在留邦人・企業に対する脅迫事件はどのくらい発生していますか。
1.海外での脅迫事件は、単なる悪戯目的と思われるものも含め、世界各地で多数発生しています。個別の事件の内容等に関しては、個々の被害者に係る問題でもあり具体的には申し上げられませんが、東南アジア、中南米地域、ヨーロッパ、中東地域の一部の国では、テロ組織、反政府ゲリラ組織、またはそれらの組織名を騙ったと思われるような人物から、電話や手紙で海外進出企業などに対して「献金」、「革命税(反政府組織などが革命を推進するために、現地の企業などが当然払うべきであると主張している金銭。これを『税金』と称し脅迫することがあります。)」の名目で金銭を要求する事件が発生しています。また、単に事務所、工場の爆破や個人への襲撃、誘拐等を予告し、金銭その他の具体的要求をしてくるケースも多発しています。そして、これらの脅迫に応じなかったがために実際に被害を受ける事件も発生しています。
2.また、国際情勢を背景として、一般的に日本人や日本権益への攻撃を予告するような脅迫事件がなされる場合もあります。最近では、2003年10月にウサマ・ビン・ラーディンと見られる者により、日本が報復攻撃の対象として名指しされて以降、度々日本人、日本権益への攻撃を促す、アル・カーイダ関係を名乗る者の声明が報じられています。
脅迫事件には具体的にどのようなものがありますか。
1.脅迫事件は、その(1)内容、(2)手段、(3)動機・目的、(4)脅迫の対象により、以下のように分けて特徴を考えることができます。
(1)内容
 脅迫事件は、
(イ)金銭の支払い、その他個別の具体的要求(営業停止、ビザの発給、特定の人物の解雇・雇用など)を行い、これを拒否すれば殺人、爆破、誘拐、毒物混入、企業活動妨害などを行うと脅迫する「取引型」と、
(ロ)特別の具体的要求もなく、単にテロ行為(例えば「お前の会社を爆破する」、「日本人を殺す」など)を行うことを予告する「予告型」
とに大別できます。「予告型」の場合、脅迫者が匿名或いは所在が明らかでないような組織の名を騙っているときは、一般的に単なる悪戯、嫌がらせであることが「取引型」の場合に比べ多いといえます。しかし、実際現地にテロ組織、反政府ゲリラ組織などがあり、その名を騙っているような場合には、テロ等を実行する前に脅迫を行うこともあり、決して油断はできません。
(2)手段
 脅迫事件は、その手段により、
(イ)手紙(脅迫状)によるもの
(ロ)電話によるもの
(ハ)ウェブサイトやテレビ放送など、不特定多数の者がアクセスできる媒体によるものに大別できます(複数の手段を併用する場合もあります)。
(3)動機・目的
 脅迫事件は、様々な動機と目的から行われますが、
(イ)金銭獲得(一般刑事犯による金目当て、テロリスト、反政府組織による活動資金の調達)、
(ロ)個別の利益の実現や、特定の活動の妨害、
(ハ)各種の政治・社会・思想的主張の実現、宣伝、アピール、
(ニ)怨恨・復讐、
(ホ)不満
などに分類できます。
(4)脅迫の対象
 脅迫事件の対象は、
(イ)特定の個人、企業・団体などが対象となる場合と、
(ロ)不特定多数が対象となる場合(例えば「日本人を殺す」)
とに分類できます。不特定多数の場合は、一般的に悪戯、嫌がらせであることが特定者の場合に比べ多いといえます。この種の脅迫は、対日感情が悪化したような場合に発生しやすく、また在外公館宛に行われたり、マスメディア等を通じて発せられることが多いといった特徴があります。
2.上記の分類に基づく脅迫事件のうち一般的に言って、
(1)手紙による、
(2)具体的な要求を伴う、
(3)特定の個人・企業に対する脅迫であって(内容から、内部事情も把握しているような場合はより危険)、
(4)更に現地にテロ組織などがある場合に、同組織のレターヘッドが入った便箋などに、テロリスト特有の思想的文体で書かれてある場合などは、
真正の脅迫である可能性が高いと判断され、要注意といえます。
逆に、
(1)電話による、
(2)特定の要求を伴わない(例えば、「日本人を殺す」など)、
(3)不特定多数の者(「日本人を殺す」、「日本企業を爆破する」など)に対する脅迫であって、
(4)更に、匿名或いは現地で存在さえ確認されていない組織名を騙る者からの場合は、悪戯の可能性も念頭に置いて対処した方が良いでしょう。但し、このような予告であっても、テロリストが爆破テロ行動を起こす場合などは、事前に爆破予告を電話などで通報すること(「どこどこを爆破する」とのみ電話で通報する)もあるので、何れの場合も以下に述べるような慎重な対応を取ることをお勧めします。
脅迫を受けた場合どうしたらよいのですか。
1.脅迫事件についてはQ2.で述べたとおり、様々な形態があり、その形態に応じて適切な対応を取ることが必要です。ここでは如何なる脅迫に対しても共通して言える注意点について述べます。
 脅迫を受けた場合は、あわてずに先ず落ち着いて、
(1)電話であれば相手の声の特徴(低い、高い、しわがれた声か、特徴的なイントネーションがあるかなど)、脅迫の内容、電話から聞こえるような雑音、その他電話から聴き取った犯人の周囲の状況などを、可能な限りすぐに書き留めておくこと(録音装置をつけておくことが望ましい)。
(2)手紙であればその封筒、便せん等を出来るだけ汚さず、指紋を付けないようにきれいに保存することに注意してください。
2.全く時間の余裕がなく、直ちに危害が及ぶ恐れのあるような内容で、要求のない脅迫、例えば「10分後におまえの会社を爆破する」などの場合は、周囲に不審物はないか注意を払い、とりあえず避難して現地警察に通報し、爆発物の有無を大至急調査してもらいます。
3.次に、何らかの具体的要求があり、通常犯人側もそのような要求の実施までにある程度時間を要すると判断するような脅迫(「何月何日までに金を用意しろ」、「工場の操業を停止しろ」など)については、在外公館(必要に応じ日本の関係者)に脅迫の内容などを至急極秘に通報し対応策を相談して下さい。
 在外公館は、被害者側の要望に応じて、例えば現地の治安当局の信頼できる筋に脅迫の真偽の調査、取るべき措置の助言、注意事項の指摘、警備などを外部に漏れない形で要請します。在外公館は、同時に過去の経験に基づいてできる限りの助言を行います。しかし、それらの情報に基づいてどのような措置(Q5.に例示するような、警備・安全対策上の措置)を採るかは、最終的には現地の被害者とその日本における関係者が決断しなければなりません。
4.また、脅迫状に現存するテロ組織の名前が使われているような場合には、現地の信頼できる治安当局の専門家に届け、その真偽の分析を依頼するのが最も確実です。テロ組織の場合には、その主張、使用する文体・用語法などに特徴があり、真偽の判定を行うことは比較的容易です。但し、分析の結果、脅迫がテロ組織によるものではないことが判明しても、脅迫の事実に変わりはありません。また、人命に係わるような脅迫で、外部に漏れることを防ぐ必要がある場合は、万が一に備え現地警察への通報の仕方についても我が国の在外公館とよく相談した上で決めた方がよいでしょう。
5.そして、時間的猶予がない場合は勿論のこと、時間がある場合も脅迫が明白に悪戯と判断されない限り、脅迫の内容に応じてとりあえず警戒(身辺の注意、ガードマンの雇用、ホテルなどへの一時的避難など)を強化する必要があります。
6.次に、脅迫の信憑性につき自分(企業)なりに分析することが重要です。その際には、自分・企業に恨みを持つ者がいないか(解雇或いは不満を持っている現地社員、メイドなど)、過去に何らかの嫌がらせ(無言電話、車に嫌がらせをする、事務所の窓ガラスを割る、悪戯書きをするなど)をされたなど、前兆と見られる事案の有無を調べ、犯人と考えられるようなものの心当たりがないか考える必要があります。
7.なお、事件の公表については、脅迫の内容が人命にかかわるような場合には、特に慎重な配慮が必要です。現地でも、また日本でも極秘に、かつ情報を知っている人数を限って(現地の社員等に犯人と通ずる者がいる場合も排除されません)対処していくことが必要です。また、外部からの照会に対しても、対外応答ぶりの方針が決まらないうちは、可能な限り脅迫の事実の有無を含め、ノーコメントで通すことが適当です。 一般的に言ってこの種の事件が公になった場合、次のような不都合が生じる可能性があります。
 従って、脅迫事件を公表する場合にも以下の点を慎重に考慮し、我が国の在外公館と緊密に連携を取った上で対応することが重要です。
(イ)脅迫者は、通常脅迫の事実を当局に通報しないことを要求するが、公表されたことにより、当局が脅迫の事実を知ったと脅迫者が判断し、極端な行動に出る可能性がある。
(ロ)脅迫の目的が、社会的不満の表明、怨恨などである場合は、公表されることで犯人側の目的に合致してしまう場合があり、その後の活動に支障を来す場合が考えられる(例えば、ある企業の活動が特定の集団のみに利益を与えているとして、その活動の中止を求めてくるような場合は、脅迫状の公表の結果、同企業への反対運動、更には反日活動へとつながる可能性がある。反政府ゲリラ組織による脅迫の場合などは、脅迫という形をとることによって、マスコミで大きく取り扱われることでその主張を宣伝する結果となる場合がある)。
(ハ)脅迫の対象が不特定多数の場合は、脅迫を受けた者が極端な反応を示してしまう可能性がある(例えば「日本人を殺す」、「工場の従業員を殺す」などの脅迫内容は、安易に公開された場合には不必要に過度の反応が当該者から出るおそれがあり、また、それ自体が脅迫者の目的である場合もある)。
(ニ)社会的不満の表明(特に対日感情が悪化しているような場合)を目的とするような脅迫の場合は、同様な脅迫を行う模倣犯が出て、犯人を特定することが困難になり、どの脅迫状が本物で、どれが悪戯かの判断が困難となる。
脅迫事件がいわゆる取引型であった場合の留意点を教えて下さい。
 いわゆる取引型、すなわち犯人側から金銭などの具体的要求、例えば、「何月何日までにいくらの金を引き渡さないと工場を爆破する」、「日本人が当国政府への協力を止めないと日本人を殺す」などの脅迫の「取引」に関する注意点は以下の通りです。
1.このような脅迫を受けた場合は、警備の強化など所要の安全対策を講じた上で、先ず、大使館・総領事館などと相談し、現地の信頼できる捜査当局に届け出て、捜査当局の指示に従い犯人逮捕に協力することが望ましいでしょう。
2.(1)脅迫状が地方の工場などに送付されてきた場合などは、日頃から親交が深い地方の信頼できる有力者(県知事、市長、商工会議所の会頭など)に内々に相談することも考慮に値することがあります。
(2)反政府組織による「革命税」の要求事案では、一度金銭の支払に応じると以後も要求が継続し、結果的に被害が相当額に上ることが多いこと、反政府組織に対する金銭の引渡し(「資金援助」と見られかねない場合もある)は、現地の国内法に反する場合があるので、現地における類似事案に関する情報を収集するなど十分検討した上で対処すべきでしょう。
 いずれにしても、どのような対応をするかについて大使館・総領事館などと十分に協議することが肝要です。
 「革命税」の支払を拒否した場合には、反政府組織が当該企業に対し何らかのテロ行為を行う可能性もありますので、その脅威に応じて、Q5.に述べるような警備・安全対策を強化すべきでしょう。
脅迫事件で爆破・殺人予告などがあった場合の警備・安全対策を教えて下さい。
 特別の要求もなく、「おまえの会社を爆破する」、「誰々を殺してやる」などの脅迫がきた場合は、基本的な考え方として、本当か嘘かの検討に時間をかけるよりも、とりあえず本当であるとみなし、予告があったおかげで被害を最小限に食い止められるという発想(更にいえば、嘘でも予行演習になるという位の発想)で、下記のような可能な手段を尽くした方が最悪の結果を自ら招くことにはならないでしょう。また、脅迫者からの要求を拒絶した場合は更に警備を強化することが必要です。しかしながら、以下の措置を採る場合にも、現地雇用者の中に犯人と通ずる者がいる可能性、外部に漏れた場合の注意など(Q3.参照)を十分考慮する必要があります。
1.事務所・工場・家屋の爆破予告の場合
(1)警備員の増強
(2)現地警察への爆発物の捜索依頼
(3)脅威が深刻と判断される場合は、関係者の安全な都市・ホテル等への一時避難措置
2.殺人・誘拐予告の場合
(1)ボディ・ガードの雇入れ
(2)防弾車及びバックアップ・カーの配備
(3)関係者の安全な都市・ホテルなどへの一時避難措置
(4)脅威が深刻と判断される場合は、関係者の外国・日本への一時引き揚げ
(5)警察当局への警備依頼
 なお、脅迫事件の多くを占める爆破予告事件などへの注意事項・対処要領については、当室作成の小冊子「海外へ進出する日本人・企業のための爆弾テロ対策Q&A」、誘拐・殺人予告事件の注意事項については、同様に「海外における誘拐対策Q&A」を参照して下さい。
脅迫事件の被害者とならないためには日頃どのような点に注意しておく必要がありますか。
1.先ず、心構えとして、自分や自分の会社は大丈夫という考えは絶対禁物です。そして滞在する国、地域の情勢を常日頃からよく検討しておく必要があります。どのような事件が起きているか、外国企業の脅迫事件は起きていないか、外国人の誘拐事件は起きていないか、日本人、日本企業に対しどのようなイメージが持たれているか、何らかの社会問題が起きていないかなどにつき常に目を光らせていることが重要です。そして、個人では入手しにくい情報は大使館・総領事館から入手するように努めてください。
2.次に、個々の企業内部の事情、個々人のプライベートな事情で脅迫の対象となり得る状況を自らよく把握しておかなければなりません。つまり、個人的に恨まれている相手はいないか、社内に不穏な人物はいないか、企業活動に対して批判的な論調、または窓ガラスを割られるなどの嫌がらせはないかなどにつき注意することが必要です。また現地社員と良好な関係を築くことは当然ですが、現地社員の日常の行動に留意し、会社の内部情報が漏れていないか(現地での日本人社員の住所・電話番号、予定表から、取引先との契約内容など)に十分注意する必要があります。更に、解雇するような場合は、現地の慣習に沿った手当をする、可能な限り次の職場を紹介するなどの気配りも必要かも知れません。
 個人の家庭で雇用する運転手やメイドについては、信頼できる人から紹介してもらうことが必要ですし、職歴、家庭・財政状況等についてはある程度の情報を持っていることが不可欠です。また、運転手・メイドに不必要な個人(家族を含む)の情報を漏らすことは差し控える方がよいでしょう。
3.反日感情の悪化から生じるような「日本人を殺す」などの不特定多数を対象とする脅迫の場合を除けば、通常は、脅迫される理由がなければ脅迫されることはまずないということですから、最新の治安情勢を踏まえ、周囲によく目を配りながら日々を送ることで脅迫の対象となる危険を減らすことができるでしょう。

目  次

はじめに
Q1. 在留邦人・企業に対する脅迫事件はどのくらい発生していますか。
Q2. 脅迫事件には具体的にどのようなものがありますか。
Q3. 脅迫を受けた場合どうしたらよいのですか。
Q4. 脅迫事件がいわゆる取引型であった場合の留意点を教えて下さい。
Q5. 脅迫事件で爆破・殺人予告があった場合の警備・安全対策を教えて下さい。
Q6. 脅迫事件の被害者とならないためには日頃どのような点に注意しておく必要がありますか。
別添 脅迫電話チェックリスト
外務省作成の小冊子・ビデオ等