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外務省員の声

日本の外交と広報について

高島 肇久 外務報道官に聞く

収録:平成16年3月29日

エマニュエル・ソーサ職員
エマニュエル・ソーサ職員
 フランスとの外交官交流のスキームで、日本の外務省で勤務されたエマニュエル・ソーサ職員に、フランス人の目から見て、日本の外務省や外交について聞きたい点を、高島外務報道官にインタビューしてもらいました。(国内広報課)
高島肇久外務報道官
高島肇久外務報道官


ソーサ:日本の新聞には外交に関する記事が多く掲載されていますが、一般的に言って、日本人は外交に対し興味があると思いますか。

高島:大きな出来事があると必ず新聞の一面に大きく出ます。私が外務報道官になった一昨年の8月頃はとても静かで、これといって大きな出来事もなく、新聞でも外交問題が取り上げられることもさほどありませんでした。それが突然その年の9月に小泉総理大臣の訪朝の話が出ると大きな外交問題になりました。それ以来、北朝鮮での核兵器開発や日本人拉致問題が取り上げられるようになり、更にイラクで戦争が始まり多く報道されるようになりました。ここ数年の間に、日本ではいつになく国際問題、外交問題に対する関心が高まってきていると思います。

ソーサ:外交についてどのような質問を受けますか。

高島:先程申し上げたように、北朝鮮問題、イラク問題、また、日中関係問題等が特に多いです。日本人が関心を持つ事は、例えばイラク問題では自衛隊問題につながることです。つまり、日本と直接関係があることに関して大変興味を持っています。しかし、例えばイラクの問題に関して、フランスとアメリカが立場を異にしたことや、中東の民主主義をもっと大きなスケールで考える「拡大中東北アフリカパートナーシップ構想」、停戦が続いていたアフリカの三カ国(コートジボワール、ソマリア、コンゴ民主共和国)での紛争の再発等、世界中で色々な問題がありますが、そういうことには日本人の関心はあまり向きません。日本人の関心はおおむね日本に直接関係することだけにあり、それをどうやって世界の他の大きな問題にも関心を持ってもらうかということが、実は一番大きな課題なのです。

ソーサ:日本の若者は外交官という職業に興味がありますか。

高島:外交官という仕事に魅力を感じる人は多くいると思います。例えば外務省では、「タウンミーティング『学生と語る』」を年4回開催しており、東京でも、京都でも、毎回外交官になりたい多くの大学生達が参加しています。大学で国際関係論や外国語を勉強している人達にとって外交官は憧れの仕事なのでしょう。それから、日本には青年海外協力隊という制度があり、開発途上国で学校の手伝いをしたり、農業を教えたりと、色々な活動をしています。毎年何百人もの若者達が青年海外協力隊に参加し、自分で体を動かして外国との関係をもっと広げようとしています。狭い日本の国に一億人も人がいると思うと、日本の外に行って仕事した方がいいと考える人もいるのかもしれません。

ソーサ:日本では「外務大臣と語るタウンミーティング」が行われていますが、フランスにはありません。外務省はなぜ「タウンミーティング」を始めることにしたのでしょうか。

高島:実はタウンミーティングは川口順子外務大臣が、環境大臣をしていた時から始めていました。外務大臣に就任してからは、開かれた外務省を実現すべく大臣自ら率先して外務省が何をやっているか伝える必要があると思い、「外務大臣と語るタウンミーティング」を始めたのです。外務省の中には、「一般の人は伝統的に国際問題にはあまり興味がないだろう」とか、「外交はとても微妙なバランスの上で成り立っており、交渉等難しいことがあるので、いくら説明したって分からないから、それよりも国益を守ることを私達はこなしていれば国民に説明をしないで良い」というような「文化」がありました。外務省で幾つかスキャンダルがあった時も、外務省は説明をせず、透明度もなく、責任もとらないとマスメディアや世論から非難されました。そこで、北朝鮮問題やイラクへの自衛隊派遣等について、大臣自らが行っている「川口外交」というものを直接、国民に説明し、皆さんの意見を聞くこととなりました。この2年間で9回行われましたが、その時々でテーマを決めて説明をしております。例えば、3月20日に横浜で行われた際は日米関係をテーマにしました。このタウンミーティングでは、若い人達が日米関係を随分様々な側面から見ていることが分かりました。大臣自身も、実施して面白かったし、国のどういうところに関心を持っているのか手応えがあったと言っていました。

ソーサ:タウンミーティングには毎回、何人ぐらい参加されるのですか。

高島:毎回、300人から500人ぐらい参加しています。これまで政令指定都市を中心に日本中で実施してきました。地方に参りますと、地方紙や地方テレビ局が取材・報道しますが、外務省が自分達の街に来て、外務省がやろうとしていることを説明するというPR効果は大きいと考えています。これを東京で開催しても他のイベントの中に埋もれてしまいがちですが、地方で実施すればそれだけ目に見える結果があり、より効果的だと思います。

ソーサ:外務省の中に記者クラブがなぜあるのでしょうか。何のためにあるのでしょうか。

高島:明治時代は政府が情報を握ってなかなかその情報を外へ出しませんでした。日本には不思議な言葉があって、「よらしむべし、知らしむべからず」という考え方がありました。その考え方では記者達は政府から言われたことしか書けませんでした。そこで、100年以上前に、「大臣は自分達の所へ来て、我々の出す質問に答える」記者会見を記者たちが主催し始めたのです。それが今の記者会見の元で、記者クラブの始まりでもありました。以来、記者クラブは日本の報道の自由の象徴的な存在となりました。そして憲法で報道・表現の自由が認められるようになってからも、記者クラブは外務省にずっと存在しています。外務省の記者クラブはとても古く伝統のあるものです。記者クラブの記者達の目的は、外務省からできるだけ情報を引き出すことであり、そのためには、一人一人の記者だけではなく、記者クラブ全体で要求することもあります。しかし、最近の役所では、そんなことをしなくても、タウンミーティングや毎日開かれる記者会見でどんどん情報を出そうとしていますので、昔ほど記者クラブの意味は大きくなくなりました。日本の記者クラブ制度については欧米のメディア等から「閉鎖的」とか「なれ合い」といった批判が出ていますが、実態は改革が進展して、外国人ジャーナリストへの門戸開放も行われています。

ソーサ:記者は外務省の中で自由に行き来できるのですか。

高島:記者は外務省の中ではほとんど自由に動けますが、例えば、北朝鮮の問題を扱っている北東アジア課は部屋の中には入れないが、廊下にいても構わないという場合があります。それから、各局長は、二週間に一度、必ず記者達を呼んで「オフレコ」でのブリーフィングを行っています。更にアポイントメントを取れば、どこでも入っていけます。私はここ(外務報道官室)で毎日夕方から、オープン・ルームという形で記者達と話をしています。

ソーサ:記者はどんな外務省職員にもインタビューできますか。

高島:基本的に記者に話をするのは各課の首席以上です。

ソーサ:フランスは日本が国連安保理常任理事国になるべきだと考えていますが、安全保障理事会における日本の役割はどんなことでしょうか。

高島:日本は今、国連の中でとてもユニークな立場にいると思います。先ず、日本は国際紛争を武力で解決しないと憲法で決めています。日本は紛争を話し合いで解決しようとし、次にあらゆる手段を使って、平和的に、外交的に解決するということを国の基本として考えています。また、日本は核兵器を持たないし、外国に大量破壊兵器を売りません。さらに、技術があったとしても日本は軍事国家にはならないとしています。世界で二番目の大きな経済力を持つ日本は、国連分担金もアメリカについで二番目に多く払い、しかも、分担金だけではなく、国連の様々な機関に自発的に拠出金を出しています。日本は軍事力にお金をかけませんが、貧しい人達、困っている国、それから問題のある地域には、いろいろな形で、直接資金を供与したり、人材を送ったり、国際機関を通じて協力したりという努力を今までずっとしてきました。その努力によって、例えば、東南アジアでは、これまでとても貧しかったタイが、今ではODAを従前程必要としなくなりました。韓国も今ではOECDのメンバーになりました。皆少しずつ、経済的に豊かになってきています。アジアは、幸い国家間の大きな紛争も起きずにいます。日本が今までやって来た貢献はアジアに対してだけでなく、アフリカ、ラテン・アメリカ、バルカン等でも始まっています。経済面だけではなく、様々な面で努力している日本は、国連に深く関与しています。ですから、国連が物事を決める時には、日本が常にその決定の場にいるべきではないかと考えています。そのことはフランスやアメリカも納得していますし、何か国連で決定を下す時には日本が必ず参加すべきだと考えてくれています。
 国連の改革という話がもう十年来続いていますが、結論は出ていません。また、国連では、イラク戦争の開始時に様々な問題があり、意見の一致ができませんでした。そこで、日本は、フランスやドイツと協議をし、イラク復興のための協力を要請しました。日本は日本のできることで協力し、資金も出し、その上で国際社会が一致してイラクが崩壊しないように努力することを各国に呼びかけています。先日、アフガニスタン復興会議がベルリンで開催されましたが、日本はその会議に積極的に参加し様々な努力をしています。そういう実績があるからこそ、日本は安保理常任理事国にふさわしい国なのです。

ソーサ:FTAについてですが、世界では、いろいろな国が自由貿易協定(FTA)を結んでいます。日本は一カ国のみですが、なぜでしょうか。

高島:日本がFTAを結んでいるのはシンガポールだけです。それには二つの理由があります。今まで多国間での貿易合意を優先することを考えてきました。日本の貿易相手国が世界中に広がり、資源を輸入し、それを新しい物に作り替えて輸出することで日本の富を築いてきました。例えば、自動車を作るために鉄、シートの皮、部品に使用する金属、そしてガソリン等、原材料を外国からの輸入で得ています。日本は世界の貿易システムでどこかだけが得して、他の国を差別するような考え方をされてしまうと困るのです。そのために、先ず、多国間で可能な限り貿易の障害を取り除いていくことを提案し続けてきました。日本自体は、東京ラウンドやケネディ・ラウンド、ウルグアイ・ラウンド等で貿易の自由化が進むたびに、経済力・貿易力が増し、日本は利益を得てきました。それがまず一つ目の理由です。
 二つ目の理由ですが、FTAは相互的な同意です。例えばあなたと私は金持ち同士で、あなたにはこういう物があり、私にはそのニーズがあります。だから、お互いに協定を結ぶと大変有利になるという話ができます。しかし、資源に乏しく産業も盛んでなく技術もないような貧しい国は、どんどん切り捨てられてしまいます。つまり、世界が歪んだ物になってしまうのではないかと考えたのです。だからこそ皆を助けるような方法で実施することを提案し続けてきました。しかし、ふと気付くと、ヨーロッパはEUになってますます結束し、アメリカはカナダ、メキシコと北米自由貿易協定(NAFTA)を作り、南米南部共同市場(メルコスール)ができていました。例えば、メキシコの場合、ヨーロッパとのFTAやNAFTAがあります。その結果、日本から輸出する物が高い関税に阻まれて、売れなくなり、年間およそ四千億円のマイナスになってしまうとの試算があるほどです。だから、日本はメキシコとEPA(経済連携協定)を結ぶための交渉を進め、3月には大筋合意に達しました。
 また、シンガポールとだけではなく、アジア各国ともEPAを結び、ゆくゆくは「東アジア・コミュニティ」というのを作って、EUと同じと言わなくとも、この地域で手を携えて経済を活性化させようと考えています。日本もやや遅ればせながら、世界の潮流にのろうと努力し始めているのです。

ソーサ:アジアでEUと同じような同盟ができると思いますか。

高島:先程申し上げた「東アジア・コミュニティ」というのは、一昨年、小泉総理大臣がシンガポールで演説をした際、提案したものです。また、昨年12月に東京で日ASEAN特別首脳会議を開催した際にも、「日・ASEAN東京宣言」の中で、将来、ASEANだけでなく、中国、韓国、それから日本も「東アジア・コミュニティ」の構築を求めることが言及されています。将来的にはオーストラリアやニュージーランドの参加も検討できるでしょう。アジア経済はどんどん伸びていますから、それを更に発展させるためにも、この地域全体で経済的な結びつきを増やし、FTAを結ぶことを提案しました。これからは貿易だけでなく、人の移動や投資も更に拡大するでしょう。東アジアには中国の巨大マーケットと経済成長があり、韓国も益々発展してきています。ASEAN10カ国には、経済的にとても発展している国と、一人あたりのGDPが300ドル前後というような途上国もありますが、全体として、大変努力をしており、今後その努力が必ず実るようになると思います。

ソーサ:フランスにとって文化は大切なことですが、それ以上に文化的多様性を守ることが必要だと考えています。日本政府はどう考えていますか。

高島:多様性の中に一つのアジアというまとまりがあると考えています。単一性と多様性という言葉で表現するように、アジアでは、個々の文化を尊重すると同時にアジア人としての共通項を大事にしながら、互いに経済発展し、文化交流が行われています。面白いことに、今、アジアでは、日本の流行文化が盛んに取り入れられ、特にアジア各国の若者達の間で日本のポップカルチャーに対する関心は高く、新しいメディアが発達しているのでどんどん広がっています。多様性を大事にするために他を拒否するのではなく、容認するところがアジア的だと思います。だから、モノカルチャーではなく、マルチカルチャーなのです。アジアでは様々な文化、様々な宗教が混在しています。日本の宗教では、木にも、水にも、かまどにも、どこにでも色々な神様がいます。そしてその色々な神様が皆を見ているという考え方があります。ヨーロッパの神様は一人で絶対的ですが、アジアへ行くと同じインドネシアの中でもバリ島はヒンズーの神様で、他はイスラムであり、また、同じイスラムでもアラブとインドネシアでは雰囲気が違います。つまり、色々なものがあるということがアジアなのだと思います。

ソーサ:日本のフランスに対するイメージはどんなものですか。

高島:憧れですね。日本人が一般的に持っているフランスのイメージとは、やはり「文化」です。ブランド商品の文化からグルメ、ワインの文化があります。最近はあまり聞かれなくなりましたが私の若い頃には、フランスと言えばシャンソンでした。それに加えて、パリは最大の日本人観光客の目的地の一つでもあります。明治時代から、日本の若者にとって、特にフランスを文化的な国だと思っている人たちにとっては、一番行ってみたい、一番住んでみたい、魅惑的な国です。とても面白いのは、日本は、フランスについて、先般のイラク問題で、政治的な立場でアメリカに物申す国があるという新たな発見をしました。フランスはそういう立場でやっているのに、日本はなぜアメリカと一緒になって進んでいくのかという疑問を口にする人もいます。

ソーサ:そのような疑問は外務省内にもありますか。

高島:外務省内にもそのような意見を持っている人がいるかもしれません。しかし、直感的に思うことは、日米関係と米仏関係は決定的に違うということです。トーマス・ジェファーソンがフランスに行ってワインを買って帰ったということもありましたが、フランスはアメリカの歴史に様々な形で深く関わっています。アメリカ憲法は、フランス革命とフランス革命軍の意識が練り込まれています。フランスとアメリカはそういう関係にあるだけではなく、アメリカと同様、安全保障理事会の常任理事国として、フランスには拒否権があり、北大西洋条約機構(NATO)でも共に加盟国です。一方、日米関係はたかだか150年の歴史しかなく、その中で戦争もしています。その関係と米仏関係を一緒にして、日本はなぜフランスになれないんだと議論しても始まらないという答え方を、私はしています。あまり皆納得はしてくれませんが・・・。

ソーサ:外務報道官は民間ご出身ですが、最初はどんな気持ちでしたか。

高島:塀の上を歩いていて、反対側に落ちたという気分、というのは嘘ですが・・・。今まで、ジャーナリスムをずっとしていたので、今度は「取材する側」から「される側」になりましたが、政府側に立つとものがどういう風に見えるのかと大変な好奇心を持ちながら外務省に入りました。今でも面白いです。まだ分からないこともありますが・・・。

ソーサ:外務省の職員にはどういった印象をお持ちでしたか。その印象は入省後には変わりましたか。

高島:本当に真面目でよく働いて、一生懸命やっていると思います。ですから、外務省はだめな役所だとか、外務省は何をやっているのかなどと、あれほど非難は浴びなくてもいいのではないかなと思います。しかし、そのためには、もっと自分達がしていることを外に知らせていく必要がるのではないかと感じています。なぜこれがこうなるかと説明する努力を人一倍すればするほど皆に理解してもらえます。今、国民外交という言葉がありますが、日本の外交政策を国民がサポートをしてくれなければ、日本の外交は強くなりませんし、逆に相手国の国民にも日本の外交を理解してもらわなければ、交渉がうまくいきません。だから、今や外交は政府間だけで行うものではなく、自国の社会に対する働きかけと、相手国の社会に対する働きかけの、両方をやらなければいけないのです。外務省の職員達は忙しくて、相手国の政府との交渉ばかりが頭の中にあって、これまでの経過、考え方、これからの計画をきちんと外に説明する努力がまだまだ足りないと感じます。そういう点で、ソーサ職員もフランスに帰国されたら、フランス外務省と日本外務省がどう違うかを考えて下さい。


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