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イエメン便り(第2話):「カート」を噛みながら情報収集

カートを噛みながら懇談  イエメンを語る際に忘れてはならならないのが「カート」です。カートはカフェインを含有する植物で、その若葉の樹液は人体に軽い覚醒作用を引き起こします。カートを噛む習慣はエティオピアやエリトリア等でも一部見られますが、イエメンでは日常生活に欠かせないものです。人々の多くは週末、人によっては毎日、昼食後、何時間もカートを噛み続けます。彼等は、一枚一枚カートの葉を口に入れ、片方の頬にピンポン玉ほどの大きさになるまで噛みながらため込み、時々、水とともにその樹液を飲み込みます。一人でカートを噛むことはまれで、カートを噛む際には人々が集います。
 イエメンに駐在して優れた外交官になるためには、カートに親しまなければならない とも言われます。
 外交官の重要な使命の一つは情報の収集と分析です。駐在国の政情や経済・社会情勢の動きを把握する上で、各種メディアを通じた情報収集に加え、政府関係者や現地情勢の専門家等から直接話を聞くことが要求されます。カートを噛む習慣は特定の社会階層に限られたことではなく、政治家、高級官僚、財界人、 学者、マスコミ関係者から一般庶民に至るまで多くの人々に親しまれています。同士が集い特定のサークルが形成され、人々はカートがもたらす軽い覚醒作用に浸りながらうち解けた雰囲気で語り合います。したがって、こうしたカートの集いに参加することは外交官にとって格好の情報収集の場となりえます。政務担当官として、私も、時々、カートの集いに参加し、政務情報の収集に努めています。
 全労働人口の50%以上が農業に従事しているイエメンでは、97年の政府統計によれば、全耕作地のうちカート畑が占める割合は約8.5%で、その生産高は年間48,197百万リアル(約40億円)に達し、全農業生産高の約41.4%を占めます。一人あたりの国民総生産が270ドルの国で、年間一人あたり18ドル以上のカートが生産されています。こうした数値からも、人々の日常生活にカートが深く根ざしてことが明らかです。
 カートはイエメンの社会生活に欠かせないものですが、様々な深刻な問題も引き起こしています。残留農薬の問題をはじめ、カートは他の農作物に比べより多くの水を消費し、貴重な水資源の枯渇に拍車をかけています。また、カートは家計を圧迫し、生産活動を制限し、外貨源にもならず、経済成長の足かせとなっています。こうしたカートの害を認識し、カートを噛まない人々も増え、さらに進んで、カート撲滅運動を行っているグループも出てきています。最近、サーレハ大統領は自らカートをやめ、側近に対してもカートを断ち、自分のようにスポーツに汗を流すよう働きかけているようです。カートのないイエメン社会を想像することは困難ですが、反カート活動家はカートがある限りイエメンの発展はないと主張して います。

在イエメン日本国大使館 二等書記官 山本英昭

(1999年6月)


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