ラテン・アメリカ関係 |
メキシコおよび中米諸国
メキシコとわが国とは歴史的に伝統的に強い友好関係にあるが、経済的関係も漸次密接の度合を深めており、同国の最近の経済的発展にかんがみ、わが国からの企業提携は有望視せられている。同国はまたわが国の文化に対し強い憧憬の念を抱いており、メキシコ市に建設せられた日墨会館は彼我両国の政治、経済、文化関係の紐帯の強化に多大の役割を果すものと期待される。
他の中米諸国も、わが国との関係は極めて友好的であるが、今後中米諸国に対してはなお一そう力を注ぎ、通商貿易関係の拡大強化をはかるべき時期にきている。パナマにはこんど独立の公使館が開設せられたので同国との関係も一そう緊密化するものと思われる。
カリブ海沿岸諸国
キューバ、ドミニカ共和国、コロンビア、ハイティ等の諸国との政治、経済関係は、漸次緊密化を加えているが、通商貿易の拡大によるドル・ドライブ市場(外貨獲得源)として今後さらに一そう努力する必要が痛感せられる。
これら諸国のうちドミニカ共和国はとくにわが国に対し好意的であり、一昨年はじめてわが国の移住者を受け入れていらい、その後数回にわたり送出せられたが、良好な環境と条件との下に定着も進み、同国民からも高く評価せられており、今後の送出に多大の期待が寄せられている。ヴェネズエラには昨年試験的に数家族導入せられたが、中小企業および技術移住者送出の可能性は相当あるものと認められる。
ブラジル、アルゼンティンおよびその他の南米大西洋岸諸国
ブラジルはラテン・アメリカ諸国中第一の大国としてわが国との関係も極めて密接であり、通商貿易、企業提携、移住等において、同国のわが国に対する重要性の比重は極めて大である。
同国は戦前からわが国移住者受入国としての大宗であり、戦後もわが国移住者が最も多く導入せられた地域で、現在日系人四十万余に達している。本年はブラジル入植満五十周年に当り六月十八日を期して現地で盛大な記念事業を行う計画があるので、政府としてはこれを機会に同国に親善使節団を派遣するとともに、事業計画に対しても可能な限り賛助する方針で進んでいる。
アルゼンティンとの貿易は、オープン勘定廃止後はやや不振に陥つているが、政情も安定し、経済状態も立直りかけているので、今後の増大が期待される。同国に対しても昨年集団移住が始めて認められた。
ウルグァイ、パラグァイも伝統的にわが国に友好的であり、パラグァイについては移住者送出先国として最近注目せられている。
ペルー、チリおよびその他の太平洋岸諸国
ペルーは戦後わが国民の入国に関し種々制限を設けていたが、プラード大統領就任後はこれらの制限も逐次緩和せられるにいたり、経済関係の緊密化も促進せられるものと期待されている。同国の未開発鉱物資源は極めて豊富なので、同国を含むアンデス地帯の資源調査および開発に伴う技術協力につき検討が進められている。
チリとは戦前から極めて強固な友好関係にあるが、最近経済関係も漸次密接の度を加え、貿易量も増加しており、企業提携も漸次活発化している。
ボリヴィア、エクアドルはわが国からの移住者の受入れや中小企業の導入を歓迎しているので、今後さらに推進すべき段階にある。
ラテン・アメリカは膨大な未開発資源を擁し、人口は比較的少く、政情も概ね安定しており、現世紀のフロンティアとも称し得べき地域であり、各国はいずれもその産業の単一性、経済の後進性から脱却するため、産業の多角化、工業化、経済開発等の諸計画を立案し、その実現に邁進している。
しかしラテン・アメリカ諸国はいずれも資本と技術との不足を訴えており、経済開発の目的達成のために門戸を開放し、積極的に外国から資本、技術を導入する方針をとるとともに、できる限りこれを優遇する措置を講じている。
そこで米国を始め、英、独、仏、白、伊、蘭等の欧米諸国は競つてこの地域に経済提携の手をさしのべるとともに、企業の進出をはかつているが、わが国としても地理的、距離的ハンディキャップあるいは政治的、文化的に欧米諸国ほど結び付きが密接でない等の幾多の潜在的不利を克服して、貿易市場の拡大、輸出の増進、原料資源の確保をはかるとともに、投資利益獲得を目的としてこれら地域に資本と技術とによる経済協力関係を維持発展させる時期にきている。
このような経済外交推進のためには、わが国に対するラテン・アメリカ地域の重要性についての官民の認識を一そう高めるとともに、相手国からも政府あるいは民間の有力者を招へいして、わが国経済の実情、工業水準等につき啓発を行う必要がある。
この意味で昨年七月渋沢敬三氏を移動大使に任命し、ニカ月にわたりラテン・アメリカ諸国を巡回視察のため派遣し、通商貿易の拡大、企業提携の促進等に関するラテン・アメリカ経済外交の総合的施策確立に資したことは、極めて有意義であつたと認められる。
企業進出および経済提携事業中すでに実現をみたもの、あるいは現在計画進行中で実現確実のものとしては、メキシコにおける豊田自動織機(自動織機、紡機、鋳鍛造品の製造)、同和鉱業(銅の採掘)、三星調帯(工業用ベルトの製造)、呉羽紡(綿紡織)、エル・サルバドルにおける呉羽紡(綿紡織)、チリにおける日本鉱業(銅の採掘)、三菱鉱業(鉄鉱石採掘)、日本冷蔵(漁撈)、アルゼンティンにおける日本毛織(毛紡績)、大洋漁業(漁撈)、日本水産(漁業)、ブラジルにおけるミナス製鉄所(製鉄)、石川島重工(造船)、トヨタ自動車(ジープ製造)、東洋紡(綿紡織)、鐘紡(綿紡織)、倉敷紡(毛紡)、パイロット万年筆(インク製造)、横浜紙器(段ボール製造)、海外機械興発(機械の修理、部品製造)、豊和興業、日本スピンドル、東洋紡三社の共同(自動織機、紡機の製造)、丸栄(陶器製造)、ヤンマー・ディーゼル(ディーゼルの輸入、販売、修理)、日本冷蔵(漁撈)、大洋漁業(漁撈)、久保田鉄工(農機具製造)、日商(搾油)、東綿、西沢ミシン二社の共同(ミシン部品製造)、佐渡島金属(特殊電球の製造)等があり、その他話合いまたは打診中のものは相当件数にのぼつている。
さらに企業進出、経済提携を強力に推進するためには、外交活動を活発に展開する必要があるところ、最近の外交は政府ばかりでなく広く民間一般の協力と支持とにまつところが多いことにかんがみ、政府と表裏一体となつて対ラテン・アメリカ民間外交を活発に展開する目的で、ラテン・アメリカ中央会を一昨年六月再発足させた。しかし、資金面の関係もあり、未だ必ずしも十分な活動を行い得なかつたので、中南米地域のわが国に対する重要性が一段と高まりつつある今日の実情に照らし、昨年六月本会の組織、機構を拡充強化し、ラテン・アメリカに対する経済、文化、技術の交流、企業の進出、経済提携、調査研究、啓発等の諸事業を積極的かつ強力に推進させることとした。