(二) 科学面の国際協力

1 原子力平和利用に関する国際協力

昨年度は、原子力平和利用を目的とする国際協力の分野において、わが国が大きな発展をとげた年であつた。

 米英との原子力一般協定の締結

わが国における原子力平和利用の研究は、一九五五年に締結されたアメリカとの間のいわゆる原子力平和利用研究協定によつて国際協力への端緒を開いた。

しかしながらその後における国内体制の整備、研究の発展、エネルギー事情の見通しにともなう原子力発電の開発の要請等から国際協力の分野を拡大する必要が生ずるに至つたため、米英両国との間に交渉を行つた結果、昨年六月十六日ワシントンおよびロンドンにおいてそれぞれ日米、日英原子力一般協定の署名をみた。

両協定は、共に、原子力の平和利用、とくに原子力発電の開発を促進するための日米および日英両国間の協力関係を規定したものであり、これによつて、米英両国との間の公開情報の交換、設備、資材(原子炉、燃料等)の入手、技術援助の提供等が可能となるものである。

両協定は、わが国会の承認を経て昨十二月五日発効した。

 国際原子力機関(IAEA)との協力

米英両国との協力と平行し、わが国は国際原子力機関(本部はウィーン)発足以来、二十三カ国よりなる理事国の一として、引続き同機関の育成強化に努めてきた。(「わが外交の近況」第二号三四頁参照。)

とくに昨年九月、機関の第二回総会に際し、わが国は他国にさきがけて、一九六〇年春東海村に建設される予定の国産第一号研究用原子炉のための燃料用として天然ウラン三トンを機関から購入する要請を行つたが、またこれに伴い、機関憲章がその重要な任務の一と定めている原子力物質の平和利用確保のための保障措置を実施すべき手続および機構を速やかに整備するよう提案した。

右天然ウラン購入の要請は、目下機関理事会において審議中であるが、この要請は、機関による原子力物質の供給の先例をつくるものとして、関係方面の注目するところとなつている。

 第二回国連原子力平和利用国際会議

昨年九月ジュネーヴで開催された第二回国連原子力平和利用国際会議は、一九五五年の第一回会議以後三年間における世界の原子力発電、核融合反応その他の分野における急速かつ飛躍的な進歩を反映し、七十カ国の科学者専門家等約七千名の出席をみ、また学術論文二千百余篇が提出されるなど、未曽有の一大国際学術会議となつた。

わが国も五十四篇の論文の提出および湯川秀樹博士を首席代表とする学者、専門家、実業家等五十二名に上る政府表団を派遣して、同会議に積極的に参加し、海外の最新知識の摂取に努めるとともに、わが国における研究成果を発表し、原子力の平和利用を目的とする国際協力と研究開発の推進の上に極めて有意義な成果を収めた。

 国連科学委員会

放射能が人間とその環境に及ぼす影響を科学的に調査するため、一九五五年十二月国連第十回総会の決議に基き、十五カ国からなる国連科学委員会が設置された。わが国もその構成国の一員として、一九五六年三月以来昨年六月まで前後五回にわたる同委員会の会議に専門の科学者を派遣し、各国から提出された放射能の影響に関する多数の資料を基礎として行われた純科学的討議に終始積極的に参加した。

同委員会の国連総会に対する報告は昨年八月公表されたが、わが国が提出した二十二篇の資料の大部分は、その科学的価値を認められて同報告のなかに収録された。

同報告は、その結論において、人間集団への放射線照射を最少限に止めるため、一方において原子力の平和利用から生ずる放射線の不必要な照射を避けるとともに、他方核爆発による環境の汚染を停止する措置が必要であることを説き、核兵器実験停止への有力な科学的根拠を提供した。

しかしながら、放射能の影響については学術的に未知の分野が多く残されているので、同委員会は右報告の提出後も引続きその任務をし継続、その機能を強化拡大する必要が認められた。この結果、昨年十二月国連第十三回総会は、わが国を含む十二カ国の共同提案にかかる「同委員会の有益な事業を継続する」という趣旨の決議案を全会一致で採択した。

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2 南極に関する国際会議の準備

わが国はさきに国際地球観測年に関連して南極観測に参加すべく「宗谷」を派遣しており、また南極問題を国際連合総会に提議することに賛成であるとの態度を表明してきたが、昨年五月二日、在京マッカーサー米国大使は、藤山外務大臣に対して要旨左のとおりの書簡を送付越した。

(一) 国際地球観測年は一九五八年を以つて終了するが、この意議深い国際的科学協力の継続を確保するために、同観測年の南極観測に参加している諸国間に合意が成立することが望ましい。

(二) 右の合意は不必要な政治的軋礫等を避けるのに有用であろう。

(三) 米国政府は、南極に関する米国の一切の権利を留保する。

(四) 前述の合意は、次のような目的を有する条約とすることが望ましい。

(a) あらゆる国家の国民、団体および政府による南極地域における科学的調査の自由および現在国際地球観測年において成功裡に行われている国際的な科学協力の継続。

(b) 南極を平和的目的のみに利用することを確保する国際的合意。

(c) 国連憲章に矛盾しないその他の平和的目的。

(五) 右条約において、いかなる参加国も、南極に対する権利あるいは請求権を放棄する必要はなく、協定の有効期間中、右の諸権利はいかなる変更も加えられず、またいかなる新しい権利も取得されないようにすることができる。

(六) 右の目的のために、米国政府は同意される場所において近く招集される会議に日本政府が参加するよう要請する。

右の書簡は、昨年三月末以来、米国政府が関係国政府(南極に領有権を主張している英、豪、ニュー・ジーランド、フランス、ノールウェー、アルゼンティンおよびチリーならびにIGYの南極観測に参加したソ連、南阿、ベルギーおよび日本)と行つていた協議の結果に基き、右の諸国に対し本件会議への正式招集を行つたものである。右書簡に対して、わが国は五月八日、同会議の趣旨に賛成し、これに参加する旨を回答した。

右会議招請に対しては、わが国以外の関係各国も参加を受諾する旨米国政府に通告したので、来るべき南極会議の時期、場所、手続および条約の大綱等について非公式に話し合うため、六月以降ワシントンにおいて同地駐在の各国外交代表レベルで予備会議が始められ、昨年末現在、引続き定期的に会合して話合いが進められている。

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