北米関係

1 安全保障に関する日米委員会

日本の安全保障の問題は昨年六月岸総理訪米のさい米国首脳部との会談で最も重要な討議の対象となつた。

この委員会は当時の日米共同声明に明らかにされているように、岸総理と米政府首脳部との会談に基き設置されるにいたつたもので、共同声明はこの委員会の任務を大要次の諸事項として規定している。(イ)在日米軍の配備および使用について実行可能なときはいつでも協議することを含め、安全保障条約に関して生ずる問題を検討すること、(ロ)安全保障条約に基いてとられるすべての措置が、国際連合憲章の原則に合致することを確保するため協議すること、および(ハ)現在の安全保障条約は暫定的なものであり、安全保障の分野における日米両国の関係を両国の国民の必要および願望に適合するように調整すること。

日米両政府首脳部間にこのような合意が見られたのは、日本側から現在の安全保障条約が今日まで日本防衛のため重要な寄与をなして来た反面、同条約に関しては種々の問題があり、また国民感情に沿わぬ点もあることを指摘し、率直な意見交換が行われた結果である。つまり前述の(イ)および(ロ)の通り現存条約の実施面で日本の自主権を尊重し、日米間に広汎な分野における協議を行うことによつて、その改善を期すること、および現存条約の暫定性を明らかにして安全保障についての両国の関係を防衛の必要性および国民感情に沿うよう今後調整をはかることに見解の一致を見たものである。

昨年六月二十一日の日米共同声明中この委員会に関する部分は左の通りである。

「日米両国間の安全保障に関する現行の諸取極について討議が行われた。合衆国によるその軍隊の日本における配備および使用について実行可能なときはいつでも協議することを含めて、安全保障条約に関して生ずる問題を検討するために政府間の委員会を設置することに意見が一致した。同委員会は、また、安全保障条約に基いて執られるすべての措置が国際連合憲章の原則に合致することを確保するため協議を行う。大統領および総理大臣は、千九百五十一年の安全保障条約が本質的に暫定的なものとして作成されたものであり、そのままの形で永久に存続することを意図したものではないといら了解を確認した。同委員会は、また、これらの分野における日米両国の関係を両国の国民の必要および願望に適合するように今後調整することを考慮する。」

その後東京において藤山外務大臣とマックァーサー在京米大使との間で、委員会設置の細目について打合せを行つた上、八月六日閣議了解を得て、同日、次のような日米共同発表を行つた。

 安全保障に関する日米委員会設置に関する日米共同発表

さきの日米会談に関する六月二十一日の共同声明において岸総理および米国大統領は政府間委員会を設置することを明らかにしたが、本日日米両政府は右委員会に関し左の通り合意した。

委員会は「安全保障に関する日米委員会」と呼称される。

日本政府側の委員は藤山外務大臣および津島防衛庁長官とし必要に応じ関係大臣も委員として出席する。日本側においては外務大臣が主宰する。

米国政府側の委員は、米国側首席たるマックァーサー駐日米国大使および軍事および防衛事項に関する同大使の主たる顧問たるべきスタンプ太平洋地区総司令官とする。スミス在日米軍司令官はスタンプ大将の代理を務める。

委員会は日米何れかの側の要請があつたときは何時でも会合する。委員会の会合は東京において行われ、所要の準備は外務省および在京米国大使館がこれを行う。

委員会において審議すべき事項は、日米共同声明に言及された左の三点を含むものとする。

(イ) 米国によるその軍隊の日本における配備および使用について実行可能なときはいつでも協議することを含めて、安全保障条約に関して生ずる問題を検討すること。

(ロ) 安全保障条約に基いて執られるすベての措置が国際連合憲章の原則に合致することを確保するため協議すること。

(ハ) これらの分野における日米両国の関係を両国の国民の必要および願望に適合するように今後調整することを考慮すること。

委員会は広く日米間の安全保障問題の背景を成しまたこれに関連する諸事項を審議し、もつて両政府間に相互の理解を深め、安全保障の分野における日米協力体制の強化に資するものとする。

委員会は協議的性格のものとする。委員会審議の結果なんらかの措置を執ることとなつた場合は、両国はそれぞれ通常の手続によりこれを行うこととする。

委員会は近く初会合を行う。

委員会の運営

この委員会は以上のべた経緯からみても明らかな通り、当面日米安全保障条約の実施上生ずる諸問題をできる限り両政府の協議の上で処理するとともに将来情勢の推移と睨み合せ安全保障問題の分野における日米両国の関係を両国民の必要と願望に適合するよう調整して行く見地から設置されたものである。またさらにこの点に関連しダレス国務長官が六月二十五日の記者会見で、「岸総理の訪米は、将来の日米関係についての新しい基礎を樹立した点において非常に重要なものであつた。自分は日米関係に新しい時代が開けたと思う。すなわち米国が一方的に権利を行使するというよりは、協力を基礎とする時代に入つたといえよう」とのべているが、これは安全保障を含む日米関係において、単に条約上の権利義務によつてこれを律することなく、両国が相互の立場を理解かつ尊重し、密接な協議によつてその関係を発展的に軌道におくべきことを示唆したものである。

この委員会はその性質上協議機関である。また前記の通り、安全保障の分野において両国政府のハイ・レヴェルにおける意志の疏通をはかることを目的とするものであるから、その構成、会合、審議事項等は、厳密に規定することなく、極めて弾力性のあるものとしている。すなわちその審議事項についていえば、前記共同発表にあげられた三点のほか、日米間の安全保障問題の背景をなしまたこれに関連する諸事項、たとえば極東の国際軍事情勢とか自衛隊の装備近代化の問題等安全保障に関連した広汎な諸問題を採り上げて行く建前である。

かくて委員会は八月十六日にその第一回会合を開き、ついで九月六日、十一月二十七日、十二月十九日と回を重ねたが、これらの会合において採り上げられた主な問題を例示すれば次の通りである。まず第一回以降の会合で当時進行中の米陸上戦闘部隊の撤退に伴つて生ずべき諸問題、すなわち自衛隊による防衛責任の承継および返還施設引継ぎ、労働需要の減少およびその対策等につき審議した。第三回の会合では、日本地域の海上防衛問題に関し、昨秋来日したバーク米海軍作戦部長の見解を聴取し、さらに日本地域の防空問題に関し、米側から在日米空軍の日本における配備および撤退に関する当面の諸計画を詳説するとともに、わが方から航空自衛隊育成上の諸問題を含めてわが国の防空に対する見解を説明して、日本地域の防空全般に関して討議した。第二回会合では、米太平洋地区総司令官であるスタンプ大将から極東の一般軍事情勢に関し、特に日本の防衛と関連せしめつつその見解を聴取した。また第四回会合では、軍事、科学、技術の進歩に伴う世界の新情勢と、これに対する自由諸国の政策並びにわが国自衛隊の装備近代化の問題につき討議し、特に十二月のNATO会議に関しても米側の提供した材料に基き意見を交換した。

なお委員会設置に関する日米共同声明にあげられた三点の審議事項中の第二、すなわち「安全保障条約に基いてとられるすべての措置が国連憲章の原則に合致することを確保するため協議すること」についても、第二回委員会において検討の上、安保条約と国連憲章との関係を明らかにする趣旨から、安保条約に基いてとられるべきすべての措置は、国連憲章第五十一条、すなわち国連加盟国の個別的または集団的自衛権行使に関する規定に合致しなければならない趣旨を明らかにする公文を九月十四日日米間に交換した。

参考迄に委員会の会合に関する夫々の新聞発表を掲げれば左の通りである。

 安全保障に関する日米委員会第一回会合に関する日米共同発表

(前略)

藤山外務大臣及びマックァーサー大使は、安全保障の分野に於ける諸問題を、両国民の必要と願望に沿つて解決して行くため、日米両政府が此の委員会に期待することが大なる旨を夫々の立場から強調し、両政府が委員会の運営に効果あらしめるため極力努力する意図なる旨を明らかにした。

委員会は次いで運営方法を討議した。委員会は、日米何れかの要請により随時会合することとし、会合の場所は原則として外務省とすることとした。

委員会は米軍の日本撤退に関して生起すべき諸問題に付隔意なき討議を行つた。日本側委員は、今次第一騎兵師団及び第三海兵師団所属部隊の撤退に関する事前の通報を多とする旨を発表した後、米軍撤退に伴つて生ずべき諸問題、例えば自衛隊による撤退部隊の防衛責任の承継、自衛隊による返還施設の引き継ぎ、今後の労働需要の減少等に付詳しく説明した。米国側委員は、此等の問題は十分理解すると述べ、米国側は日本政府と予め協議し、密接に協力して此等の問題の解決に資し度き考えなる旨を明らかにした。次いで委員会は第一騎兵師団と第三海兵師団の撤退計画を検討した。米国側委員は今後共撤収計画に関する詳細な情報を得次第遅滞なく通報する旨を確約した。

 安全保障に関する日米委員会第二回会合に関する日米共同発表

(前略)

藤山外務大臣は、スタンプ大将が初めて本委員会に参加したことに歓迎の意を表し、ハワイに常駐する同大将が今後も都合のつく限り本委員会の会合に出席するよう要望した。スタンプ大将は謝意を表し、今後共出来得る限り出席し度き旨を述べた。

スタンプ大将は、極東の一般軍事情勢に関し、特に日本の防衛と関連せしめつつ概説を行い、引続きこれについての意見交換が行われた。スタンプ大将は更に先般改組された太平洋・極東地域に於ける米軍司令部組織に付詳細説明した。

委員会は次いで安全保障条約に基いて執られる総ての措置が国際連合憲章の原則に合致することを確保する方法に付討議した。

第一回会合に於て議題となつた米軍撤退に伴つて生ずべき諸問題に関し、津島防衛庁長官は、米軍施設の返還の問題に関し、将来の自衛隊の必要との関連に於て更に説明を行つた。米国側よりは、前回の討議の趣旨に従い、更に部隊の撤退及び施設の返還に関する諸計画に付追加的情報を日本側に提供した。

 安全保障に関する日米委員会第三回会合に関する日米共同発表

(前略)

委員会は、前回の会合以来の米軍の撤退状況並びに施設の返還、労務需要減少の一般状況を検討した。藤山外務大臣は特に雇用の削減について、今後とも米国側が日本の労働事情並びに労働慣行を尊重して措置するよう要望した。米国側委員は、事情はよく了解しているところであり、米国側は日本政府当局と協力しつつ、労務者の離職に伴って生ずべき諸問題の解決に努力している旨を述べた。

マックァーサー大使は、先般のバーク作戦部長の来日に言及し、日本地域の海上防衛問題に関する同部長の見解を披露した。

委員会は次いで、日本地域の防空問題を討議した。津島防衛庁長官は、この問題に対する見解を表明し、航空自衛隊育成上の諸問題を説明した。スミス中将は、在日米空軍の日本における配備および撤退に関する当面の諸計画を概説し、日本地域の防空に対する考え方を説明した。さらにスミス中将は米空軍の必要とする施設についてその現況を説明し、今後とも航空自衛隊と米空軍とさらに緊密に協力して施設の効果的な使用を図ることとしたいと述べた。

 安全保障に関する日米委員会第四回会合に関する日米共同発表

(前略)

委員会は、国際情勢の現状、特に最近の科学の進歩ならびにこの分野における自由諸国の潜在力を検討し、さらに科学の発達の影響ならびにこれに処する自由諸国の政策につき討議した。委員会は、最近の事態も自由諸国の立場をなんら根本的に変えるものではないが、自由諸国はその政策につき一層緊密に協議し、調整して行く必要のあることを認めた。

委員会は、現に開会中の北大西洋条約機構会議に関し、米側委員の提供した材料に基き同会議の目的に討議した。

次いで委員会は、極東の軍事情勢に関して討議した。自衛隊の装備の問題も討議され、その近代化促進の方途が検討された。この点に関連し、スタンプ大将は、米国政府は日本政府の要請に応じ、空対空誘導弾サイドワインダーを供与する旨を明らかにし、他の委員はこの誘導弾は自衛隊の防衛力を強化するであろうと述べた。

委員会の終了に先立ち、岸総理も出席して最近の東南アジア旅行について説明した。

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2 在日米軍に関する事項

在日米軍の現在兵力

昨年六月、岸総理訪米のさいの岸・アイゼンハワー共同声明により、在日米軍の逐次撤退特に地上戦闘部隊についてはその全面的、かつ早期撤退の原則が確認された。その結果、昨年中に第一騎兵師団(約一万五千名)第三海兵師団第九連隊(約五千名)陸軍防空部隊(約一万名)、空軍関係兵員(約一万名)が撤退ないし移駐を完了した。

現在、在日米地上軍は、戦闘部隊を保有せず、約一万七千名に縮減された兵員が東京を中心に管理補給の任に当り、海軍関係としては、艦艇若干、艦隊、海兵航空隊および基地部隊等を含む約二万名が横須賀、佐世保、厚木、岩国、追浜等に分散駐留し、第五空軍の主力と空軍関係要員約四万名が三沢、横田、立川、入間川、板付、芦屋等の各地区に駐留している。

従つて、現在日本に駐留する米軍の総数は約七万七千名であり、今後とも日本の防衛力増強に応じさらに減少することが予想される。

在日米軍兵力の変還

 終戦時(一九四五年八月)

1 地上軍  第八軍及び第六軍(約七個軍団、十七個師団)

2 海軍  第三艦隊(航空母艦十七隻、戦艦七隻、巡洋艦二十隻を含む約四〇〇隻)

3 空車  第五空軍(沖縄)、第七空軍(マリアナ)、第十三空軍(フィリピン)

(注) 陸、海、空合計推定約百万人

 朝鮮動乱発生時(一九五〇年六月二十五日)

1 地上軍  第七師団(北海道)、第一騎兵師団(関東)、第二十五師団(関西)、第二十四師団(九州)計四個師団

2 海軍  第七艦隊(空母を旗艦とし、巡洋艦、駆逐艦等約十隻からなる)

3 空軍  極東空軍(約五〇〇機)

 朝鮮休戦協定調印時(一九五三年七月二十七日)

1 地上軍  第一騎兵師団、第三海兵師団、第一八七空挺連隊戦闘団、計二個師団と一個戦闘団

2 海軍  第七艦隊(約二〇〇隻)

3 空軍  極東空軍(約二五〇〇機)

(注) 陸、海、空合計推定約二五万人

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米軍に提供中の施設、区域の現況

米軍に提供された施設、区域の数は漸次減少の傾向にある。昭和三十二年十二月現在の総件数は四一四件で、そのうち主要なるもの(飛行場、演習場、兵舎等)は約八○件にすぎず、その他は米軍事務所、倉庫、住宅、病院等で占められている。

この件数を昨年七月のそれ(約四四〇件)にくらべると、約三〇件の減少であるが、その件数は今年度中にさらに減少するものと予想される。近く解除の予想される施設件数は約六〇件で、そのうち主要なるものとして、北海道八雲飛行場、宮城県王城寺原演習場、東京都羽田飛行場、千葉県豊海射撃場、群馬県相馬ヶ原演習場、愛知県アメリカ村住宅地区、岐阜県岐阜飛行場、京都府宇治演習場、滋賀県饗庭野演習場、兵庫県伊丹飛行場、浜寺公園住宅地区等があげられる。

なお平和条約発効いらいの解除件数は約三二〇件(他に個人住宅六七五件)で、これを提供土地面積について比較すれば、平和条約発効当初は民公有約二億坪、国有約二億一千万坪であつたものが、現在民公有約一億坪、国有約一億二千万坪と半減している。

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相馬ケ原事件の終結

 従来の経緯

昨年一月三十日、相馬ヶ原演習場における米兵の農婦射殺事件に端を発したこの事件は、その後その行為が公務執行中の行為であるかどうか、ひいてはその第一次裁判権が日米いずれに属するかの点について、日米間に意見の一致をみないまま、五月十六日になつて、日米合同委員会において、公務内外の点に関するそれぞれの立場は留保したまま、米軍からこの事件について裁判権を行使しない旨、日本側に通告することに合意を見るにいたつた。

この事件は米国内で海外駐留兵士の地位に関する各国との協定の問題全般にからんで大きな反響を呼び、米国連邦裁判所が前記の措置の有効性を否決するに及んで、日米間に極めて憂慮すべき事態も予想されるにいたつたが、七月十一日になつて、被告米兵の日本側への引渡しを禁じた前記連邦地裁の判決を最高裁判所が破棄するに及び、ようやくこの事件の日本法廷による審理の方向が確定するにいたつたものである。(詳細については第一号五一頁以下参照)

 日本法廷における審理経過

八月二十六日の第一回公判に引きつづき、十数回にわたる公判が前橋地方裁判所において開かれた。その結果十一月十九日、被告に対し懲役三年執行猶予四年の刑が宣告された。この判決に対して控訴するや否やを検察当局は慎重に検討したが、控訴期限切れの十二月三日に及び、最高検察庁は「原判決が"ねらい撃ち"を否定していることは事実誤認であるが、これ以外はほとんどすべての検察官の立証を採用し、これを傷害致死罪にあたるものとして有罪の認定を下していることを考えれば、原判決に破棄を求めなければならないほど重大な事実誤認があるとは即断しがたい。また原判決の量刑はいささか軽すぎるうらみなしとしないが、原判決に以上述べた程度の傷があることを理由としてこのさい控訴しても検察側の希望にそうような判決は必ずしも期待し難いのみならず、これにより相当期間本件を未確定の状態におくことが妥当であるか疑問である」として、この事件につき控訴は行わない旨を発表した。ついで十二月六日被告も横浜から軍用船で帰国の途についたので、ここに十カ月にわたり裁判管轄権をめぐつて日米両国間に紛糾を来たし、内外の関心をあつめたこの事件もようやく終了した。

 判決に対する海外の反響

米国では判決当日の十一月十九日、ダレス国務長官が定例記者会見で「判決は裁判が極めて公平に行われた結果であり、日本の司法制度の優秀性を立証するものと思われる」旨をのべたが、この点については、かつてジラード引渡しに反対した詰紙を含めて全米各紙もひとしく認めている。他方、かつてジラード引渡し反対派急先鋒であつた一部諸紙のうちには、日本の裁判の公平さを認めつつもジラードが公務中であつたが故に、米軍事裁判により審理さるべきであつたとする主張をいぜんとして変えておらず、また同様意見を公表した少数議員のある点は、海外駐留将兵の地位に関する諸外国との取極め自体に対する一部の反感を示すものとして注目に値いする。なお英国でも、国家主義と偏見の興奮に対し、寛容が勝利を得たことはよろこぶべきであるとして、裁判の結果に賛意を表した。

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3 生産性視察団の派米

昭和三十年四月日米両国政府間に生産性向上計画に関する協定が締結され、この計画の重要な事業として、海外諸国との技術交流が行われることになつた。それいらいわが国の諸産業の経営者、技術者、労働者代表等が、米国または西欧諸国に派遣されて、これら諸国の国内諸産業の視察を行つている(第一号五四-五五頁参照)。さらに米国から専門家の招へいが行われ、また技術資料の提供もうけている。わが国のこれら生産性向上計画の実施機関は、昭和三十年三月設立された財団法人日本生産性本部(会長足立正氏)であるが、これらの事業は米国の対日技術援助資金と国内資金(政府および民間)の醵出によつている。

昭和三十二年七月以降生産性本部から米国に派遣したチームは次表のとおり二十チーム二〇四名である。

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4 北太平洋漁業国際委員会

北太平洋におけるわが国の母船式さけ、ます漁業は、一九五四年以降着実な回復振りをみせ、国民の蛋白質源として、また輸出水産物の供給源として、大きな役割を果している。ただわが国は、一九五三年六月に発効した、日、米、加三国の「北太平洋の公海漁業に関する国際条約」により、暫定的に定められた西経百七十五度線以東の水域におけるさけ、ますの漁獲を抑止しているので、わが国母船団の操業は専ら右暫定線の西側で行われている。(第一号五七-五八頁参照)

ところが、近年北米大陸西岸におけるさけ、ますの漁獲量が漸減状態にある事実に対して、これは日本の公海における母船式さけ、ます漁業の結果、北米系のさけ、ます資源が減少しているためであるとの主張が、米側漁業者によつて行われ、一昨年頃からこの漁業委員会でもこの問題に対する米国側の関心が非公式に表明されて来た。

このような事情を背景として、この漁業委員会の第四回定例年次会議は、昨年十月末から十一月にかけて、カナダのヴァンクーヴァーで開催され、米加両国は多数の顧問、専門家を含む有力な代表団を出席させ、会議は例年に無い緊張した空気のうちに開催された。

すでに、この会議に先立つて十月二十八日から開かれていたこの漁業委員会の生物学調査小委員会の席上、米側は、過去三年間の科学的調査研究の結果は、西経百七十五度線の西側から東経百七十五度線あたりに及ぶ広大な水域に、北米系とアジア系のさけ、ますが混交する広汎な水域の存在する事実が、明かになりつつあると述べるとともに、暫定線近接水域における日本側の沖合漁獲が、北米系さけ、ます資源に重大なる影響を与えつつあるとして、これを批判する態度をみせた。

十一月四日の本会議開会式における開会演説のなかで、米側代表は、日本の沖合漁業が北米系のさけ、ます資源ことにブリストル湾のべにざけ資源に重大なる打撃を与えているとのべ、(イ)現在の西経百七十五度暫定抑止線の変更を検討するための特別小委員会の即時設置、(ロ)この暫定抑止線の変更決定に先立つ緊急中間措置として、五八年漁期以前に暫定線の西側で北米系さけ、ますの大量に回遊すると認められる水域におけるさけ、ますの漁獲を全面的に禁止することの二提案を行つた。かくてその後の会議は、この提案をめぐる日米間の意見の応酬を焦点として進められた。日本側は、(イ)北米系とアジア系のさけ、ますが混交する広汎な地域があることは認めるが、これは海流などの海洋条件により年々変化するもので、また暫定線の変更を考慮するに足る十分な科学的資料は得られていないとの立場を堅持しながらも、米側の立場をも考慮し、一応米側提案の暫定線変更を検討する特委小別員会を設置し、一九五八年度年次会議から、その活動を開始せしめることに同意した。しかし、(ロ)暫定線の西側に操業禁止区域を設けるとの中間措置については、条約もこれを規定しておらず、委員会の権限外の問題であるとして、これを委員会の正式議題として討議することを拒否し、カナダもまたわが方の立場を支持し、中間措置については委員会以外の外交経路を通して検討さるべき問題であるとの立場をとつた。

かくて中間措置については、委員会においてなんら結論を得ないままで終つたが、米側漁業者はこれを不満とし、場合によっては日本産水産物の対米輸入制限に訴えても、この措置を実現しようとして政府議会筋に働きかけている。この問題はわが国の北洋さけ、ます漁業に関連する重大問題であるが、日本側としても漁業資源に依存する海洋国家として、北太平洋の漁業資源の合理的保存には重大な関心を有することは勿論のことであるので、条約の規定をはなれても北米系のさけ、ます資源の合理的保護には十分協力するという立場から、日米双方に満足な解決をはかるよう努力中である。

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5 北太平洋のおつとせい保存に関する暫定条約

北太平洋のおつとせいに関する新条約は一九五五年十一月からワシントンで日米加ソ四国間で交渉中であつたところ(第一号五八頁参照)、一九五七年二月になつて、締約国によるおつとせいの海上商業的猟獲の暫定的禁止、年間数千頭の試験的海上猟獲を含むおつとせい資源の科学的調査の実施、蕃殖島を保有する米ソ両国の日加両国に対する陸上捕殺、獣皮の一定比率の配分を骨子とする「北太平洋のおつとせいの保存に関する暫定条約」が署名された。その後米加両国は同年九月十六日、日本は九月二十日、ソ連は十月十四日、いずれも同条約に対する批准を了し、十月十四日をもつて同条約は正式に発効した。

この条約に基き、「北太平洋おつとせい委員会」が設立され、同委員会は毎年一回年次会合を開催し、締約国の科学的調査の作成および調整を議することとなつており、さらに六年後には、この暫定条約の実施の結果を勘案した新しい条約の締結が議せられることとなる。

なお、委員会の第一回年次会合は、本年一月十四日から一週間ワシントンで開催され、わが国からは委員として水産庁西村次長が出席した。

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