貿易支払取極関係 |
日華間の貿易関係は一九五三年六月十三日署名された貿易取極および支払取極とそれにもとづいて一年ベーシスで採択される貿易計画によつて運営されている。一九五七年度の貿易計画策定のための日華貿易会議は、昨年二月二十日から東京で開催されたが、会談は台湾米買付量と粗糖輸入価格問題で難航し、六カ月の長期に及んだ。しかしけつきょく米十五万トンをトン当りFOB一四七ドルで買付けること、砂糖の価格については国際価格にスライドする方式で決定することに話し合いがきまり、新計画は八月三十一日に署名された。
新貿易計画は輸出入それぞれ九二・六百万ドルで前年度計画にくらべ片道一六・五百万ドルの増額となつている。主な貿易品目についてみると、わが国の輸出品は肥料二二百万ドル、鉄道車輌、船舶一〇百万ドル、機械一〇百万ドル、鉄鋼製品一〇百万ドル等で、輸入品は粗糖四〇百万ドル、米二三百万ドル、塩二百万ドル、バナナ四・五百万ドル等である。
一九五七年一月から十二月までの貿易実績は、わが国の輸出七七・二百万ドル、輸入六三・九百万ドルで、差引一三・三百万ドルのわが国の出超となつている。主な品目についてみると、輸出品は肥料二二・二百万ドル、鉄鋼製品一一百万ドル、機械八・二百万ドル、電気関係品四・七百万ドル等で、輸入品は砂糖三四・六百万ドル、米一七百万ドル、塩一・三百万ドル、バナナ三・五百万ドル等となつている。
なお、一九五八年度貿易計画策定のための日華貿易会議は、三月上旬頃から台北で行う予定である。
昭和三十二年二月二十六日調印された日英貿易取極(前号一〇〇頁-一〇三頁参照)の有効期間は当初三十一年十月から三十二年九月末までとなつていたが、昨年七月はじめ英側からこの取極を六カ月単純延長したい旨の申し出があつた。わが方としても前回五カ月を要して締結された貿易取極が事実上未だ半年も運営ざれていないという事実にかんがみ、原則としてこの英側の提案に異議はなかつたが、国内の需給関係からみて、アセトン等若干品目の輸入を削減せざるを得ない一方、さけ、ます罐詰について輸出増加の要望が強かつたので、必要最少限度の修正を加えることとし、八月以降数回にわたり東京で英側と折衝を続けた。その結果、十月十八日旧取極の延長ならびに一部修正に関する書簡を英側との間に交換した。
この書簡で合意に達した内容は大要つぎのとおりである。
(1) 旧取極を本年三月末まで六カ月間延長して適用することとする。
(2) 輸出入額については、適用期間が一年から一年半に延長されたのに伴い原則として旧取極の数字を五〇パーセント増額することとするが、
(イ) わが国の輸入については、磨き板ガラス、組立用乗用車、アセトンおよびカーボン・ブロックの四品目につき輸入枠を削減し、これに代るものとしてアスベスト・ヤーン、繊維助剤等十数品目の輸入枠を増加する。
(ロ) わが国の輸出については、さけ、ます罐詰について若干輸出の増加がみとめられ、その分だけまぐろ罐詰の輸出枠が減額される。
(3) 以上の輸出入品目を含めたわが国の英本国に対する輸出額は、年率にして二八百万ポンド、輸入額は三二百万ポンド、英植民地に対する輸出額は一四〇百万ポンド、輸入額は六九百万ポンド程度となる見とおしである。
日本・パキスタン両国間の貿易取極のための会談は、昭和三十二年六月十二日から三カ月間にわたりカラチにおいて行われ、九月七日新貿易取極が調印された。
この取極の有効期間は、同年七月から本年六月末までである。
交渉の背景
前回の貿易取極は昭和三十一年四月一日から発効し、昨年三月末で終了したが、この間の両国の貿易実績をみると、わが国の著しい入超となつている。すなわちわが方の対パ輸入一七・三百万ポンドにくらべ、対パ輸出はわずか五・九百万ポンドにすぎず、その差額は実に一一・四百万ポンドとなり、わが国ポンド保有高激減の一大要因となつた。
このような対パ貿易尻の入超は、パ国紡績産業の最近の発展により、わが国からの綿糸布の輸出がとまり、また鉄鋼製品についても、わが国国内価格の値上りにより対パ輸出が伸びず、さらに機械類の輸出も西欧諸国との競争が激しく繊維機械のほかなんら輸出のみるべきものがなかつたのに反し、わが国のパ綿輸入が引続き高水準を保つたことによるものである。
従つてこのような貿易の現状を打破し、他方経済協力を通じてパ国の最も必要とする産業機械の輸出増加をはかり、莫大な入超傾向を是正するとともに貿易の拡大をはかることがわが方の対パ交渉の目標であつた。
交渉の経緯
ところがパ国の経済情勢は逼迫した外貨事情の下で産業開発五カ年計画を遂行せねばならないため、対日輸入増加の保証を与えることは不可能となり、他方、わが方も外貨事情の急激な悪化のため全般的に輸入を抑制する必要を生じ、パ国よりの主要輸入品である綿花の外貨割当を前年に比し削減せざるをえない事情にあつた。
従つて交渉の当初パ側は僅かの手持外貨を最も有効に活用して広く各国から良品を安価に輸入するため、従来の対日個別輸入ライセンスを全廃あるいは制限したいとの態度を明らかにした。これに対しわが方は前年度にくらべ外貨事情が悪化している旨を述べ、対パ入超是正の必要と、日パ双方の貿易拡大のための保証のとりつけに努力した結果、双方の歩みよりにより、パ国はわが国のパ綿買付に見合う対日輸入の保証を与え、わが国はパ国の経済開発計画に協力し、パ国はわが国からの資本財の買付けに好意的考慮を払う旨の取極が成立したのである。
交渉の背景
戦後におけるわが国とビルマとの貿易関係は、一九五〇年三月連合軍司令部が日本を代表してビルマ政府と締結した日緬貿易協定により、日本はビルマから主として米を、ビルマは日本から主として繊維品と機械類を輸入して、貿易が再開された。そのご一九五二年四月、サンフランシスコ平和条約発効に伴いこの協定は失効することになつたので、同年四月三十日にこれを暫定延長する旨の書簡が、両国政府代表間に交換された。ついで一九五三年十二月八日新たに日本・ビルマ貿易取極(有効期間四カ年)が締結され、前記協定はこれによつて置き換えられた。
この取極は両国間の貿易を極力拡大させることを目的として両国は相互に輸入許可の発給ならびに相手国人の入国、居住および相手国船舶に対し国内法に従いできるだけの便宜を供与することとしたほか、わが国はビルマに対し技術援助に関しできる限り便宜を供与することを規定したものであるが、米の長期売買取極もこの貿易取極の一部をなしており、わが国としては長期取極の締結によつて有利な条件による安定した米の供給確保を期したものである。
右貿易取極締結いらい両国間の貿易は輸出入ともに逐年増加し(輸出入額の合計は、一九五一年一四・三百万ポンドに対し五六年二三・二百万ポンド、五七年(一-十一月)二五・○百万ポンド)貿易の拡大を趣旨とした取極の目的は概ね達成された。
交渉の経緯
前記日本・ビルマ貿易取極の有効期間は昭和三十二年十二月末で終了した。しかしこの取極の延長または新取極の締結については、その終了の一カ月前に両国間で協議することになつていたので、昭和三十二年十二月十日から二十日まで東京で両国代表の間に交渉が行われた結果、取りあえずこの取極の有効期間を昭和三十三年一月一日から同年十二月三十一日まで一カ年間延長することとし、十二月二十日外務省でわが方代表牛場経済局長とビルマ側代表ウ・バ・サン貿易次官との間にこれに関する書簡の交換が行われた。そのさい昭和三十三年度のビルマ米の売買については、別途合意されるとの了解が成立し、これに基き十二月二十一日小倉食糧庁長官とウ・バ・サン次官との間にビルマ米五万トンの売買取極が締結された。
なおこんどの交渉では両国間通商上の懸案問題である日本繊維製品の対ビルマ輸出価格および輸出方式の問題、ビルマ雑豆の輸入問題についても討議が行われ、いずれも満足すべき了解が成立した。
日仏貿易交渉は三十一年六月十八日からパリで行われていたが、昨年十一月十五日新日仏貿易取極が署名され即日発効した。この取極の有効期間は一年間である。なお二十四年六月九日の旧貿易取極は同日をもつて廃止された。
交渉の背景
戦後におけるわが国とフランス(海外領域を含む)との貿易は、わが方の輸出が年間二千万ドル程度に止まるに反し、輸入面では、わが方がカリ塩(アルザス)、りん鉱石(マカテア)、ニッケル鉱石(ニューカレドニア)の必需原料を買付けているので、年々四百万ドルから二千五百万ドルの入超となつている。この入超は貿易構造上ある程度止むを得ないとはいえ、わが方の輸出が伸びないのは、フランスがわが国に対しガット三十五条を援用し、実際上も厳しい対日輸入制限を行い、かつ、生糸、絹織物、茶などフランスに産しないか若しくはフランスが輸入を望む二十一品目を除き、他の一切の日本品に最高関税(最低の三倍)を課していたことによるもので、対仏輸出の増進はこのような対日輸入制限の緩和如何にかかつていた。
交渉の経緯
わが方は、対日輸入制限の緩和を目的として相互に無差別待遇を与え得る品目の範囲をできるだけ拡大する方針で、交渉に臨んだ。原料品については、比較的早く原則として相互に無差別待遇を与えることに意見が一致し、フランスは生糸、茶等二十九品目の無制限輸入許可を認めたが、完成品の取扱いおよび日本品に対する適用税率について合意をみるにいたらず、三十一年八月、一旦交渉を中断した。
わが方としては、ガット三十五条を援用するフランスに対し、非援用国との均衡上大きな譲歩を与え得ないので、両国間の貿易は小規模であつても、まず合意に達した点から出発して漸次拡大する新方針で同年十月より交渉を再開した。その後フランスは取極に掲上される日本品に対し最低関税を適用することに同意し、交渉は一進展をみせたが、完成品の取扱いについて妥結を見るに至らなかつたところ、昨年六月、フランスは国際収支の悪化により貿易自由化を停止するという新事態を生じたため交渉は再び停滞した。しかしフランスは七月に貿易自由化停止の期間中原料品など一四四品目についてグローバル輸入方式を採用し、わが方輸出原料二十九品目の大部分がこのグローバル輸入方式にきんてんすることになつたので、わが方もこれを了承し、完成品についても双方の譲歩により合意が成立したので署名の運びとなつた次第である。
取極の効果
今回の貿易取極は日仏双方にとつて必ずしも満足すべきものではない。しかしフランスが、(イ)取極に基いて輸入される日本品に対して最低関税の適用を認めたこと、(ロ)一部日本品に対し実質的に輸入自由化を認めたこと、は対日輸入制限緩和の第一歩として重要な意義を有するものである。他方わが国はフランス産品についてスターリング地域原産品と同様の待遇を与えることとなつたので、この取極を基礎として、今後の両国間貿易の発展が期待される。
交渉の経緯
この交渉は、日ソの通商に関する条約締結のための交渉と同時に、同じ交渉者によつて行われた。この協定は、この条約と同日、すなわち昨年十二月六日に署名され、署名と同時に発効した。
協定の内容
この協定は、九カ条からなり、日ソそれぞれの輸出品を記載した品目表が附属している。有効期間は一年であるが、廃棄手続に従つて廃棄されない場合は、一年を単位として毎年延長され、品目表も、この延長される一年に対応するものが、毎年両国の協議によつて作成されることになつている。
内容としては、第一条で、両国政府は、附属品目表に掲げる商品の輸出入の許可を行うことを規定し、第二条では、品目表に示された数量または金額は、両国間で取引される商品の量の見積りであることを規定している。すなわち、品目表の主な商品には、数量または金額が記載されているけれども、その数量または金額は拘束的なものでなく、両国政府は、輸出についても輸入についても、なんら義務を負うものではない。第二条では、さらにこの数量または金額を超えるもの、または品目表に掲げられていない商品の取引も両国の輸出入、外国為替管理に関する法令に従つて行うことが制限されない旨規定されているほか、例外的な場合に求償取引も行い得ることを示している。
第三条は、輸出入の許可は、輸出入、外国為替管理に関する法令に従つて、商事契約に基いて行われることを規定している。第四条は、両国間のすべての支払は、振替可能な英ポンドで行うことを規定している。第五条ないし第八条には、両国政府間の協定運営の協議に関する事項、商品輸送を容易にするための努力規定、仲裁機関利用の奨励が規定されている。
なお、付属の品目表に記載されている主要取引品目としては、ソ連の対日輸出品として木材、石炭、マンガン鉱、クローム鉱、石油、白金、パラジウム、すず、カリ塩、石綿、化学製品、繊維原料、産業機械等があり、わが国の対ソ輸出品としては、船舶、鉄道車輛、起重装置、繊維機械設備、内燃機関、電気機械設備、電気通信機械設備、魚類加工およびかん詰設備、鉄鋼、非鉄金属、ケーブル、繊糸、化学製品等がある。
協定の意義
この協定の特徴は、わが国の貿易自由化の考え方にしたがい、英ポンドによる片道現金決済を採用していることと、貿易の数量または金額は、貿易の量の見積りとして、制限的なものでも拘束的なものでもない点にある。そもそも戦後の日ソ間の貿易は、一昨年末までは国交も回復していなかつた事情もあり、貿易方式もバーター取引という窮屈な方法により行われていたため、その貿易額は僅少であつた。それが、この協定の成立によつて輸出入物資を見合わせるバーター方式を廃し、輸出または輸入を単独に行い得ることとなつたので、今後、両国間の貿易は、かなり増大するものと思われる。
戦後の両国間の貿易および支払関係は、一九四八年以降清算勘定方式に基いて行われて来たが、貿易自由化の原則に従い一九五六年四月十六日以降現金決済方式とする旨の貿易取極が同月九日に署名された。
この取極の有効期間は、旧清算勘定の残高処理および同勘定の閉鎖に必要な期間を見込んで一九五七年十二月末日までとなつていたが、一九五八年一月一日以降もこの取極とほとんど同一内容を含む現金決済方式による貿易取極を締結することについて両国政府間に意見の一致を見、一九五七年十二月二十八日にその署名が行われた。新取極の有効期間は一年間で、その後は三カ月前の廃棄通告のない限り、自動的に一カ年ずつ延長されることになつている。
アルゼンティンは一九五六年三月、わが国および西欧諸国に対して、従来の清算勘定方式による協定貿易の廃止を提案した。わが国はこのアルゼンティン側提案をいれ、同年三月三十日、日ア貿易および支払協定の清算勘定を通ずる輸出入取引を締切るとともに前記清算勘定の整理ならびに振替可能ポンドによる新決済方式に関する日ア間暫定取極を同年九月八日ブェノスアイレスで妥結した。
この日ア間暫定取極は、多角決済方式に関するアルゼンティンと英、仏、独、伊等西欧諸国との個別的な協定成立後、正式協定に改められることになつていたが、これら欧州諸国との諸協定が一九五七年十一月二十五日調印されたので、前記日ア暫定取極を正式取極とする交渉も、同年十二月二十日ブエノスアイレスで開始された。この交渉は現在継続中である。
ブラジルとの現行貿易および支払両取極は、一九五五年三月のブラジル側廃棄通告によって同年六月末に失効したが、新協定締結までの間の無協定状態を避けるため、これまで六回公文交換を行い、本年六月末まで現行取極の規定を事実上適用する措置をとつている。
新通商協定の交渉については、ブラジル側の関税法改正ならびにこれに伴う為替貿易制度の改正が行われることとなつたので、再三延期され、一九五七年八月新関税法の制定実施後、ようやく本年二月から関税改正に伴うガット関税交渉が開始されることとなり、この妥結後に新通商協定交渉に入る予定である。