審議会等

「ポップカルチャーの文化外交における活用」に関する報告
(ポップカルチャー専門部会)

2006年11月9日

1.はじめに

 本ポップカルチャー専門部会は、諸外国における対日イメージの改善等、わが国の発信力強化のために、外務省としてどのようにポップカルチャーにかかわっていくのが適当であるかを詳細に検討するため、海外交流審議会第2回総会において設置を決定したものである。本部会においては、我が国の「ポップカルチャー」が、海外において若者を中心に圧倒的な浸透力を示していることを踏まえながら、下記のとおり4回にわたり検討を重ねてきた。

 その検討の過程において、「ポップカルチャー」をテーマとした文化外交の実施は、我が国に対する支持者を拡げていく上で、高い効果が期待されるとの点で認識が一致し、特に「ポップカルチャーへの関心をどのように日本への関心に高めるか」及び「ポップカルチャーを推進している産業界に対して外務省がどのような協力を行うべきか」につき、議論を行った。

(ポップカルチャー専門部会開催概要)

(1)第1回会合(6月20日開催)
 石原恒和株式会社ポケモン代表取締役社長及び松橋祥司株式会社TOKYOPOP取締役日本GMを専門委員として招き、アニメ・マンガ分野の現状及び外務省に対する要望等についてヒアリングを実施。

(2)第2回会合(7月31日開催)
 デザイナー山本耀司氏及びグラフィック・デザイナー佐藤卓氏を専門委員として招き、ファッション・デザイン分野の現状及び外務省に対する要望等についてヒアリングを実施。

(3)第3回会合(9月15日開催)
 第1回会合及び第2回会合におけるヒアリング結果及び議論内容を踏まえ、「ポップカルチャーの文化外交における活用」について議論。

(4)第4回会合(10月12日開催)
 海外交流審議会第4回総会(9月26日開催)における議論内容を踏まえ、第3回会合に引き続き、「ポップカルチャーの文化外交における活用」について議論。

2.「ポップカルチャー」とは

 本部会において、「ポップカルチャーの文化外交における活用」を議論する上で問題になったのは、「ポップカルチャー」という用語についてであり、アニメ、マンガ、J-POP、ファッション等の様々な文化を「ポップカルチャー」という言葉で一括りにすることについて疑義があるとの意見が数多くあった。

 本部会においては、これら意見を良く検討、整理し、「ポップカルチャー」を「一般市民による日常の活動で成立している文化」として捉え、「庶民が購い、生活の中で使いながら磨くことで成立した文化であって、これを通して日本人の感性や精神性など、等身大の日本を伝えることができる文化」として考えることとした。この考え方によれば、浮世絵、焼物、茶道などは、其々の時代における当時の「ポップカルチャー」であったと言うことができる。

 文化外交への活用にあたっては、こうした「ポップカルチャー」の中で、特に新たな時代の流れを切り開く最先端の分野で、広く国民に受け入れられ、強い浸透性と等身大の日本を表す思想性を有するものを対象にすべきであり、具体的には、アニメ、マンガ、ゲーム、J-POPのほか、ファッションや食文化等の分野が対象になると考えられる。

3.現状と課題

 「ポップカルチャー」は、民間による自立的なビジネス活動や、世界各地において獲得したファン層の活動によって海外へ拡がり、今や若者を中心に圧倒的な浸透力を示しているところであり、今後も同様に海外へ普及していくと考えられる。

 本部会において「ポップカルチャーの文化外交における活用」のあり方を検討するにあたっては、政府・公的機関の役割は、ポップカルチャーを発信することそのものではなく、民間ベースで物事が自然な形で発信されていくように環境・基盤の整備に焦点を当てた施策を行うことであるとの考え方に立っている。その上で、「ポップカルチャーの文化外交における活用」を鳥瞰すると、課題として具体的に以下の点を挙げることができる。

(1)岡倉天心が100年前に「The book of tea(茶の本)」を書いた当時、茶道は、日本で広く庶民に親しまれていた文化であり、また、西洋にとっては、体験したことのない新鮮な文化で、まさに「ポップカルチャー」と言えるものであったが、岡倉は、この本を通じ、茶道そのもののみでなく、茶道を通して日本文化の精神性や美意識をも解説し、西洋に広めた。

 アニメ・マンガ等の現代日本「ポップカルチャー」は、日本独自の描写技法等が取り入れられているだけでなく、日本人の感性・考え方に裏打ちされており、これが海外の若者に「Cool」と受け止められ、今や、諸外国の日常に入り込みつつあるところである。しかし、必ずしもその底流にある日本人の感性・考え方が理解されてはおらず、また、各民間団体の活動により、それぞれ海外に紹介された結果、個別分散的なものとなっており、体系的な整理がなされていない現状にある。同時に、多くの国で共通の関心を獲得するために、日本的なものが表現されていないことも多く、アニメ・マンガへの関心が日本そのものへの関心に高まるような工夫が望まれる。

(2)「ポップカルチャー」関連業界が海外において直面している大きな問題としては、知的財産(海賊版)問題及びコンテンツ規制の2つがあり、業界の海外進出に対する環境・基盤を整備し、民間活動を支援する必要がある。

 知的財産(海賊版)問題としては、アジア諸国等を中心に、日本のアニメ、映画、音楽などの海賊版が大量に廉価で出回っており、正規のビジネスが成立せず、事業展開そのものをあきらめるという事態も生じている。これは、海外の業者向けに正規ライセンスを取得するための窓口や手続が十分に理解されていないことも一因と考えられる。

 また、コンテンツ規制の例としては、中国の各テレビ局においてゴールデンタイム(午後5時から8時までの間)の海外アニメ番組の放送が禁止されていること、各局が放映するアニメ番組の7割を国内アニメとする制限が設けられていることなどが挙げられる。また、自国製番組の放映割合を一定以上とする規制が設けられている国としては、その他にフランスやカナダなどがある。

(3)諸外国において、アニメ・マンガ・ゲーム[外務省2]を中心に、「日本のポップカルチャーは性的・暴力的」との偏見があり、海外のメディアや有識者層等に対する啓発を行うなど、我が国の「ポップカルチャー」の社会的認知を高めていく必要がある。

 例えば、米国では児童向けの日本製番組が90年代から人気を博しているが、これは少年期に日本の「ポップカルチャー」を体験した米国社会の世代が、親の世代になるにつれ、米国の親の間で徐々に日本の「ポップカルチャー」に対する親和性が高まり、日本の番組が広くテレビで放映されることを許容したためとの見方もある。このことからも、日本の「ポップカルチャー」が自然な形で社会的認知を得るには、一世代近い時間を要しかねないことが分かり、政府としても「ポップカルチャー」の社会的認知の向上に取り組むべきと考える。

(4)海外へのコンテンツの紹介については、関係省庁が各々取り組んでいるところであるが、必ずしも上記の課題等は解決されておらず、今後の省庁間の協力について検討する必要がある。

4.具体的取組に関する提言

 上記3.の現状と課題を踏まえると、外務省をはじめとした政府・公的機関が果たすべき役割は、「ポップカルチャー」関連業界が海外において直面している障害を除去するとともに、海外における「コンテンツ発表の場」を提供し、民間活動を支援・促進することであり、同時に「ポップカルチャー」の動員力を幅広い対日理解と関心に結びつけることである。そのためには、以下の取組を実施する必要がある。

(1)「ポップカルチャー」関連業界の海外進出に対する支援(環境・基盤の整備)

 関係業界の海外進出に対する諸支援策としては、以下の項目に取り組む必要があるが、諸外国における「ポップカルチャー」の現状は国毎に異なるとともに、アニメ、映画及び音楽等の分野によっても異なるため、それらの具体化に当っては、国別及び分野別に検討することが求められる。

(イ)文化の流通に対する障害要因の除去

 知的財産保護(海賊版対策)及びコンテンツ規制の除去について、関係省庁と連携し、相手国政府への働きかけを行う。また、著作権情報の権利保有者へのアクセスを容易にし、正規の権利取得を促進するとともに、当該国でライセンスを取得した販売業者等との連携を図り、知的財産の保護に取り組む。

(ロ)日本の「ポップカルチャー」に対する社会的認知の向上

1)日本の「ポップカルチャー」に対する社会的認知の向上に向け、作家・実演家を海外へ派遣して講演会や関連イベントを実施し、当該国民がありのままの「ポップカルチャー」に直接触れる機会を設ける。その際、在外公館等が実施する文化事業との連携を図るとともに、[外務省3]現在外務省等において行われている文化分野の講師派遣の制度を柔軟に活用する。また、商業ベースでは、未だ十分には海外に紹介されていないコンテンツやアーティストについて、海外進出のための機会を提供し、現代日本の紹介に相応しい「ポップカルチャー」を海外に発信する。この観点から、4月28日に麻生外務大臣がデジタルハリウッド大学において行ったスピーチ「文化外交の新発想~皆さんの力を求めています~」の中で言及された「アニメ文化大使(仮称)」については、その実現が有意義と考えられる。

2)海外における「ポップカルチャー」関連イベントに対し、外務省(在外公館)から後援名義を付与するなどの側面支援を行うことで、主催者側の意識を高め、偏見を助長しないように努める。また、日本の作家・実演家を顕彰する制度を設けるなど、その創作活動を後押しするとともに、政府がスポークスマンとして、既に現代日本文化の大きな部分を構成している「ポップカルチャー」を取り上げ、広報活動を通してその魅力を世界に説明していく。

3)日本の「ポップカルチャー」の魅力に、各々の愛好家や視聴者に留まらず、政府関係者・ジャーナリスト等のオピニオン・リーダーに直接触れてもらう機会を設けるために、在外公館長の公邸等を利用したレセプションや関連イベントを開催する。

(ハ)海外における日本文化の質の維持

 一部途上国で日本食ブームに乗じて、見よう見まねで日本食が供され、衛生問題を引き起こし、その評判を落としてしまったことに代表されるように、必ずしも海外に日本文化が広まっても、その質が確保されていない状況が散見されるため、政府として世界に広がりつつある日本文化の質を維持するための取組が必要である。例えば、日本の「ポップカルチャー」の普及啓蒙活動に貢献する外国人作家・実演家を顕彰し、また、海外の作家や実演家を日本に招聘し、日本文化をよく理解してもらった上で、自国の活動に活かすことも、海外における日本文化の質を維持するとともに、支援者のネットワークを形成することに繋がると考えられる。 前述の大臣スピーチで言及された「日本マンガ大賞(仮称)」は、まさにこの一環となるものであり、実施が期待される。

(2)コンテンツ発表の場等の情報提供

(イ)「ポップカルチャー」関連情報について、関連業界等よりニーズを聴取した上、在外公館等において、海外におけるコンテンツ発表の場や日本の「ポップカルチャー」に関するイベント等の関連情報を収集し、関連業界に提供する。

(ロ)商業ベースでは日本の「ポップカルチャー」が普及しにくい一部諸国・地域においては、必要に応じ、在外公館及び国際交流基金海外事務所(以下「在外公館等」という。)を通じたアニメ、映画、J-POPなどのマルチメディア・ソフトの提供を可能にしたり、マンガや現代日本を伝える情報誌(ファッション誌など)の展示に取り組む。また、著作権情報の権利保有者へのアクセスを容易にし、正規の権利取得を促進するとともに、当該国でライセンスを取得した販売業者等との連携を図り、知的財産の保護に取り組む。

(3)「ポップカルチャー」への関心を日本全体への関心に繋げる

(イ)個別分散的に海外へ広まった日本の「ポップカルチャー」を体系的に整理するとともに、日本文化全体の中に位置付け、その背後にある日本人の感性・考え方を海外に論理的に説明することに取り組む。

(ロ)近年、アジア・欧米の大学において、「ポップカルチャー」等の現代日本文化や日本語を学ぶために、日本関連学科への入学を希望する学生が増加しているところであるが、諸外国における現代日本文化の研究や学術成果には拡大する余地が十分にあると考えられる。このため、日本の「ポップカルチャー」の研究に対する助成制度の設置を奨励するとともに、海外の研究者や学生の交流を活性化し、現代日本に関する研究を促進する。また、当該研究成果を海外の大学等の研究機関に提供し、当該国における日本理解に繋げる。

(ハ)少年期に日本の「ポップカルチャー」を体験し、それをきっかけとして、日本語を学ぶ外国人が数多くいるところであり、今後も見込まれる日本語教育の需要増大に対応し、日本文化への関心に繋げる。

(ニ)周年事業等の機会は、日本文化を紹介する種々のイベントが開催されるが、その中で「ポップカルチャー」紹介を行うことで、その動員力により、若者を中心とした多くの参加者を確保し、これらの参加者に他の日本文化を幅広く体験してもらう。また、在外公館等が実施する文化事業においても、同様に「ポップカルチャー」関連の要素を積極的に取り込んで動員力を高め、当該事業において積極的に日本関連情報を提供することで、「ポップカルチャー」への関心を日本そのものへの関心に繋げる。

(ホ)日本の「ポップカルチャー」への関心から、それ以外の日本に興味を持った若者等が容易にアクセスできる、日本紹介コンテンツを準備する。例えば、「ポップカルチャー」ファンの大半は、インターネット利用者であると予想されることから、Webサイト上に日本文化の総合紹介サイトを用意することも有効と考えられる。また、日本の情報を幅広く放送しているテレビ国際放送(英語)で「ポップカルチャー」や「ポップカルチャー」作品の背後にある日本人の感性や考え方を紹介する番組[外務省4]を放送することにより、同チャンネルの視聴者数を確保し、アニメ・マンガと併せて日本関連情報をより多くの人に発信することも一案と考えられる。

(ヘ)海外におけるファン組織との連携を図り、ファン・イベントや関連メディアに対し、アニメやマンガに登場する日本の解説など、ファン層が関心を持つ日本関連情報を提供することで、コンテンツへの関心を日本そのものへの関心に繋げる。また、「VISIT JAPAN キャンペーン」等の訪日促進事業と連携し、関連する訪日旅行を紹介する。

(ト)「ポップカルチャー」の普及に取り組むとともに、「ポップカルチャー」への関心を日本そのものへの関心・理解に繋げようと活動する民間団体が現れており、こうした団体との連携を図る。

(チ)政府の活動をア二メやマンガで紹介するなど、政府広報に「ポップカルチャー」を積極的に取り入れ、広報対象者の幅を広げるとともに、広報効果を高め、日本理解の増進に繋げる。

(4)上記取組の実現に向け、関係省庁間の連携について検討し、「ポップカルチャー」関連業界の活動を支援・促進する。

5.今後の官民のあり方

 上記4.で挙げた具体的な取組を推進するため、当面、外務省が他の関係省庁とともに日本国内の「ポップカルチャー」関連団体と協力して以下のような取組を行う必要がある。

(1)「ポップカルチャー勉強会(仮称)」の設置

 外務省をはじめとした関係省庁と国内の「ポップカルチャー」関係者及び研究者が、意見交換を自由に行う場として「ポップカルチャー勉強会(仮称)」を立ち上げるとともに、関係者や研究者同士が意見交換を行う「サロン」としても活用し、ネットワークを構築する。

 このような「勉強会」の場において、関連業界や研究者より、在外公館等で収集することが適当な「ポップカルチャー」関連情報についての意見を聴取する。また、在外公館において実際に収集した情報を外務省より提供し、分野毎の現状や地域性の違いを把握し共有するとともに、我が国の「ポップカルチャー」に係る政策・施策についての今後の方向性についても議論する。 また、政府及び産業界の「ポップカルチャー」支援の気運を高め、関係者の活動を後押しするような文化外交の方向性を示す「キーワード」の設定や、英国の国家ブランド戦略(「クール・ブリタニア」)と同様な国家ブランド・イメージ政策の可能性も、こうした場で検討する。

(2)「ポップカルチャー」関連業界の有する知見・コンテンツの有効活用

 「ポップカルチャー」関連業界に対しコンテンツの提供、作家・実演家などの派遣及び著作権情報等の関連情報の提供などを依頼し、「ポップカルチャー」の要素を取り入れたイベントを周年事業に併せた形で開催する他、在外公館等における情報発信及び関連イベントの実施も積極的に行う等、業界の有する知見を積極的に活用した形で文化外交を進めていくことが求められる。

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