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Vol.96 2012年12月27日
世界遺産条約採択40周年~持続可能な開発と地域社会の役割

2012年11月に「世界遺産条約採択40周年記念最終会合」が,京都で開催されました。かけがえのない人類共有の財産である世界遺産は,この40年の世界の変化に伴い,多くの課題に直面しています。地域社会が果たすべき役割などをテーマに話し合った最終会合の成果について解説します。

節目の年を迎えた世界遺産条約

世界遺産条約40年の歩み

世界遺産条約は,人類にとって普遍的な価値を持つ文化遺産や自然遺産を守っていくことを目的として,1972年にユネスコ総会で採択されました。当初は20か国だった締約国も190か国に増え,「世界遺産」は世界中の人々に認知されています。リストに記載されている世界遺産は962件(2012年11月現在)で,建造物や自然地域などのほか,文化的景観なども含まれるようになりました。条約は,さまざまな文化的背景のもとに成り立つ遺産が持つ固有の価値を認めつつ,世界遺産のグローバルな規範として機能してきました。そして, 40年の間に,遺産を保護するための国際協力を通じて,国際的な対話,文化的多様性の理解,平和や環境保全などに貢献してきました。

世界遺産条約が直面する様々な課題

一方で,世界遺産をめぐる新たな課題も浮き彫りになっています。締約国が新規登録にばかり注力する傾向が強まっている中で,既存の世界遺産の適切な保全・管理をどのように確保するのかという問題や,文化遺産と自然遺産との数の不均衡,また世界の地域毎の世界遺産登録数の格差をどう解消していくのか,さらには多様な文化・価値を背景に,世界遺産一覧表記載の要件や基準の解釈など,課題は多岐にわたります。また,遺産を危機にさらすような開発の圧力や地域紛争,自然災害や,保全に必要な資金や人材の決定的な不足は,深刻な課題として懸念されています。

 

京都で開催された最終会合

最終会合の模様(パネルディスカッション) 「世界遺産条約採択40周年記念最終会合」は,2012年11月6日から8日にかけて,日本政府の主催で京都において開催されました。同年は「世界遺産と持続可能な開発:地域社会の役割」をテーマに,条約採択40周年を記念するイベントが世界各地で催されており,その成果を総括し,世界遺産条約の将来を展望するため開かれたのが,今回の最終会合です。世界遺産の寺社が市街地に点在し,千年以上の歴史の中で遺産と地域社会が共存してきた京都の地には,世界各国から世界遺産条約に携わる関係者等が集結。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)のボコバ事務局長やラオ世界遺産センター所長のほか,締約国の政府関係者や専門家など,61か国から約600名が会合に参加し,活発なディスカッションが行われました。

持続可能な開発と世界遺産

会合の全体を通じて見えてきた課題は,世界遺産にとって持続可能な開発とは何か,人々の快適な生活と世界遺産の保存はどのように確保しうるのか,そして地域社会がどのような役割を果たすかについてです。世界遺産に登録されると,主に観光客の増加等により地域社会は大きな利益がもたらされて活性する場合が少なくありませんが,同時に遺産の保全状態をおびやかしかねません。また,遺産保護のために求められる開発ができない場合も想定されます。開発と遺産の保護の持続的なあり方を実現していくために重要な役割を果たす存在として,地域社会と先住民を含む「コミュニティ」が,パネルディスカッションでもクローズアップされました。

過去・現在・将来を展望しての議論

広範なテーマに関する議論を展開 最終会合では,世界遺産条約の過去から現在,将来に至るまでの幅広い議論が,3日間にわたり展開されました。初日のセッションでは「世界遺産条約の歩み」と題して,これまでの世界遺産条約の主要課題や条約の発展に関する歴史的考察などについて論じました。2日目は,「世界遺産の持続的な保全か,持続可能な開発のための世界遺産か」「持続可能な開発における文化遺産保全の役割」など,条約をめぐる現在の状況を話し合い,アンコール遺跡のあるカンボジアやバーミヤンのあるアフガニスタンからも現地関係者がパネリストとして出席しました。続いて,世界遺産条約の将来に向けた展望として,人材育成に関する課題,無形文化遺産保護条約との連携,持続可能な観光,企業等とのパートナーシップなどについて,さまざまな意見が交換されました。

成果文書として発表された「京都ビジョン」

最終日には,今後10年間に向けた世界遺産条約の将来の方向性を提言する成果文書「京都ビジョン」が発表されました。京都ビジョンは,条約の40年の成果を振り返り,地球の持続可能性にとっての世界遺産の位置づけを示したうえで,世界遺産の顕著に普遍的な価値を守り続けるためには,持続可能な開発という観点が欠かせないと述べています。コミュニティについては,世界遺産委員会の戦略的目標に「コミュニティの活用」が掲げられているとして,遺産を保護していくために必要な存在であることを改めて確認。コミュニティは利益を公平に分配されるとともに,遺跡の保存・管理活動に対して全面的に参画すべきであると,求められる役割の重要性を強調しています。

 

世界遺産条約の将来に,一定の方向性を提示

世界遺産の未来に向けて,京都からメッセージが発信されました さらに,京都ビジョンの実現のために,グローバル規模での財源確保,人材育成を含めた経験や知識を共有するための対応策の開発,新規物件については推薦段階から地域社会,先住民,専門家や青年を遺産保護に参画させることなど,7項目の行動を国際社会に呼びかけました。京都ビジョンを通じて条約の今後のあり方に一定の方針を示すことができたことに加え,京都での最終会合の開催によって,ユネスコや世界遺産の分野における日本の存在感が高まり,世界遺産条約の保護に対する日本の積極的な取組を世界に示すことができたと言えます。また,世界遺産管理に関するベストプラクティスとしてフィリピンの「古都ビガン」の事例が顕彰されたほか,会合の内容はインターネットで生中継放送されるなど,一般の人々に向けて世界遺産条約への理解を深めるための試みも行われました。

将来を担う若い世代による「ユースプログラム」

日本国内では,このほかにも国際専門家会合やシンポジウム,玩具を使った展示会などさまざまな40周年記念イベントが行われました。最終会合に先立って開催された「ユースプログラム」では,13か国の学生や若い研究者らが,世界遺産条約の将来に向けて白熱した議論を展開。観光に関する教育プログラムや世界遺産ボランティアの提案,遺跡保存における若者のイニシアチブと参画への支援要請などを「ユース・ステートメント」としてまとめ,最終会合の場で発表されました。このステートメントの質の高さと将来に向けたユースの積極的姿勢に,多くの関係者から賞賛の声があがりました。

日本で行われた世界遺産条約採択40周年関連イベント(2012年)
 

持続可能な世界遺産に向けて,日本の国際協力

海外の文化遺産に向けた日本の主な貢献

日本は世界遺産委員会の委員国であり,約3,400万円(2012年)の分担金を拠出しています。世界各国の文化遺産保存を支援する「文化遺産保存日本信託基金」からは,40カ国39件(2012年12月現在)の保存・修復事業を実施しています。現地の人々が自分たちの手で持続的に自国の文化遺産を守れるよう,日本の優れた保存修復技術を伝えるなど,人材育成にも協力しています。また,国内の関連組織の連携を強化するなど,文化遺産国際協力の推進をはかり,無形文化遺産に関しては「無形文化遺産保護日本信託基金」によって海外の約100件のプロジェクトを支援してきました。京都ビジョンの理念を実現し,かけがえのない人類共通の宝を次の世代へ受け継いでいくためにも,日本は自国だけでなく,海外の世界遺産の保護にも大きな役割を果たしていきます。

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