○日本国とソヴイエト社会主義共和国連邦との間の通商に関する条約

日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間の貿易関係の発展を促進することを希望して、また、千九百五十六年十月十九日に署名された日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言の規定に従つて行動して、同共同宣言7に予想される通商に関する条約を締結することに決定し、よつて、このためそれぞれの全権委員を任命した。

日本国

  特命全権公使 広瀬節男

ソヴィエト社会主義共和国連邦

  ソヴィエト社会主義共和国連邦外国貿易次官  イヴァン・フョードロヴィチ・セミチャストノフ

これらの全権委員は、その全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次のとおり協定した。

第一条

両締約国は、その貿易、海運その他の通商の関係を安定したかつ友好的な基礎の上に置くため、それぞれの国の関係法令の範囲内において、すべての可能な努力をするものとする。

第二条

各締約国は、他方の締約国の産品の自国への輸入及び自国の産品の他方の締約国への輸出に関するすべての種類の関税及び課徴金並びに通関手続及びその他の規則について、他方の締約国に対し、最恵国待遇を与えるものとする。

第三条

いずれの一方の締約国の産品も、一又は二以上の第三国の領域の通過輸送の後にも、他方の締約国の領域への輸入に際しては、それらの産品が当該一方の締約国の領域から直接輸入された場合に課される関税又は課徴金より高い関税又は課徴金を課されないものとする。

この規定は、第三国の領域の通過の際に積替、再包装及び倉庫における保管を経た産品にも適用される。

第四条

各締約国は、すべての内国税その他すべての種類の内国課徴金に関するすべての事項について、並びにその締約国の領域内における輸入産品の国内販売、販売のための提供、購入、分配又は使用に関するすべての法令及び要件について、他方の締約国の産品に無条件の最恵国待遇を与えるものとする。

第五条

各締約国は、一時的にその領域に持ち込まれ、かつ、その領域から持ち出される他方の締約国の次の物品に対し、現行の国内法令に従つて、関税及び課徴金の免除について最恵国待遇を与えるものとする。

(a) 商品見本

(b) 試験用及び実験用の物品

(c) 展覧会、共進会及び見本市に出品される物品

(d) 組立工が設備の組立及び取付のために用いる器具

(e) 加工され、若しくは修理される物品又は加工若しくは修理の材料となる物品

(f) 輸出され、又は輸入される商品の容器

第六条

この条約の第二条から第五条までに規定されている事項についての特典、軽減、特権又は免除で、いずれか一方の締約国が第三国を原産地とする産品又は第三国の領域への輸出に向けられる産品に対して与えているか、又は将来与えることのあるものは、他方の締約国の領域を原産地とする同様の産品又は同領域への輸出に向けられる同様の産品に対しても与えられるものとする。

第七柔

いずれの一方の締約国も、いずれかの産品の他方の締約国の領域からの輸入又は同領域への輸出の禁止又は制限で、同様の産品のすべての第三国の領域からの輸入又は同領域への輸出に対して同様に課していないものを課してはならない。ただし、対外財政状態及び国際収支を擁護するため類似の事情においてすべての国に対し適用される輸入制限又は為替制限を除く。

第八条

いずれの一方の締約国の商船も、第三国の商船と同様の限度においてかつ同様の条件で、他方の締約国のすべての港及び領水に出入し、及びそこに停泊する権利を有するものとする。

いずれの一方の締約国の商船並びにその乗組員、旅客及び積荷も、他方の締約国の港及び領水において、積込及び積卸に関し、国家若しくは地方公共団体その他の公共団体の名義により又はそれらの利益のために徴収されるすべての種類の誤徴金及び手数料に関し、港及び停泊地における係留並びに積込及び積卸の場所の提供に関し、燃料、潤滑油、水及び食糧の補給に関し、水先人の役務、信号及び水路標示のための燈火の使用に関し、起重機、びよう地、倉庫、ドック、乾ドック及び修理工場の使用に関し、衛生手続及び検疫手続を含む規則及び手続の適用に関し、並びに海運に関するその他のすべての事項に関し、第三国の商船並びにその乗組員、旅客及び積荷に与えられる待遇より不利でない待遇を当該地方の締約国により与えられるものとする。

各締約国は、また、自国の港及び領水における税関、管理その他に関する手続について、他方の締約国の商船及びその積荷に対し、第三国の商船及びその積荷に与える待遇より不利でない待遇を与えるものとする。

いずれか一方の締約国の国旗を掲げる船舶で、船舶の国籍の証明のためその締約国の法令により要求される書類を備えているものは、他方の締約国によつて、当該一方の締約国の船舶と認められるものとする。

いずれか一方の締約国が発給し、又は承認したその締約国の船舶積量測度証書その他の船舶の積量測度に関する技術的船舶書類は、他方の締約国によつて承認されるものとする。したがつて、正当に発給された積量に関する証書を備えているいずれか一方の締約国の船舶は、他方の締約国の港において再び積量の測度を受けることを免除され、その証書に記載されている積量は、港湾における課徴金及び手数料の計算の基礎となる。

第九条

前条の規定は、沿岸貿易には適用されない。ただし、いずれか一方の締約国の商船が、他方の締約国の法令に従つて、国外から輸送する積荷の全部若しくは一部を積み卸し、又は国外向けの積荷の全部若しくは一部を積み込むため、当該他方の締約国の一の港から他の港へ航行することは、前記の沿岸貿易とはみなされないものとする。

第十条

いずれか一方の締約国の船舶が他方の締約国の沿岸において遭難し、又は難破した場合には、その船泊及び積荷は、当該他方の締約国が内国船舶及びその積荷に対して与えると同様の特典及び免除を享有するものとする。特に、船長、乗組員及び旅客並びに船舶自体及びその積荷に対しては、いつでも、内国船舶の場合と同様の限度において、必要な援助及び協力が与えられるものとする。

遭難し、又は難破した船舶から救い上げられた物品は、それらの物品が国内消費に向けられない限り、いかなる関税をも課せられないことが合意される。

第十一条

ソヴィエト社会主義共和国連邦の法律によれば同国における外国貿易の独占権が国家に属しているので、日本国は、ソヴィエト社会主義共和国連邦がその通商代表部を日本国に設置することに同意する。その代表部の法的地位は、この条約の不可分の一部をなす附属書の規定によつて定められる。

第十二条

日本国民及び日本国における現行の法令に従つて設立された法人は、ソヴィエト社会主義共和国連邦における現行の法令の規定する条件に基いて、直接に、又はその指定する代理人を通じて、ソヴィエト社会主義共和国連邦の領域内で経済活動を行うときは、身体及び財産の保護に関し、第三国の国民及び法人に与えられる待遇と同じ待遇を法令に従つて享有するものとする。

ソヴィエト社会主義共和国連邦の国民及びソヴィエト社会主義共和国連邦における現行の法令に従つて設立されたソヴィエト社会主義共和国連邦の経済団体その他の法人は、日本国における現行の法令の規定する条件に基いて、直接に、又はその指定する代理人を通じて、日本国の領域内で経済活動を行うときは、身体及び財産の保護に関し、第三国の国民及び法人に与えられる待遇と同じ待遇を法令に従つて享有するものとする。

この条にいう各締約国の国民及び法人は、第三国の国民及び法人と同一の基礎において、他方の締約国の裁判所の裁判を受けることができる。

第十三条

この条約のいかなる規定も、いずれか一方の締約国がその重大な安全上の利益の保護を目的とするいかなる措置をも執ることを妨げるものと解してはならない。

第十四条

両締約国は、一方日本国の法人及び自然人と他方ソヴィエト社会主義共和国連邦の外国貿易団体との間で締結される商事契約から、又はそれらの契約に関連して生ずることのある紛争に関する仲裁判断を執行する義務を負う。ただし、この場合には、仲裁による前記の紛争の解決が、契約自体に、又は妥当な形式で作成された別個の約定に規定されていなければならない。

仲裁判断の執行は、次の場合に拒否することができる。

(a) 仲裁判断が、その判断がされた国の法律により確定判決としての効力を生ずるに至らない場合

(b) 仲裁判断が、その判断の執行が求められる国の法律によつて許さない行為を当事者に義務づける場合

(c) 仲裁判断が、その判断の執行が求められる国の公の秩序に反する場合

仲裁判断は、その執行が求められる国の法律の定める条件に従つて執行されるものとする。

締結された商事契約から、又はそれらに関連して生ずる紛争の仲裁への付託についての合意は、締約国の裁判所への訴訟の提起を排除する。

第十五条

この条約は、批准されなければならない。批准書の交換は、できる限りすみやかにモスクワで行われるものとする。この条約は、批准書の交換の日に効力を生じ、五年の期間効力を有する。

この条約は、いずれの一方の締約国も前記の期間の満了前六箇月にその廃棄についての自国の意思を文書によつて通告しない場合には、いずれか一方の締約国がこの条約の廃棄についての意思を他方の締約国に対して通告する日から起算して六箇月が満了するまで引き続き効力を有する。

以上の証拠として、両締約国の全権委員は、この条約に署名調印した。

千九百五十七年十二月六日に東京で、ひとしく正文である日本語及びロシア語によりそれぞれ本書二通を作成した。

広瀬節男

I・セミチャャトノフ

日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の通商に関する条約の附属書

在日本国ソヴィエト社会主義共和国連邦通商代表部の法的地位について

第一条

在日本国ソヴィエト社会主義共和国連邦通商代表部は、次の業務を遂行する。

(a) 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の貿易を容易にし、かつ、助長すること。

(b) 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の貿易の分野において、日本国におけるソヴィエト社会主義共和国連邦の利益を代表すること。

(c) 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の貿易取引に関し、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のため必要な措置を執ること。

(d) ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の名において、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の貿易を行うこと。

第二条

通商代表部は、在日本国ソヴィエト社会主義共和国連邦大使館の構成部分とする。

通商代表部の事務所は、東京都港区麻布新龍土町十二番地に置かれ、外交使節団の事務所に対し認められる免除及び特権を享有するものとする。通商代表部の事務所は、日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の合意によつて、他の場所へ移転することができる。

通商代表部は、日本国政府の事前の同意を得て、その支部を他の都市に設置することができる。

通商代表部は、暗号を使用することができる。

通商代表部は、商業登記に関する規則の適用を受けない。

通商代表部及びその二名の代理は、外交使節団の構成員に与えられるすべての免除及び特権を享有する。

通商代表部の勤務員の数は、両政府が合意する範囲内の数とする。

ソヴィエト社会主義共和国連邦の国民であつて、通商代表部の勤務員として日本国へ派遣された同勤務員であるものは、前条に掲げる業務の遂行に対してソヴィエト社会主義共和国連邦政府から受ける給与については、日本国の税を課せられないものとする。

第三条

通商代表部は、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の名において行動する。

ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、通商代表部の名において日本国において締結され、又は保証されたすべての商事契約で、そのために委任を受けた二名の者によつて署名されたものに対して責任を負う。

通商代表部は、前記の委任を受けた者の氏名及びそのおのおのが通商代表部の名において行う商事的証書の署名に関する権限の範囲を日本国政府に通報するものとし、日本国政府は、この氏名及び権限の範囲を日本国の官報に公示するものとする。これらの者の権限は、それが終了した旨の通報が同じ方法により公示されるまで継続するものとみなされる。

ソヴィエト社会主義共和国連邦の法令により独立した法人の権利を享有するソヴィエト社会主義共和国連邦のいずれかの団体が通商代表部の保証なしで締結するいかなる商事契約も、当該団体のみを拘束するものであり、その商事契約についての強制執行は、当該団体の財産に対してのみ行うことができるものであることが了解される。ソヴィエト社会主義共和国連邦政府も、通商代表部も、また、当該契約の当事者以外のいかなるソヴィエト社会主義共和国連邦の団体も、これらの契約に対する責任を負わない。

第四条

通商代表部は、次の場合を除き、第二条の規定に基く免除及び特権を享有する。

日本国の領域において前条第二項の規定に従つて通商代表部が締結し、又は保証した商事契約に関する紛争は、仲裁又は他の裁判管轄に関する留保がない限り、日本国の裁判所の管轄に属し、かつ、当該契約の条項又は日本国の法令に別段の定がない限り、日本国の法令に従つて解決されるものとする。ただし、通商代表部に対する保全処分は、行われない。

前項にいう紛争について提起されることのある訴訟に関して行われる裁判所の手続においては、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、通商代表及びその二名の代理のために第二条に掲げる免除及び特権を援用しないものとし、かつ、前項の規定によつて日本国の裁判所に提起されることのある訴訟について日本国の裁判所がその訴訟に関する手続を進行させることができるように、通商代表に対し又は通商代表に事故がある場合はその二名の代理のいずれかに対し自国を代表する権限を与えなければならない。

通商代表部が当事者である契約に関連する裁判所のすべての裁判の強制執行は、日本国におけるソヴィエト社会主義共和国連邦のすべての国有の財産、特に、通商代表部によつて、又はその保証のもとになされた取引から生ずる財産、権利及び利益に対して行うことができる。ただし、通商代表部によつて保障された契約の当事者でない前条第四項に掲げる団体に属するものを除く。

日本国においてソヴィエト社会主義共和国連邦政府の外交的又は領事的事務を国際慣行に従つて行うためにのみ充てられる財産及び土地建物並びに通商代表部の占める土地建物及びその中にある動産は、いかなる強制執行の措置をも受けないものとする。

第五条

通商代表部の設置は、商事契約の締結及び実施のため日本国の法人及び自然人がソヴィエト社会主義共和国連邦の外国貿易団体と直接の関係を有する権利をなんら害するものではない。

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