対米貿易の諸問題 |
一九五七年におけるわが国の対米貿易は、輸入の増加が輸出の伸びをはるかに上廻つたため、六億ドルにのぼる著しい不均衡を示した。すなわち輸入はほとんどすべての品目について増加し、特にくず鉄および綿花の輸入は前年の二倍以上にのぼつたが、これは主として、同年上期のわが国鉱工業生産活動の増大に伴う需要を反映したものと思われる。他方輸出は前年に比べ約一割増加したにとどまり、輸入の増加率をはるかに下廻つたが、対米輸出の大宗である繊維品の輸出額が前年を下廻つたことは特に注目される。これは主として米国の景気が停滞気味であつたことと、わが方が米側の輸入制限運動を勘案しつつオーダリー・マーケティングを念頭において輸出していることに基因するものと考えられる。
昨年の米国の輸入制限運動はますます活発化の方向をたどつた。他方わが国の全般的外貨事情は昨年後半に入つて悪化の傾向が顕著となつた。従って対米貿易に関する当面の重要課題は、輸入制限運動に対処して、制限措置の実施をいかにして阻止するか、および外貨事情緩和の一助として米国からの必要物資の輸入についていかにして外貨金融を確保するかにあつた。
一九五七年四月相ついで互恵通商協定法に基く関税引上調査申請のあつた金属洋食器および洋傘骨については、万一輸入制限が実施された場合、関係業界のうける打撃は著しく大きいので、関係業界では同年七月関税委員会が開催した公聴会で弁護士をして、その意向を陳述させるとともに、政府としても現地公館を通じ極力わが方事情の説明に努めてきた。ところが一九五八年一月両品目ともその輸入増加が米国産業に重大な被害を与えているとの理由で、関税委員会は大巾な関税引上の勧告を大統領に提出した。昨年この問題がおきるやわが方関係業界ではいち早く極力秩序ある輸出を行うよう努めており、この勧告はわが方として納得し難いものであるが、万一このような大巾の関税引上が行われることとなれば、わが関係業界は重大な打撃を受けることとなるので、政府は業界とも協力してこの勧告が実現しないよう米政府の善処方を要望している。
他方昨年の米国第八十五議会第一会期には、初めから一般的輸入制限法案、合板輸入制限法案をはじめ多数の輸入制限法案が提出され、さらに会期末には冷凍およびかん詰鮪、手袋類その他各種商品に関する輸入制限法案が提出されたが、いずれも審議未了となつた。しかしながら、これらの法案はすべてさる一月再開の第八十五議会(第二会期)に持越され、しかも今年は互恵通商協定法の再延長をめぐつて議会内外における米国保護貿易論者の動きはますます活発化しているので、わが政府および業界の内外における努力にもかかわらず、これら輸入制限運動の前途については楽観を許さない。
昨年もダンピング容疑、意匠盗用、不正輸入、米国独禁法違反等のため問題となつた日本商品は相当数にのぼり、政府としても極力問題の円満な解決につとめてきたが、関係者が米国の関係法規を充分理解しないために、このような問題を生じた例もあり、こんごはこのような不必要な摩擦を生じないよう措置することが望ましい。こんご対米輸出の増加とともに米国内の輸入制限運動はますます楽観を許さない事情となるものと予想されるので、わが方としても長期的な対米輸出振興の観点から従来にも増して国内体制の整備に十分つとめるとともに、米国市場の調査、業界動向の把握、対米啓発等を通じて輸入制限運動の防止に努めることが肝要と思われる。
当面の外貨事情緩和の一助としてワシントン輸出入銀行からの借款を行うよう検討をかさね、昭和三十二年中ごろ岸首相渡米のさい輸出入銀行当局と農産物受入れに関する短期借款に関する話し合いが行われた。この結果、同年六月二十八日、借款限度総額一億七千五百万ドル(綿花輸入引当分一億一千万ドル、穀類輸入引当分六千五百万ドル)の中期借款(綿花については十二カ月、穀類については九カ月、金利は一律に年四分五厘)について日米双方に原則的了解が成立した。そのご事務的折衝を経て昭和三十二年八月十六日、ワシントンで一億一千五百万ドルの分についてワシントン輸出入銀行と日本銀行との間に借款契約が調印され、残りの綿花引当分六千万ドルの分についても同九月二十七日同様に調印が行われた。
この借款のうち綿花の分は従来の綿花借款を継続したものであるが、農産物の借款は前例のないもので、これらは相まつて、外貨事情の緩和と必要物資の確保に役立つ効果をもたらした。
昭和三十二年七月末外貨事情の悪化およびわが国の麦の不作等にかんがみ米国政府と余剰農産物協定を締結し、小麦、大麦、棉花(総額四七・三百万ドル)の買付を行うことについて米政府と交渉を行つたが、諸般の情勢上、米国の本年度分売却枠内で協定を締結することは著しく困難と認めらるにいたつたので、この交渉を打切つた。