三 最近における通商、貿易上の諸問題

通商航海条約および通商に関する条約関係

1 日印通商協定の締結

通商に関するわが国とインドとの間の協定は、昨年二月四日外務省において藤山外務大臣とジヤー駐日インド大使との間で署名され、同年四月八日ニュー・デリーにおいて批准書の交換が行われたので、同日より正式に発効した。

交渉の背景および経緯

(一) 戦後の日印通商関係は、一九五二年の日印平和条約第二条の通商条項により規制されてきたが、日印両国は、右通商条項によって、貿易その他の通商上の関係を安定した友好的基礎の上におくための条約または協定が締結されるまで、両国の国民、貿易、海運、航海等に対し、四年間一定の待遇を相互主義に基いて供与することとなっていた。この四年の期間は、一九五六年四月二十七日に満了したが、それまでに平和条約に定める通商航海条約または通商協定が締結されなかったため、両国政府は、従来平和条約に基いて相互に与えてきた待遇を引続いて与える旨の暫定的な取極を行った。しかしながらこのような暫定取極は、内容的にも不十分であり、形式的にも不安定であるので、わが国としては速かに通商航海条約の締結を希望する旨、一昨年初めわが政府の条約草案を附してインド側に正式に申入れた。

(二) 右の経緯により一昨年初めより、わが政府は、ニュー・デリーにおいて通商航海条約締結のための交渉開始を申入れ、先方と折衝に入ったが、当時先方は、インドとしては従来も先進国との間には通商航海条約を締結したことがなく、今後も第二次五カ年計画が完了して国力が十分充実するまでは先進国とは通商航海条約は締結しないとの方針である旨を再三主張し、わが政府の当初の通商航海条約案には全く応じえず、精々両国間の通商を促進するために最少限度必要な事項を盛った貿易協定を締結することが限度であるという態度をとっていた。

このためわが国は、従来のインド側の主張を一応受け容れ、政府の通商航海条約案の規定を大巾に簡略化した通商協定案を作成し、これを一昨年八月末インド側に提示した。わが政府は、新通商協定案につき、新協定は平和条約の通商条項に代って締結されるものであるから、少くとも関税、為替制限、輸出入制限、経済技術協力、国家貿易企業等の規定のみならず、入国、滞在、旅行、居住、事業活動、職業活動および船舶等の諸事項を盛ることを必要と考える旨強調したが、インド側は、日本側協定案が著しく通商航海条約的であるとして難色を示した。交渉の最大の山の一つとなったのは、わが国が通商協定案に盛った入国、居住、事業活動、職業活動、海運、船舶等本来の通商航海条約の最も重要な基本的事項に関する最恵国条約をインド側に納得せしめることであった。

(三) この協定交渉のもう一つの難問題として緊急事態に対する予防措置の問題があった。そもそもインドは、一九五五年わが国がガットに加入するに際して、ガット第三十五条を援用してわが国との間に正式なガット関係を設定することを拒絶した経緯があるが、インド側としては、戦前の経験に鑑み、日本産品が大量にインド市場に氾濫してインドの国内産業の存立を脅かすような事態が起る可能性があると主張し、このような緊急事態が発生した際、日本産品に対して差別的制限措置をとり得ることにつきわが国が同意するならばガット第三十五条援用を撤回するという態度を示して来た。

従って協定交渉の開始当初から、インド側は、この問題を再び取上げ、わが国に対して全面的最恵国待遇を供与するに際しては、緊急事態に対する何らかの予防措置に関して合意を遂げる必要があるとの態度をとっていた。

(四) 通商協定の本格的交渉は一昨年八月末ニュー・デリーで行われて来たが、この間同年十月ネルー・インド首相の訪日があり、同首相の滞日中数度にわたって岸・ネルー会談、藤山・ネルー会談等が行われた。その際わが国としては、早急に今次の交渉を妥結して、日印両国の通商関係を友好的で安定したものとしたいとの希望を表明し、ネルー首相もこれに同感の意を表した。また同時にわが国はインドの第二次五カ年計画の達成に対してあらゆる協力を惜しまないものであることを強調し、円借款供与の問題についても両首相の間に原則的な合意を見るに至った。

ネルー首相が帰国した後、インド政府は、右の円借款問題を具体化するため、ラル商工次官補を団長とする代表団をわが国に派遣することに決定した。このラル代表は、従来のニュー・デリーにおける通商交渉のインド側の責任者でもあったため、わが国としてはラル代表の来日を俟って、円借款問題の交渉と平行して通商協定問題の交渉も行うこととし、協定交渉の二大問題である入国、居住、事業活動条項と、日本品による緊急事態に対する予防措置の問題とについてできる限り解決を計り、協定締結の目途をつけるように努力するという方針を決定した。

(五) かくてラル・インド代表一行は、昨年一月二十日来日し、同二十一日より早速円借款問題について交渉を開始した。翌二十二日第二回本会議において通商協定を審議したところ、ラル代表は、従来交渉上の難点となっていた二つの問題につき、まず入国、居住、事業活動条項についてはわが国の提案をそのまま受入れること、また緊急事態に対する予防措置問題については、インド政府は最早固執しないという意向を表明したので、問題は急転直下解決するに至った。またその後ラル代表が協定署名の全権をも与えられていることが明らかとなったので、急に予定を変更してラル代表との間で協定案文を確定することとし、二週間の短期間に所要の国内手続をすべて終え、二月四日藤山大臣とジヤー駐日インド大使との間で署名を行ったわけである。

ガット第三十五条援用の撤回

前記通商協定の署名後、外務省牛場経済局長とラル・インド代表との間で日印両国間のガット関係設定に関する書簡の交換を行ったが、ラル代表はその書簡の中でガット関係設定方に関するわが国の要請に対して、インド政府が最善かつ最も迅速な考慮を与えることを確言する旨を述べた。その後インド政府は、ガット第三十五条援用撤回に関する事務的手続を進めていたが、昨年十月十六日ジュネーヴにおけるガット総会において、インドは、同日付で対日ガット第三十五条の援用を撤回し、わが国と正式なガット関係に入る旨を声明した。

今次通商協定の意義

この通商協定の意義として特筆すべき点は、わが国がアジア諸国との間で戦後初めて完全な無差別待遇に基く通商協定締結に成功したということである。しかもアジア新興独立国中最も有力なインドを相手国とする協定の締結に成功したことが、この協定の意義をさらに倍加していることは否めない。

右通商協定の成立は、日印通商経済関係の将来にとってはもとより、今後のアジアにおけるわが国の経済外交を推進して行く上に極めて大きな影響力をもつものと考えられる。インドとの間にこのような通商協定が締結されたという事実がもたらす全般的な雰囲気の改善がその他のアジア諸国に対して強い影響を与えることは疑うべくもないので、この通商協定は今後のアジア諸国との通商協定ないし通商航海条約の一つの典型となることが期待されている。

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2 日本・ポーランド通商条約の締結

交渉の経緯

一昨年二月わが国とポーランドとの間に調印された国交回復に関する協定の第五条は、「その通商及び海運の関係を安定したかつ友好的な基礎の上に置くために、条約または協定を締結するための交渉をできるだけすみやかに開始」すべきことを規定しているが、この協定が発効した同年五月以降、ポーランド側よりわが国に対して交渉開始方の提案が行われた。わが国としても両国間貿易の基礎条件を明確に定めることは望ましいことであるので、この提案を受諾し、同年末より東京において非公式に予備会談を行い、意見の調整をはかった結果、基本的事項について原則的な意見の一致を見た。

よって昨年三月七日より、本件の正式交渉に入ったがその結果「通商に関する条約」および「貿易および支払に関する協定」について両国政府の合意が成立したので、四月二十六日わが国の全権委員山田久就外務事務次官とポーランドの全権委員T・ゼブロウスキー駐日大使との間で署名調印が行われた。

条約の内容

この条約は前文、本文十二カ条および末文から成っている。有効期間は五カ年であるが、その後も廃棄手続に従って廃棄されない限りは有効である。条約の内容としては、関税及び関税事項に関する最恵国待遇、第三国を通過してきた産品に対しても直接に輸送された場合と同じ待遇を与える旨の規定、内国税、輸入産品の国内販売等に関する最恵国待遇、輸出入禁止制限の無差別待遇(ただし国際収支上の理由によるものは除外される)、国家企業の活動が商業的考慮によるべき旨の規定、船舶の出入港、相手国港湾における取扱に関する最恵国待遇および内国民待遇、沿岸貿易に関する留保、海難救助に関する内国民待遇、仲裁判断の執行、国家の重大なる安全上の利益の保護措置に関する留保等の諸事項が規定されている。なお通常の通商航海条約等に規定される出入国、滞在、事業活動、財産権の取得等に関する事項については規定されていないが、これは日ソの場合と同じく、日ポ両国の経済社会体制が根本的に相違し、これらの事項について、一定の待遇供与を約することが困難なためである。

条約の意義

日ポ両国間には戦前すでに通商航海条約が存在していたが、同条約は戦争とともに消滅していた。そこで一昨年の日ポ国交回復協定中に規定された約束に基いて新たな通商条約が締結されることとなったもので、この条約は、わが国が戦後東欧諸国と結んだ通商関係条約として最初のものである。もとより両国間の地理的距離が大であり、かつ相互の経済構造上わが国より輸出すべき品目はあっても、輸入すべき品目には見るべきものが少ないので、両国間の貿易がこの通商条約によって直ちに飛躍的に増大しうるとは考えられない。しかしこれらの困難を克服して、両国の貿易をできるかぎり促進することは、双方がひとしく希望するところであるので、この条約が両国の経済関係を密接にするのみならず、一般に友好関係を維持強化する上に有意義であることはいうまでもない。

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3 日本、ニュー・ジーランド通商協定の締結

昨年七月下旬わが国は代表団をウェリントンに派遣して、ニュー・ジーランド政府との間に通商協定締結のための交渉を開始したが、爾来一カ月半の折衝の末、ようやく取極細目について実質的合意に達し、九月九日在ニュー・ジーランド島津特命全権大使とW・ナッシュ総理兼外務大臣との間で正式署名を行った。その後両国政府は、それぞれ所要の国内手続を終え、十一月二十六日外務省において、藤山外務大臣と在日J・Sリード特命全権大使との間で批准書の交換を行い、同協定は同日から正式に発効した。

交渉の背景および経緯

(一) 戦後わが国とニュー・ジーランドとの間の貿易は、全く無協定のままで行われてきたが、ニュー・ジーランド側は、わが国の商品に対して関税および輸入許可制度の両面においてかなり厳しい差別的制限を維持してきた。すなわちまず関税制度上、ニュー・ジーランドはわが国の商品に対して最高税率たる一般税率を賦課していたため、わが国の商品は、特恵税率の適用を受ける英国品に対してはもちろんのこと、最恵国税率の適用を受ける西欧諸国の商品に比べても、価格競争上大きな不利益を蒙っていた。他方輸入許可制度の面においては、ニュー・ジーランドは、わが国をドル地域諸国に準ずる国として「指定国」並みに待遇し、非ドル地域たる「非指定国」に比べて甚だしく不利な差別的待遇を与えてきた。わが国が「指定国」待遇を受けていた結果として、ニュー・ジーランドに国内産業の存在する商品については一切対日輸入ライセンスは発給されず、またその他の一般商品についても、輸入業者の申請に基き、その都度個別審査して輸入ライセンスを発給するという極めて制限的な輸入許可方式がとられていた。

このような関税および輸入許可制度上の厳しい差別的制限の結果、戦後日本商品の対ニュー・ジーランド輸出は、一進一退で目覚しい進捗振りは示していなかった。

(二) わが政府は、ニュー・ジーランド側における対日差別待遇を一日も速かに撤廃させるため、過去においてもニュー・ジーランド政府との間にしばしば公式、非公式な折衝を行ってきた。一九五四年には両国政府間の交渉はかなりの進展を示し、品目を限定して関税上相互に最恵国税率を与え合う暫定関税協定と、輸入許可制度上の原則的な最恵国待遇の相互供与を規定した交換公文との二つについて実質的な合意に達し、それぞれの国内手続を経て正式署名をまつという段階にまで話合が進んだ。

しかしながら右暫定協定案と交換公文案は、当初ニュー・ジーランド側の事情、主として一九五四年末に行われた総選挙の関係から、またその後はわが国側における事情、とくにわが国の「ガット」正式加入が確実になった関係から、結局正式署名が延期されたまま時日が経過し、事実上死文化してしまった。

(三) 両国は昨年初めに至り交渉をまず東京において開始したが、その当初においては、新協定は前記の一九五四年協定案に比べ最恵国待遇適用の範囲が若干拡がる程度の制限的性格のものとなる公算が極めて大きいものと考えられていた。しかしながら七月にいたり、交渉の場所をウェリントンに移すや、ニュー・ジーランド側は、わが国がニユー・ジーランド産品に対して公正な輸入待遇を供与することを条件として、関税および輸入許可制度上の全面的な最恵国待遇をわが国に供与する用意のあることを明らかにするに至つた。

交渉は、当初わが国のニユー・ジーランド産品に対する公正な輸入待遇の問題をめぐつて難航したが、結局、羊毛、食肉、バター、チーズ、脱脂粉乳、牛脂、牛皮、カゼイン等のニユー・ジーランド産品の輸入につき最恵国待遇を与え、また食肉および羊毛の関税を一定期間現行水準に維持する意向である旨を表明することによつて妥結した。

協定の内容

この協定は、一九五四年の日加通商協定および一昨年の日豪通商協定に類似しており、関税および輸出入許可制度上相互に最恵国待遇を供与すること、さらに一方の国の産品の輸入が他方の国の国内産業に重大な損害を与える場合には協定上の義務を一時停止できることを骨子とし、当初の協定有効期間は一九六一年十二月八日までであるが、その後も、三カ月の事前の予告を以つて廃棄を通告しない限りは、引続き効力を存続することになつている。また協定附属文書においては、前記のニユー・ジーランド産品に対する輸入待遇に関し取極めを行つており、さらにニユー・ジーランド政府は、協定署名の日から三年以内に、「ガット」を両国間に適用する可能性を探求し、その適用の基礎を検討するため、わが国と討議を行う意図を有する旨を述べている。

協定の意義

この協定の結果、わが国とニユー・ジーランドとの貿易は、年々着実に増大することが予想される。とくにニユージーランド側においてわが国の商品に対する関税および輸入許可制度上の差別待遇が完全に撤廃されたため、わが国の対ニユー・ジーランド輸出の将来は極めて明るい。しかしニユー・ジーランドの輸出市場としての将来性が明るいだけに、わが国としても最近アメリカ、カナダ、欧州各国で見られるような日本商品輸入防止問題がニユー・ジーランドで起ることのないように細心の注意を払い、秩序ある輸出の増大をはかる必要がある。

日豪通商協定締結以来一年余の経験によれば、豪州市場に対する秩序ある輸出態勢が確立された結果、現在までほとんど特別な障碍は起つておらず、たまたま発生した二、三の案件も、両国政府および関係業界相互の協力と適切な措置によりすべて円満に解決されてきている。今後ともこの経験を十分生かしながら、ニユー・ジーランド市場の育成に注意を払うことが必要であると思われる。

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4 日本、ハイティ通商協定の締結

協定交渉の経緯

ハイティは戦前一時わが国繊維品の好市場であつたが、戦後は同国がガット第三十五条を援用し、わが国産品に対し最高税率を適用したため、同国向のわが国の輸出は減少するに至つた(一九五六年度におけるわが国の輸出は家庭用ミシンを中心として精々一〇万ドル程度であつたが、これに反して輸入は一〇七万ドルで、その大部分は砂糖であつた)。昨年十一月ハイティ政府はわが国に対して通商協定の締結を提案するとともに、その交渉のためジャン・ダヴィッド同国上院財政委員長を全権代表として派遣してきた。政府は、同月二十五日から三週間にわたり東京において右通商協定の交渉を行つた。その結果最終的合意に達したので、同協定は十二月十七日藤山外務大臣とジャン・ダヴィッド全権との間で署名された。

協定の内容および意義

この協定は、本文七カ条および交換公文より成つているが、その大綱は次の通りである。

(1) 両国は、関税その他輸出入に関連する事項等について相互に最恵国待遇を与える。

(2) 両国は、輸出入制限に関し相互に無差別待遇を与える。ただし国際収支上の理由に基く場合はこの限りでない。

(3) 両国は通商関係の発展および科学、技術等の知識の交換のため協力する。

(4) 船舶の出入港、および、貨物および人の輸送に関して、相互に内国民待遇および最恵国待遇を与える。ただし沿岸貿易に関しては権利を留保する。

(5) 両国は、通商関係を円滑かつ漸進的に発展させるために協議する。

(6) この協定は、批准書の交換の日から三年間効力を有するが、その後も、三カ月の予告をもつて廃棄しない限り、効力を有する。

この協定は、関税に関する最恵国待遇および輸出入制限に関する無差別待遇を相互に許与すること等により、ガット第三十五条援用撤回にも等しい効果をもたらすものである。

またこの協定は、わが国が中南米諸国と締結したこの種協定中最初のものであり、この地域の諸国に対する有意義な前例となるのみならず、前述の最恵国無差別待遇の供与によつて、今後わが国のハイティへの輸出は大いに伸張するものと期待されている。

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5 日比友好通商航海条約の交渉準備

わが国は一九五六年五月九日、フィリピンとの賠償協定を締結した際、日比間の均衡貿易の伸張と共通の利益のために、友好通商航海条約のための交渉を早期に開始することを予期するとの共同声明を行つて、まず条約締結へ向う第一歩を踏み出した。

次いで同年十二月七日、岸総理大臣がフィリピンを訪問した際、岸、ガルシア会談および会談後の共同声明によつて両国の利益のため、日比間の貿易関係をさらに増進することが望ましいことを認め、右に関する率直な意見を交換するとともに、早期に通商航海条約を締結すべしとの希望を表明した。この岸総理大臣の訪比を機会に、かねてフィリピンの国内事情等により延々となつていた通商交渉が急速に進展して両国間の合意をみたので、昨年一月七日在比湯川大使とフィリピン外務大臣代理との間に「日比貿易書簡」(詳細は「わが外交の近況」第二号九七頁参照)が交換された。この書簡交換に伴つて行われた共同声明にもみられるように、その時の通商会談に際しても両国間の貿易および通商を規制する通商航海条約の早期交渉、締結の希望が重ねて表明されるなど、条約の交渉開始への気運が次第に盛り上つてきた。

その後同年七月十四日には日比間入国滞在手続の簡素化に関する書簡交換が行われ、また航空機乗入れに関する漸定行政取極の締結に関する公文交換も近く行われることが予定されているものの、前記「貿易書簡」およびこれらの取極はいずれも通商航海条約締結までの暫定措置とされているばかりでなく日比間の通商および経済協力関係が将来一層活発化することも予想されている折柄、これらは必らずしも満足すべき内容をもつものと思われないので、両国間に最恵国無差別待遇の相互供与を主眼とする通商航海条約を締結することの必要性がますます痛感されるに至つた。

かかる折同年十二月、ガルシア大統領が来日した際、岸総理大臣とガルシア大統領との共同声明によつて友好通商航海条約の作成を妥当な機会に討議することに意見の一致をみた。また比国内でも関係方面において最近日比条約を締結することが不可避かつ必要であることを感じ、種々準備を整えている模様であり、交渉の機もいよいよ熟してきたものとみられるので、本年前半中には具体的交渉に入りうる見込みである。よつてわが国から条約案を提示して交渉開始の契機とすべく、目下草案の準備を進めている。

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