ガット第十二回総会 |
ガット第十二回総会
-欧州経済共同体条約の審議を含む-
ガット第十二回総会は昨年十月十七日から十一月三十日までの間ジュネーヴで開催され、わが国からは河野経済企画庁長官、松本外務政務次官、奥村在スイス大使、河崎在ジュネーヴ代表部公使の四名の代表以下からなる代表団が参加した。
こんどの総会では、年来の懸案であつた閣僚レベルの会議が初めて行われたほか、重要議題として欧州経済共同体設立条約の検討があり、わが国に特に関係の深い問題としては、対日ガット第三十五条援用問題、わが国の行つている輸入制限についての協議があつた。また、正式の議題ではなかつたが、従来ジュネーヴのみで行われていたガット総会を、次回は東京で開催しようという議が起り、本年四月の会期間委員会で検討することとなつた。
閣僚会議
閣僚会議は十月二十八日から三十日まで四回の会合を行つたが、河野代表は、最近の世界貿易の動向に関連して、ガットの直面する諸問題について、特に左の諸点を強調した。
(イ) 最近多くの国に生じた国際収支の不均衡、特にドル不足の問題が国際貿易の縮少をもたらさないために、とくに債権国が輸入を増大する方策をとることが望ましいこと。
(ロ) 欧州経済共同体がガットの精神および規定に沿うものとなることを確保するために必要な措置を総会がとるこ
と。
(ハ) わが国に対する三十五条援用国が速やかに援用撤回の措置をとること。
欧州経済共同体条約問題
(一) ベルギー、フランス、西独、イタリア、ルクセンブルグ、オランダの六カ国が、昨年三月二十五日署名したローマ条約は、本年一月一日発効した。この条約は十二年ないし十五年の過渡期間を経て六カ国間の関税同盟(内部では関税を廃止し、第三国に対しては共通関税を設定する)の形成を規定しているが、ガットでは、一般に関税同盟が第三国との貿易に対する障害の引上げとならないように、一定の条件を課している。ローマ条約がガットの規定に合致したものであるかどうかについて問題となるべき点として次の四点がある。
(1) ガットは、関税同盟の関税が全体として同盟結成前の同盟構成諸国の関税よりも高いものであつてはならないと定めているが、ローマ条約の対外共通税率設定方式はこの規定に合致しているかどうか。
(2) 輸入制限について、ローマ条約では共通の輸入クオータを設定することを認めているが、これは国際収支上の理由ある場合に限り輸入制限を行いうると規定しているガット第十二条違反でないかどうか。
(3) ローマ条約は農産物貿易について、経過期間において最低価格制度および長期買付契約を実施し、共同体成立後は共同組織を設立することとしているが、これは域外諸国との貿易についてガットの規定に合致しない結果とならないかどうか。
(4) 六カ国とその海外領土が、ガットの規定する自由貿易地域の関係になると規定されているが、果してその要件をみたしているか、特恵地域の拡大とならないかどうか。
(二) こんどの総会でわが国は、わが国を含む第三国に重大な影響を与えるこの条約が、ガットに反しないものとなることを確保するため、実質的な審議を行うべきことを強く主張し、多数国の賛同を得て、審議のための委員会を設けさせることになつた。この委員会は、十一月四日から討議を開始し、関税、輸入制限、農産物および海外領土の四つの小委員会にわけて、合計三十数回の会議で条約を詳細に検討した結果、(1) ローマ条約の関係規定がガットの規定に牴触しているかどうかを現在決定することはできない。(2) 共同体のガットに及ぼす影響の重大性にかんがみ、継続的な協力関係の樹立が必要であるとの趣旨の報告を作成した。この委員会および総会本会議はこの結論を了承し、ローマ条約の審議を引続き会期間委員会で行うことを決定した。
対日ガット第三十五条援用問題
(一) わが国が昭和三十年九月ガットに加入したさい、わが方の事前工作にもかかわらず第三十五条を援用してわが国との関係でガットの規定する関税、輸入制限等に関する無差別待遇の原則の適用を拒否した国は、英、仏、オランダ、インドなど十四カ国に及んだ。
そのご政府は、これら諸国が有する日本品氾濫の危倶は、根拠のないものであることおよび、かりにそのような事態が生じたとしても、それはガットの枠内で解決できるものであることを理解させることに努めて来た。しかし昨年八月新関税法の実施に伴つて三十五条の援用を撤回したブラジルを除き、未だに他の十三カ国の援用は撤回されていない。こんどの総会でガーナおよびマラヤが、その独立に伴つて、旧本国であるイギリスの三十五条援用の法的地位を自動的に継承したので、形式的には援用国は十五カ国に増したが、地域的には従来と差異があるわけではない。なお、援用国中オーストラリアとインドとについては、別記の通商協定交渉を通じ、近き将来三十五条援用撤回への道が開かれたことは前述の通りである。
(二) この問題の審議に当り、わが代表は、援用国が速やかに援用撤回の措置をとること、三十五条問題がガット全体の問題であることにかんがみ、次期総会の議題にとどめられることおよびそれまでの間にこの問題解決のためあらゆる努力が払われることを希望した。これに対し、非援用各国代表からは早期撤回実現を希望する旨を発言、次期総会の議題とすることが決定された。
(三) なお、欧州経済共同体は関税同盟となるので、同盟結成後は単一の共通関税をわが国を含むガット締約国に適用すべきであり、かつ共同体が一体としてガット締約国と関税交渉を行う建前となつているので、わが国がガット関係にある独、伊との関係から一体としての共同体と関税交渉を行うことにより、フランスおよびベネルックスの対日三十五条の援用は自然消滅すべき筋合となる。こんどの総会で、わが代表からこの趣旨を説明したところ、ベルギー代表は将来共同体の機関がこの問題を検討するさいには、共同体のある加盟国(独、伊の意味)が日本に対して有するガット上の義務を考慮すると思う旨、暗にわが方の主張を認めた如き発言を行つた。
(四) わが国の行つている輸入制限についての協議
こんどの総会で、他の諸国と同様、わが国も現在実施している輸入制限について一般的な協議を受け、そのさい最も問題となることが予想された三十二年度下期の外貨予算の規模の縮少について、これを輸入制限強化ではなく、国内財政金融政策の結果にすぎない旨の説明を行つた。これに対し主要国いずれもわが国が正統的経済政策を採用していることを賞讃し、わが方の説明を了としたので、協議においてなんら困難な問題は起らなかつた。