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UK-JAPAN 21th Century Group

日英21世紀委員会第28回合同会議
討議要約

2011年5月

英語版

 日英21世紀委員会第28回合同会議は、2011年5月20日から22日にかけて、英国、ウォーリック大学で開催された。今回の会議では、英国側座長ハワード卿と日本側座長代理田中均が共同議長を務めた。

日本側メンバーの英国首相、閣僚表敬訪問

 5月19日、前原誠司前外務大臣を団長とする日本側メンバーは、デービッド・キャメロン首相を表敬訪問し、日英関係につき意見を交わした。キャメロン首相は、3月に東日本を襲った未曾有の地震と津波の被害を蒙った日本国民に対して深い哀悼の意を表し、日本の復興に向けて最大限の協力を申し出た。

 同日夕刻には、英国外務閣外相ハウエル卿が日本側メンバーを歓迎するためのレセプションを主催した。

 翌20日には、日本側メンバーと英国側共同座長は、ヴィンス・ケーブル、ビジネス・イノベーション相ならびにジェレミー・ハント文化・オリンピック・メディア・スポーツ担当相との朝食懇談会に出席した。

第1セッション:英国および欧州の現状と課題

 英国における連立内閣の経験につき話し合った。出席者の大半は、連立内閣は今国会の任期である5年間は継続するだろうが、二つの連立政党間には今後も緊張関係が継続するであろうと見ている。以前スコットランドで見られた連立政権、ならびに現在の英国の連立内閣の経験は、連立政権の必要性が取り沙汰される日本側にとって参考になるものと考えられる。

 欧州では、ユーロ圏の問題が依然として深刻である。解決には相当の政治的意思が要るし、採りうる選択肢は全て苦痛を伴う。決定が最後まで先延ばしされる可能性が高い。日英21世紀委員会メンバーは、英国でも、他の欧州諸国でも、また日本においても、断固とした政治的リーダーシップが喫緊の問題克服の鍵を握っていることを指摘した。

第2セッション:日本および東アジアの現状と課題

 時間を延長して東日本大震災とその影響について集中討議を行った。今回の甚大災害は、被災地の人々にとって耐え難い悲劇であったに留まらず、工業製品のサプライチェーンが断裂され、原子力発電所の停止によって大規模な電力不足が引き起こされたため、日本経済に深刻な打撃をもたらし、それが現在も継続している。事態は、放射性物質の放出に関する誇張されたメディア報道により、一層、悪化させられた。日本側メンバーは、より客観的、科学的アセスメントを発信し続けた英国政府主席科学顧問と、他国の大使館が閉鎖したり、東京から退去する中、東京に留まって業務を続けた英国大使館に感謝の意を述べた。日本は平常どおり機能しており、来訪者にとって安全であることを全世界に知ってもらうことが重要である。日本政府は、状況の透明性を保つことに格別の努力を払ったし、日本企業も、海外現地法人に対して同様の努力を展開した。

 日本は必ずや自信を回復するだろう。日本は過去に、今回よりも酷いショックを克服してきている。長期的に鍵を握るのは、今回の災害を機に日本は根本的経済再編に取り組むかどうか、財政赤字への影響はどうなるのか、原子力の将来はどうなるのか、などであろう。日本企業が部品供給先を国内的にも、東アジアを含む海外にも分散させる可能性は高いと見られる。日本は、これを機に、農業、漁業政策を根本的に見直し、経済の開放度を高めるべきだとする議論が聞かれた。しかし、震災と津波で家を失くした被災者は変化を最小限に止めたいと望んでいる。政府は復興資金をどうやって捻出するかに関し、難しい決定を迫られることになろう。

 原子力は、今後も日本のエネルギー政策の四本柱の一つに留まるだろうが、国民の支持が得られるかどうかが不確かな状態にある。今回、日本で起こったことは、原子力が受け容れられるかどうかに関して、国際的にも大きなインパクトを持つことになる。全世界の原子力産業は、最善の解決策のためには相互支援と協力が必要不可欠だということを、今回、身にしみて理解したであろう。日本も、原子力問題に関しては、海外のパートナーとの協力を積極的に追い求めるべきである。今回の危機により、再生可能技術の促進と、エネルギー使用削減の努力にも拍車がかかるだろう。日英の企業が協力できる機会がここにもある。

第3セッション:新たな世界的政治・安全保障課題に向け西欧諸国・日本はいかに対応しているか?

 西欧諸国および日本は、新興国の台頭とそれによる世界的なパワー・シフトに対して、これまで以上に創造的に、かつ、より自信と結束を高めて対応すべきだと考える。個別の問題に対処するための新しいパートナーシップ作りや信頼醸成促進に当たっては、これまで以上に柔軟な取り組みが望まれる。西欧諸国と日本には、可能性のある新しい課題に対する備えを固める必要もある。日本側メンバーからは、最近の例ではリビア問題の場合のように、日本が中東で行っているような形で、英国がパートナーとしてこれまで以上に東アジアの問題に関与してくれることを望む声が聞かれた。世界が超大国間のパワー・ポリティックスの時代に戻り、規則に則った世界システムや国際法規範がないがしろにされてしまう危険性がある。新興パワーを世界システムに参加させることに目標を設定すべきである。世界システムを堅持し、最近、オバマ米大統領が中東で行おうとしたように、重大問題に関して将来に向けてのヴィジョンを呈示することが重要である。英国や日本は、効果的役割を果たしていくためにも、言語能力を強化し、地域の問題に習熟していく必要がある。

 日英21世紀委員会メンバーは、日英両国が様々な安全保障上の課題に直面していることを指摘した。これらの課題リストに、最近はサイバー戦争が新たに加わった。西欧諸国や日本は、米国はもはや単独で世界の安全を保障できるほど突出していないことに対する認識を深める必要がある。従って、チーム努力と地域間協力が益々必要とされてきている。

第4セッション:財政逼迫と台頭する新興経済との競争の課題に対する英国および日本の経済政策

 日英両国が重大な経済問題に直面していると認識する。 英国は、消費者支出と金融機関への過大な依存という経済体質を再編する必要があり、家計負債と政府債務を削減しつつ、成長を続けるという課題に直面している。輸出を増やすために、国際競争力と技術をより一層強化する努力が必要である。手っ取り早い解決法はない。新しい二酸化炭素削減目標は、産業にコストを強いる危険性を孕む。一方、日本は津波被害にあった東日本再建のため、膨大な財政支出が必要となる。日本には、この支出を現世代に負担させるべきか、国債を発行して次の世代にも負担を負わせるべきかに関し、いわゆる「高齢化社会対策政治」論争が見られる。日本は農業を、小規模な高品質・高価値産品産業の方向に切り替える必要がある。努力次第で、女性の労働力を今以上に活用できる可能性があるが、外国人労働力の移入に対しては、いまだに抵抗する政治的圧力が強い。

 新興経済諸国が国際的自由市場システムに参入し、規範や規則を守っていくことは、日英両国にとって共通の利益である。新興経済諸国の中には、既に主要投資国になっているものもある。海外資源に対する中国やインドの投資は、両国の内需の急速拡大に起因する世界の商品価格の上昇圧力を軽減する役割を果たしてきているが、同時に、欧米諸国や日本からの投資と競合する関係にある。中国の先進国への投資の増加は、いくつかの国で政治的、安全保障的に問題になる可能性が高い。海外からの投資を歓迎するのが英国の伝統であり、中国やインドからの投資も誘致している。

 日英両国は、例えば低炭素経済に必要な技術を始めとする、新技術開発を目指し、二国間のビジネス・パートナーシップを強化することで、世界的競争の激化に対応していく必要がある。次回の日英エネルギー対話を、両国の企業の関与を促進し、ビジネス・パートナーシップを奨励する機会とすることが考えられる。日英間の相互投資は、両国の国内生産力を高め、国際的競争力の維持を可能にする。英国は日本の投資家に対し、対英投資に対する障害となりうる要因を指摘してもらうよう、要請すべきだ。

第5セッション:日英協力の展望と二国間協力活動における進展

 英国側出席者から、3月の大震災に対して日本人が見せた尊厳と決意に対して最大限の賞賛が聞かれた。英国民は感動で深く心を動かされた。日英関係の団体、中でもJET同窓会連合、英国日本協会、および大和日英基金の三団体は、募金活動と被災者に対する奨学金供与に関し、特筆すべき活動を展開した。

 英国の連立政権は日英関係に高い優先順位を与えており、日本を「アジアにおける最も緊密なパートナー」と位置づけている。日本側は、女王陛下からの特別メッセージを始めとする、震災に対する英国の様々な対応に深く感謝した。両国は国際連合において、非常に近似の立場をとっており、英国は日本の安全保障理事会常任理事国入りを強く支持している。英国は日本のリビア・コンタクト・グループと関連人道的支援への参加を歓迎する。そのほかにも、核拡散防止や、国際テロリズムへの対応、気候変動への対処等、国際協力上の重要課題がある。日英両国は開発援助に関し、そのあり方を評定し、枠組みを設定して、二国間協力を再開する必要がある。英連邦諸国は近々、オーストラリアで政府首脳会議を計画しているが、日本側は、英国の支援を得て、これら諸国との関係を拡大したいと願っている。

 英国側は、最近、欧州理事会で議論された日本・EU経済統合協定の提案を強く支援するが、いくつかのEU諸国にとっては、日本の非関税障壁への対処が依然として重要な障害となっている。英国の国会議員等関係者は、この合意の締結を促進するため、日本の非関税障壁の問題に細心の注意を払うべきである。

 日英21世紀委員会メンバーは、国防と安全保障の分野で、より大きな二国間協力の余地があると見ている。両国政府は、この分野における二国間協力を制度化すべきであり、例えば了解覚書(MOU)などのメカニズムを考えるべきだとの提案が聞かれた。軍事予算に対する財政的圧力に鑑み、二国間で防衛産業協力を推し進めることには利点がある。英国側は、日本側の新規戦闘機購入過程が透明化されたことを歓迎した。日本側がユーロファイターの導入を決めた暁には、国防を巡る両国間パートナーシップのプラットフォームが出来ることになる。

 キャメロン首相もケーブルビジネス相も、日本側参加者に対し、日英間の貿易と投資を強化することの重要性を説いた。日英企業間のパートナーシップと協力を強化するための様々な方途について話し合った。以前の日英21世紀委員会合同会議でも話し合われた企業・政府合同作業部会を設置するという提案は依然として有効であり、行動に移す必要がある。最近設立された英印ビジネスリーダー気候グループが、低炭素経済に関する二国間産業界協力促進のモデルとなるかも知れない。英国側参加者からは、日本で事業をする際の様々な規制という障壁の撤廃が遅々として進まないことに対して、強い懸念が表明された。こうした障壁により、日本国内では、例えば医薬品のように、世界の他の地域では広く認められている製品の販売が妨げられている。日英21世紀委員会メンバーは、英国政府が、企業内転勤による入国を、EU地域外からの移民に対する年間上限から除外することを決定したことを歓迎するが、この暫定措置が更新されるかどうかに対して懸念を抱いている。

 また、教育・文化の分野における二国間の結びつきの重要性を改めて確認した。ブリティッシュ・カウンシルは新たに大学間パートナーシップを推進している。科学技術の分野では、中国を含む日英中三カ国協力の可能性も取りざたされている。複数の出席者から、個人的経験を踏まえ、JETプログラムを強化することの重要性が強調された。これらの発言者からは、日本人は現在英国の大学に通う外国人学生の1%に過ぎない現状に鑑み、より多くの日本人学生が英国に留学することを望む声も聞かれた。一方、日本側からは英国の新しい査証規則が日本人留学生および大学職員の訪英に与える影響について、懸念が表明された。留学生に関しては若干の改良が見られたものの、これが維持されるよう、引き続き注目する必要がある。また、新しい財源が見つからない限り、多くの英国大学の中に既設の日本研究講座教授のポストが失われてしまう危険性がある。文化面では、2012年のロンドン・オリンピックに先立ち、英国で開催予定の文化オリンピアードは、日本が関与する好機となる。

 日英21世紀委員会メンバーは、日英間の議会交流がより緊密で、内容の濃いものになることに対する希望を表明した。

 また、日本政府が「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)を批准する決定をしたことを歓迎した。

提言

東日本大震災

 英国側は、東日本大震災と津波によって多大な人命が失われたことに対し、衷心より哀悼の意を表した。更に、この未曾有の災害に直面し、日本国民が示した勇気、尊厳、復元力に対し、賞賛を表明した。

 日英21世紀委員会メンバーは、日本が安全であり、平常通り機能していることを世界に対して発信していくことの重要性を強調した。この関連で、以下の行動が有益だと考えられた。

原子炉修復と復旧

 英国側出席者からは、日本の今回の甚大災害からの復興に向け、出来る限りの支援を提供したいとの申し出があった。キャメロン首相も、会議に先立って日本側メンバーと懇談した際、この点を強調した。英国には民生、軍用の双方で原子力プログラムの長い歴史があるので、原子炉敷地の修復と浄化に関し、少なからぬ経験と習熟をもっている。英国の原子力産業の専門家や代表が英国はどのような支援と技術を提供できるのかを見極めるため、英国大使館が日本政府と協力して、向こう3ヶ月以内に東京で日本政府、原子力産業向けのセミナーを開催するよう提言する。

日本・EU経済統合協定

 日本・EU経済統合協定の早期締結は、両地域間の貿易とビジネス機会を大幅に拡大するので、両者にとって大きな利益になると強調した。協定締結に向けての英国政府の強い支援を歓迎すると同時に、日本・EU間の実質的な交渉に向けての努力が倍化されるよう要請する。

 英国側は、この協定実現のためには、貿易障壁に関する懸念に対処する日本側の心構えが必要不可欠だと力説した。

日英エネルギー対話

 日英エネルギー対話を実施する計画を歓迎する。メンバーはこの対話に両国の経済界のリーダーを参加させることで、この対話を産業界間協力を促進するために活用すべきだと提言する。こうした協力の可能性は、将来の低炭素経済成長に関連した、スマートグリッド、再生可能エネルギー、原子力、炭素捕獲・貯蔵、エネルギー効率の良い輸送技術、低炭素インフラ開発等、広範な分野に見ることができる。産業界には、こうした協力がもたらしうる利点についての報告書を作成することが望まれる。また、対話への産業界の関与を促進し、個別分野における作業部会を組織するため、政府が明確な計画と工程表を早急に策定することが重要である。

国際開発

 両国の対外援助当局が、貧困国に対する開発援助の効率と効果を向上させる方途や、援助プロジェクトにおける日英間協力の機会に関する二国間対話を再開するよう、強く要請する。これに関連して、保健衛生と人間の安全保障が持つ重要性を改めて強調し、その意味で、アフリカ大陸が二国間協力の重要な焦点になると認識する。

国際政治情勢と安全保障

 今回も、国際連合やG8、G20等の主要国際機構、ならびに国際テロリズムや核兵器拡散の予防等の分野における、緊密な日英間協力の重要性を強調した。英国側は、最近、日本がリビア・コンタクト・グループに参加したことを歓迎し、また、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りを強く支援する旨、再度強調した。

 課題が増大しているにもかかわらず利用できる資源に制限がある時代にあって、国防や安全保障の分野で二国間協力を強化することの価値を改めて強調した。メンバーは、両国政府は国防・安全保障分野の二国間協力を制度化する機構を新たに設置することを検討するよう、提言する。産業協力を通じての国防能力開発に関して、両国がこれまで以上に緊密に協力できるよい機会が見られる。サイバー戦争という新しい脅威の存在に注目し、これに立ち向かうための日英間対話・協力の強化を強く要請する。

教育的、文化的結びつき

 ブリティッシュ・カウンシルによる日英大学間の結びつきと協力の強化を支援するための枠組み作り計画を歓迎する。この計画が両国の大学に広く周知され、促進されるよう提言する。また、日英中三カ国間大学協力を促進する可能性も検討されるべきである。同様に、訪日する英国JET計画卒業生の人数をより一層増加させるために日本政府が支払った努力を歓迎する。メンバーは、日本政府がこの努力を継続、拡大するよう、強く要請する。また、英国の高等教育分野の予算削減や変更の影響が、英国における日本語教育や日本研究に打撃を与えないようにすることの重要性を改めて強調した。この日本語教育や日本研究という、戦略的に重要でありながら打撃を受けやすい科目における英国人の習熟を維持することの長期的重要性を認識することが、極めて重要である。英国の新しい査証規則が、例えばイースト・アングリア大学に新設された日本研究コース等で、相応しい、適任のスタッフを雇用する妨げになってしまう危険性を危惧する。こうした規制が、地域専門家の育成を妨げない形で適用されるよう、要請する。最近、英国政府が、日本人学生が英国で勉強するための査証を新規に申請する際の条件を緩和したことを歓迎するが、この条件緩和を継続することが重要だと指摘した。2012年のロンドン・オリンピック開催に先立ち、英国で文化オリンピアードが開催されることに注目し、日本人グループがこの一大文化イベントに参加することを望む。

その他

 日本政府が「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)を批准する決定をしたことを歓迎する。

 日英間の議会交流を促進し、両国の統治システムの機能に関する経験を共有する機会を増やすべきだと提言する。

 新しい査証システム下の同一企業内転勤問題に対処すべく英国政府が取った行動を歓迎し、英国の企業が日本人スタッフを採り入れることができることの重要性を強調した。英国政府がこうした制度のあり方につき英国企業と協議するよう要請する。


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