東西貿易および対共産圏輸出統制問題

1 中共貿易

一九五六年の対中共貿易は輸出六七、三三九千ドル、輸入八三、六四七千ドル(大蔵省通関統計、以下すべて通関統計による)と、輸出入とも戦後最高の実績を示すとともに、輸出が同年下半期に異常に伸長して輸出入の差が少くなつたことが注目された。

ところが一九五七年上半期の統計は輸出二八、八四四千ドル、輸入四四、三七九千ドルといぜん前年同期と比べれば輸出入とも若干の増加をみせたが、前年下半期にみられた輸出の激増の傾向はおとろえるにいたり、下半期になると輸出入とも前年同期にくらべて減少し、けつきょく昨年一-十一月合計で輸出五〇、四六八ドル、輸入七五、二五六八ドルと前年同期にくらべて若干ながら減退を余儀なくされた。

このような減退の理由としては一昨年秋いらい盛んとなつたセメント、農薬、農機具等の大口輸出契約が見られなくなつたこと、繊維製品等の輸出減および米、塩、カシミヤ等の輸入減があげられる。

なお昨年の日中貿易が一昨年の実績を下廻つたのは、第四次日中民間貿易協定交渉が成立せず、無協定空白状態となつていることに由来するとの見方がある。たしかに昨年下半期以降、中共側は無協定を理由に個々の取引において検査、支払条件、仲裁等の各条項を契約書に明記することを要求し、また、船積期限、信用状開設の遅延にはペナルテイを課す等厳しい態度をとり、ために若干取引に円滑を欠いているのは事実である。けれども日中貿易の伸長率の鈍化は、前述のようにすでに第三次協定が有効であつた昨年上半期からみられる現象であつて、その原因を協定不成立のみに帰することは妥当ではないと考えられる。

第四次日中民間協定交渉は北京で昨年九月二十一日から日本側「中国訪問日本通商使節団」と中共側代表との間で開始され、一カ月以上にわたつて交渉が繰返された。その結果決済については両国為替銀行間にコルレス契約(勘定設定および貸越しを認めず、決済は現行通りロンドンで英ポンドで行う。)を締結することは、また商品分類および貿易総額については、現行の甲乙丙三分類を甲乙二分類に改め、片道三五百万ポンドとすることに合意をみた。

しかしながら通商代表部の人員問題につき双方の主張は最後まで対立したため、協定成立にいたらず、日本側代表団員中の国会議員が臨時国会に出席するため帰国しなければならなかつた事情もあつて、十一月一日交渉は一たん休止され、双方代表団は共同声明に調印したのみで、日本側代表団は北京を引上げた。

その後、日本側の協定交渉団体である日中輸出入組合、日本国際貿易促進協会を始め、関係業界は可及的速かに協定交渉を再開するよう強調しており、政府としても日中貿易拡大の見地から交渉再開の速かなことを念願しているが、現在まで再開にいたつていない。

昨年の日中貿易は、前述のように縮少傾向を示した。しかしそのなかにもこんごの日中貿易拡大の可能性は宿されていた。すなわち中共の原材料輸入需要は増大し、前年と比較して鋼材および無機工業薬品の輸出増加が目立ち、また全般にサンプル輸出が目立つて増えている。このサンプル輸出が本年から始まる中共経済の第二次五カ年計画に基く資本財の対外発注と関連して本格的な取引きにまで発展してゆけば、わが国経済にとつて不可欠な石炭、鉄鉱石、大豆、塩等の見返り輸入の増大と相まつて、日中貿易は今後かなり伸長するものと考えられる。

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2 対ソ連・東欧諸国貿易

対ソ連貿易

戦後の日ソ貿易は両国間に長い間国交がなく、貿易に関する取極等もなかつたために、一九五〇年まで連合国総司令部の管理下に行われた政府間貿易の時代に、やや活況を呈したほかは、全体として極めて低調のまま推移した。

しかし、一九五七年、ことに下半期に入つてからは、通商交渉開始の機運を反映して、両国間の取引きは著しく活発となつた。すなわち、通関統計によれば、同年一月-十一月までの貿易実績は一七、七一〇千ドル(日本の輸出六、一六〇千ドル、輸入一一、五五〇千ドル)に達し、五百万ドル程度に過ぎなかつた前年の貿易実績に比較すると相当大巾に増加した。なお、主な取引品目は、輸出では人絹糸、機械用ベルト、ボールベアリング、圧延鋼板等、輸入では、石炭、木材、クローム鉱等である。

一九五七年十二月六日、後述の日ソ間通商に関する条約および日ソ間貿易および支払に関する協定が署名され、後者は即日発効をみた。この条約および協定の締結により日ソ貿易は正常な軌道に乗つたわけであるが、特にこの協定により取引き方式については従来の窮屈なバーター方式が廃止され、現金片道決済方式が採用されることになつた。従つて取引きは従来にくらべ著しく容易となつたので、こんごの両国間貿易は前記の趨勢とも相まつて一そう増大することが予想される。また貿易支払協定に付属する品目表には、従来取引き経験のない若干の新品目が加えられた。

対東欧諸国貿易

わが国の対東欧諸国貿易は、わが国が主として加里塩を輸入している東独を除いては、一般的に、相互に競合品目が多いこと、わが方の希望する物資が相手国に極めて少いこと、および遠距離であるため相互に価格が割高となること等によつて、差当り大きな発展を期待しえない。

もつとも、ポーランドおよびチェッコスロヴァキアについては、国交回復に伴い近く通商交渉を行うこととなつており、こんごこれら両国との貿易関係は従来よりも緊密になるものと予想される。なお、一九五七年十月には、民間貿易調査団がポーランドに派遣され、同国の貿易事情を調査したが、外務省からも関係官一名を之に並行して派遣し政府の立場から検討を行つた。

ちなみに、一九五七年一月-十一月における貿易額は、対ポーランド二、九九〇千ドル(主要輸出品は毛糸、酸化チタン、主要輸入品は麦芽)、対チェッコ二、八○○千ドル(主要輸出品は鯨油、主要輸入品は麦芽)、対東独三、八三〇千ドル(主要輸出品は綿糸、主要輸入品は加里)となつているが、他の東欧諸国の貿易額はいうに足りないほど僅少なものである。

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3 対共産圏輸出統制問題

ココム参加国の大多数が中共向け戦略物資輸出統制を東欧・ソ連圏向け統制と同じ水準まで緩和した結果、ココムは、従来中共には輸出が禁止されていたが東欧・ソ連圏に対しては一定数量を限つて輸出の認められていた品目(以下数量統制品目と略称する)について、中共向けにも輸出の認められる数量を決定する必要が生じた。

そこで昨年七月十六日からココム参加国間でこの数量決定に関し審議が行われたが、わが国は、この審議において、中国大陸がわが国にとつて伝統的に重要な市場であることを力説して、数量統制品目中対中共輸出につき特にわが国として関心のある品目につき十分な数量がわが国に割当てられるよう努めた。その結果、わが方として一応満足すべき割当をうけることに成功した。

かくて昨年中には従来中共向けに輸出を禁止されていたベアリング、ニッケル、ステインレス・スティール等につき相当量同地域に対して輸出することができた。

本年(一九五八年)分共産圏向け数量割当に関するココムの審議は、昨年十月から開始され、まず中共を含めて全共産圏向け一本の数量割当方式をとることを決定した後、品目別の審議にはいり、数回の審議を経て数量統制品目のすべてにつき合意に達した。この審議においてもわが国は種々努力した結果、所期以上の割当量を獲得することができた。

なお、昨年末から本年初めにかけて、ココムはベアリングの統制緩和について討議を行つた後、大巾な統制緩和を行うことにつき合意が成立したので、ベアリングのわが国からの共産圏向け輸出はこんごかなり増加することが期待される。

昨年七月十六日政府は中共向け輸出統制を東欧・ソ連向け統制と同一水準にまで緩和するとともに、この緩和に伴つて中共向けに輸出可能となつた品目を発表し、また引続き数量統制品目および禁輸品目をも発表した。この発表前にも共産圏向け輸出統制品目は輸出貿易管理令別表に掲載されていたが、同別表は戦略物資ばかりでなく国内需給上などの理由から仕向け地のいかんを問わず輸出統制を受ける品目をも含み、いずれの品目が戦略物資という理由で共産圏向けに輸出が統制されているのか明確でなかつた。従つてこの発表によつてはじめて共産圏向け輸出統制品目の全貌が明らかにされたわけである。

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