本日はお招きを下さり、有難う存じます。
中東調査会は、保守合同で自由民主党ができたのとほぼ同じ頃、生まれたのだと伺いました。今の服部(禮次郎)さんに至るまで、歴代会長にはそうそうたる方 が名を連ねておいでです。経済界が寄せる期待には、さぞ大きいものがあったのだろうと思います。
本日は、今後中東政策を進めるうえで、わたくしなりに、指針となると思うところを述べるつもりで参りました。
●「自由と繁栄の弧」について今から3カ月前のことですが、「自由と繁栄の弧をつくる」と題しまして、我が国外交の新方針についてお話を致しました。
地理的には、ユーラシア大陸の外縁に沿って弧をなす一帯を、考え方としては、自由や人権、民主主義や法の支配といった普遍的価値を、われわれ日本人自身、苦労して我が物とした経験を踏まえ、重視して参ろうというものです。
そのことは、本国会冒頭の外交演説においても繰り返し、日本が獲得した外交の新機軸であるとして、ご紹介致しております。
生きていくうえで、何をいったい大切に思うのか。そこをあえて言葉にするということは、自分とは何者か、また、何になりたいかを、自己規定するのと同じです。
「自由と繁栄の弧をつくる」とは、日本という国の、そのような意味で自己規定をする試みだったと思っております。
中東の国や地域によっては、「自由と繁栄」という言葉に対して警戒心を抱く人がいるかもしれません。しかし、わたくしども、日本で考えております理念は、必ずや中東の皆さんにも受け入れられるものと信じております。
私はアフガニスタンから北アフリカに至る、今日広い意味で中東と呼ばれる地域の人々に、日本が、何を掛けがえのないものとして大切にしている国なのか、知っておいて欲しいと思います。そして、いつの日か、中東の人々と同じ思いを共有していきたい。そう思っています。
●傷ついた自尊心に癒しの言葉しかし自分を語るに正直なのはよいとして、相手の理解がなければ始まらないのは、外交の鉄則です。
自分がもし中東に生を受け、イスラム教を奉じる者となり、暮らしていたらどうだったかと想像してみます。
イスラム教徒とはわたしの理解するところ、例えば子供を可愛がる点で、おしなべて人後に落ちません。
ですから私がもし彼らの立場にいれば、いたいけな子供まで結果としてあやめるようなテロ行為に対し、誰より憤激しているのは自分達である、と。テロリストに対し、イスラム教徒の風上に置けぬ輩と、怒っているのはわれわれ自身なんだと、時に声を荒げたくもなっただろうと思います。
しかし現実には、イスラムの教え、あるいはイスラム教を奉じるムスリムと、テロリストを、何か十把一からげにする議論がないとはいえませんから、「世界は我々を誤解している」と言いたいことも、一再ならずであったかと思います。
歴史をひもとけばすぐ納得のいくことですが、中東とは東西の文化を融合、昇華し、今日に至る文明の基礎を生み出した場所でした。中東の人たちには、そのことへの強い誇りがあって当然です。
しかし近代に入ってこの方、どうもうまくやれなかった。なんとなく、挫折感をもつ人も多いのが、中東というところであろうと思います。
心中彼らは、自尊心の傷を癒す言葉を、渇望しているのではないでしょうか。私はまず、そのことへの感受性を持つことが、我が国中東外交の基礎になければならぬと思うものです。
そのうえで、テロリズムは大いにこれを憎むが、イスラム教徒を憎もうとはゆめ思わないということを、はっきりと言葉にし、伝えていくべきだと思っております。
●中東は外交の「銀座四丁目」――3つの理由前置きが長くなりました。
子々孫々にわたる日本の繁栄を図る立場にある者と致しまして、重要な資源を提供してくれる中東が、我が国にとってもつ死活的重要さは、何度強調してもし足りることがありません。
そこで中東政策の指針とし、まず申し上げねばならぬのは、日本は中東地域に対し、経済面はもとより、政治的関与を、これまで以上に深めて参るという決意であります。
具体的に何をするかは後で述べますが、まずは機会をとらえ、いわゆるハイレベル、高位当局者が、往来し合う頻度を高めねばならぬと思っております。
中東の問題というのは、日本にとって、外交上の「必修課目」だと、喝破した人がおります。私流に言いますと、中東とは世界外交の「銀座四丁目」であって、外交の総合力が値踏みされるところです。
中東がそれほど大事だと、なぜ言えるのか、理由を3つ挙げてみます。
その1
第一は石油資源との関わりです。
我が国は原油輸入の89.2%を中東に頼っており、中でも湾岸諸国(GCC)に76.4%を依存しております(2006年)。
加えて新興の中国とインドは、原油輸入の4割、6割を、それぞれ既に中東へ依存しているという現実の中で、石油市場の地合いは、この先当分、中東サイドから見て極端な売り手優位になります。我が国は需要家として、目に見える地位を中東に維持していく必要があります。
しかも世界の原油可採埋蔵量から考えて、この先は中国やインドだけでなく世界全体が、中東産油国に対する依存度を増していくでしょう。即ち中東の安定は、今後ますます重要になるのであって、その逆ではあり得ない、というのが理由の第一です。
その2
第二はいまの中東が持つ、意外にも明るい側面と関わりがあります。
中東にはとかく物情騒然たる印象がつきまといますが、いっぺん住友化学社長の米倉弘昌さんに、天下のサウジ・アラムコと組んで、世界最大級の石油精製・化学施設をつくる醍醐味など、聞いてみたいと思っております。
サウジアラビアにおける、住化のいわゆる「ラービグ計画」は、総事業費が1兆1,000億円を超す巨大プロジェクトです。電力と、蒸気、真水の供給だけでも大変なプラントになりますが、そこは三菱重工が担当する。グループ横断の取り組みでして、長らく語り継がれていきそうな熱い物語が、炎熱のサウジでまさに今進んでおります。
大規模プロジェクトは湾岸地域でも目白押しと言いますから、実は今くらい、民間企業を巻き込んだオールジャパンの外交力というものを、中東で発揮するのに適した時期はありません。
これもまた、中東の確かな姿であります。チャンスに立ち向かう日本企業のお手伝いをする仕事には、立派な国益がかかっております。
●岐路に立つ中東――安定か、混乱か その3
けれども既にお察しの通り、第三の理由こそが最も重要です。
中東地域はいま全体として、重大な岐路に立っているというのが、わたしどもの認識です。即ち安定へ向かうか、それとも混乱が混乱を呼ぶ、スパイラル(螺旋)の到来になるのか…。
かつて問題は、なんとなく、中東和平は中東和平、イラクはイラク、そしてイランはイランと、それなりに仕切りの中にありました。ところがサッダーム・フセインが倒れた辺りから、力のバランスが変化する。そうしますと、これらがお互い、影響し、作用しあうようになりました。
結果として中東の少なくともある一部では、先行き秩序の極めて見通しにくい状況が広がっている。こういう時は、宗教本来の姿から逸脱した過激派が力をつけるもので、事態はよけい混乱します。
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