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Vol.11 2008年10月22日
ロシア極東退役原潜解体協力事業 ~核軍縮・不拡散、環境保全を目指して

ロシア極東地域に70数隻あると言われていたロシアの退役原子力潜水艦。その放置は、核物質の拡散や、放射能による環境汚染などにつながるとして懸念されていましたが、ロシアの解体事業に対する日本などの支援もあり、2010年までにすべての解体作業が完了する見通しとなりました。これまでの原潜解体事業へ協力する意義と重要性について解説します。

ロシア極東方面における原潜解体事業の国別分担

解体事業のポイント

ロシア極東地域におけるロシアの退役原子力潜水艦の放置は、核物質の拡散や、放射能による環境汚染などにつながるとして懸念され、日本にとっても核軍縮や不拡散の視点に加え、日本海の環境保護の観点から緊急の課題と位置付け、互恵(日本とロシアの双方の利益)の原則の下、協力をはじめました。その後、日本および各国の支援もあって、2010年までにすべての退役原潜が解体される見通しとなりました。日露両国では、日本の原潜解体事業を「希望の星」と名付け協力を行っており、本年4月の日露外相会談において、互恵的な関係に基づき、日露非核化協力における追加的分野について検討する意思を表明したように、今後も、解体後に残る放射性廃棄物の安全な保管、処理等のため、ロシア側の努力を引き続き促し、日本を含め、国際社会もこれを支援していく必要があります。

 

ソ連崩壊による混乱により退役原潜が放置される

冷戦時代、ソ連は数百隻にのぼる原子力潜水艦を建造しましたが、冷戦後は、1991年に米国と第1次戦略兵器削減条約(START I )を締結し、両国は核兵器を減らしていく方向で合意します。しかしながら、ソ連が崩壊し、核兵器削減義務はロシア連邦に引き継がれますが、ソ連崩壊による政治的・経済的混乱により、ロシアは条約の義務を速やかにかつ完全に履行することが難しい状況に陥りました。このため、多くの退役原潜の解体作業が停滞し、原潜は軍港付近で放置されてしまいました。

 
 

核物質の盗難(核拡散)、放射能汚染に対する懸念

原潜が放置されているということは、核物質の盗難や放射能汚染などが発生する危険があり、国際社会にとって放置できない問題です。実際に、係留している原潜からの核物質盗難未遂事件等が発生しました。また、旧ソ連諸国のウクライナやカザフスタンなどが保有していた核兵器についても、ロシアが引き上げることになっていました。こうした核兵器・核物質の管理に加え、核技術の研究者が流出しないようにしていかないと、例えばダーティーボム(放射能爆弾)のような爆弾がテロリストによって作られたり、核の研究者が核兵器を開発しようとする国などに利用されるという事態になりかねません。このため日本を含む先進各国は、積極的にロシアの原潜解体作業に協力していくことを決め、STARTの履行義務に向けたロシア側の自助努力を支援していくことになります。

 

9.11テロにより強化された不拡散体制

2001年9月に米国で起こった同時多発テロの発生により、核物質を使用したテロの脅威が高まってきました。このため、2002年のカナナスキス・サミットにおいて、盗難された核物質がこうしたテロ活動に利用されることを阻止するため、「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ(G8GP)」が合意されました。このパートナーシップの優先的な課題は、ロシアにおける化学兵器の廃棄、退役原潜の解体、核物質の適切な処分および核開発に関わっていた研究者の不用意な拡散を防止するための努力などです。

 

G8グローバル・パートナーシップによる各国の協力

G8グローバル・パートナーシップにおいて、G8各国は2012年までの10年間でロシアを対象に不拡散、軍縮、テロ対策、環境保全を含む原子力安全について、総額200億ドルを上限に支援することを約束しました。この支援には、G8各国に加え、ノルウェー、オランダ、スイス、スウェーデン等20か国が参加しています。こうした各国の支援もあり、これまで、195隻あったといわれる退役原潜のうち174隻の解体が近く完了する見込みです。北西地域では119隻のうち、109隻が解体完了又は解体中であり、北西地域に比べ解体が遅れていた極東地域でも76隻のうち65隻の解体が完了する予定で、残り11隻についても日本、カナダによる解体支援事業により、またオーストラリア、韓国、ニュージランドからの資金協力を得て2010年までに全てが解体される見通しとなりました。

G8グローバル・パートナーシップにおける国別の搬出金規模
 
 

日本の協力:「すずらん」と原子炉区画陸上保管施設

日本はG8の一員として、また核軍縮・不拡散を追及する立場から、ロシアに対する非核化協力、特に退役原潜解体作業に当初から加わっていました。しかし、ソ連が日本海に放射性物質を不法投棄していた事実が判明し、日本海の環境保全の観点から、互恵の原則の下、より積極的に関与する方針を打ち出しました。1993年低レベル液体放射性廃棄物処理施設「すずらん」の供与を決定。日露非核化協力の最初の事業として1996年に建設が開始され、2001年11月、正式にロシア政府へ引渡しが行われました。さらに現在、原潜を解体する過程で形成される原子炉区画を長期間にわたり安全に保管するための「原子炉区画陸上保管施設」に対する協力に向けた協議も進められています。なお、1993年以降、ロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄は行われていません。

退役原潜の係留地
 

日本の協力:「希望の星」事業

ロシア極東、ウラジオストク近隣のボリショイ・カーメニ市にあるズヴェズダ造船所。ロシア語で「星」という意味の名を持つこの施設では、退役原潜解体作業が行われています。日本は2000年に極東における退役原潜の解体に関するプロジェクト・スタディを開始。2003年に小泉総理(当時)がロシアを訪問した際に採択された「日露行動計画」において、極東ロシアにおける退役原潜解体事業をより着実に進めていくことが盛り込まれ、このとき同事業が、日露二国間の友情発展にも寄与してほしいという意味をこめて、「希望の星」と命名されました。

原潜解体作業 1 原潜解体作業 2 原潜解体作業 3
 
 

ロシアによる解体作業を日本はきちんと確認

原潜の解体作業を実際に行うのはロシア側です。日本は事業費を拠出しているので、造船や原子力の専門家を派遣して、こうした作業が安全かつ確実に行われ、核の不拡散、日本海の環境保全が守られていることを各段階で直接確認しています。このように直接確認を行うことは、原潜の解体が着実に進んでいることを確保する上で重要です。原潜を解体するには、まずは潜水艦の原子炉を停止させます。燃料棒は抜き取られ、使用済み燃料として一時貯蔵。その後鉄道で、ロシア国内の貯蔵・処理施設に運ばれます。燃料棒が抜かれた原子炉区画は、別途保管。発生した液体放射性廃棄物については「すずらん」で処理され、浄化された水は海に放出されます。

原潜解体作業 4 原潜解体作業 5
原潜解体プロセス
 

国際社会の関心がロシアの自助努力と意識を促す

かつて放射性廃棄物を海洋投棄したロシアでも、G8各国が協力し、また、関心を払い続けることで、放射性廃棄物の自然環境への影響について無関心でいることはできなくなってきました。G8以外の国々も、この原潜解体事業の意義を認めるようになっています。例えば、オランダのように「例え小国であっても、核不拡散や、環境汚染に対して、国家としてなすべきことはしなければならない」として協力する国も増えています。日本による「希望の星」事業は2010年までに終了する予定ですが、日本はアジア唯一のG8メンバー国として、また、核廃絶の先頭に立つ国として、今後も引続きロシアの自助努力を促す協力を行っていきます。

 
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