各  説

一 国際連合における活動

国際連合第十二回総会における活動

わが国は、第十一回総会においては会期の途中において加盟したので、総会初頭よりの参加は第十二回総会が初めてであつた。従つてわが代表団は、総会の各議題について十分事前の準備をととのえてこれに臨んだ。

こんどの総会でわが国は二つの主要案件の達成を目指した。一つは安全保障理事会非常任理事国の選挙に当選すること、他は軍縮殊に核実験の停止を実現することである。

代表団の構成については、この選挙の運動を容易にするため代表および代表代理の地理的分布にも配意するとともに、藤山外務大臣みずから代表団の首席として総会に出席することとなり、代表団は左の通りの構成を見た。

代表(首席)  藤山愛一郎  外務大臣

〃      松平康東   国連常駐代表

〃      朝海浩一郎  駐米大使

〃      成田勝四郎  駐パキスタン大使

〃      萩原 徹   駐加大使

代表代理   宮崎 章   外務省国際協力局長

〃      藤田たき   日本婦人有権者同盟会長

〃      下田武三   駐米大使館公使

代表代理   井沢 実   駐ポリヴィア公使

             (井沢代表代理帰任後は国連代表部公使柿坪正義が代表代理となつた)

〃      田中三男   在ニューヨーク総領事

藤山首席代表は総会開会劈頭一般討論演説を行い、国連を中心とするわが外交の基本方針および当面の国際情勢に対する基本的態度をせん明し、特に核実験および軍縮問題に対するわが国の強い関心をひれきした(資料篇参照)。同代表はその後一旦帰国したが、十月中旬核実験問題を含む軍縮問題の第一委員会における審議が大詰となるに及び再度渡米し、日本の核実験停止と軍縮交渉促進に関する提案の推進に最大の努力を行つた後十一月一日帰京した。

上述のとおり、わが国が第十二回総会で主要目標としたのは、安全保障理事会への当選と軍縮および核実験停止の実現にあつたが、総会が取扱つた地域紛争の諸問題についても、連帯的安全保障の見地から、わが代表は熱意ある積極的貢献をした。

国連総会では従来米英を中心とする自由国家群は、共産圏諸国の反対にもかかわらず、総会における重要問題について、その決議のために必要な票数つまり三分の二を容易に確保し得たのであるが、最近の新加盟国特にアジア・アフリカ地域諸国の増加により、A・A地域諸国はたとえその全部が意見の一致を見ずとも、その大多数の動向は、総会決議案の成否のカギを握り得ることとなつた。

しかも第十二回総会の地域的紛争問題即ちシリヤ問題、西イリアン問題、サイプラス問題およびアルジェリア問題は、ことごとくA・A地域の問題であつたため、A・Aグループの動向は一そう注目された。

わが国はその一員として、アジア・アフリカ諸国の立場に満腔の同情を抱きつつも、議題の処理にあたつては、国連憲章の原則と目的とを忘れることなく、公正、妥当かつ建設的な解決案を考案し、利害関係国双方の説得に努めたが、その努力は関係各国のみならず、国連加盟国全般から認められた。以下各問題の大筋とそれについてのわが代表の活動をのべる

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安全保障理事会非常任理事国当選

わが国は、国連憲章の目的および原則の尊重を、その外交方針の基調として、すでに国連加盟以前から、可能な範囲で、国際連合の活動に貢献して来た。特に加盟後のわが国の国連外交は、加盟諸国により高く評価され、わが国が国際政治において果すべき役割に対する世界の期待は、極めて大きなものがあつた。このような期待に応えて、わが国は、国際間の平和と安全の維持について第一次的な責任を有する安全保障理事会に参加することにより、国際平和の維持および促進のため一そう積極的に寄与することを希望し、国連第十二回総会で行われる安保理事会非常任理事国選挙に立候補することを決定するとともに、昨年六月から加盟各国の支持獲得のための活動を開始した。

これに対し、ソ連圏は、一九四六年のいわゆるロンドン紳士協定に基き、安保理事会非常任理事国を、中南米二、西欧、中近東、英連邦および東欧各一の割合で選出するという慣行が存するとの観点から、当時フィリピンが占め、わが国がその後任となろうとしていた議席は、もともと東欧の議席であると主張し、わが国に対する対立候補としてチェッコを推した。

わが国の友邦諸国のなかにも、主としてこのロンドン紳士協定との関係上、わが国に対する支持の表明をちゆうちよするものもあつた。しかしロンドン紳士協定のいわゆる東欧の議席は、過去において、ギリシャ、トルコ、フィリピン等によつても占められており、必ずしも確立した慣行があるとはいい難い。またこの協定に従えばアジアに一議席の割当もなくなることは、明らかに不合理である。国連加盟国が増加し、特にアジア地域の国が正当に代表されていない理事会の現状にかんがみ、わが国は、安保理事会における地域的配分問題の解決のためには別途努力することを表明しつつ、わが国に対する支持獲得のための工作を推進した結果次第に多数諸国の支持を得るにいたつた。

かくて、十月一日、総会本会議において行われた選挙で、投票総数七八、必要多数五二のところ、パナマ七四、カナダ七二、日本五五、チェッコ二五、アルゼンティンほか六カ国各一で、わが国は、パナマおよびカナダとともに、安保理事会非常任理事国に当選し、本年一月一日から二年間の任期で、同理事会の審議に参加することとなつた。

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軍縮問題(詳細は「わが外交の近況」特集三参照)

第十二回総会では軍縮問題が最大の比重を持つにいたることが開会前から予想されていたので、わが代表団はこの問題に最も力を注ぎ、一提案を用意してこれに臨んだ。わが国の軍縮および核実験停止に関する基本的な考え方は、一般的軍縮の達成に努力するが、特に核実験停止については、原爆被災国としての独自の立場から、これをまず第一に実現せしめることを、主眼とするというにあつた。この方針を具体化したものとして、核実験を、取りあえず次期総会までの期間停止する一方、軍縮交渉を継続し、実験停止期間の延長は、軍縮交渉の進展とにらみ合わせて決定する、という趣旨の決議案を提出した。

しかしながら、第十二回総会では、核実験停止をも含め、核兵器削減と通常兵器ならびに兵力の縮小との間に妥当な割合を保ちつつ、現段階において管理可能な軍縮措置を包括的に実施すべきであるという立場をとる西方側と、核実験停止あるいは核兵器不使用宣言の如き直ちに実行可能な措置を切離して、まず実施すべきであるとするソ連側とが、会期冒頭から激しく対立したまま、互いに歩み寄りを見せず、けつきょく西方側の二十四カ国共同決議案が、多数で可決されたものの、ソ連は、十一月四日、軍縮委員会および小委員会への不参加を宣言し、軍縮問題は、かえつて解決から遠ざかる結果となつた。わが国が提出した決議案は、東西両陣営のそれぞれの主張特にロンドンでの軍縮小委員会の審議の焦点を勘案した上、双方にとつてもつとも受諾しやすく、かつ核実験の停止を早急に実現せしめ得る解決方式を提案したもので、わが代表団は、各国の支持を獲得するためあらゆる努力を行つた。しかし、このような東西の激しい対立の空気の下にあつては、わが提案内容の妥当なことは認めながらも、表決に当つては種々の政治的考慮から投票した国が多く、わが決議案は、賛成一八、反対三二、棄権三一で否決された。

けれども、わが国の決議案が、スウェーデン、メキシコ、ユーゴーのほか、A・A諸国および一部のラテン・アメリカ諸国の支持と理解とを得たことは、注目に価いする。それは、多数の棄権票の存在とともに、わが国の主張が、相当の共鳴と反響を呼んだことを示すもので、わが国がこんご、軍縮および核実験問題の解決のため積極的に努力をするに必要な地歩を築いたものといえる。

なお、総会の第一委員会での審議終了後、軍縮問題の焦点は、現在の軍縮委員会および小委員会の構成を不満とするソ連が軍縮委員会不参加を宣言したことに伴い生じた行詰りを拾収することにしぼられることになつた。そこでわが国は、カナダの接近に応じて、軍縮委員会を拡大することによつて、大国間の歩み寄りをもたらそうと努めた。この結果として、日本、カナダ、スウェーデン、インド、ユーゴーおよびパラグァイの六カ国により共同提案された軍縮委員会十四カ国増加案は、共同提案国の顔ぶれにも明らかなとおり、加盟諸国の広汎な支持を得たものであり、総会本会議において、賛成六〇、反対九、棄権一一で可決された。しかしそれもついに、ソ連側の受諾するところとならず、ソ連が、その不参加宣言をあくまで撤回しなかつたのは遺憾であつた。けれども、わが代表団が、この段階において、事態拾収のため行つた積極的努力は、わが国の軍縮問題に対する熱意を、加盟諸国に強く印象づけるのに役立つたばかりでなく、さらにまた我が国が軍縮委員会の一員となつたこととも相まつて、軍縮問題の解決のためにはわが国を除外し得ざる情勢を馴致したものと見られる。

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アルジェリア問題

北アフリカのフランス領植民地アルジェリアでは、一九五四年いらい、独立を要求するアラブ系民族主義者が国民解放戦線を組織して反仏抗争を行い、年ごとに内乱の様相が深まつている。一九五五年四月のバンドン会議において参加国は、「アルジェリア住民の独立の権利を支持し、フランス政府に対しこの問題の平和的解決を要求する」旨を決議し、一方、国連では、アジア・アラブ諸国は第十回総会いらい毎年、総会における本問題の討議を要求して来た。第十回総会ではこの問題は議題に採択されながらフランス代表団の退場問題を起し、けつきよく審議されずに終つたが、第十一回総会では、わが国を含む九カ国共同提案による「本問題の平和的、民主的かつ公正な解決を望む」旨の決議が満場一致採択された。しかし、その後もフランス政府は、停戦、選挙、交渉の三段階による解決方式を固執し、他方反乱軍側は、まずアルジェリアの将来に関する実質的内容を持つ交渉を行い、アルジェリアの独立に関するフランス政府の保証をとりつけた上停戦を受諾する、という態度をとり、事態は一向に改善されなかつた。

さて第十二回総会では、わが代表団は、民族自決の原則を支持するとともに、この問題の平和的解決の促進をはかることを基本方針とした。そこでわが国は、第十一回総会以後中近東および北アフリカの情勢は漸次動きを見せつつあり、フランス議会がアルジェリアの基本法を承認する一方、モロッコ、チュニジアが調停申入れを行う等の新事態が相次いで発生したのにも鑑み、フランス、アラブ双方を始め国連各加盟国と緊密な連絡をとりつつ、この問題の建設的、平和的解決のため積極的に貢献することに努めた。

アルジェリア問題の第一委員会における審議は、十一月二十七日から開始された。アジア・アラブ十七カ国は、民族自決の原則の適用を認めかつフランス本国との交渉を要求する趣旨の決議案を提出した。これに対しカナダ、ノルウェー、アイルランド三国は、「民族自決の原則」を「アルジェリア人民が民主的方法により自らの将来を決定する権利」と修正し、「交渉」を「有効な話し合い」と修正する修正案を提出した。やがて第一委員会における表決の結果、この三国修正案は一票の差で採択されたが、修正された十八カ国案は、A・A諸国が結束して反対したため賛否同数によつて否決された。

松平代表は、十二月四日第一委員会において発言し、何よりもまず無辜のアルジェリア人民の流血を止めることが緊急必要事であること、停戦後アルジェリア人がその将来の政治的地位に関しフランス本国政府と交渉することについて適当な保証が与えられるべきことを強調し、そのためにモロッコ、チュニジアの調停申出は有益であることを指摘した。同代表はさらに、アルジェリア基本法に関して、停戦後における叛徒の保護、選挙の時期、選出された代表の権限等について疑問を提出するとともに質問を行つた。

かくして、この問題は第一委員会においてなんら結論を得られないまま、本会議に持ち越された。そこでわが代表団は、この問題についていかなる決議も採択されないことになるのは、平和的解決を希求する加盟国の期待を裏切り、ひいては総会の権威をも傷ける事態となることにかんがみ、わが国の原案にタイ、イラン等の代表の意見を採り入れ、「モロッコ、チュニジアのあつせん申出に留意し、本問題解決のために当事者間の交渉その他の手段が採らされることを切望する」という趣旨の決議案を作成した上、A・Aグループ諸国を説得するとともに、西欧諸国の了解を得て、タイ、イランを始め総会内で従来本問題解決のため奔走して来たカナダ、ノールウェー、インド、イタリー、スペイン、メキシコ等十四カ国とともに総会本会議に提出し、これを満場一致可決せしめた。この問題の解決のために尽したわが国の努力は、アラブ諸国およびフランスの双方から高く評価され、国連内におけるわが国の地歩確立に益するところが多大であつた。

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西イリアン問題

インドネシアの独立を承認したオランダ、インドネシア間の主権譲渡協定には、西ニューギニアに関し、特にその第二条において、「同地域の所属が両国間の係争中であることを認め、一年以内に両国間の交渉によつて解決する条件の下に現状を維持する」旨が規定されていた。その後数次にわたる交渉において、両国間の意見は全く対立し、なんら合意に達しないままインドネシアが連合を解体する一方的措置を執り主権譲渡協定を破棄し、一方オランダは本問題の交渉を続けることを拒否した。

国連第十回総会は、両国間の交渉が成果を収めることを希望する旨の決議を採択したが、その結果行われた交渉は失敗に終つた。そこでインドネシアは、第十一回総会ではさらに一歩進んで、両国間の交渉を国連の斡旋委員会によつて援助させようという決議案を提出した。しかし第一委員会では過半数を得て通過しながら、本会議では三分の二の多数を得ず否決された。

第十二回総会に対しても国連内A・Aグループ二十一カ国は、この問題が議題として取り上げられることを要請した。しかしわが代表は、この要請の説明覚書の冒頭に「西イリヤンすなわちインドネシア共和国の最東部」という字句があるのにかんがみ、両国間の交渉に先立ち西イリヤンに対するインドネシアの主権を法的にも認めるかのような表現を用いるのは適当でない、という理由に基き、共同署名を差控えた。

第一委員会におけるこの問題の審議は、十一月二十日から始つたが、これに先立ち十一月十九日A・A十八カ国およびボリビアは、両国が国連憲章に従いこの紛争の解決に努力するよう要請し、事務総長に援助を求める旨の決議案を提出した。この決議案は過半数で第一委員会を通過しながら、本会議では、三分の二の多数を得られず否決されたが、わが代表団は終始この決議案を支持した。

この問題についてわが国は、従来とも交渉の再開に対するインドネシアの要求を支持するとともに、それは、西イリヤンに対する同国の主権を認めることを必ずしも意味しないとの立場を貫いて来た。そこでわが宮崎代表代理は、十一月二十一日第一委員会において発言し、交渉に先立ち当事国の一方による主権の主張を認めるべきでないとの立場をせん明するとともに、国連のインドネシア委員会がかつて主権譲渡協定第二条の字句を示唆することによつて、この問題に直接関与した以上、国連はこの問題の解決について重大な責任を有する点を指摘した。同時に同代表代理は本決議案自体は極めて穏健な内容を持つものであり、わが代表団は喜んで支持する旨を述べた。この演説で西イリアン問題に対する国連の関与についてのべたところは、各国代表の注目を惹くとともに、各国代表演説のなかでこの点を引用するものが少くなかつた。

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その他の政治問題

その他、シリヤ問題、キプロス問題、加盟問題、南阿における人種差別に関する問題、一般委員会拡大問題等についても、わが代表団は、問題の解決に積極的努力を行つた。

国連総会の議題は仮議事日程に記載された例年の議題および懸案五十九項目のほか、第十二回総会開会の三十日前までに提案された補足議題四項目(南阿における人種問題二項目、核兵器の効果の啓発に関するベルギー提案、西イリアン問題)およびその後に提案された追加議題(シリヤ問題、平和共存問題、副議長増加問題、国連軍経費、スエズ啓開費問題等)であつた。このなかには上述の政治および安全保障に関する問題のほか、経済問題、社会人道問題、法律問題等があつて多岐にわたつている。

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経済問題

経済、財政問題は第二委員会で審議された。わが萩原代表は、国連加盟二年目で早くも本委員会の副議長に選出された。同代表は総会中しばしぱ議事を主宰し、とくに低開発国経済開発問題の議事は終始同代表議長の下に討議されついに採択された。

この委員会はこんどの総会中に四個の議題を審議し、十一件の決議を採択したが、その特記すべきものは次のとおりである。

まず、世界経済問題に関する一般討論のさい、萩原代表は日本の態度を説明して、「(i)後進国の国際収支を改善する対策として、民間資本の増大、国際機関および二国間取極による財政援助の拡大、およびとくに貿易の拡大が考えられる。(ii)通商の自由化や関税障壁の逓減を実現するため常設国際機関の設置が望ましいので、貿易協力機関(OTC)を設立しなければならぬ。(iii)一九五七年の国連世界経済概論のテーマにインフレーションのほかに、軍縮の世界経済に及ぼす諸影響をも研究課題とするよう示唆したい」とのべた。そして、日本が主唱して、「国際貿易を拡大するために国連各加盟国に対し貿易協力機関(OTC)の承認促進を求める」決議案を、アルゼンティン、オーストラリア、デンマーク、アイスランド、ノルウェーおよびパキスタンとともに共同提案し、これが採択された。これにより通商自由化への道を一歩前進させることができた。

次に低開発国の経済開発のための国連経済開発特別基金(SUNFED)設置問題は、この委員会の議題の焦点と見られていたところ、開会初期にまずオランダ等十一カ国から、「一九六〇年一月に基金を発足せしめるために準備委員会を設置すべし」とする提案があり、これに対し米国は、「SUNFED」の設置は資金難で実現の見込みがないから、現実的措置として、国連の拡大技術援助計画(ETAP)の資金を年額三、〇〇〇万ドルから一億ドルに増額して、技術援助を強化するため、一九五九年一月発足を目指す特別計画基金を設置すべし」とする対案を提出した。

このように低開発国の経済開発をめぐつて、二つの案が対立したが、大勢は資本援助機関たるSUNFEDの放棄には反対であるが、現実的解決をはかるため、オランダ等十一カ国案と米国案の折衷を望んだ。わが萩原代表も「経済開発は、二国間と多国間、地域的と全世界的たるを問わず平行して行うべきであり、低開発国の開発についても各国間の意見の不一致を無為の理由にすることはできず、実際的行動に移るべきである。米国のETAPを拡張してこれに特別計画基金を設ける趣旨の案にわが国が好意的立場をとるのも、この実際的見地に出るものである。しかしながら特別計画基金の設置が、SUNFEDの設立を排除するという考え方には反対する。両案の同時発足が不可能ならば、逐次可能な方から実施すべきである」とのべた。その後両案の妥協が企てられ、けつきょく会期末になつて「SUNFEDの設置は資金繰りのつくまで見合せ、一九五九年一月発足を期して国連の技術援助を強化するため、年額一億ドルの特別基金を設置する」ことに満場一致で決議した。わが国は、この決議に基く十六カ国からなる特別基金準備委員会の一員に選ばれ、一九五八年三月よりの基金設置作業に積極的に参画することになつた。

このようにして融資機関であるSUNFEDの設置は実現しなかつた。けれどもこの特別基金の設置により、国連は、たとえば、動力資源の調査開発、行政統計並びに工業分野における訓練所、もしくは農工業センターの設置のような低開発地域に対する技術援助を強力に推進することになつた。従つてわが国としても、広くこの分野で技術援助活動に参加しうるものと考えられる。

従来わが国はETAPに対し、年額九万ドル相当額を拠出してきたが、これは世界第二十七位の額であり、たとえばインドの拠出額の約十分の一にすぎない。この基金は、訓練所や研究センターの設置等を通じてわが国が国際協力をなし得る可能性が極めて濃い。

委員会は第三に、人口問題を論じ、「国連各加盟国に経済と人口の関係を研究することを求め、事務総長に経済と人口分野の活動の調整政策を継続することを要請する」趣旨の決議を採択した。これに対しわが萩原代表も賛成演説を行つて、「わが国は人口問題に深い関心を有するものであり、人口稀薄な低開発国の経済発展に寄与するため、技術を有する移住者の送出に熱意をもつている」旨をのべ、海外移住に対するわが国の態度を明らかにした。

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社会人道問題

国連で数年らい審議されてきた人権規約案は、世界人権宣言をより具体的に、かつ法的効力をもつ国際条約の形で規定しようとするもので、経済、社会、文化に関する人権と市民および政治に関する人権との二本だてとなつている。こんどの総会でわが代表は、とくに教育に関する規定に関連し、平和国家の建設を目標としているわが国は、学童の教育を特に重視している旨を発言するとともに死刑に関する条項に関して「十八才以下の年少者の犯した罪に対しては死刑を課さず」との修正案を提出し、条約案にこの趣旨を折込むことに成功した。

またわが藤田たき代表は、本邦最初の婦人国連代表であり、戦後日本婦人の活躍振りを説明し、婦人の地位向上に関する国際協力を進めるためセミナールを毎年開催する旨の決議案を、わが国をはじめとする十一カ国の共同提案の形で上提し、総会において全会一致で採択された。なおわが代表は人口問題について、わが国の人口増加率は年々減つっているが、人口問題はいぜんとしてわが国の根本問題の一つであり、この解決には各種の国内的措置のほかに、海外移住の促進が重要な課題と考えられ、わが国をはじめとする過剰な人的資源の活用を海外移住によつて解決するため、国連ならびにILOが仲介の労をとることを要請した。

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