西欧関係 |
西欧諸国は、米国および英国とならんで自由主義陣営の中核をなし、また東西両陣営の接触面として、国際政局上極めて重要な地位を占めている。
最近これら諸国は、相互の協力関係を強化することにより、米ソ二大国に比肩する第三広域圏の樹立をめざして、いわゆる欧州統合化の動きを着々と進めており、国際政治面におけるその発言力はとみに重要性を加えるに至つた。
これら西欧諸国との国交は、わが国が近代国家として発足して以来、わが国の政治的、経済的、文化的発展の上に極めて重要な意義をもつてきたのであるが、ことに近年このような関係は、ひとしく自由主義諸国の一員としての共通の基盤の上に、各分野でますます強化されている。
昨年末現在、わが国は西欧諸国のうち、フランス、イタリアおよびドイツの三カ国と文化協定を、ギリシャ、スペイン、スイス、スウェーデン、デンマーク、オランダおよびノールウェーの七カ国と通商航海条約を、オランダ、スウェーデン、ノールウェー、デンマーク、フランスおよびスイスの六カ国と航空協定を、ドイツ等十二カ国と査証相互免除取極(別項参照)をそれぞれ締結しており、このような基本的な国際協力の面でわが国と西欧とは極めて密接な関係にある。
わが国は一九五五年以来、ドイツ、フランス、イタリア、ギリシャ、オランダ、ベルギー、スウェーデン、デンマーク、ノールウェー、ルクセンブルグおよびスイスの諸国と次々に査証相互免除坂極を締結したが、さらに昨年三月、オーストリアとの間に同種の取極が署名され、同四月に発効したので、今や西欧諸国の大部分との間にこの種取極が成立をみるに至つた。
これらの取極により、わが国民が前記諸国へ渡航する場合に、職業または生業に従事する意図をもたぬかぎり、ドイツおよびスイスへは滞在期間のいかんを問わず、オーストリアへは滞在期間六カ月以内の場合に、またその他の諸国へはおおむね滞在期間三カ月以内の場合に、無査証で入国できることとなつた。この点わが国民の西欧諸国への旅行は、世界の他の地域へ旅行する場合に比較して著しく容易となつている。
わが政府は、さらにフィンランド政府との間に十二月二十二日、本邦およびフィンランドに短期間滞在するフィンランドおよびわが国の旅行者に対して相互に査証を免除することに関する書簡の交換を行つた。
これによりわが国が短期滞在者の査証免除に関してこのような取極めを結んだ国は、ドイツ、フランス、イタリヤ、ギリシャ、オランダ、ベルギー、テュニジア、デンマーク、スウェーデン、ノールウェー、ルクセンプルグ、スイス、ドミニカ、トルコ、オーストリアおよびフィンランドの十六カ国となつた。
サンフランシスコ平和条約第十五条(a)の規定により、わが国はある種の連合国財産を返還または補償する義務を負つている(北米および英連邦関係をも参照)。このような返還補償事務は、西欧諸国に関してはすでにほとんど全部終了したが、オランダおよびフランスはその補償請求の一部につきわが国のとつた措置に満足しなかつたので、「日本国との平和条約第十五条(a)に基いて生ずる紛争の解決に関する協定」に基き、日蘭財産委員会および日仏財産委員会が設置され、その最終的解決に当ることとなつた。右の両委員会の日本側委員には前駐仏大使西村熊雄氏が任命されている。
今次大戦中、わが国内および日本軍の占領地域下において日本軍の軍事行動によつて中立国の政府または国民が蒙つた損害につき、わが国に対して戦後総額約百六十六億円のクレームが提起された。これらのクレームは、西欧諸国との戦後事務を処理する上で最大の難関と目されていたが、わが政府としてもこれを早期に解決すべく鋭意相手国と折衝を重ねた。その結果、先年スイスおよびスペインのクレームが円満妥結をみ、さらに一昨年九月スウェーデンのクレーム解決に関する取極が署名され、昨年五月発効するに至つた。元来これらのクレームの解決は、平和条約とは関係がなく、個々の事案につき詳細な事実調査を行つた上で、一般国際法に基く妥当な補償額について先方と合意に達することを必要とするのであるが、わが国がこのように困難な問題を誠意をもつて処理していることは、西欧諸国の対日感情を改善し、わが国の国際的信用を高める上にも少からず寄与しているものと思われる。
西欧諸国とわが国との友好関係が緊密化するにともない、彼我の要人の往来もとみにしげきを加えている。
(イ) 昨年春、高松宮、同妃両殿下は、パリで開催された日本古美術展覧会の開会式に臨席されるため、フランス政府の賓客として、四月十三日羽田発のエール・フランス北極航路開通飛行で渡仏されたが、両殿下はその後引続いてベルギー政府の招待により、同月二十一日ブルッセルに赴かれ、ブルッセル万国博覧会に御参列の上、二十六日帰国された。
(ロ) これと前後して、フランス共和国参議院(上院)議長ガストン・モネルヴィル氏をはじとめするフランス国会議員団十名は、同じくエール・フランス紀念飛行により四月十二日来日した。同議長は、滞日中、天皇陛下に謁見し、また岸総理大臣、益谷衆議院議長、松野参議院議長、藤山外務大臣等に会見ののち、同月二十日離日した。
(ハ) 昨年秋わが政府は、「ドイツ経済の奇蹟」を実現した人として世界的に知られているドイツ連邦共和国副首相兼経済相ルードヴィヒ・エアハルト博士を政府の賓客として招待した。同博士は、この招待を受諾し、ドイツ連邦議会議員五名およびラインハルト経済省国際経済局長等随員十四名を帯同して、十月二十五日来日した。滞日中同博士は、天皇陛下から謁見を賜わつたほか、岸総理大臣、藤山外務大臣、高碕通産大臣、池田国務大臣らと会見して、日独関係とくに経済関係の緊密化につき意見の交換を行い、さらに関西方面をも視察して、十月三十一日離日した。
(ニ) フランス国務相アンドレ・マルロー氏は、夫人および随員三名をともない十二月八日来日し、同十四日まで滞在した。この間同国務相は、天皇陛下から謁見を賜わつたほか、岸総理大臣に会見してド・ゴール・フランス首相の親書を伝達し、また灘尾文部大臣および藤山外務大臣に会見してフランス政府が松方コレクションをわが国に寄贈することを決定した旨の朗報を伝えた。因みにマルロー国務相は、作家としても世界的に著名である。
(ホ) 本年初頭わが国の国賓として招待を受けたオーストリア首相ユリウス・ラープ博士は、メツニック総理府新聞情報局長等随員三名とともに一月八日来日した。同首相は、滞日中天皇陛下から謁見を賜わつたほか、岸総理大臣と会見して近い将来オーストリアを訪問するよう招請した。同首相の一行は、関西方面をも視察して一月十七日離日した。なお離日に際して、両国共同コミュニケが発表された。