ライス米国務長官訪日時の日米外相会談及び小泉総理表敬の概要
平成17年3月23日
19日、外務省飯倉公館にて、日米外相会談及びライス国務長官の小泉総理表敬が行われたところ、概要以下のとおり。
I .日米外相会談
1.日米関係
(1)総論
町村大臣より、ライス国務長官に対する歓迎の言葉を述べた後、以下のとおり述べた。
(イ) |
世界の中の日米同盟という考え方の下、引き続き日米両国で緊密に協力していきたい。
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(ロ) |
日米関係の基礎にあるのは人的交流であるが、これをさらに強化していきたい。特に、知的交流をより促進できる方途につき、今後両国政府間で具体的に如何なる努力をしていくかにつき事務レベルで検討させたい。(これに対し、ライス長官より、同意する旨の発言があった。) |
(2)日米安保
(イ) |
町村大臣より、以下のとおり述べた。
一ヶ月前に行われた「2+2」会合は非常に有益であった。その後、役割・任務・能力に関する検討と共に、在日米軍の兵力構成についての協議が加速化されていることは喜ばしい。特に、在日米軍については、地元の負担という問題があるが、これについては同時に、日本側が在日米軍の駐留によりメリットを得ているという側面もあるので、日米安保体制の積極的な役割についても、自分は国内で強調してきている。
「2+2」会合で確認された共通戦略目標の下、在日米軍の抑止力維持及び沖縄をはじめとする地元の負担軽減を図っていくとの観点から更に現在加速されている協議を続けていきたい。
SACO最終報告についても、沖縄の負担軽減の観点から引き続き進めていく必要がある。
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(ロ) |
これに対し、ライス長官より先日の「2+2」会合は、有益な会合であったと考えており、引き続き協議を継続していきたい旨述べた。 |
(3)IC旅券
(イ) |
町村大臣より、以下のとおり述べた。
米国の査証免除対象国に対するIC旅券導入期限が本年10月となっているが、日本がIC旅券を導入できるのは来年の3月となる見込みであり、米側の導入の期限を一年間延長することを要請したく、(本件決定を行う権限は立法府が有しているため、)米国政府から米議会への働きかけを行って頂きたい。
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(ロ) |
これに対し、ライス長官より、日本側の要請は理解したとの発言があった。 |
(4)BSE問題
(イ) |
町村大臣より、以下のとおり述べた。
食の安全は日本国民にとって大変重要な問題である。食品安全委員会のプロセスが、政治的配慮や海外からの圧力によって曲げられたり、あるいは科学的知見が犠牲にされるような印象を持たれれば、本件の早期解決にも悪影響を与える。
現在、食品安全委員会のプリオン専門調査会は、国内の全頭検査の見直しについて審議中である。国内措置見直し手続の終了後、米国産牛肉の輸入について食品安全委員会に対する諮問が行われる。
輸入再開期限の設定や、再開の具体的時期の明示は出来ないが、早期解決に向けて取組む。今後とも貴長官には、国内プロセスの進捗状況を適切にお伝えする。
日本は米国産牛肉の輸入を止めて国内産業を保護しようとしているのではない。いずれにせよ、本件が日米関係を悪化させることがないように注意していきたい。
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(ロ) |
これに対し、ライス国務長官より、以下のとおり述べた。
本件は、米国にとって特別な重要性を有している。米国は、食品の安全に大きな関心を払い、本件に関する国際基準を満たしており、米国産牛肉は安全であると信じている。
1980年代の米国では、日本を標的として、日本市場には不公正な慣行があるとの議論があったが、その後、こうした議論は影を潜めたかの感があった。しかしながら、今日になって、本件をめぐり、日本に対する制裁論が出て来ている。
輸入再開の時期は明示できないにしても、国内プロセスが早急に進展することが不可欠である。本件は、時間がかかればかかる程大きな問題となるものであり、日米関係に対して悪影響をもたらしつつある。
牛肉問題のために日米関係が傷つくことがないようにしていただきたい。ブッシュ大統領も日本との関係、小泉総理との関係を極めて高く位置づけている。本件については、結果が出ることが必要である。 |
(5)「戦略的開発協調」
ライス長官が上智大学におけるスピーチで提唱した日米間の「戦略的開発協調(Strategic Development Alliance)」について、町村大臣より賛意を表明した。「戦略的開発協調」の今後のとりすすめ方については、両国間で議論を詰めていくこととなった。
2.北朝鮮
(1)町村大臣より、以下のとおり述べた。
(イ) |
六者会合の早期かつ無条件の再開と北朝鮮の核計画の完全廃棄を実現することが必要である。そのためには日米両国が緊密に連携していくことが重要である。それと同時に、中国の役割が重要である。また、本件問題については日米韓三国の連携が引き続き重要である。
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(ロ) |
北朝鮮のミサイルの脅威は重大な問題であると認識している。
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(ハ) |
拉致問題についての北朝鮮の対応は全く納得できない。拉致被害者のご家族の方々の悲しみ、憤りは極めて深いものであり、この中で日本国内では制裁を実施せよとの声が高まりつつある。いずれにせよ、米国には引き続き日本の立場に対して理解と支持を頂きたい。 |
(2)これに対し、ライス長官より以下のとおり述べた。
(イ) |
北朝鮮に対し早期かつ無条件に六者会合再開を求めていくべきであること、日米韓の連携が重要であること、中国の役割の重要性及びミサイルの問題が重大な脅威となっていることには同感である。
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(ロ) |
拉致問題については、ご承知のとおり、米国はかねてから日本の立場を支持してきており、本日行った上智大学での政策スピーチ及び日本の一部報道機関によるインタビューの中でもその旨を表明した。 |
3.国連改革
(1)町村大臣より、国連改革は日本の最優先外交課題であり、特に日本の安保理入りについて引き続き日本としては努力していくし、米国と緊密に協力して行きたいと述べた。
(2)これに対し、ライス長官から日本の常任理事国入りを米国は公に支持しており、本件についても両国間で協議していきたいとの発言があり、町村大臣から謝意を述べた。
4.中東地域
(1)中東和平
(イ) |
ライス長官より、拡大中東構想、中東和平プロセスの進展については今後とも日本と緊密に連絡を取っていきたい、特に中東和平については最近いくつかの大きな動きがあるとの説明があった。
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(ロ) |
これに対し町村大臣から、以下のとおり述べた。
近々シャロン・イスラエル首相とアッバース・パレスチナ自治政府長官を日本に呼んで、日本としても中東和平プロセスの進捗に向け貢献をしていきたい。また、パレスチナ改革に対する貢献も日本としては今後とも努力を継続していきたいと考えている。これらを行うにあたっては米国とも十分協議しつつ行っていきたいと考えている。 |
(2)アフガニスタン
ライス長官から、訪日に先立ちアフガニスタンを訪問したが、同国の復興は進展しているとの印象を得たとの発言があったのに対し、町村大臣より、日本としても引き続きアフガニスタンの復興支援を進展させ、同国の安定に資していくため努力していきたいと述べた。
(3)イラク
(イ) |
ライス長官より、イラクにおいては復興と政治プロセスが進んでいるが、復興の面からいえばイラク政府の統治能力を更に強化していくための支援が強く求められているとの発言があった。
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(ロ) |
これに対し、町村大臣よりは、日本としてはこれまでも様々な支援を行っているが、特に15億ドルの無償資金協力に加え、更に35億ドルの支援を行っていくことを既に約束しており、それを誠実に実施しているところである旨説明した。 |
(4)イラン
(イ) |
町村大臣より、以下のとおり述べた。
日本としてはイランの核問題に関して、英仏独(EU3)の立場を支持している。また最近米国がイランのWTO加盟申請反対を取り下げる等の措置を決定したことを歓迎している。日本としても、核問題解決のため、イランに対する働きかけを続けたい。
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(ロ) |
これに対し、ライス長官より、EU3がとっているアプローチは正しいものであると考えている、米国としては、イランが原子力の平和的利用の名の下で核兵器の開発を行うことは断固阻止しなければならないと考えている旨述べた。 |
5.中国
町村大臣より、中国がこの地域、及び国際社会の責任あるパートナーになっていくように、日米で引き続き対応していくことが重要である、また継続して増加している中国の国防費に関しては、その透明性の向上を求めていかなければならないと考えていると述べ、ライス長官と意見の一致を見た。
また、台湾をめぐる問題については、台湾海峡の平和と安定が継続していくことが極めて重要であるということにつき一致した。
6.EUの対中武器禁輸解除問題
ライス国務長官より、米国は禁輸解除を行うことは良いアイディアとは考えておらず懸念していると述べたのに対し、町村大臣からもこれは東アジア地域の安全保障にかかわる問題であり、これまでEUから受けている説明は日本としての懸念を払拭するのには十分ではないと考えているとの立場を述べた。さらに、両者は、この問題については、引き続き日米両国で緊密に連絡を取り合っていくということについて一致した。
II .ライス国務長官の小泉総理への表敬
1.日米関係全般
(1)小泉総理より、訪日を歓迎する旨述べたところ、ライス長官より、以下のとおり述べた。
(イ) |
日本のイラク復興支援、インド洋における自衛隊の活動も含むアフガニスタンへの復興支援に深く感謝したい。今回、アフガニスタンを訪問したが、同国で得られている成果は日本の尽力の結果でもあると認識した。
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(ロ) |
本19日に上智大学で行った講演で「戦略的開発協調」という考え方を提案した。これは、日米両国は、数え方にもよるが、世界の開発途上国に対する援助額の40%を提供しており、同盟国であり援助大国である日米両国が緊密に協力することにより一層効果的な援助を実施することができ、世界の繁栄を築いていくことができると考えられることが背景にある。 |
(ハ) |
米国は日本の国連安保理常任理事国入りを支持している。
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(ニ) |
小泉総理にお会いできることを楽しみにしているとのブッシュ大統領のメッセージをお伝えしたい。 |
(2)これに対し、小泉総理より、次のとおり述べた。
(イ) |
ブッシュ大統領にも是非宜しく伝えて頂きたい。一昨日の電話会談において、ブッシュ大統領より、世銀の次期総裁にウルフォウィッツ現国防副長官を指名することを伺ったが、自分からは直ちに上記指名を支持すると応じたところである。
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(ロ) |
自分(小泉総理)はブッシュ大統領と初めての会談の際に、日米関係は日本外交の要である旨はっきり述べた。自分は、日本が第二次大戦でおかした過ちを繰り返さないためには、日米同盟と国際協調を両立して進めていくことが必要であると考え、一貫してこの方針をとってきた。9.11テロの後は厳しい国際社会の中で様々な問題が生じているが、テキサス州クロフォードでの日米首脳会談において「世界の中の日米同盟」という考え方をブッシュ大統領と二人で打ち出して以降、この考え方に基づき、アフガニスタンやイラクに関しても両国で協力して取り組んできた。 |
2.BSE
(1)ライス長官より、本件は、既に米国で重大な問題となっており、緊急に解決すべき問題となっている。議会が、1980年代の日米貿易摩擦当時の雰囲気に逆戻りしないようにすべきであると述べた。
(2)これに対し、小泉総理より、先般の日米首脳電話会談でブッシュ大統領にお伝えしたところだが、輸入再開の期日については明示できないが、本件は、食の安全の視点からしっかりと国内手続を踏み、科学的な基準に基づいて解決を図るべき問題である、また、いずれにしても、本件により日米関係が損なわれないようにしなければならない、と述べた。
3.中東和平
小泉総理より、近々シャロン・イスラエル首相とアッバース・パレスチナ自治政府長官をそれぞれ個別に日本へ招待することを紹介したところ、ライス長官より、日本が中東和平において果たしている役割を高く評価する、和平は長いプロセスであるが、今が最大の好機である旨述べた。
4.北朝鮮
小泉総理より、北朝鮮については六者会合を早期に再開したいと考えているが、いずれにせよ今後も日米で緊密に連携していきたい旨述べ、ライス長官もそのように考えている旨述べた。
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