三 最近におけるわが国外交の大要

アジア外交の推進と賠償問題解決の努力

アジア諸国との善隣友好関係増進を目的とする外交活動は、最近、特に、アジア諸国の政府首脳の日本訪問、岸総理のアジア諸国訪問、およびそれを通じて、戦後処理の主要懸案問題の解決という形であらわれている。

すなわち、昨年五月より六月にわたつて実施された岸総理の第一次東南アジア諸国訪問についで、九月中旬に、中華民国から張群特使、十月初旬に、インドのネルー首相、および十月中旬にインドネシア前副大統領ハッタ博士が来日して、それぞれ、両国間の主要な問題について、わが国の首脳と会談し、さらに、十一月下旬から岸総理は、ヴィエトナム、カンボディア、ラオス、マラヤ、シンガポール、インドネシア、オーストラリア、ニュー・ジーランド、フィリピンの諸国を約三週間にわたつて訪問し、各国首脳と親しく意見を交換して多大の成果を収めた。(詳細は、「わが外交の近況」特集四、岸総理の第二次東南アジア諸国、オーストラリア、ニュー・ジーランド訪問を参照)。

アジア諸国に対する戦後処理問題の特に重要な懸案として、賠償問題、日韓問題等のあることについては、「わが外交の近況」第一号でも概述したが、そのうち、賠償問題に関しては、ビルマ、フィリピン両国との賠償問題解決後、求償国としては、インドネシアおよびヴィエトナムが残つていたわけであり、とくにインドネシア賠償は問題の規模も大きく、かつ国交正常化の問題ともからんでわが国外交上の重要懸案となつていたものであるが、小林中移動大使のインドネシア訪問のさいにも先方要人との間に話し合いが行われ、ついで岸総理の第二次東南アジア諸国訪問のさい、インドネシアのスカルノ大統領との会談において、ついに、基本的合意に到達した。これを受けて小林中氏はさらにインドネシアに居残つて覚書の作成に当り、越えて本年一月二十日、ジャカルタにおいてこれら合意にもとづき、二億二千三百万ドルの賠償協定、四億ドルの民間経済開発借款供与促進に関する取極、正常国交関係を樹立すべき平和条約等が、日本側藤山外務大臣、インドネシア側スバンドリオ外務大臣との間に調印され、ここに長い間の懸案も解決された。これら取極の実施が、インドネシアの国内建設を助けるばかりでなく、この平和条約によつて正常化された日本、インドネシア両国の協力を、今後ますます拡大、緊密化するに貢献することが望まれる。

残るヴィエトナムについても、政府は、その早期解決の誠意をひれきして引続き同国政府と交渉を継続している。昨年九月植村甲午郎特使がヴィエトナムに派遣され、ヴイエトナム政府と鋭意交渉にあたり、十一月、岸総理が同国を訪問したさいも、ヴイエトナム首脳と協議し、十二月には植村特使が重ねて派遣され、これらのたゆまない努力の結果、相当の進捗がみられるにいたつている。

日韓関係については、わが方としては、隣国として、大韓民国と出来るだけ早く懸案を解決し、国交を正常化せんと努力してきた。昨年七月いらい抑留者相互釈放および全面会談再開のための交渉も、板垣アジア局長と在京韓国代表部柳泰夏公使との間で開始され、迂余曲折を経た末、年もおしつまつた十二月三十一日、藤山外務大臣と在京韓国代表部金祐沢大使との間で、相互釈放および全面会談再開に関する取極文書の調印が行われた。政府としては来るべき全面会談の再開に当つては、あくまでも合理的基礎の上に懸案の諸問題を解決し、日韓国交の早期正常化を期している。

また昨年秋ネルー首相の訪日に際し、インドの第二次五カ年計画遂行に協力するためわが国から同国に対し円クレディットを供与することにつき合意が成立したが、その後本年一月にいたりその細目につき両国代表間に合意が得られた。この結果、日本は三カ年間に総額一八○億円を融資することとなつたが、この措置は岸総理の訪印ならびにネルー首相の訪日を契機として急速に高まつて来た日印協調の気運が具体化されたものであり、この借款が差当つてはインド経済の諸困難克服に役立つとともに将来における日印間の経済協力関係強化の基盤となることが期待される。

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米国との関係

昨年六月岸総理は米国を訪れ、ワシントンで日米首脳会談が行われたが、その結果は両国間の相互信頼と理解が深められ、極めて重要な成果をあげたのである。その後九月には藤山外務大臣が第十二回国連総会に日本政府代表として出席した機会に二十三日から三日間ワシントンを訪れ、ダレス国務長官等米国政府の首脳と会談した。これは、六月の岸・アイゼンハワー会談によつて築かれた日米間の新協力関係に基き、両国間の主要諸懸案についてさらに米国首脳の理解を深め、その解決促進に資する趣旨のものであつた。

藤山外務大臣は、ワシントン訪問に先立ちニューヨーク滞在中、日米協会日本人商工会議所、極東アメリカ商工協会共催の昼食会において、日米貿易の重要性を強調したが、この米国首脳との会談でも、この点にふれ、米国における対日輸入制限措置の緩和等日米通商関係の改善に努力した。

わが国の安全保障に関する問題は日米間の最も重要な問題の一つであるが、六月の日米首脳会談の結果、この問題に関する日米の協議機関として安全保障に関する日米委員会が設けられた。この委員会は、安全保障問題の有する重要性にかんがみ日米両国のハイ・レベルにおける意思疏通をはかり安保条約を双方の満足するよう運営して行くとともに、将来の調整を検討する趣旨の下に設置されたものであり、現在までに四回の会合を重ねている。これらの会合では、米軍の撤退に伴う諸問題のほか、国際情勢の現状、特に最近の軍事科学の進歩に伴う自由諸国の潜在力、極東の軍事情勢等日米間の基本的関心事についても討議が行われ、日米間の協力の強化増進に大きな役割を果している。

なお、米軍の撤退については、米側も六月の日米首脳会談の趣旨を尊重し、本年一月末までに地上戦闘部隊の撤退を完了している。

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国際連合におけるわが国の活動

国際連合におけるわが国の基本的な立場については前述したが、以下第十二回総会におけるわが代表団の活動を概述する。

国際連合第十二回総会は、昨年九月十七日に始まり、十二月十四日に終つた。

わが国は、第十一回総会会期の途中で加盟したので、総会初頭からの参加は第十二回総会がはじめてであつた。従つてわが代表団は、今回は十分事前の準備をととのえてこれに臨み、藤山大臣は、総会の劈頭の一般演説でわが外交の基本方針をせん明し、特に核実験および軍縮問題に対するわが国の関心をひれき(、、、)した。

わが国が第十二回総会で主要目標としたのは、安全保障理事会への当選と軍縮および核実験停止の実現にあつたが、総会が取扱つた地域紛争の諸問題についても、問題解決に積極的に貢献するよう努力した。

安全保障理事会非常任理事国当選

わが国は、国際の平和と安全を維持するため第一次的な責任を有する安全保障理事会に参加することにより、国際平和の維持および強化のため一そう積極的に寄与することを希望し、第十二回総会で行われた理事会の非常任理事国選挙に立候補することに決定し、昨年六月から各加盟国の支持獲得のための運動を開始し、ソ連の支持するチェッコスロヴァキアと競争して、昨年十月一日、本会議における投票の結果、投票総数七八、必要多数五二のところ、五五票を得て、パナマ、カナダとともに非常任理事国に選出された。安全保障理事会の理事国は同時に軍縮委員会に議席を与えられるので、この当選により日本は軍縮問題にも一そう緊密な関係を有することとなつた。

軍縮問題

わが代表団は、一般的な軍縮の達成の重要性を認めるも、特に核実験停止については、原爆被災国としての独自の立場から、これをまず第一に実現せしめることを主眼とすることを方針として総会に臨み、これを具体化するものとして、核実験を取あえず次期総会まで停止する一方、軍縮交渉を継続し、実験停止期間の延長は軍縮交渉の進展にしたがつて決定するという趣旨の決議案を提出した。

この決議案は、東西両陣営のそれぞれの主張を勘案した結果、双方にとつて最も受諾し易い現実的な案であつて、多くの国もその妥当なことを認めたのであつたが、東西両陣営対立の下の政治的考慮に影響され、表決の結果は、賛成一八、反対三二、棄権三で否決された。しかし、わが決議案がAA諸国等の広汎な支持を得たことと、多数の好意的な棄権票(趣旨としては賛成だが他の考慮から賛成票を投じ得ない場合棄権することをいう)を得たことは、わが国の主張が相当の共鳴と反響とを呼んだことを示すものである。

第一委員会における軍縮問題の討議終了後、わが国は、軍縮委員会を拡大することによりさきに軍縮委員会および小委員会のボイコットを宣言したソ連をして軍縮委員会へ復帰せしめるため、カナダ、インド等六カ国とともに軍縮委員会拡大決議案を提案し、本会議で、賛成六〇、反対九、棄権一一で採択せしめた。

(軍縮ならびに核実験問題の詳細については、「わが外交の近況」特集三を参照)

地域的紛争問題

アルジェリア問題では、わが代表は、初めからフランスとアラブ諸国の双方と緊密な連絡をとり、双方の受諾し得るような解決方法を見出すために努力した。第一委員会ではいかなる勧告も採択されないまま問題が本会議に持ち込まれるにいたつて、わが代表は、この問題についていかなる決議も採択されないことは各加盟国の期待を裏切り、総会の権威を傷けるものであることにかんがみ、わが方の案を基として作成した決議案をもつてAA諸国を説得するとともに、フランスの了解をも取り付け、総会本会議においてこれを満場一致可決せしめた。

西イリアン問題では、インドネシヤ提出の決議案は総会で三分の二の多数を得ず否決されたが、わが代表は終始これを支持した。わが代表は、国連がかつてこの問題に直接関与した以上、国連はこの問題の解決に関し責任を有する点を指摘し、多くの国の共感を呼んだ。

経済問題

経済問題は第二委員会で審議され、わが萩原代表はこの委員会の副委員長に選ばれ、しばしば委員長に代り、議事を主宰して成果を収めた。また、わが国は経済社会理事会報告の審議に当り、オーストラリア、デンマーク等六カ国を共同提案国として、貿易協力機関(OTC)の設置を促進すべき趣旨の決議案提出のイニシアティヴをとり、首尾よく同案を採択せしめたことは、通商自由化への一歩前進として成功だつたといえる。

さらに、SUNFED設置問題についても、低開発諸国の経済開発は、もはや各国間の意見不一致の蔭にかくれて遷延することを許さず、実際的行動に移るべき段階である旨主張し、人口問題に関しても技術移民の送出によつて低開発諸国の経済発展に寄与する熱意を有する旨を明らかにした。

社会人権問題

社会人権問題を取扱う第三委員会には、藤田代表代理がわが国初めての婦人代表として出席し、戦後の日本婦人の社会的な活躍振りを説明し、婦人の地位を向上するための国際的なゼミナールを開催すべしとの提案を行つて、これを採択せしめる等大いに活動した。同代表は、またわが国の人口問題をも訴え、海外移住促進のため国連およびILO等の配慮を要請し、世界人権規約案の審議に当つては、死刑に関する条項に関し、年少者の犯罪に死刑を課さずとの規定を提案採択せしめ、わが国の人権保護に対する強い関心を具体的に表明するところがあつた。

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通商の振興

通商航海条約および貿易支払取極関係

昨年下半期以降現在までの期間中、まずソ連との通商条約が三カ月にわたる交渉を経て昨年十二月六日に調印を見た。この条約は日ソ両国が貿易および船舶事項に関しこんご最恵国待遇を相互に賦与することを規定している。なおこの条約の締結と併行して後述の貿易支払協定も同時に調印された。つぎに本年一月七日には昨年五月いらい八カ月にわたる交渉の末フィリピンとの間に通商に関する書簡の交換が行われたが、これにより、こんご両国は関税および貿易事項に関し相互に原則として無差別待遇を供与することとなつたので、日比通商関係の正常化は一歩前進することとなつた。なお両国との間には、こんご可及的速かに通商航海条約締結のための交渉が開始されることになつている。

三十一年六月に開始された英国との通商航海条約締結交渉は第一回の協議を終え、その後各自相手国から提出された案文検討の段階にあつたが、先般藤山大臣訪英のさい条約をすみやかに妥結することが望ましい旨が確認され、その結果交渉が再開されるにいたつた。

さらにインドとの間には、二月四日通商に関する協定が調印された。この協定は、元来通商航海条約で規定せられるべき、関税、為替、輸出入、入国、滞在、旅行、居住、事業活動、職業活動、海運、船舶等の事項に関する最恵国待遇を相互に供与することを約束している。この協定は、わが国が東南アジア諸国との間に初めて締結に成功した完全な最恵国待遇に基きかつ広範な内容を有する本格的な協定であり、その意義は極めて大きい。

このほか、目下仏、伊、メキシコ等十数カ国との間に交渉が行われている。またわが国は、昨年八月以降現在までの間に、フランス、ソ連、モロッコ、英国、パキスタン、ビルマ、ブラジル、タィとの間に貿易支払取極を新しく締結し、または改訂更新した。

輸入制限対策

日本品の海外進出の著しい躍進に対応し、各国において自国産業との競合から、対日輸入制限運動が発展することが懸念されるが、なかんずく米国における対日輸入制限運動は、昨年いらいますます激化の趨勢を見せており、特に金属洋食器および洋傘骨については最近米国関税委員会が大統領に対し大幅な関税引上勧告を行うにいたり、また、まぐろ、綿製品、合板および玩具、体温計、その他雑貨に対しても依然反対気運が強く、その成行きは予断を許さないものがある。これに対し、政府は、在米大使館等を通じて米国政府に善処方働きかけるとともに、関税委員会、公聴会においても弁護士をしてわが方意向を開陳せしめるほか、一般の啓発宣伝に努める等その防止にあらゆる努力を傾注しており、こんごも一そうこの努力を強化する方策を講じている。

次に豪州でも昨年七月、日豪通商協定の成立による同国の対日輸入最恵国待遇賦与にともない、ある種商品に対しては輸入を制限する気運の発生が懸念されるので、わが方としては、これを未然に防止するため、現地における啓発宣伝を中心とする予防活動に努力を傾注している。なおカナダについても同様の問題があり十分の対策を講ずる手配をしている。

そ の 他

最近増加の傾向を示している船舶、プラント等の延べ払い輸出は、契約にいたるまでかなり日数を要する上、政府間の交渉を必要とするものが多く、昨年下半期にも政府は東パキスタンの尿素工場建設、対伯鉄道車両、水力発電施設、対ユーゴースラヴィア船舶輸出その他多くの商談ないし国際入札の応札等につき外交機関を通じてその実現あるいは推進のため努力している。

さらに昨年後半に処理または実施した主要事項としては、米国独占禁止法の解釈、運用の実態、本邦商社の海外における過当競争状況、各国の延べ払い輸出に対する取扱い等海外経済事情に関する諸調査、シンガポール等十数カ所における見本市の開催あるいは参加、英国その他において問題とされた日本品の意匠盗用関係クレームの処理あつせん等があり、またそのほかアラビア、イラン等の石油開発問題についても協力を行つている。

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経済協力の推進

最近、とみに、わが国に対して、アジア、ラテン・アメリカ等低経済開発地域から、投融資、技術供与等経済協力の要請が高まつてきたが、これに応えて、わが国の経済技術協力実施に必要な機構および経済技術協力の大綱等について審議するため、政府は、諮問機関として、民間学識経験者によつて構成される臨時経済協力審議会を設置することにした。

また、資金面については、さきに岸首相によつて提唱されたアジア開発基金構想が、次第に各国の理解を深めてはきているものの、現在のところ、まだ早急に実現する段階にいたつていないので、日本は主唱国としてその熱意を具体的に表明し、かかる機構が成立する場合にはいつでも出資に応じうるとともに、それまでの期間においても国際的開発事業に対し投資協力をなしうる態勢をとつておくため、とくに東南アジア開発協力基金五十億円を日本輸出入銀行に設置することにした。この基金の使用に当つては、前記経済協力審議会の審議を経て、内閣において決定することになつている。また、この基金設置に必要な法律案は、第二十八回通常国会に提出された。

ちなみに、経済協力の実績は、毎年増加の傾向にあるものの、まだ極めて少い段階にある。すなわち、政府による経済協力は、技術供与については、コロンボ・プラン、ICA、国連等によるものが、次第に増加してきているし、資金面でもインドに対して百八十億円の円借款を供与した。また、賠償請求権を放棄したラオスおよびカンボディアに対する経済協力については、目下話合いを進めている。なお、民間による経済協力は、昨年四月-十二月末間の許可実績、投資三八件、約一、四五六万ドル、融資一七件、約八三六万ドル、投融資合計二、二九二万ドル、技術供与三〇件で、すでに前年度合計を上廻つている。また、昭和三十二年十二月末までの許可実績累計は、投資二六一件、約四、一三七万ドル、融資四一件、約二、〇四八万ドル、投融資合計、三〇二件、約六、一八五万ドル、技術供与九八件となつている。この累計を地域別にみると、東南アジア地域は、投融資六七件、約二、〇〇一万ドル、技術供与七八件、中南米地域は、投融資六四件、約二、○八九万ドル、技術供与一一件となつており、投融資の地域別百分比は、東南アジア地域三二%、中南米地域三四%、その他三四%となつている。

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移住の促進

昭和二十七年から三十二年十二月末日までの永住旅券発給数は五万四千百四十二通である。行先別で最も多いのは米国で、これが三万一千余通に達している。これには米国の難民法による移住者、同じく移民および国籍法による割当移民等が含まれているが、国際結婚によるものが圧倒的に多い。

右五万四千百四十二通のうち、渡航費貸付移住者は二万八百六十人、その内訳等は各説(海外移住の現状)にゆずるが、ブラジル向け移住者が全体の七八%を占めているのは注目に価する。それはブラジルの経済の大きさと、日本人移住者に対する待遇とに負うこと大であるが、同時にこの国における日本人の歴史的基盤の大きいことにもよる。そのブラジルの日木人は、本年六月を期して移住五十年の記念祭を盛大に行うほか、各種の記念事業を実施することになっている。

わが国移住政策の眼目は、もちろんできるだけ多くの人を海外に出して、その経済的自立と向上とを促進し、これによって少しでも多く、あふれんばかりの人口の扶養力を拡大することにある。しかしそれだけではない。同時に大切なことは、日本人の勝れた技能と労働力をもつて、移住先国の開発を促進し、その繁栄に寄与するということである。ブラジルの日本人が経済的に安定し向上していることは、広く知られているところであるが、そのブラジル国への貢献も特筆に価するものがあるのであゆて、彼我両国の利益の一致がここに見事に実現されているのである。

移住者を多く送り出すためには、国内において移住に関する知識を普及徹底し、移住のための各種障害の排除に努めなければならぬこともちろんであるが、他方また移住者を受け入れる国の門戸を多く開いて行かなければならない。ブラジル以外の関係国にももつと多くの移住者を送れるように、また現在全くわが移住者を受け入れていない国に対しては、なんとかしてその門戸を開かせるように、外交上の手を打つて行かなければならない。外務省は現にそういう外交上の努力を展開しながら、同時に国際的世論喚起の必要を認め、機会あるごとに関係国際機関に働きかけている。

昭和三十一年八月、ポリヴィアとの間に五カ年間一千家族六千人の入国と、これに対する国有地無償提供の協定を結んだのも、そういう外交上の努力の結果である。アルゼンティンはこれまで一時に多数の日本人移住者の入国を許さなかつたのであるが、三十二年一月わが方からの交渉の結果、初めて五カ年間四百家族の入国を許した。

日本人の優秀な技能と労働力とをもつて、受入れ国の開発に寄与するためには不断にこれにふさわしい移住者の選考、選出に力を入れなければならない。移住知識の普及徹底はその土台になる。これらの実施団体である日本海外協会連合会と府県海外協会の積極的かつ永続的活動にまたなければならない。また移住のための障害の主たるものは資金の関係であるが、これについては国内、国外を通じ、日本海外移住振興株式会社ができる限りの手を打つている。

昭和三十二年度の渡航費貸付移住者予定数は九千人であるが、三十三年度は一万人の送出を見込んで、これに必要な諸般の準備を進めている。

なお従来の移住者の大宗は農業移住者であつたが、こんごは受入れ国側の希望に応えて技術者、特技者を含めた移住者を送出したり、資本と技術を伴つた企業移住をも推進してゆく必要があると考えている。ラテン・アメリカ諸国では戦後経済の発展が目覚ましく、急速に工業化の過程をたどつている。そこに日本からの企業特に中小企業進出の余地が多いと考えられる。わが国中小企業がせまい国内で過当競争に苦しむよりは、新天地を切り開いて従業員、設備、機械ぐるみ海外へ移住することは、個々の企業にとつても得策であろうし、また海外諸国の経済的発展に寄与することにもなるので、大いに推進すべき課題であろう。ただし、かような設備、機械、従業員をひきつれての企業移住には、現地で経営が軌道にのるまでの資金問題、労働問題、関連産業が少いための工作機械、材料、半製品等の入手難、電力不足等、問題が多く、日本におけるように簡単なものではない。従つてその実現のためには事前に慎重な調査と準備を行う必要があり、政府としては目下のその打開のための施策を検討している。

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在外公館の整備

昨年後半において、政府は引き続き在外公館の整備充実に努めた。すなわち八月三十一日マラヤ連邦が独立すると直ちにこれを承認した上、旬日を出でずしてクアラ・ランプールに大使館を設置し、九月にはアイスランドおよびアイルランドに兼任公使を置き、十一月にはスウェーデン、オーストリアおよびユーゴースラヴィアの三カ国にある公使館を大使館に昇格した。さる五月国交を回復したチェッコスロヴァキァおよびポーランドには、それぞれ十月および十二月、大使館を開館した。さらに本年に入つてからは、二月にパナマに公使館を開設し、また二月二十二日アラブ連合共和国の成立と同時にこれを承認し、在エジプト大使館を在アラブ連合共和国大使館に切り換え、在シリア公使館を在ダマスカス総領事館に切り換えた。

かくして、わが国が諸外国に置いている在外公館の数は、大使館四二(うち兼轄二)、公使館二九(うち兼轄一五)、総領事館二〇(うち兼轄二)、領事館一三(うち兼轄一)、代表部二、計一〇六(うち兼轄二〇)となつた。

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