英連邦関係

1 日英関係の改善

一昨年九月英国政府の招待によつて英国を訪問した藤山外務大臣は、インドネシアとの平和条約調印のため、ジャカルタに向う途中、たまたま東南アジアを旅行中であつたマクミラン英首相と昨年一月十九日シンガポールで落合い、日英両国共通の関心事項について意見の交換を行つた。また同月二十九日には、シンガポールで行われた英国の公館長会議からの帰途東京を通過したホイヤー・ミラー英外務次官が外務省において大野事務次官と会談し、同様に最近の諸問題について話合つた。

このように順調にスタートした昨年度の日英関係は、その後も極めて順調であり、同年四月にはわが国の新大使として大野前外務次官が英国へ赴任した。また十月には、わが繊維業と競争関係にあるランカシア出身のハーヴェー・ローズ(労働党)アラン・グリーン(保守党)両下院議員が訪日し、各種工場等の視察を行い、十一月には故アスキス首相の令嬢で現在英国自由党の副党首であるボンナム・カーター夫人が、ディンジャーフィールド夫人を同伴して訪日、わが国会の婦人議員と懇談した後、各地を視察する等のことがあつたが、わが国からも各方面の人士が英国を訪問して、相互理解の増進に努めた。わが国と英国との間の懸案としては、通商航海条約締結問題(別項)およびこれに伴う諸問題の他に、平和条約に基くわが国の義務の履行の問題があるが、これらの問題の概要は次のとおりである。

英国の日華事変関係クレーム

平和条約第十八条に基き、英国政府から、日華事変中日本軍の行動によつて英国民が蒙つた損害に対して約二十億円の補償が要求されているが、この問題が未解決のまま残されていることは、日英国交上に及ぼす影響も大きいので、目下両国間でその解決につき話合いがすすめられている。

日英財産委員会

平和条約第十五条(a)の規定に基き、戦時中わが国にあつた英国人財産は今日までにそれぞれ返還ないし補償されてきたのであるが、英国政府は、この種返還および補償請求数百件のうち約二十五件につき、日本政府がとつた措置に不満であるとし、「日本国との平和条約第十五条(a)に基いて生ずる紛争の解決に関する協定」に従い、これらを日英財産委員会に付託して最終的解決をはかることに決定した。

日英財産委員会は、日英両国委員各一名および第三国人委員の三名からなる一種の仲裁々判であり、日本側委員には元特命全権大使西村熊雄、英国側委員には香港最高裁判所長官サー・マイケル・ホーガン、第三の委員にはスウェーデン人法律家オーク・ホルムペックがそれぞれ任命されている。

委員会は、昨年末までにその手続規則案について合意を見ており、これを正式に採択するための手続が行われているが、同時に東京に事務局を設置し、審査請求書を受理するための準備も行われてきた。審査の方法としては、当分各委員がそれぞれの所在地で書面審理を行うが、審査書類全部の提出をみた後では、三人の委員が東京で会合して口頭審理を行うことになつている。

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2 豪州、ニュー・ジーランドとの関係

一昨年岸総理大臣が東南アジア旅行の途次豪州およびニュー・ジーランドを訪問し、これら両国の首脳および国民と直接交歓をとげたことは、わが国と両国との関係に大きな好影響を与えた。このことは、昨年度の数々の出来事によつて如実に証明されている。

一昨年の日豪間の通商協定に引続き昨年日本とニュー・ジーランドとの間に結ばれた通商協定については別項に譲るが、その他の主な出来事について若干ふれれば次のとおりである。

豪州議員団の来日

昨年一月二十三日豪州議員団が訪日したが、この訪問は、一昨年四月メンジス豪州首相が来訪した際岸総理との間に行われた話合に基いて行われたものである。すなわち、このとき両首相は、日豪両国の友好関係を一層増進するための一方法として、両国々民の代表者たる国会議員を相互に交換し、それぞれの国情を直接知らしめるとともに、交歓を遂げさせたいということに意見が一致したのであつた。その後両国議会の両院議長の間に正式に招待状がとりかわされ、招待時期の問題等についても打合せが行われた結果、一昨年末まず豪州連邦議会議員団がわが国を訪問することに決定し、昨年一月二十三日デヴィドソン郵政大臣兼海軍大臣を団長とし、上院議員三名、下院議員四名(団長を含む)、秘書一名よりなる議員団が来訪した。この議員団の党派別は、与党四、野党三であり、また出身地別には、タスマニア州を除く豪州各州が含まれている等の点で真に豪州を代表すると言いうる顔ぶれであつた。一行は、一月二十三日より二月二日にいたる滞在の間、東京の外、日光、名古屋、京都、奈良、大阪等をも訪問したが、右に際しては時として二ないし三のグループに分れて、政界、財界、教育界、労働方面等各界の指導者に面会し、また各種工場、文化教育施設等を見学するなど、つぶさにわが国の実績を視察した。一方わが国会側においても、両院の議院運営委員長を長とする接伴委員会を設け、国会々期中にもかかわらず、一行の視察には接伴委員を中心とした日本側議員が随行し、各地で交歓の実をあげた。また一行がわが国会を正式に訪問した際には正面入口に日豪両国々旗をかかげ、議場においては議長が歓迎演説を行う等各種接待に努めた。

かくて十分に視察の目的を果した豪議員団一行は、帰豪の後も各地で講演を行う等わが国の紹介につとめたが、このことによつても一行の訪日旅行が真に成功であつたことがわかる。

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日豪間直通無線電話の開通

豪州議員団々長として訪日の任務を果したデヴィドソン郵政大臣は、その後引き続き東京に滞在し、かつて岸、メンジス両首相の間に話合われた日豪間の直通無線電話の問題につき、電気通信関係の専門家をも交えてわが国郵政省当局と会談した。その結果、まず手始めとして直通無線電話を三月十七日より開設することに決定し、その後の準備期間を経て無事開通することとなつた。この開通により通話時間は延長され、料金も値下げされた。両国は、元来時差がわずか一時間であるため、一般に電話の利用度も高いので、その後の通話量は激増している。

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日本議員団の訪豪

昨年一月の豪州議員団の訪日に呼応し、わが国議員団の訪豪についても、総選挙の終了とともに具体的な設備が進められた。その結果保利衆議院議員を団長とする自由民主党四名、社会党三名からなる議員団は、同年八月二十八日より十日間にわたつて豪州を訪問した。右議員団も豪州議員団と同様国会の両院、各党派をできるだけよく代表しうるように構成されたが、一行はキャンベラ、シドニー、メルボルンの他スノーウィ・マウンテンの電源開発工事現場等にも赴いて各界の指導者と懇談するなど、十分に訪豪の成果をあげて帰国した。この間豪州においてはさきに来訪した議員を中心に連邦州の各政府議会が、こぞつて手厚くわが議員団の接待につとめた。

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日本議員団のニュージランド訪問

豪州を訪問したわが国議員団のうち、衆議院の一行五名は、その日程上ニュー・ジーランドを訪問しえなかつたが、参議院の二名は、随員一名とともに、豪州訪問に先立つてニュー・ジーランドを訪問、牧場、地熱発電等を視察した他、また首都ウェリントンでは、同国政府、議会の指導者とも交歓した。

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日豪間テレックスの開通

昨年二月デヴィドソン郵政大臣はわが政府との会談に際して日豪間にテレックス業務を開設することの必要性を痛感したが、これは同大臣の予定の任務外であつたので、即座に約束をしかねる状態であつた。しかしその後豪州側においても本件の検討を進めた結果、同十一月四日から、両国間に直通のテレックス業務が開始された。通常の直通無線電信は、豪州側として直ぐには開設しえない事情にあるがテレックスの開通により実際上は、直通無線電信の開設と同様な効果があるので、この利用者は激増している。

両国間の通信手段がこのように改善されたことは、今後両国間の経済関係の発展に拍車をかけるものと思われる。

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真珠貝漁業問題の進展

日豪両国間の真珠貝漁業の問題は、多年の懸案となつてきたが、昨年の漁期には、日本船団は、採算上の不利をしのんで採取船を十五隻に削減し、また採取量も約四八○トンにとゞめた。たまたま国際市場においても真珠貝に対する需要が減退しているので、主要供給者たる日豪両国が協力してこの状態を打破する必要が感じられ、他方、この問題が今後とも未解決のまゝ残ることは日豪間の一般的関係上も好ましくないので、両国間で何らか実際的な解決をはかりうるよう検討されている。

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3 ガーナとの外交関係

わが国は、一昨年三月英連邦内に独立した西アフリカのガーナ国とはまだ正式な外交関係を結んではいないが、その独立式典にはわが国からも祝賀使節が派遣され、いちはやくその独立を承認した。

ガーナは、アフリカにおける植民地中最初に独立した国であり、またわが国にとつては重要な輸出市場でもあるので、同国に対して外交使節を派遣すべく準備中である。

その間ガーナの大蔵大臣K・A・グベデマ氏は、昨年九月中旬カナダのモントリオールで開催の英連邦経済会議に出席した後、十月六日からインドのニューデリーで開催された国際通貨基金会議に出席すべく、随員六名と共に旅行の途次本邦に立寄ることとなり、九月三十日空路羽田に到着した。グベデマ大臣の滞日はわずか五日間であつたが、その間藤山外務大臣とも会談し、また各種の産業文化施設を視察したので、わが国に対する認識を十分に深めたものと思われる。

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4 西アフリカに対する経済協力問題

西アフリカのガーナとナイジェリアとは共にわが国の重要輸出市場であり、両国に対するわが国の輸出量は極めて大きいが、この両国には適当な対日輸出品がないため、わが国との貿易はほとんど完全な片貿易である。このような関係からガーナ独立以来、わが国の対ガーナ輸出は次第に萎縮してきている。ナイジェリアが独立(一九六〇年の予定)する場合も同様の現象が起ることが憂慮されている。そこでわが国としては貿易上失うところを他の方法、例えば両国との合弁事業、技術提携等の経済協力でカバーすることにより、この重要なわが国輸出市場を今後とも確保維持することが必要であると考えられている。一昨年十二月日本プラント協会から派遣された調査団は、ナイジェリアの産業一般につき調査を行つたが、元来西アフリカに対するわが国産業界の認識が不十分なので、この際より本格的な調査を行つてその実情を把握する必要のあることが痛感されている。

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5 国際捕鯨に関する問題

わが国は、ノールウェー、英国、米国等十六カ国と共に国際捕鯨取締条約に加盟している。この条約は、鯨類資源を保護しつゝ捕鯨業を育成してゆくことを主眼とし、捕獲する鯨の体長、捕鯨期間、漁場等について種々の制限を定めたもので、とくに世界最大の漁場である南氷洋については、捕鯨の開始日および捕獲頭数についての規定をもうけている。しかし他方また同条約は、加盟国々民が捕鯨に従事する場合の自由競争をも認めており、船団、捕鯨船の数などについては何らの制限を設けていない。

このような形の条約は、漁業関係の条約としては模範的なものと考えられており、本条約も締結以来約十年間大体順調に運用されてきた。しかし一方において資源に保護を加えて、他方捕鯨業者の自由競争をみとめるという方法は、各業者の力が均衡している場合には公平なものとなるが、特定船団の能力が他に比較して劣つていたり、またある国家が急激にその船団を増加したりする場合には、必ずしも円滑に運用され難い。とくに南氷洋捕鯨の場合は、南緯四〇度以南の限られた水面で、一万五千頭と限られた頭数を捕獲するのであるから、俗に捕鯨オリンピックと呼ばれるほどはげしい競争となり、したがつてまたそこに不平も生じがちである。しかも本条約参加国の大多数は、南氷洋とは無関係の国でありながら、一様に一票の投票権をもつているので、直接南氷洋捕鯨に参加する国家の主張が通り難い上に、鯨資源の現状を科学的に正確に把握するということは極めて困難なのである。

特に最近にいたりソ連が急激な船団の増強を始め、他の諸国よりの話合いにも耳を貸さぬ状態であつたので、古い捕鯨国であるイギリス、ノールウェー等は、このままでは資源の保護も困難となり、ひいては捕鯨業の壊減をすら招くのではないかと憂慮するに至つた。

このような事情を背景として昨年中に捕鯨に関する二つの大きな国際会議が関かれるに至つた。

その一は、毎年六月に開催される国際捕鯨委員会の第十回会議であり、他は、前述のような深刻な状況を打開するため英国の主宰で開催された南氷洋捕鯨参加五カ国による会議であつた。

国際捕鯨委員会第十回会議

国際捕鯨取締条約に加盟している十七カ国の捕鯨委員が例年行う会議である。昨年は六月二十三日より同二十七日までオンラダのヘーグで開催された。わが国からは藤田捕鯨委員のほかに、在ヴァチカン鶴岡大使が政府代表として出席した。

会議においては、南氷洋に出漁するわが国、英国、ノールウェー、オランダおよびソ連の五カ国に重大な関係のある(イ)一九五八-五九年度南氷洋ひげ鯨の捕獲頭数制限、(ロ)南氷洋禁漁区の解放継続の問題、(ハ)南氷洋ざとう鯨の漁期延長の問題が、重要議題として討議された。

これらの事項について南氷洋出漁国と非出漁国との間に活発な論議が展開されたが、その結果資源の減少を示す科学的事実および非出漁国側の多数意見によつて、(イ)捕獲頭数は、条約に原則として規定されている一五、○○○頭(しろながす鯨換算)をさらに下廻る一四、五〇〇頭とする。(ロ)禁漁区の解放期間は、次期会議において改めて検討する。(ハ)ざとう鯨の漁期は延長しない等、いずれも南氷洋出漁国の捕鯨操業にとつて不利な決定が行われた。ただし捕獲頭数については、南氷洋出漁五カ国政府は、その後一四、五〇〇頭に対して異議の申立を行つたので、条約の規定により、これら五カ国には一五、○○○頭の原則が適用されることとなつた。

南氷洋捕鯨出漁国会議

英国政府は、南氷洋の資源確保のために頭数制限の強化が必要とされている現在、捕獲手段がますます増強されている実情にかんがみ、資源を維持しつつ同時に企業の採算性をはかるため、南氷洋出漁五カ国間で協議を行うべきことを提案した。英国政府の右提案は、主としてソ連の船団増強計画と欧州捕鯨業の経営難を考慮に入れたものである。英国側の要請に基き、これら五カ国の会議は十一月十九日より二十七日にいたる間ロンドンで開催され、わが国からは奥原水産庁長官、在英中川公使および業界代表が出席した。

同会議においては、南氷洋出漁船団数の増加防止および捕鯨条約に規定された捕獲頭数の国別割当が中心議題として討議された。船団数については、ソ連を除く四カ国は、原則として船団を増強しないとの態度をとつたが、ソ連は今後七年間に五船団程度の増加計画を立てていることを明かにした。また国別割当については、わが国は、条約に規定された捕獲頭数の枠内で、条約の精神に基いて自由競争を行うことが最も適当であるとし、割当案に終始反対するとともに、しいて割当を実施すべきであれば業者間の協定によるべきことを主張したが、会議の大勢は国別割当を支持した。

会議は、結論として、本年から向う七カ年間の計画として、(イ)ソ連は、三船団以上増加せず、他の四カ国は、既存の南氷洋出漁船団を相互の間で譲渡する場合を除き、船団の増強を行わない、(ロ)捕獲頭数の二〇%をソ連に割り当て、残りの八○%を本年六月一日までに他の四カ国にその満足する方法で配分するという趣旨の勧告案を採択し、これを五カ国政府に伝達することとなつた。

わが代表は、この勧告案が国別割当を含んでいるので、これに対する署名を一応留保したが、後日文書によつて、同勧告案が日本政府および業界を拘束するものではないと了解する旨を明かにするとともに、国別割当に対するわが国の見解を改めて確認した上で署名を行つた。

今後の問題として、わが国、ノールウェー、英国およびオランダの四国間における捕獲頭数の割当が残されているが、ノールウェーおよびオランダ両国政府は、昨年末にいたり、本年六月までに国別割当の話合が成立しない場合には、同国は捕鯨条約を脱退すべき旨を条約寄託国たる米国政府に通告した。英国も同様の意向をもつているものと見られるが、わが国としても本件に関する諸般の情勢を真剣に検討中である。

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