ラテン・アメリカ関係

1 ラテン・アメリカ諸国との友好関係の増進

メキシコおよび中米諸国

メキシコとわが国とは歴史的にも伝統的にも深い友好関係にあるが、通商貿易、企業提携の面を通ずる経済的な関係も漸次緊密化の度を強めている。昨年十一月には非公式ではあるが、ポルテス・ヒル元大統領が来日して彼我の親善関係の増進に資するところがあつた。またメキシコ市に建設され、近く正式に開館される予定の日墨会館は、両国間の経済文化の交流に大きな役割を果すことが期待されている。

同年十二月には同国大統領就任式典にわが国より一万田尚登衆議院議員を特派大使として派遣、参列せしめた。

他の中米諸国とわが国との関係も一般に極めて友好的であるが、わが国としては今後中米諸国に対してなお一層の努力を傾注し、通商貿易の伸張を図るべき時期がきている。

今回エル・サルヴァドルにわが国の公使館が開設せられたので、これを中心として中米諸国とわが国との政治的、経済的関係がさらに強化されるものと思われる。

カリブ海沿岸諸国

キューバ、ドミニカ共和国、コロンビア、ハイティ等の諸国とわが国との政治経済関係は漸次緊密化されているが、通商貿易を拡大する余地はなお十分にあるので、わが国としては今後ともこの点一層努力する必要が痛感される。

これら諸国のうち、とくにドミニカ共和国はわが国に対して好意的であり、わが国からの移住者は良好な環境と条件との下に円滑に定着営農を進めており、その実績は同国官民からも高く評価されているので、今後の送出に多大の期待が寄せられている。最近同国大統領と皇太子殿下との間に両国の最高勲章の贈答が行われたことは両国の関係を如実に示す証左というべきである。

キューバについてはわが国は同国との友好関係増進の見地から、本年一月一日に成立した同国の新政府を一月九日に承認した。

またヴェネズエラには民間レベルの経済調査団の派遣もあり、同国の好況と相俟つてわが国中小企業の進出、技術協力の可能性は今後相当あるものと認められる。

ブラジル、アルゼンティンおよびその他の南米太平洋岸諸国

ブラジルはラテン・アメリカ諸国中第一の大国としてわが国との関係も極めて密接であり、とくに通商貿易、企業提携、移住等の面で極めて重要な地位を占めている。

同国は戦前および戦後を通じ、わが国移住者受入国の大宗であり、現在日系人は四十万余に達しているが、これらはいずれもブラジル社会によく同化融和し、その勤勉と誠実とが高く評価されている。昨年六月十八日は日本人ブラジル移住五十周年記念日であり、その前後に盛大な祭典行事が行われたが、この機会に三笠宮、同妃両殿下がブラジル政府の国賓として招待せられたことは特筆に価すべく、また同国よりルーカス・ロペス開発銀行総裁(現大蔵大臣)がわが政府の賓客として来日したこと、同じくわが国国会の招待により日系二世田村議員を団長とするブラジル国会議員が来訪(これに対しわが国国会議員団もブラジル国会の招待を受けて同国を訪問した)したこと等により両国の親善関係はさらに増進されたものと認められる。

昨年五月アルゼンティン大統領就任式典にはわが国より吉野信次参議院議員を特派大使として同国に派遣参列せしめたが、同国経済の安定とも相俟ち、今後わが国との経済関係が緊密化し、移住の枠も拡大されるだろうと期待されている。

ウルグァイ、パラグァイの両国も伝統的にわが国に友好的であり、とくにパラグァイはわが国の移住者送出先国として最近注目されている。同国とわが国との間には造船借款および移住協定も近く調印されることとなつており、今後わが国よりの移住の発展が有望視されている。昨年八月同国の大統領就任式典にはわが国より鶴見祐輔参議院議員を特派大使として派遣し、両国の友好関係の増進に資せしめた。

ペルー、チリおよびその他の太平洋岸諸国

ペルーに関しては、さきに三笠宮、同妃両殿下が同国国賓として訪問された他、アンデス学術調査団の派遣等もあり、両国の友好親善の実を挙げている。経済面においてもわが国より同国に対して鉱物資源調査団が派遣される等、同国との経済技術協力の実現について検討が進められている。

チリとわが国とは戦前から極めて強固な友好関係にあるが、とくに最近は企業提携の面を通じて経済関係も漸次緊密の度を加えており、貿易量も増加の傾向にある。

ボリヴィア、エクアドルはわが国からの移住者の受入れ中小企業の導入を歓迎しているので、今後さらにこれらを推進すべき段階にある。

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2 ラテン・アメリカ諸国との経済協力(企業進出と技術協力)

ラテン・アメリカ諸国は尨大な未開発資源を包蔵しながら、その人口は比較的少く、しかも政情はおおむね安定している等の点で、現世紀のフロンティアとも称すべき地域であるが、主として農鉱業に依存する産業の単一性、経済の後進性から脱却するため、現在ラテン・アメリカ諸国はいずれもその産業の多角化、工業化、経済開発等の諸計画を立案し、その実現に邁進しつゝある。

しかしながら、これら諸国はいずれも資本と技術との不足に悩んでいるので、経済開発の目的を達成するため広くその門戸を開放し、積極的に外国の資本と技術を導入する方針をとるとともに、できるかぎりこれらを優遇する措置を講じている。

したがつて米国を初め、英、独、仏、白、伊、蘭等の欧米諸国は、競つてこの地域に経済提携の手をさしのべるとともに、資本と技術とによる企業の進出をはかつている。わが国は、これら諸国と比較すれば地理的、距離的なハンディキャップもあり、またラテン・アメリカ諸国との政治的、文化的な結び付きも欧米諸国ほど密接でないなど多くの潜在的不利があるが、これらを克服して貿易市場の拡大輸出の補完、代替、重要原料資源の確保等をはかるとともに、これらの地域に対して資本と技術とによる経済協力関係を維持し発展せしめる時期が到来している。

このような経済外交を推進するためには、ラテン・アメリカ地域が有する重要性についてわが国官民の認識を一そう高めるとともに、他面相手国政府ないし民間から有力者をわが国に招へいし、わが国の経済力ないし工業技術水準等についての啓発を行つて、わが国に対する親近感を培うことが重要である。

ラテン・アメリカ地域に対するわが国の企業進出ないし経済提携事業としてすでに実現をみたものとしては、メキシコにおける豊田自動織機(紡織機、ミシン等の製造)、同和鉱業(銅・水銀の採掘)、三星調帯(工業用ベルトの製造)、エル・サルヴァドルにおける呉羽紡績(綿紡織)、チリにおける、◎日本鉱業(銅の採掘)、日本冷蔵(漁撈)、アルゼンティンにおける日本毛織(毛紡績)、大洋漁業(漁撈)、◎日本水産(漁撈)、ブラジルにおけるミナス製鉄所(製鉄)、◎石川島重工(造船)、◎トヨタ自動車(ジープ製造)、東洋紡(綿紡織)、鐘紡(綿紡)、倉敷紡(毛紡)、パイロット万年筆(インク製造)、海外機械興発(機械の修理、部品、ボルト・ナットの製造)、豊和工業(紡織機、同部品、各種鋳造品の製造)、丸栄(陶器)、味の素(味の素の包装・販売)、ヤンマー・ディーゼル(ディーゼル・エンジンの輸入・販売・修理)、◎久保田鉄工(耕運機組立・製造)、ブラジル・ミシン(東綿・西沢ミシン共同、ミシン部品製造)、佐渡島金属(特殊電球製造)、大洋漁業(漁撈)、日本冷蔵(漁撈)、◎大日本紡(繰綿工場の経営)、パシフィック・コンサルタンツ(土木設計技術の提供)があり、また現在計画進行中で実現確実のものとしては、チリの三菱鉱業・三菱商事共同(鉄鉱石の開発)が挙げられるが、これらの他、現在なお話合いの段階にあるものは相当件数に上つている。(◎印は昨年中に実現したもの)

わが国の技術協力としては、アルゼンティン、ペルー、チリおよびメキシコから各一名の鉱工業関係の技術研修生をわが国に受入れ、公私の機関施設において四カ月間の実地研修を行わしめるとともに、国内の産業視察を行わしめた。またブラジルに対しては近く水利灌漑の専門家一名を派遣し、農業土木の指導とコンサルタントとしての活動を行わしめることとなつている(右受入および派遣の実施委託機関は後述のラテン・アメリカ協会である)。この種の技術協力は一般にわが国企業の進出、貿易の伸張、移住の促進等に多くの効果を挙げうると認められるので、今後漸次その規模を拡大して行くべきものと思われる。

このような企業進出、技術協力等を活発に推進するためには、政府の対ラ米外交活動を一層積極化する必要があることはもちろんであるが、同時にまた広く一般の支持と協力とに俟つところが多いことにかんがみ、昨年六月対ラ米民間外交の中枢機関として政府と表裏一体の活動をなすべき「ラテン・アメリカ協会」を設立せしめた。

同協会は、従前のラテン・アメリカ中央会を母体とし各界各層の支援の下に足立正氏を会長として発足したものであるが、政府としては同協会に対し物心両面にわたりできるかぎりの援助を行い、ラテン・アメリカに対する経済、文化、技術の交流、企業の進出、経済提携等の促進およびラ米事情の調査、研究、宣伝、啓発等の諸事業を積極的に推進させる方針である。

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