新聞・雑誌等への寄稿・投稿

総領事館ほっとライン 第22回 ドバイ
投資・建設ブームに沸く中東のオアシス
(時事通信「世界週報」2005年6月7日号より転載)

平成17年5月
在ドバイ総領事
乳井 忠晴

 ドバイは人口120万人、アラブ首長国連邦(UAE)でアブダビ首長国(首都)に次ぐ第二の首長国です。世界有数の石油資源を持つアブダビに隣接しながら、ドバイは早くから石油に依存しない経済開発に努めて、今日、中東地域の「ショーウィンドー」、「ビジネスセンター」、航空路のハブとして世界の注目を浴びるようになりました。ドバイにビジネスの拠点を持とうとする動きに伴って、オフィスや居住施設の需要が急増、造れば(構想の段階でも)売れるという空前、過熱気味のビル建設・不動産取引ブーム、対ドバイ投資ブームを呼び起こしています。

 中東地域で、異質文明と積極的に協調して成功した社会という点では、クウェートなども同様ですが、ドバイには、他の追随を許さない外国人にとってのアクセスの良さと住みやすさがあるように思います。ドバイは「世界で最も美しいインド人の町」と言われるようにインド、パキスタンをはじめ、177もの国籍の人々が居留する美しい近代的な国際都市ですが、外国人にとって住みやすい、魅力的な環境を作りだすことで経済発展を引き出す、これがドバイのモットーなのです。しかし、その背景に幾つかの重要なポイントがあることを忘れてはいけません。

社会の安全は経済発展の大前提

 ドバイ首長国は、社会の安全を確保し、豊かさを実感させることで多くの人を呼び寄せ、ビジネス環境を醸成して経済の発展を実現させることを目指しています。安全の確保と治安体制への信頼こそがドバイの繁栄の大前提なのです。従って、ドバイ警察は総力を挙げて社会秩序を乱す者の摘発やその予防に力を入れているのです。街中で見掛ける警察官は意外に少ないように思いますが、英国仕込みのインテリジェンス網は優れた機能を発揮し、監視の目は至る所にあると考えてよいでしょう。

 ただし、具体的脅威がなく、ビジネス上のメリットが見込まれる限りは、あえて動こうとしないのは「ビジネス国家」たるゆえんかもしれません。ドバイの平和はいわば微妙なバランスの上に成り立っているのです。またドバイには多くの外国人が在留していますが、入国審査、在留管理はドバイ治安当局の治安維持の有効なカードとなっています。

忘れてはいけないイスラム社会の掟

 外国人にとって、酒は飲めるし、豚肉も買えるし、新鮮な魚介類(刺し身)も食べられるし、欧米風なリゾート・娯楽施設も存在するーーそれでもドバイは厳格なイスラム社会であることを忘れてはいけません。最も気を付けなければいけないことは、飲酒は許された場所に限られるということです。ある邦人が、ホテルのレストランで飲酒の後、帰宅途中の路上で突然、暴行を受け、警察に被害者として保護されたのですが、飲酒状態であったことが判明して、逆に拘留、罰金を科された例があります。飲酒運転は言うに及ばず、飲酒後は絶対に事件に巻き込まれないように注意し、何食わぬ顔で帰宅することが肝心です。

 飲酒に関する規制(禁止)は首長国によって異なります。イスラムの伝統を堅く守っている隣のシャルジャ首長国では、誰であれ、いかなる場所であれ飲酒はもちろん、酒瓶を所持することさえ禁止されています。さらにその先のアジマーン首長国には外国人のために酒類を販売する店があるのですが、購入してドバイに帰る途中の邦人がシャルジャ首長国で検問され、摘発された例もあります。

 ラマダン(断食月)はイスラム教徒にとっては年間最大の「行事」で、欧米化の極みと言われるドバイでも厳格に守られています。ラマダンの最中には断食の苦行に耐えているイスラム教徒の信仰心に敬意を払っておくことが大事です。道端でペットボトルの水を飲んでいた邦人が、通りすがりの人からとがめられたケースがドバイでありました。

大都市化するドバイの悩み

 比較的自由に行動できるドバイですが、急速な都市発展に伴うゆがみは日本と同様です。交通渋滞と多発する交通事故について、ドバイ警察は交通法規の順守に向けて取り締まりと罰則の強化を進めています。当地は完全な車優先社会のため運転スピードも速く、歩行者には交通ルールの認識が全くありません。運転と道路横断には十分注意してください。都市化のもう一つの問題は犯罪、特に低年齢化の問題があります。社会の治安は一般的によく維持されているとはいえ、アジア系外国人の多く住む地区では盗み、暴行などの犯罪は少なくなく、空港で外国人を狙うひったくりなどが増える傾向にあるようです。ドバイ首長国を含むUAEの人口の半分以上は低所得の南西アジア系の外国人であることも知っておくべきでしょう。UAE人青少年による犯罪の増加も懸念されております。特に夜間一人で歩くことは控えるのが賢明です。

 高級ブランド品が比較的に安く、いっときのプチゴージャス、エキゾティックな雰囲気を楽しめる中東のオアシス、ドバイを訪れる日本人が増えておりますが、華やかな雰囲気に流されることなく、常に注意を怠らない、そんな気持ちを忘れないでいただきたいものです。

ワンポイント・アドバイス

このページのトップへ戻る
目次へ戻る