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「アグロフォレストリーに関するシンポジウム:地域及び地球規模の持続可能な発展に向けた意義と可能性」(概要とサマリー)
平成22年1月
12月16日、国連大学ウ・タント国際会議場において「アグロフォレストリーに関するシンポジウム:地域及び地球規模の持続可能な発展に向けた意義と可能性」が開催されました。本シンポジウムは日本人アマゾン移住80周年記念事業の一環として実施されました。国連大学サステイナビリティと平和研究所の武内和彦所長(国連大学副学長)、ケニアに本部を置く世界アグロフォレストリーセンターのデニス・ギャリティー所長を始めとし、国内外から計13名の専門家による発表が行われました(プログラムはSATOYAMAイニシアティブのサイト
にてご確認下さい)。
聴衆は300名を超え、研究者、技術者、企業関係者、NGO/NPO、学生等幅広い方々の参加がありました。
- シンポジウムの冒頭、主催者を代表して国連大学サステイナビリティと平和研究所の武内和彦所長(国連大学副学長)より、また、各共催者を代表して外務省の吉良州司外務大臣政務官、農林水産省の津元 _光林野庁森林整備部長、環境省の渡邉 綱男大臣官房審議官より、挨拶がありました。(吉良外務大臣政務官の挨拶)
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シンポジウム第1セッション:「アグロフォレストリーの今日的意義」ではアグロフォレストリーと里山/里山ランドスケープの概念の類似点や、生物多様性、気候変動、砂漠化への対策としてのアグロフォレストリーの有効性などが説明されました。
- 国連大学 武内副学長 「アグロフォレストリーの意義と里山ランドスケープ」
生物多様性の保全に貢献する里山ランドスケープについて、モザイク状の土地利用パターン、人間と自然の関わり方、アグロフォレストリーとの相違などを説明。
- 世界アグロフォレストリーセンター ギャリティー所長 「常緑の農業に向けた新たなビジョンの創造」
同センターと国連環境計画(UNEP)が今年8月に開催した「第2回世界アグロフォレストリー会議」での議論を基に、食料安全保障や自然資源の保全・回復といったアグロフォレストリーの意義及びアグロフォレストリー推進に向けた政策について発表。
- 国連大学高等研究所 名執上席研究員 「SATOYAMAイニシアティブ」
環境省と国連大学高等研究所が協力して生物多様性条約第10回締約国会議に向けて推進している「SATOYAMAイニシアティブ」の取組について説明。
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第2セッション:「アグロフォレストリーのグッドプラクティス」においては、ブラジル、インドネシア、マレーシア、パラグアイにおける事例紹介が行われました。ブラジルの事例については、持続可能な農業の視点からの発表に加え、産品の商業化の詳細について関連の企業から発表が行われました。また、インドネシアの事例ではアグロフォレストリーが土地争議を解決し、流域管理や小農の生活向上に寄与したこと、マレーシアの事例ではアグロフォレストリーを活用した熱帯林保全に関する技術的研究が成功したこと、パラグアイの事例では小規模植林のクリーン開発メカニズム(CDM)認証の取得により、クレジットを当該農村の開発に利用できる可能性が出てきたことが紹介されました。
- トメアスー市 コナガノ前農務・環境・観光局長 「アマゾン地域におけるアグロフォレストリー」
トメアスー市において1980年代から日系人により実施されている、多様性を重視した持続可能な農業としてのアグロフォレストリーの取組を紹介。
- フルッタフルッタ社 長澤代表取締役社長 「経済活動が森をつくる」
トメアスーのアグロフォレストリーによる産品を輸入している企業の立場から、そのような産品を購入することで日本の消費者もアマゾンの森林再生を支援できることを説明。
- 明治製菓 荒森常務執行役員 「カカオ豆の取引から始まるアマゾン森林再生への支援」
トメアスーのアグロフォレストリーの中心的産品であるカカオを輸入することになった経緯や今後の期待などを説明。
- インドネシア国立土壌研究所 アグス上席研究員 「インドネシアにおけるアグロフォレストリー:PES活用の流域管理」
スマトラ島でのアグロフォレストリーが、コーヒーの安定的収穫・収入の確保とともに発電用貯水池への土砂堆積の抑制に貢献した事例を説明。
- 森林総合研究所 中村九州支所長 「熱帯雨林再生のためのアグロフォレストリー技術の開発」
マレーシアにおける技術研究の事例。中長期的に熱帯雨林を再生させるための適切な植樹法とともに、短期的に収入を確保するための適切な作物の選択等について説明。
- 国際農林水産業研究センター 松原統括調査役 「パラグアイにおける農村開発と植林CDM」
同センターがパラグアイ農牧省、環境省等との協力により実施中の小規模植林による農村開発手法開発の事例について説明。同手法は、09年9月国連により小規模植林CDMプロジェクトとして初めて登録。
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第3セッション:「アグロフォレストリーの今後の可能性」においては、第1セッション及び第2セッションの発表者に以下の4名の専門家を加え、それまでの発表を基にしたパネルディスカッションが行われました。まず、4名の専門家から次のような発表がありました。
- 東京農工大学 山田講師 「東部アマゾンにおける日系アグロフォレストリー」
トメアスーのアグロフォレストリーについての技術面を中心とした解説。
- 東京大学 井上教授 「協治の重要性とその設計指針」
持続可能な森林管理のための社会的制度として、開かれた地元主義、応関原則、公平な利益配分などに基づく「協治」を提唱。
- 国際協力機構地球環境部 宮薗技術審議役 「JICAのアグロフォレストリーに関する協力」
同機構によるアグロフォレストリー関連の協力の概要、特にエチオピアとラオスでの事例について紹介。
- 特定非営利活動法人HANDS横田事務局長 「西部アマゾンにおけるアグロフォレストリー推進プロジェクト」
同法人がブラジル・アマゾン西部のマニコレで実施している、アグロフォレストリーによる地域住民の生活向上に向けた取組について紹介。
引き続き、パネリストにより、アグロフォレストリーを推進していく上での世界的な課題及びアマゾン地域におけるローカルな課題を中心に意見交換が行われました。
以上を受け、モデレーターの武内国連大学副学長より次のようなとりまとめがありました。
【まとめ】
- 気候変動や生物多様性についての国際的関心が高まる中で、森林を保全しつつ持続的な農林業を行うアグロフォレストリーや里山の取組について、国内的にも国際的にも理解が広がることは、きわめて有意義である。
- 「森を作る農業」とも言われるアグロフォレストリーの考え方と実践は、持続可能な農林業を通じて地域の経済社会開発を促進するのみならず、気候変動、生物多様性の損失、砂漠化などの地球規模の課題に対する貢献としても非常に重要である。
- SATOAYMAイニシアティブは、アグロフォレストリーを推進していく活動と問題意識を共有しており、両者の連携の強化が必要である。
- アグロフォレストリーの取組の成功の鍵として、次の諸点が重要となる。
(1)技術面:栽培等に関する適切な技術の普及
(2)社会面:実践者である地域住民と外部からの参加者との適切な関係
(3)経済面:アグロフォレストリーの取組を推進する「エンジン」としての商業活動の役割。
アグロフォレストリーについては、技術的問題やガバナンスに関する課題が再認識されたものの、失われつつあるものを「守る」という姿勢ではなく、企業を中心として積極的に社会を動かすエンジンとして位置づけていくことが、最も重要な点といえる。取り組みにあたっては、様々な主体が参加しつつ、技術、仕組み、マーケティング等の向上を図り、相互に利益を得られるものにしていくことが重要である。
- その他
(1)世界アグロフォレストリーセンターと日本政府・国連大学との連携強化が望まれる。来年10月に開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)でサイドイベントを共催し、更に議論を展開することを期待。
(2)先進国から途上国に対する支援については、ODAスキームの改革が望まれる。
援助の大きさのみならず、開発援助が環境に対して与える影響を考慮し、結果的に環境の改善にも寄与するような展開が望まれる。
最後に、主催者を代表して国連大学高等研究所のゴヴィンダン・パライル所長(国連大学副学長)より閉会の挨拶があり、シンポジウムは終了しました。
☆各発表者の発表資料、略歴等はSATOYAMAイニシアティブのサイト
に掲載されています。