
(1) (イ)新協定の発効に伴い、旧金融協定を廃止する。(ロ)わが国とベルギー通貨地域間の経常取引に関する支払は、振替可能ポンドまたはベルギー・フランによつて行われるが、また双方の当局が同意する場合には他の通貨をも決済手段として導入しうる。(ハ)本協定は双方の合意によつていつでも終了せしめ、あるいは九十日の書面予告によつて一方的に廃棄することができる。(ニ)本協定は現行の日英間および白英間の支払制度(すなわち振替可能スターリング・ポンド地域制度)の存在を前提としているので、この基礎条件に重大な変更が起つた場合には、双方は新事態に適応しうるようただちに協議する。(協定本文)
(2) 本邦居住者がベルギー通貨地域の公認銀行に有する経常勘定によるベルギー・フランのクレディット・ハランスを振替可能スターリング・ポンドへ交換することができるようベルギー政府が保証する。(附属書)
(3) 日本はベルギー為替管理上」振替可能地域」(主としてEPU諸国、OEEC諸国がこの地域に入る。)に編入される。(ベルギー為替管理委員会より倭島大使あて書簡)
新協定の効果
この協定の発効によつて在日ベルギー大使館による輸出入認証手続および日銀内に設けられていた記録勘定が廃止され、手続が簡素化されるとともに、従来の清算勘定的な色彩が払拭された。
また、この協定によりベルギー通貨地域はわが国の為替制度上ポンド地域に入ることになり、従来競争力の強いドル地域産品との競争を余儀なくされていたベルギー産品の対日輸出は、非ドル・グローバルにも均霑することになつて、従前より有利となつたので、近年わが国の出超傾向が恒常化している目白間貿易バランスを是正する上に効果をもたらすものと思われる。
わが国とモロッコとの貿易交渉は、昨年三月三日からラバで行われ、同年五月十六日、わが国とモロッコとの間の最初の貿易協定が署名された。この協定の有効期間は一カ年であつたが、一昨年十二月二十四日に遡及して発効したので実際に実施されたのは七カ月余に過ぎず昨年十二月二十三日をもつて失効することとなつていた。しかし同日付をもつてさらに一年間更新されたので、結局本年十二月二十三日まで有効となつた。
交渉の背景および経緯
戦後におけるわが国とモロッコとの貿易は、わが国より緑茶、ナイロン漁網、大豆油を主として、年間FOB一、八○○千ドル程度を輸出するのに対し、モロッコ産品のうち、わが国が買付け得るのはりん鉱石(五万瓲、この価額FOB五〇〇千ドルないし六〇〇千ドル)に限られ、右以外の品目は香辛料を除き価格、品質の点で輸入の可能性がほとんどないために両国間の輸出入は均衡ぜず、わが国の出超傾向にあつた。
一九五六年三月独立したモロッコは、国内体制の整備が進むにつれて各国との貿易協定を締結し初めたが、わが国に対しても同様な協定締結の希望を申し出た。わが国としても緑茶の輸出枠を確保するため、一昨年十二月二十四日とりあえずわが国緑茶の輸出枠の設定を骨子とする書簡の交換を行つたが、その後さらに前述のとおり貿易交渉を行つたのである。
交渉は緑茶とりん鉱石を中心としで行われたが、モロッコ産品はりん鉱石を含めてわが国の輸入制度上自動承認制に属する品目が多く、モロッコ側の要望にかかわらず、わが国としては一定量の買付けを確約することができない事情にある。しかし他方、わが国としては、中共茶、台湾茶に対する緑茶の輸出競争力にも鑑み、協定を成立させて輸出枠を確保する必要があるので、結局緑茶二、五〇〇千ドルに対し、モロッコ側の希望するりん鉱石三〇万瓲(FOB三百万ドル)の計上を認めて協定を締結した。従つて貿易計画は緑茶、りん鉱石を主品目とし、これにわが国の輸出としてナイロン漁網類、生糸、電池などを加え、双方の輸出約三、四〇〇千ドルの規模のものとなつた。
協定の効果
この協定は、前述のとおりモロッコとの最初の貿易協定であるが、わが国およびモロッコの双方にとつて必ずしも満足すべきものではない。モロッコは、フランスに対する経済依存から脱却するため貿易収支を均衡せしめることを固執しているので、両国間の貿易を拡大するためには、りん鉱石はもとより他のモロッコ産品(例えばコルク、マンガン鉱石、いわし缶詰、ぶどう酒、棉花、洗上げ羊毛など)買付けに努力することが必要である。この努力がなされて始めて緑茶を含むわが国産品の輸出伸長も可能となる。モロッコのわが国産品に対する需要は綿布、陶磁器、ミシン、カメラ、真珠、電気器具など相当大きいので、今後はこの協定を基礎として両国間貿易が発展することが期待される。
日華間の貿易関係は一九五三年六月十三日署名された貿易取極および支払取極とそれに基く貿易計画(毎年更新)によつて規制されている。
一九五八年度の貿易計画を策定するための日華貿易会談は、昨年三月四日台北において、日華両国代表の間で開始されたが、中国側が三月十四日にいたり第四次日・中(中国大陸)貿易協定を不服として貿易会談の一時中止を申し越したため、会議は行詰りとなり、一時はわが国代表の引揚げを考慮するまでになつた。しかしその後事態は好転して、五月二十一日に至り、両国代表の間で一九五八年度日華貿易計画採択に関する交換書簡に署名が行われた。
貿 易 計 画
新貿易計画は輸出入とも八五、二五〇千ドルでこれを前年度計画の九二、六〇〇千ドルと比較すると七、三五〇千ドルの減少となるが、これは主として国際糖価の下落による粗糖輸入価格の減少によるものである。
(1) わが国の主なる輸出品目は次の通りである。
肥料二二百万ドル、鉄鋼製品八百万ドル、電気関係需品五百万ドル、機械九百万ドル、鉄道車輌通信機械および船舶七百万ドル、繊維製品三、三〇〇千ドル等
(2) わが国の主な輸入品目は次の通りである。
粗糖三五百万ドル、米二三百万ドル、バナナ五、五〇〇千ドル、パイナップル缶詰二、五〇〇千ドル、塩一、五〇〇干ドル等
輸入品の中数量に変更のあつた主なものは、バナナ百万ドル増の他、赤糖七五〇千ドル、塩五〇〇千ドル、石炭五〇〇千ドルとそれぞれ減少した。
砂糖については、両国の民間代表の間で交渉を行い、買付量を決定することになつているが、今回の計画上の見積額としては昨年度より五万トン増加し三五万トンとなつている。
貿 易 実 績
(1) 輸 出
一九五七年度のわが国輸出実績は八○、九一〇千ドルで計画額九二、六〇〇千ドルに対し八七・三%の遂行率であつた。なお昨年四月以降十二月までのO/A輸出額は五八、五二〇千ドルである。
(2) 輸 入
一九五七年度のわが国の輸入実績は七三、四五〇千ドルで計画額九二、六〇〇千ドルに対する遂行率は七九・三%あり昨年四月以降十二月までのO/A輸入額は四五、六四〇千ドルであつた。従つて十二月現在のバランスでは、わが国が一二、八八○千ドルの出超となつている。
交渉の経緯
一九五三年四月日・ア両政府の間で締結された貿易および支払取極に基く清算勘定の未払残高としてアルゼンティン政府がわが政府に対して負つている債務については、一九五六年九月両政府間に締結された暫定取極に基いてアルゼンティン政府が償還を履行していた。しかるに一昨年十一月同国は、フランス、イタリア、西独、オランダおよび連合王国の諸債権国との間に債務の償還に関する正式協定を締結したので、わが国もアルゼンティンとの間の債務決済に関する前記の暫定取極を正式協定とするため、一昨年十二月二十日ブェノスァィレスにおいて交渉を開始し、同協定は昨年六月十二日両国代表の間で署名された。
協定の効果
この協定によつて、アルゼンティンの対日債務五五百万ドルは年三・五%の利子を附して九カ年の年賦で米ドルまたは振替可能ポンドで支払われることとなつた。
この協定の諸条件は、アルゼンティンがフランス、イタリア、西独、オランダおよび連合王国との間に締結した債務償還協定と同様であるが、将来もしこれらの諸国に対してこの協定よりも有利な条件が与えられる場合にはわが国に対してもそれらよりも不利でない条件がただちに許与されることとなつている。
アルゼンティンは一九五六年三月、わが国および西欧諸国に対して、従来の清算勘定方式による協定貿易の廃止を提案した。わが国はこのアルゼンティン側の提案をいれ、同年三月三十日、日・ア貿易支払協定の清算勘定による輸出入取引を締切るとともに、同年九月八日ブェノスアイレスにおいて、前記清算勘定の整理および振替可能ポンドによる決済方式に関する日・ア間暫定取極(アルゼンティン政府がわが国の政府に対して負う義務の処理をも含む)を行つた。
日・ア両国間の貿易支払に関する暫定取極に代るべき新しい貿易支払協定のための予備交渉は、昨年六月十二日アルゼンティンの対日債務処理協定が署名された後、同年六月十八日からブェノスアイレスにおいて開始されたが、本格的な交渉はわが国の事情(当時進行中であつたわが国とブラジルとの間の通商交渉)によつて、締結されるべき日本・ブラジル貿易支払取極の内容が日・ア協定のパターンとなるものとも見られていた関係もあり、延び延びとなつていた。その後昨年末アルゼンティンが貿易および為替の自由化計画(本年一月一日より実施)の発表を行つたことから、同国の為替貿易政策の変更が予見されるに至つたので、わが国としてはアルゼンティンのこの新政策の全貌が明かにされた後、それと睨み合せてこの交渉を行う予定である。
交渉の経緯
わが国とパキスタンとの旧貿易取極は、昨年六月末で失効していたが、同年八月二十八日より東京においてパキスタン側と右取極の更新に関する交渉を行つた結果、交渉妥結し、九月五日新貿易取極の調印が行われた。この取極の有効期間は昨年九月から本年八月末までである。
この交渉において、パキスタン側は旧協定年度におけるわが国のパキスタン綿買付が所期の量に達しなかつたので、本協定年度においてその買付を増加するよう要請した。わが国は、これに対してわが国の繊維業界の不況を説明し、先方の要求には応じられないとして折衝した結果、おおむね旧取極を踏襲した上、次の内容を骨子とする新取極が成立した。
取極の内容
(1) 日本はパキスタンからの原綿、ジュート、塩、クローム鉱石、コットン・リンター、皮革等に対し、パキスタンは日本からの綿および化繊製品、鉄鋼製品、機械、化学製品、雑貨等に対し、それぞれの国における輸入計画に従つて相互に輸入の便宜を与える。
(2) 日本はポンド外貨予算およびドル・ポンド共通外貨予算による原綿の輸入について、パキスタンに対し第三国と平等の立場で競争する機会を与え、パキスタンは日本が一定量の通常輸入量を超えてパキスタンから原綿を買付けた場合、これと見合つて特別の対日輸入許可証を発給する。
(3) 両国政府は、パキスタンの産業開発を促進するため随時協議する。
交渉の経緯
日伯間の貿易は、従来一九五二年九月十二日に締結された日伯貿易および支払両取極により、清算勘定方式によつて行われてきた。しかしこの取極はその後両国間貿易の発展拡大を期した当初の目的に副わなくなつたため、日伯両国政府は、昨年六月四日以来リオ・デ・ジャネイロにおいて、新貿易支払取極を締結すべく、交渉を重ねた結果、同十月十六日新版極の成立をみた。
取極の内容および効果
(1) 従来の米ドル建清算勘定方式を廃止し、振替可能の英ポンドによる現金決済とする。
(2) 両国は相互に同一通貨、同一待遇の供与を約す。
(3) 日本は取極に付属する貿易計画に掲げる四二、五〇〇千ドルの伯国物資(綿花、砂糖、大豆、羊毛、コーヒー、ココア等)の買付に努力し、ブラジルは、年間ベースで、貿易およびこれに関連する役務に関する対日受取り額に見合う額の対日支払をわが国の物資の買付その他によつて実現するように努力する。
(4) 対日輸入為替の競売を別枠で行い、この為替落札の最低値を対伯多角決済機構加盟諸国通貨競売の最低落札値並みとする。
(5) 旧取極の下における清算勘定のわが国貸越残高および新取極発効日から二一〇日の期間に支払義務の生ずる既契約延払代金等を「特別勘定」に繰入れ、一定率でわが国に現金で返済する。
(6) 新取極の円滑な運営を行うため、両国政府は六カ月毎にあるいは必要なときは、いつでも両国の検討を行い、また協議をする。
(7) この取極は十月十六日に発効し、少くとも一年間効力を有し、有効期間満了の九〇日前までに廃棄の通告が行われない限り、自動的に次の一年間有効とされる。
この取極は、日伯貿易を現金決済の基礎の上におき、わが国の輸入先行による伯国物資買付計画を掲げ、かつ相互の貿易関係受払額が年間ベースで等額となるように規定することによつて両国間の貿易を維持し、拡大することを企図したものである。しかるにこの取極発足後わが国の輸入は、伯国産品の輸出余力の不足および季節的出廻り時期、価格等の関係で進まず、従つて、わが国の輸出も行い得ない状態になつている。そこでわが国としては極力輸入促進に努めるとともに何らかの形でブラジルに対して信用を供与し、わが国の輸入代金がブラジルに支払われる以前においても同国が対日輸入を再開し得るような方策を検討中である。
11 日本とアラブ連合共和国エジプト州との貿易支払取極の締結
交渉の経緯
わが国は一九五三年十一月二十八日エジプトとの間に米ドル建清算勘定方式による貿易および支払取極を締結したが、この取極は昨年二月二十二日エジプトがシリアと合併してアラブ連合共和国となつてからもエジプト州との間に限つて引続き適用されてきた。しかしながら昨年二月十日エジプト州の為替管理制度が変更された結果、この取極を円滑に運営することは期待しえなくなつたので、わが国は右取極に代るべき新版極の締結につき九月上旬から東京でエジプト側と下打合を開始した。ついで十月上旬わが国の代表団をカイロに派遣して折衝させた結果、現金決済方式による新貿易支払取極について合意をみたので、同十一月八日カイロにおいて両国代表の間で関係文書の署名を行つた。
取極の内容および効果
(1) 従来の米ドル建清算勘定方式を廃し、英ポンドおよびその他振替可能および交換可能な通貨による現金決済とする。
(2) 両国は両国間の貿易をできるだけ高い水準にまで拡大するように努力する。
(3) 両国政府はできるだけ早い機会に通商航海条約締結のための交渉を開始することとし、その条約の締結にいたるまで、(イ)関税およびその他課徴金ならびに通関の手続および規則、(ロ)輸入貨物に課せられる内国税その他の内国課徴金、(ハ)海運および航海に関する事項について、無差別の原則に従い、かつ現行法令の範囲内でできるかぎり好意的な待遇を供与する。
(4) 清算勘定は一九五九年十一月二十七日限りで閉鎖することとし、それまでの間両国政府は勘定残高をできるかぎり貨物の輸出入によつて清算することに努力する。もし勘定閉鎖の時なお残高がある場合は、英ポンドまたは米ドルで決済する。
(5) この取極はエジプト州にのみ適用し、シリア州には適用しない。
この取極の成立の結果、従来清算勘定決済によるエジプトとの貿易の難点であつた債権累積を避けるための輸出規制、エジプトの決済通貨別差別による割高輸入等が除かれることになるので、今後わが国がエジプト産品の買付を円滑に進め得れば、最近におけるエジプトのわが国産品に対する旺盛な需要と相俟つて新たな発展を期待することができる。
一昨年十二月六日署名された日・ソ貿易支払協定に基いて、同協定付属の第二年度品目表を作成(第一年度の実績検討を含む。)するための貿易交渉は、昨年十一月三日よりモスクワにおいて両国代表団の間に開始された。この交渉の結果、十二月四日、両国政府代表の間で「一九五九年度の両国間の取引品目表採択に関する議定書」が調印された。付属品目表は、掲上品日中見積り数量または価額を記載したものが、価額換算片道それぞれ約二八百万ドル、さらにこれに数字を掲げていないものを加えれば、片道約三五百万ドル程度と推定されるので、本年度分に比べて、かなり増大するわけである。
また品目表の内容としては、輸入において木材、石炭、カリ塩、マンガン鉱等従来の取引品目の外、綿花、小麦、大麦、とうもろこしその他の新品目が掲げられており、輸出においては、酸化チタン設備、印刷機械設備等が新品目として掲げられているが、その他はおおむね本年度の品目と大差がない。
なお、前記交渉において、これまでの取引実績にかんがみ、木材、石炭、石油およびカリ塩につき品質、数量、輸送等に関してわが国の要望する事項を先方に了承せしめた交換書簡が作成された。
昨年一月七日わが国とフィリピンとの間に「貿易書簡」(詳細は「わが外交の近況」第二号九七頁参照)が交換されたが、この「貿易書簡」の第三項に基き、日比両国間の貿易取引の円滑な実施を図るため、三カ月に一回、日比合同委員会を開催することとなつた。この委員会はマニラにおいて昨年末までに三回開催され、両国間における当面の貿易経済問題について種々討議が行われた。
わが国とビルマの間の通商、貿易関係を規制するものは、一九五三年十二月八日に締結された日本・ビルマ間貿易取極のみであるが、この取極は、元来一昨年十二月三十一日まで有効であつたところ、同年十二月二十日その有効期間が一カ年延長されたので、結局昨年十二月末日をもつて失効することになつていた。しかしながらビルマ側は、平和条約第三条による通商航海条約またはこれに類する協定を締結する意図がなく、この取極が両国間の通商貿易関係を規制する唯一のものであるのでわが国としては引続いてこれを存続せしめることが望ましいと考えていた。そこでビルマ側の意向を打診した結果、ビルマ側も同様にこの取極の延長を希望していることが解つたので、ラングーンにおいてこのための交渉を開始した。しかしビルマ側は、貿易取極の単純延長はビルマ米売買取極の締結と同時に行いたいと申入れてきたので、昨年十二月二十三日より米の交渉を開始した。この交渉は年内には妥結に至らず、なお継続して行われている。